あの日以来、サキュバスは何度もボクの部屋を訪れた。
何度交わっても、ボクの体は刺激に慣れず
彼女のもたらす快楽に負け続けていた。
ボクがちょっと刺激に慣れた様子を見せると
サキュバスはすぐに新しい方法で責め始める。
守る側より責める側が経験豊富なのだからどうしようもない。
それだけでなく、ボクが出す精液の量は徐々に増えていった。
一晩に何度も交わっても減る気配がないのは明らかにおかしい。
ボクの体が魔物の影響を受けて、少しずつ変化していることに
次第に不安が募っていた。
そんなある日――

いつものように自室のベッドの上で目が覚める。
毛布の中の体は寝間着をまとわず生まれたままの姿だった。
全裸で目が覚めたということは、
昨夜サキュバスの子が訪れたのは現実だったということだ。
意識がはっきりするにつれて、ボクは違和感を覚えた。
肌に触れる毛布が、普段よりチクチクしているような気がする。
なんか全身の皮膚が敏感になっているようだった。
匂いもなんだかおかしい。
枕や毛布、シーツなど寝具全体から男の子の体臭がして、
他人のベッドで寝てしまったのではないかと錯覚してしまう。
もう二度寝するような気分ではなくなり、とりあえずトイレに行こうと身を起こし、
ベッドの脇から立ち上がろうとした。

「えっ」
いつも見慣れてたはずのものが存在しない。
寝起きに股間で元気に起立していた男の象徴が跡形も無かった。
思わず手をやったものの、下の毛が生えているだけで
肌の上には痕跡のような凹凸は何一つ存在しない。
「女の子に――なってる？」
自分の胸を改めてじっと見つめた。
膨らんでいるといえばわずかに膨らんでいるような
本当に微妙な変化にしか見えない。
ただ、乳首だけは腫れ上がったように大きくなっていた。
乳房に相当する部分に手で触れると、妙にくすぐったく感じる。
でもこれは皮膚感覚が敏感になっているからなのかもしれない。

戸惑っている間も、催してくることには変わりは無い。
服を着ることなくベッドを離れ、ボクはトイレに駆け込んだ。
普段はトイレ掃除が面倒だと感じていたけれど、
今日ほど個室に備わっているトイレに感謝した日は無かった。
おかげで体が変わっても人目を気にすることが無く用を足せる。
「女の子は普通に座るんだっけ」
いつもなら立ったままするけれど、今はそうはいかない。
便座を降ろし、ボクはおずおずと腰掛けた。
緊張からすぐにはおしっこが出てこない。
ゆっくりと息を吐きながら体の力を抜くと、
やがて温かいものが下腹部から流れ始めた。
「女の子って後ろ向きに出るんだ」
そして結構あちこちがしぶきで濡れる。
終わったらしっかりと拭かないといけないなと思いつつ
無事に用を足せたことにボクは安堵のため息をついた。

手を洗った後、洗面所の鏡で自分の体を確かめてみる。
女の子の体になってるけど、胸の大きさはほぼ変わってないので
服を着れば体型でばれることはないだろう。
問題は顔だ。鏡に映っているのは確かに自分の顔なのだけれど、
男だった頃よりも全体的に柔和な雰囲気が漂っている。
肌もきめが細かくなっていて、瞳の色は真紅に変わっていた。
むしろこちらで異変に気づかれないかが不安だった。
この体をなんとか元に戻さなければ、風呂にも入れない。
当分は仮病を使って極力部屋に引きこもるしかない。
病気なのか、魔物の呪いなのか、
いずれにしてもあのサキュバスに戻す方法を聞き出さないと、
女のままずっと1000人近い男の子たちの中で暮らすはめになる。

その日の晩、ベッドに潜ったまま待っていると、
部屋の窓を軽くノックする音が聞こえた。
カーテンを開けると、あのサキュバスの少女が
ヒラヒラと手を振っているのが見えた。
ボクも慣れたもので、すぐにカギを開けにかかる。
たとえここで窓を開けることを拒んでも、結果は変わらない。
ガラス越しに魅了の魔法をかけられ、カギを開けてしまうのだ。
窓を開けると、少女はすかさず部屋の中に体を滑り込ませる。
「また来ちゃった。今晩も――あれ？何か雰囲気変わった？」
ボクの顔をまじまじとサキュバスがのぞき込む。
「変わったどころの話じゃない。どうしてくれるんだ！」
のんきなサキュバスの態度に業を煮やしてボクは怒鳴った。
大声を出したところで、今は寄宿舎にはほとんど生徒がいない。
「えっ、えっ、何を怒ってるの」
「ボクの体を女の子にしただろ！」
再び怒鳴るとボクは寝間着を脱ぎ始めた。
今のボクは男の子ではないから、彼女に犯される心配は無い。
「わっホントだ」
一糸まとわぬ姿になったボクをまじまじと見つめて
サキュバスがそうつぶやいた。
しばらくボクの体を眺めた後、サキュバスは手招した。
「何を――んうっ」
サキュバスの唇が僕の唇をふさいだ。
熱い舌がそこから入ってくる。二つの舌が絡み合ううちに
こめかみと背中、そして腰にむずむずとした違和感を覚えた。
「あーっやっぱりアルプになってる」
顔を離したサキュバスが叫んだ。
「何なのアルプって」
「魔物だよ」
魔物だって！
違和感のあった頭に手を触れると、固い何かが生えている。
ボクは驚いて洗面所に駆け込み、鏡に映る姿をみて愕然とした。
頭には角、背中からは翼、腰からは太い尻尾が生えている。
「どういうことだ？魔物に襲われて魔物化するのは女の人だろ」
部屋に戻ったボクはサキュバスに向かってたずねた。
「人間の男が魔物化することが稀にあるんだよ」
サキュバスの少女は微笑んで答えた。
「それがアルプ。元は男の人だけどほぼサキュバスと同じだよ」
魔物の姿になった僕を少女は前から後ろからしげしげと眺めた。
「希少なアルプを作れたなんて――仲間に自慢しよっと」
サキュバスのうれしそうな言葉にボクの怒りが再び爆発した。
「自慢なんかしている場合じゃないだろ。元に戻せよ」
「無理だよ」
「そんな」
「魔物になった女の子が元に戻ったなんて話聞いたことある？」
言われてみればそんな話聞いたことがない。
ボクは黙るしかなかった。
「それよりも問題はこれからの君の生活だよ。特に食事」
「食事ってまさか――」
「そう、男の人の精」
無理無理。絶対に無理だ。
男と交わってる自分なんて想像もつかない。
「生まれたてのアルプは、男の子の心がそのまま残っているから厄介なんだよね。
　食事を拒んで死んじゃう子もいるらしいし」
突き付けられた現実に硬直したボクを、少女は指でつつく。
「でも、ここは男の子がたくさんいる学校だからその点は心配ないね。食料は取り放題」
「そんなことできるわけないだろ」
「でも精が無いと君死んじゃうよ」
「死んだ方がマシだよ」
吐き捨てるようにボクは言った。
そんなボクを見ながら、サキュバスは何やら考え込み始めた。

「ねえ、自分はまだ男の子だと思う？」
ようやく口を開いたサキュバスはボクに質問した。
「もちろん」
「じゃあ私にキスできる？大人のキスだよ」
「できるさ」
そう言ってボクは少女に唇を重ね、舌を滑り込ませた。
待ち兼ねていたらしく、挿入した舌はすぐ少女の口に吸われる。
「ん、んうっ」
何かが体から出ていく感覚と共に突然体に力が入らなくなった。
「魅了の魔法！？」
「魔物同士で魅了の魔法なんてかからないよ。君の体内の魔力を少し抜き取っただけ」
そう言って少女はボクをベッドに押し倒した。
「男の精を吸うのを嫌がって、人気の無い場所に逃げたら困るからね。
　まずは空を飛べなくなる程度に魔力を減らしたの」
「だれが精なんか吸うもんか」
「強情ね。それなら少し飢えてもらおうかな」
抵抗する間もなくサキュバスが唇を這わせる場所が下に移った。
「あ――」
胸の真ん中にキスをされる。
同時にサキュバスの手が微妙な膨らみをそっとなで回した。
「もっと魔力を抜き取っちゃうよ。あんまり取ると死んじゃうから、
　あと三日生きられる程度には残しておくけど」
柔らかい唇がへその近くに押し当てられた。
熱い舌がボクの腹をなめ上げる。下腹部がじわりと熱くなった。
おなかが性感帯になるという感覚は生まれて初めてだった。
突如、サキュバスの白い手が内股に割って入ろうとする。
冷たい手を内股の肉で精一杯拒むが抵抗も空しく押し入られた。
「さあ、足開いて」
「嫌だっ」
「こんな音が出ちゃうよ。それでもいいの？」
内股に侵入したサキュバスの指がうごめくと、
ぐちゅぐちゅと湿った音が立った。
その音に驚いた瞬間、足の力が緩む。
サキュバスはすかさずボクの足をがばっと開いてしまった。
「ふふっ、お楽しみはこれからだよ」
開ききった無防備な内股に、サキュバスの唇が押し当てられ
キスマークが刻まれていく。
くすぐったさとかすかな痛みが入り交じり、すぐに快感へと変わっていった。
サキュバスの手が陰部から離れる。安心したのもつかの間
次の瞬間少女はボクの一番敏感な部分に唇を押し当てた。
「うあっ、あぁぁぁぁぁ」
快楽の芯を強く吸われて、ボクの腰が思わず浮いてしまった。
今度は下腹部から温かいものが漏れ出す感覚が生じる。
ボクの足の間で金色の巻き毛を揺らしながら、
サキュバスの少女はごくりごくりと何かを飲み干した。
「ふう、ごちそうさま」
「あ、やあっ」
絶頂に上り詰める寸前でサキュバスの少女が身を離した。
大きく股を開き、浮き上がった腰がガクガクと震える。
最大限に達した疼きをどうにもできず、ボクは身をよじった。
浮いた腰が円を描く。
「そんなことしてもイケないよ。おちんちんを入れてくれる男の子はここにいないんだから」
この場には存在しないペニスを、刺激して射精を促す腰の動き。
本能のままに自分の体が動いてしまったことに気づき
顔から火が出そうになる。必死で動きを止めようとしても
腰のけいれんだけはなかなか止まらない。
「ほら、足閉じてごらん」
サキュバスに促されてぴったりと内股を閉じる。
さっき強く吸われたばかりで、充血して膨れた女の子の芯が、
左右から圧迫されて快感を生み出す。二の腕に鳥肌がたった。
「んっ、あっ」
びしょ濡れの内股を閉じたまま腰をくねらせると、
圧迫とぬめりでじわじわと快感が生まれる。
「う――んんっ」
ようやく快楽の波を越えたボクの体はそのまま崩れ落ち、
汗と愛液が白いシーツの上にいくつかの染みを作った。
「イケたからって安心するのはまだ早いよ」
汗で濡れたボクの額を撫でつつサキュバスの少女がささやいた。
「私がたっぷり吸い取ったせいで、君の体内の魔力は涸れかけているの。
　男の子から精を吸うまで魔力は回復しないんだよ」
息が上がったまま、ぼんやりとした頭でボクは彼女の話を聞く。
「だから君の心がいくら拒んでも、君の体は飢え続ける。
　体が求めるものに正直にならない限り、今君が感じている疼きは治まらないの」
サキュバスの少女は嗜虐的な笑みを浮かべた。
「一応これは私なりの親切。無理に我慢したら死ぬけどね」
「我慢したら死ぬ――」
「そう。それじゃあ今日はもう帰るから。今度会う時は立派な魔物になってることを期待してるね」
来た時と同じように少女は窓から飛び去った。
まだぼうっとした頭でボクは彼女の言葉を理解しようとした。
男の精を吸わないと死ぬ？
我慢し続けたら死ぬまでこの疼きは治まらない？
まだ激しさの抜け切らない鼓動に合わせるように、
ボクの体の芯はじんじんと熱く疼いていた。
この疼きが治まらないなんて――まともに生活することすらできないんじゃないだろうか？

■作者メッセージ
ようやくの魔物化です