四話 案の定迷子ですか
―――――― ハクラト表通り
辺りは既に夕暮れ近くなり、ここ表通りも殆どの店が閉まり、人が数える程しか外に出ていない。
あ…しまった。宿取ってねぇや…。そもそも、今から探して見つかるもんなのか?
「びえぇえ゛ぇぇ!」
…うっせーな。
突然聞こえてきた泣き声の正体を見つけようと辺りを見回してみると、通りにある街灯の下に小さな影を見つけた。
「びえぇえ゛ぇぇ!」
…あれか。おーい嬢ちゃん、どうした?
「ふぇ…?」
小さな影と泣き声の主は、薄い水色をした髪を短くポニーテールにした褐色肌の少女。しかも壷の様な物を服の代わりに着けていた。
(壷…。あ、………あー…?何だっけ…。つぼ…つぼ…?しまった、姐さんに魔物の事詳しく訊いときゃよかった…。)
「おにいちゃん…だれ?」
ん?
見知らぬ男に声を掛けられて少し警戒してるのか、涙を浮かべながら少女がおずおずといった表情で俺を見上げてきた。
俺はラグナロク・リヴァイス、しがない旅人さ。
「たびびとさん…?」
ああ、その通り。
「…いぢめる?」
いぢめないいぢめない。ただ単に嬢ちゃんが泣いてたから、どうしたのかなと思ってな。
「くすん…あのね?」
うん?
「ママと…はぐれちゃったの。」
案の定迷子ですか。しかもこんな夕方に…。
(あー…あー…。エリー、この子の数時間前の過去を…。)
『…………。』
(…エリー?)
『…………。』
(居ないのか…?…ったく、肝心な時に役に立たねぇな…。)
「おにいちゃん…?」
ん?ああ、ごめんごめん。ちょっと考え事をしてたんだ。にしても困ったな…。嬢ちゃん、お家はこの街かい?
「うん…。」
そっか…。んじゃ、ちょっくらお母さん捜ししますか。…あ、そうそう。
「?」
嬢ちゃん、名前はなんて言うんだ?
「…チコ。」
よし、じゃあチコちゃん。どうやって此処まで来たのか、覚えてるかな?
「えっと…ママといっしょにごはんをかいに『サンドリース』にいったの。」
ふむ…成る程な。まずはその『サンドリース』ってとこに行くのが妥当だな。場所は…まあそこらの奴に訊きゃ分かンだろ。
「?」
さ、行こうか。
「どこに?」
何処って…チコちゃんのお家に。
「…ママがしらないひとについていっちゃだめって…いってた。」
ん〜…。あ、そうだ。
「?」
きょとんとしているチコちゃんを安心させる為に、背が同じになるようしゃがみ込む。
さっきさ、お兄ちゃんと名前教えあってお話ししただろ?
「うん。」
だからチコちゃんと俺はもう知らない人じゃなくて、お友達だ。
「…おともだち?…チコと?」
おう。
「ほんと?」
本当。…さ、『サンドリース』に行こっか。
ゆっくりと立ち上がり、チコちゃんに右手を差し出す。
「…うん!」
チコちゃんは満面の笑みを浮かべると、俺の右手を小さな両手で握った。
まずは聞き込みだな…。んー…。お、良い所に。おーい!!
「はい、何か?…って、ラグナロク様!?」
ん?
偶々通りがかった人を呼び止めると、それは昼間の少年、リーフだった。
おー!リーフじゃねぇか!!何してんだ、こんな所で?
「ちょっと家に荷物を取りに…って、ラグナロク様こそ何をしてらっしゃるんです?」
荷物?何だ、引っ越しでもすんのか?
「…はい、下宿していた場所から工房に。」
お、じゃあ…。
「はい、ラグナロク様のお陰で成功しました。」
…俺のお陰?おいおい、馬鹿言っちゃいけねぇよ。
「へ?」
俺はな、お前の決心をほんの少し後押ししただけだ。だから俺のお陰なんかじゃねぇ、全部お前の勇気の賜物さ。
「…ありがとうございます。」
ま、どうしても恩返しがしたいってなら、この子の母親を探すのを少し協力してくれ。
「構いませんよ。…初めまして。」
「は、はじめまして…。」
ありがとうよ。んで、『サンドリース』ってのは、何処にあるんだ?
「『サンドリース』なら、そこの角を曲がって暫く行った所にありますよ。」
そうか、ありがとな。
「そんな、お礼を言われるほどの事じゃありません。」
いや、助かった。…じゃあな、末永くお幸せに。
「…はい。」
さ、チコちゃん。行こうか。
「じゃあ、またね。」
「バイバーイ。」
俺達はリーフに別れを告げ、『サンドリース』へと足を急がせた。
―――――― 雑貨屋・サンドリース
…ここか、結構デカイな。ま、いいや。邪魔するぜ。
カラン♪
あまり装飾の無いドアを開くと、魔法の照明で明るく照らされ、商品であろう物が棚に綺麗に片付けられた店内が目に入った。
「いらっしゃ…あれ?見かけない顔だね。旅人さん?」
店内に入ると、左側にあったカウンターから声を掛けられた。
ん?ああ、そうだよ。
「それにしちゃ随分と装備が軽いね〜。何ならうちで色々買って行っておくれよ。…ん?」
気さくに話し掛けてきた女性が、チコちゃんを見つめる。
「よく見たら、お嬢ちゃんさっき来てたつぼまじんの子どもじゃないか。」
何だ、知ってるなら話が早い。悪いが、そのつぼまじんが何処にいるか分かるかい?
「生憎と、正体の分かんない奴に客の個人情報は教えられないよ。」
そこを何とかできねぇかな?
「駄目だよ。第一、アンタ何者なんだい?旅人っても、得体の知れない輩も多いんだ。せめて、旅をしてるのと、この子連れてる理由を教えてくれないとねぇ…。」
成る程、あんたの言い分は尤もだ。
「だろ?」
ああ。そうだな…まずはチコちゃんを連れてる理由だが…さっきこの子が道端で泣いてたから、ほっとけなくてな。
「へぇ、優しいじゃないの。」
あんがとよ。
「で、旅をしてる理由は何なのさ?」
んー…。強いて言うなら、バカンスだな。
「…は?」
俺の解答が余程意外だったのだろうか、女性は口をぽかんと開けたまま、動かなくなった。
…だから、少なくともあんたが考えてるような事はしないさ。
「…確証はあるのかい?」
俺がそう言った…じゃ、駄目かい?
「…ぷっ。」
ん?
「アハハハハハハッ!アンタ面白いねぇ!!」
…そいつぁどうも。さ、この子の母親の居場所を教えてくれ。
「この店の裏手を左に曲がってすぐの所に宿屋がある、後は行けば分かるよ。」
そうか。…ありがとう、邪魔したな。
「ちょっと待ちな。」
あ?
「うちは冷やかしは御免でね、何か買ってきな。」
…強かなこって。
「こうでもなきゃ、この御時世に店なんかやってらんないよ。」
分かったよ。…チコちゃん、何か欲しい物はあるかい?
「ふぇ…?」
色々歩き回って疲れただろ?俺が何か買ってあげよう。
「…いいの?」
もちろん。さ、行っておいで。
「うん!」
チコちゃんは元気よく頷くと、店の奥へと走っていった。
「…でさ、詰まる所アンタは何者なんだい?旅人とか言ってたけど、本当は違うんだろ?」
ん?…まあ「人間」の旅人じゃあ、ねぇなぁ…。
「ふーん…。ま、何でも良いけどさ。」
…そういえば、さっき「この御時世」 とか言ってたが…。今、この世界じゃ何が起こってるんだ?
「…最近、『勇者』を名乗る無法者が出始めたんだ。しかもそれに乗じて、盗賊や奴隷商人まで増える始末…。アタシらじゃとても手に負えないよ。」
…そうか。
「アンタが退治してくれないかい?「人間じゃない」旅人さん。」
…すまんが、「掟」がある。
「…そうかい。悪かったね、無理言っちゃって。」
「おにいちゃーん!!」
店の奥から、チコちゃんが拳大の瓶を持って走ってきた。
…あれ、いくらだ?
「銅貨四枚。」
カフェでやったようにポケットをまさぐるふりをして手から銅貨を造りだし、女性に手渡す。
「まいど。また来てよ、アンタなら大歓迎だからさ。」
気が向いたらな。…それじゃ。
「バイバイ、おねえちゃん。」
「またね。」
俺とチコちゃんは女性に別れを告げ、店を出て暗くなった通りを歩いて行った。
辺りは既に夕暮れ近くなり、ここ表通りも殆どの店が閉まり、人が数える程しか外に出ていない。
あ…しまった。宿取ってねぇや…。そもそも、今から探して見つかるもんなのか?
「びえぇえ゛ぇぇ!」
…うっせーな。
突然聞こえてきた泣き声の正体を見つけようと辺りを見回してみると、通りにある街灯の下に小さな影を見つけた。
「びえぇえ゛ぇぇ!」
…あれか。おーい嬢ちゃん、どうした?
「ふぇ…?」
小さな影と泣き声の主は、薄い水色をした髪を短くポニーテールにした褐色肌の少女。しかも壷の様な物を服の代わりに着けていた。
(壷…。あ、………あー…?何だっけ…。つぼ…つぼ…?しまった、姐さんに魔物の事詳しく訊いときゃよかった…。)
「おにいちゃん…だれ?」
ん?
見知らぬ男に声を掛けられて少し警戒してるのか、涙を浮かべながら少女がおずおずといった表情で俺を見上げてきた。
俺はラグナロク・リヴァイス、しがない旅人さ。
「たびびとさん…?」
ああ、その通り。
「…いぢめる?」
いぢめないいぢめない。ただ単に嬢ちゃんが泣いてたから、どうしたのかなと思ってな。
「くすん…あのね?」
うん?
「ママと…はぐれちゃったの。」
案の定迷子ですか。しかもこんな夕方に…。
(あー…あー…。エリー、この子の数時間前の過去を…。)
『…………。』
(…エリー?)
『…………。』
(居ないのか…?…ったく、肝心な時に役に立たねぇな…。)
「おにいちゃん…?」
ん?ああ、ごめんごめん。ちょっと考え事をしてたんだ。にしても困ったな…。嬢ちゃん、お家はこの街かい?
「うん…。」
そっか…。んじゃ、ちょっくらお母さん捜ししますか。…あ、そうそう。
「?」
嬢ちゃん、名前はなんて言うんだ?
「…チコ。」
よし、じゃあチコちゃん。どうやって此処まで来たのか、覚えてるかな?
「えっと…ママといっしょにごはんをかいに『サンドリース』にいったの。」
ふむ…成る程な。まずはその『サンドリース』ってとこに行くのが妥当だな。場所は…まあそこらの奴に訊きゃ分かンだろ。
「?」
さ、行こうか。
「どこに?」
何処って…チコちゃんのお家に。
「…ママがしらないひとについていっちゃだめって…いってた。」
ん〜…。あ、そうだ。
「?」
きょとんとしているチコちゃんを安心させる為に、背が同じになるようしゃがみ込む。
さっきさ、お兄ちゃんと名前教えあってお話ししただろ?
「うん。」
だからチコちゃんと俺はもう知らない人じゃなくて、お友達だ。
「…おともだち?…チコと?」
おう。
「ほんと?」
本当。…さ、『サンドリース』に行こっか。
ゆっくりと立ち上がり、チコちゃんに右手を差し出す。
「…うん!」
チコちゃんは満面の笑みを浮かべると、俺の右手を小さな両手で握った。
まずは聞き込みだな…。んー…。お、良い所に。おーい!!
「はい、何か?…って、ラグナロク様!?」
ん?
偶々通りがかった人を呼び止めると、それは昼間の少年、リーフだった。
おー!リーフじゃねぇか!!何してんだ、こんな所で?
「ちょっと家に荷物を取りに…って、ラグナロク様こそ何をしてらっしゃるんです?」
荷物?何だ、引っ越しでもすんのか?
「…はい、下宿していた場所から工房に。」
お、じゃあ…。
「はい、ラグナロク様のお陰で成功しました。」
…俺のお陰?おいおい、馬鹿言っちゃいけねぇよ。
「へ?」
俺はな、お前の決心をほんの少し後押ししただけだ。だから俺のお陰なんかじゃねぇ、全部お前の勇気の賜物さ。
「…ありがとうございます。」
ま、どうしても恩返しがしたいってなら、この子の母親を探すのを少し協力してくれ。
「構いませんよ。…初めまして。」
「は、はじめまして…。」
ありがとうよ。んで、『サンドリース』ってのは、何処にあるんだ?
「『サンドリース』なら、そこの角を曲がって暫く行った所にありますよ。」
そうか、ありがとな。
「そんな、お礼を言われるほどの事じゃありません。」
いや、助かった。…じゃあな、末永くお幸せに。
「…はい。」
さ、チコちゃん。行こうか。
「じゃあ、またね。」
「バイバーイ。」
俺達はリーフに別れを告げ、『サンドリース』へと足を急がせた。
―――――― 雑貨屋・サンドリース
…ここか、結構デカイな。ま、いいや。邪魔するぜ。
カラン♪
あまり装飾の無いドアを開くと、魔法の照明で明るく照らされ、商品であろう物が棚に綺麗に片付けられた店内が目に入った。
「いらっしゃ…あれ?見かけない顔だね。旅人さん?」
店内に入ると、左側にあったカウンターから声を掛けられた。
ん?ああ、そうだよ。
「それにしちゃ随分と装備が軽いね〜。何ならうちで色々買って行っておくれよ。…ん?」
気さくに話し掛けてきた女性が、チコちゃんを見つめる。
「よく見たら、お嬢ちゃんさっき来てたつぼまじんの子どもじゃないか。」
何だ、知ってるなら話が早い。悪いが、そのつぼまじんが何処にいるか分かるかい?
「生憎と、正体の分かんない奴に客の個人情報は教えられないよ。」
そこを何とかできねぇかな?
「駄目だよ。第一、アンタ何者なんだい?旅人っても、得体の知れない輩も多いんだ。せめて、旅をしてるのと、この子連れてる理由を教えてくれないとねぇ…。」
成る程、あんたの言い分は尤もだ。
「だろ?」
ああ。そうだな…まずはチコちゃんを連れてる理由だが…さっきこの子が道端で泣いてたから、ほっとけなくてな。
「へぇ、優しいじゃないの。」
あんがとよ。
「で、旅をしてる理由は何なのさ?」
んー…。強いて言うなら、バカンスだな。
「…は?」
俺の解答が余程意外だったのだろうか、女性は口をぽかんと開けたまま、動かなくなった。
…だから、少なくともあんたが考えてるような事はしないさ。
「…確証はあるのかい?」
俺がそう言った…じゃ、駄目かい?
「…ぷっ。」
ん?
「アハハハハハハッ!アンタ面白いねぇ!!」
…そいつぁどうも。さ、この子の母親の居場所を教えてくれ。
「この店の裏手を左に曲がってすぐの所に宿屋がある、後は行けば分かるよ。」
そうか。…ありがとう、邪魔したな。
「ちょっと待ちな。」
あ?
「うちは冷やかしは御免でね、何か買ってきな。」
…強かなこって。
「こうでもなきゃ、この御時世に店なんかやってらんないよ。」
分かったよ。…チコちゃん、何か欲しい物はあるかい?
「ふぇ…?」
色々歩き回って疲れただろ?俺が何か買ってあげよう。
「…いいの?」
もちろん。さ、行っておいで。
「うん!」
チコちゃんは元気よく頷くと、店の奥へと走っていった。
「…でさ、詰まる所アンタは何者なんだい?旅人とか言ってたけど、本当は違うんだろ?」
ん?…まあ「人間」の旅人じゃあ、ねぇなぁ…。
「ふーん…。ま、何でも良いけどさ。」
…そういえば、さっき「この御時世」 とか言ってたが…。今、この世界じゃ何が起こってるんだ?
「…最近、『勇者』を名乗る無法者が出始めたんだ。しかもそれに乗じて、盗賊や奴隷商人まで増える始末…。アタシらじゃとても手に負えないよ。」
…そうか。
「アンタが退治してくれないかい?「人間じゃない」旅人さん。」
…すまんが、「掟」がある。
「…そうかい。悪かったね、無理言っちゃって。」
「おにいちゃーん!!」
店の奥から、チコちゃんが拳大の瓶を持って走ってきた。
…あれ、いくらだ?
「銅貨四枚。」
カフェでやったようにポケットをまさぐるふりをして手から銅貨を造りだし、女性に手渡す。
「まいど。また来てよ、アンタなら大歓迎だからさ。」
気が向いたらな。…それじゃ。
「バイバイ、おねえちゃん。」
「またね。」
俺とチコちゃんは女性に別れを告げ、店を出て暗くなった通りを歩いて行った。
11/12/07 22:34更新 / 二文字(携帯版一文字)
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