連載小説
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10/30、『ハロウィンデー』


『あ、あー・・・んっ、んー!
おはよう諸君!朝早くから呼び出して済まないが、休日だからと言って昼まで寝るつもりだったものが大半だったと思うから、早起きさせて健康指導と思ったほうがいいかな!ハッハッハッハッハッ!』


早朝。リクラスト学園の校庭に、学園生徒が全員集められ、朝礼となっていた。

「く・・・昼まで寝ようと夜まで遊んでるんじゃなかったな・・・」

「ね、眠たいですね・・・」

「・・・zzz」

ベルン、ネフィア、ロックは部屋で一晩中遊んでいたため、非常に眠たそうにしていた。というか、ロックは立ったまま寝ていた。
なお、リクラスト学園の朝礼は自由整列のため、遅刻ギリギリで集まった彼らの周りには知り合いがいなかった。


『さて、諸君!本日は何の日かわかるかね?分かる者は手を上げよ!』


校長の拡声器を通した声に、大勢の生徒が手を上げていた。

「・・・ネフィア、分かるか?」

「ご、ごめんなさい、分からないです」

「Zzzz・・・」

手を上げていないのはベルンたちの他、一回生ばかりだった。


『うむ、やはり分からん生徒もいるようだ。では、教えよう。

・・・本日はッ!
【Love or Treat !!! お菓子をくれなきゃ襲ってよし!リクラスト学園ハロウィンデー】ェェェェェェッ!!!


イエェェェェェェェェェェイ!!!


校長の声に歓声を上げたのは、上回生の魔物娘たちだった。
ベルンたちは周りにいた上回生が大歓声を上げたことに驚き、ロックも跳ね起きた。

「ぬぉわっ!?なに!?なに!?」

「み、耳いってぇ・・・」

「あ、頭がガンガンします」


『説明しよう!リクラスト学園ハロウィンデーとはッ!
ハロウィン・・・それは本来、小さな子供が可愛い仮装をして「お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞ!」という文句をお供に家々を回り、お菓子を集めるイベントであった。
だがしかし!願わくば秋だろうが関係なく春でいたい君たち生徒諸君にとっては、このハロウィンさえ告白イベントに消化してしまいたいだろう!だがしかし!それを簡単に許容してしまっては、本日は魔物娘or過激な男子による無理やりの告白and無理やりベッドインになる可能性も無きにしも非ず!あまりにも風紀が乱れてしまうことは私も控えたい!

そこでっ、毎年、リクラスト学園ではハロウィンにルールを決めている!これを守って、ハロウィンに望んでいただきたい!』


校長の声に、ベルンはため息を吐き、ネフィアは苦笑いをした。

「まーた始まったよ、あの校長のお騒がせイベント」

「あ、あははは・・・」

「・・・fm」

ところがロックは、とても興味深そうに耳を傾けていた。


『ルールを説明しよう!

まず本日、男子は昼間のうちに街や学校内でお菓子を買うこと!「逆レイプばっちこい!」という猛者は買わないでもいいぞ!
女子は、夜の聖戦のためにおめかしをしておきなさい!あ、人間の女子は仮装すること!ムード壊れるから!

さて、昼間にやってはいけないことを伝える!
ひとつ!男子は女子に「〜時に来い」と指定しないこと!
ふたつ!女子は男子の買ったお菓子の量を調査しないこと!
みっつ!夜まで待たずにヤらないこと!

これだけだ!禁止行為を行った者は、イベント参加に対するペナルティを生じさせる!

さて、では夜・・・イベント開始の21時からの説明だ!
21時を皮切りに、本日、女子は男子の部屋に向かってよし!
そして、男子が扉を開けたら、「Love or Sweats!」と言うのだ!
もしお菓子をもらったら、文句を言わず退散すること!
もしお菓子をもらえなかったらお持ち帰りしてよし!!!


校長の言葉に、一回生たちがザワザワし始めた。マジ?とか、いいの!?とか、困惑と歓喜の声が入り混じっていた。


『ここで、男子には選択権がある!
相手が好きでない、もしくは、本命が他にいる場合には、お菓子を渡してやればよい!
本命が訪ねてきた場合には、お菓子があっても渡さなくてよし!
つまり、女子のプロポーズを受けるも蹴るも、すべて男子の判断に任されるのだ!』


『げぇーーーーーーっ!?』


瞬間、一回生男子たちの叫び声が木霊した。プロポーズを蹴るなどという、鬼畜所業をやらねばならないかもしれない可能性があることがいやなのである。


『・・・まぁ、彼女のいない男子諸君にプロポーズを蹴る度胸があるとは到底思えんが、無理やりの逆レイプを防ぐルールだ。我慢してくれたまえ。


た、だ、し・・・もし、お菓子のない時に女子が来たら・・・強制お持ち帰りルートなので、気をつけるように。居留守は却下だからな!


・・・大まかな説明は異常である!!では、解散っ!』


校長の最後の言葉が響いた途端、多くの女子たちが慌てて走って行った。おめかしのためであろう。
ちなみに、男子にも走って行くものがいた。おそらく彼女or本命持ちで、彼女以外の女子が来た時対策にお菓子を買いに行くのだろう。

さて、ベルンたちはというと・・・


「おい、ベルン、ネフィア。お菓子買いに行こうぜ」


ロックが真面目な顔で、ベルンとネフィアの肩を掴んで言った。

「・・・はぁ?」

「特にベルン。お前は大量に買え。買いまくれ」

「・・・なんでだよ?」

「俺を差し置いてお前を彼女持ちにしたくねぇからだよこの唐変木!!」

「・・・は?」

ほらこれだもの!!!

ロックの叫びに、ベルンは首を傾げる。そこでネフィアがおずおずと切り出した。

「あの・・・僕は、買いに行きますよ?」

「へ?そうなのか?」

「ネフィアはお姉様系に人気があるからな・・・お前らホント氏ねよ・・・」

ボソリと言ったロックの言葉に反応したのは、意外にもネフィアだった。


「・・・毎日授業で複数の女性の板挟みになり何かとこじつけられて公衆の面前でズボンずり下げられそうになったり気づいたら枕元に立たれてたり知らず知らずのうちにパンツなくなってたり一日一通毎日手紙をもらうような立場が羨ましいんですか、ロックさん?」


「すんませんでした」

ロックと、無関係なベルンも何故か、土下座していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


さて、あっという間に夜。
ベルンの部屋には、山盛りのお菓子があった。山盛りの

「・・・買いすぎじゃねぇか、これ?」

「お前のフラグ乱立からしたらこれくらいだ」

「菓子だけでウン万使ったぞ」

「ワリカンだからいいじゃねぇか」

「良くねぇよ!!」

さて、そんなバカ話をしながら待っている二人だが、しばらく経っても、誰も来てなかった。

「・・・つーか、来ないじゃねぇか」

「どうせすぐ来るって。お前目当てでな」

「んなバカな。ここに来そうなのは・・・サティアくらいじゃねぇか?菓子目当てで」

「・・・お前ホンット鈍感だよな」

「・・・は?」

「なんでもねーよ」

ハァ、とため息を吐くロックに首を傾げながら、ベルンは玄関に向かった。

「ん、ベルン、どうした?」

「いや、ちょっとロビーでジュース買ってこようと思ってな・・・」

そして、ベルンは軽い気持ちで玄関のドアを開けた。


『ガチャ・・・』



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

言うなれば、まさに、そこは・・・

戦場ッ・・・!

乙女の、想いと、誇りと、決意・・・
それらが渦巻き、混沌を極める・・・

大戦場ッ・・・!!

さぁ、乙女たちよ。
競え。
争え。
戦え。

愛する者に『Trick』するためにッ・・・!!!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『ドガガガガガゴガガガガガガゴガッ!!!』

そこにいたのは二人の拳士ッ!
ふたりのラッシュは残像を無数に見せ、しかしお互いが本体に攻撃できないまま、ラッシュの早さ比べのように、お互いの拳をぶつけ合っていた!!

「アンタいい加減にしなさいよクラリアァッ!こんなときくらい譲る精神はないのかしらね!?上級魔族が聞いて呆れるわ!」

「幼馴染のステータスがあるからって調子乗らないでくれます!?上級だろうが下等だろうが譲れませんのよ!というか貴女の方が遠慮なさったら!?それの方が可愛く見えますわよ!少しは!マシに!

「なんですってゴラァ!!冒険家の娘舐めんなァッ!ボディに入れて立てなくしてやるッ!!

「そちらこそ!顔を腫らして余計みっともなくして上げますわ!!

『ギャガガゴカガガガキガガガガガ!!』

二人のラッシュに割って入る者はいなかった。いや、入れなかったのだ。


なぜならば。
他にも争いがあったからだ!


『シュバババババッ!』
『パシシシシシッ!』


迅速の槍の応酬を、彼女は両手でいなしていた。そのいなしで一瞬の隙を作り出した瞬間、彼女は一歩踏み出し、掌底を繰り出す!

『ドゥンッ!』
『ゴガァァァァンッ!!』


重い、重い一歩の踏み込みと共に繰り出された掌底は、相手の盾に防がれて重々しい振動音を作り出す。

「ふっ・・・ふっ・・・成美ちゃん?そろそろ諦めない〜?」

汗をかき、息を荒げながらもニコリと笑うミルキィが言うが、対する成美は顎肢をガチガチ言わせながらゆらりと構える。

「兄様ハ渡サナイ兄様ハ渡サナイ兄様ハ渡サナイ兄様ハ渡サナイ兄様ハ渡サナイ兄様ハ・・・」

「だよね〜・・・だったら、私も、本気でいくよ」

珍しくキリリと引き締まった顔をするミルキィ。
心を修羅かなにかに取り憑かれた成美。
ふたりの戦いもまた、終わりそうになかった。


『ギャドラララララララララ!!!』

けたたましい連射音が炸裂する。壁に弾痕が帯になり、それを華麗に避けるエルフがひとり。

「こんっ、のっ!当たれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

炸裂音を爆発させるガトリングガン『デスマスィーン』を空中から撃ちまくるベーゼが絶叫する。それに対して避けるシルクが、避けながらも矢を打つ。

「ていっ!」

『シュパパパン!』

「チィッ!」

ぐいっと首を傾けてベーゼが紙一重で避ける。壁に矢が刺さり、ビィィンと音を鳴らす。

「こんの、チョコマカとぉぉぉっ!!!」
(もうサティアも関係ない!決めるのはベルンくんだ!アタシはアタシの恋路を進むんだ!!!)

「貴女の下手くそ撃ちには当たらないわよ!」
(なんであんな奴を狙うのがこんなに多いのよ!?でも・・・今回を逃したら、もう正直になれないかもしれない・・・私だって!やるときはやるのよっ!)

射撃組の攻防、いや、攻避は未だ終局を見せない。


『パパパパパパパパパパパパッ!』
『パパパパパパパパパパパパッ!』


さらに別組では、二丁のサブマシンガンが火を吹いていた。

『キュキキキキキキキキキキキィン!!!』

しかしサブマシンガンの弾はすべて、透明な氷刀の刃で弾かれていた。
サブマシンガンの音が止まり、氷刀の振りも止まった。

「・・・あらムート。ご自慢のオモチャは弾切れかしら?」

「違うよ〜。まだまだマガジンた〜くさんあるよ〜。雪華も、もう刀の刃がボロボロじゃない〜?」

「こんなの何回でも再生できるもの」

雪華が刀の再生を始めると、ムートも手早くマガジンを交換した。

「それにしても驚きね。ミルキィの幼馴染に近い貴女が、まさかあの子を気に入るとはね」

「雪華だって〜。坊やがミルキィ振ったら許さないとか〜言ってたよね〜?」

「ごめんなさい。過去は振り返らない女なの」

「あはは〜。あ〜くじょ〜」

『チャキンッ!』
『ガシャコンッ!』

緩やかな会話から、またもや銃剣の争いが始まった。



全員が、友人だったはずの人々が・・・
ひとつの目的のために、争う・・・

『彼』に、『Trick』を求めるために・・・


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『バタン』


「おう、おかえり」

「ただいま・・・ほい、ボコスコーラ」

「お、サンキュー」

ロビーから帰ったベルンは、ロックにもおすそ分けをして、床に座り込んだ。

「あ、そういえばさ、寮の外がえらくうるさかったぜ。銃声やら罵声やらあった気がする」

「なにそれ怖ぇ・・・つか、誰も来なかったな」

「ん〜・・・へ?『来なかった』?」

「ん。ほら、時計見ろよ」

ベルンが時計を見ると、時計は『12時3分』を示していた。

「『イベントは本日まで』っつってたろ?もう終わっちまった」

「あぁ〜・・・ちょっと待て!?じゃ、この山盛りお菓子、全くの無駄だったってことか!?」

「ギク」

「ギク、じゃねぇよ!お前、こんだけの菓子どうやって消費しろと!?」

「・・・あ、明日配る?」

「意味わかんねぇよぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ちなみに、寮の外では・・・


( °Д°)<女子の皆さん、12時を過ぎました。
( °Д°)<ハロウィンは終わりです。
( °Д°)<すぐに寮に戻りましょう。
↑生徒会の一般役員



『・・・・・・・・・・・・』(全員)



Σ( °д°)<ど、どうしました!?
Σ( °д°)<みんなボロボロじゃないですか!?
Σ( °д°)<保険委員呼びますか!?



『・・・・・・・・・・・#』(全員)



(;°д°)<・・・え?
(;°д°)<なんで、みんな武器を・・・
(;°д°)<ま、待ってください!わけが分からな・・・


・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・


<ギャアァァァ・・・



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12/10/26 18:22更新 / ganota_Mk2
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■作者メッセージ
<オマケ!>

男子寮の前での、激戦が行われてる脇では・・・


「・・・アレ、怖い・・・」(ラトラ)

「・・・シルクちゃん、頑張れ〜・・・」(ナナ)

「むぅ・・・ロックの部屋に行きたいんだけどなぁ」(フェラン)

「・・・先生が生徒の喧嘩に入るべきではないのです・・・我慢、我慢・・・」(ファ)


ロックに会いに行こうとした人々は、もれなく被害にあっていたとさ。ちゃんちゃん♪

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