連載小説
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執事と吸血鬼―中編―
―エアナ―

兄様が出て行ってから私は兄様が注いでくれたジュウロウの血を飲み干した。

「・・兄様は・・どうして私を遠ざけるのだ・・」

兄様はあの日、私が愛を告白してから私を遠ざけるようになった。

昔はあんなに私の名を呼んでくれたのに、あの日から兄様は私を「お姫様」と呼んで名前を呼んでくれなくなった。

私にも自分を兄様と呼ばず、「ジュウロウ」と呼ぶようにと言った。

あの日から兄様は全く感情を見せてくれない。笑顔を見せてくれない。怒った顔をしてくれない。安らいだ顔を見せてくれない。機嫌の悪い顔を見せてくれない。

私がどんなに理不尽に当たってもまるで意に介さないように擦り抜けられてしまう。

どんなに恥ずかしさを我慢して甘えてみても擦り抜けられてしまう。

どんなに話しかけたってカラクリ人形のように決まった事しか言ってもらえない。

兄様、私は何を間違ったのだ? 私の愛の言葉が至らなかったのか?

今日だってそうだ。朝起きたら兄様の匂いが傍にあって、本当に嬉しかった。昔のように起こしに来てくれたのだと思った。

朝起きたてにキスをして欲しいと私が願ってからは毎日してくれた。

それからは毎朝兄様のキスとともに兄様の優しい微笑を見て起きるのが私の楽しみだったのに。

なのに兄様はまたあの、仮面でも貼り付けたかのような顔で私を見ていた。

それに・・兄様はあの日からまるでご自分が物だと言わんばかりの発言をされるようになった。

私は兄様にそんな悲しい事を言って欲しくはないのだ。

なのに兄様は何度でも自分は道具だ、家具だ、物だと言われる。

そんな事言って欲しくないのに、でも兄様はそう言うのを止めてくれない。

だからさっきはそんな事を言っている兄様が許せなくてあんな風に魔力を力任せに叩きつけてしまった。

壁に叩きつけられて痛かったはずなのに、私に無茶苦茶ばかり言われてて怒っているはずなのに。

昔兄様に言われた『君達ヴァンパイアは高貴な種族なんだから簡単に人間に暴力を振るってはいけないよ』って約束も破ったのに・・

なのに兄様は私を叱ってくれない。

昔なら兄様は私を本気で叱ってくれた。本気で怒ってくれた。

私に自分の感情をぶつけてくれた。

なのに今は兄様は私が何をしても、何を言ってもあの仮面のような顔しかしない。あの、カラクリ人形みたいな答えしか返してくれない。

兄様は・・私を嫌いになってしまったのか?

私はこんなに兄様を愛しているのに――――

・・

・・・・

・・・・・・・

午後になり、私は友人であるサキュバスのフィリ・マヌエルとリリムのクーニャ・リンダルと共に昔この一帯を治めていたサウディ伯爵の元邸宅で昼食を取っていた。

ここ、旧サウディ伯爵邸はクーニャの夫であるラウディー・リンダルが隣国の反魔物国家と戦争になった時、武勲を上げたため褒美として与えられたらしい。そのためここはクーニャがバカンス用、というかラウディー様との夜伽にマンネリを感じた時に利用しているらしいが、私達はクーニャの好意よく使わせてもらっている。

今日はこの二人の親友が私と兄様の間の不和を見かねて気分転換という名目で呼んでくれたのでやって来た。

彼女達二人は私の幼馴染で、兄様との仲をよく知ってくれていて協力してくれる本当に大切な親友だ。

「エアナ、失敗は成功に繋がる。今度の事もその過程の一つだ。諦めずに挑むがいい」

「そうそう、アタックあるのみだよ。男は口説いてなんぼ、女はアタックしてなんぼなんだからさ♪」

フィリとリリムのクーニャは暗い顔をしている私をそれぞれの方法で慰めていた。

「私は・・兄様に何故あんなに距離を置かれているのか分からないんだ。私の愛が足りないのか? だから兄様は私を受け入れてくれないのか?」

「ふむ。エアナとジュウロウは昔は兄妹のように暮らしていたんだろう? ならジュウロウは君の事を『妹だから』という枠に押し込めて見ているのかも知れないぞ? そこはどうなんだ?」

「いや、兄様は多分そうは思っていない・・・と思う。少なくとも兄様は私を家族とか妹とかじゃなく、異性として見てくれて・・・いた、と思う。・・・でも今は私を『ご主人様』って形に押し込めて見ているように思う」

「ん〜、もしかして一年先の縁組に気を使ってるのかも。ほらほら、『俺、お前の事好きなんだ。でもお前にはもう許婚がいる。俺は身を引くよ』みたいな? だったらそんなの気にしなくても良いのにね♪ 私達からしたら略奪愛に横恋慕なんか当たり前なのにさ♪」

「分からない。最近全然兄様の考えが分からないんだ。今までならほんの些細な事でも兄様の事なら何でも分かったんだ。なのに、今は兄様が何を考えているのか全然分からないんだ」

「ふむ。ジュウロウは何か本心を隠しているんじゃないかな? エアナから聞き及ぶに告白をしてから返事もないままに変わったとなると・・・やはりフィリが言ったようにエアナの縁組が関係してきているのかも知れんな」

「やっぱりそうなのか!? 私は・・・この婚姻が国の為になるというなら受けるつもりだし、実際受けた。でもそれとこれとは別の筈だ。私は兄様を・・・その・・・愛・・・しているし・・・」

「だとしたらそんなくだらない事に何故縛られる? そんなもの、放り出してしまえ。愛しい男と一つになる事以外に大切な事など何も無いだろう?」

「そうだよそうだよ。愛しい旦那様の為なら国が滅ぶとかそんな些末な事、どうでも良いしね♪ そんな事無視してジュウロウちゃん、犯しちゃいなよ。そうすれば絶対エアナに夢中になって元の大好きなお兄ちゃんに戻ってくれるって♪」

「っ!! そんな・・そんな事出来るわけが無いだろうっ!! 私はこの国の貴族だ。貴族は贅を尽くす事を許される代わりに平民に安寧を齎す義務がある!! この義務を果たせずして何が貴族だ。この義務を果たすために兄様への愛が邪魔になるというなら兄様も諦める!! 愛なんていらないっ!!」

私のこの言葉を聞いてクーニャの表情が変わった。

しまった。クーニャは『愛』を否定すると普段の冷静な顔を失って豹変するんだった。

「エアナ、今なんて言った? 邪魔? 諦める? お前は今、愛をいらないと言ったのか?」

「あ・・・・・」

「ひぅ・・・」

クーニャから漏れ出る魔力が一気に濃厚なものとなり、本能的に危険を感じて後退ってしまう。

フィリは危険を察したようですぐに転送呪文を使って何処かに逃げてしまった。

クーニャの姉のデルエラ様はまさに正統派リリムと言って過言が無いが、クーニャはリリムとしてはかなり異色の存在として知られている。

それは・・・・

「表に出ろ。一つその思い違いを正してやる」

クーニャは魔法で異空間に放り込んでいた三叉槍を出して来た。

「クーニャ・・その・・私が悪かった。愛を否定したのは謝る。だから・・・」

「問答無用っ!!」

そう、クーニャは闘いの中で愛を語らい、愛の素晴らしさを謳う戦闘狂の側面を持つリリムなのだ。

クーニャは他者に愛を教える時は常に闘いながら行う。

それが教団兵であっても勇者であっても、それこそただの村娘であっても闘いを挑み、闘いを強要し、闘いながら愛が如何に素晴らしいか、如何にしがらみや規則に囚われる人間が悲しいか、如何に魔物がそんな理を無視して生きれる素晴らしいものかを高らかに謳いながら闘う。

それ故にクーニャの手で堕ちた人間の娘は決まってリザードマンやアマゾネスといった闘いを好む種族に変わり、強さを至上のものとするようになるという。

そうして堕とされた者達は自分を最初に負かし、かつ人の理から解き放ってくれたクーニャに感謝と尊敬の念を捧げるという。

デルエラ様とはまた違った意味で忠誠心を集めているクーニャは本当に凄いリリムなのだ。

そんな闘い慣れしたクーニャに嗜み程度にしか剣技を修めていない私風情が勝てる道理なんかない。

しかし、私は貴族だ。貴族が負けるのが当たり前の戦いだからといって無抵抗に膝を屈するなどあってはならない。

「くそっ」

私は咄嗟にその辺に置かれていた置物を盾にして突き出される三叉槍を防ぎ、外に飛び出した。

そしてすぐさま魔力で私でも扱えるエストックを編み上げ、追撃してきたクーニャを迎撃する。

「エアナ。何故愛の前には貴族も平民も無い事に気づけない? 愛は素晴らしい。お前も魔物だから分かるだろう? 愛しい旦那様を見つけ、番になる。そして欲望のままに交わる。これ以上に大切な事など何一つ無い!! まして、好いた相手を放り出して貴族の義務とやらに走るなんて、お前はなんて馬鹿なんだ!!」

馬鹿、と言われてムカッときた。

私だって兄様ではない相手なんかと結婚なんてしたくない。

兄様以外の男の血など飲めた物ではない。

兄様以外にこの身を預ける気すらない。

それでもこの国が、この国の民草が、私一人の犠牲で救われるというなら救って見せよう。

私にはそうする義務がある。

私は貴族だ。

貴族なら果たすべき義務を果たすのは当然の事だ。

「馬鹿とは何だ!! 貴族という平民の上に立つ者は義務を果たす義務がある!! それを果たすには自身の思いなど優先されるべきではない!!」

「それが馬鹿だというのだ。それは人の愚かな常識とやらだろう? 我等は魔物だ。そんなしがらみなんか無視出来る、いや、そもそもそんな価値観なんか存在し得ない」

そんな馬鹿な事があってなるものか。

クーニャの槍を徐々に捌ききれなくなってきた。

呼吸が苦しい。

肺が壊れたみたいに痙攣している。

もっと酸素を寄越せと叫んでいる。

心臓が狂ったように早く脈を打っている。

心臓が早く休ませろと悲鳴を上げている。

魔物は人間なんかより遥かに身体能力が高い。だからこうも簡単に息が上がるはずも無いのに、クーニャとの打ち合いでは全筋力と全魔力を防御に回さないと一気に方をつけられるからフルスロットルで自身の全力を出さないといけない。

普段はこんな激しい動きをするわけでない私にとっては赤子に1000kmダッシュしろと言っているようなものだ。

「いや、存在する!! 現に今私はこうして義務を果たそうとしている!! それにクーニャだってそうじゃないか。王都に敵国が攻めてこないように詰めているじゃないか!! クーニャ達がいてくれているから王都攻略がされていないんだ!! クーニャだって義務を果たしているじゃないか!!」

魔力が軋みを上げている。

クーニャが打ち込んでくる三叉槍を防ぐ度にその衝撃だけで魔力構成が解かれ、編み上げたエストックが消えてしまいそうになる。

それを防ぐためにエストックに魔力を込め直す。

「エアナ、お前何を勘違いしているんだ? 私は、旦那様が『戦争が出来るのに立ち去るなんて勿体無い事出来るか』と言われるからいるだけだ。義務? 国の防衛? 知らないな、そんなモノ。私は旦那様がいるからこそこの地に留まっているだけだ。旦那様がこの地に愛想を尽かされればすぐにでも出て行く。残された者達? 知らない、聞こえない、見えない。私が見えているのは旦那様の喜ばれる顔だけ。私が聞こえるのは旦那様の殺し合いが出来ると喜ばれる声だけ、私が知っているのは旦那様が戦場を所望しているという事だけ。全ては旦那様のため。愛しい男以外何も見えない。だからこそ私は魔物、私は魔王の娘。極論を言えば愛のみに生きるのが魔物である私達の姿だろう? 何故愛から逃げる? 何故そんな貴族の義務なんて下らない事と愛とを、愛しい男を天秤にかけられる!?」

クーニャは本当に純粋な魔物だ。デルエラ様と違い、闘いながらでしか人に愛を教えられないという事を除けば本当に、魔王様の理想を正しく実行している。

それでも、私はこの義務を譲らない。

もう防戦しか出来ない。

槍を辛うじて避けているだけだ。

もう組み伏せられるまでにそれほど時間はかからないだろう。

「この停戦協定によってどれだけの人が救われると思う!! クーニャだって見ただろう? あの鉄弾を打ち出す兵器を。大鉄弾を防ごうとして大怪我をしたバフォメット隊の皆を、大怪我をして、死んで帰ってきた夫を見て嘆き悲しむ同胞を!! それを見た上でクーニャは本当にこの選択が間違っているというのか!!」

私は何度か行われた会戦の負傷兵の手当てを人手が足らず、ユニコーン達と一緒に行った事がある。

あの時のみんなの嘆く顔が、目の前で死んでいく男を前にただただ泣きじゃくるしかない同胞達をただ見ているしか出来なかった。

あの時の私は何もしてやれない自分の無力さを感じるだけだった。

でも今はそれを防ぐ機会が私に与えられた。

もう彼女達の様に嘆く者を生まなくて済む。

ならそれを最大限使わずしてどうする。

「言っただろう? 私はそんなもの知らない、と。それはそいつらが弱かっただけでそれ以上でもそれ以下でもない。死ぬのが嫌なら魔界に逃げてしまえばいい。他の攻められていない親魔物国家か人里離れた辺境の地にでも逃げてしまえば良かったのだ。そうしなかったのはそいつらの勝手だ。そいつらがそいつらの判断で闘いに赴き、その結果散って行った。嘆きもしよう、怨みもしよう。だが、それで己の思いを捨ててまで行う事では断じてない!!」

ついに組み伏せられてしまい、闘いの決着はついた。

「なんで・・なんでそんなに・・・思い切れる!? 皆、大好きなんだ。この国に生きている皆が、大好きなんだ。守りたいんだ。それの何がいけない!?」

涙が零れる。

兄様にすら見せた事のない涙がとめどなく流れてくる。

皆を救いたいのに無力な自分に泣けてくる。それでも、そんな私でも皆を守る力になれる。

これほどに幸せで、誇らしい事など無い筈だ。

「エアナ・・・お前が本当に守りたいものは何?」

クーニャは私を組み伏せたまま、耳元で囁くように聞いてきた。

「私だってこの国は好きさ。でなければこんなに長くいようと思わない。私の旦那様が、戦争しか知らない、私の大好きな旦那様がこんなに長く私のために定住しようとしてくれる筈が無い。だがな、私はこの国は好きだが自分が愛する者より愛してはいない。つまり、私が守りたい者は旦那様だ。またも極論を言うが、旦那様以外守りたいとも思わない。お前は、誰を守りたいんだ?」

そんな事決まっている。

兄さm「この国だ」

あれ? 今何かおかしな・・・あれ? 私は何を守りたいと・・・・・いや、きっと混乱していたから兄様を想ってしまったんだろう。

「・・・・・・・・エアナ。お前・・・・本当に魔物か?」

クーニャが信じられないモノを見るような、怯えたような目で私を見ている。

何故クーニャはこんな目で私を見るのだろう? まるで見た事も無いバケモノでも見たかのような目だ。

「お前は・・・愛しい旦那様を手に入れたいと思わないのか? 愛しい者が自分を見ないなら自分しか見れないようになるまで犯し抜いてやろうと思わないのか? 」

それは魔物として当然の思いであり、価値観だ。

否定はしない。

でも、私は自分の思いを差し置いてでもこの停戦協定を成功させたいのだ。

「そうしたい。それは否定しない。でもそれはこの停戦協定が終わってからだ」

「おまえはおかしい・・・そんな・・・なんで人間みたいな事を言うんだ? こんなの・・・・私は知らない・・・」

クーニャは混乱した表情のまま転送魔法で何処かに転移してしまった。

一人残された私は考えを巡らせる。

思えば母上も私のこの思いを理解してくださらなかった。

父上は苦笑しながらも『エアナは優しいね。でもその優しさはただ一人の好きな人にだけ使う優しさだよ。無造作に振り撒くものじゃないよ』と言われていた。

私は何か間違っているのだろうか?

私は枯渇寸前の魔力で探知し、友人二人が完全にこの邸宅にいなくなった事を確認すると、帰る為にジュウロウを探しに屋敷に戻った。

――――アニサマノチガノミタイ。セイヲススリタイ。ゾンブンニシキュウヲミタシタイアイシテホシイアイシテホシイアイシテホシイアイシテホシイアア、アニサマ。アニサマガホシイアニサマサエイレバホカノモノナンテナンニモイラナイ――――

あれ? 私・・・何かが・・・欲しい? ああ、きっと喉が渇いたんだ。兄様にチヲモラワナイト・・・・・


―――ジュウロウ―――

私はお姫様がクーニャ様やフィリ様と女の話を楽しまれているであろう間、お二人について来られていたお二人の旦那様達、マルス様とラウディー様と同じ部屋で待機していた。

このお二人には最初から私のこの忌むべき嗜好を包み隠さず打ち明けている。そうする事でお二人は私に必要以上に深入りしようとしないだろうし、親しい仲を持つ気にならないだろうと踏んでいたからだ。

しかし、それは私の誤りだった。

その時はきょとんとした顔で私の話を聞いていたお二人はすぐさま大笑いして握手を求めてこられた。

以来私達は女性方が会話している間、控えの間として開放されているこの部屋でのんびりと語らうのが常だった。

「ジュウロウ君。近頃はどうだい? なんだかフィリから聞くに、エアナちゃんと険悪な仲になってしまっているんだって?」

マルス様が不意に私に問いかけてきた。

本当なら無視してやり過ごす事も可能だが、マルス様はその痩身と切れ長の狐を思わせる目でこちらを見やりながら、ただ見つめるだけで返事を強要してきていた。

「いえ、お姫様とはなんら問題事は起こしておりません。ですのでマルス様やラウディー様がお気を使われる必要はありません」

そう、全く問題ない。私はお姫様にとってただの家具なのだ。家具でなくてはならない。お姫様があの日の告白をただの世迷い事だったと思われる日が来るまで私は常にこの鉄面皮を纏わなくてはならない。お姫様は私のような下種を愛して良い方ではないのだから。

「ふむ。確かに問題事は起こしてないわな。だがよ、お前もエアナ嬢を好いとると自覚しておるんだろ? それなのにお前はエアナ嬢から、それもあの気高いヴァンパイアの方から愛の告白を受けておきながらそれを素直に受け入れてやれんのだ? 本来なら好いた者同士、くっつけばよい話だろうに」

私とマルス様の間に先ほどまで一人黙々と自分の得物の巨大な両手戦斧を磨いていたラウディー様が割って入ってきた。

ラウディー様は動くだけで山が動いたかと思ってしまうほどの巨漢だ。目測で大体200cmはある。

「ラウディー様。お姫様のその思いは幻想です。気の迷いなのですよ」

私の言葉にラウディー様は露骨に嫌な顔をされた。

「エアナ嬢の思慕を幻想と言うかよ。その癖自分はエアナ嬢を好いている? 虫のいい話だな」

「ふぅん」

ラウディー様は一切自身の怒りを隠そうとしない。それもそうだろう。ラウディー様はクーニャ様を心底愛しておられ、日に幾度でも、それが人前であろうと憚らず愛を語らうような方なのだから。

それでも私は譲れない。お姫様を汚さない為にも。

「ラウディー様は分かっているはずです。私がどんな人間か、如何に醜悪かを」

「おうさ、知っているとも。お前の嗜好はお前本人の口から直接聞いた。だが、だから何なのだ? お前はその嗜好が気に入らんらしいが・・なら俺はどうなるよ? 俺なんぞ餓鬼の頃は戦場跡駆け回って死んだ人間の装飾剥いで二束三文で叩き売って、ちょっとしたらすぐ傭兵になって糞みてぇな戦場で金のために戦争して。ついには戦場から生きて帰る事だけが喜びになっちまった。挙句『凶獣』なんて二つ名贈られて英雄にまでになっちまうんだから性質が悪い。俺は根っからの戦争狂だ。人をぶち殺して帰還する事にしか生きる意味を見つけられない。こっちの方がお前よりよっぽど掃き溜めに落ちてる糞尿以下の存在だが?」

「しかし、そこにはやむを得ない状況があったのでしょう。私は己の享楽の、愉悦のためだけにあの『美しい』光景が見たくてならない狂人です。ラウディー様とは違う」

そう、ラウディー様はそうしないと生きていけない事情があったからこそ、その様な存在になられたのだ。私はその点事情が違う。

私はあの場で死ぬ人間だった。それまで何不自由ない生活をし、貧困を知らず、飢餓を知らず生きてきた。そんな私が美しい死を見たいから■■■■■だなんて、許されていい事ではない。

「ジュウロウ君。君と僕達に違い等何一つないよ。僕は、ただ金の為だけに人の殺し合いを望む。魔王軍が、教団が、勇者が、誰が勝とうが知ったこっちゃない。僕はね、戦争で人が死ねば死ぬほど、町が滅びれば滅びるほど、人を殺せば殺すほど嬉しいのさ。何故だか解るかい? 答えは簡単さ。僕は武器商人だ。戦争が激しくなればなるほどに儲かるから嬉しいのさ。つまり僕とフィリ以外なんてただの消耗品、としか見ていないのさ。僕は僕が私欲を肥やす為だけに戦争の拡大を願い、戦争を引き起こす要因を生む。戦争の為の武器を売り捌き、それで人が死ねば死ぬほど満足するのさ。ああ、また儲かった、次の戦場ではどれだけ儲けられるだろうってね。こんな邪悪が、こんな下種がただ一つの愛を手に入れられているんだから、君も手に入れていいと思うよ?」

お二人は確かに歪みを持っている。

ラウディー様は『生きている事を実感する為に戦場で人を殺す』

つまりは殺し合いを行っていないと自分がこの世に存在する事を証明出来ない発狂者。

マルス様は『己の私欲を満たす為に戦争を終わらせたくない』

私利私欲のために人々が殺し合いをする事を望む発狂者。

そんな、まともな人からすれば唾棄すべき思想・思考を持ち合わせている狂人というのに彼等はそれを嫌悪する事も、拒絶する事もない。むしろその性を愉しんですらいる。

私にはそれがどうしても理解出来ない。こんなにもおぞましい価値観を、彼等は受け入れてしまえと言う。こんなに狂った私を侮蔑の一つも感じさせず付き合ってくれる。

理解出来ない。理解出来ない理解出来ない理解出来ない

「何故・・・ラウディー様もマルス様もそんなおぞましい思いを許容出来るのです? 何故、こんなにも狂った私を認められるのです?」

だからこそ問う。問わずにいられない。

「決まっている。この思いは俺の愉悦。俺の生きる糧。何故否定する事がある? 愉悦を得る事は罪なのか? 否、罪なはずがない。なら俺達の愉悦が否定される謂れはない。そもそも愉悦は誰しもが必ず持ち合わせるものだろ? 愉悦を得る事の何が悪い」

「その通り。人は生まれたからにはその者固有の愉悦を有する。それが私は人の死の上に成り立つ金儲けであり、君は人の死を観る事なだけさ。大多数の人と違う愉悦を持つ事の何が悪い?」

ああ、なんとこのお二人は狂いながらも正しいのだろう。お二人の言う通り、愉悦は誰しもが持ち合わせ、それを許されない人間がいるはずがない。だが、それでもそこに善悪は必要となるだろう。

「それでも、そこに善悪は必要だ。私のこの・・愉悦は悪だ」

「おお、悪だとも。まっことどす黒い邪悪だな。だが、お前は悪が何故許されざるものだと思うのだ?」

「そ・・それは」

悪は悪。決して許されるべきではない。では何故許されざるべきか?

それは悪は人を虐げるもの。悪は人の醜悪の粋。ならばこそ否定せずして何が人だろう?

「悪は人の醜悪の相。これを憎まずして何が人でしょうか? 人は自身の醜悪を憎むからこそ人足り得るのです」

「だからお前は自分のその愉悦を、嗜好を許せんと言うのか?」

「その通りです」

私の答えを聞いてお二人の態度が変わった。

今までは物分りの悪い悪戯小僧を諭す様な気配だったが、今は違う。

ラウディー様は愚かな者を見ているかのような気配を、マルス様は底冷えのする笑みを浮かべながら私を見て笑っていた。

「なぁ、お前。いつまで悪を認めんのだ?」

「何を・・言っているのですか?」

「お前はな。自分が悪だの醜悪だの言っている割にはどこかそれを他人事のように語っているようにしか見えん。ようはお前、自分を悪人だと認めたくないから自分を他人事のように語っているのだろう?」

「そんな・・そんな事・・・」

「良いではないか。この世に善があるなら悪がある事もまた然り。悪があるからこそ人は正義に恋焦がれる。悪があるからこそ人は善たらんとする。悪はこの世に数え切れぬほどある。その中で燦然と正義が輝くからこそ人はそれを尊いと悟るのだ。これ全て悪があればこそ、だろう? 悪が罪であるというならそれもまた好し。胸を張って堕天すればよい。お前は他人の善の証となるのだ」

「それにほれ、教団の聖典にも書いていただろうが。『人の本質は善なり。悪性は日々の暮らしから生じるものなり。故にこそ禁欲せよ、主神の御心に従い、日々を敬虔に生きよ。魔物は悪なり。姦淫するべからず、魔物はその禁を破った悪である』とな。まぁ多大に偏見が入った文句で大いに気に食わんが、この『人の本質は善性なり』という文句、これを考えて見ろ。まさしく理に適っているとは思わんか? 魔物達が俺達に向ける好意は純粋に人を愛すが故の善性から来ているのはお前も分かるだろう? 魔物とて大概が俺達の様な悪人を嫌うだろう? 魔物が教団の言う様に悪性の権化というなら俺達を嫌う筈が無い。むしろ嫌うなら教団が善性であるとする人を嫌って然るべきだ。それに妙に癪に障るが、教団の言う様に人も本質は善だ。悪性なんてものは後から獲得するのが普通なんだろうよ。何せ『弱きは死ね』が常識の戦場ですら人は傷ついた戦友を思いやり、一時の熱狂が過ぎれば敵味方関係なくその死を悼み、祈りを捧げる。これを見てなお『人の本質は悪である』などとの給う阿呆はおるまい。だがその善性をどう証明する? 簡単だ。俺達のような悪性に染まった者が悪性をはっきり示せばいい。そうする事で魔物の人に向ける思いは善性であり、人もまた『己の本質は善性である』と証明出来る。真に排除すべきは我等の様な悪鬼羅刹の類と頭の固い教団の連中も分かるだろうよ。その時こそ魔物と人が手を取り合う時代が来るのだ」

この世に正義あれば悪があるのは当然の事。悪は正義が存在する限り許され続ける。そも正義は明確な悪が存在するからこそ、その存在を証明し得る。悪無くば正義はその存在を証明し得ない。

人はそもそもの本質が善性である、という説が教団の聖典にはある。

人が悪に染まるのは飽くまで様々な経験による後天的なものであり、本来人は善を行うべき道徳意識を生まれた時から本能で習得している。

故にこそ人は悪に染まらぬよう、善なる主神に仕え、禁欲的生活を送るべきである。

そう説く説だ。

ラウディー様はこの説から自身の悪性の正当性を主張しておられる。

人は平和な世でも戦乱の世でも、如何なる世であろうともその本質は善性であり、それは永久不変。

それは魔物達も同じ、いや、彼女達が人に向ける好意は善性から来るものであり、人のそれを上回っていると言っても過言ではない。

だがこの世は数式のように総てが理路整然としているわけではない。時に生まれた時から持ち得る本質が純粋に悪に染まっている者が出てしまう。

もしくは悪性に染まりきらざるを得なかった者が出る。

主神とて全知全能に非ず。

ならば我ら人の子が皆総て完全に善性であるなどあり得ようか。

だがこの世は総じて善性を愛す。

それは魔王も主神も、人も魔物も等しく同じ。

ならば本質が悪性である者はどうなる?

その者達はただ善なる本質を持つ人々からただ排斥されるべき存在なのか?

己の悪性を疎み、ただただ他者の善性を羨むだけなのか?

ただただ善性を得られなかった己を卑下し、苦悩するだけなのか?

否。そも、総ての人の本質が善性であればそれを一体何で以ってそれを善性であると証明するのか。

それは対となる悪性が存在するからである。

故にこそ悪性に染まった己に誇りを持て。

人の、魔物の善性総てを証明せよ。

人も魔物も等しく素晴らしい。

故に主神も魔王も礼賛せよ、礼賛せよ。

戦場のみが善悪の垣根を越えた場であり、我等悪と善が入り乱れる混沌の地である。

故にこそ、己の悪性を戦場にて存分に吐き出せ。戦場で真の悪を宣布せよ。

これ即ち、人が真に立ち向かうべき悪は我等のみ。これを宣布せんが為に。

人と魔物が手を取り合う未来の為の贄となれ。

それこそが悪性に生まれた我等の使命であり、存在意義である。

これがラウディー様の思想だ。

この思想は己の悪性に苦悩する者、悪に身をやつした者にとっては救済となるだろう。

我等が悪行は正しい。我等悪人はただ悪を為すために生まれて来たわけではない。ただ裁かれるために生まれてきたのではない。

我等は人に真に立ち向かうべき敵を教えるために生まれたのだ。

だから善悪関係なく殺しあう戦場で自身の悪を存分に振るい、人が真に立ち向かい滅ぼすべきは魔物ではなく我等であると知らせよう。

我等は新世界の礎となるのだ。

この思想は殺人、窃盗、詐欺、密告、偽証、放火、そんな諸々の悪行を為し、己の本質が善性であるが故に罪の呵責に苦悩し、かと言って己の罪を償う勇気も無くただ罪の呵責に責め苛まれる者、自身と他者の本質の違いに苦悩し迷い、答えを求める者達の救済の光だ。

己の悪性を全肯定してくれ、自分達がただ害悪として裁かれ、罪を償うためだけに生まれてきたのではない。人と魔物が共に生きて行く新世界の創造の糧となるために生まれたのだ、と説かれてはほぼ総ての悪人はこの思想に同調する。

何故なら彼等は、彼等の悪行を人に詰られ、裁かれ、償わされ、罪の呵責に責め苛まれ続ける人生を送ってきたのだ。

その人生を全肯定された事が無い、そしてそんな自分を肯定しきれない者達だ。それが認められたとあってはその思想を受け入れようと思い至るのは想像に難くない。

故にこそラウディー様の率いる傭兵団『悪意の獣達』には世に言う極悪人が揃っている。

そしてその極悪人の総てがラウディー様に尊敬の念を捧げ、魔物にも人にも、果ては教団にも等しく賛辞を贈る。

それ故顔つきもその本質も、全員が悪でありながら平時は悪事を一切働かず、いざ戦になれば戦場を掻き回し、敵味方問わず恐怖を振り撒く狂獣の群れと化す。

その為彼等は『聖なる獣』の異名で呼ばれる。

ラウディー様は真に悪の救世主なのだろう。

多くの聖人が述べたように、『悪は許されざる存在』ではなく、『悪は善を礼賛するものである』と述べるその姿は感銘すら受ける。

だが、私はそれを受け入れる事など到底出来ない。

「それにな。我等のような悪が存在すればこそ、人は教団に頼る。主神に祈りを捧げ、敬虔な信者足らんとする。そこからは我らが妻や魔物の出番よ。魔物の享楽、魔物の力、それら総てを訓辞し、魔に堕とす。ほれ、魔王の意思にも沿っているだろう? 俺の悪は義母殿と義父殿の理想への礎となるだろう? この悪の何がいけない? 許されない?」

全く、聞けば聞くほど真理だ。

ラウディー様は悪を肯定し、善を礼賛し、自身の悪性を魔王の掲げる理想を支える為に悪を使おうとしている。

それはもう聖人と言っても差し支えない。

だが、私はそれを受け入れられない。

まるで子供の駄々のようで無様極まる話だが、私はこんな嗜好、愉悦を持ちたくなかったのだから。

私はお姫様の■■■■■■■■■■■■■■■■のだから。

「私は・・そんな事は・・・認められない。悪は悪だ。すべからくこの世から滅びるべきだ、」

私の答えを聞いてラウディー様が何か言おうと口を開いた時、それまで黙っていたマルス様が口を開いた。

「ねぇ、ジュウロウ君。君、さっきから聞いていたら悪を嫌っているような言葉ばかりだけどさ。君は単に善に嫉妬しているだけだよね?」

エアナちゃんに嫉妬しているんだよね? と、マルス様は問われた。

「な・・・・」

「そうだろう? エアナちゃんは本当に正しいよ。でもその正しさは魔物としてはおかしいものだよね? あんなに高潔で、義務に縛られるなんてまるで人間じゃないか。だからこそ君はあの子が眩しいんだろう? そうだろう? 正義はとても輝かしくて、眩しくて、でも僕達はあの輝きを決して手に入れられない。あの輝きを放てない。だから君はエアナちゃんが妬ましくて、憎らしくて、焦がれて止まないんだろう?」

確かにマルス様の仰られる様に、私はお姫様が眩しかった。でもそれは自分の邪悪さを許せないが為に自身と対比して眩しいと感じただけの筈。決して憎いなどと思った事など――

「君は彼女を、エアナさんを愛していながら憎んでたんだよ。でも君はエアナちゃんを愛している事は認められても、憎んでいるって想いだけは受け入れられなかった、だから憎悪と一緒くたになっている愛も、彼女からの想いも、全部誤魔化す為に君はエアナさんと距離を置いた。距離を取らざるを得なかった、違うかい?」

殺したいほど憎くて愛しいんだろう?

そうマルス様は続けた。今のマルス様の目は完全に蛇のそれだ。獲物を見つけてどういたぶって殺そうか、としている捕食者の目だった。

「しかし今気づいたんだけどね。こんな楽しみもあるんだねぇ。中々君達は面白いよ。商売とフィリとの語らい以外面白いものなんてないって思ってたけど、どうして中々楽しみはあったじゃないか。狂った主に狂った執事、でも二人とも自分が狂ってるのを理解出来ていないのに互いに好き合ってるなんてなんて喜劇だい?」

お姫様が狂っている? それはいったいどういう事なのだ?

「おい、マルス」

「いいじゃないか。君はさっき―――」

「マルス〜〜〜!!」

諌めに入るラウディー様にマルス様が答えようとした時、何の前触れも無しにフィリ様が空間から引きずり出されるように出てきた。

どうやら空間転移して来られた様だ。

「おや? どうしたのかな、フィリ。君はまだエアナちゃん達と楽しいお話をしていたんじゃないのかい?」

「そうだけど今はそれどころじゃないんだよ!! クーニャちゃんがキレたんだよ!!」

「ああ、なるほど。それで怖くなって僕の所に飛んできたんだね。可愛いなぁ、君は」

マルス様は先ほどまで話していた私達など最早目に入っていない。既にマルス様の意識はフィリ様のみに向けられていた。

「早く逃げよう? ここにいたら私達まで教育されちゃうよ」

「ははは、ホントにフィリは臆病だなぁ。なんて可愛いんだ、君は。いいよ、逃げよう」

マルス様が同意するとともにフィリ様は転移魔法を発動させ、マルス様諸共消えてしまった。

「おいおい、あの餓鬼。自分でジュウロウに食いついといて嫁が来たら丸投げして帰るとはどういう了見だ。あれでホントに『黒死猫会』のトップか? まぁいい。ジュウロウ。アイツの言ってた事は忘れろ。さっきはマルスに遮られて言えなかったがな、お前はエアナ嬢と同じ感性を持ちたいんだな。それは何も特別な事ではないぞ? それが恋ってもんで愛ってもんだ。だが、お前の本質が悪であるが故に絶対その感性は持てない。ならばこそ悩み、俺の持論を拒絶したんだな。自分の悪性を完全に認めてしまえばお前はエアナ嬢と並び立てない、悪では善の礎にはなれても並び立つなど出来ない、そう思っているんだろう?」

ラウディー様は先ほどまでとは打って変わり、とても穏やかに話しかけてこられた。

「エアナ嬢は人間なら本当に対した傑物だ。己の身を犠牲にして我が国と領民を守る。実に高潔で見事な献身だ。賞賛もされよう。だがよ、そこにあの子の幸せはあるのか? 俺は不幸しか待っていない気がするがね。で? お前はどうなんだ? あの子が不幸になるのを見過ごせるのか? いや、他人の手であの子が不幸になる姿を見ていられるのか?」

何も言えない。

ラウディー様の言われた事は私の本心と一致する。

私のような邪悪はお姫様のように高潔な方の傍には並び立てない。

ならばこそ影でその道を支えるように生きようとも誓った。だが、それでも私はお姫様と並び立ちたい。

だからこそ私は己の悪性を疎んじたのか?

いや、そうではないはずだ。

お姫様に仕える者が悪であって良い筈が無い。故にこそ善であれと思ったのではなかったか。

お姫様が、『私の手以外で不幸になるのを許せるか』だと?

そんな事許せる筈が無い。

お姫様が不幸にならないよう、私は付き従うと決めたのではないか?

―――■■■になれ。■■■になれ。貴女の■■■姿は■■■。だが、■■■の■で■■■になるなんて■■■■■■無い。貴女は■■手■■■■に■■。貴女を■■■に■■■■のは■だけだ―――

お姫様は幸せになって欲しい。だが、それ以上にお姫様の善の輝きを失いたくない、いや、違う奪いたくない・・・あ? 私は一体何を考えていた? 分からない・・一体何を・・・

「・・・まっ、混乱もするわな。今の今までエアナ嬢の想いからも自分の想いからも逃げて来たんだしよ。しっかり混乱しろ。混乱して、よく考えろや。そうすれば答えは見えてくる」

ラウディー様が何か声を掛けてきている・・・何を言っているのか分からない・・・・

ラウディー様の傍に誰かが出てきた・・・誰だ・・・分からない・・・私は何を考えている? 何を・・・何を?

ああ、あああああ分からない分からない分からない

私はナニヲ考エていタ? 嗚呼、ソうカ、エアナの事か。エアナを、殺シタイってコとだッタ


・・・・・・

・・・・・・・・・・・・


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12/01/30 02:10更新 / 没落教団兵A
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■作者メッセージ
取敢えず今書けているのはここまでです。うん、なんだろう。自分がここまで暗い話好きとは思っても見なかった。自分的には甘々な方が好きと思ってたんだけどなぁ〜。

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