11月中旬『文化祭・午前の部』
リクラスト学園。
ここは、冒険者を育てる場所である以前に、ひとつの学校である。
そして、秋。
学校でのフラグ建設一大イベントが行われようとしていた。
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『・・・さて、本日は、我がリクラスト学園の学園祭、「旗立祭」である。
日々毎日を冒険に費やし、疲弊した肉体と精神を、本日ゆっくり楽しく休ませて欲しい。
・・・あわよくばこういうイベントでフラグを立ててしまえばいいのではないのかな?』
放送で聞こえる校長の気さくな開催宣言のジョークに、生徒たちがドッと笑った。
「やれやれ。あの人が終始真面目な演説やることは一生ねぇのかな」
「変に長々語られるよりいいだろ」
「あははは・・・」
ベルン、ロック、ネフィアの三人は、小さくしゃべりながら聞いていた。彼ら三人は何の出店にも参加していないため、フリーな状態だった。
『さて、長々話しているといつまでも始まらない。私も出店周りをしたいからな。
では・・・ここに、旗立祭を開催することを宣言する!』
校長の言葉を皮切りに、あちこちで出店の売り子の声が上がり始めた。料理のいい匂いが漂い始めたり、さっそくゲームが始まっていたりしている。
「・・・じゃ、俺たちも行くか」
「おう」
「はい」
ベルンたち三人組は、ぶらぶらと色々と回ることにしていた。ロックは可愛い子目当て、ネフィアは、一人になりたくなかったからだ。
「・・・ところでベルンさんは、どこかから応援呼ばれたりしなかったんですか?手先器用なのに」
「あー・・・それは、断ってた。俺が手伝うと大惨事になることがあるからな」
「?」
ネフィアが首を傾げると、ロックがネフィアに耳打ちした。
(ベルンは器用だけどよ、なぜかトラブルが起きるんだよ。ひどい時は出店の柱が折れたりとか、調理用具がブッ壊れたりよ・・・それを気にしてんだ)
(・・・筋金入りの不幸体質ですね・・・)
「・・・聞こえてんだけど」
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三人がまず向かったのは食事ができる出店が立ち並ぶ『出店ロード』である。たくさんの匂いが漂い、朝食を食べていない三人の腹はすぐにくぅくぅと音を立てた。
「どうする?なに食う?」
「出店って大概高いからなぁ・・・その中でガッツリ食えるものってなかなかないよな」
「唐揚げとかチヂミとかありますけど、量がコップ一杯分とかお皿に小盛り程度ですもんね」
それでも雰囲気に酔って買う人が多いため、店の良し悪し判別は難しかった。そこで店を巡って見ていたとき。
「お!おーい、そこの旦那さん方!うちんとこで蕎麦食うて行きー!」
聞き覚えのある声に呼ばれ、ベルンたちはそちらを向いた。
「あ、茜先輩」
「いらっしゃ〜い。ベルン坊や、蕎麦食うていき」
「う〜ん・・・いくらですか?」
「安心し。通常100Gなのを80Gにまけたるから」
「それでもミニマムコック(一番安い拳銃)より高いんすか・・・でも、まぁ、じゃあ、いただきます」
「あ、じゃ、俺らももらいます」
「あ、アンタらはまけへんよ」
「げぇ・・・」
「あはは・・・」
茜がキリッとしてロックに言う。ベルンだけまけてもらい、280Gを払うと、しばらくしてからホカホカと湯気をたてる温かい蕎麦が出てきた。
そして、三人は固まった。
「・・・茜先輩、なんすか、これ」
「ちょんぼこ蕎麦」
その中身は、温かそうな蕎麦の上にぶっといソーセージとそれを挟むように半分に切られた味玉、そして、それらがくっつく部分にワカメが添えられていた。
それはまるで・・・
(((・・・まるっきりチン◯コじゃねぇか)))
悪い冗談なのか、それとも天然なのか。ネフィアは頭をおさえ、ベルンはそそくさと見た目の配置を変えていた。
そこでハッとしたのは、ロック。バッと横を見て、同じ蕎麦を食べてる女の子とアマゾネスを見た。
「はふ、あふ・・・あつ、おっきいね、これ」
「そうだな。なかなか・・・じゅるっ、じゅぞぞっ」
女の子は猫舌なのか、ソーセージをぺろぺろ舐めて熱さに舌を引っ込め、また舐めてを繰り返す。アマゾネスは、蕎麦の汁を啜っているのだが、ソーセージを咥えて音を立てている。
(お、おぅ・・・これは・・・グッドだ!)
このとき、ロックは相当下心丸出しな表情をしていたのだろう。ハタと気づいたアマゾネスがロックを見て、自分が咥えているソーセージを見て、イラッとした顔をした瞬間。
「・・・ふんっ!」
『ぶちぃっ!!!』
「ッ!?」
「んぐ、むぐ・・・」
『ぶちりむちり・・・』
アマゾネスはソーセージを噛み切り、わざと口を閉じずに見せつけるようにソーセージを食べた。対するロックはキュッと股を閉じ、顔を青くしていた。
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「結構ボリュームあったな」
「見た目はアレでしたけど、美味しかったですね」
「・・・噛み切られた・・・」
ロックだけテンションだだ下がりな中、ベルンたちは出店ロードを離れて校舎内の店に入ろうとしていた。
「どこに行きます?」
「う〜ん・・・ロック、お前、なんかチェックしてたとか言ってなかったっけ?」
ベルンが聞くと、ピクリと反応したロックがテンションを戻し、キリッとした表情でドヤ顔した。
「おぅ!調査に調査を重ね、誰がどこの店で何をしてるのか、この手帳にメモってあるぜ!(ドヤァ」
「・・・うざっ」
「あはは・・・」
じとーっと睨むベルンと乾笑いするネフィアを置いて、ペラペラとロックが手帳をめくった。
「俺が行きたいのはB組教室だな。食後のデザートがてら、喫茶店に行こう」
「デザートぉ?えらいガキっぽい理由だな」
すると、ロックが指を揺らしてチッチッチッと舌を鳴らした。
「甘いな、ベルン。デザートだけが理由なんてお子様だぜ?」
「え?じゃあ、なにかあるんですか?」
ネフィアが聞くと、ふっふっふっと笑ったロックが、ぐっと拳を突き上げた。
「喫茶は喫茶でもッ!なんとメイド喫茶なのさッ!!しかも指名制で、サティアちゃんとクラリアさんがいる!!これはいかざるをえないだろう!!!」
「・・・あの子がメイド喫茶?」
「なかなか思い切ったねぇ、サティア」
そのとき。
ベルンでもネフィアでもない、男女の声が聞こえた。先に、意外そうに驚いた女性の声。続いてほんわかした男性の声。
ネフィアは頭に?を浮かべ、ベルンとロックはドキリとして、そちらを振り返った。
片や、ぺたんこ胸の前で腕を組んだメドゥーサ。
片や、ニコニコ微笑む隻眼の男性。
このふたりを見たベルンとロックは目を白黒させ、名前を叫んだ。
「ふぉ、フォンおじさん!?」
「シェリーおばさんまで・・・っ!?」
「久しぶりだね。ベルンくん、ロックくん」
「元気だったかしら?」
ニコニコ笑って挨拶をする『フォン・ウィーリィ』に、少し微笑む『シェリー・ウィーリィ』。このふたりが、サティアの両親である。
さて、フォンという名前にはもうひとつ肩書きがある。ネフィアが目をパチクリさせ、尋ねた。
「・・・あの、失礼ですが・・・もしかして、冒険作家の、フォン・ウィーリィ先生?」
「ん・・・僕のこと、知ってるのかい?恥ずかしいなぁ・・・あんな拙い本を読んでくれてるのかな?」
「いえ!拙いなんてそんな・・・冒険者を目指すものとして、参考文書にさせていただいてます。感覚的な特徴が詳しく書かれていて、読んでるだけで情景が感じ取れるフォン先生の作品は素晴らしいと思います!」
「あ、あはは・・・生の感想を聞く機会は設けないんだけど・・・恥ずかしいね、こりゃ・・・」
照れて顔を赤くしながら頭を掻くフォン。その横にいるシェリーに、ベルンが訪ねた。
「おばさんたちは、どうしてここに?」
「ん・・・ベルンくんの親御さんに文化祭の日取りを教えてもらったの。サティアったら、私たちに教えなくて・・・」
(そういや手紙で一応日時は送ったっけ・・・『忙しくて行けない』って返事が来たけど・・・)
「で、フォンがこの辺りの地域にあまり来たことなかったから、仕事関係なく来てみようってなったの」
シェリーがそこまで言うと、褒めちぎるネフィアから逃げるようにフォンがロックに話しかけた。
「あ、あぁ、そうだ。ロックくん。喫茶店でおごってあげるから、サティアのいる喫茶店に案内してくれないかい?」
「マジすか!?もちろんいいですよ!さ、行きましょう!2階ですよ!」
奢りと分かると、ロックはさらにテンションを上げ、意気揚々と案内を始めた。
「あの野郎・・・現金な野郎だ」
「あはは・・・ベルンくんも、えーと、君もおごってあげるよ」
「え?いいんすか?」
「そんな、悪いですよ」
「あはは。大人の好意を無下にしないで欲しいな。ね、シェリー?」
「フォンは遠回しにサティアにお小遣いあげたいだけだものね」
「・・・目が怖いよ?シェリー?」
シェリーが不機嫌になり、フォンがなだめるのを見て、ベルンとネフィアが少し笑った。
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[メイド喫茶『プリティ・メルティ』]
「あ、いらっしゃいまぶふぉあっ!?」
お客を迎えようと営業スマイルで出てきたサティアは、盛大に吹き出してしまった。
「いよう!サティアちゃん!メイド服可愛いね!」(ロック)
「よぉ・・・きったねぇな。客に向かって吹くなよ」(ベルン)
「ど、どうも」(ネフィア)
「マナー悪いわよ、サティア」(シェリー)
「やっほー、サティア。ひさしぶり」(フォン)
「ななななな、なんでママとパパがいるの!?」
サティアは完全にテンパり、髪の蛇たちもワタワタして身体全体で驚きを表していた。
ちなみにサティアのメイド服は紺基調のロングスカートタイプで、露出が少ない代わりに身体にぴったりそっているため、大きな胸が強調されていた。
「ベルンの親父さんから日取り聞いたんだってよ。さっき会った」(ロック)
「というかサティア。文化祭があることまで私たちに秘密にしてたでしょ・・・アンタって子はぁ・・・」(シェリー)
「いひゃいいひゃいいひゃいぃ・・・ごめんなひゃいぃ(痛い痛い、痛いぃ・・・ごめんなさいぃ)」(サティア)
シェリーがサティアの頬を伸ばして怒っていると、奥からクラリアが出てきた。
「ちょっとサティアさん?なにをしてるの?お客さんを待たせちゃ・・・あら、ベルンくん♪」
「おぅ、クラリア」
クラリアは、サティアと違い、膝上10cm近いミニスカに、胸元の開いた露出の多いメイド服を着ていた。もちろん、羽を出すように背中までぱっくり開いた魅了用とも言っていい服だ。
クラリアはベルンを見つけるとベルンの腕を抱え、ぐいっと引っ張った。
「さ、ベルンくん。席へ案内するわ♪」
「え、おぅ・・・」
「ちょ!待ちなさいよ!私が案内するのよ!」
慌ててサティアがベルンの腕を抱え、引っ張る。対するクラリアも笑顔のまま力を緩めない。
「あらあら、無駄話をして油を売ってたサティアさんに案内させる権利はないわよ」
「あっちこっちで色気振りまいて無駄に注文させて遠回しにぼったくるあんたが案内なんてしなくていいでしょうが!」
「貴女の素人接待のマイナス分を補ってるといってくださいな!」
「ちょ、ま、二人とも引っ張るな!腕が千切れいだだだだだだだだ!?」
始まったベルン争奪戦に、周りのメイドたちは「またか」とため息を吐いた。
「・・・ベルンこの野郎・・・」
「ろ、ロックさん?怖いですよ?」
ロックはいつも通りにベルンに嫉妬の憤炎を燃やし、ネフィアは軽く引いていた。
「・・・ふむ」
そのとき、フォンは顎を掻いて小さく頷いていた。ハッと気づいたサティアが、バッとフォンの方へ向き直り、まくし立てた。
「ちっ、違うのよパパ!?別にベルンをどうこうってわけじゃなくてこのサキュバスに取られたくないとか考えたんじゃなくて私がサボってるとか思われたくないからでいやあのベルンが嫌いだとかじゃないんだけどいやあの私なに言って・・・」
その瞬間、サティアの手の力が緩み、ベルンを離してしまう。でもクラリア力を緩めてないのでぐいっと引っ張られて・・・
「あ!」(ロック)
「あ・・・」(ネフィア)
「お」(フォン)
「ッ・・・」(シェリー)
「へ?」(サティア)
一同が声を上げたとき、ベルンの顔がクラリアの顔に近づき、その唇が・・・
「あ・・・」(やべ、避けれなっ・・・)
(ベルン)
「あ・・・」(き、キターーーーーーッ!)
(クラリア)
唇が、触れ合おうとした、その瞬間。
『シュルンッ!ビシィッ!』
「うげぇっ!?」
「・・・へ?」
ベルンの首に尻尾が巻きつき、ぐいっとクラリアから引き剥がされるように離れた。
「危なかったわね、ベルンくん。女の子の顔を傷つけちゃダメよ」
「いや、あの、すいまぜん、ぢがら緩めでくだざい、おばざんんんん・・・」
なぜかギリギリと首を締め上げるようにしてベルンを叱ったシェリーは、チラリとサティアを見て、口パクをした。
(しっかりしなさい、おバカ)
「・・・え、あ、うん・・・」
ちなみに、クラリアはポカーンとしていたが、状況に気づくと周りに聞こえないように舌打ちした。
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さて。場所が変わって出店ロード。
ここでは、人通りも多い上に出店側のマナーや場所取り問題、客によるいちゃもんつけなど、トラブルも起きやすい。
そこで、生徒会による定期的巡回が行われていた。
「ま、言うほどトラブルなさそうだからいいですけどね」
「・・・トラブルあったら、よろしく」
今、生徒会員庶務の天月と副会長サリスのふたりが巡回をしていた。大きなトラブルもなく、出店側に軽い注意喚起(出店の場所取りすぎや、キャッチャーみたいなことするななど)で済んでいるのが現状だった。
「・・・つーかなんで貴女と俺がペアで見回りなんすか。他のメンバーいたでしょ、ドラゴンの先輩とかケンタウロスとか」
「みんな私と組みたくないらしいの。ま、私がずっと黙って仕事やるせいだけど」
「問題点分かってるなら改善してくれませんかねぇ!俺だって貴女とくみたくねぇーっすよ!会長以外拒否!!」
「クロエは今日非番。それくらい覚えろ鳥頭」
「知ってるわいそれくらいぃーっ!」
見回ってんのか、騒いでるのか分からないペアである。ちなみに彼らは午前のみの仕事であり、クロエは普段働きまくっているので、リーフの気遣いで本日はオールフリーである。
「くっそ、ムカつく・・・会長の愛くるしい御姿を拝見せねば解消されん・・・」
「私も同意見・・・あ」
「ん?なんすか?トラブルっすか?」
サリスがポツリと言った「あ」に反応した天月。
サリスは、なにも言わずに指をさし、天月もそちらを見た。
指の先には、クロエがいた。
りんご飴を舐め、もう片手にチヂミの乗ったプラ皿を持ち、満面の笑みを浮かべながら、ご機嫌な様子で歩いていた。
『・・・Good』
天月とサリスは二人で右手の親指をぐっと立てた。
ふと、クロエが足を止めた。
彼女の視線の先には輪投げ屋があり、可愛くデフォルメされた熊さん人形が陳列されていた。
「・・・やるんですかね」
「・・・やると思うわ」
クロエはチヂミの皿の隅にりんご飴をおき、輪投げ屋にお金を払った。輪を貰うと、クロエは一生懸命に輪を投げ始めた。標的はやはり、熊さん人形。
ところが、輪は一個も入らず、クロエはしょんぼりしてしまう。
「・・・(;ω;)」←クロエ
『・・・Cute』
輪投げ屋をしている生徒が申し訳なさそうにするが、クロエはぺこりと一礼してまたりんご飴を舐めながら歩き始めた。
クロエの背中を見送りながら、二人は口を開いた。
「・・・会長、一人では危ないっすね」
「・・・私が見張るから、貴女は見回りを続けなさい」
「いやいや、なに言ってるんですかサリス先輩。そんないつ終わるか分からない仕事、後輩に任せてくださいよ」
「無理。不可。却下。お前はさっさと見回り終わらせて一人寂しく学祭回れば?」
「先輩こそ、仕事終わらせてぐーすか寝てればいいじゃないですか。いっつも寝こけまくってんですから」
『・・・・・・』
数分後、『生徒会員ふたりが暴れている』とリーフに連絡が入り、リーフが頭を抱えたのは、別のお話。
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〜校庭、屋外舞台裏〜
「大変ッス、先輩!」
「どうした、後輩?」
「『イケメンコンテスト、ドキッ☆胸キュンもあるかもね!?』の出場者と審査員が、みんな風邪やら二日酔いやらなんやらで来れないって言ってるッス!」
「なっ、なんだと!?午後の目玉イベントだぞ!?」
「ど、どうしましょう!?」
「ど、どうするったって・・・中止にするしか・・・」
「話は聞かせてもらった!」
『こ、校長先生!?』
「そんな面白おかしそうなイベントを潰すとはもったいない!私と、行事開催執行委員がなんとかしようではないか!」
「本当ッスか!?」
「ありがとうございます!」
「代わりに・・・私も審査員になっていいかな?」
(午後の部へ続く!)
12/11/09 11:19更新 / ganota_Mk2
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