連載小説
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彼の眼に映るのは・・・(超長文注意)

・・・だれか、ないてる?

・・・あれ?うわ、可愛い娘がいる。

・・・友達になれるかな?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

僕は跳ね起きた。
・・・聞こえない。料理の音が。

「・・・シェリー?」

震える声で、彼女を呼ぶ。
・・・匂わない。料理の匂いが。

慌ててベットから出た。
ズダンッ、と音を立てて盛大にコケる。
構わない。壁をつたってリビングに急ぐ。

「シェリー!シェリー!?」

リビングに出た。
何も聞こえない。
何も匂わない。

誰も、いない・・・?

「ッ・・・!!?」

なんで!?
なんでだ!?

シェリーが来ないのは、昨日だけのはずだっ!


ぞくっ・・・


まただ。
昨日の朝感じた、あの不愉快な感覚。
昨日より強く感じる。
これが二回目じゃない。
これは、どこで感じた・・・?

どこだ?

いつだ?

なにがあった・・・





「!!!」





ーーーこの子だけは助けて!私はどうなってもいいから!






そうだ・・・この感覚は・・・





ーーーフォンのお父さんが、戦死なされた!?





母さんや父さんが死んだ時と、同じ感覚だ・・・



ぞくっ・・・



「ッ!」

急げ!
急げ急げ急げ!

まだ、まだ間に合うかもしれない!

探せ!
探せ探せ探せ!

もう、服を着替えるのもうっとおしい!

僕は、杖を片手に、家を飛び出した。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

カランカラン♪

「いらっしゃ・・・」

動きが止まった。雨の中、店に入ってきたのは、メリッサだった。

「・・・・・・今日、手伝いをする日、だから・・・」

「バーカ、無理すんな」

昨日のこいつはひどかった。


雨ん中帰ってきた。
家に帰って終始無言。
母さんがあんなメリッサ初めて見たからすげぇオロオロしてた。


俺が頭をなでてやって、「つらいなら泣け、バカ」と言ってやっても、「なんもないよ、兄貴」と言っていた。
夜、部屋ん中からすすり泣く声がずっと響いてた。

事情は予想できる。



あの野郎、メリッサをフりやがったんだ。



母さんも俺も寝れなくなった。母さんは俺に相談を持ちかけるまで心配してた。
なにも言わないまま、泣き疲れて寝てしまったメリッサを、わざとほうっておいて仕事に来たのによ・・・
さらにムカつくのは・・・

「あの野郎、まだ来やがらねぇ・・・」

フォンが来ねぇ。連絡はない。
来ても何も文句を言わずいつも通りでいようと思ってたが、こりゃ頭にきたぜ・・・

「・・・メリッサ、店番かわれ」

「え?どうして?」

俺は立ち上がって、傘を取った。



「ちょっと頭を冷やしてくる」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

兄貴が出て行った。私は、黙って、カウンターに座る。

「・・・・・・」

昨日の事を、思い出す。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「フォンにぃ、私を、もらって・・・」

フォンにぃは、私を、抱きしめてくれた。








そして。








そっと、肩を押して、離した。


「・・・え?」

「・・・・・・」


・・・これは、なに?
いや、わかってた。
でも、わかりたくなかった。


「フォン、にぃ?なん、で?」

「ごめん、メリッサ」


なんで、謝るの、フォンにぃ。
それってまるで・・・


・・・断った、みたいじゃない・・・



「なんで、なんで!?」



声が涙声になる。
頭がぐわんぐわんする。
心が、痛かった。



「私、なにかダメなこと、した!?フォンにぃの迷惑なこと、した!?」

「・・・いや、やってない。それどころか、もう満足なほど、色々してくれたよ」

「だったら!」

耐えきれず、もう一度抱きついた。

「これからずっとやらせてよ!フォンにぃの役に立たせてよ!世話をさせるのが申し訳ないと思ってるの?私がフォンにぃを哀れだと思ってやってると勘違いしてるの!?」

「・・・・・・」

なんで黙ってるの、フォンにぃ!?

「そんなワケないじゃない!私とフォンにぃの仲だよ?ずっと前から、ずっと一緒に、ずっといたじゃない!」

「違う・・・」

「なにが違うのよ、フォンにぃ!?」





「君は、僕にもらわれたら、不幸になる」





・・・え?

「聞いてくれ、メリッサ。落ち着いて、少しの間、僕の話を聞いてくれ」

・・・また、引き離される。
・・・でも、私は動かなかった。

フォンにぃの雰囲気が、変わったから。

「・・・一日中、今日は一緒に歩いて、ご飯食べて、最後に、告白してくれて。君は、一日、今日一日を、すべて僕に捧げてくれた・・・」

フォンにぃは、私の肩を掴んだままだった。
でも、その手は、震えていた。

「もし、僕が少しでも、君の事を好きならば、『嬉しい』と感じたはずなんだ。
・・・でも、さっきの、キスの時にも。君が僕を好きだと言った瞬間にも・・・!」

ぽた。
床に、何か落ちた。

フォンにぃの目から、涙が、でていた。

「僕が感じたのは、『申し訳なさ』だったんだ!『申し訳なさ』しかなかったんだ!!」

・・・え・・・

「君にキスをさせてしまったこと!キスをさせるまで、君の好意に気づけなかったこと!それしか、感じなかったんだ!」

・・・私の時間は止まっていた。
世界に、私とフォンにぃだけ置いてけぼりにされたみたいだった・・・

「しかも、キスをした時に、別の女性が思い浮かんだんだ・・・」

「・・・だれ、なの?」

聞きたくないのに、聞いてしまった。

「わからない。顔も見たことない。盲目になってから、世話になった女性だから。でも、昔、メリッサと会う前から、知ってる女性だ!」

・・・聞かなければよかった。
そう思ったのは、後になってから。
その時は、頭が追いついてなかった。

「一番申し訳なく思ったのは、これなんだよ、メリッサ」

ぎゅっと、肩を握る力が強くなった。
痛かった。でも、じっとしてた。





「おそらく、いや、必ず。君をもらっても、僕は、君を見ない。その女性を見続ける。だから、君を不幸にしてしまうんだ・・・」





・・・言葉が、見つからなかった。
私も、泣いた。

「ごめん、ごめんよ、メリッサ・・・」

違う、違うのよ、フォンにぃ。
私が、泣いてるのはね・・・

フォンにぃが、最後まで、私を思って、泣いてくれてるのが、嬉しいのよ・・・

「・・・フォンにぃ」

だから、決心がついた。

「申し訳なく思うのを、とめたげる」

本当にフォンにぃを思うから、やるんだよ?
だから・・・





「歯、くいしばって、フォンにぃ」





・・・幸せになって、ね・・・










私は、フォンにぃを、ひっぱたいた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「・・・ぐすっ」

また泣けてきた・・・

「・・・メリッサ」

「あ、親方・・・」

いつのまにか親方が奥から出てきてた。やばっ、泣いてんの見られた。

「あー、あのな、一応、人生の先輩として、一言だ」

ボリボリと頭を掻きながら、親方は続けた。

「俺には別居中の妻子がいる。知ってるな?うん、その妻なんだが・・・俺に惚れた時には、俺には別の女がいたんだな。うん。でもな、妻は絶えず俺に言いよってきたんだ。何日も何日も。ストーカーじみて気持ち悪いと思った時もあった。でもな、最後は、俺は妻に気持ちが向いたんだよ。うん、まぁ、俺の言いたいことはな、諦めんなってこった・・・じゃ、仕事に戻るわ。あぁ、エドとフォンは減給な。あとで来たら伝えといてくれ」

「え、あ、うん」

一方的に言われ、ちょっとポカンとしたけど・・・

「・・・親方まで心配させちゃ、ダメだよね、うん」

ちょっと元気でた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・

「ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・」

大雨の中、草木を押しのけて進む。
今、歩いているのは、家の裏の森だ。
シェリーは街にいない。それだけはわかってる。

ーーー私、隣街に住んでるから。

嘘だ。
シェリーがいつも僕に会う時、街から家までの林道の間でだった。
隣街に行くには、街から見て僕の家とは逆方向だ。
一番ありえる、僕の後ろから追いついてくる、ということは一切なかった。


第一、彼女は・・・



・・・パシャパシャパシャ!



「えっ?」

後ろから、誰か走ってくる?
こんな森を?朝に?誰が?

次の叫び声で、誰かすぐにわかった。


「フォォォォォォォォォォンッ、テメェェェェェェェェェェッ!!」


「え、エド!?」

振り向いた瞬間、頬に衝撃が起こった。

「うげっ!」

殴られた。すぐさま、胸ぐらを掴まれて引き戻される。

「テメェ、どういうつもりだ!店に来ないから見にきたら、森ん中歩き回ってよォ!」

「う、ぐっ・・・」

口の中に鉄の味が広がり、息苦しい。手探りでエドの腕を掴む。
ここで時間を食うわけにはいかないんだ!

「離せ、離せよエド!」

「あぁ!?」

「僕は行かなきゃいけないんだ!君に構ってる時間はないんだよ!」

「んだと・・・こ、の野郎!」

ドカッ!
顔の真っ正面から、衝撃がきた。鼻が痛い。後ろ向きに倒れる。

「構う時間がねぇだと!?何をしてるのかわからねぇけどよ!それは仕事ほっぽり出してまですることなのか!?」

そうだ。今日は仕事があったんだ。
でも、そんなこと知らない。

「俺や親方に心配かけてもやることなのかよ!?」

心配をかけてることは、申し訳ないと思ってる。
でも、それよりも・・・



「傷心してまで来てるメリッサを!無視してもやるべきことなのかよっ!!」



「ッ!!」

・・・メリッサ・・・

「俺は!今!メリッサの!兄として!聞いてんだ、フォン!」

・・・・・・

「応えろ、フォン!!!」





「・・・そうだ」





失ってから、その大切さがわかる。
よく言われたもんだ。

「なん、だっ、て?」

でも。
その代償の、失う悲しみは。





「今、君たちに愛想つかされようと、嫌われようと!僕は!彼女に会いにいかなきゃっ、ならないんだっ!」





もう、味わいたくない!!!

杖を探す時間も惜しい。

僕はふらふらと立ち上がり、おそらく森の奥に続くであろう方向に駆け出した。

べしゃっ!

さっそくこけた。すぐ立ち上がる。

「お、おい!」

エドなんか知らない。今はどうでもいい!
ただただ、走るだけだ。
目的地も、現在位置もわからない。
それでも、動かないよりマシだと信じて・・・


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「・・・なんなんだよ」

某然と立ち尽くす俺は、ポツリと呟いた。
・・・フォンまでおかしくなってやがる・・・
何があった?何が起きた?俺の考えてた事態じゃないのか、今は?

フォンがメリッサをフって、
メリッサがショックを受けて、
それを申し訳なく思ったフォンが不貞寝してた。

そうじゃねぇのか?
フォンの言う彼女って誰だよ?
なんでその女を探すのに、フォンが森の中走ってくんだよ?

・・・わからねぇ

「やめだやめだ!あんな奴、知るもんか!」

めんどくせぇ。
なんかムカついてたのもどうでもよくなった。
俺は来た道を引き返しはじめた・・・


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ザァァァァ・・・

「・・・・・・」

雨の中、アタシはうずくまっていた。

ザァァァァ・・・

「・・・・・・」

なにやってんだろ、アタシ。
もう、フォンには近づかないって決めたのに、こんなとこに来て・・・

「こんなとこで、何してるのよ、アンタ」

声をかけられた。アリーシャだ。

「・・・・・・」

「フォン坊やの世話は?昨日も行ってなかったじゃない」

・・・世話?

「・・・うふふ・・・」

「・・・シェリー?」

そうか、そんなんやってたよね・・・

「うふふ・・・あはは・・・」

「シェリー?なに?笑って、るの?」





無駄だったのに、ね。全部。



そう。



全部。全部。



全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部・・・ッ!










馬鹿みたい。













「あはははははははははははははははははっ!」

顔を上げて笑う。なんかもう、可笑しくてしょうがない。

「しぇ、シェリー!?どうしたのよ!?」

「あははは!ねぇ、アリーシャ。アタシって間抜けよね、こんなことになるまで、尽くしに尽くして。結果がこれ。バッカよねぇ!あははははは!」

なんか、笑ってたらふっきれてきた。やだ、なんか楽しい。ずっと笑っていたい。

「どうしたのよ!?フォン坊やに、なんかされたの!?ねぇ!」

「あはははは・・・べっつにぃ?フォンは何もしてないよ?そう、なんっにもしてないよぉ?うくくく・・・あはははは・・・」

髪の蛇たちも笑う。みんなで笑う。
気持ちいい。清々しい。あぁ、素晴らしい気分だわ。

「くくく・・・あぁ、アリーシャ?アタシ、今日中にここを発つから」

「はぁっ!?アンタ、なにをいってんの!?」

「そのまんまの意味よ。だってアタシ、もうフォンにとって、いらない女だもの!もっといい人探しに行くのよ!あははははは!」

「えっ・・・?」

「きゃはははは!」

なんかアリーシャが顔を赤くしてるけど、どーでもいーや。いまは笑ってよう。だってこんなに楽しいんだもの!

「あーはははははは!あー、はははは!」

雨の中、アタシは笑いはじめていた・・・



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


エドが追いかけてくる音が聞こえない。
呆れて帰ったんだろう。
しょうがない。そりゅそうだ。事情も知らされず、はねのけられたんだから。
僕は走り続けている。速さは遅いだろうけど、それでも、走る。


ガッ!


何かにつまずく。倒れる。もう何回目だろうか。
でも、立ち上がる。もう痛みで膝が震える。

それでも。
僕は走ろうと足を上げた。





「残念、坊や。ここから先は一方通行よ」





不意に声が聞こえた。前からだ。
誰か知らない。知りたくもない。
シェリーでないのは、確かだから。

「どいてください、僕は人を探してるんだ」

「シェリーを、かしら?」

「えっ!?」

驚いた。
シェリーを知ってる人と会えるなんて。

「どこですか!?シェリーはどこにいるの!?僕、彼女に会わないといけないんです!」





「お黙り。私は貴方が嫌いなのよ」





「・・・え?」

訳がわからない。なぜ?僕がこの人に、何をしたんだろう?

「貴方、シェリーに会ってどうするつもり?」

「それは・・・貴女に、関係ないでしょう?」

「いいえ、あるわ。答えなさい」

どういうことだ?
この人はシェリーとどういう関係があるんだ?
なぜ、こんな問いかけを・・・

「答えられないのね?やっぱりそう。人間は、自分勝手な生き物ね」

バシッ。

「うわっ!?」

何かが足に当たって、つまずく。
バシャッ!顔に泥がはねた。

「貴方、自分が何をしたか、わかってるの?あの娘、ひどくかわって・・・この付近から姿を消すとまで言い出したのよ?」

「えっ!?」

ここから、シェリーが、いなくなる!?

「何があったかは知らない。でも、貴方が何かしたのは事実でしょう?」

「ま、待って!僕はなにもしちゃいない!」



「さらにしらばっくれようっての?見苦しいにも程があるわね」



ガッ!
首を掴まれて、引き上げられる。


「かっ!?く、ぁ・・・」


「いいわ。あの娘の気持ちを踏みにじったこと、後悔させたげる」


ギリギリギリ・・・

首が、締まって・・・!

「あ、くぁ・・・ケヒッ・・・」

「アンタ達、人間の男ってのは、自分の欲望を女に気が向くままぶつけないと生きてけないの?それが相手を深く傷つけるものでも?」


息が・・・できない・・・
手足をジタバタと振るが、意味はなかった。


「あの娘を深く傷つけて、満足?そのアフターケアに回って、さらに傷つけて、壊すつもり?いい身分ねぇ!」

「・・・っ、・・・っ!?」

手足に・・・力が・・・はいら・・・


ジョジョジョ・・・

「あぁら?最近の男はおもらしが好きなのかしら?ヨダレまで垂らして。汚いわねぇ」

「・・・・・・・・・・・・」

・・・・・・しぇ・・・り・・・・・・

「・・・・・・」

パッ。ドサッ。

「う、げぼっ!ごほっ!かっ、ひー、ひー、ひぃ・・・」

思考がまとまらない。息が、苦しい。精一杯息を吸う。


「どう?これで懲りた?さぁ、おかえり。貴方に、シェリーに会う資格は無いわ」


怖い。
この人の力は、人じゃない。
僕を、殺そうとしてる。


・・・でも。



「・・・いやだ」

「・・・なんですって?」



ここで諦めるわけにはっ、いかないんだ!
僕は、片膝で立ってから、その人にタックルをしかけた!

「うあァァァっ!」

「なっ!?」

ドンッ!ドカッ!
僕の全体重をかけた体当たり。
相手は、多分、木にぶつかった。そんな音がした。

「いった・・・キサマァッ!」

「僕はなにもしてない!」

しっかり立ってから、叫んだ。



「してないからこそっ!今から、しにいくんだ!僕は、彼女に!告白を!」



自分の気持ちを理解した今、しにいくんだ!そう決めたんだ!

「・・・え?」

「だからっ!邪魔しないでくれ!」

さっきの体当たりの反動か、ふらふらする。
でもそんなこと、気にしない。

歩く。

シェリーがいなくなる前に!

「・・・待ちなさい」

また、あいつが声をかけてきた。

「いやだ!」

「なら、聞きなさい。シェリーの居場所、教えたげる」

・・・え?



「あの娘との、最初の思い出の場所に行きなさい。あの娘、多分、まだいるわ。まぁ、覚えてればの話だけど?」



最初の・・・思い出?
ッ、あそこか!?

「ありがとう!」

僕は、真っ直ぐ走る。
多分、こっちだ。
僕は氾濫した川の音が、微かに聞こえる方へ、走りだした・・・



・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・


「はぁっ、はぁっ!」

前で、フォン坊やの荒い息遣いが聞こえる。
私は、音を立てず、静かに後を追っていた。

(・・・川に向かってるわね)

まずは第一段階合格、ってとこか。



でも、あの娘は川にいない。



あの谷での救出騒動を、フォン坊やが最初の思い出だと思っているなら・・・



私は、フォン坊やを、谷に突き落とす。



下は増水した川だ。十中八九、死ぬ。
死ななくても、シェリーのいなくなるための時間は稼げる。
最初の思い出を勘違いするなんて、本当にシェリーを想うなら、ありえない。

(さぁ、見せてみなさい)

坊やの、シェリーへの想いの、強さを!



・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

・・・ついた!
すぐ近くで、ごうごうと唸る川の音。

シェリーに救ってもらった、谷だ!

シェリーとの出会いは、ここだ!

あとは・・・


「どこだ!?どこにある!?」


そうだ。あの時・・・あの時!



・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・

『ママー、早く早くぅ!』

『こらっ、フォン!そんな橋、渡っちゃいけません!』

『え〜・・・あれ?』

『あっ、こら、フォン!走っちゃだめ!お願いだからやめなさい!』




『ひっく・・・ひっく・・・』

『そこでないてるの、だぁれ?』


・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・


橋だ!橋を渡ったはずなんだ!

「どこだ!?橋は、橋はっ!?」

探す、探す、探す!

谷の縁ぎりぎりで四つん這いになり、橋の打ち杭を探す。
雨で濡れ、寝間着が重い。
雨が体温を奪い合い、寒い。
それでも、探す。
探し続けた・・・



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「あはは・・・はは・・・」

気がつけば、アタシはまたうずくまっていた。
もう声は枯れて、喉が痛い。
アリーシャもいつのまにか、いないし。

「はは・・・は・・・」

自虐も過ぎた。もう、笑えない。

「・・・帰ろうかな」

いや、帰るんじゃない。
去ろう。

もう二度と、フォンの顔は、見ないんだろうな・・・

・・・さみしいな・・・

アタシは、空を見上げた。
気の枝に隠れてない部分を、黒い雲が覆ってる。

「・・・神様、惨めなアタシに、奇跡をちょうだいよ」

ビカッ!ゴロゴロ・・・

雷がなった。結構、近かった。
耳がキーンとした。

「・・・あ?」

バキバキバキバキッ!

あぁ、結構近かったんだ。
ちょこっとだけ、先っぽが見えてた木が、川の方に倒れていった。

「生きてただけ、感謝しろって?あはは、バカにしやがって・・・」

バキバキ・・・バシャァン・・・

あ、川に落ちた。

「・・・ぁぁぁ・・・」


今、なんか聞こえた?


・・・待って?今の、幻聴じゃなかったら・・・


「・・・フォン?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

フォンは、未だ橋を探していた。もう、どれだけ探していただろう?
四つん這いになり、手を忙しく左右に振っていた。服はびしょびしょで、もう用をなしておらず、フォンはカタカタと震えながら、探していた。

ガンッ!

「いたっ!?」

フォンの手が、何かに当たる。
木の杭だ。

「・・・まさか!」

ペタペタと、フォンが木を触る。
木の杭には、ロープがつけてあった。
そのロープの先は・・・

「は、橋だ!」

対岸の方へと続いていた。

だが、もしこの吊り橋を見た者がいたら、十人中、八人は「渡らない」を選択するだろう。

もう何年整備されてないのか、否、まず人が使っているのかも怪しい。
ロープはいたるところがほつれを生じ、かけてある木の板はコケが生えてるものもあれば、明らかに腐っていると見てとれるものも少なくない。
先ほど、十人中八人は「渡らない」と言ったが・・・

そのうち一人は無謀で、探究心か何かがうなってるんだぜ的な事をいうバカ。
もう一人は。


「待ってて、待っててくれ、シェリー!」


目的のみを見据えた、今のフォンである。

ギィッ、ギギ・・・

聞くだけでも背筋が寒くなる音を立てる木の吊り橋を、フォンはロープをしっかり握って渡っていく。
子供の頃と、大人になってからでは、色々感じるものはかわる。
フォンは幼いころの記憶を頼りに渡っていて、今、まだ半分も来てないと思っているが、実際は、もう3/4を渡り終えていた。
しかし、現実はヒジョーである。

ギギギ・・・バギッ!

「うわっ!?」

右足をかけた木の板が割れた。左足の木の板が耐えている。

「うっ、くっ、こんのっ・・・」

なけなしの体力と、必死の腕力で身体を持ち上げ、右足をもうひとつ先の板にのせる。

ギッ、ギギッ・・・

「耐えて、くれっ!」

姿勢を戻す。フォンは、なんとか立つ事ができた。

「・・・ふぅ」

が、息をついたのも束の間。


バキキッ!


「ひっ!?」

両足が足場を無くし、宙ぶらりんとなる!

「くっ、わ、わっ!」

音を聞くだけでわかる。
下にはごうごうと唸る川。
死ぬ。
落ちれば死ぬ。
フォンはそう確信していた。

「うっああああっ!」

必死に手を曲げ、足を板に乗せようとする。
だが、見えない。
板がどれほどの高さにあるのか、わからない。

「う、ううっ・・・」

言いようのないほどの恐怖が、フォンを包む。
体重がなく、機械を結構扱うため、腕力は少しあるのが救い。
災いは、体力の減り具合だ。もう腕は限界が見え、ぷるぷる震える。

それでもフォンは、必死に抗う!

「こ、の、やろぉぉぉっ!」

懸垂の要領で身体を持ち上げ、無理やり足を板に乗せた!

バンッ!

板に荒々しく足が置かれた。
割れるかもしれない。
そんな考え、フォンにはもうなかった。足がかりを得たフォンは、その板に乗った。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」

息継ぎ。まるで水泳で思いっきり泳いだあとのように、フォンの息は荒かった。
髪の思し召しか。板は割れず、フォンはゆっくり呼吸を治す。

「ふぅ、ふぅ、ふーっ・・・」

そして、ゆっくり立ち上がった。


その時。



カッ!ゴロゴロビッシャーン!



「うっ!?」

雷が落ちる。そして。



バキキッ、バキバキバキバキ!


「なに、なに!!?」

ロープを握りしめ、フォンは慌てふためく。


そのフォンの後ろに、巨木が倒れた。

グググッ・・・ブチィッ!


「えっ、あぁっ!?」


切れた。ロープが。
真ん中より少しフォンよりの場所で切れた吊り橋は、重力に引かれ、バラバラに落ちていく!


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」


ロープを握りしめたフォンは、振り子の重しのごとく、対岸の岩壁に叩きつけられた!


バキィッ!


「いだッ!?」


不幸は続くものだ。
ロープを握りしめた右腕が岩壁に直撃し、痛みが走り、かわりに、力が抜ける。

「うぅ、くぅっ・・・」

ぐっと握りしめるが、腕も体力も限界。
右手が外れる。残る腕は、左腕だけ。

「くっ、あ、まず・・・い」

腕は伸びきり、もう、あとは落ちるのを待つのみ・・・
その時。声がかけられた。



「・・・フォーン!?」


「!?」


シェリーだ。まだフォンの位置には気づいてない。
先ほどの叫び声を聴いて、もしやと思って、駆けつけたのだ。

「フォーン!どこにいるのー!?いるなら、返事してー!?」

フォンは、必死にロープを握って腹に力を込め、叫んだ!

「ッ、シェリーーッ!」

ガラガラドシャーーン!

二人の叫びを遮るかのように近くに雷が落ちる。
しかし、それで二人を引き裂かれることはなかった!

「フォン!?」

シェリーが声に気づき、身体を乗り出して谷を覗いてフォンを見つけた!

「シェリー!ぼ、僕!言いたいこと・・・が!」

「今、そんなこと言わなくていいから!手を!はやく伸ばして!」

シェリーが手を伸ばした。尻尾を近くの木に巻きつけて、身体ごと伸ばす。
フォンも、力の限りロープを引っ張って、少しでも上に、上に、手をあげる。

しかし、届かない。

二人の指が、こすれ合いそうな程の距離にあるのに、届かない。

「くっ、そっ、フォン、がんばって・・・」

「うっ、くぅぅぅぅ・・・」

何度か、指がこすれる。
なぜ、なぜだろうか。
ここまでお互いが必死に思っているのに、この手さえ、結ばれないのか。


限界が、訪れた。


フォンが、上げていた右腕を、下げた。

「え、フォン!?」

「・・・シェ、リー・・・最後に、これ、だけ・・・いわせ、て・・・」

苦しそうな声を絞り出し、フォンは言って・・・


ニコリと、笑った。










「君の事が、好きでした」











フォンの左腕が、ロープから離れた。




























「ッ!死なせるもんかぁぁぁっ!!!!!」


シェリーの咄嗟の行動は素早かった!


シェリーは木に巻きつけていた尻尾で、フォンを追った!


「届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」


ぐるんと横に回って身体ごと崖に投げ出し、尻尾をフォンの左腕に巻きつけた。

ビシィッ!

間一発。フォンの手を、シェリーの尻尾が捉えた。
その瞬間、シェリーは両手を岩壁に突き刺した!

ベキっ、バキィッ!

シェリーの手に激痛が走る。しかし、シェリーは構いもせず、力を込めて落ちるのを止めた!


「う、わっ!?」


急に起こった出来事に理解が追いつかないフォン。
そんな彼を無視し、シェリーは登りはじめた!

「このっ、このぉぉぉぉっ!」

岩壁に刺した手を抜き、もっと上に刺す!
次にもう片手を抜き、刺す!

手から血が出ようと、爪が割れようと、シェリーは登る!

「シェリー!?君、なにをやってるんだ!?」

「うっさい、フォン!黙ってて!すぐ!登り切るから!」

シェリーは、痛みを誤魔化し、おのれを奮いたたせるため、叫んだ。




そして。
崖を登りきった。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」

息が苦しい・・・手が、痛い・・・

「・・・シェリー、僕、僕・・・」

フォンが、話し始めようとしている。



「・・・なんで、こんなとこに来たのよ?」



アタシは、それを遮った。

「そ、それは・・・」

「アンタ、こんなとこにいないで、仕事に行きなさいよ。彼女が心配するわよ」

そう。
フォンには、彼女がいるのだ。職場の幼馴染が。

「ち、違う!それは・・・」

「ちがう?なにが違うのよ?昨日、抱き合って、キスまでして」

「ッ!?見て、たの?」

「えぇ、見たわ。悪いわね?除き屋の蛇で」

だから、こんなとこにいさせちゃ、いけない。
帰らせなきゃ。
アタシを嫌わせなきゃ。

「ねぇ?さっきアンタの手に巻きつけたの、何かわかる?尻尾よ、尻尾!アタシはメドゥーサ!魔物なのよ!ねぇ!人間のフォンくん!?」

嫌われなきゃ。
嫌われなきゃ。
嫌われなきゃ。

「あーぁ、せっかく八年ちょいかけて脂をのらせてきたのに、最後に取られちゃったわ!あのメスザルめ!」

嫌われなきゃ。
嫌われなきゃ。
嫌われなきゃ。

「まぁ、あの娘も頑張ったみたいだし?譲ったげるわ!食べるためにぶくぶくに太らせたアンタをね?せいぜい乳繰り合ってなさいよ!できた子供は食べたげるから!」

嫌われなきゃ。
嫌われなきゃ。
嫌われなきゃ。
嫌われなきゃ。
嫌われなきゃ。

「ほら!怖いでしょ!?おそろしいでしょ!?惨めったらしく泣きながら逃げたらどうよ!ねぇ!?あははははは!」

嫌って。嫌って。嫌って。嫌って。嫌って。
早く。早く。早く。早く。早く。

「黙ってないで、早くどっか行きなさいよ!!!」


お願いだから。
貴方のためだから。
帰ってよ・・・









「・・・なんで、泣いてるのさ?」









「・・・え?」

気づいた。頬を、雨じゃない何かが、伝ってた。

「そんなに食料にするはずの僕が取られて、そんなに悲しい?」

「そ、そうよ!せっかくの苦労が、水のあわ・・・」





「嘘を吐くなッ!!!」





「ひっ・・・」

驚いた。
フォンの怒った声が、響いた。

「ふざけんなよシェリー!今まで肥させた?食料にするはずだった?自分はおそろしい魔物だ?全部、僕に嫌われようとして言ってることじゃないか!!?」

ズキン・・・

なんで、わかる、の?

「今、なんでわかったのって、思ったろ?当たり前さシェリー。君のことは、だいたいわかる。生まれながらの癖って怖いなシェリー!君は!気づいてないのさ!自分の髪の!蛇が!何かしたり、思ったりするたんびに、音を立ててるのを!!!」

・・・え?
うそ。
だってそれなら・・・

「君は僕を見つけたとき。君の蛇は、シュルルルって鳴く!
嬉しいとき。君の蛇は、シューッと鳴いてた!
悲しいとき、怒ったときは聞き分けにくかったなぁ!両方、威嚇してるみたいに鳴くんだもの!」

「・・・フォン、あな、た、まさか・・・」



「あぁ、シェリー!君が魔物だなんて、君が、十八年前、あそこで泣いてたメドゥーサだってわかった時から、分かってたさ!知ってたさ!だけど黙ってたんだよ!君はあの時、僕を怖がった!人間が怖いのかと!だったら、僕が君が魔物だとわかったと知ったら、もう来なくなるかもと、悟ったんだ!だから、黙ってたんだよ!思えばあの時から、君を初めて見た時から!僕は、君が好きだった!」

・・・う、そ。

「じょ、冗談でしょ?」

「冗談!?なにがだ!?僕が君を魔物だと知ってたこと!?君に一目惚れしてたこと!?両方本当さ!!信じられないなら、それを証明してやる!!!」

フォンが突然立ち上がった。
アタシは、驚いてすくんだ。
フォンは、アタシの肩を掴んで・・・



・・・チュッ・・・



「・・・んむ?」

え、え?
なに?なに?
なんでフォンがこんな近いの?
なんで口が塞がれてるの?


・・・なんで、キス、してるの?


「あむ、んちゅ、ちゅば・・・」

「んむ、ちゅぶ、んあ・・・」


舌が。フォンの舌が。
入ってくる。舐めてくる。


(や、やぁ・・・犯されてる・・・口内、フォンに・・・染められてる・・・)

シュルシュル・・・

髪の蛇たちがフォンに絡まる。
フォンは、ディープキスを続けながら、それを撫でてくれる。

「んちゅ、れぇる・・・ちゅずずず」

「ん、んー!!!」

(舌が!吸われて・・・も、もってかれて・・・や、ヤバい、これヤバい!)

ダメなのに。確実に、引き返せなくなるのに。

フォンが抱きしめてくれる。
ギュッと。強く。

アタシも、抱きしめる。
腕で頭を抑えて。尻尾をフォンの身体に巻きつけて。

「ちゅずずっ、ずるるっ!」

「〜ッ、〜〜〜ッ!!」

だめ。ダメ。駄目。

もう・・・ダメッ!

やっぱり、嫌われたくない!
好かれたい!愛されたい!
フォンはアタシのもの!
フォンはアタシの旦那様!
フォンはアタシの愛しい人!
渡さない!誰にも渡さない!
知らない知らない知らない!
絶対、アタシが、フォンの、妻なんだ!


「ん、ぶはっ!」

あ・・・フォンが、離れちゃった・・・

「や、やぁ、もっと・・・」

「・・・やっと、素直になってくれたね」

「あ・・・」

しまった・・・・・・

「ねぇ、シェリー?僕はね、彼女には、お断りを言ったんだよ。ごめんねって」

「・・・え?な、なんで?」

「だって、僕にはね・・・」


フォンがもっと強く、抱きしめてくれた。





「シェリー、君しか『見えない』んだから・・・」






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「・・・・・・あーぁ、なるほどねぇ。あんな人、いや、魔物がいたのかよ。こりゃ、ダークホースだわ。てっきり、あの蜘蛛女に騙されてんのかと思ったが・・・こりゃ勝てないわな・・・ったく、傘持ってきてやったが、ここで混ざっちゃ野暮も糞もねぇや・・・帰ろ・・・メリッサになんて言ってやろうかねぇ・・・」





11/04/25 02:13更新 / ganota_Mk2
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■作者メッセージ
数日後・・・


「やっと熱がひいてきたわね」

「あはは・・・やっと、だね」

「まったくもう。寝間着のまま飛び出すからよ。着替えてからアタシを探してもよかったのに・・・」

「一瞬でも早く、シェリーに会いたかったんだよ」

「・・・もぅ・・・」

んふふ。照れてる。蛇たちがこすれあう音が聞こえるもの。

あの運命の日の翌日。
僕は高熱を出してぶっ倒れた。
第一発見者はもちろんシェリー。
え?いつ、どこで見つけられたって?
いや、その・・・ね?
うん。あの日にいろいろヤっちゃったのも、原因なんだろうね。うん。いろいろ。

僕は家のソファーで布団を被って寝てる。うん?ベッドで寝ろ?
いや、あの、数日雨続きで、乾かないんだ。うん、シーツが。

「なんか食べる?」

「なんか軽いものなら」

「ん〜、じゃ、リンゴ剥いたげr」


ピンポーン


あ、二人っきりタイム終了のお知らせ。

「・・・またあのアマ来やがった・・・」

「シェリー、シェリー。怖い怖い」


ガチャ、ドタドタ・・・


「フォンにぃ?蛇女に無茶苦茶されてない?大丈夫?」

「うぃーす。無事かフォン?」

「坊主、ジャマするぞ」

「おやおや、少しは元気そうですね」

おぉう?メリッサだけじゃなかった。今日はなんかたくさん来てくれてる
。てか、神父様まで来てない?

「コラ、メスザル。アンタ勝手に開けて入ってくんじゃないわよ」

「うっさい蛇女。アンタこそ、朝っぱらからフォンにぃ襲って困らせてないでしょうね!?」

「んなワケないでしょ馬鹿女!アンタほど脳内絶賛春日和じゃないわよ!」

「私だって違うわよ!この単細胞!」

「ぬぁんですってぇ!!?」

「やぁるかぁ!!?」

あぁ、また始まったよ・・・

「くぉらメリッサ!喧嘩してんじゃねぇよ!フォンに迷惑かけんな!」

「シェリー、やめなさい」


「う・・・」
「く・・・」


そして、エドと親方が止める。最近ずっとこのループ。

風邪で倒れた日から、メリッサとエドが来るようになった。今日みたいに朝からではなかったけど。
その日、「フォンが動けないから、アタシが行って来る」って、親方に休みを言いにいったことから、始まったんだ。
メリッサも親方も驚いたらしいよ。親方に限っては、二重の意味で。
まぁ、親方のことは、僕も驚いた。


だって、ねぇ?
親方がシェリーのお父さんだなんて・・・


なんでもシェリーが4歳のころ、別居中したんだってさ。いや、妻子がいるとは聞いてたけどさ・・・


「フォン。久しぶりですね」

「あ、神父様」

そして今日は神父様がいる。孤児院、兼教会でお世話になった。

「教会、兼、孤児院ですよ?」

「あ、すいません・・・」

・・・ちょっとした読心術は、この人から習った。それだけつけ加えとく。

「優しい、彼女さんですね」

「あ、わかります?」

「えぇ。少々排他的ですが」



「ガルルル・・・」

「シャーッ・・・」

「だからお前らリンゴの皮むきくらいで喧嘩すんなよ!!」

「こら!シェリー!石化させようとするんじゃない!!」



「・・・少々、排他的ですが」

「大事なことなので二回うんぬんかんぬん」

「ハハハ。さて、フォン。本題です。育て親として、貴方を一時期見た、私から聞きたいのです」

「・・・なんですか?」

本気で問いかけられていた。
雰囲気が違っていた。


「これから、彼女と生きて行くには、たくさんの障害があるでしょう。種族の違い。趣味、思考の違い。ほんのささやかなズレでさえ、貴方たちを引き裂くかも知れない。それでも、健やかなる時も、病める時も、いかなるときも、彼女を愛しますか?」


「・・・そんなの、決まってるじゃないですか」



僕は、答えを告げた・・・・・・

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