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第十二話 The Negotiator
ガツーン、ガツーン、シュー…
ここはドワーフの工房。

見習いドワーフがせっせと魔石炭(高い魔力を宿した石炭、スゴく良く燃える)を運び、親方クラスのドワーフが鉄を打つ。

???「よし、出来たよ!これが…」


……
………

雨季の山道を歩く亭拉達三人(シルクは亭拉に巻き付いている)は山道の脇にある土の山に小さな足を発見する。

テイラ「火曜サスペンス?」
スエード「いやいや、言葉の意味は良くわからないがとにかく助けないと!」

腰までしっかり埋まっている。
亭拉はその足を片手で掴み軽々と引っこ抜く。

テイラ「女の子?」
それはもう幼女と言って良い程の小さな女の子であった。


……
………

???「いや〜、恥ずかしい所を見られちゃぅたねぇ。」
体のサイズと比べて不釣り合いな程に豪快に笑う幼女。
スエード「確かに履いて無かったしな。」
テイラ「いやいや、そういう意味じゃ無いだろう!」
呆れたスエードの一言に思わずツッコミを入れてしまう。

シルク「わ、私だって履いてませんよ!」
テイラ「いったい何と張り合ってんだ!?」
なぜか頬を赤くして答えるシルクにも思わずツッコミを入れる。

???「ハッハッハッ!面白い子達だねぇ、アタシは仕事柄直ぐに汗だくになるから下着は基本的に付けないんだよ。」
テイラ「仕事柄?てっきり迷子だとばかり思ってたんだが?」
どうやらこの幼女はただの幼女では無いらしい。

???「アタシの名は『ぺプラム』ってんだ、『ドワーフ』って言ったらわかるかい?」

知識検索(簡易版)

『ドワーフ』
剛力幼女
主に鍛冶屋か彫金師
エルフと仲が悪い

ドワーフ「何はともあれ助けてくれた礼がしたい、家に寄ってきな!」
そんなわけでドワーフの工房へ半ば強制的に連れていかれる亭拉達。

テイラ「わかったからケツをバシバシ叩くな!」
ケツドラムをされながら。


……
………

シルク「あ、暑いですね…」
工房の中は溶鉱炉の熱気やボイラーの蒸気でムシムシしているが、ぺプラムの私室はなんだか良くわからない原理のランプで明るく思ったより散らかってない。
ぺプラム「いやー、作業に根を詰めすぎちゃって気分転換に外に出たら足元が崩れちゃってね、危うく生き埋めになるとこだったよ。」
それはひょっとしてギャグで言ってるのか?

ぺプラム「アタシはシャワーを浴びてくるからその辺で適当に寛いでてくんな、覗くなよぉ〜♪」
テイラ「覗くわけシルク「絶対に覗きません!」ない…だろ。」
半目でニヤニヤしながらシャワー室に消えていくぺプラムに何故かシルクがムキになって答えていた。

スエード「テイラ、この椅子鉄製のようだが…座っても焼き蜥蜴になったりしないよな?」
スエードの方は今まで出会った事の無い状況にオロオロしている。

亭拉はそんな状況を一切無視して魔導コンロでお湯を沸かしコーヒーと紅茶の準備を始める。


……
………

ぺプラム「ところで、兄ちゃんの腰につけてるそれはなんだい?」
亭拉の煎れたコーヒーを飲みながら折り畳まれた軍用スコップを指差すぺプラム。

亭拉「これか?これは軍用スコップ、剣にも盾にもフライパンにもなる便利なスコップだ。」
一切無駄の無い素早い動きで軍用スコップを組み立てクルリと回すとグリップを前にしてぺプラムに渡す。

ぺプラム「へぇ〜、見た事無い道具だなぁ…材質はオリハルコンかい!?」
スコップをくるくる回したり臭いを嗅いだりコツコツ叩いたりしていたぺプラムは材料に気が付いた瞬間驚きの表情を見せた。

ぺプラム「面白いねぇ、でもこれだけで旅をするのは頼りなくないかい?」
細部までしっかり調べ終わった軍用スコップをクルリと回して亭拉に返すと、
ぺプラム「面白い物見せてもらったのと旨いコーヒーと助けてもらった礼だ、アタシが何か作ってやるよ。」
ニッカリと笑って無い胸を叩き、亭拉達を工房に案内する。


……
………

ぺプラム「じゃあどんなのを作ろうか?」
体の大きさに不釣り合いな巨大なハンマーを担ぎ、金床に腰かける。

シルク「テイラ様、武器と言うことは…」
心配そうに訪ねるシルクに亭拉は微笑みながら頭を撫でてやる。

テイラ「まずジャンルとしては大剣だn 「そうだ!長いリーチと威力を兼ね備えた大剣こそ至高の武器だ、テイラもその事に気付くとは」 ちょっと黙っててくれ。」
大剣について熱く語り始めたスエードをたしなめ、(´・ω・`)となったスエードをスルーして話を続ける。

テイラ「刃の断面が細長い六角形の大剣で鍔の部分を反り返らせて肩に担ぎ易い様にしてくれ、柄の部分はローレット加工かチェッカリングにして滑らないように…」
ぺプラム「ちょ、ちょっと待ってくれ、そんなに色々言われても訳がわからん、それにローレットとかチェッカリングってなんの事だ?」
ぺプラムは亭拉の注文に理解が追い付かず頭を抱える。
しかもこの世界には存在しない技術の話も出てきたので余計に話がややこしくなってしまった。

テイラ「確かに口頭では解り辛いな、ならこうしよう。」
そう言うと亭拉は工房の壁面をスコップで削り、変質魔法でただの土を粘土に変えて剣の形を作り始める。

テイラ「まず刃の断面が六角形、鍔を反り返らせて柄に溝をっと。」
スコップをヘラ代わりに使い瞬く間に剣の形が出来上がる。

ぺプラム「こここここ、これは!」
粘土をこねる亭拉を見ていきなり取り乱し始める。

ぺプラム「こんな方法があったのか、アタシ達ドワーフは技術の伝承やデザインを伝えるのに口で説明するか目の前で作って見せるかで伝えてきたけど、この方法なら何世代先にでもデザインを残せるし客の注文にも細かく答えられる!スゴいぞ兄ちゃん!!」
粘土でサンプルを作る方法を目にしたぺプラムは感動のあまり亭拉に抱きつき、シルクは思わず亭拉を締め付け亭拉本人は迷惑そうに目を細める。

テイラ「あ〜、こんな感じにしてほしいんだが出来るかな?」
身の丈ほどの巨大な粘土の大剣が出来上がった。

それは大剣にしては刃がついておらず巨大な六角形の刀身を持った十手、若しくはサイのような鈍器になっている。

テイラ「この柄の部分に付いてる溝がローレット加工、刃で切りつけるように溝を彫るか鑢で削るかして作るんだが…」
ぺプラムを肩に乗っけて細部の説明を始める亭拉。
すでにシルク達はぺプラムの私室に戻り、コーヒーと紅茶を飲んでいる。

テイラ「溝は出来るだけ細く深く、等間隔でな。」
ぺプラム「技術的には可能なんだが…材料がなぁ。」
腕を組み首をかしげて悩むぺプラム。
すると亭拉は工房の隅に積まれたクズ鉱石や土の山の前まで来ると、
テイラ「『変質魔法』『オリハルコン』『アダマンタイト』『聖銀』『玉鋼』『魔界銀』こんなもんでいいか?」
瞬く間に希少鉱石の山が出来上がり、ぺプラムは目を見開いたまま固まってしまった。


……
………

ガツーン、ガツーン、シュー…
ぺプラム「よし、出来たよ!これが兄ちゃんの新しい…剣?」
出来上がった剣を前にした亭拉以外の三人は揃って首をかしげる。

テイラ「これで良いんだよ、この剣は魔物を傷つける為に有るんじゃない。」
そう言って大剣の鍔を肩に引っ掛けて担ぐ。
鍔に微妙な角度が付けてあるので刀身が体から離れ、シルクが巻き付くための隙間ができている。

テイラ「この剣は襲ってきた魔物を交渉ができる迄に無力化するためのもの…そうだな、コイツの名前は『Negotiator(交渉人)』だ。」
亭拉のその言葉を聞いてホッと胸を撫で下ろすシルクは亭拉を背中から抱き締める。

シルク「テイラ様…私との約束、護ってくださるのですね。」
亭拉はシルクの手にそっと自分の手を重ねることでその言葉に答える。

スエード「しかし良かったのか?教会の騎士に武器を提供したとなったらこの工房の立場が危なくならないか。」
ぺプラム「・・・え?」
工房中の視線が亭拉に集まる。

テイラ「あ、どうも…」
腰に着けた『聖騎士の証』をカラカラ揺らす。



その瞬間工房内の時間が止まった。



ぺプラム「な〜んだ、そんな事か。」
腰に手を当て無い胸を反らして自信満々に答えた。

ぺプラム「うちの武器は冒険者はもちろん教会の衛兵もお忍びで買いに来る事もあるんだよ!勿論魔物を傷つけそうな奴が買いに来たときはこっそり刃を落としておくんだけどね♪」
そう言って子供の様な(実際見た目は子供なんだが)笑顔で答える。

テイラ「そんなことしたらそれこそ工房の信用に関わるだろう?」
ぺプラム「だ〜いじょうぶ、ソイツら今ごろ魔物娘と一緒に幸せに暮らしてるよ♥」

その冒険者と衛兵達御愁傷様。

――――――――――――――――――――――――――――――――

その後、このドワーフの工房から冒険者向けの新装備として『軍用スコップ』が産み出される。

そしてその汎用性から多くの冒険者に愛用されることとなる。
しかし、愛用される一番の原因が『フライパンとして使える』事だとは主神ならぬ亭拉達は知るよしもなかった。
13/02/28 00:59更新 / 慈恩堂
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■作者メッセージ
どうも、慈恩堂です
交渉(物理)の第十二話
背中に大剣を背負い少しはファンタジーの騎士らしくなりましたかね?
あ、服装が冒険者の服のまんまだ…

新しい魔物娘が発表されてヒャッホイと読みきりを書いたりしてたら更新が矢鱈と遅くなってしまいました、申し訳ありません。

次の話でやっと最初の目的地『クレバネット』に到着します。
こんな調子ではいつになったら魔界へ乗り込めるんだか…
こんな感じの亭拉達ですがこれからも応援して頂ければ幸いです。

登場人物

ぺプラム
ドワーフ
皆さんご存じ剛力幼女
鍛冶の腕は一級で新しい物も進んで取り入れる柔軟な考えを持つ
独身だが根が真面目なので助けてもらった相手を無理矢理犯すような真似はしない
しかしどこか性欲が押さえきれないのか亭拉に抱きついたり肩に乗っかったりケツを叩いたり無意識の内にボディタッチを繰り返す

しかし亭拉には見た目通りの幼女としか見られていなかった(亭拉にロリコンの気は無い)

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