褐色愛好会のおまけ
1・夏の終わりの褐色愛好会
ここは私立MA大学。九月も半ばを過ぎ、夕暮れや夜には秋の訪れを感じさせる頃。
3人の男が昼下がりの薄暗い廊下を歩いていた。
「こんちわーッス」
「どうも、お久しぶりです」
「ペジプトからの帰還でござる」
「おお、帰ってきたかペジプト組」
「あれ、お前ら生きてたのか」
扉を開け部屋に入った3人を、引き締まったスポーツマン風の男と、軽薄そうな明るい髪の男が出迎える。
「勝手に殺さんで下さいよ」
「こちらペジプト土産でござる。今後もなにとぞお引き立てをよしなによしなに・・・」
「あれ、スズキさんとカトウさんだけですか? タナカさん居ないなんて珍しいですね」
「ああ、タナカは今ちょっとな・・・」
「ホッホッホ、越後屋おぬしもワルよのう・・・なにこれぇ?」
「あ、それ向こうの店で買ったコーヒーッス」
「お二人もエウロパ土産を出して下さっても良いでござるよ?」
「お土産を催促する上に最低の態度だなお前」
「ハア? なんでお前らのために土産なんか買ってこなきゃいけねーんだよ」
「すまん、俺の土産は諸事情あってな。カトウのはナマモノだったから食べちまった。お前ら予定日過ぎても帰ってこなかったろ。心配したんだぞ」
「旨かったぜ? 本場のブルストとビール・・・あ、サトウはまだ飲めねーんだっけ?ゲハハ」
「ギギギ、オドレクソ森」
「すみません、連絡ぐらい入れるべきでしたね」
「いや大変だったんスよ、遺跡ツアーから戻ったら、添乗員が車ごといなくなっちゃって。荷物やパスポートなんかも車の中だったんでもうどうしようかと」
「お前ら危機管理あますぎじゃね? むしろよく生きてたな」
「貴重品は身につけてないとな。しかしまあ無事に帰ってこれてよかったよ」
「途方にくれてたら遺跡管理事務所の人が助けてくれて、荷物は次の日に返ってきました。添乗員さんは戻ってきませんでしたけど」
「事務所の人に聞いたら近くのケプリ達に車ごとさらわれてたらしいッス」
「添乗員マジうらやま死刑」
「お前よく言うよ・・・。それで乗るはずだった飛行機逃しちゃって、手続きやらなんやかんやで遅れてやっと昨日帰ってきたってわけです」
「添乗員まかせにしてるからそうなるんだよダッセーな」
「ご苦労さん。しかし、アクシデント無しに帰ってくるやつはいないのか?・・・とりあえずそのコーヒー淹れようか。ちょっと給湯室行って来る」
「? あ、スズキさん、僕も行きます」
〜コーヒーブレイク〜
「うえっ何これ」
「独特な味だな」
「草のにおいがするッス。ハーブ?的な」
「・・・ハッ!? お彼岸が見えたでござる」
「オーバーだろ。そういえば向こうの人ってコーヒーに砂糖大量に入れるんですよ」
「バカ早く言えよそれ。ブラックで飲んじまったじゃねえか。つーかギリマンとか買ってこいよ。あれもアプリリカ原産だろ」
「これは輸出仕様じゃない国内消費用って感じだな。むしろいかにも現地行ってきたって感じでいいんじゃないか?」
「そうですぞ。カトウ氏のビールにソーセージなんてこっちでも買えるでござる」
「てめえサトウ、お前をコーヒーにぶち込むぞ」
〜ブレイク終了〜
「はー、スズキさんが手も足もでないなんて、本物の武闘派魔物はすごいんスね〜。・・・つーかカトウさんこそよく生きてましたね。いまどきエルフに弓で撃たれるなんて、ファンタジー映画じゃないんスから」
「うるせーな。しょうがねーだろ、ダークエルフの集落と間違えたんだから。んで、お前らどうだったんだよ」
「“どう”、とはどういうことでござるか?」
「オレ、カトウサンガナニイッテルカワカンネーッス」
「・・・」
「なにトボケてんだ。向こうで女の子はハントできたのかって聞いてんだよ」
「・・・」
「・・・」
「・・・なんの! 戦果もォ! 得られませんでしたア!」
「まーそうだろうな」
「カトウ、そのへんにしといてやれよ」
「褐色娘がたくさんいても、結局拙者たちにチャンスなど訪れるはずもなく・・・」
「いや待て。サトウはチャンスあっただろ。お前がヘタレただけで」
「な、なんのことでござるかフジワラ氏」
「そうだ先輩聞いてくださいよ! こいつ遺跡の事務所にいたスフィンクスの子と結構いい雰囲気になってたんスよ。それなのに・・・」
「ほほう、やらかしたのかサトウ。その話、詳しく聞こうじゃないか」
「サトウ、女性に恥をかかせるのは良くないぞ」
「そ、その話はあまり面白い話ではないでござるから・・・、ってスズキさんまで」
「じーっ」
「じーっ」
「・・・だ、だって、仕方ないじゃないですか! 一人称が『わらわ』とかビビるでしょ! 語尾に『ニャ』とか全く付けないし、そういうキャラ作ってるのかと思って冗談交じりに聞いてみたら『わらわは誇り高き王家の獅子じゃ! 愛玩用の猫どもと一緒にするでない!』って超怒られるし、もうなんかすげえショックだったんですよ・・・でござる」
「なんか二人で言い合いしてると思ったらそんなこと話してたのか」
「同じ種族でもアイデンティティっていろいろなんだな」
「つーかそれスフィンクスのコスプレしたファラオだったんじゃねーの」
「くそう、こうなったら拙者もタナカ氏のようにつぼまじんに乗り換えるでござる。ツボエモン、今日も冴えてピカピカでござるな」
「あっバカ、壺を覗くなよ。もし本当につぼまじんがいたらどうするんだ」
「そうだぞ、タナカ先輩にぶち殺されるぞ」
「HAHAHA、タナカ氏は温厚でござるから、沸点低いカトウ氏のようにブチ切れ金剛したりしないでござるよ」
「いやいやタナカは怒ると周りが引くぐらいキレるぞ。特につぼまじん関係は」
「去年のあれはお前が悪い。まあ、今のタナカなら大丈夫だと思うけどな」
ゴトッ
「ってうおお!? 本当に中に何かいるぞ!? いま目があったでござるよ!?」
「まさか、マジでつぼまじんが!?」
「なら僕が覗・・・じゃなかった早くタナカさんに連絡しないと!」
「おいカトウ、あの子なんとかしろ。ほっとくとケガするぞ」
「チッ、しょうがねーな・・・おーい、そんなとこ入るんじゃない。あぶねえぞ」
『・・・(ヒョコッ)』
「親方、壺から女の子が!?」
「そしてなぜかカトウさんの膝に!?」
「カトウ先輩、アンタ・・・まさか、今日タナカ先輩が来てないのもそういう事ッスか?」
「あ? なに言ってんだお前(ナデナデ)」
『・・・♪』
「見そこなったッスよカトウ先輩、いやカトウ! 友達が惚れてる女と知っていながら手を出すなんてよウ! 俺ァアンタの事、見かけはエロ漫画に出てくる清純派彼女を寝取るチンコのデカイDQNみてえだけど、でも本当は友達や後輩を大事に思っているいい奴だって、そう思ってたのに! あんた最低だ! 人のクズだ!」
「落ち着けよヤマダ。カトウさんは人間のクズなんかじゃない。この世のゴミだ」
「寝取り死すべし慈悲は無い」
「みんな落ち着け。この子はつぼまじんじゃないぞ」
「アンタとはもう一生口きいて・・・え、そうなんスか?」
「拙者、てっきりカトウ氏のことだからタナカ氏との間に胸糞注意系な出来事があったのかと思ったでござるよ」
「というかその子イエティですよね。どうしてこんなところに?」
「な、なんで俺がこんなボロクソに責められなきゃいけないんだよ! いったい俺が何したってんだ!? あとフジワラ、お前こいつがイエティだって最初から気づいてただろ!」
「日ごろのツケだろ、甘んじて受けろよ。それで、何でこの子がここにいるかというと・・・カトウ」
「わかってるよ。ちゃんと説明するって。えーっとつまりだな──かくかくしかじか」
「なるほどわからん」
「カトウ先輩説明下手すぎッス」
「つまり、ゲルマニアから帰る途中、飛行機の乗り継ぎのために降りたヌパールの空港でその子に懐かれて、そのまま誘拐してきたと」
「誘拐じゃねえ!むしろこいつの親に押し付けられ・・・おい髪を引っ張るなって」
『・・・(ツンツン)』
「・・・リア充死すべし慈悲は無い」
「つーか、カトウ先輩ってロリコンだったんスか?」
「ロリコンじゃねえっつの。タナカと一緒にすんな。俺はダークエルフのお姉様がだな・・・」
「ロリコンはみんなそう言うんですよ。タナカさんだってそうじゃないですか」
「通報しようそうしよう」
「いや、それこそどうするんスか? その、ダークエルフのお姉様は」
「は? どうするって、もちろん探すぜ? 今度はブリトニー王国にでも行ってみるかな」
「え」
「いやいや」
「カトウ氏が乱心めされたぞー皆のものであえであえー!」
「・・・おいカトウ、お前いま、その子と一緒に暮らしてるんだよな? この一週間その子とべったりだけど、たぶんもうその子の匂いがついてると思うんだが」
「ハア?匂いとか、スズキお前いつからウルフ属になったんだ? あ、勘違いすんなよ、俺はこんな子供に手ェ出したりはしてねえぞ。タナカじゃあるまいし。まあ風呂入れたり一緒の布団で寝たりはしてるけどよ。妹みたいなもんだって」
「あー、んー・・・お前も知ってると思うが、一般的に魔物(おんな)は、他の魔物(おんな)の匂いのついた男は恋人や夫として選ばないだろ?・・・どうするんだ?」
「え? なにそれ? 俺聞いたことねえよ?そんな話。隣の家の奴なんてケンタウロス4人と毎日ギシアンしてるし」
「それは多分、そのうち一人がバイコーンです」
「普通は一対一ッスよ」
「そうでござる」
「え、マジで? 本気と書いてマジ?」
「真剣と書いてマジだ」
「です」
「ッス」
「ござるござる」
「えーっと・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
『・・・?』
「・・・どうしようか?」
「知らねえッスよ!」
「責任はちゃんととって下さいね」
「リア充爆死しろ!」
「あーもう、うるっせーな・・・ん、どうした、疲れたか?」
『・・・(コクリ)』
「じゃーそろそろ帰るか。スズキはどうする?」
「俺も道場に行く時間だ。帰る」
「んじゃあ俺らも行くべ。今日は帰国の挨拶に来ただけだし」
「そうだね」
「呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪」
+ + +
秋の虫が鳴き始めた校門までの道を、5人の男と小さな少女が歩いていく。
「カトウ氏すべし!呪呪呪呪呪」
「しつけーぞサトウ。お前はとっととそのスフィンクス・ファラオモドキの娘に連絡しろ」
「そ、そうは言っても、ペジプトまでは遠いでござるし・・・」
「距離の話ならタナカに頼めばなんとかなるぞ。たぶん」
「なんですと? その話kwsk」
「そういえばタナカさんは元気なんですか?」
「ああ、ある意味な」
「この子名前なんていうんスか? ペジプトで買ったレンシュンマオチーズ食べる?」
『・・・(ジッ)』
「おらヤマダ、コナかけんな。変な虫ついたら預かってる俺の立場がねえだろうが」
「カトウ先輩以上の変な虫はいないと思うッス」
「んじゃ、俺ら夕飯の買い物して帰るから」
『・・・(ペコリ)』
「それじゃあな。ああサトウ、タナカには俺からメール入れとくから、返事来たら連絡する」
「絶対でござるぞ! 武士に二言は無しの方向でお願いするでござる!」
「俺とフジワラはこっちなんで、ここで失礼するッス」
「ではまた学校で」
+ + +
それぞれの家路へつく男達。夕暮れの道に二人の影が伸びてゆく。
「しかしまあ、カトウ先輩にあんなちっこい彼女ができるとはなあ」
「そうだね」
「いつもダークエルフのお姉様〜って言ってたのにな。つかあれ魔物でも犯罪じゃね?」
「かもね」
「お前、さっきからなに携帯いじってんの? ワタシトケイタイト、ドッチガダイジナノ?」
「ヤマダ、キモい。ペジプトで知り合ったアヌビスの娘とメールしてたんだよ」
「ハァ!? え、ウソだろ、いつの間にそんな娘と知り合ったわけ?」
「あの遺跡で。ヤマダが人妻ギルタブリル口説いて気絶させられてた間に」
「し、知ってりゃ口説いたりしなかったし」
「その子のメールに返信するのにちょっと集中してたんだ。悪かったね」
「即レス症候群の中高生かよ。フンだ、色気づいちゃって。どうせ俺はなんの成果も得られませんでしたよーだ」
「そうじゃなくて、最近スフィンクスが元気ないって相談されてるんだよ」
「んん? そのスフィンクスってもしかして」
「あのサトウと仲良くなったスフィンクスね。ここ数日心ここにあらずで、仕事するにもサボるにも覇気がないんだってさ」
「覇気のあるサボりってなんだよ。・・・もしかして、原因はサトウ?」
「うん。このことサトウには言うなよ。あいつすぐ調子に乗るし、あのスフィンクスの娘、見るからにプライド高いから、サトウから懇願するような形じゃないと上手くいくものもいかなくなるだろ」
「おっおう、そうだな?」
「じゃあ僕はここで。アヌビスの娘にさっきスズキさんが言ってたこと伝えなきゃ・・・」
「おー、じゃあな・・・」
+ + +
日が沈み、蒼く染まった風景の中を一人の男が歩いて来る。
昼の熱気も冷め、秋の空気があたりを満たしている。
(結局、本当に何も無いのは俺だけか・・・)
「チーズ! お前、チーズ持ってるな! なあお前、チーズ持ってるだろ!?」
「なっ、なんだよ急にあんた!? チーズってこの、レンシュンマオチーズのことか?」
「チーズ! チーズ臭い男! ティエエリャリャー!」
「ぬおわーっ!?」
その日、一人の男の自由は死んだ。
その後、一人のラージマウスが妙に日焼けしやすくなったという。
─────────────────────────
2・張り紙の内容
扉に貼られた一枚のA4コピー用紙。
その何の変哲もない紙には、以下の文章が書かれていた。
諸君、私は褐色娘が好きだ
諸君、私は褐色娘が好きだ
諸君、私は褐色娘が大好きだ
アヌビスが好きだ
スフィンクスが好きだ
マミーが好きだ
ダークエルフが好きだ
グールが好きだ
ギルタブリルが好きだ
サラマンダーが好きだ
つぼまじんが好きだ
ちょっと違うかもしれないがノームが好きだ
遺跡で 砂漠で
魔界で 森林で
墓場で 闇夜で
火山で 洞窟で
台所で 壺の中で
この世界に住まうありとあらゆる褐色娘が大好きだ
隊列を組んだグールの一斉突撃が、冒険者の群れ(パーティ)を飲み込むのが好きだ
頭上高く持ち上げられた男が全身を悪夢のごとき舌技にさらされイかされる時など心が躍る
ダークエルフの振るう特製の鞭が勇者を調教するのが好きだ。
悲鳴をあげて逃げ出そうとする全裸の勇者の足を、
鞭が唸りを上げてからめとった時など胸がすくような気持ちだった。
毒針をそろえたギルタブリルの群れが、旅の商隊を蹂躙するのが好きだ。
興奮状態の小娘が既に気絶した獲物を
口づけしながら何度も何度も刺突している様など感動すら覚える。
敗北者と勝利者が第2ラウンドを始めるときなどもうたまらない。
泣き叫ぶ勝利者が 敗北者の振り下ろした手とともに
炎の尻尾をぱたぱたと振りながら逝き果てるのも最高だ
壺を割られたつぼまじんが小さな手を振り上げ、泣きながら私の胸を叩いてくるのを
鍛え上げた腕で強く、強く抱きしめた時など絶頂すら覚える。
イエティの質量に押し潰されるのが好きだ。
強靭な四肢で抱きしめられ、双丘の中で呼吸困難に陥るのはとてもとても苦しいものだ。
アマゾネスの男狩り部隊に村を無茶苦茶にされるのが好きだ。
必死に築いてきた生活を蹂躙され、家族や友人たちの前で犯されるのは屈辱の極みだ。
諸君、私は褐色娘を、元気あふれる褐色娘を望んでいる
諸君、私と共に歩む大体童貞諸君
君たちはいったい何を望んでいる?
褐色娘との生活を望むか?
エロス信徒へと改宗し、愛に満ちた褐色生活を望むか?
日照権の限りを尽くし、三千世界の色白娘を滅ぼす嵐のような生活を望むか!?
褐色!(F) 元気っ娘!(Y) 褐色!(S)
サラマンダー!(S) つぼまじん!(T)
ダークエルフのお姉様!(K)
よろしい、ならば褐色だ
ここは私立MA大学。九月も半ばを過ぎ、夕暮れや夜には秋の訪れを感じさせる頃。
3人の男が昼下がりの薄暗い廊下を歩いていた。
「こんちわーッス」
「どうも、お久しぶりです」
「ペジプトからの帰還でござる」
「おお、帰ってきたかペジプト組」
「あれ、お前ら生きてたのか」
扉を開け部屋に入った3人を、引き締まったスポーツマン風の男と、軽薄そうな明るい髪の男が出迎える。
「勝手に殺さんで下さいよ」
「こちらペジプト土産でござる。今後もなにとぞお引き立てをよしなによしなに・・・」
「あれ、スズキさんとカトウさんだけですか? タナカさん居ないなんて珍しいですね」
「ああ、タナカは今ちょっとな・・・」
「ホッホッホ、越後屋おぬしもワルよのう・・・なにこれぇ?」
「あ、それ向こうの店で買ったコーヒーッス」
「お二人もエウロパ土産を出して下さっても良いでござるよ?」
「お土産を催促する上に最低の態度だなお前」
「ハア? なんでお前らのために土産なんか買ってこなきゃいけねーんだよ」
「すまん、俺の土産は諸事情あってな。カトウのはナマモノだったから食べちまった。お前ら予定日過ぎても帰ってこなかったろ。心配したんだぞ」
「旨かったぜ? 本場のブルストとビール・・・あ、サトウはまだ飲めねーんだっけ?ゲハハ」
「ギギギ、オドレクソ森」
「すみません、連絡ぐらい入れるべきでしたね」
「いや大変だったんスよ、遺跡ツアーから戻ったら、添乗員が車ごといなくなっちゃって。荷物やパスポートなんかも車の中だったんでもうどうしようかと」
「お前ら危機管理あますぎじゃね? むしろよく生きてたな」
「貴重品は身につけてないとな。しかしまあ無事に帰ってこれてよかったよ」
「途方にくれてたら遺跡管理事務所の人が助けてくれて、荷物は次の日に返ってきました。添乗員さんは戻ってきませんでしたけど」
「事務所の人に聞いたら近くのケプリ達に車ごとさらわれてたらしいッス」
「添乗員マジうらやま死刑」
「お前よく言うよ・・・。それで乗るはずだった飛行機逃しちゃって、手続きやらなんやかんやで遅れてやっと昨日帰ってきたってわけです」
「添乗員まかせにしてるからそうなるんだよダッセーな」
「ご苦労さん。しかし、アクシデント無しに帰ってくるやつはいないのか?・・・とりあえずそのコーヒー淹れようか。ちょっと給湯室行って来る」
「? あ、スズキさん、僕も行きます」
〜コーヒーブレイク〜
「うえっ何これ」
「独特な味だな」
「草のにおいがするッス。ハーブ?的な」
「・・・ハッ!? お彼岸が見えたでござる」
「オーバーだろ。そういえば向こうの人ってコーヒーに砂糖大量に入れるんですよ」
「バカ早く言えよそれ。ブラックで飲んじまったじゃねえか。つーかギリマンとか買ってこいよ。あれもアプリリカ原産だろ」
「これは輸出仕様じゃない国内消費用って感じだな。むしろいかにも現地行ってきたって感じでいいんじゃないか?」
「そうですぞ。カトウ氏のビールにソーセージなんてこっちでも買えるでござる」
「てめえサトウ、お前をコーヒーにぶち込むぞ」
〜ブレイク終了〜
「はー、スズキさんが手も足もでないなんて、本物の武闘派魔物はすごいんスね〜。・・・つーかカトウさんこそよく生きてましたね。いまどきエルフに弓で撃たれるなんて、ファンタジー映画じゃないんスから」
「うるせーな。しょうがねーだろ、ダークエルフの集落と間違えたんだから。んで、お前らどうだったんだよ」
「“どう”、とはどういうことでござるか?」
「オレ、カトウサンガナニイッテルカワカンネーッス」
「・・・」
「なにトボケてんだ。向こうで女の子はハントできたのかって聞いてんだよ」
「・・・」
「・・・」
「・・・なんの! 戦果もォ! 得られませんでしたア!」
「まーそうだろうな」
「カトウ、そのへんにしといてやれよ」
「褐色娘がたくさんいても、結局拙者たちにチャンスなど訪れるはずもなく・・・」
「いや待て。サトウはチャンスあっただろ。お前がヘタレただけで」
「な、なんのことでござるかフジワラ氏」
「そうだ先輩聞いてくださいよ! こいつ遺跡の事務所にいたスフィンクスの子と結構いい雰囲気になってたんスよ。それなのに・・・」
「ほほう、やらかしたのかサトウ。その話、詳しく聞こうじゃないか」
「サトウ、女性に恥をかかせるのは良くないぞ」
「そ、その話はあまり面白い話ではないでござるから・・・、ってスズキさんまで」
「じーっ」
「じーっ」
「・・・だ、だって、仕方ないじゃないですか! 一人称が『わらわ』とかビビるでしょ! 語尾に『ニャ』とか全く付けないし、そういうキャラ作ってるのかと思って冗談交じりに聞いてみたら『わらわは誇り高き王家の獅子じゃ! 愛玩用の猫どもと一緒にするでない!』って超怒られるし、もうなんかすげえショックだったんですよ・・・でござる」
「なんか二人で言い合いしてると思ったらそんなこと話してたのか」
「同じ種族でもアイデンティティっていろいろなんだな」
「つーかそれスフィンクスのコスプレしたファラオだったんじゃねーの」
「くそう、こうなったら拙者もタナカ氏のようにつぼまじんに乗り換えるでござる。ツボエモン、今日も冴えてピカピカでござるな」
「あっバカ、壺を覗くなよ。もし本当につぼまじんがいたらどうするんだ」
「そうだぞ、タナカ先輩にぶち殺されるぞ」
「HAHAHA、タナカ氏は温厚でござるから、沸点低いカトウ氏のようにブチ切れ金剛したりしないでござるよ」
「いやいやタナカは怒ると周りが引くぐらいキレるぞ。特につぼまじん関係は」
「去年のあれはお前が悪い。まあ、今のタナカなら大丈夫だと思うけどな」
ゴトッ
「ってうおお!? 本当に中に何かいるぞ!? いま目があったでござるよ!?」
「まさか、マジでつぼまじんが!?」
「なら僕が覗・・・じゃなかった早くタナカさんに連絡しないと!」
「おいカトウ、あの子なんとかしろ。ほっとくとケガするぞ」
「チッ、しょうがねーな・・・おーい、そんなとこ入るんじゃない。あぶねえぞ」
『・・・(ヒョコッ)』
「親方、壺から女の子が!?」
「そしてなぜかカトウさんの膝に!?」
「カトウ先輩、アンタ・・・まさか、今日タナカ先輩が来てないのもそういう事ッスか?」
「あ? なに言ってんだお前(ナデナデ)」
『・・・♪』
「見そこなったッスよカトウ先輩、いやカトウ! 友達が惚れてる女と知っていながら手を出すなんてよウ! 俺ァアンタの事、見かけはエロ漫画に出てくる清純派彼女を寝取るチンコのデカイDQNみてえだけど、でも本当は友達や後輩を大事に思っているいい奴だって、そう思ってたのに! あんた最低だ! 人のクズだ!」
「落ち着けよヤマダ。カトウさんは人間のクズなんかじゃない。この世のゴミだ」
「寝取り死すべし慈悲は無い」
「みんな落ち着け。この子はつぼまじんじゃないぞ」
「アンタとはもう一生口きいて・・・え、そうなんスか?」
「拙者、てっきりカトウ氏のことだからタナカ氏との間に胸糞注意系な出来事があったのかと思ったでござるよ」
「というかその子イエティですよね。どうしてこんなところに?」
「な、なんで俺がこんなボロクソに責められなきゃいけないんだよ! いったい俺が何したってんだ!? あとフジワラ、お前こいつがイエティだって最初から気づいてただろ!」
「日ごろのツケだろ、甘んじて受けろよ。それで、何でこの子がここにいるかというと・・・カトウ」
「わかってるよ。ちゃんと説明するって。えーっとつまりだな──かくかくしかじか」
「なるほどわからん」
「カトウ先輩説明下手すぎッス」
「つまり、ゲルマニアから帰る途中、飛行機の乗り継ぎのために降りたヌパールの空港でその子に懐かれて、そのまま誘拐してきたと」
「誘拐じゃねえ!むしろこいつの親に押し付けられ・・・おい髪を引っ張るなって」
『・・・(ツンツン)』
「・・・リア充死すべし慈悲は無い」
「つーか、カトウ先輩ってロリコンだったんスか?」
「ロリコンじゃねえっつの。タナカと一緒にすんな。俺はダークエルフのお姉様がだな・・・」
「ロリコンはみんなそう言うんですよ。タナカさんだってそうじゃないですか」
「通報しようそうしよう」
「いや、それこそどうするんスか? その、ダークエルフのお姉様は」
「は? どうするって、もちろん探すぜ? 今度はブリトニー王国にでも行ってみるかな」
「え」
「いやいや」
「カトウ氏が乱心めされたぞー皆のものであえであえー!」
「・・・おいカトウ、お前いま、その子と一緒に暮らしてるんだよな? この一週間その子とべったりだけど、たぶんもうその子の匂いがついてると思うんだが」
「ハア?匂いとか、スズキお前いつからウルフ属になったんだ? あ、勘違いすんなよ、俺はこんな子供に手ェ出したりはしてねえぞ。タナカじゃあるまいし。まあ風呂入れたり一緒の布団で寝たりはしてるけどよ。妹みたいなもんだって」
「あー、んー・・・お前も知ってると思うが、一般的に魔物(おんな)は、他の魔物(おんな)の匂いのついた男は恋人や夫として選ばないだろ?・・・どうするんだ?」
「え? なにそれ? 俺聞いたことねえよ?そんな話。隣の家の奴なんてケンタウロス4人と毎日ギシアンしてるし」
「それは多分、そのうち一人がバイコーンです」
「普通は一対一ッスよ」
「そうでござる」
「え、マジで? 本気と書いてマジ?」
「真剣と書いてマジだ」
「です」
「ッス」
「ござるござる」
「えーっと・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
『・・・?』
「・・・どうしようか?」
「知らねえッスよ!」
「責任はちゃんととって下さいね」
「リア充爆死しろ!」
「あーもう、うるっせーな・・・ん、どうした、疲れたか?」
『・・・(コクリ)』
「じゃーそろそろ帰るか。スズキはどうする?」
「俺も道場に行く時間だ。帰る」
「んじゃあ俺らも行くべ。今日は帰国の挨拶に来ただけだし」
「そうだね」
「呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪」
+ + +
秋の虫が鳴き始めた校門までの道を、5人の男と小さな少女が歩いていく。
「カトウ氏すべし!呪呪呪呪呪」
「しつけーぞサトウ。お前はとっととそのスフィンクス・ファラオモドキの娘に連絡しろ」
「そ、そうは言っても、ペジプトまでは遠いでござるし・・・」
「距離の話ならタナカに頼めばなんとかなるぞ。たぶん」
「なんですと? その話kwsk」
「そういえばタナカさんは元気なんですか?」
「ああ、ある意味な」
「この子名前なんていうんスか? ペジプトで買ったレンシュンマオチーズ食べる?」
『・・・(ジッ)』
「おらヤマダ、コナかけんな。変な虫ついたら預かってる俺の立場がねえだろうが」
「カトウ先輩以上の変な虫はいないと思うッス」
「んじゃ、俺ら夕飯の買い物して帰るから」
『・・・(ペコリ)』
「それじゃあな。ああサトウ、タナカには俺からメール入れとくから、返事来たら連絡する」
「絶対でござるぞ! 武士に二言は無しの方向でお願いするでござる!」
「俺とフジワラはこっちなんで、ここで失礼するッス」
「ではまた学校で」
+ + +
それぞれの家路へつく男達。夕暮れの道に二人の影が伸びてゆく。
「しかしまあ、カトウ先輩にあんなちっこい彼女ができるとはなあ」
「そうだね」
「いつもダークエルフのお姉様〜って言ってたのにな。つかあれ魔物でも犯罪じゃね?」
「かもね」
「お前、さっきからなに携帯いじってんの? ワタシトケイタイト、ドッチガダイジナノ?」
「ヤマダ、キモい。ペジプトで知り合ったアヌビスの娘とメールしてたんだよ」
「ハァ!? え、ウソだろ、いつの間にそんな娘と知り合ったわけ?」
「あの遺跡で。ヤマダが人妻ギルタブリル口説いて気絶させられてた間に」
「し、知ってりゃ口説いたりしなかったし」
「その子のメールに返信するのにちょっと集中してたんだ。悪かったね」
「即レス症候群の中高生かよ。フンだ、色気づいちゃって。どうせ俺はなんの成果も得られませんでしたよーだ」
「そうじゃなくて、最近スフィンクスが元気ないって相談されてるんだよ」
「んん? そのスフィンクスってもしかして」
「あのサトウと仲良くなったスフィンクスね。ここ数日心ここにあらずで、仕事するにもサボるにも覇気がないんだってさ」
「覇気のあるサボりってなんだよ。・・・もしかして、原因はサトウ?」
「うん。このことサトウには言うなよ。あいつすぐ調子に乗るし、あのスフィンクスの娘、見るからにプライド高いから、サトウから懇願するような形じゃないと上手くいくものもいかなくなるだろ」
「おっおう、そうだな?」
「じゃあ僕はここで。アヌビスの娘にさっきスズキさんが言ってたこと伝えなきゃ・・・」
「おー、じゃあな・・・」
+ + +
日が沈み、蒼く染まった風景の中を一人の男が歩いて来る。
昼の熱気も冷め、秋の空気があたりを満たしている。
(結局、本当に何も無いのは俺だけか・・・)
「チーズ! お前、チーズ持ってるな! なあお前、チーズ持ってるだろ!?」
「なっ、なんだよ急にあんた!? チーズってこの、レンシュンマオチーズのことか?」
「チーズ! チーズ臭い男! ティエエリャリャー!」
「ぬおわーっ!?」
その日、一人の男の自由は死んだ。
その後、一人のラージマウスが妙に日焼けしやすくなったという。
─────────────────────────
2・張り紙の内容
扉に貼られた一枚のA4コピー用紙。
その何の変哲もない紙には、以下の文章が書かれていた。
諸君、私は褐色娘が好きだ
諸君、私は褐色娘が好きだ
諸君、私は褐色娘が大好きだ
アヌビスが好きだ
スフィンクスが好きだ
マミーが好きだ
ダークエルフが好きだ
グールが好きだ
ギルタブリルが好きだ
サラマンダーが好きだ
つぼまじんが好きだ
ちょっと違うかもしれないがノームが好きだ
遺跡で 砂漠で
魔界で 森林で
墓場で 闇夜で
火山で 洞窟で
台所で 壺の中で
この世界に住まうありとあらゆる褐色娘が大好きだ
隊列を組んだグールの一斉突撃が、冒険者の群れ(パーティ)を飲み込むのが好きだ
頭上高く持ち上げられた男が全身を悪夢のごとき舌技にさらされイかされる時など心が躍る
ダークエルフの振るう特製の鞭が勇者を調教するのが好きだ。
悲鳴をあげて逃げ出そうとする全裸の勇者の足を、
鞭が唸りを上げてからめとった時など胸がすくような気持ちだった。
毒針をそろえたギルタブリルの群れが、旅の商隊を蹂躙するのが好きだ。
興奮状態の小娘が既に気絶した獲物を
口づけしながら何度も何度も刺突している様など感動すら覚える。
敗北者と勝利者が第2ラウンドを始めるときなどもうたまらない。
泣き叫ぶ勝利者が 敗北者の振り下ろした手とともに
炎の尻尾をぱたぱたと振りながら逝き果てるのも最高だ
壺を割られたつぼまじんが小さな手を振り上げ、泣きながら私の胸を叩いてくるのを
鍛え上げた腕で強く、強く抱きしめた時など絶頂すら覚える。
イエティの質量に押し潰されるのが好きだ。
強靭な四肢で抱きしめられ、双丘の中で呼吸困難に陥るのはとてもとても苦しいものだ。
アマゾネスの男狩り部隊に村を無茶苦茶にされるのが好きだ。
必死に築いてきた生活を蹂躙され、家族や友人たちの前で犯されるのは屈辱の極みだ。
諸君、私は褐色娘を、元気あふれる褐色娘を望んでいる
諸君、私と共に歩む大体童貞諸君
君たちはいったい何を望んでいる?
褐色娘との生活を望むか?
エロス信徒へと改宗し、愛に満ちた褐色生活を望むか?
日照権の限りを尽くし、三千世界の色白娘を滅ぼす嵐のような生活を望むか!?
褐色!(F) 元気っ娘!(Y) 褐色!(S)
サラマンダー!(S) つぼまじん!(T)
ダークエルフのお姉様!(K)
よろしい、ならば褐色だ
17/01/19 18:38更新 / なげっぱなしヘルマン
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