第五話 初クエスト
ジュリアが修業を始めて1週間がたった。ジュリアはかなり飲み込みが早く、修業仲間の娘たちとも打ち解けてきたみたい。まだまだ色々と未熟だけど太陽が出てても駆け出しの冒険者程度くらいの力は発揮できるようになってきた。そろそろ軽いクエストを受けてみてもいいかもね。
「明日は冒険者ギルドに行くよ。そろそろクエスト受けないと体がなまるからね」
ボクの言葉にジュリアは目を輝かせた。
「いよいよですのね。やっと鍛えた力を実戦で試せますわ」
ジュリアはかなり張り切ってる。少し熱くなりすぎじゃない?緊張してたり、怯えたりしてるよりはマシかもしれないけどさ。
「とりあえず今日は睡眠をよく取った方がいいよ。わくわくして眠れなくなる気持ちはわからなくもないけどさ」
「な、何を言ってますの?!わたくしは別に遠足の前日に目が冴えて眠れないとか、かなり早い時間に目が覚めてしまうなんてことはありませんわよ!」
ジュリアは真っ赤になって否定してきた。ボク何も言ってないんだけど。
「はいはい。とにかく準備だけはちゃんとしといてね」
「わかりましたわ。明日はがんばりますわよ!」
すさまじい情熱だね。とりあえずバトルがありそうなクエストをとってあげるか。
「ここが冒険者ギルドですのね。思ってたより大きいですわね」
ジュリアはギルドの建物を見て感動の声をあげた。
「ベントルージェ領は冒険者の町って言われてるからね。冒険者が集まるからギルドも自然と大きくなるってわけさ」
まあそのせいで変なのが入ってきたりしてるんだけどね。組んだりすることがない限りどうでもいいけどさ。
「そんなことより早く行きますわよ」
ジュリアはそう言って中に入ってしまった。
「いくらなんでも慌てすぎだろ」
ボクは溜息を吐きながらジュリアの後を追った。
「こんな所に何しにきたんだいお嬢さん。ここは君のような人が来るような所じゃない。まあどうしても冒険したいって言うんならおれがあんなことやこんなことを教えてあげてもいいけど」
かなりなれなれしいナルシストがジュリアに話しかけている。実力もたいしたことなさそうだし、多分女の子にモテたいって理由でなったって所だろう。
「お断りですわ。もう組む相手は決まってますの」
「どうせお嬢様の道楽に付き合おうっていう素人だろ。そんなやつよりおれの方がいいって」
そりゃ黒地に赤のレースがついたゴスロリなんて着てたらお嬢様の遊びにしか見えないだろうね。コティが戦闘用にあつらえたんだけど正直趣味が入りすぎだと思う。まあかわいいからいいけど。
「言いたいことはそれだけですか?」
ジュリアはノクターンパラソルを構えた。さすがにここらへんで止めといたほうがいいかな。
「ボクの大事な連れにちょっかい出さないでくれる?」
ボクはジュリアの手を握りながら割り込んだ。ジュリアは手の力を抜いた。
「なんだお前。おれを誰だと思ってるんだ?」
「誰でもいいよ。どうせここに来たばかりだろうしあまり名も知れてないだろうからね」
ボクがスルーすると相手の男は怒り出した。
「そう言うお前は誰なんだ?!」
「ロキ=ヴェーデルシュルグ」
ボクが答えると相手の男は目を見開いた。
「ロキ?!『魔物の調教師』、『魔物キラー』、『コゼットサバト幻のナンバー0』の異名で知られてて、この町に住んでる全ての魔物にフラグを立ててるってウワサのあの?!」
男はショックを受けたようだった。なんでそんな話ばかり知ってるんだろう。かなり不純な動機で冒険者になったってことが見え見えだよ。
「…どうでもいいから早くクエストを見ますわよ」
ジュリアは不機嫌そうに言った。ボクだって好きでそんな変な異名つけられたわけじゃないんだけど。
「了解。…これがいいんじゃないかな?」
ボクが選んだのは10人組の窃盗団の確保だった。どうやら貧しい者ばかり狙っているらしい。どうせなら金持ちを狙えばいいと思う。いくら警備が厳しくて侵入しにくいからって貧しい人の物に手を出すなんて最低すぎる。
「いい選択ですわね。そういう弱者をいたぶる人たちは早く捕らえてしまったらいいですもの」
どうやらジュリアのお母さんは社会的に弱い人にも優しい人みたいだね。貧乏人をバカにするような鼻持ちならないタイプの貴族じゃなくてよかったよ。
「領主様もそういう考えだから報酬もいいんだよね。それじゃ報告書くれる?」
「はい。情報はこちらです」
ボクたちはギルドを出てから情報を確認した。どうやら予想通り小物しかいないみたいだ。ジュリアの力試しにはちょうどいい相手だね。
「さすがにアジトはわかってないようですわね。どうやって調べるんですの?」
最もな疑問だね。そりゃ1人で調べるのは難しいだろう。
「大丈夫。ボクの情報網はすごいからね」
ボクはそう言ってボクが手に木の実を何個か乗せると空から急降下してくる影が3つ見えた。
「あ、私たちの力を借りたいんだね」
「今度はどんな情報が欲しいの?」
「その前に木の実ちょうだい」
降りてきた3人は一斉に騒ぎ出した。あいかわらず元気だね。
「なるほど。ハーピーなら空から色々見てるから情報が集まりやすいってわけですわね」
そういうこと。使えるものはどんなものでも使っていかないとね。
「あ、自己紹介するね。私は長女のミウ」
「私は次女のリルハ」
「私は三女のシュヨク」
「「「人呼んでハーピー三姉妹!よろしく」」」
やっぱりテンション高いな。もう慣れたけど。
「ヴァンパイアのジュリアですわ。よろしくお願いします」
「へー。あなたがあの日光に勝とうとしてる変わったヴァンパイアなんだ」
「ロキと一緒にいるからそうじゃないかと思ったんだよねー」
「修業は順調に進んでるの?」
すごいマシンガントークだね。話が終わるまで待ってたら日が暮れちゃうよ。
「それよりこいつらのアジトとかわかる?」
ハーピー三姉妹はボクが見せた人相書きをのぞきこんだ。
「あっ。こいつら見たことあるよ」
「なんかコソコソしてたよね」
「怪しかったからよく覚えてる。ちゃんと尾行してたからアジトつきとめてあるよ」
どうやら当たりだったようだ。ヘタすると町中のハーピーを集めないといけなくなるから助かったよ。
「それじゃアジトに案内してくれる?」
ボクは木の実を三姉妹の口に放り込んだ。三姉妹はおいしそうに食べてからアジトのあるところに飛んでいった。ボクはその後を追った。
「完全に餌付けされてますわね」
ジュリアは呆れたような顔をしながらも三姉妹の後を追った。
「なんだお前ら。ここに何のようだ!」
「冒険者だよ。君たちの窃盗団をつぶせってクエストを受けたから来たんだ」
悪人面した首領は顔を真っ赤にさせて怒った。思ったとおり単細胞だね。
「なめやがって。お前らやっちまえ」
首領がそう言うとボクに6人、ジュリアに3人がついた。
「女の子に3人がかりはないんじゃない?しかも自分は高みの見物って勝てる自信ないの?」
「うるせえ。お前たちなんかおれが出るまでもない。そう言うお前こそ彼女を放っておいていいのか?」
首領はいやらしい笑顔を浮かべた。
「大丈夫。彼女は君たちなんかに負けないから」
ジュリアは男たちの攻撃を軽やかなステップでかわしている。ダンスは貴族のたしなみらしく足さばきとか回避能力はかなり高い。しかもティエラやレイラやフェリサの剣を見てるからあんなの止まって見えるんだろう。ジュリアは相手が剣を振り上げたすきをついてノクターンパラソルを頭に叩きつけた。男は殴られたショックで気絶した。
「ちっ、クソ」
もう1人の男がナイフを投げた。ジュリアはノクターンパラソルを開く。ナイフは傘に当たって弾き返された。さすがアムル。ものすごい防御力だね。
「『闇の呪縛』」
ノクターンパラソルの先端から鎖が放たれてナイフを投げた男を拘束した。魔石の力があるにしてもかなり魔法をうまく使えるようになって来たね。残りは1人だ。
「くそっ。なめるんじゃねえ」
ジュリアは切りかかってきた剣をノクターンパラソルで受け止めつつ左手でスイッチを押した。ロックが外れて仕込み刀の絶陽が姿を現した。そのまま絶陽で腹を一閃した。しかしものすごい切れ味のはずなのに出血はなかった。
「安心なさい。ミネウチですわ」
そう。ジュリアは切れないミネって言う部分で攻撃したんだ。それでも細身ながらもすごい硬度の絶陽をみぞおちに叩きつけられるのは痛かったのか悶絶している。これでジュリアの敵は片付いたね。ちなみにボクの方は首領がバカ笑いを浮かべた瞬間に隠してたナイフを投げてとっくに倒していた。殺したわけじゃなくて刃に眠りの呪文がかけてあるだけだよ。もちろん急所は外してあるから命に別状はない。起きたころには牢屋だけどね。
「その女の子魔物だろ。通りであいつらが勝てないわけだ。一体種族はなんだ!」
首領はジュリアを見ながら言った。
「ヴァンパイアですわ」
ジュリアの言葉に首領は驚いた。
「ヴァンパイアだと?!バカな。太陽が出てるのに何でそれだけの力を出せるんだ!」
「太陽が上がってると弱くなる自分を変えるために努力したからですわ」
首領は信じられないっていう顔をした。そんなヴァンパイアがいるなんて思ってなかったんだろう。
「自分の境遇を呪うばかりで自分より弱い人を傷つけるような君にはわからないだろうね。まあ大人しく縛につくんだね」
ボクはそう言ってフェンリルを抜いた。ここは一騎打ちで決めた方がそれっぽいからね。
「できるものならやってみな!」
首領は剣を抜いた。剣の質はともかくとして全く手入れされてない。自分の武器くらい大切にした方がいいと思うよ。
「おりゃああ!」
首領はかなりの大振りに剣を振り回して来た。ボクは避けてフェンリルで剣を叩き落とした。ボクはフェンリルをのどに突きつけた。
「もう抵抗しない方がいいよ。あきらめて捕まりなよ」
「ち、畜生」
ボクは首領を縛り上げた。それから寝てる男たちに刺さったナイフを抜いて、ジュリアが倒したやつらも縛り上げた。こうしてジュリアの記念すべき初クエストは見事成功したのだった。
ボクたちは盗賊団を引き渡した報酬を受け取った後部屋に戻った。
「よくやったねジュリア。修業の成果が出てたと思うよ」
ボクが頭をなでるとジュリアは目をトロンとさせた。
「ありがとうございます。おかげでいいスタートダッシュが切れましたわ」
ジュリアはなでるのをやめるように言わなくなってきた。素直になったのか抵抗できないからあきらめたのかはよくわからない。
「ジュリアががんばったからだよ。ボクはちょっと手助けしただけさ」
ジュリアは照れたように微笑んだ。
「そう言ってくれるとうれしいですわ。これからも一緒にがんばりましょう」
ジュリアは拳を突き上げた後前に倒れこんだ。体を受け止めると寝息が聞こえてきた。
「やっぱり眠れてなかったんだね。それにあんなザコでも初めての戦闘は疲れたんだろうね」
ジュリアは幸せそうな顔で眠っている。どんな夢を見てるんだろうね。
「むにゃむにゃ。もう食べられませんわ。すぅ」
実際にそんな寝言を言う人初めて見たよ。ボクはジュリアを棺に運んであげた。こういうのお姫様だっこって言うんだっけ。
「んぅ。…ロキ」
ボクは夢の中で何をしてるんだろうね。ボクはジュリアを起こさないようにそっと棺の中に横たえた。
「お休みジュリア」
ボクはフタを乗せてゆっくりと閉める。
「…ぃすきですわ」
…ジュリアが言ったことはフタを閉める音で聞こえなかった。なんか顔の辺りが熱くなってきたから軽く冷却呪文をかけることにするか。
つづく
「明日は冒険者ギルドに行くよ。そろそろクエスト受けないと体がなまるからね」
ボクの言葉にジュリアは目を輝かせた。
「いよいよですのね。やっと鍛えた力を実戦で試せますわ」
ジュリアはかなり張り切ってる。少し熱くなりすぎじゃない?緊張してたり、怯えたりしてるよりはマシかもしれないけどさ。
「とりあえず今日は睡眠をよく取った方がいいよ。わくわくして眠れなくなる気持ちはわからなくもないけどさ」
「な、何を言ってますの?!わたくしは別に遠足の前日に目が冴えて眠れないとか、かなり早い時間に目が覚めてしまうなんてことはありませんわよ!」
ジュリアは真っ赤になって否定してきた。ボク何も言ってないんだけど。
「はいはい。とにかく準備だけはちゃんとしといてね」
「わかりましたわ。明日はがんばりますわよ!」
すさまじい情熱だね。とりあえずバトルがありそうなクエストをとってあげるか。
「ここが冒険者ギルドですのね。思ってたより大きいですわね」
ジュリアはギルドの建物を見て感動の声をあげた。
「ベントルージェ領は冒険者の町って言われてるからね。冒険者が集まるからギルドも自然と大きくなるってわけさ」
まあそのせいで変なのが入ってきたりしてるんだけどね。組んだりすることがない限りどうでもいいけどさ。
「そんなことより早く行きますわよ」
ジュリアはそう言って中に入ってしまった。
「いくらなんでも慌てすぎだろ」
ボクは溜息を吐きながらジュリアの後を追った。
「こんな所に何しにきたんだいお嬢さん。ここは君のような人が来るような所じゃない。まあどうしても冒険したいって言うんならおれがあんなことやこんなことを教えてあげてもいいけど」
かなりなれなれしいナルシストがジュリアに話しかけている。実力もたいしたことなさそうだし、多分女の子にモテたいって理由でなったって所だろう。
「お断りですわ。もう組む相手は決まってますの」
「どうせお嬢様の道楽に付き合おうっていう素人だろ。そんなやつよりおれの方がいいって」
そりゃ黒地に赤のレースがついたゴスロリなんて着てたらお嬢様の遊びにしか見えないだろうね。コティが戦闘用にあつらえたんだけど正直趣味が入りすぎだと思う。まあかわいいからいいけど。
「言いたいことはそれだけですか?」
ジュリアはノクターンパラソルを構えた。さすがにここらへんで止めといたほうがいいかな。
「ボクの大事な連れにちょっかい出さないでくれる?」
ボクはジュリアの手を握りながら割り込んだ。ジュリアは手の力を抜いた。
「なんだお前。おれを誰だと思ってるんだ?」
「誰でもいいよ。どうせここに来たばかりだろうしあまり名も知れてないだろうからね」
ボクがスルーすると相手の男は怒り出した。
「そう言うお前は誰なんだ?!」
「ロキ=ヴェーデルシュルグ」
ボクが答えると相手の男は目を見開いた。
「ロキ?!『魔物の調教師』、『魔物キラー』、『コゼットサバト幻のナンバー0』の異名で知られてて、この町に住んでる全ての魔物にフラグを立ててるってウワサのあの?!」
男はショックを受けたようだった。なんでそんな話ばかり知ってるんだろう。かなり不純な動機で冒険者になったってことが見え見えだよ。
「…どうでもいいから早くクエストを見ますわよ」
ジュリアは不機嫌そうに言った。ボクだって好きでそんな変な異名つけられたわけじゃないんだけど。
「了解。…これがいいんじゃないかな?」
ボクが選んだのは10人組の窃盗団の確保だった。どうやら貧しい者ばかり狙っているらしい。どうせなら金持ちを狙えばいいと思う。いくら警備が厳しくて侵入しにくいからって貧しい人の物に手を出すなんて最低すぎる。
「いい選択ですわね。そういう弱者をいたぶる人たちは早く捕らえてしまったらいいですもの」
どうやらジュリアのお母さんは社会的に弱い人にも優しい人みたいだね。貧乏人をバカにするような鼻持ちならないタイプの貴族じゃなくてよかったよ。
「領主様もそういう考えだから報酬もいいんだよね。それじゃ報告書くれる?」
「はい。情報はこちらです」
ボクたちはギルドを出てから情報を確認した。どうやら予想通り小物しかいないみたいだ。ジュリアの力試しにはちょうどいい相手だね。
「さすがにアジトはわかってないようですわね。どうやって調べるんですの?」
最もな疑問だね。そりゃ1人で調べるのは難しいだろう。
「大丈夫。ボクの情報網はすごいからね」
ボクはそう言ってボクが手に木の実を何個か乗せると空から急降下してくる影が3つ見えた。
「あ、私たちの力を借りたいんだね」
「今度はどんな情報が欲しいの?」
「その前に木の実ちょうだい」
降りてきた3人は一斉に騒ぎ出した。あいかわらず元気だね。
「なるほど。ハーピーなら空から色々見てるから情報が集まりやすいってわけですわね」
そういうこと。使えるものはどんなものでも使っていかないとね。
「あ、自己紹介するね。私は長女のミウ」
「私は次女のリルハ」
「私は三女のシュヨク」
「「「人呼んでハーピー三姉妹!よろしく」」」
やっぱりテンション高いな。もう慣れたけど。
「ヴァンパイアのジュリアですわ。よろしくお願いします」
「へー。あなたがあの日光に勝とうとしてる変わったヴァンパイアなんだ」
「ロキと一緒にいるからそうじゃないかと思ったんだよねー」
「修業は順調に進んでるの?」
すごいマシンガントークだね。話が終わるまで待ってたら日が暮れちゃうよ。
「それよりこいつらのアジトとかわかる?」
ハーピー三姉妹はボクが見せた人相書きをのぞきこんだ。
「あっ。こいつら見たことあるよ」
「なんかコソコソしてたよね」
「怪しかったからよく覚えてる。ちゃんと尾行してたからアジトつきとめてあるよ」
どうやら当たりだったようだ。ヘタすると町中のハーピーを集めないといけなくなるから助かったよ。
「それじゃアジトに案内してくれる?」
ボクは木の実を三姉妹の口に放り込んだ。三姉妹はおいしそうに食べてからアジトのあるところに飛んでいった。ボクはその後を追った。
「完全に餌付けされてますわね」
ジュリアは呆れたような顔をしながらも三姉妹の後を追った。
「なんだお前ら。ここに何のようだ!」
「冒険者だよ。君たちの窃盗団をつぶせってクエストを受けたから来たんだ」
悪人面した首領は顔を真っ赤にさせて怒った。思ったとおり単細胞だね。
「なめやがって。お前らやっちまえ」
首領がそう言うとボクに6人、ジュリアに3人がついた。
「女の子に3人がかりはないんじゃない?しかも自分は高みの見物って勝てる自信ないの?」
「うるせえ。お前たちなんかおれが出るまでもない。そう言うお前こそ彼女を放っておいていいのか?」
首領はいやらしい笑顔を浮かべた。
「大丈夫。彼女は君たちなんかに負けないから」
ジュリアは男たちの攻撃を軽やかなステップでかわしている。ダンスは貴族のたしなみらしく足さばきとか回避能力はかなり高い。しかもティエラやレイラやフェリサの剣を見てるからあんなの止まって見えるんだろう。ジュリアは相手が剣を振り上げたすきをついてノクターンパラソルを頭に叩きつけた。男は殴られたショックで気絶した。
「ちっ、クソ」
もう1人の男がナイフを投げた。ジュリアはノクターンパラソルを開く。ナイフは傘に当たって弾き返された。さすがアムル。ものすごい防御力だね。
「『闇の呪縛』」
ノクターンパラソルの先端から鎖が放たれてナイフを投げた男を拘束した。魔石の力があるにしてもかなり魔法をうまく使えるようになって来たね。残りは1人だ。
「くそっ。なめるんじゃねえ」
ジュリアは切りかかってきた剣をノクターンパラソルで受け止めつつ左手でスイッチを押した。ロックが外れて仕込み刀の絶陽が姿を現した。そのまま絶陽で腹を一閃した。しかしものすごい切れ味のはずなのに出血はなかった。
「安心なさい。ミネウチですわ」
そう。ジュリアは切れないミネって言う部分で攻撃したんだ。それでも細身ながらもすごい硬度の絶陽をみぞおちに叩きつけられるのは痛かったのか悶絶している。これでジュリアの敵は片付いたね。ちなみにボクの方は首領がバカ笑いを浮かべた瞬間に隠してたナイフを投げてとっくに倒していた。殺したわけじゃなくて刃に眠りの呪文がかけてあるだけだよ。もちろん急所は外してあるから命に別状はない。起きたころには牢屋だけどね。
「その女の子魔物だろ。通りであいつらが勝てないわけだ。一体種族はなんだ!」
首領はジュリアを見ながら言った。
「ヴァンパイアですわ」
ジュリアの言葉に首領は驚いた。
「ヴァンパイアだと?!バカな。太陽が出てるのに何でそれだけの力を出せるんだ!」
「太陽が上がってると弱くなる自分を変えるために努力したからですわ」
首領は信じられないっていう顔をした。そんなヴァンパイアがいるなんて思ってなかったんだろう。
「自分の境遇を呪うばかりで自分より弱い人を傷つけるような君にはわからないだろうね。まあ大人しく縛につくんだね」
ボクはそう言ってフェンリルを抜いた。ここは一騎打ちで決めた方がそれっぽいからね。
「できるものならやってみな!」
首領は剣を抜いた。剣の質はともかくとして全く手入れされてない。自分の武器くらい大切にした方がいいと思うよ。
「おりゃああ!」
首領はかなりの大振りに剣を振り回して来た。ボクは避けてフェンリルで剣を叩き落とした。ボクはフェンリルをのどに突きつけた。
「もう抵抗しない方がいいよ。あきらめて捕まりなよ」
「ち、畜生」
ボクは首領を縛り上げた。それから寝てる男たちに刺さったナイフを抜いて、ジュリアが倒したやつらも縛り上げた。こうしてジュリアの記念すべき初クエストは見事成功したのだった。
ボクたちは盗賊団を引き渡した報酬を受け取った後部屋に戻った。
「よくやったねジュリア。修業の成果が出てたと思うよ」
ボクが頭をなでるとジュリアは目をトロンとさせた。
「ありがとうございます。おかげでいいスタートダッシュが切れましたわ」
ジュリアはなでるのをやめるように言わなくなってきた。素直になったのか抵抗できないからあきらめたのかはよくわからない。
「ジュリアががんばったからだよ。ボクはちょっと手助けしただけさ」
ジュリアは照れたように微笑んだ。
「そう言ってくれるとうれしいですわ。これからも一緒にがんばりましょう」
ジュリアは拳を突き上げた後前に倒れこんだ。体を受け止めると寝息が聞こえてきた。
「やっぱり眠れてなかったんだね。それにあんなザコでも初めての戦闘は疲れたんだろうね」
ジュリアは幸せそうな顔で眠っている。どんな夢を見てるんだろうね。
「むにゃむにゃ。もう食べられませんわ。すぅ」
実際にそんな寝言を言う人初めて見たよ。ボクはジュリアを棺に運んであげた。こういうのお姫様だっこって言うんだっけ。
「んぅ。…ロキ」
ボクは夢の中で何をしてるんだろうね。ボクはジュリアを起こさないようにそっと棺の中に横たえた。
「お休みジュリア」
ボクはフタを乗せてゆっくりと閉める。
「…ぃすきですわ」
…ジュリアが言ったことはフタを閉める音で聞こえなかった。なんか顔の辺りが熱くなってきたから軽く冷却呪文をかけることにするか。
つづく
10/01/25 21:32更新 / グリンデルバルド
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