11月中旬『文化祭・午後の部』後編
〜屋外舞台裏〜
「おじさん、本気出しすぎでしょう」
「ん?なにが?いつもやってることやっただけだよ?」
「なにそれ、もはやこわい」
「なんでさ?」
砂糖爆撃の後の休憩中、舞台裏でベルンとフォンがしゃべっていた。
ちなみに女子陣はシェリーの周りに集中し、『いかにあんな旦那を手にいれたか』を聞き出そうとしていた。シェリーが未だ恥ずかしさでオーバーヒート気味で全く話を聞いていなかったが。
「もうこのコンテスト、おじさんたちの優勝決定でいいじゃないですか・・・」
「いやいや、まだ君たちが逆転でき、り競技くらいあるだろう」
「ないと断言できます」
そんな話をしていたとき、舞台裏入り口からロックがヨロヨロと杖をつきながら入ってきた。
「お、おぅ・・・?コンテストはもう、終わった、のか?」
「ろ、ロック!?お前、大丈夫なのかよ!?」
「大丈夫じゃねぇ・・・さっき数年前に死んだじっちゃが手を振ってるのが見えたぜ・・・」
「や、休んだらどうだい?」
「そ、そうはいかねぇ・・・」
ギリリと歯が軋むほど口を噛み締めたロックが、親指を立ててカッコつけた。
「お、女が待ってるのに、寝てるわけには、いかねぇからな・・・(ドヤッ」
「・・・相手がロリでもか?」
「ごぶは」
ベルンの一言に、ロックは血を吐いて倒れた。
「・・・ベルンくん?」
「・・・いや、出来心で・・・」
「出来心で友人殺しちゃダメだよ?」
「すいません」
「…ま、まだ…死んで…ねぇ…よ…」
ちなみに天月は。
「・・・ウラヤマシクナンカナインダカラネ・・・」
『ザラザラザラ・・・』
寸胴鍋に顔を突っ込み、砂糖を吐きながら血涙を流していた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜屋外舞台〜
「皆様!砂糖は吐き終わりましたか〜?これより、後半の部を始めます!!」
こんもりと砂糖が山になったバケツを足元に置いた舞が叫び、観客が拍手を送った。その拍手の中、裏方から暗幕に隠されたボードらしきものが運ばれて来た。
「まずは、得点を見てみましょう!得点は、審査員ひとり0〜5点で採点した合計です!では、どうぞ!」
舞の言葉で暗幕が剥ぎ取られ、得点ボードが姿を表した。
ーーーーーーーーーーー
『得点表:第一審査終了
ロック&フェラン:8点
ネフィア&サリス:10点
ベルン&クラリア:14点
天月&クロエ:15点
フォン&シェリー:15点』
ーーーーーーーーーーー
『えぇ〜〜〜〜〜〜!?』
得点表を見てしばらくして、観客席から不満の声が上がった。
「観客からの声の原因も分かります。休憩を取りすぎて時間が押していますので、今回はそれについてのコメントをお願いしましょう。審査員方々、どうしてフォン&シェリーペアが15点?天月&クロエペアと同点ですが?」
すると、三人の審査員が首をかしげた。
「はて?私は5点入れたが・・・」
「私も5点入れました」
「私もですわ」
インドラン、ファ、チェルシー。
三人が言ったあとに、会場全員の視線が、二人目の男性審査員に向いた。
「・・・あの、リーフ、先生?」
舞が小首を傾げながら尋ねると、リーフは大きくため息をついた。
「・・・0点だ。
独身男の嫉妬の何が悪い?」
一瞬、会場がシーンとなったが、しばらくして響いたのは怒声ではなく、一部男性たちによる歓声だった。
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』
( °∀°)<や、やった!!流石はリーフ先生!
( °Д°)<俺らにできない事をやってのける!
( °ω°)<そこに痺れるッ!!憧れるゥッ!!
『リーフ!リーフ!リーフ!リーフ!』
「・・・何故か男子からの暑い(むさ苦しい)エールを受けてますが、リーフ先生、感想は?」
「・・・うっおとしい」
「ありがとうございました。次からは嫉妬抜きでやってくださいね・・・?」
「善処しよう」
リーフの生返事に舞は一抹の不安を感じながら、コンテストを進めることにした。
「それではっ!次に移りましょう!次の審査は・・・これです!」
舞が翼をはためかせると、先ほどの審査名部分の板の文字がくるりとまわった。
『力を合わせて!ぶっとばせ!
第二審査、タッグバトル!』
「こちらもルールは簡単!会場に用意されたゴーレム(戦闘用・♂)に対し、カップルで闘ってください!制限時間は3ターン!大事なのはどれだけ息があっているか!チームワークがいいほど得点が変わります!それでは、先ほどと同じ順番で始めていきます!」
舞が言ってる間に、舞台の床から2mほどの緑色のゴーレムがせり上がってきた。
『ガシィン!』(足音)
「ゴーレムの準備もできたようです!」
『ぐぽー・・・ん』(目が光った)
「それでは!第一ペア、ロック&フェランペアからどうぞ!!」
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
[戦闘開始!!!]
(戦闘は御都合主義モードです。
ダイスなし、ストーリー重視です)
『ゴーレム:ZK-05が現れた!』
ロック「いよっしゃ!戦闘ならどんとこいだ!来いや、来いやァァァッ!」
フェラン「こ、こわい・・・ロックが怖いよ・・・」
〜〜〜俊敏点〜〜〜
1、ロック 17(-4)
2、フェラン 10(-4)
3、ZK-05 5
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜
[ターン1]
〜〜〜〜〜〜
[ロックの行動]
ロック「ぶったぎれろコノヤロォ!」
ロックはバスタードソードを大きく振りかぶった!
『ガキィンッ!』
命中はしたものの、硬い装甲に弾かれダメージが通らない!
ZK-05『ーーー?』
ロック「ちぃっ!」
[フェランの行動]
フェラン「硬いならっ!叩き割ってやるよ!」
フェランはアイアンハンマーを振りかぶり、ZK-05の胸を狙った!
『ボガァッ!』
命中!ZK-05は胸を強打し、ふらついた!
GS-05『ーーー!?』
フェラン「よしっ!」
[ZK-05の行動]
ZK-05はパンチを仕掛けた!
ZK-05『ーーー!』
『ドガァッ!』
ロック「あぶね!?」
フェラン「わわっ!?」
二人は間一髪で回避した!
〜〜〜〜〜〜
[ターン2]
〜〜〜〜〜〜
[ロックの行動]
フェラン「ロック!ちょっと待機してて!剣が通るようにするから!」
ロック「あ?わかった!」
ロックは力を溜めている!
[フェランの行動]
フェラン「装甲さえ叩き割れば!」
フェランは『アーマーブレイク』を放った!アイアンハンマーがZK-05を襲う!
『ビキッ!バキャアッ!』
ZK-05『ーーー!!』
ZK-05は胸部の装甲が割れてしまった!
[ZK-05の行動]
ZK-05はパンチを仕掛けた!
ZK-05『ーーー!』
『ドガァッ!』
ロック「あたんねーよ!」
フェラン「へっへーんだ!」
二人は軽々と避けた!
〜〜〜〜〜〜
[ターン3]
〜〜〜〜〜〜
[ロックの行動]
ロック「おぉりゃあぁぁぁっ!!!」
ロックは『チャージアタック』を繰り出した!狙いはZKの胸だ!
『バギィッ!!』
ZK-05『!!!!????』
クリティカル!
剥げた装甲を狙い、ZK-05を貫いた!
ZK-05『!・・・!?・・・??』
ZK-05は機能を停止した!
[勝利した!]
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
『ワァァァァァッ!』
「お疲れさまでした!中々息のあったコンビネーションでしたね!」
ZK-05が膝をついた瞬間、観客からの歓声があがり、舞が終わりを告げた。
「よっしゃ!やったね、ロック!」
「・・・げぽは」
「話しかけるだけでアウト!?」
「残念ですが、コメントはなしとします!時間押してますので!では、次のゴーレム&次のチーム、どうぞ!!」
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
[戦闘開始!!!]
『ゴーレム:ZK-05が現れた!』
サリス「・・・お肉ついてない」
ネフィア「ゴーレムですから。あれ」
〜〜〜俊敏点〜〜〜
1、サリス 40
2、ネフィア 15
3、ZK-05 5
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜
[ターン1]
〜〜〜〜〜〜
[サリスの行動]
サリス「・・・首、狙う」
サリスは素早くZK-05に飛び移り、首関節を鎌で突き立てた!
『ガギッ!ギギギ・・・』
鎌を突き立ててギリギリと刃を押し込むが、思うように入らない!
ZK-05『ーーー!?』
サリス「・・・ちぇっ」
ZK-05はサリスを振り落とした!
[ネフィアの行動]
ネフィア「ゴーレム!」
ネフィアのゴーレムが、ZK-05に掴みかかった!
『ガギィッ!』
ZK-05とゴーレムは腕を掴み合い、拮抗勝負となった!
ZK-05『ーーー!』
ネフィア「よしっ!」
[ZK-05の行動]
ZK-05は動けない!
〜〜〜〜〜〜
[ターン2]
〜〜〜〜〜〜
[サリスの行動]
サリス「・・・もう一度・・・」
サリスは再度飛びかかり、ZK-05の背中に張り付いた!
サリス「・・・ここ・・・っ!」
サリスはZK-05の首後ろ延髄に鎌を突き立てた!
『ギィンッ!ギギッ、ギギギギギッ!』
ZK-05『ーーー!?』
サリス「・・・ビンゴ」
ZK-05はサリスを振りほどけない!
装甲の隙間から、中身に直接刃を突き立てた!
『ガッ・・・バギッ!』
ZK-05『・・・!・・・?・・・』
ZK-05は機能を停止した!
[勝利した!]
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
『ワァァァァァッ!』
「お疲れさまでした!少々駆け込み終了感がありますが気にしないでおきましょう!」
ZK-05の目に光がなくなった瞬間、観客からの歓声があがり、舞が終わりを告げた。
「やりましたね!先輩!」
「・・・疲れた。眠い・・・」
「・・・もう瞼閉じかけですね・・・」
「引き続き、コメントはなしとします!では、次のゴーレム&次のチーム、どうぞ!!」
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
[戦闘開始!!!]
『ゴーレム:ZK-05が現れた!』
クラリア「あら、これは簡単ですわね♪」
ベルン「え?・・・あ、そうか」
〜〜〜俊敏点〜〜〜
1、ベルン 21
2、クラリア 20
3、ZK-05 5
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜
[ターン1]
〜〜〜〜〜〜
[ベルンの行動]
ベルン「さっそくだが、弾を代える!」
ベルンは通常弾から『炸裂弾』にリロードした!
(炸裂弾・・・通常弾とは違い、着弾後、爆発することで大ダメージを与える。スライム系や生物系モンスターに有効だが、着弾時に弾が敵にめり込まないと意味がないため、硬い皮膚を持つ無機物系やドラゴン系モンスターにはダメージを与えられない)
[クラリアの行動]
クラリア「無機物系のモンスターには定石っとものがありますのよ!」
クラリアはZK-05の頭に薬品瓶を投げつけた!
『バリィンッ!ドジュゥゥゥ・・・』
ZK-05「ーーー!?」
液体のかかった部分から、ZK-05の装甲が溶け始めた!
クラリア「強酸瓶の味は如何かしら?」
[ZK-05の行動]
ZK-05はパンチを仕掛けた!
が、目が溶けていて狙いが逸れた!
『ゴガァッ!!』
ベルン「おぉう・・・ナイス、クラリア」
クラリア「ありがとう♥」
〜〜〜〜〜〜
[ターン2]
〜〜〜〜〜〜
[ベルンの行動]
ベルン「これで・・・当てる!」
ベルンはZK-05の頭を狙い、炸裂弾を3発撃った!
『ガゥン!ガゥン!ガゥン!』
2発命中!すぐさま炸裂弾の信管が作動した!
『カチリ』
『ドグォォォンッ!』
ZK-05『・・・・・・』
ベルン「・・・頭、吹っ飛んだな・・・」
クラリア「炸裂弾二発はさすがに、ねぇ・・・」
ZK-05は頭部を失った!
ZK-05は機能を停止した!
[勝利した!]
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
『・・・うわぁ』
「お疲れさまでした!頭が吹っ飛んだゴーレムは気にしないでください!観客の皆さま!引かないで!」
ZK-05の無惨な終わり方に観客の反応は悪く、舞が慌てて観客にフォローを叫ぶ。
「・・・は、早く下がろう」
「・・・そうですわね」
ベルンたちは、さっさと裏方へ下がってしまった。
「さ、さて!徐々に時間も予定通りのものに戻ってきました!次のゴーレム&選手!どうぞ!!」
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
[戦闘開始!!!]
『ゴーレム:ZK-05が現れた!』
クロエ「が、頑張ろうね!」
天月「大丈夫ですよ、先輩。俺がすぐ終わらせますから」
〜〜〜俊敏点〜〜〜
1、天月 20(-5)
2、ネフィア 10
3、ZK-05 5
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜
[ターン1]
〜〜〜〜〜〜
[天月の行動]
天月「・・・会長には指一本触らせん」
天月は刀を構え、ZK-05の目の前に飛びこんだ!
『ヒュォンッ!』
<冬の空に浮かぶ月>
<月の美貌に目を止めて>
<我、寒さを感じて身を震う>
<あゝ、今宵の月は寒さの美>
<見よ。月は氷刃となりて貴様を斬る>
『緋夜抜刀流奥義[寒月−カンゲツ−]』
ZK-05『ーーー!?』
天月「貴様には勿体無い技。拝めた事、幸運に思え」
天月がいつの間にか抜いた刀を鞘に納めてカチリと鳴らした瞬間、ZK-05の胴体が真っ二つに斬れた!
ZK-05は機能を停止した!
[勝利した!]
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
『・・・・・・?』
「・・・え?と?え??おわり、ました・・・か?」
観客どころか舞の目にも留まらぬ早さで闘いが終わってしまい、呆然とした状態でその場が固まってしまった。
「会長!どうですか!格好よかったですか!?」
「・・・え、と・・・う、うん・・・」
「キターーー(°∀°)ーーーッ!」
しかし周りの空気などなんのその。天月はクロエに褒められて有頂天になっていた。
「え、えーと・・・それでは最後のペアを・・・え?なに?」
その時、舞が裏方から呼ばれてササッと裏方へ回った。
(・・・え?マジ?・・・そんなこと言われても、逆に時間が・・・稼げ?・・・わかりましたよぅ・・・)
ポソポソと聞こえるマイクからの声。それに続いて出てきた舞は申し訳なさそうな顔をしていた。
「えぇ〜と・・・フォン&シェリーペアですが、シェリー奥様の拒否により、第二審査は棄権となりました。よって、第二審査はこれで終了となります!申し訳ありませんが、審査員の方々、採点お願いします!」
『えぇ〜〜〜〜〜〜っ!?』
観客が明らかに不満の声をあげる。
しかし、審査員の教師たちは「やっぱりか」とすでに採点を始めていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜屋外舞台裏〜
「シェリー・・・審査辞退って、いいのかい?」
「40過ぎのフォンを戦闘に出せるわけないでしょおバカ」
「でも、流石にもったいなくないかい?」
「フォンに怪我させたりしたら私暴れるわよ?」
「分かった、分かったから、そんな怖い顔しないで?ね?」
シェリーがフォンに詰め寄る横で、ベルンたちが溜息をついていた。
「やれやれ・・・まさかの辞退って・・・」
「でも、これで私たちにも勝機がありますわ!」
正直に呆れているベルンに、クラリアは勝ちを意識して興奮していた。
「・・・Zzz・・・」
「先輩・・・お、重いんですけどぉ・・・」
サリスは聞いていないどころか、ネフィアの膝を枕にしてガッツリ寝ていた。
「会長、疲れてませんか?大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
天月はサリスが寝ている間にクロエに気を回し、ご機嫌取りに回っていた。
「・・・げぶべぼば」
「また調子悪くなった!?」
ロックとフェランは戦闘の息の合いっぷりから一転。また吐血騒ぎになっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜屋外舞台〜
「皆様!採点が終わりましたので、」
落ち着きを取り戻した舞の声と共に、また裏方から暗幕に隠されたボードらしきものが運ばれて来た。
「では、得点を見てみましょう!得点は第一審査と、審査員ひとり0〜5点で採点した合計です!では、どうぞ!」
舞の言葉で暗幕が剥ぎ取られ、得点ボードが姿を表した。
ーーーーーーーーーーー
『得点表:第一審査終了
ロック&フェラン:20(8+12)点
ネフィア&サリス:22(10+12)点
ベルン&クラリア:29(14+15)点
天月&クロエ:23(15+8)点
フォン&シェリー:15(15+0)点』
ーーーーーーーーーーー
『おぉ〜〜〜〜〜〜!?』
得点表を見て、今度は観客席から驚きの声が上がった。
「これは・・・フォン&シェリーペアは置いておき、天月&クロエペアも低得点!今回はそれについてのコメントをお願いしましょう。審査員方々、どうしてでしょうか?」
すると、インドランが率先してマイクをとった。
「うむ。天月君はクロエ君を守ろうと人外まがいの実力を発揮したようだが・・・今回は『カップルコンテスト』だ。イケメン男のワンマンショーを見て誰が喜ぶ?よって、気概を評価したリーフ先生以外、みな低めだ。
対するベルン君とクラリア君なんかは素晴らしい。クラリア君がゴーレムの皮膚を溶かし、ベルン君の射撃を有効にして倒した息の合いっぷり。あれはすでに一度やっているような素振りだったな。いやぁ、よかった。以上だ」
「ありがとうございました!それでは、最終審査に参りましょう!最終審査は・・・こちらっ!!!」
垂れ幕が上がり、最後の審査競技名が出た途端、主に魔物女子たちが歓喜の声をあげた。
『見つめて♥告って♥
最終審査、告白バトル!』
『きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ♥』
「魔物娘の観客方!お待たせしました!!!
やはりカップルと言えば!甘いマスクに甘〜い言葉ッ!!!
ルールは簡単!一度、告白するだけッ!
その甘さに審査が下されます!!
今回は、下位から順に告白がスタートします!!
それでは最初に、フォン&シェリーペア!どうぞ〜!」
ハイテンション&ハイテンポな会場に呼び出されたフォンとシェリー。二人の頭には『?』マークが浮かんでいた。
「・・・え、なに?この歓声」
「ちょっと、アンタ」
「はいはい、なんでしょう。シェリーさん?」
「私たち、競技内容聞かされてないんだけど?」
シェリーが舞に尋ねると、舞はにた〜っといやらしく笑い、二人の頭上の審査競技名が書かれた垂れ幕を翼で差した。
ふたりはそれを見上げ、そして・・・
「・・・へぇ」
「・・・んナッ!?////」
フォンは納得したように頷き、シェリーは顔を真っ赤にしてボンッとひとつ頭から湯気を出した。
「ちょっ!ばっ!バカじゃないの!?」
「えぇ〜?なぁにがですかぁ〜?」
「こここっ!こんな公衆の面前で告白とかっ!できるわけないでしょ!?」
「おぉっと。さっきイチャイチャっぷりを公開したシェリーさんから想像できないお言葉!」
「言うなそれをぉぉぉぉぉぉっ!!!」
フォンを差し置いてシェリーと舞が漫才をしている最中、フォンは顎に手を当てて考えていたが、ふと手を合わせてから、シェリーに近づいた。
「シェリー」
「フォンからも言ってよ!流石にこんな審査、やりすぎだっ・・・て?」
もちろん、フォンがそんなこというわけもなく。
フォンはシェリーの前にひざまずいて手を取り、シェリーの右手の甲にキスをした。
「・・・僕と君が付き合い始めてずっと、君はたくさんのヤキモチを焼いてきたね。
時には、僕がウィルベルで話をした女性相手に。
時には、旅先でお世話になった宿屋のゴブリンに。
時には、仕事のために案内を頼んだダンジョンの主に。
時には、僕自身の母さんにさえ、ヤキモチを焼いたね。
話が長い、親しくしすぎ、距離が近い、褒めすぎ・・・たくさん、たくさん理由をつけて、僕に怒りをぶつけてきたね。
それが激しくて、おばさんに怒られたり、親方やサティアに呆れられたりしたよね。
でもねシェリー。
そのヤキモチを焼く君の姿が、僕の使えない片目に刻まれてるんだ。
いつでも。
どこでも。
どうやっても。
君の姿が見えなくなることはないんだ。
目が見えなかったあの時から、僕の目には君が見えてた。
僕が他の女性と仲良くしてやきもきする君が見えてた。
それを見て・・・ずっと一緒に居てあげなきゃと、僕は思うんだ。
だからシェリー。
いつまでも、僕を見ていてください。
いつまでも、ヤキモチを焼いてください。
僕の目がいずれ本当に君を見失うまで。
僕はずっと、君のそばにいるからね。」
・・・最後に、もう一度キスをしてから、フォンは立ち上がり珍しく恥ずかしがった。
「・・・あ、あはは・・・流石にちょっと、クサかったかな・・・」
瞬間。
舞の嗚咽音が空気をぶち壊した。
「おぉえぇぇぇぇぇぇ・・・」
『どざーーーーーー・・・』
舞の口から粉砂糖が溢れ、フォンはそれを見てギョッとしてしまう。
「あの・・・大丈夫?」
「リア充爆発してくれませんか!?」
「えぇっ!?」
「もういいです!私が砂糖吐きすぎる前に、さっさと退場してくれやがりませイチャコラ万年新婚夫婦が!氏ね!死ねじゃなくて氏ね!末長く爆発しやがってください!!」
「え、えぇっと・・・あ、ありがとうございました?ほら、シェリー、行くよ?」
「・・・うへ、うへへ♥うへへへ♥」
「あぁ、シェリーの悪い病気が・・・」
フォンは慌ててシェリーを担ぎ(お姫様抱っこ)、震える足で裏方へ引っ込んでいった。
舞は口を数回拭い、さらにリーフの手元にあった水をかっくらって口をゆすいだあと、やっと司会を再開した。
「ぐぢゅぐぢゅぐぢゅ!べっ!!
・・・それでは!次のロック&フェランペアをお呼びしましょう!選手、カマ〜ン♥」
舞の無理やりの先導に出てきたロック&フェランチーム。さて、彼らも事情を知らずにいるようで、キョロキョロと周りを伺いながら登場した。
「で?次はなにやりゃいいんだよ?頼むから甘い系は勘弁してくれ」
「うん・・・ロックに死なれたら困るから、アタシからも頼むよ」
二人の後ろ向きな発言に舞が「あ、やっちまったな」と頭を抱え、すぐに二人の頭上の垂れ幕を示した。
二人はそれを素直に見て・・・
「・・・無理に決まってんだろぐべばっ!!!」
瞬間的に吐血したロックがぶっ倒れ、フェランがため息を吐いてすぐさまロックを引きずって裏方へ引っ込んでいった。
舞がこめかみを押さえて苦悩していたが、すぐに次のペアを呼んだ。
「・・・このペアはホントにネタしかない・・・とにかく!次へ参りましょう!次のペア!どうぞ〜!」
次のペアはネフィアとサリス・・・の、はずなのだが、なぜか裏方から出てきたのは天月とクロエだった。
「あ、あれ?お二人は次のはずですけど・・・?」
「あの、その・・・サリスが起きなくって、ネフィアくんが棄権するって言ってました」
クロエの申し訳なさそうな言葉に天月が頷く。舞は目頭をぎゅっと押さえて苦悩していたが、イベントを進めることを選んだようだ。
「・・・では!棄権者が出てしまいましたが、引き続いて天月&クロエペアにやってもらう審査は、あちらです!」
舞がバサリと翼で垂れ幕を示すと、素直に二人はそれを見た。そして、書かれている文字を理解した途端、クロエの顔が真っ赤になり、目をパチパチさせた。
「・・・あ、あの〜、舞、さん?」
「なんでしょう?クロエさん?」
「・・・あれ、ですか?本当に、こんな、とこで、こく、はく・・・?」
「イエス!」
「イエスじゃないよぅ!!(;ω;)」
シェリー以上に恥ずかしがっているクロエは、なんとべそまでかいて頭をぶんぶん振って拒否した。
「こんなとこでそんなことしたら、恥ずかしさで死んじゃうよぅ!」
「なら天月くんがすればいいんです!」
「そんなことされたら、頭、フットーしちゃうよぉぉぉっ!」
その時、天月がクロエの横から離れるように歩き始めた。
「・・・おや?」
「・・・天月、くん?」
無言で静かに、ゆっくり、かつしっかりと数歩歩いた天月は、今度は立ち止まってくるりと身体を反転させ、大声を張り上げた。
「やぁやぁ遠からん者は音に聞け!拙者、生まれは東の国『日の本』!姓は緋夜、名は天月!古今東西に響く本校の名を耳にして、己を鍛えんがために来て早一年!ここに、我が一族に古くから伝わりし儀を模して、拙者が愛する黒姫に愛の文を綴らん!者共、静まれぇい!」
本当に遠くまで聞こえそうな大きく、針の通った声に、言葉の意味が一部わからずとも、会場全体がしぃんとなり、クロエも驚きの目で天月を見、舞は口を押さえながら静かにクロエから離れ、天月の視界から外れるように位置をとった。
「・・・会長、いえ、クロエ殿。拙者、少々緊張しております故、言葉足らず、滑舌悪し所がありましょうが、今から、拙者の貴女への想いを綴らせていただきます。最後まで、聞いてください」
「・・・はい」
天月のいつになく真剣な眼差しにクロエは相手が下回生であることさえ忘れ、丁寧な返事を返した。
天月は一礼し、言葉を続けた。
「クロエ殿。拙者、貴女が他に想う方が居る事、存じ上げております。
しかし、貴女はとても愛らしく、可愛らしげで、まるで鶯(ウグイス)のようなお姿をしており、拙者を春爛漫の真っ只中にいるような、そんな心持ちにしてくれます。
拙者、日の本の由緒正しき武家一門の侍と言えども男であります。俗世の欲を捨てた坊主と違い、人並みの、否、人一倍の欲があります。
お慕いする人の愛らしい姿や仕草を独り占めできたらどれほど幸福か。そんな思いを抱き、貴女がお慕う御人を見る度、醜く怨嗟の炎を宿しました。
貴女が彼の方に想いを向ける度に、拙者は悔しく、妬ましく、だからこそ振り向いてもらえるようにと尽力したつもりでありました。
しかし、拙者はこの歳まで色恋沙汰など蚊帳の外、剣一本に生きてきた猪侍でござる。まだまだ、男子としての修行が足りなかった様子。
せめて、せめてこの場を借り、我が心の音を伝えたいと、存じ上げます」
ジパングの外の世界からしたら、古臭く、辛気臭い、身体が痒くなるような文句。
しかし、彼を茶化すものは一人もおらず、観客も、舞も、さらに当事者のクロエも、これを一言一句聞き漏らさぬように、物音も立てずに聞いていた。
「拙者、不器用な人間でござる。
だからこそ、不器用な言葉ながらも、真っ直ぐに、貴女の心に伝え申す」
台詞はクライマックス。皆が固唾を飲み、天月が大きく息を吸い込んだ。
「・・・拙者は、貴女と人生を共にしたい!
貴女が自信をなくす時、拙者はそばで支えよう!
貴女が自分の悪し所を見つけたら、拙者は貴女の良き所を見つけよう!
貴女が道標を失うならば、拙者は貴女の道となろう!
ここで断られるも百も承知!!
男は度胸!当たりて砕けよ!!
心は表して意味をなす!!
クロエ殿!拙者は貴女をあべしっっっ!!?」
『メリィッ・・・』
「・・・黙れ、イモザムライ。クロエは、私の、嫁」
瞬間、ここまで、ここまで出来上がっていた空気が音を立てて崩れ落ちた。
天月の顔面に飛び蹴りがめり込み、蹴りの張本人であるサリスは、天月の顔を蹴って地面に降り立ち、本心から侮蔑している顔で、天月に言った。
『プッ、ツゥー・・・ーン』
そしてそれに加え、天月の中の何かも、ブチ切れた。
「おどりゃこの糞蟷螂がァァァッ!!!ワレェ首ィ跳ね飛ばして塩漬けにして日の本へ送った挙句野良犬の糞の足しにしてやるわボケがァァァッ!!!」
「いい度胸・・・コロシテアゲル」
「片腹痛ェんだよクソ女!貴様に明日の御天道様は拝ませねェッ!!今夜のお月様にお別れの挨拶しておきやがれェェェッ!!!」
瞬間、舞台の上で『森の暗殺者VS般若と化した侍』の一騎討ちが始まった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
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〜中庭〜
そして、夕方。
学校中庭では、後夜祭が行われていた。
出店の残り物があちこちで格安販売され、教師のイグニスが作ったキャンプファイヤーを囲って、多くの男女がダンスを踊っていた。
「やれやれ・・・えらい目に会いそうになったぜ・・・」
そんなダンスの輪や、出店の並びから外れた場所に腰を下ろしていたベルンが、安くなった売れ残り唐揚げを食べていた。ちなみに在庫処分を押しつけられたのか、山盛りである。
あの後、会場が大破、さらに観客にも被害が及んだためコンクールは中止。暫定的にフォン&シェリー夫妻が優勝(ある意味順当)し、商品である『一日温泉旅行券』をもらって終了となった。結果、ベルンは告白せずにすんだのである。
「ま、あんな場所で告白なんて、逆立ちしてもできねーしな・・・」
「あら、それはベルンくんは私のことを好きではない・・・ということかしら?」
唐突に背後から聞こえた声にドキリとして、ベルンはゆっくり振り返った。
「・・・クラリア」
「あーぁ、ショックですわ。まさか、ベルンくんに嫌われていたなんて・・・」
クラリアはもう明らかに演技だろうと分かるくらい分かりやすく、よよよと泣き崩れるフリをした。しかし、これでも心配するのがベルンのいいところであり、悪いところだ。
「い、いや、違うって。そういう意味じゃねぇから」
「ぐすん・・・本当?」
「あぁ」
「本当に、本当ですの?」
「もちろん」
「なら今私に告白してくださいな♥」
うっ、とベルンは言葉が詰まる。
クラリアはしめたとばかりにニヤニヤ笑い、ベルンはやってしまったと頭を抱えた。
しかし、クラリアはベルンを見つめ続ける。ベルンはふぅと一息吐き、言葉を紡いだ。
「・・・入学から長い間、お前と付き合って来た。
時には無駄話したり、時にはサティアと喧嘩したり、時には一緒に冒険したり、時には日曜とかイベントで遊んだり。
笑って、怒って、泣いて・・・安っぽい映画のセリフみたいだけど、事実だもんな。楽しかったよ。
そんな中、俺は・・・ロックやネフィアを除いてだけど、たくさんの女の子と・・・あー、えと、遊ぶ、とか、勉強するー、とかさ。色々やったんだよ。
そんなかでお前は・・・俺の弾丸作りとか、攻撃補助とか、錬金術教えてくれたり、買い物に付き合ったりさ、色々やったよ。
だから・・・ほら、その・・・えーと・・・」
なんと言えばいいか分からない。
そうやって悩んでいるベルンの鼻を、クラリアの指がチョンとつついた。
クラリアは頬をふくらませ、不満げな顔をしていた。
「・・・へ?」
「酷いですわ、ベルンくん。そこでスパッと、『好きだ』『愛してる』って言ってくれないと」
「あ・・・えと、すまん」
しかし、すぐさまクラリアはニコリと笑い、ベルンの前に立った。
「で、も。そこが貴方の素晴らしいところ。
優しくて、誰も傷つけないように必死に考えるところ。
私が魔界の社交界で会った口の軽い男達は、私を褒めちぎり、私のご機嫌をとり、私がどう思うかなんてこれっぽっちも考えてくれない。要はどう煽ててエッチに持ち込むか。それだけ。
でも、貴方は違う。軽率に『好き』って言って、私に不快感を与えないよう、でも、私が貴方にとって大切なんだよと、伝えようとする優しさ。素晴らしいわ♥」
クラリアの満面の笑みの話に、ベルンは頭を掻いた。
「・・・えらい褒めるな」
「なにを?貴方を?それとも私自身を?」
「両方・・・かな。俺がそんな立派な考えしてると思ってることと、俺にとってクラリアが大切だって明言してること」
「貴方の今の態度を見て、それ以外に考えられませんもの。第一、外れてないでしょう?」
「それは・・・まぁ・・・」
ベルンは頭を掻きながら目線をそらした。すると、クラリアはまたニコリと笑い、こう続けた。
「貴方は嘘がつけないひと。
優しくて、正直で、側にいるだけで心が暖かくなる人。
だから、私は貴方が欲しい。
女が男に惚れる理由は、案外単純なのよ?
いずれ貴方が『えーと』って言わず、すぐに私に『好き』って言ってくれるようになるまで、『貴方の』プロポーズは待つわ。
じゃあね、ベルン・トリニティ・・・私の愛しい旦那様♥」
ウインクとセットに、チュッと投げキッスをひとつして、クラリアは尻尾をゆらゆら揺らしながら、ダンスの輪に向かって行った。ただし、彼女は友達であろう魔物娘の手をとっていたが。
ベルンは、しばらくボーッとしてから、ハッとして顔を赤くし、頭を掻きむしった。
「・・・ちくしょ。女にプロポーズされるなんて、カッコつかねぇ・・・」
ベルンは、側にあった唐揚げの山をやけ食いし始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜屋外舞台、崩壊跡〜
「・・・なんで俺だけなんでしょうか?」
舞台の瓦礫を撤去しながら、監視しているリーフに天月が問いかけた。
「決まっている。破壊したのがお前とサリスの二人だからだ」
「・・・じゃあなんでサリス先輩がいないんですかね?」
「お前の一発をもらって、休んでるからだ」
「・・・俺、身体中切傷だらけなんですけど?」
「つべこべ言わずに手を動かせ、緋夜 天月」
「・・・すいません」
素直に作業を続ける天月。すると今度は、リーフが口を開いた。
「・・・妨害、及び、破壊行動さえ無ければ、私はお前に満点をつけてやるつもりだったんだがな」
「・・・なんですか?俺の恋路を応援するつもりなんですか?」
「無論。そのつもりだ」
すると天月が手を止め、瞬間に手にしていた木の角材をリーフに投げつけた。
リーフは素早くよけ、角材はカランカランと音を立てて転がった。
「・・・貴様、正気か。リーフ・ライアー」
「・・・それが素か、緋夜」
「拙者は知っているんだぞ。貴様が、クロエ殿の恋心に・・・貴様を好いている事実に気づいてることを・・・」
「教師に向かって敬語抜きとは、感心しないな」
「何故踏みにじる?何故焦らす?彼女をこれ以上何故悩ます?」
「聞いているのか?緋夜 天月?」
「質問しているのは此方だッ!真面目に応えよ!」
青年とは思えぬ覇気、怒号。憤怒に満ちたその目は、リーフに明らかな敵意を向けていた。
しかしリーフは冷静なまま、訊いた。
「お前は私がクロエの恋を悲恋にすることを願っているのか?絶望に打ちひしがれた彼女を救って、改めて真の恋人か?三流の恋愛小説じゃあるまいし、馬鹿馬鹿しい」
「・・・それは・・・」
「お前は私に彼女を受け入れろと言うのだろう?だがな、私には私の事情がある。端的に言えば、私の恋路がな」
そこで「自分勝手な!」と言うことは、天月にはできなかった。今やっているこの行為こそ、天月自身の自分勝手だからだ。
「・・・緋夜。お前の愛の深さ、真摯さ、真っ直ぐさは、今日のアレで十二分に分かった。
ならば、彼女の中で私を超えろ。
彼女が自然と私を諦め、お前を愛したなら、それは悲恋ではない。きっと、それこそ真の幸せだ。
無論、私の一言で彼女を諦めさせるのは・・・いや、簡単ではないかもしれんな。魔物だからな。
そして、魔物だからこそ、心の傷は深くつく。人間ほど短命でない彼女らは、その傷をいつまで持つ?
100年?200年?もっと長いかもしれない。
・・・私は盗賊で、臆病だ。
人が傷つくことを何よりも嫌う。
だから、私は彼女に何も言わない。何もしない。
・・・彼女が私に告白してきたなら、私は初めて口を開こう。
だが、それまでは、お前の時間だ。
いつか分からぬそのタイムリミットまでに、お前の手で、私をねじ伏せろ。彼女を奪え。
・・・お前は立派な侍だ。
自分が傷つくことを、我慢できる人間だ。
少なくとも、それは私にはない。
・・・頑張れよ。それだけ、言っておこう」
するとリーフは身を翻し、天月から離れていった。天月は、しばらく呆然と立っていたが、すぐに作業を再開した。
(・・・あぁ言っていたが、できるだろうか・・・拙者に、そんな大業が・・・)
その時、パキリとなにかを踏む音が聞こえ、天月はそちらを見た。
「・・・会長?」
「あ・・・お疲れ様。あのね、後夜祭の、唐揚げとか、買ってきたの。食べる?」
クロエは、売れ残りの唐揚げやチヂミやらが盛ってある皿を差し出し、にっこり笑った。
「・・・もちろんですよ!会長が持ってきてくれたもんなら、残飯でも犬の餌でもハイイロアンデットナゲキタケでもなんでも食べますよ!!」
「そんなもの持ってこないよ!?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ちなみにロックは、三日ほど寝たきりになった。
「なんで俺こんな扱いなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
作者イメージで東鳩2の主人公の親友キャラ以上の貧乏くじキャラという設定だから。
「おじさん、本気出しすぎでしょう」
「ん?なにが?いつもやってることやっただけだよ?」
「なにそれ、もはやこわい」
「なんでさ?」
砂糖爆撃の後の休憩中、舞台裏でベルンとフォンがしゃべっていた。
ちなみに女子陣はシェリーの周りに集中し、『いかにあんな旦那を手にいれたか』を聞き出そうとしていた。シェリーが未だ恥ずかしさでオーバーヒート気味で全く話を聞いていなかったが。
「もうこのコンテスト、おじさんたちの優勝決定でいいじゃないですか・・・」
「いやいや、まだ君たちが逆転でき、り競技くらいあるだろう」
「ないと断言できます」
そんな話をしていたとき、舞台裏入り口からロックがヨロヨロと杖をつきながら入ってきた。
「お、おぅ・・・?コンテストはもう、終わった、のか?」
「ろ、ロック!?お前、大丈夫なのかよ!?」
「大丈夫じゃねぇ・・・さっき数年前に死んだじっちゃが手を振ってるのが見えたぜ・・・」
「や、休んだらどうだい?」
「そ、そうはいかねぇ・・・」
ギリリと歯が軋むほど口を噛み締めたロックが、親指を立ててカッコつけた。
「お、女が待ってるのに、寝てるわけには、いかねぇからな・・・(ドヤッ」
「・・・相手がロリでもか?」
「ごぶは」
ベルンの一言に、ロックは血を吐いて倒れた。
「・・・ベルンくん?」
「・・・いや、出来心で・・・」
「出来心で友人殺しちゃダメだよ?」
「すいません」
「…ま、まだ…死んで…ねぇ…よ…」
ちなみに天月は。
「・・・ウラヤマシクナンカナインダカラネ・・・」
『ザラザラザラ・・・』
寸胴鍋に顔を突っ込み、砂糖を吐きながら血涙を流していた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜屋外舞台〜
「皆様!砂糖は吐き終わりましたか〜?これより、後半の部を始めます!!」
こんもりと砂糖が山になったバケツを足元に置いた舞が叫び、観客が拍手を送った。その拍手の中、裏方から暗幕に隠されたボードらしきものが運ばれて来た。
「まずは、得点を見てみましょう!得点は、審査員ひとり0〜5点で採点した合計です!では、どうぞ!」
舞の言葉で暗幕が剥ぎ取られ、得点ボードが姿を表した。
ーーーーーーーーーーー
『得点表:第一審査終了
ロック&フェラン:8点
ネフィア&サリス:10点
ベルン&クラリア:14点
天月&クロエ:15点
フォン&シェリー:15点』
ーーーーーーーーーーー
『えぇ〜〜〜〜〜〜!?』
得点表を見てしばらくして、観客席から不満の声が上がった。
「観客からの声の原因も分かります。休憩を取りすぎて時間が押していますので、今回はそれについてのコメントをお願いしましょう。審査員方々、どうしてフォン&シェリーペアが15点?天月&クロエペアと同点ですが?」
すると、三人の審査員が首をかしげた。
「はて?私は5点入れたが・・・」
「私も5点入れました」
「私もですわ」
インドラン、ファ、チェルシー。
三人が言ったあとに、会場全員の視線が、二人目の男性審査員に向いた。
「・・・あの、リーフ、先生?」
舞が小首を傾げながら尋ねると、リーフは大きくため息をついた。
「・・・0点だ。
独身男の嫉妬の何が悪い?」
一瞬、会場がシーンとなったが、しばらくして響いたのは怒声ではなく、一部男性たちによる歓声だった。
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』
( °∀°)<や、やった!!流石はリーフ先生!
( °Д°)<俺らにできない事をやってのける!
( °ω°)<そこに痺れるッ!!憧れるゥッ!!
『リーフ!リーフ!リーフ!リーフ!』
「・・・何故か男子からの暑い(むさ苦しい)エールを受けてますが、リーフ先生、感想は?」
「・・・うっおとしい」
「ありがとうございました。次からは嫉妬抜きでやってくださいね・・・?」
「善処しよう」
リーフの生返事に舞は一抹の不安を感じながら、コンテストを進めることにした。
「それではっ!次に移りましょう!次の審査は・・・これです!」
舞が翼をはためかせると、先ほどの審査名部分の板の文字がくるりとまわった。
『力を合わせて!ぶっとばせ!
第二審査、タッグバトル!』
「こちらもルールは簡単!会場に用意されたゴーレム(戦闘用・♂)に対し、カップルで闘ってください!制限時間は3ターン!大事なのはどれだけ息があっているか!チームワークがいいほど得点が変わります!それでは、先ほどと同じ順番で始めていきます!」
舞が言ってる間に、舞台の床から2mほどの緑色のゴーレムがせり上がってきた。
『ガシィン!』(足音)
「ゴーレムの準備もできたようです!」
『ぐぽー・・・ん』(目が光った)
「それでは!第一ペア、ロック&フェランペアからどうぞ!!」
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
[戦闘開始!!!]
(戦闘は御都合主義モードです。
ダイスなし、ストーリー重視です)
『ゴーレム:ZK-05が現れた!』
ロック「いよっしゃ!戦闘ならどんとこいだ!来いや、来いやァァァッ!」
フェラン「こ、こわい・・・ロックが怖いよ・・・」
〜〜〜俊敏点〜〜〜
1、ロック 17(-4)
2、フェラン 10(-4)
3、ZK-05 5
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜
[ターン1]
〜〜〜〜〜〜
[ロックの行動]
ロック「ぶったぎれろコノヤロォ!」
ロックはバスタードソードを大きく振りかぶった!
『ガキィンッ!』
命中はしたものの、硬い装甲に弾かれダメージが通らない!
ZK-05『ーーー?』
ロック「ちぃっ!」
[フェランの行動]
フェラン「硬いならっ!叩き割ってやるよ!」
フェランはアイアンハンマーを振りかぶり、ZK-05の胸を狙った!
『ボガァッ!』
命中!ZK-05は胸を強打し、ふらついた!
GS-05『ーーー!?』
フェラン「よしっ!」
[ZK-05の行動]
ZK-05はパンチを仕掛けた!
ZK-05『ーーー!』
『ドガァッ!』
ロック「あぶね!?」
フェラン「わわっ!?」
二人は間一髪で回避した!
〜〜〜〜〜〜
[ターン2]
〜〜〜〜〜〜
[ロックの行動]
フェラン「ロック!ちょっと待機してて!剣が通るようにするから!」
ロック「あ?わかった!」
ロックは力を溜めている!
[フェランの行動]
フェラン「装甲さえ叩き割れば!」
フェランは『アーマーブレイク』を放った!アイアンハンマーがZK-05を襲う!
『ビキッ!バキャアッ!』
ZK-05『ーーー!!』
ZK-05は胸部の装甲が割れてしまった!
[ZK-05の行動]
ZK-05はパンチを仕掛けた!
ZK-05『ーーー!』
『ドガァッ!』
ロック「あたんねーよ!」
フェラン「へっへーんだ!」
二人は軽々と避けた!
〜〜〜〜〜〜
[ターン3]
〜〜〜〜〜〜
[ロックの行動]
ロック「おぉりゃあぁぁぁっ!!!」
ロックは『チャージアタック』を繰り出した!狙いはZKの胸だ!
『バギィッ!!』
ZK-05『!!!!????』
クリティカル!
剥げた装甲を狙い、ZK-05を貫いた!
ZK-05『!・・・!?・・・??』
ZK-05は機能を停止した!
[勝利した!]
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
『ワァァァァァッ!』
「お疲れさまでした!中々息のあったコンビネーションでしたね!」
ZK-05が膝をついた瞬間、観客からの歓声があがり、舞が終わりを告げた。
「よっしゃ!やったね、ロック!」
「・・・げぽは」
「話しかけるだけでアウト!?」
「残念ですが、コメントはなしとします!時間押してますので!では、次のゴーレム&次のチーム、どうぞ!!」
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
[戦闘開始!!!]
『ゴーレム:ZK-05が現れた!』
サリス「・・・お肉ついてない」
ネフィア「ゴーレムですから。あれ」
〜〜〜俊敏点〜〜〜
1、サリス 40
2、ネフィア 15
3、ZK-05 5
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜
[ターン1]
〜〜〜〜〜〜
[サリスの行動]
サリス「・・・首、狙う」
サリスは素早くZK-05に飛び移り、首関節を鎌で突き立てた!
『ガギッ!ギギギ・・・』
鎌を突き立ててギリギリと刃を押し込むが、思うように入らない!
ZK-05『ーーー!?』
サリス「・・・ちぇっ」
ZK-05はサリスを振り落とした!
[ネフィアの行動]
ネフィア「ゴーレム!」
ネフィアのゴーレムが、ZK-05に掴みかかった!
『ガギィッ!』
ZK-05とゴーレムは腕を掴み合い、拮抗勝負となった!
ZK-05『ーーー!』
ネフィア「よしっ!」
[ZK-05の行動]
ZK-05は動けない!
〜〜〜〜〜〜
[ターン2]
〜〜〜〜〜〜
[サリスの行動]
サリス「・・・もう一度・・・」
サリスは再度飛びかかり、ZK-05の背中に張り付いた!
サリス「・・・ここ・・・っ!」
サリスはZK-05の首後ろ延髄に鎌を突き立てた!
『ギィンッ!ギギッ、ギギギギギッ!』
ZK-05『ーーー!?』
サリス「・・・ビンゴ」
ZK-05はサリスを振りほどけない!
装甲の隙間から、中身に直接刃を突き立てた!
『ガッ・・・バギッ!』
ZK-05『・・・!・・・?・・・』
ZK-05は機能を停止した!
[勝利した!]
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
『ワァァァァァッ!』
「お疲れさまでした!少々駆け込み終了感がありますが気にしないでおきましょう!」
ZK-05の目に光がなくなった瞬間、観客からの歓声があがり、舞が終わりを告げた。
「やりましたね!先輩!」
「・・・疲れた。眠い・・・」
「・・・もう瞼閉じかけですね・・・」
「引き続き、コメントはなしとします!では、次のゴーレム&次のチーム、どうぞ!!」
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
[戦闘開始!!!]
『ゴーレム:ZK-05が現れた!』
クラリア「あら、これは簡単ですわね♪」
ベルン「え?・・・あ、そうか」
〜〜〜俊敏点〜〜〜
1、ベルン 21
2、クラリア 20
3、ZK-05 5
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜
[ターン1]
〜〜〜〜〜〜
[ベルンの行動]
ベルン「さっそくだが、弾を代える!」
ベルンは通常弾から『炸裂弾』にリロードした!
(炸裂弾・・・通常弾とは違い、着弾後、爆発することで大ダメージを与える。スライム系や生物系モンスターに有効だが、着弾時に弾が敵にめり込まないと意味がないため、硬い皮膚を持つ無機物系やドラゴン系モンスターにはダメージを与えられない)
[クラリアの行動]
クラリア「無機物系のモンスターには定石っとものがありますのよ!」
クラリアはZK-05の頭に薬品瓶を投げつけた!
『バリィンッ!ドジュゥゥゥ・・・』
ZK-05「ーーー!?」
液体のかかった部分から、ZK-05の装甲が溶け始めた!
クラリア「強酸瓶の味は如何かしら?」
[ZK-05の行動]
ZK-05はパンチを仕掛けた!
が、目が溶けていて狙いが逸れた!
『ゴガァッ!!』
ベルン「おぉう・・・ナイス、クラリア」
クラリア「ありがとう♥」
〜〜〜〜〜〜
[ターン2]
〜〜〜〜〜〜
[ベルンの行動]
ベルン「これで・・・当てる!」
ベルンはZK-05の頭を狙い、炸裂弾を3発撃った!
『ガゥン!ガゥン!ガゥン!』
2発命中!すぐさま炸裂弾の信管が作動した!
『カチリ』
『ドグォォォンッ!』
ZK-05『・・・・・・』
ベルン「・・・頭、吹っ飛んだな・・・」
クラリア「炸裂弾二発はさすがに、ねぇ・・・」
ZK-05は頭部を失った!
ZK-05は機能を停止した!
[勝利した!]
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
『・・・うわぁ』
「お疲れさまでした!頭が吹っ飛んだゴーレムは気にしないでください!観客の皆さま!引かないで!」
ZK-05の無惨な終わり方に観客の反応は悪く、舞が慌てて観客にフォローを叫ぶ。
「・・・は、早く下がろう」
「・・・そうですわね」
ベルンたちは、さっさと裏方へ下がってしまった。
「さ、さて!徐々に時間も予定通りのものに戻ってきました!次のゴーレム&選手!どうぞ!!」
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
[戦闘開始!!!]
『ゴーレム:ZK-05が現れた!』
クロエ「が、頑張ろうね!」
天月「大丈夫ですよ、先輩。俺がすぐ終わらせますから」
〜〜〜俊敏点〜〜〜
1、天月 20(-5)
2、ネフィア 10
3、ZK-05 5
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜
[ターン1]
〜〜〜〜〜〜
[天月の行動]
天月「・・・会長には指一本触らせん」
天月は刀を構え、ZK-05の目の前に飛びこんだ!
『ヒュォンッ!』
<冬の空に浮かぶ月>
<月の美貌に目を止めて>
<我、寒さを感じて身を震う>
<あゝ、今宵の月は寒さの美>
<見よ。月は氷刃となりて貴様を斬る>
『緋夜抜刀流奥義[寒月−カンゲツ−]』
ZK-05『ーーー!?』
天月「貴様には勿体無い技。拝めた事、幸運に思え」
天月がいつの間にか抜いた刀を鞘に納めてカチリと鳴らした瞬間、ZK-05の胴体が真っ二つに斬れた!
ZK-05は機能を停止した!
[勝利した!]
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
『・・・・・・?』
「・・・え?と?え??おわり、ました・・・か?」
観客どころか舞の目にも留まらぬ早さで闘いが終わってしまい、呆然とした状態でその場が固まってしまった。
「会長!どうですか!格好よかったですか!?」
「・・・え、と・・・う、うん・・・」
「キターーー(°∀°)ーーーッ!」
しかし周りの空気などなんのその。天月はクロエに褒められて有頂天になっていた。
「え、えーと・・・それでは最後のペアを・・・え?なに?」
その時、舞が裏方から呼ばれてササッと裏方へ回った。
(・・・え?マジ?・・・そんなこと言われても、逆に時間が・・・稼げ?・・・わかりましたよぅ・・・)
ポソポソと聞こえるマイクからの声。それに続いて出てきた舞は申し訳なさそうな顔をしていた。
「えぇ〜と・・・フォン&シェリーペアですが、シェリー奥様の拒否により、第二審査は棄権となりました。よって、第二審査はこれで終了となります!申し訳ありませんが、審査員の方々、採点お願いします!」
『えぇ〜〜〜〜〜〜っ!?』
観客が明らかに不満の声をあげる。
しかし、審査員の教師たちは「やっぱりか」とすでに採点を始めていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜屋外舞台裏〜
「シェリー・・・審査辞退って、いいのかい?」
「40過ぎのフォンを戦闘に出せるわけないでしょおバカ」
「でも、流石にもったいなくないかい?」
「フォンに怪我させたりしたら私暴れるわよ?」
「分かった、分かったから、そんな怖い顔しないで?ね?」
シェリーがフォンに詰め寄る横で、ベルンたちが溜息をついていた。
「やれやれ・・・まさかの辞退って・・・」
「でも、これで私たちにも勝機がありますわ!」
正直に呆れているベルンに、クラリアは勝ちを意識して興奮していた。
「・・・Zzz・・・」
「先輩・・・お、重いんですけどぉ・・・」
サリスは聞いていないどころか、ネフィアの膝を枕にしてガッツリ寝ていた。
「会長、疲れてませんか?大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
天月はサリスが寝ている間にクロエに気を回し、ご機嫌取りに回っていた。
「・・・げぶべぼば」
「また調子悪くなった!?」
ロックとフェランは戦闘の息の合いっぷりから一転。また吐血騒ぎになっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜屋外舞台〜
「皆様!採点が終わりましたので、」
落ち着きを取り戻した舞の声と共に、また裏方から暗幕に隠されたボードらしきものが運ばれて来た。
「では、得点を見てみましょう!得点は第一審査と、審査員ひとり0〜5点で採点した合計です!では、どうぞ!」
舞の言葉で暗幕が剥ぎ取られ、得点ボードが姿を表した。
ーーーーーーーーーーー
『得点表:第一審査終了
ロック&フェラン:20(8+12)点
ネフィア&サリス:22(10+12)点
ベルン&クラリア:29(14+15)点
天月&クロエ:23(15+8)点
フォン&シェリー:15(15+0)点』
ーーーーーーーーーーー
『おぉ〜〜〜〜〜〜!?』
得点表を見て、今度は観客席から驚きの声が上がった。
「これは・・・フォン&シェリーペアは置いておき、天月&クロエペアも低得点!今回はそれについてのコメントをお願いしましょう。審査員方々、どうしてでしょうか?」
すると、インドランが率先してマイクをとった。
「うむ。天月君はクロエ君を守ろうと人外まがいの実力を発揮したようだが・・・今回は『カップルコンテスト』だ。イケメン男のワンマンショーを見て誰が喜ぶ?よって、気概を評価したリーフ先生以外、みな低めだ。
対するベルン君とクラリア君なんかは素晴らしい。クラリア君がゴーレムの皮膚を溶かし、ベルン君の射撃を有効にして倒した息の合いっぷり。あれはすでに一度やっているような素振りだったな。いやぁ、よかった。以上だ」
「ありがとうございました!それでは、最終審査に参りましょう!最終審査は・・・こちらっ!!!」
垂れ幕が上がり、最後の審査競技名が出た途端、主に魔物女子たちが歓喜の声をあげた。
『見つめて♥告って♥
最終審査、告白バトル!』
『きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ♥』
「魔物娘の観客方!お待たせしました!!!
やはりカップルと言えば!甘いマスクに甘〜い言葉ッ!!!
ルールは簡単!一度、告白するだけッ!
その甘さに審査が下されます!!
今回は、下位から順に告白がスタートします!!
それでは最初に、フォン&シェリーペア!どうぞ〜!」
ハイテンション&ハイテンポな会場に呼び出されたフォンとシェリー。二人の頭には『?』マークが浮かんでいた。
「・・・え、なに?この歓声」
「ちょっと、アンタ」
「はいはい、なんでしょう。シェリーさん?」
「私たち、競技内容聞かされてないんだけど?」
シェリーが舞に尋ねると、舞はにた〜っといやらしく笑い、二人の頭上の審査競技名が書かれた垂れ幕を翼で差した。
ふたりはそれを見上げ、そして・・・
「・・・へぇ」
「・・・んナッ!?////」
フォンは納得したように頷き、シェリーは顔を真っ赤にしてボンッとひとつ頭から湯気を出した。
「ちょっ!ばっ!バカじゃないの!?」
「えぇ〜?なぁにがですかぁ〜?」
「こここっ!こんな公衆の面前で告白とかっ!できるわけないでしょ!?」
「おぉっと。さっきイチャイチャっぷりを公開したシェリーさんから想像できないお言葉!」
「言うなそれをぉぉぉぉぉぉっ!!!」
フォンを差し置いてシェリーと舞が漫才をしている最中、フォンは顎に手を当てて考えていたが、ふと手を合わせてから、シェリーに近づいた。
「シェリー」
「フォンからも言ってよ!流石にこんな審査、やりすぎだっ・・・て?」
もちろん、フォンがそんなこというわけもなく。
フォンはシェリーの前にひざまずいて手を取り、シェリーの右手の甲にキスをした。
「・・・僕と君が付き合い始めてずっと、君はたくさんのヤキモチを焼いてきたね。
時には、僕がウィルベルで話をした女性相手に。
時には、旅先でお世話になった宿屋のゴブリンに。
時には、仕事のために案内を頼んだダンジョンの主に。
時には、僕自身の母さんにさえ、ヤキモチを焼いたね。
話が長い、親しくしすぎ、距離が近い、褒めすぎ・・・たくさん、たくさん理由をつけて、僕に怒りをぶつけてきたね。
それが激しくて、おばさんに怒られたり、親方やサティアに呆れられたりしたよね。
でもねシェリー。
そのヤキモチを焼く君の姿が、僕の使えない片目に刻まれてるんだ。
いつでも。
どこでも。
どうやっても。
君の姿が見えなくなることはないんだ。
目が見えなかったあの時から、僕の目には君が見えてた。
僕が他の女性と仲良くしてやきもきする君が見えてた。
それを見て・・・ずっと一緒に居てあげなきゃと、僕は思うんだ。
だからシェリー。
いつまでも、僕を見ていてください。
いつまでも、ヤキモチを焼いてください。
僕の目がいずれ本当に君を見失うまで。
僕はずっと、君のそばにいるからね。」
・・・最後に、もう一度キスをしてから、フォンは立ち上がり珍しく恥ずかしがった。
「・・・あ、あはは・・・流石にちょっと、クサかったかな・・・」
瞬間。
舞の嗚咽音が空気をぶち壊した。
「おぉえぇぇぇぇぇぇ・・・」
『どざーーーーーー・・・』
舞の口から粉砂糖が溢れ、フォンはそれを見てギョッとしてしまう。
「あの・・・大丈夫?」
「リア充爆発してくれませんか!?」
「えぇっ!?」
「もういいです!私が砂糖吐きすぎる前に、さっさと退場してくれやがりませイチャコラ万年新婚夫婦が!氏ね!死ねじゃなくて氏ね!末長く爆発しやがってください!!」
「え、えぇっと・・・あ、ありがとうございました?ほら、シェリー、行くよ?」
「・・・うへ、うへへ♥うへへへ♥」
「あぁ、シェリーの悪い病気が・・・」
フォンは慌ててシェリーを担ぎ(お姫様抱っこ)、震える足で裏方へ引っ込んでいった。
舞は口を数回拭い、さらにリーフの手元にあった水をかっくらって口をゆすいだあと、やっと司会を再開した。
「ぐぢゅぐぢゅぐぢゅ!べっ!!
・・・それでは!次のロック&フェランペアをお呼びしましょう!選手、カマ〜ン♥」
舞の無理やりの先導に出てきたロック&フェランチーム。さて、彼らも事情を知らずにいるようで、キョロキョロと周りを伺いながら登場した。
「で?次はなにやりゃいいんだよ?頼むから甘い系は勘弁してくれ」
「うん・・・ロックに死なれたら困るから、アタシからも頼むよ」
二人の後ろ向きな発言に舞が「あ、やっちまったな」と頭を抱え、すぐに二人の頭上の垂れ幕を示した。
二人はそれを素直に見て・・・
「・・・無理に決まってんだろぐべばっ!!!」
瞬間的に吐血したロックがぶっ倒れ、フェランがため息を吐いてすぐさまロックを引きずって裏方へ引っ込んでいった。
舞がこめかみを押さえて苦悩していたが、すぐに次のペアを呼んだ。
「・・・このペアはホントにネタしかない・・・とにかく!次へ参りましょう!次のペア!どうぞ〜!」
次のペアはネフィアとサリス・・・の、はずなのだが、なぜか裏方から出てきたのは天月とクロエだった。
「あ、あれ?お二人は次のはずですけど・・・?」
「あの、その・・・サリスが起きなくって、ネフィアくんが棄権するって言ってました」
クロエの申し訳なさそうな言葉に天月が頷く。舞は目頭をぎゅっと押さえて苦悩していたが、イベントを進めることを選んだようだ。
「・・・では!棄権者が出てしまいましたが、引き続いて天月&クロエペアにやってもらう審査は、あちらです!」
舞がバサリと翼で垂れ幕を示すと、素直に二人はそれを見た。そして、書かれている文字を理解した途端、クロエの顔が真っ赤になり、目をパチパチさせた。
「・・・あ、あの〜、舞、さん?」
「なんでしょう?クロエさん?」
「・・・あれ、ですか?本当に、こんな、とこで、こく、はく・・・?」
「イエス!」
「イエスじゃないよぅ!!(;ω;)」
シェリー以上に恥ずかしがっているクロエは、なんとべそまでかいて頭をぶんぶん振って拒否した。
「こんなとこでそんなことしたら、恥ずかしさで死んじゃうよぅ!」
「なら天月くんがすればいいんです!」
「そんなことされたら、頭、フットーしちゃうよぉぉぉっ!」
その時、天月がクロエの横から離れるように歩き始めた。
「・・・おや?」
「・・・天月、くん?」
無言で静かに、ゆっくり、かつしっかりと数歩歩いた天月は、今度は立ち止まってくるりと身体を反転させ、大声を張り上げた。
「やぁやぁ遠からん者は音に聞け!拙者、生まれは東の国『日の本』!姓は緋夜、名は天月!古今東西に響く本校の名を耳にして、己を鍛えんがために来て早一年!ここに、我が一族に古くから伝わりし儀を模して、拙者が愛する黒姫に愛の文を綴らん!者共、静まれぇい!」
本当に遠くまで聞こえそうな大きく、針の通った声に、言葉の意味が一部わからずとも、会場全体がしぃんとなり、クロエも驚きの目で天月を見、舞は口を押さえながら静かにクロエから離れ、天月の視界から外れるように位置をとった。
「・・・会長、いえ、クロエ殿。拙者、少々緊張しております故、言葉足らず、滑舌悪し所がありましょうが、今から、拙者の貴女への想いを綴らせていただきます。最後まで、聞いてください」
「・・・はい」
天月のいつになく真剣な眼差しにクロエは相手が下回生であることさえ忘れ、丁寧な返事を返した。
天月は一礼し、言葉を続けた。
「クロエ殿。拙者、貴女が他に想う方が居る事、存じ上げております。
しかし、貴女はとても愛らしく、可愛らしげで、まるで鶯(ウグイス)のようなお姿をしており、拙者を春爛漫の真っ只中にいるような、そんな心持ちにしてくれます。
拙者、日の本の由緒正しき武家一門の侍と言えども男であります。俗世の欲を捨てた坊主と違い、人並みの、否、人一倍の欲があります。
お慕いする人の愛らしい姿や仕草を独り占めできたらどれほど幸福か。そんな思いを抱き、貴女がお慕う御人を見る度、醜く怨嗟の炎を宿しました。
貴女が彼の方に想いを向ける度に、拙者は悔しく、妬ましく、だからこそ振り向いてもらえるようにと尽力したつもりでありました。
しかし、拙者はこの歳まで色恋沙汰など蚊帳の外、剣一本に生きてきた猪侍でござる。まだまだ、男子としての修行が足りなかった様子。
せめて、せめてこの場を借り、我が心の音を伝えたいと、存じ上げます」
ジパングの外の世界からしたら、古臭く、辛気臭い、身体が痒くなるような文句。
しかし、彼を茶化すものは一人もおらず、観客も、舞も、さらに当事者のクロエも、これを一言一句聞き漏らさぬように、物音も立てずに聞いていた。
「拙者、不器用な人間でござる。
だからこそ、不器用な言葉ながらも、真っ直ぐに、貴女の心に伝え申す」
台詞はクライマックス。皆が固唾を飲み、天月が大きく息を吸い込んだ。
「・・・拙者は、貴女と人生を共にしたい!
貴女が自信をなくす時、拙者はそばで支えよう!
貴女が自分の悪し所を見つけたら、拙者は貴女の良き所を見つけよう!
貴女が道標を失うならば、拙者は貴女の道となろう!
ここで断られるも百も承知!!
男は度胸!当たりて砕けよ!!
心は表して意味をなす!!
クロエ殿!拙者は貴女をあべしっっっ!!?」
『メリィッ・・・』
「・・・黙れ、イモザムライ。クロエは、私の、嫁」
瞬間、ここまで、ここまで出来上がっていた空気が音を立てて崩れ落ちた。
天月の顔面に飛び蹴りがめり込み、蹴りの張本人であるサリスは、天月の顔を蹴って地面に降り立ち、本心から侮蔑している顔で、天月に言った。
『プッ、ツゥー・・・ーン』
そしてそれに加え、天月の中の何かも、ブチ切れた。
「おどりゃこの糞蟷螂がァァァッ!!!ワレェ首ィ跳ね飛ばして塩漬けにして日の本へ送った挙句野良犬の糞の足しにしてやるわボケがァァァッ!!!」
「いい度胸・・・コロシテアゲル」
「片腹痛ェんだよクソ女!貴様に明日の御天道様は拝ませねェッ!!今夜のお月様にお別れの挨拶しておきやがれェェェッ!!!」
瞬間、舞台の上で『森の暗殺者VS般若と化した侍』の一騎討ちが始まった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
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〜中庭〜
そして、夕方。
学校中庭では、後夜祭が行われていた。
出店の残り物があちこちで格安販売され、教師のイグニスが作ったキャンプファイヤーを囲って、多くの男女がダンスを踊っていた。
「やれやれ・・・えらい目に会いそうになったぜ・・・」
そんなダンスの輪や、出店の並びから外れた場所に腰を下ろしていたベルンが、安くなった売れ残り唐揚げを食べていた。ちなみに在庫処分を押しつけられたのか、山盛りである。
あの後、会場が大破、さらに観客にも被害が及んだためコンクールは中止。暫定的にフォン&シェリー夫妻が優勝(ある意味順当)し、商品である『一日温泉旅行券』をもらって終了となった。結果、ベルンは告白せずにすんだのである。
「ま、あんな場所で告白なんて、逆立ちしてもできねーしな・・・」
「あら、それはベルンくんは私のことを好きではない・・・ということかしら?」
唐突に背後から聞こえた声にドキリとして、ベルンはゆっくり振り返った。
「・・・クラリア」
「あーぁ、ショックですわ。まさか、ベルンくんに嫌われていたなんて・・・」
クラリアはもう明らかに演技だろうと分かるくらい分かりやすく、よよよと泣き崩れるフリをした。しかし、これでも心配するのがベルンのいいところであり、悪いところだ。
「い、いや、違うって。そういう意味じゃねぇから」
「ぐすん・・・本当?」
「あぁ」
「本当に、本当ですの?」
「もちろん」
「なら今私に告白してくださいな♥」
うっ、とベルンは言葉が詰まる。
クラリアはしめたとばかりにニヤニヤ笑い、ベルンはやってしまったと頭を抱えた。
しかし、クラリアはベルンを見つめ続ける。ベルンはふぅと一息吐き、言葉を紡いだ。
「・・・入学から長い間、お前と付き合って来た。
時には無駄話したり、時にはサティアと喧嘩したり、時には一緒に冒険したり、時には日曜とかイベントで遊んだり。
笑って、怒って、泣いて・・・安っぽい映画のセリフみたいだけど、事実だもんな。楽しかったよ。
そんな中、俺は・・・ロックやネフィアを除いてだけど、たくさんの女の子と・・・あー、えと、遊ぶ、とか、勉強するー、とかさ。色々やったんだよ。
そんなかでお前は・・・俺の弾丸作りとか、攻撃補助とか、錬金術教えてくれたり、買い物に付き合ったりさ、色々やったよ。
だから・・・ほら、その・・・えーと・・・」
なんと言えばいいか分からない。
そうやって悩んでいるベルンの鼻を、クラリアの指がチョンとつついた。
クラリアは頬をふくらませ、不満げな顔をしていた。
「・・・へ?」
「酷いですわ、ベルンくん。そこでスパッと、『好きだ』『愛してる』って言ってくれないと」
「あ・・・えと、すまん」
しかし、すぐさまクラリアはニコリと笑い、ベルンの前に立った。
「で、も。そこが貴方の素晴らしいところ。
優しくて、誰も傷つけないように必死に考えるところ。
私が魔界の社交界で会った口の軽い男達は、私を褒めちぎり、私のご機嫌をとり、私がどう思うかなんてこれっぽっちも考えてくれない。要はどう煽ててエッチに持ち込むか。それだけ。
でも、貴方は違う。軽率に『好き』って言って、私に不快感を与えないよう、でも、私が貴方にとって大切なんだよと、伝えようとする優しさ。素晴らしいわ♥」
クラリアの満面の笑みの話に、ベルンは頭を掻いた。
「・・・えらい褒めるな」
「なにを?貴方を?それとも私自身を?」
「両方・・・かな。俺がそんな立派な考えしてると思ってることと、俺にとってクラリアが大切だって明言してること」
「貴方の今の態度を見て、それ以外に考えられませんもの。第一、外れてないでしょう?」
「それは・・・まぁ・・・」
ベルンは頭を掻きながら目線をそらした。すると、クラリアはまたニコリと笑い、こう続けた。
「貴方は嘘がつけないひと。
優しくて、正直で、側にいるだけで心が暖かくなる人。
だから、私は貴方が欲しい。
女が男に惚れる理由は、案外単純なのよ?
いずれ貴方が『えーと』って言わず、すぐに私に『好き』って言ってくれるようになるまで、『貴方の』プロポーズは待つわ。
じゃあね、ベルン・トリニティ・・・私の愛しい旦那様♥」
ウインクとセットに、チュッと投げキッスをひとつして、クラリアは尻尾をゆらゆら揺らしながら、ダンスの輪に向かって行った。ただし、彼女は友達であろう魔物娘の手をとっていたが。
ベルンは、しばらくボーッとしてから、ハッとして顔を赤くし、頭を掻きむしった。
「・・・ちくしょ。女にプロポーズされるなんて、カッコつかねぇ・・・」
ベルンは、側にあった唐揚げの山をやけ食いし始めた。
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〜屋外舞台、崩壊跡〜
「・・・なんで俺だけなんでしょうか?」
舞台の瓦礫を撤去しながら、監視しているリーフに天月が問いかけた。
「決まっている。破壊したのがお前とサリスの二人だからだ」
「・・・じゃあなんでサリス先輩がいないんですかね?」
「お前の一発をもらって、休んでるからだ」
「・・・俺、身体中切傷だらけなんですけど?」
「つべこべ言わずに手を動かせ、緋夜 天月」
「・・・すいません」
素直に作業を続ける天月。すると今度は、リーフが口を開いた。
「・・・妨害、及び、破壊行動さえ無ければ、私はお前に満点をつけてやるつもりだったんだがな」
「・・・なんですか?俺の恋路を応援するつもりなんですか?」
「無論。そのつもりだ」
すると天月が手を止め、瞬間に手にしていた木の角材をリーフに投げつけた。
リーフは素早くよけ、角材はカランカランと音を立てて転がった。
「・・・貴様、正気か。リーフ・ライアー」
「・・・それが素か、緋夜」
「拙者は知っているんだぞ。貴様が、クロエ殿の恋心に・・・貴様を好いている事実に気づいてることを・・・」
「教師に向かって敬語抜きとは、感心しないな」
「何故踏みにじる?何故焦らす?彼女をこれ以上何故悩ます?」
「聞いているのか?緋夜 天月?」
「質問しているのは此方だッ!真面目に応えよ!」
青年とは思えぬ覇気、怒号。憤怒に満ちたその目は、リーフに明らかな敵意を向けていた。
しかしリーフは冷静なまま、訊いた。
「お前は私がクロエの恋を悲恋にすることを願っているのか?絶望に打ちひしがれた彼女を救って、改めて真の恋人か?三流の恋愛小説じゃあるまいし、馬鹿馬鹿しい」
「・・・それは・・・」
「お前は私に彼女を受け入れろと言うのだろう?だがな、私には私の事情がある。端的に言えば、私の恋路がな」
そこで「自分勝手な!」と言うことは、天月にはできなかった。今やっているこの行為こそ、天月自身の自分勝手だからだ。
「・・・緋夜。お前の愛の深さ、真摯さ、真っ直ぐさは、今日のアレで十二分に分かった。
ならば、彼女の中で私を超えろ。
彼女が自然と私を諦め、お前を愛したなら、それは悲恋ではない。きっと、それこそ真の幸せだ。
無論、私の一言で彼女を諦めさせるのは・・・いや、簡単ではないかもしれんな。魔物だからな。
そして、魔物だからこそ、心の傷は深くつく。人間ほど短命でない彼女らは、その傷をいつまで持つ?
100年?200年?もっと長いかもしれない。
・・・私は盗賊で、臆病だ。
人が傷つくことを何よりも嫌う。
だから、私は彼女に何も言わない。何もしない。
・・・彼女が私に告白してきたなら、私は初めて口を開こう。
だが、それまでは、お前の時間だ。
いつか分からぬそのタイムリミットまでに、お前の手で、私をねじ伏せろ。彼女を奪え。
・・・お前は立派な侍だ。
自分が傷つくことを、我慢できる人間だ。
少なくとも、それは私にはない。
・・・頑張れよ。それだけ、言っておこう」
するとリーフは身を翻し、天月から離れていった。天月は、しばらく呆然と立っていたが、すぐに作業を再開した。
(・・・あぁ言っていたが、できるだろうか・・・拙者に、そんな大業が・・・)
その時、パキリとなにかを踏む音が聞こえ、天月はそちらを見た。
「・・・会長?」
「あ・・・お疲れ様。あのね、後夜祭の、唐揚げとか、買ってきたの。食べる?」
クロエは、売れ残りの唐揚げやチヂミやらが盛ってある皿を差し出し、にっこり笑った。
「・・・もちろんですよ!会長が持ってきてくれたもんなら、残飯でも犬の餌でもハイイロアンデットナゲキタケでもなんでも食べますよ!!」
「そんなもの持ってこないよ!?」
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ちなみにロックは、三日ほど寝たきりになった。
「なんで俺こんな扱いなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
作者イメージで東鳩2の主人公の親友キャラ以上の貧乏くじキャラという設定だから。
13/01/12 03:10更新 / ganota_Mk2
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