連載小説
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Fallen From Flying Foundation -Empty Glass-
人の心は容易に作り出す。

存在しないものを。



月刊レムリア ■■■年■月号
総力特集 空中都市ナムーフは実在していた!? 『空に消えた都市の謎』

空に浮かぶ都市。多くの伝説や神話、あるいは創作物でその存在は幾度も語られてきた。
全ては人々が想像の翼を広げて作られたとされている。
しかしそれが実在していたら…!?
世界各地で空に浮かぶ都市の目撃証言が相次ぎ、空から落ちてきたオブジェクトも見つかっている。
空中都市は実在するのだろうか。我々は、その調査に当たった。

プロローグ 空に浮かぶ都市

第1章 空中都市の民話
 空に浮かぶ都市、というイメージは各地の民話や神話に登場する。ある時は主神の住まう城であり、ある時は巨人の家であり、ある時ははるか昔に滅び去った王国の名残である。一体なぜ、世界の人々は『空に浮かぶ都市』という共通の伝説を持つに至ったのだろうか。
 人から人へと話が伝わるうち、話の内容が変化するという例は多々ある。ジパングが最たる例だ。ごく一部の幸運な人間のみが、どうにかジパングを訪れることができた時代、世界的なジパングのイメージは「黄金の国」であった。家屋が黄金で作られているなどといった、現実からかい離したイメージが独り歩きしていたのだ。
 しかし、世界各地に広がる『空に浮かぶ都市』伝説は、そのほとんどが『空に浮かぶ都市』に『素晴らしいものがある』共通の骨組みを持っている。もともとどこかの地方で生まれた伝説が、自然と伝播して広まったにしては、骨組みに揺らぎが無さすぎるのだ。
 なぜ、このように遠く隔たった各地で、『空に浮かぶ都市』というイメージが共通しているのだろうか?答えは簡単だ。人々が空を飛ぶ都市を実際に目にしていたからだ。
 空に浮かぶ都市を実際に目にした、あるいは実際にそこまで行った者がいたからこそ、世界各地の伝説は共通の骨組みを持つことができたのだ。

 では、過去の人々が目にしていたという『空に浮かぶ都市』とはいったい何であったのだろうか?次章では、各地に残された『空からの落とし物』を通じて、その謎に迫りたい。

 
第2章 空から落ちてきた物
 我々編集部は、『空に浮かぶ都市』の証拠とされる三つのオブジェクトを発見し、調査した。

1.空から落ちてきた人
 某国のとある村の小さな神殿には、天使の骨が祭られているという。
 我々編集部はその村に向かい、村長から話を聞いた。なんでも、天使の骨というのは、大昔に空から落ちてきた人の亡骸だったらしい。
 その村は平地に存在し、村の周りには山はおろか、飛び降りたら命が危ないような巨木すらない。では、『空から落ちてきた』人というのはどこから来たのだろう?

2.大量のレンガ
 某国に広がる巨大な森の奥深くに、大きな池がある。その池には、樵たちが切り倒した材木を組んでいかだを作り、村へと帰る為の川が流れ出ている。だが、その湖のほとりに、一山の煉瓦があるのだ。
 煉瓦の多くは砕けており、形を保っていたものも、樵たちが食事の準備に使うかまどに使われてしまっている。だが問題は、この家数軒分はあろうかという煉瓦を、『誰』が『どうやって』ここまで持ってきたかである。
 樵達が少しずつ運んだ、という説もあったが、我々取材班のインタビューに対し、樵の一人はこう答えた。
「レンガなんて重ェもの持ってこねえよ!それにこの煉瓦は、俺の爺さんがガキのころ、そのまた爺さんから『空から落ちてきた』って聞かされたらしい」
 我々は煉瓦の山の寸法を計測し、サンプルとして割れた煉瓦の一つを持ち帰った。サンプルを調査した結果、その成分は大陸のほぼ反対側の地域で生産されている物と合致していたという。そして、我々が計測した煉瓦山の大きさに寄れば、どうやら家五軒分の量はあるという。
 これだけ大量の煉瓦を、大陸の反対側から運ぶにはいったいどうすればよいのだろうか?
 樵の祖父が、さらにその祖父から聞かされたように、『空から降ってきた』のだろうか?

3.浮遊する石
 某国のとある寺院の奥に、浮遊する石が収められているという。我々取材班は寺院の管理者から許可を得て、特別にその浮遊する石を見学させてもらった。
 その石は、鍵がいくつも掛けられた一室に収められていた。入室した時、取材班は石を見つけることができず、寺院の管理者によって場所を教えてもらうこととなった。
 石は部屋の天井にぴったりとくっついていたのだ。脚立を運び込み、記者の一人が石に触れてみると、確かにそれは存在していた。それどころか、力を籠めれば動かすことができたのだ。天井に貼り付けてあるのではなく、石自体が何らかの浮力でもって浮いているのだ。
 仮にこの石がもっと大量に存在したとしたら、『空に浮かぶ都市』を築くことも可能なのではないだろうか?



第3章 空中都市など存在しない
 しかしここで、『空に浮かぶ都市』の存在に対し、疑問を提示する研究者がいる。彼の名はギレッタ・ロトフォード。我々取材班は、集めた『空からの落とし物』と共に彼の下を訪ねた。

「空中都市は存在せず、その『証拠』も簡単に説明がつきます」と、ロトフォード博士は言う。

「まず、世界各地の伝説の共通性についてですが、彼らが見た空中都市とは蜃気楼の事です。海や砂漠などに生じた蜃気楼が、地平線の向こうの街の景色を映し出すことで、あたかも空中に都市が浮かんでいるかのように見せかけるのです」

「『空から落ちてきた人』については、宗教的裏付けのための話だとみることができます。ただの木片を『聖人の磔刑に使われた拘束具の一部』としたり、何かの骨の破片を『聖人の骨のかけら』と称する例は多々あります。この『空から落ちてきた人』の骨も、そのうちの一つでしょう」

「『大量の煉瓦』についてはもっと簡単に説明できます。煉瓦を作る為の土の成分が似通っていたため、あるいは大陸の反対側からわざわざ運んだのです。近年の物資流通網の発達に伴い、ある地域で生産された良質な品物は、世界各地へと送り届けられます。煉瓦山の煉瓦も、そうして運ばれた煉瓦の一つでしょう。そして、山に入る度に煉瓦を一人一つずつ運び込めば、そこそこの量を持ち込むことが可能です。そもそも、祖父の祖父の代から煉瓦山が存在していたとすれば、風雨に晒されてとっくの昔に土に還っているでしょう。だというのに煉瓦が存在しているということは、それらが近年運び込まれた者であることを示しています」

「『浮遊する石』についてですが、現物を見ないと断言はできませんが、ある種のトリックだと考えられます。石自体に磁石が仕込んであり、天井の鉄板に引き寄せられている。あるいは、寺院のその部屋自体が何らかの魔術処理を掛けられており、魔力を集めて石を浮かすようにしているのかもしれません。寺院の価値を高めるためのトリックだと考えられます」

「そもそも考えてみてください。空中都市が存在するというのなら、そこに住んでいたという一族がいてもおかしくないでしょう。だというのに、そのような伝説を持つ民族はどこにもいません」

第4章 ロプフェルという男
 ロトフォード博士の最後の言葉に対し、我々はロプフェルという男を紹介したい。
 ロプフェル氏は■■■年ごろの人物で、某国に領地を構えるロプフェル家の生まれだ。ロプフェル家の領土からは宝石や金属が潤沢に産出されたという。
 ロプフェル家は満ち足りていたが、ロプフェル氏は違った。彼は、反魔物主義者だったのだ。だが、教団側に立つ人物ではなく、独自の考えに基づいていたらしく、常々教団に対しても不満を漏らしていたという。
 ロプフェル氏は領土から算出される貴金属や宝石のもたらす富を使って森を切り開き街を作っていた、という記録が残っている。そして、彼はある日、次のような言葉を残して失踪した。
「私は作る。地上の魔物どもの手の届かない場所で、私の理想を体現するための場所を作る」
 ロプフェル氏の失踪に合わせ、何十人規模の魔術師や研究者も行方をくらました。そして、ロプフェル氏が富を注ぎ込んで作っていた無人の街が、大きな窪地を残して消え去ってしまっていた。


エピローグ 失われた都市を虚空に求めて
 世界各地の伝説や神話は、蜃気楼のもたらしたものかもしれない。さまざまなオブジェクトは、作り物かもしれない。ロプフェル氏の逸話は、ただの創作かもしれない。仮にロプフェル氏の逸話が真実だとしても、彼の作り出した街が各地の『空に浮かぶ都市』の伝説を生み出したとは思えない。
 だがそれでも伝説や神話、オブジェクトにロプフェル氏の逸話は、『もしかしたら空に浮かぶ都市が存在するかもしれない』という希望を我々に与えてくれる。
 ロトフォード博士は、第3章の取材の後、我々取材班に向けてこう言った。

「私が空中都市の証拠を否定する理由が分かりますか?否定して否定して、どうしても否定しきれない証拠が現れた時、空中都市が実在するという確証が得られるからです」

 ロトフォード博士もまた、形を変えたとはいえ『空に浮かぶ都市』を追い求める人物のひとりであったのだ。
 伝説と神話の由来は何なのか。オブジェクトはどこから来たのか。そして、ロプフェル氏と彼の作り上げた街はどこへ消えたのか。
 この青い空のどこかに、『空に浮かぶ都市』はあるのかもしれない。
プロローグ13/11/30 21:00
chapter 113/12/02 19:38
chapter 213/12/03 22:45
chapter 313/12/04 20:12
chapter 413/12/05 21:18
chapter 513/12/07 00:06
chapter 613/12/07 19:51
chapter 713/12/08 21:03
chapter 813/12/09 21:17
chapter 913/12/10 21:04
epilogue13/12/11 21:17

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