ラフメイカー
あの事件から早くも一か月が過ぎた。街もどうにかこうにか復興していっている。
これまでの状況について話しておいたほうがいいだろうか。
まずは、街の復興具合について。
ひとしきり俺がわんわん泣いた後、この街のリーダーというか、町長であるバフォメットのリリシアさんを筆頭に、街の重鎮たちがあっさりと
「はい!災害終わり!街を元に戻すのじゃ!」
と鶴の一声を上げ、街の復興作業に入っていった。その際に、プレデティアの男だったスライムも連れ去られていった。あいつのことはまた後で話そう。
壊れてしまった家や、街を取り囲む外壁は、俺が壊したゴーレムの瓦礫を使って修復された。どうやら、俺の斬り方がよかったおかげで、ほとんどそのまま転用できたようだ。壊された家々や、これを機会に新築した家などにも使われた。
ただ、最近カップルでいちゃついていたり、一人で自分を慰めていると、誰かからの視線を感じるという都市伝説が生まれたのだが、もしかしてあのゴーレム……いや、よそう。さすがにありえないだろ……ありえないよな?
もちろん被害があったのは壁や家だけじゃない。商売道具や材料、食料などが使い物にならなくなったところも多くあった。こればかりは時間をかけて元に戻していくしかない……と、俺たちがどんよりしていると、だ。つい先週のこと。あの『行商屋狸』の夫婦が何と、この街が被災したと聞いて大量の品物を抱えてすっ飛んできたのだ。
なんでも、最近大量のお金を手にする機会があったそうで、そのお金のほとんどをこれに使ったそうだ。
それらの品物は、夫婦の意向でほとんどタダ同然で配られた。彼ら曰く
「困ったときはお互い様、っちゅうわけよ」
「ま、ここでぶんだくるような商売はしたくないしな」
「そーそ。ウチラのモットーは『満足』!」
「『お客様の満足を売り買いする』ってことよ。お前らもなんか困ってるものがあるなら買って行けよ。これとか銅貨一枚でいいぞ」
大した夫婦だ。
ちなみにお金の出所はなんだと聞くと……奥さんのほうはそれはそれは悪い顔で。旦那さんのほうはもはや魔王(つっても、今のじゃなくておとぎ話のだけど)のような笑顔を浮かべて「ひ・み・つ」だそうだ。いや、本当に大した夫婦だよ全く。
そんなわけで、あの事件から一か月しかたっていないというのにもかかわらず、この街のにぎわいはむしろあの事件が起こる前よりも賑わっている。あちこちからやじ馬に来た連中もいるからだろう。
さて、今度はプレデティア帝国から来たあいつの話をしよう。
あいつは今、ここにたった一つだけある自警団の檻の中にいる。が、どうやら、魔物化したショックで記憶がぐちゃぐちゃになっているようで、自分がもとからダークスライムで、教団に洗脳されてこれまで生きていたのだと思っているらしい。町長によると
「調べてはみたが、あやつはやはりお主によって変えられたものじゃ。そればかりはありえぬよ」
だそうだ。多分それが真実なんだろう。
俺がやったこととはいえ、ちょっとだけ胸が痛いな。
次は俺たちのこと。
俺たちの関係はというと……実はそこまで変わってない。
あの時勢いのまま告白をしたけど、あの後お互い付き合うとか、そんな空気になったりすることもなく、とうぜん性交渉もしたことはない。
あ、嫌。少し変わったところはある。それは……
「ニーナ……」
「うん?」
「…………最近二人きりになったら急に甘えるようになったよな」
「……ダメ?」
ダメじゃないです本望です。
………ゴホン
と、こんな感じだ。外にいるときはいつも通り明るく元気で天真爛漫ないつものニーナだが、二人きりになると急に黙ってすりすりと寄り添うようになった。
なんか、もうたまらんですよ本当に。
何ていうかもう普段元気ではしゃいでる女の子が二人きりになったらだんだん口数が少なくなる代わりにどんどん距離を近づけてきて最後には腕にぴったりとくっついて上目づかいに俺を見て名前を呼ぶとかもう俺じゃなくてもロマンを感じるだろうしそれが自分の大好きな女なんてダメだろダメダメ
…………ふぅ。
ともかく、こんな感じだ。
………ちなみにドワーフ男からもらったあれはまだ渡せていない。いや、完全にタイミングを逃した。いつ渡そう……困った。
と、今はそんなことを考えている。
「…………で、なんで俺のところに来たんだよ」
「いやだってこれ作った張本人だし」
「知るかボケ。こっちは仕事場を作り直してて忙しいんだよ」
「頼むよ、なんかいい手段はないかよ」
「知らん。何かの拍子にほいっとわたしゃあいいだろうが。彼女いない歴=年齢の俺にそんなこと聞くな」
ドワーフ男もこの通りだ。あ、ちなみにこいつの名前はアレクだ。
「クソ……いい加減ムラムラ具合がやばい。だけど、魔物娘って無駄撃ち嫌いらしいし、できねえんだよ」
「無駄撃ちってなんだよ。お前マスケット銃でも持ってんのか?」
「なん……だと……」
●
「まだ渡せないのか……俺は……」
はぁ。我ながら情けない。
俺は手の中にあるそれを弄ぶ。ため息だって出るさ。本当に我ながら情けない。
「ドレイク。ご飯、食べに行かない?」
「ンゥオ!」
「ドレイク?」
全力でびっくりした……っと、やべ!
「それ何?」
「あ、嫌……その……」
「…………内緒にするの?」
「いや、その……だな」
「………バカ……」
「え?」
「バカバカバカバカバカ!あれから何も言ってくれないんだもん!好きだって言ったくせに!私のこと好きだって言ったくせに!一か月も!一か月も何も言わないなんて!私がどれだけ期待して待ってたと思ってるの!?もう、ドレイクのバカ!!うわああああん!!」
「ちょ、に、ニーナ!」
「バガアアアアアア!」
泣き出してしまった………どうしよう……えっと、その……うわ…やべえ、あの時の勇気がほしい。あの時の勢いがほしい…………覚悟…決めるか
「に、ニーナ!」
「ぐしゅっ……ひくっ……」
「その……これ……」
「……?」
俺が差し出したのは、指輪。アレクが作ってくれた、ワイバーンの少女がディアモッドの宝石を抱えた装飾がされている、世界で一つだけの指輪……
「お、俺と…結婚を前提に付き合ってくれ」
「ふぇ……?」
ニーナに渡すための、婚約指輪だ。一か月と数日たってようやく渡せた。
「…………ダメか?」
「……」
沈黙が部屋を支配する。やべぇ、怒らせたか?むしろ、このタイミングは最悪だったか?
「ドレイク……」
「……はい」
「大好きいいいいいいいいいい!」
俺は、ニーナに押し倒されてそのまま………眠れませんでした。
魔物娘って恐ろしいな、とか考えながら、一方で俺が、これからこいつを守ってやらないとな。こんだけのことをしたんだし……それが、俺のけじめってやつだろう。
「ドレイク!5回戦目はどんなのにする!?」
「ちょっと休ませてくれ……」
これまでの状況について話しておいたほうがいいだろうか。
まずは、街の復興具合について。
ひとしきり俺がわんわん泣いた後、この街のリーダーというか、町長であるバフォメットのリリシアさんを筆頭に、街の重鎮たちがあっさりと
「はい!災害終わり!街を元に戻すのじゃ!」
と鶴の一声を上げ、街の復興作業に入っていった。その際に、プレデティアの男だったスライムも連れ去られていった。あいつのことはまた後で話そう。
壊れてしまった家や、街を取り囲む外壁は、俺が壊したゴーレムの瓦礫を使って修復された。どうやら、俺の斬り方がよかったおかげで、ほとんどそのまま転用できたようだ。壊された家々や、これを機会に新築した家などにも使われた。
ただ、最近カップルでいちゃついていたり、一人で自分を慰めていると、誰かからの視線を感じるという都市伝説が生まれたのだが、もしかしてあのゴーレム……いや、よそう。さすがにありえないだろ……ありえないよな?
もちろん被害があったのは壁や家だけじゃない。商売道具や材料、食料などが使い物にならなくなったところも多くあった。こればかりは時間をかけて元に戻していくしかない……と、俺たちがどんよりしていると、だ。つい先週のこと。あの『行商屋狸』の夫婦が何と、この街が被災したと聞いて大量の品物を抱えてすっ飛んできたのだ。
なんでも、最近大量のお金を手にする機会があったそうで、そのお金のほとんどをこれに使ったそうだ。
それらの品物は、夫婦の意向でほとんどタダ同然で配られた。彼ら曰く
「困ったときはお互い様、っちゅうわけよ」
「ま、ここでぶんだくるような商売はしたくないしな」
「そーそ。ウチラのモットーは『満足』!」
「『お客様の満足を売り買いする』ってことよ。お前らもなんか困ってるものがあるなら買って行けよ。これとか銅貨一枚でいいぞ」
大した夫婦だ。
ちなみにお金の出所はなんだと聞くと……奥さんのほうはそれはそれは悪い顔で。旦那さんのほうはもはや魔王(つっても、今のじゃなくておとぎ話のだけど)のような笑顔を浮かべて「ひ・み・つ」だそうだ。いや、本当に大した夫婦だよ全く。
そんなわけで、あの事件から一か月しかたっていないというのにもかかわらず、この街のにぎわいはむしろあの事件が起こる前よりも賑わっている。あちこちからやじ馬に来た連中もいるからだろう。
さて、今度はプレデティア帝国から来たあいつの話をしよう。
あいつは今、ここにたった一つだけある自警団の檻の中にいる。が、どうやら、魔物化したショックで記憶がぐちゃぐちゃになっているようで、自分がもとからダークスライムで、教団に洗脳されてこれまで生きていたのだと思っているらしい。町長によると
「調べてはみたが、あやつはやはりお主によって変えられたものじゃ。そればかりはありえぬよ」
だそうだ。多分それが真実なんだろう。
俺がやったこととはいえ、ちょっとだけ胸が痛いな。
次は俺たちのこと。
俺たちの関係はというと……実はそこまで変わってない。
あの時勢いのまま告白をしたけど、あの後お互い付き合うとか、そんな空気になったりすることもなく、とうぜん性交渉もしたことはない。
あ、嫌。少し変わったところはある。それは……
「ニーナ……」
「うん?」
「…………最近二人きりになったら急に甘えるようになったよな」
「……ダメ?」
ダメじゃないです本望です。
………ゴホン
と、こんな感じだ。外にいるときはいつも通り明るく元気で天真爛漫ないつものニーナだが、二人きりになると急に黙ってすりすりと寄り添うようになった。
なんか、もうたまらんですよ本当に。
何ていうかもう普段元気ではしゃいでる女の子が二人きりになったらだんだん口数が少なくなる代わりにどんどん距離を近づけてきて最後には腕にぴったりとくっついて上目づかいに俺を見て名前を呼ぶとかもう俺じゃなくてもロマンを感じるだろうしそれが自分の大好きな女なんてダメだろダメダメ
…………ふぅ。
ともかく、こんな感じだ。
………ちなみにドワーフ男からもらったあれはまだ渡せていない。いや、完全にタイミングを逃した。いつ渡そう……困った。
と、今はそんなことを考えている。
「…………で、なんで俺のところに来たんだよ」
「いやだってこれ作った張本人だし」
「知るかボケ。こっちは仕事場を作り直してて忙しいんだよ」
「頼むよ、なんかいい手段はないかよ」
「知らん。何かの拍子にほいっとわたしゃあいいだろうが。彼女いない歴=年齢の俺にそんなこと聞くな」
ドワーフ男もこの通りだ。あ、ちなみにこいつの名前はアレクだ。
「クソ……いい加減ムラムラ具合がやばい。だけど、魔物娘って無駄撃ち嫌いらしいし、できねえんだよ」
「無駄撃ちってなんだよ。お前マスケット銃でも持ってんのか?」
「なん……だと……」
●
「まだ渡せないのか……俺は……」
はぁ。我ながら情けない。
俺は手の中にあるそれを弄ぶ。ため息だって出るさ。本当に我ながら情けない。
「ドレイク。ご飯、食べに行かない?」
「ンゥオ!」
「ドレイク?」
全力でびっくりした……っと、やべ!
「それ何?」
「あ、嫌……その……」
「…………内緒にするの?」
「いや、その……だな」
「………バカ……」
「え?」
「バカバカバカバカバカ!あれから何も言ってくれないんだもん!好きだって言ったくせに!私のこと好きだって言ったくせに!一か月も!一か月も何も言わないなんて!私がどれだけ期待して待ってたと思ってるの!?もう、ドレイクのバカ!!うわああああん!!」
「ちょ、に、ニーナ!」
「バガアアアアアア!」
泣き出してしまった………どうしよう……えっと、その……うわ…やべえ、あの時の勇気がほしい。あの時の勢いがほしい…………覚悟…決めるか
「に、ニーナ!」
「ぐしゅっ……ひくっ……」
「その……これ……」
「……?」
俺が差し出したのは、指輪。アレクが作ってくれた、ワイバーンの少女がディアモッドの宝石を抱えた装飾がされている、世界で一つだけの指輪……
「お、俺と…結婚を前提に付き合ってくれ」
「ふぇ……?」
ニーナに渡すための、婚約指輪だ。一か月と数日たってようやく渡せた。
「…………ダメか?」
「……」
沈黙が部屋を支配する。やべぇ、怒らせたか?むしろ、このタイミングは最悪だったか?
「ドレイク……」
「……はい」
「大好きいいいいいいいいいい!」
俺は、ニーナに押し倒されてそのまま………眠れませんでした。
魔物娘って恐ろしいな、とか考えながら、一方で俺が、これからこいつを守ってやらないとな。こんだけのことをしたんだし……それが、俺のけじめってやつだろう。
「ドレイク!5回戦目はどんなのにする!?」
「ちょっと休ませてくれ……」
14/02/27 15:39更新 / しんぷとむ
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