連載小説
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第六話ヴァンパイア襲来
 ジュリアが初クエストを達成してから1ヶ月がたった。日光に弱いはずのヴァンパイアが冒険者をしていることはすぐに有名になり、いつしかジュリアには『陽光の中を歩く者』という異名で呼ばれるようになった。ボクもそれにあわせて『鮮血の守護者』っていう異名が増えたらしい。今さら異名が増えてもどうとも思わないけどさ。
「はあ。今日のクエストはハードでしたわね」
 ジュリアは疲れ果てた様子で言った。
「お疲れ。あのダンジョントラップ多くて大変だったよね」
 今回のクエストはあるダンジョンの宝を取って来いというものだった。太陽の光が届かなかったから敵はそこまで脅威じゃなかったけど、トラップが多くて苦労してた。少し義姉さんがいたダンジョンを思い出したよ。
「うぅ。色々フォローしてもらったようですみません」
「気にしなくていいよ。慣れてるから」
 トラップに引っかかった仲間を助けることくらい日常茶飯事だからね。とにかく突っ走るタイプと組むことが多いからかもしれないけどさ。
「それにジュリアがトラップに引っかかったのはがんばった結果だからね。だったらそれでいいじゃん」
「そ、そうですわね。わたくしはわたくしらしくがんばっていけばいいんですわ」
 うーん。少し調子に乗せすぎちゃったかな。まあ落ち込んでるよりはいいか。
「とりあえず達成祝いにバーにでも行こうか。今日はクリアシーのライブがあるんだ」
「いいですわね。わたくしあの娘たちの歌大好きですわ」
 ボクも彼女たちの歌好きだよ。もともと歌が得意な種族なのもあるけど、とても楽しそうに歌うからこっちも幸せな気分になってくるんだ。

 そんな話をしていると突然異様な気配を感じた。なんかすごく殺気を感じるんだけど。
「ど、どうかしましたのロキ?」
 ジュリアは気付いてないみたいだ。こういうのは経験の差かもしれない。それにしてもなんだろうこの気配。ボクが感じる気配は3つだ。一番小さいのは多少の魔力は感じるけど人間だ。次に大きいのは半分魔物で半分人間のような気配。意図的に半魔物化させたってことか?もう1つは何か普段から感じてるような感じの気配だね。ここから導き出されることは…。
「何この状況。かなりヤバくない?」
「一体どうしたんですの?」
 気配感じないのがうらやましいね。いや、そもそも殺気がジュリアには向けられてないからなのかもしれない。なぜなら多分この気配の正体は…。

「探したぞジュリア。こんな所におったのか」
「お母様?!」
 やっぱりそうだったか。まあ予想はついてたけどね。
「ジュリア。君お母さんに連絡入れてなかっただろ」
「…あ。すみません。置手紙はして来たんですが、手紙を出すのをすっかり忘れてました。お母様にはご心配をおかけしましたわ。ロキもわたくしのせいでご迷惑をかけてしまいましたわね」
「ボクのことは気にしなくていいよ。連絡してた所で何も変わらなかっただろうからね」
 ジュリアが手紙にどう書くかくらいボクにも予想はつく。もし手紙に書いてなくても会いに行く段階でボクのことくらい耳に入るだろうからね。表情を見ただけでどんな話を聞いたのか想像つく。
「わらわの娘が世話になったようじゃな。連れ帰るがかまわんか?」
 口調は穏やかだったけど明らかに脅してるよね。
「それを決めるのはジュリアですからね。ボクは彼女が決めたことに従うだけです」
 ボクの言葉にジュリアのお母さんはニヤリと笑った。
「若いくせに食えぬ男じゃな。まあいい。帰るぞジュリア」 
 ジュリアのお母さんはジュリアに手を伸ばした。

「……ごめんなさいお母様」
 ジュリアはボクの腕をギュッと握った。今はもう日が沈んでるからある程度手加減はしてるんだろう。
「ジュリア?」
 ジュリアのお母さんは呆然としていた。ジュリアがお母さんに逆らったことはなかったんだろう。ほとんどの貴族ってそうなのかもしれないけどさ。
「わたくしにはここでやらなければいけないことがあるんですの。連絡してなかったことはすみませんでしたが家に帰ることはできませんわ」
 ジュリアは震えながらもしっかりとした目で言った。
「ジュリアお嬢様。まさかその男にたぶらかされて…」
 ジュリアのお母さんについていたメイドさんがボクに非難の目を向けてきた。
「魅了呪文は得意だけどジュリアには何もしてないよ。所で君は一体誰?感じから言ったら半ヴァンパイアっぽいけどそんなの聞いたことない。ヴァンパイアは貴族のはずなのにメイドやってるのも不思議だし」
「な、なんでわかったんですか?!」
 メイドさんはあからさまに動揺しはじめた。まあ普通驚くだろうね。
「その人はサラ。ご察しの通り半分人間で半分ヴァンパイアですわ。人間をヴァンパイアに変える時に入れる魔力を調節することでメイドにしてヴァンパイアのやり方を学ばせることもありますの。一人前と認められたら魔力を注いでヴァンパイアになるんですの。長い間半ヴァンパイアとして過ごしていて純化という作用が起こってヴァンパイアになるということもありますわ。主に個人的な趣味を満たすためと朝に出歩く時の護衛用ですわね」
「ああ。やっぱり趣味だったんだ」
 ボクの言葉にサラさんは顔を赤くした。
「そんなことありません。エルザ様にはもっとちゃんとしたお考えがあって」
「いや、趣味じゃ」
「エルザ様?!」
 ジュリアのお母さんってエルザって名前なんだ。意外と面白い人かもしれない。

「と、とにかくその男は軽すぎます。それに良くないウワサも色々聞きました。ジュリアお嬢様にはふさわしくありません」
 やっぱりそういうウワサは広がってるんだね。少しひがみが入ってるような気もするけど。
「確かにロキは軽いですわ。いつも笑ってて何考えてるかわからないし、平気な顔で無茶するし、天然魔物たらしだし、いつもわたくしの心をかき乱してばかりいますわ」
 それを聞いてサラさんはボクに鋭い目を向けた。まだジュリアの話は続いてるんだけどな。
「でもかっこよくて、強くて、頭がよくて、とっても優しい方ですの。わたくしのことをわかってくれて、支えてくれますわ。わたくしロキをあ、あ、愛してますの…」
 ジュリアは顔を真っ赤にしてうつむいた。釣られてサラさんの顔が赤くなり、エルザさんはニヤニヤ笑っている。あー。もう誰かこの空気何とかしてくれないかな。

「ちょっと待て!それじゃジュリアの婿候補として連れてこられたおれの立場はどうなるんだ?!」
 あえて無視していた人間の男が何か言い出した。
「そうなの?その割にはマーキングすらされてないみたいだけど」
 そう。首を見る限りボクにあるようなマーキングがない。
「というよりブラドがわたくしの婿候補として連れてこられたなんて初耳ですわ。今まで弟のようなものだと思ってましたわ」
 年上なのに弟なんだ。
「つまり孤児を自分で育てたってこと?優しいんですねエルザさん」
「そ、そんなことないぞ。ただジュリアの婿にでもなればいいと思っただけじゃ。一目見てプイッと首を振ったのですぐあきらめたがな」
 なんかブラドって人の扱いがわかるような気がする。
「それでもサキュバスやダークスライムとかに渡すこともできたはずでしょう?それをしなかったのはエルザさんが慈悲深くて母性が強かったからだと思いますよ」
「そ、そうかのう?別に大したことしたつもりはないんじゃが」
 エルザさんはなんか照れているみたいだ。自覚がなかった分照れくさいのかもしれない。

「…はっ。母上をたぶらかそうとしてもそうはいくか!ジュリアの兄として黙ってるわけにはいかないぞ!」
 エルザさんの愛情に感動していたブラドが我に返って言い放った。少し調子に乗せすぎたかな?
「弟ですわ」
 ジュリアはまだそこにこだわっているみたいだ。
「じゃあどうするの?ボクと決闘でもしてみる?」
「おう、望むところ」
 ブラドが答えようとした瞬間サラさんが前に出てきた。
「ブラド様では弱すぎて瞬殺されてしまいます。それではフェアじゃないでしょう。ここは私が出ますけどよろしいですね?」
 そう言われたブラドはかなり落ち込んでいた。
「ブラドに傷ついて欲しくないから出てきたってことだね。主の息子を守りたいのかそれとも」
「と、とにかく、ジュリアお嬢様と一緒にいたいなら私に実力を認めさせてからにしてください」
 サラさんはすごい勢いで遮った。やっぱりそういうことなのかな?
「そんな面白そうなことわらわを差し置いて決めるのは気に入らぬ。だが確かにジュリアを守れるかどうかは見ておく必要があるのう。ロキ殿はそれでよいかな?」
 エルザさんかなり楽しんでるみたいだね。どうやら印象はあまり悪くないみたいだ。
「いいですよ。半ヴァンパイアと戦う機会なんてめったにないでしょうからね。ここでは人を巻き込むこともあるので場所を変えましょう」
 ボクがジュリアを連れて歩くと後ろからエルザさん、サラさん、ブラドがついてきた。
「すみません。わたくしのせいで面倒なことになってしまって」
「本当に面倒だよ。ジュリアといるとやっかいなことばかり起こるよね」
 ジュリアはボクの言葉にしょんぼりとしてしまった。
「まあ退屈よりは面倒な方がいいからね。ジュリアがいると面白くて飽きないよ」
「な、なんですのその言い草!」
 ジュリアはそう口では怒っていながらも少しうれしそうだった。ジュリアとの日々を失う気は全くない。ここは少し本気を出してみようかな。

         つづく
10/02/11 23:15更新 / グリンデルバルド
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■作者メッセージ
第六話です。勝手な設定を付け足してすみません。実はある吸血鬼の小説を参考にしてたりしてます。愛読者やサ○デー読者ならピンと来るかもしれません。次はジュリア視点で書くつもりです。

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