連載小説
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大きな種
 大きな種をもらった。
 丁度、頭位の大きさで、硬い殻に覆われたお饅頭みたいな形をしている。魔界の植物の種らしく、根っこと蜜を分けてあげたらダークエンジェルさんがお礼にくれた。
 たっぷりの水と日光を与えてあげれば元気に育つそうで、鉢植えの仕方も少し変わっている。底の浅い皿に水を張り、その上に種を乗せる。わざわざ土を用意する必要はないらしい。普通は土の中に埋めるけれど、この植物は室内でも窓辺で簡単に育成が可能だと言っていた。
 私は植物を育てるのが大好きだ。植物の魔物が植物を育てるなんて変だって笑うかもしれないけれど、好きなんだから仕方ない。みんな気が付かないだけで植物は毎日その表情を変えているのだ。
 この子は一体どんな表情を見せてくれるのだろう。まだ見ぬ新芽の表情を思い浮かべると幸せな気分になった。

・・・

 早起きは三文の得というし自然と目が覚めるのは気分が良いものだ。朝の栄養補給のためにカーテンを開けると、思った以上に元気な陽光が部屋に飛び込んできて思わず目を細める。光に戸惑う私の様子が可笑しかったのか小鳥は楽しそうにさえずっていた。
 今日もなんだか楽しい一日になりそう。何の根拠もないのだけれど、そんなことを思ってしまう。

「あ、おはよう」

 視線を落とすと昨日の種が壷上に開き、そこからニョッキリと芽が出ていた。太さは大体1センチ位で長さは20センチ位あるのだけれど、葉っぱは一枚もついていないので単子葉類なのか双子葉類なのかも分からない。けれど声を掛けると左右に揺れて返答してくれた。
 指先で先端を撫でると最初はくすぐったそうに体をくねらせたが、すぐに大人しくなって素直に撫でられていた。暫くするとよっぽど気に入ったのか、手を止めても体を摺り寄せてもっとして欲しいとせがんでくる。

「はは、くすぐったいよ・・・ あ、こら、服の下に潜り込まないでよ」

 苦笑しながら服の中から引っ張り出すと、キューキューと小さな鳴き声を上げて手の中で大人しくなった。駄目でしょ、と叱る代わりに指先でツンツンと突く。指先で先端を突くとフニフニとした感触がなんとなく癖になる。しばらく突いていると暫く手の平の上で逃げ回っていたのだが、ついに反撃に転じた。
 先端がぱくりと割れたかと思うとカプリと指先を咥える。歯はないので痛くはなく、噛む気もないので指先を揉まれているようだ。マッサージをされているような心地良い感覚に思わず目を細める。

「名前・・・どうしようか? 名前、欲しいよね?」

 指を吸われていると唐突にそんなことを考えた。やっぱり名前は欲しいだろう。その方が愛着湧くし、一緒に生活する上で都合が良い。訊ねると、やっぱり名前は欲しいそうだ。
 一体この子はどんな名前が良いだろうか。

「ガーディンオフシアスでどうかな? 大地の守護者って意味なんだけど・・・」

 ブンブンと首を振られた。そんな名前負け確定な名前は恥ずかしいとの事だ。本人が嫌がるのなら仕方ない。格好良くて似合うと思ったのだけれど、ガーディンオフシアスは没か。残念だ。

「うーん・・・クーネにしよう! ・・・駄目かな?」

 名前はほとんど思いつきだ。クネクネしていたから、クーネという単純なものだが、随分気に入ってもらえたようでブンブンと首を振り、何度も何度も先端を頬に押し付けた。くすぐったくてむず痒い。射程圏内から逃れても一生懸命身体を伸ばして感謝の意を表そうとしていた。
 微笑ましい光景を楽しんでいたのだが、ふっと視線を移すと約束の時間まであと少しだった。

「おっといけない! ごめんね、ちょっと朝御飯食べてくるよ」

 可愛がってあげたい所だけれど、週に一回はニアと朝食を食べる約束だ。
 指に巻きついて甘えて来たけれど、もう一度謝ると諦めて名残惜しげに体を解いた。素直で良い子だね、と褒めて指先で先端をポンポンとしてやると、誇らしげに体を起こして自己主張した。

「すぐ戻ってくるから、ちょっとだけ待っててね!」

 玄関で振り返ると、体をゆっくりと揺らした後にコクコクと上下に動いた。
 友達はいっぱいいるけれど、部屋では大抵一人ぼっちになる。明日になればまた会えるとは分かっていても、ガランとした部屋にポツリと居るのは寂しいものだ。
 靴を履いて振り返り「行ってきます」と手を振ると、「気を付けてね」と左右に体を振って応えてくれた。
 できるだけ早く帰ってきてあげよう。固く心に誓って扉を開けて外に飛び出す。
 外は気持ちの良い晴れ。サワサワと鳴る梢から零れ落ちる木漏れ日の中を泳ぐ。頬を撫でる風が心地よい。地面を蹴り草原に躍り出る。一瞬だけ体が浮き上がり視界が真っ白になった。

「リディアちゃん、遅いよ〜」
「ごめんね」

 急いで来たのだけれど、少しニアを待たせてしまったようだ。謝るとニアは気にしないでと笑った。プラチナブロンドの流れるような綺麗な髪にアメジストのような澄んだ瞳を持っている。そんな、お人形さんみたいな少女の奇妙な事に頭からは二本の角とお尻からはアクセサリーみたい尻尾が生えていた。
 彼女はアリスという魔物らしい。
 ニアのお母さんはサキュバスなのだけれど種族が違うのは、どうやら突然変異という事らしい。もちろん、ニアは愛情をいっぱいもらっている。種族がお母さんと子で違うのは割とある話で、エキドナの場合には第一子以外は種族がてんでバラバラになったりする。

「リディアちゃん、シート広げて」

 言われた通りにシートを広げる。アルラウネのお姉ちゃんがアラクネさんに言って作ってもらった特別製だ。靴を脱いでニアの隣に座ると、私やお姉ちゃんとは違った甘い香りが香る。

「ふふ・・・」
「どうしたの?」
「今日も良い匂いだなーって」
「?」

 ニアは少しだけ首を傾げて肩の当たりに可愛らしい鼻を押し付けた。けれど結局分からなかったらしく小さく首を振った。そういえば、このまえ町に行ったときに薬屋の人に言ったら「ちょっと親父っぽいよ」と笑われた。
 「綺麗だね」とか「良い匂い」というのは、私達にとっては一番の褒め言葉なのに。

「なんでかな?」
「さぁ・・・? まぁ、とりあえず、ご飯にしよ!」

 ニアは微笑むと後ろからバスケットを取り出した。バスケットを開けるとハムやレタスが挟んだ彩り豊かなサンドイッチがきっちりと収まっている。
 思わず息を飲むとニアは少し誇らしげな表情をした。お母さんに手伝ってもらったようだ。もちろん私も用意している。と、言っても私の今日の担当は飲み物なので、水筒しか持ってきていない。
 カップに水筒の紅茶を注ぐ。特製の茶葉に秘密の調合、喫茶店のマスターお墨付きの紅茶だ。琥珀色の液体で満たしたカップからは豊かな香りが放たれた。ニアは紅茶は甘い方が好きだから砂糖だってちゃんと用意している。
 お互いが持ち寄った朝食を半分こして交換する。

「「いただきます」」

 手を合わせて挨拶。
 もらったサンドイッチを頬張ると口の中に新鮮なトマトの味が広がった。

「美味しい♪」
「リディアちゃんの紅茶も美味しいよ」

 もぐもぐとよく噛んで飲み込む。いつも他愛ない話をしながら食事をとるこの朝食の時間は至福のひと時だ。

「そういえば、ニアのお母さんとお父さんは朝食取らないの?」
「え? いつも食べてるよ?」
「でも、おうちのサンドイッチでしょ? こんなにたくさん大丈夫なの?」
「あぁ♪ 大丈夫だよ。 お母さん、お父さんを食べるって言ってたから」
「お父さん"を"食べる? お父さん"と"食べる・・・じゃなくて?」
「うん・・・あれ? そういえば変だね。 お母さん、言い間違ったのかな?」
「そうだね。 あはは、ニアのお母さん、おっちょこちょいだなぁ〜」

 食後の談笑を楽しんだ後は二人で片付けをして、帰る準備をする。

「あ、そういえば・・・ この前、ダークエンジェルさんに種貰って植物育てはじめたよ?」
「え、本当?」
「うん」
「遊び行っていい?」
「もちろん♪」

 ニアは一旦家に帰って荷物を置いてから私の家に遊びに来るらしい。じゃあ、先に家に帰って準備しているねと応えるとニアは頷いた。一旦別れて、私は家に帰ることにする。

・・・

「ただいまー」

 帰宅を告げると「待ってました!」とばかりにクーネは身体を伸ばして迎えてくれた。軽く撫でてやると嬉しそうに腕に身体を絡めてくれる。日向で日光をタップリ浴びたためか、ほのかに青臭い匂いがした。心地良くて安心する匂いだ。

「っと・・・ そうだ、今日はニアが遊びにくるよ? 一緒に遊ばない?」

 くぃ、と先端を傾いだが、すぐにヒョコヒョコと元気よく上下した。一緒に遊びたいという意思表示で、楽しげに身体を揺らしている。今すぐにでも来て欲しいようだ。「それじゃあ、迎える準備をしないとね」と、悪戯半分に雑巾を渡してみる。

「おわぁ」

 壷の中からもう一本蔓が伸びてきたかと思うと、雑巾を器用に絡めとり身体を伸ばして届く範囲の部分を拭き始める。てっきり、伸びていた蔓で絡め取ると思っていたのでちょっぴり間抜けな声を出してしまった。

「ねぇ、クーネ。 クーネっていっぱい蔓を持っているの?」

 試しに訊ねるとクーネは「あるよ!」と主張するように自慢げに沢山の蔓を伸ばした。その数は約20本。全て元気よくくねらせる。手を乗せるとコショコショと心地良い。

「・・・いっぱい掃除ができそうだね!」

 悪戯半分に言うと手の下でピッタリと動きを止めた。

・・・

 そうこうしている内に片付けも終わり、丁度良いタイミングでコツコツと入り口が叩かれた。玄関の覗き窓から外を覗くと柔らかいプラチナブロンドの髪が見えた。すぐに扉を開けて招き入れる。

「お邪魔しま〜す」
「どうぞー 上がってー」
「いい部屋だね」

 短い廊下を抜けて部屋にたどり着くと、ニアは心底楽しそうな表情で部屋を見渡した。ここは魔力を媒介として木の中に空間を作り、そこに存在する部屋だ。魔力が強ければ大きな部屋を作る事ができるのだけれど、私は魔力の扱いが上手くないので狭い部屋になってしまう。それに慌てて片付けたので、シゲシゲと眺められると恥ずかしい。
 背中を押して部屋に連れて行くと、今度は窓辺のクーネに興味が移った。

「こんにちは」

 ニアが挨拶すると返答するようにコクンコクンと頷いて、スルスルと蔦を一本伸ばしてきた。突然のクーネの行動に驚いたが、友好的な態度に安心したようだ。恐る恐る手を伸ばしかけて、ぴたりと手を止めた。

「噛んだりしない?」

 こちらを見て訊ねるニアの隙をついて、スルリと巻きつきカプリと指に甘噛みした。慌ててニア手を引っ込めるとクーネは愉快気に身体を左右に揺らした。
 ニアの膨れっ面を見て、思わず私も吹き出してしまう。クーネは結構悪戯好きで噛んだりしないと訊ねられたから、わざと噛んだのだろう。悪戯しちゃ駄目だよ、と私がクーネを嗜めると、ごめんねと軽く身体を下げて、改めてクーネは初対面の挨拶をするべく、ソロリと伸ばした。

「初めまして、私はニア」

 ニアが言うと、コチラこそとでも言うようにしっかりと手に絡める。

「この子がクーネ?」
「うん」
「うわ、くすぐったいよ・・・」

 名前を呼ばれると、嬉しそうに顔に触手を伸ばし腕や顔に摺り寄せる。人懐っこくて嬉しいことや楽しい事は全身を使って体いっぱいで表現する。ニアが笑ったのを見て満足したのか、ソロリと身体を引いた。

「図鑑では見た事あったけど・・・ 魔界の植物は初めてみたよ・・・」
「ダークエンジェルさんから貰ったんだ」
「種から育てたの?」
「うん♪」
「へぇ・・・それと・・・この子、植物じゃなくて多分触手だよ?」

「・・・そうなんだ!」

 触手も私も顔を見合わせて驚いた。
11/01/25 23:31更新 / 佐藤 敏夫
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■作者メッセージ
触手マイスターのくびなしさんのSSを読み
触手に萌えたという理由で喧嘩を売るべく執筆を開始
よろしい・・・ならば、ほのぼの触手だ

思わずテイクアウトされてしまうような、ヘタレのドリル触手 やべぇよ あの子
目標はあの子だ

エロ無し(予定)で萌える触手を書いてやろうではないか!!!

いくぞ触手マイスターくびなし(さん)!!! 触手の貯蔵は十分かぁ!!!


生まれてきてゴメンナサイ
くびなしさんの触手に萌えただけの犯行なんだ・・・

追伸
キャラは一応、拙作「悪ラウネ」を用いております(宣伝)

エロ書け! って注文が多かったら最後の方で書くかも・・・

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