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第十九話 二人の王

――翌日
――フリーギア南東部 首都フューゲル フリーギア城



シェルクのお城とは違った雰囲気のお城の廊下
なんていうか、すごく豪華で、飾られている物も高そうなものばかり
それに、お城自体もずっと大きい

「人間の国も、いろいろなお城があるのね」
「ああ。ガラテアに比べればフリーギアは歴史も古く、何十倍も大きな国だ。まぁ、兵の質ならばうちの方が上だがな」

そう言って誇らしげにするシェルク
人間の姿のシェルク
ふふ
なんだか魔物のシェルクに見慣れすぎちゃって変な感じ
でも

「なんだか、そっちの姿の方が王様っぽいね、シェルク」
「ん?そうか?ふふ。お前もなかなかに愛らしいぞ?クリス」
「ば、馬鹿にしないでよ!」

シェルクが私を見下ろしてニヤニヤと笑みを浮かべる
結局、私はあの後何度練習してもうまくいかず、どうにか人間の姿、人間の魔力波長に変身できたけど…
その姿は魔物の姿のシェルクと同じくらいの歳の時の私をそのまま人間にしたような姿だった
髪の色と目の色はそのままだと怪しまれるからと、シェルクと同じ黒い色に変えた

『ふふ。私が魔物になった時と同じで、クリスが望んだクリスの姿がそれなのだろうな』

シェルクにそう言われてしまった
確かに…
シェルクのせいですっかり幼い子の虜になってしまった私にとって、この姿はとても可愛らしく思える
それに…

――サラ

頬に触れる黒い髪
ふふ
まるでシェルクの妹になったみたい
なんて、私が思っていると

「はは。まるでシェルクのガキみてぇだな」

隣でバラガスさんが笑った


「ほほぉ…お前には私がこんな大きな娘を持つ歳に見えるというのか?」

――ゾワ

シェルクが黒い笑みを浮かべると、同時にシェルクの背中から禍々しい魔力の霧が立ち上った

「あ…い、いや。じょ、冗談だぜ?怒るなよシェルク…」

バラガスさんが冷や汗を垂らしながら謝る

「ちょ、ちょっとシェルク。不味いわよ!魔物の魔力が漏れてる!」
「む…。すまん…」
「ははっ。ガキに怒られやがった」

バラガスさんがデリカシーなく笑った

――ゾワワ

シェルクからまたしても黒い霧が…

「シェルク!」
「…あ。いや、すまん。どうも魔物になってからというもの、感情を隠すのが難しくてな…」

シェルクは困ったような顔をした
でも
私は嬉しかった
出会った頃のシェルクよりも、ずっとずっと、今のシェルクの方がシェルクらしい
自分の心に嘘を吐き続けてたあの悲しい微笑は
もう今では見られない
それはきっと、いい事なんだ
世界中の人が、みんな
こんな風に自分の気持ちに素直になれたなら
きっと、世界はもっと素敵になる
その為にも
私はもっとたくさんの人間を見たい
シェルクのような強い人を見たい

私がそう思っていると
前から綺麗な女の人が歩いてきた

「ガラテアのシェルク陛下ですね。お待ちしておりました」
「急な話ですまなかったな」
「いえ、我が王も『そろそろ来るころだろうから』と準備はしておりましたので」
「そうか。流石はルキウスだ。奴は部屋にいるのか?」

女の人はルキウスっていう王様の秘書かな?
シェルクとも顔見知りのようだ

「はい。自室にてお待ちです。ところで、そちらの方は?」

女の人が私を見て言う

「ん?ああ。私の従妹でな、日ごろからルキウスの話を聞かせていたら、是非見てみたいと言い出して聞かなかったのだ。まぁ、正式な談合ではない。構わぬだろう?」
「そういう事ですか。ふふ。可愛らしい従妹(いもうと)様ですね」
「ああ。自慢の従妹だ」

その話を嘘だと知っている私やバラガスさんでさえ違和感に気付かないほど自然に対応するシェルク
さすがね

「では、こちらへ」

そういって女の人が私たちを案内してくれた

「ねぇ、シェルク」
「クリス…シェルク“お姉様”だ」
「え?」
「ここは王宮だぞ?ちゃんとした言葉づかいをしないか」

シェルクがニヤニヤと言ってくる
そして、その手が

――わきわき

私の身体をくすぐる様な仕草を…
ぐ…

「しぇ、シェルクお姉様?」
「なぁに?クリスちゃん?♪」

あからさまに優しくなるシェルク…
正直気味が悪い…
私も小さい子に対してこんななのだろうか?
うぅ…
この病気…早く直さないと…

「えっと、あの方は?」
「ああ。彼女はルキウスのお傍係兼秘書の…」

私の質問にシェルクが答えようとする
と、そこへ

「申し遅れました。クレアと申します。ふふ。よろしくお願いしますね」
「あ…はい。こちらこそ…」

シェルクとは違う感じの
柔らかな笑顔
なんだろう
透き通った感じっていうのかな?
そういえば、シェルクよりも爽やかな気がする

「では、私はここで」
「うむ。案内ご苦労だった」

たどり着いたのは思っていたよりもずっと飾り気のない部屋だった
派手な装飾品は置かれていない
確かに部屋の作りは立派だけど
シェルクの部屋みたいに本が積んであったり
私の魔界の部屋みたいにお人形が飾ってあったりはしない
かと言って、バラガスさんの部屋みたいな男臭さもない部屋

「やぁ。どうやら、無事だったようだね。シェルク」

部屋の奥からやって来たのはまるで絵本の王子様の様な人だった

「ふふ。まぁな」

シェルクが少し眉を顰めながら笑う
この人がルキウス王?
かっこいい……
すごく背が高くて、スタイルもいい
金色のサラサラの前髪から覗くエメラルドの瞳は宝石みたいに透き通ってて
少し耳を隠すぐらいの長すぎない髪がとても爽やかな印象を与える
この人が…シェルクの初めての人…

「すまないね。きっとうちが先日出した手紙についての事だろう」
「ああ。その通りだ」
「まぁ、少しばかり面倒な話になる、掛けてくれて構わないよ」

その王子様の様な人はまるで私たちを足元から掬い込んでしまいそうな微笑で椅子に腰かけた
すごぉい…
魔界でもこんな美男子、見たことない…
想像してたのとだいぶ違う
あれ?でも…

――ぴり…

バラガスさん、緊張してる?
それに…

「お前の言いたいことも分かるつもりだ。喧嘩するつもりはないさ」

シェルクも、“あの”微笑を崩さない
なんでだろう?
私は不思議に思いながらも通された席に腰掛けた

「緊張しなくても大丈夫だよ。さ、バラガス君も掛けてくれ」

優しさに包まれるみたいな言葉
まっすぐに見つめられて、少し照れる

「シェルク、こちらの可愛い人はどなたかな?」
「私の従妹だ。お前の事を一目見たいと言ってきかなかったのでな」
「ふふ。そうか。それは何とも嬉しい話だね。ルキウス=ユリアスだ。よろしく」

にこりと、エメラルドの瞳が見つめて
綺麗な手が差し出された

「よ、よろしくお願いします」

私はすこしほっぺが熱くなるのを感じながら手を握った
…その手はとても冷たくて熱い私の身体を冷やしてくれた

「ん?なんだ?もしかして照れているのか?クリス…」
「そ、そんなんじゃないわよ!」
「ルキウスと呼んでくれて構わないよ。えっと…」
「ああ、紹介が遅れたな。こいつはクリステアだ」
「そうか。よろしくね。クリステア君」
「あ、はい。よろしく…」

照れる私をシェルクがニヤニヤと見てくる
う……
で、でも、こんな素敵な人だなんて聞いてないわよ…

「さて、ルキウス。すまないが本題に入らせてもらうぞ?」
「ああ。そうだったね」

ルキウスさんがシェルクの方に向き直ると、二人の間の空気が少し変わった

「まずは単刀直入に聞こう。あの話、お前としてはどう考えているのだ?」
「あの話というと?」
「我が国の民をお前たちが返還しないと言い出した話だ」
「ああ。そうだったね。ふむ…。これは難しい話になるね。私としては、正直君の大事な民を預かるのは嬉しいことではあるが、うちもけっして裕福なわけではない、早い返還を望むところではあるね」

シェルクとルキウスさんお互いに笑ってるけど、さっきまでと少し雰囲気が違う

「ならば話は早い。すぐさま返してもらえないだろうか?」
「そうだねぇ。私もそうしたいところではあるよ」

穏やかな口調の二人
と、そこへ

「なんだよ。返すのか返さねぇのかハッキリしやがれ!」

バラガスさんが大きな声で割り込んだ

「待て、バラガス」
「でもよぉ…」

シェルクがそれを制止する

「すまないね。バラガス君。私個人としては大切な家族を離れ離れにしておくことは胸が痛むことだ」
「ならさっさと返しやがればいいだろうが!」
「バラガス…」

並の人間ならひるんでしまいそうなバラガスさんの声
しかし、ルキウスさんは少しも表情を曇らせることなく

「悪いね。でも、これは国家の問題なんだ。そう簡単な話ではないんだよ。理解してくれるかな?」

相変わらずこちらを包み込むような笑顔
でも、そのエメラルドの瞳はまるでバラガスさんを見通すように見つめられていた
ほんとだ…
この感じ…
初めて会った時のシェルクによく似てる…

「お前個人は返したいと言ったな?」
「ああ。その通りだよ、シェルク」
「ならばお前の考えを遮るものはなんだ?まだこの国の元老院のジジイどもはお前を操ろうなどとしているのか?しかしお前も賢い男だ、あのような奴らに傀儡にされるはずはないだろう?」

シェルクがルキウスさんを見つめて言う
恐らくはそれがシェルクの予測していた答え
しかし

「いいや。それは違うよ。シェルク」

返ってきたのは否定だった

「なにっ!?」

シェルクに少し動揺が見えた

「ああ。そうだったね。君にはまだ話していなかった。元老院は一度解散させてもらってね。今では私と仲の良い人間がその席に座っているんだ」
「な…。しかしそんな情報は全く…」
「ああ。すまない。これはまだごく内内の者にしか話していない事なんだよ」
「じゃ、じゃああの手紙は…」

ルキウスさんがしゃべるたびに、シェルクに動揺が広がっていく
私とバラガスさんはよくわからないまま二人で話が進む

「ああ。あれは私の直々の言葉だよ」
「なぜだ!?ルキウス!」

シェルクがとうとう声を大きくした

「何故?それはおかしな質問だね」

しかし、ルキウスさんは相変わらず穏やかな表情で優しく答える

「君も国王ならわかるだろう?王は常に国家にとって最善の選択を迫られる。私はそれを言葉にして君たちに伝えた。分かってくれるかな?」
「そ、それはわかる。しかし、お前も分かってくれているはずだろう!?国にとって最も大事なものは民だ!それをあのような…」
「ああ。そうだね。その通りだ。だから私は、君の…いや、君の国にとって一番大切なものを預かり、そして、それを返す代わりに見返りを求めようとしている。とても単純な話じゃあないか」
「な…。お前は私を騙したという事か!!…」

シェルクがとうとう怒りを露わにした
しかし、それに対してもルキウスさんは

「ははは。少し見ない間にずいぶんと人間らしくなったようだね、シェルク」

穏やかに笑顔で答えた

――ゾクリ

私の背筋に言い知れぬ恐怖が走った
この人は…
この人は違う…
シェルクとは根本的に何かが違う
初めて私がシェルクを見たときに感じた恐怖とも違う
何かはわからないけど、怖い…
そう感じた

「シェルク。少し頭を冷やしてくれ」

そう言ってルキウスさんは水差しとグラスを差し出した
シェルクはそれを奪うようにとると、一口でコップ一杯の水を飲み干した

「いいかいシェルク?君が成し遂げたことは素晴らしいことだ。恐らくは未だかつて誰も成し遂げたことがない偉業となるだろう。君は私の見込んだ通りの優秀な人間だよ」

ルキウスさんはゆっくりと、穏やかに話を始める

「しかしね、シェルク。その偉業は君一人の力で成し得たものかな?いや、ガラテアの力だけで成し得たものだったかな?」
「だから礼ならば当初の計画通り!」
「ああ。そうだったね。ガラテアとの同盟。魔界から攻められることのない唯一無二の国との同盟締結。これは何とも魅力的なものだ。それをうまく利用すればこの国はもはや魔界からの侵攻に怯えることはなくなるだろう」
「分かっているならば何故だ!?」
「シェルク。しかしね、君は大切なことを忘れているんだよ」
「なんだ?」
「魔界との不戦協定。これは君の国にとってはこの上なく魅力的なものだろう。しかしね、この国は違う。この国の中枢には教団の息のかかったものが多く存在している。そして、国の中だけではない。この国の外に目を向けてみてもまた、同じように教団という大きな力が目に見えるほどに存在して、それらがこの国を支えるために多くの力を貸してくれているんだ」
「…それはわかっている」
「だったら分かってくれるんじゃないかな?そんなこの国において、魔界と不戦協定を結んだ国、つまりは、少なからず魔界と友好関係を結ぼうとしている国と、同盟を結ぶということがどれほど危険な事か」
「何を言う!ガラテアはけっして親魔物派の国になるわけではないのだぞ!?」
「しかし、それをどうやって頭の固い白服たちに証明するのかな?」
「な…それは……」

白服…というのは、人間たちの教団の人の事だろうか?
なんだろう。話が難しくてよくわからない
でも
シェルクがこんなにうろたえる姿なんて初めて見た

「これは偶然耳にした話なのだけれど…。この不戦協定を結ぶために、君は大物の魔物を捕虜としたそうだね」
「…ああ。それがどうした?」
「そこで物は相談なのだけれど、そのうちの一人の身柄を、こちらに譲っては貰えないだろうか?」
「な…しかしそれでは魔界側との契約が!」
「ふふ。大丈夫だよ、シェルク。捕えた魔物はリリム。それから…バフォメットが2体。そう聞いている…」
「え!?」

私は思わず声を上げた
バフォメットが2体…
それって…もしかしてシェルクの事も…

「………」

シェルクが言葉に詰まった
そのシェルクの額から汗が一筋流れる

「あちら側の交渉に必要な魔物は2体。リリムとバフォメットだという事だね。だから、もう1人のバフォメットをこちら側に譲ってほしいんだ。どうだろうか?およそ4万の民の命、それと“君の国にとってそれほど大事ではない魔物1匹の命”。天秤が傾くのを待つほど迷うことだとは思えないのだけれど?」
「そ、それは…」
「バフォメット程の大物ならば、その身柄を教団に差し出して忠誠を示せば、きっと彼らも分かってくれる事と思うんだ。どうだろうか?君の大切な民の命のため、そして、私の大切な国のために、“尻尾を出しては貰えないかな?”シェルク?」

――ゾクゾク

こ、怖い…
この人は怖い
何を言っているのかはよくわからない
でも、この人が酷いことをシェルクに言っているのだけは何となくわかる
それなのに、どうしてこの人はこんなにも優しい微笑を浮かべられるの?

「どうして…。それを…」
「君の部下にニアルディという子がいるそうだね。なんでも、魔女に化けて魔王軍から情報を巧みに仕入れる優れた少年らしいじゃないか。同じようにね、こちらもクレアという情報収集のプロがいるんだ」

え!?それって…

「……いつから彼女は忍者になったのだ?」
「ふふ。そうか、ジパングではそういう人種がいるんだったね。しかし、彼女はそれとは全く別物だよ。彼女は生まれた時から教団によって特殊な訓練を受けた魔導師でね。そんな彼女の才能に惚れ込んだ私が12の誕生日に父に強請って身柄を引き取ったんだよ」
「なんと…。では私が初めてだと思っていたのは私の勘違いだったのかな?」
「いや。後にも先にも、私が初めて抱いた女性は君だけだよ。君は私の理想の女性だ。君への想いに、嘘偽りは何一つないよ」
「その割には随分と酷いことを言うじゃないか…」
「ああ。そうだね。すまない。しかし、君も同じようにしてきたのではないのかな?」
「全てはお前の掌の上だったのか…」
「いや。君の今回の戦略、これは私では到底思いつかない素晴らしいものだったよ。やはり君は優秀だ。そして、何よりも強い女性だよ」

相も変わらず微笑を絶やさないルキウス
それに対し、シェルクも諦めた様な笑顔を浮かべた

「ふふ。しかし、そんな私を駒として使っていたお前はいったいなんだというのだ?…」
「“駒”か…。ふふ。そうだね。その例えは実に見事だよ。君は盤上で最も強い駒だ。しかしね、シェルク。“クイーン”は確かに最強の駒ではあるけど、けっして“キング”に成り代わることはできないんだ。私としては、クイーンにはキングの隣で大人しくキングを護る役目を担ってもらいたかったよ。でも、優秀すぎるクイーンはその力故に敵陣深くまで攻め込み、その手に堕ちてしまった。だから、私はその犠牲を最大限利用して、この勝負の勝ちを戴かなくてはならないんだ。君も同じ仮面を冠る者として、理解してくれることだと思っているよ…」
「同じ?…ふふ。いや。私とお前ではその仮面の意味が大きく違っている」
「へぇ…。それは興味深いね。どう違うのか、是非とも教えてもらいたいところだけれど」
「その仮面が隠しているものだ。私は弱き自分を隠すために、そして、お前は強すぎる自分を隠すために」
「ははは。なるほどね。そう言われてしまうと、私としては君の素顔を見てみたくなってしまうね」
「ならば見てみるか?あまりの可愛さに惚れ直すぞ?」

それって…どういう事?
いったいこの人たちは何を言ってるの?
私とバラガスさんは訳も分からず二人の会話を聞いていた
と、その時だった

――ボフン

そんな音と共に
シェルクが変身の魔法を解いた

「え!?」
「なっ!シェルク!お前何やってやがる!」
「慌てるな。もうバレているそうだ…。全く…お前の様な悪人は初めて見るぞ」
「悪人とは、酷いことを言ってくれるね。この国の民のために身を削って働いているというのに」

私たちが慌てる中、二人の王は落ち着いた様子で話していた

「ずいぶんと面白い姿になったね。シェルク。しかし、それでも君の美しさは変わらない様で安心したよ」
「ふふ。当たり前だ。私を誰だと思っている?」
「君は優れた王だったよ」
「……お前はこの後どう動くつもりだ?」
「それはこの会話の後の事かい?それとも、“君がいなくなった後”の事かな?」
「笑える冗談だ…。  クリス。お前は転移の魔法を使えるか?」

突然、シェルクが私に言ってきた

「え?使えるけど…」
「ならばバラガスを連れて、ニアの所へ行け。そして、これを奴に見せろ」

そう言って、シェルクは懐から小さな機械を投げてよこした

「え?何これ…」
「音声を記録する装置だ」
「へぇ…。そんな玩具を持ち込んでいたのかい。そんなに私は信用のない人間だったかな?」
「ふふ。いや、思っていた通りの男だったよ。だからこそ、持ち込んだものだ」

え?どういうこと?
どうして突然…

「で、でも、シェルクはどうするのよ!?」
「私が行っては意味がないのだ。頼む。お前たちを信じている」
「信じるって…いったい何を言ってるの?」

「いいから早く行け!」

――ビクっ

突然シェルクが今までに見たことのない形相で私に言った
何!?いったいどういう事なの!?

「さて…そろそろいいかな?シェルク?  クレア、お客様をお出迎えしてくれ

私が混乱する中、突然ルキウスが言うと
部屋の中に大勢の兵士が入ってきた
そして、私は初めて、私たちが危険な状況にあることが分かった

「早く行け!!」

シェルクが再び叫ぶ

私は急いで転移魔法を発動させて、ゲートを開く

「で、でもシェルクが!」
「おい!シェルク!お前も早く!」
「私は…私は大丈夫だ…」

――トン

「え?」
「なっ!?」

シェルクが私とバラガスさんの身体をゲートへと突き飛ばした

「私は…お前たちを信じている…」

そのシェルクの瞳に
確かに見てしまった
涙があふれているのを…

でも、そんなシェルクの姿は、ゲートの向こうに消えてしまった
12/08/22 00:38更新 / ひつじ
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■作者メッセージ
さて、やっとこさ物語が最後の上り坂に入りました
腹黒鬼畜イケメン!ひゃっほぉ〜〜!
攻められたい。かっこよすぎるよ。爽やかスマイルでいろいろと罵ってもらいたい。
ある意味ではシェルクとよく似た、しかしある意味では正反対な、そんな人物像を膨らませた結果、このルキウスさんが生まれました。
シェルクをクイーンとするならば、彼は間違いなくキングです。
しかし、シェルクをキングだとするならば、彼はその反対に座するもう一人のキング。
さて、この後クリスとニアがどう動くのか注目です…
どう動かそう…

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