連載小説
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煌めく星
「いやぁ、思ったより楽勝だったね」
「寧ろ……こっちは六人しかいないのに、手も足も出なかった方が不思議でならないな」


敵の海賊を一人残らず一掃し、勝利の喜びを噛みしめた。
ついさっきまで海上にて他の海賊に襲われたものの、巧みな戦術によって見事に返り討ちにしてやった。相手は約三十人程いたにも関わらず、私たちへの被害は皆無で誰一人として怪我を負ってない。寧ろ、敵の船にある食料や金品を手に入れる事が出来て大儲けとなった。

「さてと、敵は全員海に沈めた事だし、早速戦利品を取りに行こうか!」
「まぁ、あれ程の弱さだったら大して期待も出来ないがな」

そして私は隣にいる、茶髪で口元をマスクで覆ってる青年……バジル君と一緒に敵船に積んである食料や金品を取りに行く事にした。
バジル君は私と一緒に旅をしている頼もしい仲間だ。以前彼に出会った時からその頼もしさに惚れ込んで私からスカウトすると、バジル君も承諾してくれた。それからは私の海賊団の船員として一緒に海の冒険をする事に……まぁ海賊団と言っても、未だに私とバジル君の二人しかいないけどね。



ドォン!!



「フハハハハ!手応えの無い連中よのぉ!」
「あ、黒ひげさん!」

敵船のドアが乱暴に蹴り飛ばされると同時に、その奥から、黒くて長い髭を生やした巨体の人間の男……黒ひげさんが現れた。余裕綽々とでも言いたげな表情で、何やら大きめの革袋を肩に担いでる。どうやら船の中にある金品を根こそぎ盗って来たようだ。
黒ひげさんは世間から伝説と呼ばれている凄腕の海賊で、黒ひげ海賊団の船長を務めている。戦闘においても大剣を容易に振り回したり、爆発を起こす爆破魔法などを駆使するなど、もはや尋常じゃない程の強さを秘めている。
さっきまで私たちに襲ってきた海賊たちも、黒ひげさんが敵側にいると知った途端、蜘蛛の子を散らす様に逃げ回った程だ。まぁ、黒ひげさんの登場で敵の海賊たちも戦意を半分ほど失ったから、お蔭で戦闘が楽になったけどね。

「金品とかはそれで全部?」
「うむ。だが食料がまだ残っていてな、向こうにエルミーラたちがいるから、我の船に運ぶのを手伝ってやれ」
「はーい!」

補足すると、現在私とバジル君は黒ひげさんの海賊船『ダークネス・キング号』に乗せてもらい、暫くの間だけ同行させてもらう事になってる。
何故かと言うと、実は私はまだ自分だけの船を手に入れてない為、自由に海を渡る術が無いのだ。そして、自分の船が手に入るまでの間は黒ひげさんのところで厄介になる事になった。黒ひげさんも拒む事無く快諾してくれて、本当に有難い限りである。

「メアリー殿ー!バジル殿ー!近くにおるのなら手伝ってくれなのじゃー!」
「食料が予想以上に多くて、運ぶのに人手が要るのです!」
「…………援軍要請……」

すると、船の奥から三人の魔物の声が聞こえた。最初のはバフォメットのエルミーラさん、二番目のは龍の姫香さん、そして最後のはダークマターのセリンちゃんの声だろう。声の大きさかして、それ程距離は無さそうだ。
今の三人は、血は繋がってないけど黒ひげさんの娘でもある。三人共に黒ひげさんを父として慕っており、黒ひげ海賊団を支えている。

「うん!今行くから待っててー!」
「さっさと運ぶか……」

私とバジル君は、エルミーラさんたちを手伝う為に奥へ進んで行った…………。



〜〜〜数分後〜〜〜



「えっと、今回の収穫はこれくらいか……食料が意外と多めだね」
「つい最近になって他の海賊から取り上げたのだろうな」
「これで当分の間は食料には困らんじゃろう♪でもプリンとかチョコレートとかが一つも無いとはどう言う事じゃ?」
「お姉さま、それ一番必要無いものです」
「…………どれも新鮮……食べれる……」
「おお、ラム酒もあったか!満足、満足!」

敵船から食料を全てダークネス・キング号に運び終えた私たちは、船の甲板にて改めて戦利品を確認した。
通貨や宝石こそ少ないものの、新鮮な肉や魚などの食料は想像以上に多い。中にはラム酒や白ワインなども積まれてたようで、お酒が大好きな黒ひげさんは満足しているようだ。

「さて、そろそろ出発の時……皆の者!準備は良いか!?」
「おお!何時でも良いのじゃ!」
「仰せのままに!」
「…………ゴー……」

エルミーラさんたちの承諾を得て、黒ひげさんは懐から指揮棒を取り出して船と同じ方向を指す。

「ダークネス・キング号!いざ進むのだ!」

そして私たちを乗せてるダークネス・キング号が徐に前進し始めた。
ただ……敵側が受ける仕打ちは、金品や食料を奪われるだけではなかった……。

「……そろそろ良いか」
「あ、またやるの?」
「無論だ。では……」


パチン!



ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!



「……相変わらず派手にやるね」
「フハハハハ!我と言う名の辞書に、容赦と言う言葉など無い!」

黒ひげさんが指を鳴らした瞬間、敵の海賊船が爆発し、無残にも海底へと沈んでいった。本当に相変わらず凄い魔法だ……。

……なんか、毎度の事ながら敵側が可哀想に思えてきた……南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……って、勝手に殺しちゃダメか。



〜〜〜数時間後〜〜〜



「モグモグ……ん〜!やっぱり姫香さんの料理美味しい!」
「ウフフ、ありがとうございます!」
「セリン、パンを一つ皿に頼む」
「…………はい、パパ……」
「うむ、すまんな」
「ビーフシチュー御代わりなのじゃー!」
「……ほら、ついでによそって来てやる」
「おお!バジル殿は紳士なのじゃ!」

夜の七時頃、私たちは六人揃ってダイニングにて夜ごはんを食べていた。今日の献立はバターロールにシーザーサラダ、そしてメインディッシュにビーフシチューと、海賊の食事にしては豪華な品揃えである。ちなみにどれも姫香さんが作った料理で、姫香さんはジパング出身であるにも関わらず、御覧の通り洋食も作れるとのこと。

「いやいや、こんなに贅沢が出来るのもメアリー殿とバジル殿が奮闘してくれたお陰じゃのう!」
「ううん、バジル君はともかく、私は大した事やってないよ」
「何を言うておる。バジル殿は勿論、メアリー殿も一緒に戦ってくれて、わしらは本当に助かっておるのじゃ」
「世話になってる身だから、アレくらいは当然だ。ほら、御代わり持って来たぞ」
「おお、ありがとうなのじゃ!」

自分の分とエルミーラさんの分のビーフシチューを持ってきたバジル君は、片方のビーフシチューの皿をエルミーラさんに渡してから自分の席に座った。
こういった優しいところもバジル君の良いところなんだよねぇ……。

「そう言えばバジル、貴様は何処の出身なのだ?」

ふと、黒ひげさんが赤ワインを一口飲んでから話を切り出した。

「え?出身?」
「よく考えたら、ここ数日は同行しておるのに貴様の事を何も知らないのでな。この機会に色々と聞いておこうと思うてな」

そうだ……よく考えたら、私もバジル君の事何も知らない。やっぱり一緒に旅をする者としては色々と知っておかないと不便だね。

「ああ、俺は大陸にある『ガスタリ村』と言う小さな村の出身でな。そこの村人たちは風の民とも呼ばれていて、自然との共存を尊重する習慣を持ってるんだ」
「風の民か……じゃあバジル君も風の民って事になるのかな?」
「まぁそうなるか。ちなみに俺のランスの扱い方や魔力鳥は、俺の父親からの修行で得たものなんだ」
「へぇ……お父さんから……」

バジル君のランス捌きや魔力鳥はお父さんから学んだらしい。バジル君自身も強いけど、そのバジル君に稽古を付けたお父さんは相当強いんだろうな。

「あ、ところでさ、そのガスタリ村って魔物との交流はどうなの?もしかして反魔物領だったりする?」
「いや、俺が生まれる前からずっと中立の立場を保っている。と言うのも、たとえ魔物が人類の敵だと説かれても、同じ自然の中で共存する生き物である事は間違いないから、魔物を否定するような真似だけは絶対にやらないんだ。生き物の存在の否定は、自然そのものを否定する事になるからな」
「成程……」

確かに人間と魔物は同じ自然の中で生きてる。ガスタリ村の村人たちにとって、生き物の存在を否定するのは禁則だから魔物を敵対するような真似は絶対にやらないんだ。
今思えば、バジル君も魔物を敵対視するような言動は絶対やらない。これも故郷での風習が身に染みてるからなのだろう。

「ふむ……その村へ寄り道するのも悪くはないな。どうだバジル?レスカティエに向かう途中でガスタリ村へ里帰りしようか?」
「あ!それ良いね!私も興味あるし!」

黒ひげさんの提案に私は賛同した。ガスタリ村って一度も訪れた事がないし、何よりもバジル君の両親がどんな人なのかも気になる。
ところが……。



「あ、いや……その……止めておかないか?」
「え?」



バジル君は気まずそうに反対した。その表情を見ると、なんだか自分の故郷に帰るのを躊躇ってるように見える。


「もしかして……魔物が村に入ったら不味いの?」
「そんな事は無いが……ほら、ただでさえ世話になってるのに、これ以上迷惑を掛ける訳には……」
「我は別に構わぬぞ?」
「いや、その……」


私たちは特に問題無いけど……バジル君はどうも賛同する気になれないみたい。

「べ、別に今すぐ行かなければならない理由も無いんだ。その内機会があったら自分で行く」
「……そうか?」
「ああ!だから、このまま航路を変えずに進もう!それが良い!」
「あ、ああ……」

このまま航路を変えない事に、黒ひげさんも渋々と承諾した。
う〜ん……なんだろう……なんか腑に落ちないと言うか……ちょっと怪しいって言うか……。

「それよりレスカティエだが、数日前に教団の連中が懲りもせずにまた攻め込んで来たらしいぞ」
「なんと……教団も愚かじゃのう。難攻不落のレスカティエに足を踏み入れたら、それこそ飛んで火に入る夏の虫じゃろうて」
「ああ、察しの通り、結果は教団側の惨敗だったらしい」
「作戦が甘かったのか、教団側が極端に弱すぎたのか……どちらにしろ、レスカティエが教団に負けるなど考えられませんね」
「我らがレスカティエに到着した頃には、元教団の人間であった者たちが急増しておるかもしれんな。フハハハハ!」
「…………無敵のレスカティエ……」

と、何気なくバジル君が話題を切り替えて、みんなの楽しい食事の時間は平和に過ごしていった…………。



〜〜〜三時間後〜〜〜



「ん〜!風が気持ち良い!」

食後の休憩を挿んだ後、私はダークネス・キング号の甲板に出てそよ風に当たっていた。穏やかな波のさざめきを聞いてると、今日一日の疲れを癒してくれるように感じる。夜の海は肌寒いものの、余計な雑音も人のざわめきも無いこの空気は非常に心地の良いものだった。

「……今日も綺麗な星だなぁ……」

夜空に浮かぶ無数の星を見上げながらポツリと呟いた。最近になって、こうやって星を眺めるのが小さな楽しみになってきてる。あんなに綺麗な光景は何度見ても飽きないし、何よりも心が癒される。
自分の船が手に入ってからも、こうやって星を眺める事が出来たらなぁ……。

「……ん?」

何気なく背後を見上げると、船のマストの見張り台に何やら人影らしきものが見えた。目を細めて人影の正体を確認すると……。


「……バジル君?」


間違いなくバジル君だった。見張り台に座り込んで星空を眺めている。
バジル君も星を見に来たのかな?確かにあれだけ高い所なら星も見やすいね。
……よし!



バサッバサッバサッ!



背中の翼を羽ばたかせ、見張り台にいるバジル君の下まで飛び上がった。

「やっほー!バジル君!」
「……やっぱりお前か」

そしてバジル君の背後から元気良く呼びかけると、バジル君は大して驚く事無く振り向いた。


「え?やっぱりって?」
「背後から翼を羽ばたかせる音が聞こえてな。大して殺気も感じなかったから、よもやと思ったが……」
「えへへ……そのよもやでした♪テヘペロ♪」
「…………」
「ちょ!?そんな哀れんだ目で見ないでよ!」
「いい歳して舌をペロッて……」
「まだ十八歳だもん!イケてるもん!」
「……そんなところで飛んでないで、こっちに来たらどうだ?」
「じゃあお言葉に甘えて♪」

バジル君に誘われて、私はバジル君の向かい側に座る形で見張り台の中に入った。

「バジル君はこんな所で何してたの?」
「ただ星を見たくなってここに来ただけだ。お前はどうなんだ?」
「実は私もなんだ。ここ最近の星は一段と綺麗だよね!」
「そうだな……」
「バジル君も、こうやって星を眺めるの好き?」
「ああ、ガスタリ村でも度々見ていた」
「へぇ……そこで見る星も綺麗だった?」
「ああ……綺麗だったよ……本当に……」

バジル君はゆっくりと、不規則に並ぶ無数の星を見上げる。そんなバジル君の姿を見て、私は三時間前の食卓でのバジル君が頭の中に浮かんだ。
自分の故郷への帰郷の話が出た時、バジル君は何故か賛同しなかった。あの時は話をはぐらかされたけど、あの様子は明らかに何かを隠しているようにも見える。私だけじゃなく、黒ひげさんたちも気づいてたけど、結局誰も真意を訊く事が出来なかった。

「……ねぇ、バジル君」
「ん?」
「さっきの夜ご飯の時なんだけど……」

私は思い切って、バジル君に質問する事にした。

「あ……済まなかったな。一瞬だけでも場の空気を気まずくしてしまって……」
「ううん、そんなのみんな気にしてないよ。私が訊きたいのは、バジル君自身についてだよ」
「俺か?」
「うん、なんでバジル君はガスタリ村に寄りたくないの?」
「え…………」

バジル君は一瞬だけ固まったが、すぐに冷静さを取り戻して答えた。

「いや、だから、この船での航海には黒ひげたちのペースが……」
「黒ひげさんたちは問題無いって言ってたでしょ?それにバジル君も久しく故郷に帰ってないんだったら、ちゃんとご両親に会いに行った方が良いと思うけど?」
「それは……そうだが……」

私の質問攻めに、バジル君は言葉を詰まらせてしまう。
やっぱり何か事情があるみたい。どうしても帰りたくいと言うか……帰りたくても帰れないとでも言いたげな表情だ。


本音を言えば、本当の事を知りたい。もっと色々と訊きたい。
でも……これ以上しつこく訊いたら嫌われてしまう。


「……ゴメン、ちょっと強引に訊きすぎたね。話したくないのなら無理しないで……」
「あ、ああ……」

バジル君はどこか安心したような表情を浮かべた。話さずに済んでホッとしているようにも見える。それほど話したくない事情なのだろうか……。

「……さて、俺はもう寝るか」

すると、バジル君は徐に立ち上がって下へと繋がる梯子まで移動した。

「もう寝るの?」
「ああ、お前も早く寝た方が良い。何時までもここにいたら風邪を引く」
「うん、おやすみ〜」

梯子に手をかけてゆっくりと下へ降りようとするバジル君に手を振った。
すると…………。




「……俺は……帰ってはいけないんだ……」




……私は聞かなかったフリをして、何も言わずにバジル君を見送った。
今の独り言……なんだか自分を追い詰めてるような気がする。今思えば、バジル君は自分自身に負い目を感じ過ぎてるところがある。裏を返せば責任感と言うべきだろうか、それをしっかり持ってるのは良い事なのかもしれない。
でも……今の独り言を言ってたバジル君は、責任感とは違う意味で自分を追い詰めてるとしか思えない。まるで自分で自分を縛り付けているようだ。


「……帰ってはいけない……か……」


故郷に帰ってはいけない理由ってなんだろう?
そんな事を思いながら、私はぼんやりと無数の星を眺めた…………。



〜〜〜翌日〜〜〜



「ほぇ〜!凄い!これ全部手に入れたの!?」
「うむ!どれも滅多に手に入れる事の出来ぬ代物よ!」
「やはり伝説の海賊の名は伊達では無かったようだな……!」

午前十時頃、私とバジル君は黒ひげさんに宝物庫まで連れられた。そこには数えきれない程のお宝で埋め尽くされており、褐色色の壺や小さな勾玉が入った木箱など変わった物が収納されていた。
実は以前からダークネス・キング号の宝物庫の扉は度々見かけたけど、実際に中に入った事は無かった。どうしても気になった私は黒ひげさんに頼んで特別に宝物庫の中を見せてもらう事になったのだ。

「どれも見た事の無いものばかり……やっぱり一つ一つ手に入れるのは大変だったでしょ?」
「うむ、確かに容易くは手に入らなかったな。一見ガラクタにしか見えぬが、どれも貴重な秘宝よ」
「へぇ……あ、ここにある秘宝って触っても大丈夫?」
「ああ、構わぬぞ」

宝物庫の奥へ進み、見た事の無いお宝に目を輝かせる。未知なる秘法との対面はワクワクするものだ。

「黒ひげ、この双眼鏡は?」

すると、バジル君が木箱から双眼鏡のような物を取り出して黒ひげさんに質問した。

「ああ、それは見越し筒よ」
「見越し筒?」

バジル君が持ってるのは見越し筒と呼ばれる物らしいけど……どういった物なのだろうか?

「見こし筒の先を壁に当てると、壁の向こう側を覗く事が出来るのだ」
「……要は壁の向こう側が見れるのか?」
「左様。ほれ、実際にその壁に当てて見るが良い」

黒ひげさんに言われた通り、バジル君は宝物庫の壁に見越し筒の先を当てて接眼レンズを覗いた。

「……これは……モップか!?」
「なぁ、言った通りであろう?」
「ああ、確かに見える!これは……倉庫か!?」

驚いてるバジル君の様子を見て、黒ひげさんは満足そうに頷く。
モップって……あ!そう言えばこの宝物庫の隣は掃除用具用の倉庫……と言う事は……!

「ねぇ、本当に見えるの?私にも貸して!」
「ああ」

バジル君に代わってもらい、私も壁に当てられてる見越し筒の接眼レンズを覗いてみる。
すると……。

「……ホントだ!見える!モップも箒も見える!確かに掃除用具だ!」

壁越しに倉庫の様子が見れた。黒ひげさんが言った通り、これは壁の向こう側を見る事が出来る双眼鏡だった。

「通常の双眼鏡と同じように眼福や視度も自由に調整出来る。面白かろう?」
「うん!面白いね!こんなところに収納されてるのが勿体無いよ!」
「……いや、寧ろ収納された方が良いと判断してな」
「ほぇ?なんで?」

見越し筒から目を離して黒ひげさんに質問すると、黒ひげさんは苦笑いを浮かべながら答えた。

「よく考えてみろ。それを使えば壁の向こう側に居る者たちに気付かれる事もないであろう?」
「確かに……これなら気付かれずに壁越しに様子を見れるね」
「うむ、それが問題となったのだ」
「……どう言う事?」
「……女湯と聞けば分かるであろう?」
「あ……」

ここでようやく気付いた。こちらに気付かれずに壁の向こう側を覗けると言う事は……。

「……それを利用して女湯を覗こうとする輩がいたと?」
「うむ、逆もまた然り。見越し筒で男湯を覗こうとする魔物まで現れおってな。いざこざになる前にこの宝物庫に収納したのだ」
「あ……あはは……それじゃあしょうがないよね……」

そりゃあ女湯にしろ男湯にしろ覗かれる側は堪ったもんじゃない。そう考えると収納されるのは正解と言うべきか。

「事実その見越し筒で女湯を覗こうとした輩が居たが、結局覗きがばれてしまい、その覗きの被害者であった魔物に仕置きを食らったらしい……性的な意味で」
「あはは……」

苦笑いを浮かべながら私は見越し筒を木箱に戻した。こう言った変なお宝もあるんだね……良い経験になるよ。

「……ん?」

ふと、奥の方から何かキラキラ輝く物が視界に入った。他の宝の影でよく見えないものの、確かに何か光ってる物が存在しているのは分かる。

……なんだろう?
そう思いながら僅かに光る物に誘われるように進み、その正体を間近で見てみる。

「……鏡?」

それは……銀色の縁に囲まれている、ちょっとだけ大きめの鏡だった。恐らく、鏡が部屋の光を反射していたから光って見えたのだろう。私は手を伸ばして鏡を取り出し、その鏡面を見てみる。
見たところ鏡面は汚れが一つも無くピカピカな状態だ。長い間此処に収納されてたとは思えないくらい綺麗で、私の顔もちゃんと映されてる。
これは……どういった物なのだろう?見たところ普通の鏡と何の違いも無いと思われるけど……。

「メアリー、どうした?」
「あ、バジル君」

すると、バジル君が私の背後まで移動して来た。

「あのね、こんな鏡を見つけたんだけど……」

と、鏡面をバジル君に向けた…………その時!






バシュッ!





「!?」

……信じられない事が起きた。さっきまでダークネス・キング号の宝物庫に居たハズなのに…………!

「……此処は……どこなの!?」

私は……見知らぬ土地に立っていた。空は禍々しい黒雲に覆われていて、今にも雨が降り出しそうな天候だ。周辺には石造りの建物が並んでいるが、どれも跡形もなく崩れている。廃墟とでも言うべきだろうか……私が今いる場所からは全く生気が感じられない。
どうなってるの?私は何故こんな所にいるの?

「バジルくーん!黒ひげさーん!」

辺りを見渡しながら二人の名前を呼んでも返事が返ってこない。

「エルミーラさーん!姫香さーん!セリンちゃーん!」

続いて三人の名前を呼んだが……やっぱり返事は返ってこない。
どう言う事……何がどうなってるの?私はさっきまで鏡を持って……あ!そうだ!鏡は!?

「……あれ?鏡……鏡……ウソ!?鏡が無い!」

私はやっと……さっきまで持ってたハズの鏡が無くなってる事に気付いた。辺りを見渡しても、私が持ってた鏡は何処にも無い。
そんな……さっきまで持ってたのに……。


……でも、私は何故こんな所に居るの?さっきまで船の宝物庫に居たのは確か。でも私は見慣れない廃墟の中にいる。
突然、自分が居た場所が変わるなんて……あ!まさかこれって……転移魔法ってやつ!?あの鏡には転移魔法が掛けられていて、あれを持ってると見知らぬ場所へと転移されるとか!?


「うわぁぁぁん!そんな〜!こんな展開、勘弁してよぉ!」


と、一人で嘆いていた……その時!


「う、うぉあああ!助けてくれー!」
「!?」


突然、誰かの悲鳴が聞こえた。声に聞き覚えは無いけど、恐らく男の人の声だ。
どうやら人は居たみたいだけど……あの叫びからしてとんでもない事態になってるみたいね。

「い、嫌だぁ!死にたくない!死にたくnぐほぁ!!」

悲痛な叫びの途中で何か攻撃を受けて怯んだような痛々しい声が発せられる。
……なに?何が起きてるの?

「はぁ、はぁ……うぉえぇ!だ、誰か……助けて……!」

石の建物の影から男の人が飛び出て来た。そして小石に躓いて転んでしまい、身体を地面に叩きつけてしまった。
……あまりにも酷い姿だ。服はボロボロで、全身惨たらしい傷だらけで頭から血を流してる。
あれは……事故とかで負った怪我じゃない。恐らく、誰か人の手によってやられたんだ!

「どうしたの!?何があったの!?」

一大事だと判断し、慌てて傷だらけの男の人に駆け寄る。
しかし……なんだか様子がおかしかった。駆け寄った私には見向きもせずに、地面に尻餅をついたまま怯えた表情で建物の影を見ている。

「あ、あわわ……」
「ね、ねぇ!どうしたの!?誰にやられたの!?」
「く、来るな……来るな……!」
「だ、大丈夫だよ!別に食べたりしないから!」
「近寄るなぁ!俺はまだ死にたくねぇんだよぉ!」
「だから殺さないって!」

私の声にも反応せず、建物の影を見る男。
でも……この男の声は私ではなく、恐らく建物の影に居るであろう人物に向けられてるのだろう。この怯えた表情から見ても確信できる。





「……死にたくないか……まぁ当然だろうな……」





突然、建物の影から誰かの声が聞こえた。その声を聞いた瞬間、男の身体がビクッと跳ね上がる。

「……だがな……貴様らの口から聞いても図々しいとしか思えないな!自分の事は棚に上げるクズ共が!」

明らかに怒りが込められた声と同時に、建物の影からゆっくりと人が歩み寄ってくる。


……気のせいかな?この声……聞いたことがあるような……?


「……あぁ!」


……気のせいじゃなかった。建物から現れた人の姿を見て大声を上げてしまった。
何故なら……その人は……!


「バジル君!」


そう……建物の影から現れたのはバジル君だった。二本のランスを両手に持ち、一歩一歩ゆっくりと前進してくる。
良かった……バジル君も此処にいたんだね!

「バジル君!ここにいたんだね!他のみんなはどうしたの!?」

私はバジル君に駆け寄った……しかし……。


「命を失うのが怖いか……?俺に殺されるのが怖いか……?」
「ひぃぃぃぃ!!」
「……バジル君?」


……なんだかバジル君の様子がおかしい。駆け寄った私に構う事無く、足が竦んでる男の下へ進み続ける。男を見据えるバジル君の目には……殺気のようなものが込められているように感じた。


「ほ、本当に悪かった!許してくれ!許してくれるんだったら何でもするから!」
「……例えばどんな事をすると?」
「さ、さっき手に入れたお宝全部やるかr」
「ふざけるなぁぁぁぁ!!!」


いきなり怒号を上げたバジル君は、目にも留まらぬ速さで男の下へ駆け寄り……!


グサッ!


「ぎゃああああああ!!」
「!?」
「何がお宝だ!そんな物で全てが許されるとでも思っているのかぁ!!」


右手のランスで男の身体を突き刺した!刺された男は断末魔のような叫びを上げて、痛々しそうにもがき苦しむ。


グサッ!


「ぎゃあああああ!!」
「痛いか?苦しいか?辛いか?だが、それが貴様らへの報いだ!」

右手のランスを引き抜いたかと思うと、続いて左手のランスで男の身体を突き刺す。


グサッ!

「ぐぁあ!も、もうやめt」
「俺は貴様らを許さない!たとえ神に見逃されようとも、俺は貴様らが犯した罪を許さない!!」


グサッ!グサッ!グサッ!


「ぐ、ぐぉぇ……!」
「死ね!くたばれ!血反吐を吐いて消えうせろぉぉぉ!!」


怒りを露にしながらもランスで男を突き刺すバジル君。もはや男は叫びを上げられなくなる程息の根が危うくなり、今にも死んでしまいそう。
どうして……どうしてこんな事をするの!?って、そんな事思ってる場合じゃない!早くバジル君を止めないと!

「バジル君止めて!やり過ぎだよ!これ以上やったら本当に死んじゃうよ!」

私は慌ててバジル君に駆け寄り、バジル君の肩に手を伸ばした。
しかし……!



スッ……



「……え?」

私の手は……バジル君の身体をすり抜けた。

「な、なんで……?」

試しにもう一度バジル君の身体に触れようとするが、さっきと同じようにすり抜けてしまう。伸ばした手には全く手ごたえが無い。
まるで……幻影にでも触れてるような気分だ。どうなってるの?なんで触れないの?


「……もう終わりだ!まずは貴様を殺してやる!!」


私が戸惑っているのを他所に、バジル君は頭上で雷の鷹を出現させた。
あれは……バジル君の技、サンダー・ホーク!バジル君は本気で止めを刺す気だ!


「だ……だす……け……」
「うるさい!死人の出来損ないが口を開くな!」


もはや命乞いもままならない血まみれの男に対し、無情な言葉を言い放つバジル君。その姿はまるで……怒りに支配されてる猛獣のようだった。

「止めて!お願いだから落ち着いてよ!バジル君!バジル君!!」

何とか止めさせないと……と思って必死に呼びかけるも、バジル君は血まみれの男を睨んだまま反応しない。


「さぁ……地獄へ墜ちろ!!」



バジル君の叫びと同時に、雷の鷹が血まみれの男に…………!





「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」










バシュッ!




「……はっ!?」


私が大声を上げると同時に、周りの景色が瞬時に変わった。思わず辺りを見渡して、私が今いる場所について把握してみる。
ここは……ダークネス・キング号の宝物庫だ!もしかして私、元に戻って来たの?

「……あ……」

そして手元に何か持ってるのに気付き、視線を手元に移すと、無くなってたと思われてた銀縁の鏡があった。
さっきは手元に無かったのに……どうなってるの?

「……大丈夫か?」
「あ、黒ひげさん……」
「……どうしたメアリー?そんなにキョロキョロして」
「え……バ、バジル君!?」
「な、なんだよ一体……?」

誰かに声を掛けられて前方に視線を移すと、そこには黒ひげさんと、さっきまで男の人をランスで何度も刺してたバジル君がいた。
でも……さっきまでの怒りに満ち溢れた様子ではない。何時も通りの、普通のバジル君だ。


……待てよ?もしかして……このバジル君も触れないんじゃ……?


「…………」
「な、なんだ?」

私は徐にバジル君の顔へ手を伸ばし……ホッペを撫で撫でした。

「……って、何してんだ!」
「うん……触れるね」
「さわ……って当たり前だろ!何を意味の分からない事を!」
「えっと……本物だよね?」
「……お前、さっきからどうした!?黒ひげ!こいつは一体どうなったんだ!?」
「むぅ……」

とりあえず本物である事を確認したら、バジル君は黒ひげさんへと視線を変えて訊いて来た。しかし、黒ひげさんは何やら真剣な表情を浮かべながら考え事をしている。

「……メアリー、貴様は……バジルの何を見た?」
「え?」

そして黒ひげさんは私に視線を移してから改まった表情で訊いた。

「何を見たって……どう言う事?」
「その鏡で見たのだろう?バジルの過去を……」
「……え!?」
「俺の……過去……!?」

なんと黒ひげさんは……鏡でバジル君の過去を見ただろうと言って来た。
バジル君の過去……そう言われた時には、幾つか心当たりがあった。さっきの廃墟でのバジル君……声を掛けても反応しなかったし、何よりも触る事すら出来なかった。
そう言えば、この鏡は本はと言えば黒ひげさんが手に入れた秘宝の一つだった。そうなると、黒ひげさんならこの鏡について色々と知ってるハズだけど……。

「……黒ひげさん、この鏡は一体……?」
「うむ……その鏡は『クロノスの過去鏡』と言う秘宝でな、鏡に映した者の過去を垣間見る事の出来る代物よ」
「人の過去を?」
「うむ……メアリー、貴様はその鏡でバジルの姿を映したであろう?その時にバジルの過去の一部を見た筈だ」
「なん……だと……!?」

黒ひげさん曰く、私が持ってるのはクロノスの過去鏡と言う秘宝で、その鏡に映した者の過去を見る事が出来るらしい。
と言う事は……さっきの廃墟での出来事は……実際に起きてたバジル君の過去!?
まさか……バジル君は本当にあんな事を……!?



「……メアリー……俺の何を見たんだ?」
「え……」



すると、バジル君が思い詰めた表情で私に訊いた。
どうしよう……素直に言った方が良いのかな?でも、隠しておいた方が良いような気もするけど……。

「正直に言え……何を見たんだ?」
「え、えっと……それは……」
「答えろ!俺の何を見たんだ!?すぐに言え!」
「きゃあ!?」

バジル君が私の肩を掴んで捲くし立てた。突然の事に私は何も出来ずされるがままになってしまう。
バジル君は……とても悲しそうな表情を浮かべていた。私に何かを知られるのを恐れているようにも思える。



「少しは落ち着かぬか、馬鹿者がぁ!!」



と、黒ひげさんが強引にバジル君を私から引き離した。


「自分の過去を見られて内心穏やかではないのは分かるが、まずは頭を冷やせ!」
「……あ、ああ……その……すまなかった……」
「う、うん……」

黒ひげさんに叱咤されてようやく落ち着きを取り戻したのか……バジル君は頭を下げて私に謝った。

「……すまない……少しだけ一人にさせてくれ!」
「あ、ちょっと!バジル君!」

そしてバジル君は間髪いれずに踵を返し、走り去る様に宝物庫から出て行った……。

「…………バジル君……」
「むぅ……相当辛い過去を背負ってるようだな」
「黒ひげさん……」

宝物庫から出て行ったバジル君の背中を見送った黒ひげさんは、長い髭を撫でながら真剣な表情を浮かべていた。
何となくだけど、私もそう思った。走り去っていくバジル君は……どこか悲しそうな、それでいて寂しそうな表情を浮かべていた。
あの様子からして見られたくない過去があったのだろう。もしかしたら……さっき私が見たのは、その見られたくない過去だったのかもしれない……。

「……黒ひげさん、どうすれば……」
「……一先ず我が出向くとしよう」
「私も行く!」
「いや、まずは我一人で行く。ああ言った状態の人間を宥めるのは慣れている。それに、辛い過去の話でも、相手が一人であればバジルも話し易くなるだろう」
「……そこまで言うなら……」
「うむ、では行ってくる」
「あ!待って!」
「ん?」

宝物庫から出てバジル君の下へ向かおうとした黒ひげさんを呼び止めた。

「あの……強制的に訊くような真似はしないでね?バジル君がどうしても話したくないのだったら、無理に話させないで……」
「それくらい分かっておる。我とて海賊でも……人の心の傷口に塩を塗る鬼ではない」

それだけ言うと、黒ひげさんは宝物庫を出て行った…………。

「……バジル君……」

一人宝物庫に残された私は……鏡を持ったまま立ち尽くすしかなかった…………。
12/12/14 23:00更新 / シャークドン
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■作者メッセージ
はい、前作で予告した通り、今回からLegend of pirateの続編が始まりました!本当なら読みきりで終わらせるつもりが思いのほか長くなりそうなので連載になっちゃいました(汗)と言うわけで、一先ず第一話を投稿させていただきます。

エロの方はちょっと先になりますが、それまで暫しお待ちを……と言ってもあまり期待しないでくださいね?

では、読んでくださってありがとうございました!

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