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第二十話 ルキウスのゲーム

「目が覚めたかい?シェルク」

私はふかふかとしたベッドの上、サラサラのシーツの感触に包まれて目を覚ました

「どうしたのかな?まるで夢を見ているような顔だね?」

辺りを見回す
どうやらルキウスの部屋のようだ
ルキウスはベッドから程近いところにあるテーブルにつき、クレアからお茶を注いでもらいながら優雅にこちらを向いていた

「いや、どうやら夢ではないようだ。お前のような意地の悪い男がいるなど夢にも思わないからな」

私は悪態を吐きながら身体を起こした

――カチャリ

首筋に硬い感触が触れ、金属の触れ合う音がした

「済まないね。君ほどの魔物の魔力を封じるためにはその魔封具が必要だったんだ。少し重いかもしれないけれど、我慢してくれるかな?」

ルキウスがにこりとほほ笑む
見れば手足にも重い金属の錠が掛けられていた
この薄く桃色に輝く金属、魔界銀が含まれているのか…

「聖教府の科学力は大したものだな。うちなら布きれ一枚でこれと同じ性能のモノが作れるぞ?」
「魔界に敵対意識を持つ彼らとしては意地でも魔物達の技術を使いたくないのだろうね。その点で言えばジパングはまさに理想的な文化圏だ。魔物も人間も互いに支え合い、生きているのだから」
「おかげで私が勇者になるのは大変だったよ。半分ジパング人の血が混じっているというだけで枢機卿のジジイどもには嫌われてしまってな」
「ふふ。困ったものだね。さ、シェルク、話はお茶でも飲みながらゆっくりとしよう。クレア、カップをもうひとつくれないかな?」
「はい。ルキウス様」

一見和やかなお茶会
しかし、この男は私の、いや、私の国の敵ということになってしまうのだろうな

「呑気なものだな。まったく…」

私は力の入らない幼い身体で少し高い椅子に腰かけ
ルキウスと向き合った

「この状況で君が私たちに何かできるわけもないからね」

この状況
とは魔封じの枷を付けられた私の事はもとより
4万の人質を取られている私の事だろう
まったく
一滴の血も流さずこれほどまで完璧にバフォメットとなった私を封じてしまうとは
私はこれほどの男を見逃してしまっていたのか
自分が恥ずかしくなるな…

「安心してくれていい。君を捕えたことはまだ私と一部の者しか知らない。君を聖教府に引き渡すのは1週間ほど先になるからね」
「私の命はあと1週間しかないのか…」
「ふふ。そうでもないのではないかな?そうならないために君は彼らを逃がしたのだからね」
「お前が見逃してくれたことは意外だったがな」
「ふふ。ニアと言ったね。君は彼をずいぶんと気に入っているようじゃないか」

ニア と発音したルキウスの口調に少しの違和感を感じる

「ああ。あれは私の男だ。王を辞した後はニアと共に静かに暮らすつもりをしていたぐらいだ」

私が意地の悪い笑みを浮かべてルキウスに言ってやる
ルキウスの眉がピクリと動いたのを見逃さなかった
ふふ
そんな事で少しばかり嬉しくなってしまう私はいかにも女々しいな

「なら、やはり彼らを逃がして正解だったよ」
「ほぅ…。ずいぶんと強気じゃないか?」
「私はこれでも男なのでね。男のプライドというものもあるのだよ。これは彼と私のゲームの様なものだ。君の命を懸けた、ね」
「私を捕えたほどの男がどんな言葉を吐くかと思えば…。なんだ、結局のところ男とは皆バラガスとそう変わらんようだな?」

分かりやすく挑発する私
いや、強がりか?
ふふ。そんな事のために貶されたバラガスは何とも不憫だな

「君たち女性にはわからない事かもしれないね。君たちが思っている以上に私たちは子供なのだよ?」
「まるでごっこ遊びだな。私はさしずめ囚われの姫か。ふふ。悪くないポジションだな」
「たまには観戦者に回るのも悪くないのではないかな?」

いつも通りの優しい微笑み
しかし、ルキウスの目には未だかつて見た事の無い怪しい光が灯っていた
これがこの男の素顔なのだろうか?
そういえばニアもこんな目をしていた時があったな…

「本気で戦をするつもりなのか?言っておくが、ニアやバラガスはそう甘い相手ではないぞ?それに今回の戦では魔界の姫と懇意にさせてもらってな、もしかするとお前の戦う相手は魔王軍になるかもしれないのだぞ?」
「本気でその質問をしているのかい?…そうだね。そうなっては困るところだね。クリス君と言ったかな?彼女はずいぶんと君に懐いているようだからね」
「ほぅ…。そこまで見抜いていたのか」
「クレアは魔力探知のプロでね。その探知範囲は最大で20km、この城の中からでも君の城の様子を探るぐらいはできるからね」
「な…」

私は驚いた
魔力探知自体はある程度の訓練を積めば誰にでもできる事だ
いや、むしろ魔物と戦う上では必須な能力と言っていい
しかし、その探知範囲は一般的には10mやそこら
私でも集中して100mが限度だ
熟練した偵察兵などのプロでも1kmも探れるかどうか
それを20kmだと!?

「範囲を限定すればもう少し先まで見通せますよ?」

爽やかにクレアが言ってきた

「……はは。人は見かけによらぬものだな…」
「これほど優れた秘書は世界中探してもそうはいないよ。私が最も信頼する人間の一人だよ」
「奴隷同然の扱いを受けていた私を救ってくださったルキウス様にはどれほど感謝しても足りません」

満ち足りた様な顔で微笑むクレア
その眼を見て思ってしまった
いや、分かってしまった
この娘は気の毒だ
彼女の想いは永遠に報われないのだろう
いや
それでも彼女はいいと思っているのかもしれない
それこそが自分の“命”だと悟っているのだろう
それをきっとこの男は気づいている
それだけになおさら性質が悪い

「君をこうして捕えている限りクリス君も手は出せないはずだよね? それに、クリス君がどれほど君を救おうとしたところで、自分たちを負かした仇敵である君を救うために魔王軍が兵を挙げるわけもないからね」
「ふふ。勝負事だなどとぬかしておきながら、結局自分は負けないところで高みの見物か?」
「君らしい言葉だね。でも、忘れてはいけないよ?私は王だ。自分を守ることがこのゲームの勝利条件である以上これは当然のことだよ?」
「自分を守る…か」

確かにその通りだ
それをしなかったが故の私のこの様だ
つくづく私は王の器ではなかったのだと思い知らされてしまうな…

「それに、これだけ“ヒント”を与えれば十分に対等な勝負になるのではないかな?シェルク?」
「ん?何のことだ?」

一瞬、惚けてみせる
しかし、ルキウスの目を見て、無駄だと悟ると
私は自分の髪を縛っていた水晶飾りのついた髪紐を解き、ルキウスに手渡した

「いつから気づいていたのだ?水晶の固有振動を利用した水晶式無線機だ。クレアの魔力探知にもかからないはずだが?」
「好きな女性の嘘を見抜けない様な男では君もがっかりするのではないかな?」
「見抜かれたくない嘘もあるとお前は理解しておくべきだな」

まったく
これだからこの男は嫌いなのだ
可愛げの欠片もない
操を捧げた時もそうだ
私がこいつを傷つけまいと演技をしていたにもかかわらず
それを見抜き、その上で 「それでも君を愛している」 などと…
まぁ、それが少しうれしくてすっかりこの男が私に骨抜きになっているなどと思い込み騙されていた私は何倍も愚かか…
頭のいい男だとは思っていた
しかし、これほどまでとは思ってもいなかった
私は自分の何倍も良く出来た、そして硬い仮面を冠り続ける男を見ながら思った

12/08/22 00:41更新 / ひつじ
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■作者メッセージ
ルキウスさんの真意やいかに!?

個人的にはルキ×ニアなんか最高だと思うわけで…
ゲヘヘヘ
ルキウスさんは仮面を脱ぐときっとドSだな…
脱がなくてもだけど…
ん?いや、まてよ…
もしかして脱いだら逆にドM!?
いや、ビジュアル的にそれはないだろ…
それは萎える

頑張れルキウスさん!世界の腐兄腐女子のために!

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