連載小説
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三話 伊達に神なんかやってねぇよ
―――――― ハクラトのとある裏路地

あ〜眠ぃ…。アカシック・レコードによりゃ、そろそろ来る筈なんだがな…?

「はぁ…。僕、何してるんだろ…。折角マナさんが誘ってくれたのに…。」

お、来た来た。
よう、そこの兄ちゃん。

「…どちら様ですか?」

いや何、只の通りすがりの運命神さ。

「運命…神?」

ああ。

「…その運命神様が、何か用ですか?僕、お金なんかありませんよ?」

いやいや、かつあげ?ってやつじゃなくてさ。兄ちゃんが嫌に神妙な顔つきをしてるからちょっと気になって。

「…貴方には関係ないでしょう。それに、僕は急いでるんです。退いて下さい。」

気分を害したのか、兄ちゃんは俺のすぐ隣を速足で通り抜けようとした。

こりゃあ、また随分と嫌われちまったなぁ。

「では、失礼します。」

…何ならよ、兄ちゃんが悩んでる理由を当ててやろうか?

「…………。」

兄ちゃんの足が一瞬止まったが、更に歩を進める。

前々から想ってたサイクロプスの嬢ちゃんを勇気出してデートに誘ったはいいが、いざ話そうとすると緊張して話が出来なかった。
しかも向こうからカフェに行こうと言ってくれたってのに結局何も話が出来ずに別れてきた…。違うかい?

「…貴方、一体何なんですか?」

言ったろ?俺は只の通りすがりの運命神だって。それ以外の何者でもねぇよ。

「はあ…?」

ふふふ、信じられないって顔してるな。ま、無理もねぇが。

「…仮に貴方が本当に運命神様だったとして、その証拠はありますか?」

疑り深いねぇ…。いいぜ、信用させてやるよ。『二秒後、兄ちゃんは空中百メートルまで飛んで、無傷で降りてくる。』

「な、何言って…うわあっ!?」

突然、兄ちゃんの体がフワリと浮いたかと思うと、一気に大空高く飛んでいった。
そして、そのまま兄ちゃんは体勢を崩した状態で勢いよく落ちてくるが、地面まで数メートルという所でスピードが落ち、ゆっくりと着地した。

どうだ?これでもまだ信じないか?

「…………。」

ハハハ、腰が抜けちまったかい?ほれ、シャキッとしな。

「い、今のは一体…?」

何、ちょっと兄ちゃんの運命を弄くっただけさ。もちろん未来に支障が出ない程度にな。

「え…じゃあ、本当に貴方は運命神様…?」

ああ、そうさ。

「なら余計、僕なんかに何か用ですか?」

ああ、兄ちゃんとあの嬢ちゃんを結ばせてやろうと思ってな。

「え…?」

こんな所じゃ何だ、さっき兄ちゃん達が居たカフェに戻ろうぜ。

「…は、はい。」


―――――― カフェ・サニーヒル

…ふぅ。やっぱコーヒーは美味いな。

「あ、あの…。」

ん?ここの代金か?安心しな、俺が払ってやるよ。

「い、いえそうじゃなくて…。」

分かってるよ。冗談だよ、冗談。

「…………。」

まあそんなに固くなるなって。楽にしてくれて構わねぇからよ。

「い、いえ…。僕はこれでいいです。」

そうか?まあ、兄ちゃんが良いならいいけどよ…。
さて、改めて自己紹介させてもらうぜ。俺はラグナロク・リヴァイス。さっき言った通り運命を司る神だ。

「ぼ、僕はこの町で鍛冶の修行をしているリーフと申します。」

へえ、鍛冶ねぇ…。…んで?

「へ?」

あの嬢ちゃんとは、どういう経緯で?

「…マナさんは、僕が修行させてもらってる鍛冶屋の親方の娘さん…です。」

ふーん…成る程な。

「…………。」

恋悩める人の子、リーフよ。

「は、はい!!」

そなたはサイクロプスの少女マナを幸せにする覚悟はあるか?

「!もちろんです!!」

…即答か。

「へ…?な、何か問題でも…?」

いや、気に入ったぜ!
あの嬢ちゃんも幸せもんだなぁ、いい奴に見初められてよ!!

「は、はぁ…。ありがとうございます。」

よし、じゃあ俺から一つ贈り物だ。
『お前の告白は無駄にならない。最高の結果をもたらすだろう。』

「へ…?え…?」

鍛冶屋の親方の娘さんなら、戻ったら会えるよな?

「あ、はい!!」

なら、そん時勇気出して言いたい事言いな。後は言った通りだ、頑張れよ。

「へ…。」

俺はポカンと口を開けているリーフを尻目に、テラスの席を立ち、レジで会計を済ませた。

『ラグナ様!!』

ふうぉっ!?何だ!?

(…って、何だエリーお前か。心臓に悪いぜ…。)

『すいません…。でもでも、ラグナ様とってもかっこよかったですよ!!』

(そいつぁどうも。)

『にしてもあの二人、無事に結ばれますかね…?』

(おいおい…。俺を誰だと思ってんだよ、腐っても運命神だぜ?)

『へ…?』

(さっきの言葉に「改変」仕掛けといたんだ、絶対成功するに決まってんじゃねぇか。)

『…流石ですね。』

(伊達に神なんかやってねぇよ。)


―――――― ハクラトの鍛冶屋・ガイア

…結局、あの人は何だったんだろう?…うーん、考えれば考えるほど分からない…。

先程出会った青年の事を考えながら歩いていると、いつの間にか鍛冶屋に着いていた。

カランカラン

「ただいま戻りました。」
「オウ、お帰り。」
「…お帰りなさい。」

いつもと同じように反応する親方とマナさん。
マナさんの顔を見た途端、さっきの青年の言葉が脳裏を過った。
『お前の告白は無駄にならない。最高の結果をもたらすだろう。』

…よし、言おう。
勇気を出して、自分の気持ちを…!!

「あ、あの…マナさん!」
「…?」

きょとんと大きくつぶらな瞳を此方に向けるマナさん。親方も何事かと工房から顔を出していた。

「ぼ、僕…!」
「…………?」
「ま、前からマナさんの事が好きでした!もし良ければお付き合いして下さい!!」
「…………!」

僕の言葉が終わると同時に、工房内の空気が一瞬にして静かになった。

言った…!僕は、自分の気持ちを…!!

「…こんな私で良ければ、よ…よろしくお願いします。」

へ…?

「そ、それって…。」
「やぁー!遂に言いおったか小僧!!」

マナさんの言葉の意味を理解する前に、親方が大きな声を出しながら工房から出てきた。

「…パパ。」
「良かったのぅマナ!お前の想いが叶って!!」
「…うん。」
「おーいティア、今日はご馳走にしてくれ!!新しい夫婦の門出だ!!」
「パパ!?」
「親方!?」
「そうじゃリーフ。」
「はい?」

不意に、親方が此方を向く。

「ワシの事はお義父さんと呼んでくれて構わんからな?」
「親方!!」
「ホッホッホ!!」

おどける様にして、親方は工房に消えた。


―――――― カフェ・サニーヒル


…これにて、一件落着ってな。

千里眼でリーフの様子を見ていた俺は、今しがた飲み終えたカップを置き、席を立ち上がった。

11/12/05 03:52更新 / 二文字(携帯版一文字)
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■作者メッセージ
鍛冶屋、リーフ…。
分かる人には分かるネタ。

あれは二作目の残念さが異常だった…。

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