見えない彼女は・・・
ーーーもう、生きていけない。 ーーー前に歩けば、崖から落ちるはずだ。 ーーー何度も来た場所だし間違い無い。 ーーー意を決して、一歩踏み出す。 ーーー危ないっ、そう、叫ばれた。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 朝だ。いつもの音が聞こえるもの。 ベッドからむくりと起き上がる。 枕元に立てかけてある杖をとる。これがないと何もできない。 コンコンと床やらをたたきながら、クローゼットに向かい、手探りで服を選び、着替える。 今度はキッチンへと向かった。ジュー、と肉を焼く音と、香ばしい匂いがただよう。 「シェリー、今日はベーコン?」 「わひゃい!?」 あ、驚かさせちゃった。いつもなら、早いわね、とか言うのに。 「びっ、びっくりさすんじゃないわよッ!ソーセージ落としそうになったじゃない!」 「あ、ソーセージなんだ。嬉しいな。」 「・・もぅ、さっさと座る!」 はぁい、と返事して、いつもの席に座る。 コトリ、カタンと二回音がして、皿が置かれたんだろうなとわかった。 「トーストと、スクランブルエッグ、あと・・・」 「ソーセージだよね」 「そ。さ、めしあがれ。あ、お皿はすぐ手元にあるから」 いただきます。ゆっくり手を伸ばし、トーストらしき感触の板をとって、かじった。口の中にバターの程よい塩味が広が・・・ 「・・・にぐぁい」 「端っこ!焦げてるの端っこだけだからッ!」 あはは、やっぱり。何故かシェリーはトーストをよく焦がす。昔よりはマシだけど。昔は手にとっただけで・・・やめとこ。なんとなく。 次にスプーンを探して・・・ 「・・あ、あのさ、フォン!」 「ん?なに?」 急にシェリーが怒鳴るくらいの声で僕を呼んだ。 「えと、あの・・あんたさ、目が見えないでしょ?」 何をいまさら。そう言う間もなく、ていうかもはや息継ぎしてるのかってペースでシェリーがまくしたてた。 「いやあんたはもう目が見えない状態の生活も慣れてるだろうしこんなことしなくてもいや言わなくてもいいのかもしれないんだけどそれじゃ横でボーッとしてるアタシが馬鹿みたいというか親切心のないヤツみたいじゃんそんなのイヤだしさそれにここにいるのアタシたちだけだし今ならやっても恥ずかしくないし今ならやってみてもいいかなーっとか思っちゃったりかなっちゃったりなーんてアハハアタシ何言ってんのかなアハハハハ!」 「・・・」 とりあえず、シェリーが落ち着くのを待ってから、聞いた。 「・・で、何をやりたいの?」 「ハハハ・・え、アタシ、言わなか、った?」 言ってないよ。"こんなこと"がどんな事か全くわかんない。 なんかシェリーがゴンッて、たぶん頭を机にぶつけて(よくやる)、プシューってなんか音だしてる。(これも、よくやる) 「えっと、あの、・・・・・・あーん・・・・・・とか」 それから、シェリーが本当に蚊のなくような声でひねり出した言葉で、やっとわかった。 でも、ご飯まで作ってもらっといて、そこまではね。 「いや、気持ちだけ受け取るよ。ありがとう」 「えっ!?あ、う、うぅ・・・」 なんか言いたげだけど、とりあえずスプーンでスクランブルエッグらしいかたまりをすくって食べる。 口の中にわずかに甘みが広がり、ふわふわした食感とともに、僕を幸せにしてくれる。 「うん、このスクランブルエッグ、僕好みで美味しいよ」 「そ、そぅ?ま、適当に作ったんだけどね」 とか言う口調はなんかうれしそう。 ん、そういや、今、何時だろう? 「シェリー、今、何時くらい?」 「確か今日は砂糖を・・・え!?あ、えっとね、7時ちょっと」 そうか。7時ちょっとかぁ・・・ん? 「ね、シェリー、秒針、動いてる?カチカチって音が聞こえないんだけど」 「・・・へ?」 シェリーが一瞬沈黙。しばらくして。(たぶん時計を見て) 「アーーーーッ!?う、動いてない!?」 大絶叫。かなり耳にきたけど、僕はあわてず立ち上がって、机の中央の機械のボタンをおした。 『ピンポン♪今は、7時48分でっす♪』 「「・・・・・・」」 静かな時間が、わずかに流れる。 僕は、耳を塞いだ。 「キャーーー!?フォン!遅刻!遅刻するわよ!?早く!靴を持って、道具履いて!」 慌てふためくシェリー。ときたまあるこのドタバタ。また故障したなぁ、あの時計。てか道具と靴がごっちゃだよ、シェリー。 こうして、今日が始まる。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「フォン、ハンカチは?ティッシュは?杖なんかは大丈夫よね!?」 「僕より君が慌ててどうするのさ、シェリー」 アタシにとっては、どうしてフォンがこんなに冷静なのよっ!?今日こそ遅刻するかもしれないのにッ?! 「親方はそんなに厳しくないよ。あの人自身、ちょくちょく遅刻するんだから。一回くらい許してくれるさ」 もぅ、人を信用しすぎよっ!あぁもう、惜しいけどもう時間がッ! 「そうだとしても急ぎなさい!は・や・く・ッ!!」 「はぁい」 そうして背中を押す。やっと歩きだしたと思ったら、フォンが急に振り返った。 「ちょ、何!?忘れ物!?なら言えばアタシが取ってくる・・・」 「シェリー、ありがとう。君はやっぱり、"いい人"だね」 瞬間、全て止まった。アタシと、アタシが感じるすべてのものが。 「じゃ、いってきます」 フォンがゆっくり遠ざかっていく。その後姿を見ながら、私は『尻尾』を抱いた。今まで黙っていた『蛇たち』も、ちろちろと舌を鳴らす。 「・・・いい、ヒト、か。」 アタシはシェリー。 彼には言えない、嘘つきメデューサ。 ー異空間タイムー 作者「やってしまいました。初投稿なのに連載作品、しかも第一話からこの長さ。さらに主人公・ヒロインの素性、まったく不明、etc.etc・・・だが、それでも書きます。今回はヒロインのシェリーさんにきてもらいました」 シェリー「はっ?どこ、ここ?なにこれ?」 作者「作者の謝罪、土下座、あと、予告のスペースですよ、シェリーさん」 シェリー「いや、アンタ誰?フォンは?」 作者「今日はいません。てか、もう謝罪も書いたし、やることもないです」 シェリー「はぃ?」 作者「えー、次回はフォンくんのプロフィール、現場、過去を紐解いていきます。あと、この『異空間タイム』がいらねぇーよksって人は、感想でそう書いてください。不評が多ければやめます。では、おつかれっしたー。」 シェリー「ちょっと、何なのよー!?」 |
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