６人でダークラバーズ！
異世界テミスバスタの侵略作戦を
決行するにあたって暗黒の渦を発生させた魔王。
そしてその渦より大挙として現れた魔物娘たち。
このテミスバスタに訪れた彼女たちは、世界と世界を結びつけるゲート発生の条件が一番適した地、つまるところ暗黒の渦たるゲートの真下に、魔界幹部会ダークラバーズは拠点である魔界、城を構えていた。
魔王の力をもってすればカップラーメンを作るよりも早く城一つ作り出すこと造作もないことなのだ。まおうのちからってすげー！！
そしてその城「ラバーズキャッスル」の一室、
無駄にだだっ広い玉座の間にて魔界幹部会一同は集結していた。
今現在、テミスバスタを侵略しようとする一同が
こうしてひとつの部屋に集結したその様子は
テミスバスタの民からしてみれば悪夢に等しい光景だろう…。
「えーそれじゃ、色々とグダグダなところはありはしたが
我ら魔界幹部会ダークラバーズの『決め台詞揃いました！』記念を祝して…姫、どうぞ」
「ありがとうクラティカ、それじゃぁみんな…カンパァーイ！！」
『カンパァ〜イ♪』
悪夢に等しい光景である…悪夢に等しい光景である！悪夢に等しい光景である！！！
玉座の前には簡易的なテーブルが設けられ（それでも豪華な造りだが）
一見恐ろしい風貌をした、魔物娘の中でも上級の魔物娘…そのなかから魔王直々に選びすぐれた幹部たちが、こうして祝杯を挙げていた。
テミスバスタ侵略もほったらかして。
ちなみに彼女たちが飲んでいたのは女性受け…というか魔物受けが良い魔界特産の葡萄ジュース的な飲み物である。
「たくっ、うまくいったからよかったものの…
もう少しでグダグダになるところだったよ。あんたたち！姫に恥をかかすことはこのクラティカ様が許さないよ！」
「はははっ！そうカッカされるなクラティカ殿。眉間のシワがさらに深くなるぞ？」
「はっ倒されたいかタラマ！それにあたしの眉間にもともとシワあるみたいな言い方するんじゃないよ！！あたしは今も昔もシワなんかないピチピチだよ！！」
「うむ、自分でピチピチと言ってしまうあたりもう手遅れだったか！」
「よーしわかったはっ倒されたいんだな！？そうなんだな！！」
「よさないかクラティカ、いちいちタラマの天然さに付き合っていたらそれこそ本当にシワができてしまうぞ」
「で、でも姫ぇ！」
「まぁまぁ、貴方も私の右腕ならもう少し落ち着いた立ち振る舞いをだな…」
（決め台詞失敗して大勢の人の前で泣いちゃった姫様にだけは言われたくない…）
ひとりちびちびと飲んでいたナクレラは内心ツッコむのだった。
「ほ〜っほっほっほっ！ですが姫様！
こうして私たちダークラバーズの決め台詞が揃ったからには、このテミスバスタの完全制圧も目前となったも当然ですわね！」
「ほぉソフィリア、言うじゃないか。
その通り！今まで決め台詞ひとつも失敗に失敗を重ね、練習を重ねに重ねて侵略もままならなくなっていた毎日だったが、こうして我ら魔界幹部会『五人』全員の決め台詞が揃ったからには、このような異界…制圧したも当然！そう…なぜなら我らは！」
魔界幹部会首領たるエルナンディルナが握り拳を掲げると、
ほかの幹部一同も拳を掲げた。
「我ら五人！魔界幹部会！！」
『ダークラバーズ！！』
「待てやぁっ！！！」
バーーーーンッ！と、豪快な音とともに
玉座の間の扉が開かれ、そこには全身ボロボロの男。
魔界幹部会第六位、【狂乱】のギュラスが登場した。
「さっきから聞こえてたがどう考えてもおかしいだろ！
魔界幹部会はオレ含めて六人だろうがっ！！
しかもお前らあの後いきなり帰ったからなにしてんだと思って魔力もほとんどないのに頑張って帰ってきたと思えばなにちょっとしたパーティーやってんの！？
名乗るだけ名乗って満足したから帰るって子供かお前ら…！俺のこと助けに来てくれたんじゃないのか！？お前ら帰った後の空気どんだけ気まずかったと思うよ！？敵さんも「隊長、帰りますか…」「……そうするか」って言ってこれ以上にないほどやるせない表情で帰ってったよ！ズタボロだった俺のことも完璧に忘れて！色々とつっこみが長くなったから結論言わせてもらうがお前ら本気でこの世界征服する気あんのか！？」
「そうですわ姫様！実は祝杯のとっておきに我が家から取り寄せた秘蔵の一品がございますのよ♪」
「ほほぉ、それは楽しみだなソフィリア！」
「あんたにしちゃぁ気が利くじゃないか」
「ねぇゴメンほんっっっっと傷つくから無視しないで！！」
怒りのままに乗り込んできたギュラスであったが、
そのメンタルはすでにひび割れたガラスのハートもいいところであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
魔界幹部会ダークラバーズは言うなれば
魔王が直々に選定した凄腕中の凄腕…選ばれし魔物たちが所属することが許される魔王軍の中でもエリート中のエリートチーム。
魔王の娘である『リリムの姫、エルナンディルナ』。
愛称はエルナ。通称は姫。 彼女を筆頭に構成され、
位が高ければ高いほどその階級は上であり、
簡単に言えば第六位であるギュラスは最弱もいいところの地位であった。
元より、人間である彼がこの幹部会に数えられるということ自体、普通ならあり得ないと言っても過言ではないことなのだ。
まぁ、ギュラスが幹部会に所属することができたのはそれなりの理由があるにはあるのだが今後の展開のため今はとりあえず割愛しよう。
魔界幹部会に入りそれなりに経つが
はっきり言えばギュラスの扱いは散々であった。
リーダーであるリリムのエルナからは出会って間もないころ
彼女から挨拶変わりだかなんだかで遊び半分で誘惑の術を掛けられそうになったことがあるのだが…。
「さぁギュラス…貴方も私の虜に………あれ…？
…なんでならないの！？なんでリリムの私の魅了が効かないのよぉーーーーーっ！！？」
その時の出来事がきっかけか、どうにもリリムながら魔王の娘としての誇りを重んじる性格をしているエルナのプライドを傷つけることにつながってしまったらしい。
以来ギュラスは彼女から嫌われている。
どうしてあの時、リリムほどの力を持つ彼女の誘惑がギュラスに効かなかったのかはとうの本人ですらよくわからない。もっとも、エルナのあの性格ならミスのひとつやふたつあってもおかしくないだろうと結論付けてはいるが…。
とまぁ首領でエルナを筆頭に
他の幹部たちも似たようなものだ。
『デーモンのクラティカ』は幹部会の最古参で魔王に忠実なデーモンだ、
なんでも噂では魔物たちが少女の姿に変化する以前から魔王とは主従関係にあったらしく、魔王…引いてはその娘であるリリムのエルナには絶対的な忠誠を誓っており、彼女たちに仇なすものには一切合切容赦はしない。
今でもよく覚えている…思い出すたびギュラスは全身に鳥肌を感じていた。
「魔王閣下の意向であればあたしは文句はないさ。
…でもねぇギュラス、もしも閣下や姫の顔にドロを塗るようなことがあれば、その時は覚悟しとくんだね…くくくっ…」
あの時のクラティカの顔は今でも時々悪夢としてギュラスを襲っている。
『ヴァンパイアのソフィリア』…。
彼女ははっきり言えば口調も含め典型的なお嬢様タイプだ。
なんでもヴァンパイア界最強の眷属の末裔らしい。
性格もヴァンパイアらしい高飛車であり、人間を見下すことなどお約束…。しかし彼女は決してギュラスに対して淡い思いを抱いてなどいない。
なぜなら単純に「好みじゃない」からだそうだ、どうにも筋肉質でガテン系のギュラスは彼女の好みからかけ離れているらしい。
それどころか時々嫌がらせはするわことあるごとに幹部会から追い出そうとするわである意味ギュラスが一番嫌いなのがこのソフィリアである。
次に『人虎のタラマ』。
彼女は天然が入っているが典型的な脳筋思考の持ち主だ。
暇さえあれば鍛錬鍛錬また鍛錬、そういった魔物娘だ。
なんでも霧の大陸よりやって来たらしいがそこらへんはどうでもいい。
問題なのは彼女はその鍛錬に仲間を巻き込もうとするところだ、そしてその最大の被害者こそがギュラスなのである。
タラマとギュラスは共に格闘による接近戦スタイル。もっとも人間であるギュラスと人虎のタラマの実力は月にスッポンもいいところだが、彼女は彼女なりにギュラスに見込みのようなものを感じており、必要以上にギュラスを鍛錬に巻き込んでくる。恐らく本人に悪意はないと思われるが、それでもギュラスにとっては戦闘以上の苦痛である。
最後に『キマイラのナクレラ』、なのだが…
ギュラスが一番苦手なのは実は彼女であった。
ナクレラはギュラスの後に入会した一番新参の幹部なのだが、実力は高くあっさりとギュラスを追い抜き第五位の地位を手に入れている。
苦手、というのはギュラス自身ナクレラのことがよくわからないからだ。
以前戦闘から戻ってきたときのことだ、いつも帰っても誰も出迎えてもくれないのに…彼女はいた。手にはタオルを持っており深夜だというのに一人ぽつんと、彼女が立っていたのだ。
ギュラスは最初なんだなんだ？と困惑したが、彼女のほうから歩み寄って来た思うと突然…
「おい人間！あんな簡単な任務でここまで遅くなるなど恥ずかしいと思わないのか！？貴様のような役立たず、とっとと幹部会から抜けたほうが姫様の為だ！！」
と言っていきなりタオルを叩きつけ走り去っていった。
それ以降も似たようなものだ、昼時に大きな弁当を持って現れたと思うと顔面に弁当を叩きつけられるなど何度も経験した。以来ギュラスにとってナクレラは幹部会で一番よくわからないなんだか危ない奴と認識している。ただ顔面に食らった弁当の中身は旨かったのはよく覚えている。
あとまぁこれは余談といってもいいのだがそんな幹部たちに蔑ろにされている
ギュラス本人についても説明しておこう。
『人間のギュラス』。
幹部会に入ってそれなりに経つが未だ最下位である第六位を不動のものとし、幹部会では主に使い走りや戦場での最前線、なにかと嫌な作戦の執行を指示されてしまっている。前述の通り異例の幹部会入りを果たし、来る日も来る日もこの世界の人間との小競り合いばかり繰り広げている。
敢えて擁護して言うなら実力は決して低くはない。低かったら幹部会になど入れない、それだけは確かである。しかしそれは所詮『人間』というカテゴリーの中だけの話であり他幹部に比べてしまうと…といった感じだ。
あと人間離れした風貌だとよく言われるが彼はれっきとした人間である。
以上が、この魔界幹部会ダークラバーズの幹部たちと
ギュラスとの関係である。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ？なんだギュラス、いたのかい」
無視されないだけまだマシかもしれないが、
それでもクラティカの容赦ない一言がギュラスの心に突き刺さった。
「あら？誰かと思ったら幹部会最下位ギュラスさんじゃありませんか。さっきからえらく耳障りな声がするものでしたからてっきり羽虫かと思いましたわぁ〜」
毎度毎度飽きずに嫌がらせの言葉を投げかけてくるソフィリアの言葉に青筋を浮かべながらも、ギュラスの心はさらに打ちつけられた。
「あんまりだ…泣きたい…」
勝ち誇った表情で笑みを浮かべるソフィリアと対照的に
肩を落として暗い影を落として涙声になるギュラスなのであった。
すると突然、人虎タラマがギュラスの背中を叩き、当然ギュラスの体は悲鳴を上げた。
「はははっ、そう不貞腐れるなギュラス！
今は実力不足だが、もっともっと鍛錬して見返してやればいい！
よし、この後すぐ私が朝まで鍛錬に付き合ってやろう！」
「殺す気か！！魔力もほとんど枯渇しててガタガタなんだぞオレは！！」
「なぁにそれだけのつっこみの気力があれば大丈夫だ！男は度胸！魔物は酔狂というやつだ！」
「うるせぇよ脳筋女！こちとらお前ら全員の相手したら嫌でもつっこみ力だけが付いちまって悲惨なんだよ！！」
「まったく、あのツッコみの勢いをもう少し闘いでも役立ててくれれば私たちにとってもありがたいと言うのに…はぁ〜あ、せめてもう少し私たちに近い実力を身に着けてくれればもう少し楽できるのに」
「それは酷ってもんだよ姫。あいつの戦い方は魔力によるブーストでの肉弾戦。ある程度ならまだマシに戦えるかも知れないけど、長期戦となるとすぐ魔力不足になってダメになる。それがウチの第六位様さ」
「はぁ〜、帰ってきてからまだお礼の一言も貰ってないのにぃ〜。
いやだわ、これじゃぁまだまだ前途多難ね」
「…姫様よぉ、生憎とオレぁ味方もろとも巻き添えにして攻撃するような方に礼をするほど特殊な性癖しちゃいませんぜ？」
「あら聞こえてたの？ふふっ、実力はまだまだだけど耳はよくなったじゃない」
「えーえーそうでしょーとも。毎日毎日陰口叩かれたら嫌でも地獄耳になるってもんだ」
「拗ねないの。せめてこれから先はその耳と一緒に実力もよくなってくれることを願ってるわ、第六位の狂乱の幹部さん♪」
「……ケッ、だったらもう少しスムーズに登場シーン決めてくれたらまだ示しがつくってもんだと思いますがね〜っと」
カチンっ、とエルナから明確に聞こえてきた。
「な、なななな……なにをぉーーーーーーー！！
あれは私じゃなくてタラマや他のみんなが先に名乗ったからちょっと手間取っただけじゃない！！」
「おや姫様、私たちのせいにするおつもりか？
私の記憶が正しければ確かその前、姫様が焦って相手が訪ねてもいないのに無理やり名乗りの段階に入ってしまったという失態があったはずだが？」
「おいあんたたち！姫に向かってなんて口聞いてんだい！
いくら事実だからってそれを隠してやるのが本人のためってもんだろう！？そうしないと姫が恥ずかしくてかわいそうだろ！？」
「お前も結構追い打ちかけてんぞ！」
「ぐ、ぐ、ぐぬぬぬぬぬぅ〜………！！」
先ほどのシリアスな雰囲気から一転して、
涙目になりながら赤面して悔しさを噛みしめるエルナなのであった。
「………ギュラス…」
「ん？」
そんな喧噪のなか、突如マントを軽く引っ張られ顔を向けてみると
先ほどから会話に参加していなかったナクレラがそこにいた。
「なんだ？」
「…えっと…あのね…」
「おう、だからなんだ？」
「その…あの…」
何かを伝えたいのは、わかる。
いつものことだ。しかしナクレラはギュラスに何か言おうとするといつも俯いた状態で顔も見せず言葉足らずになる。ほかの幹部とはまだ普通に会話するというのに…。
「………………」
「……おい、ナクレラ？」
「…………ス…」
「ス？」
「スネークアタァーーーック！！！」
「危ねえぇっ！！！」
そしていつもこうだ。理不尽な攻撃。
今回は突如の尻尾の蛇による噛みつき攻撃。
かろうじて回避できたのはある意味、今までの経験から生かされた悲しい賜物だ。
「ふーーーーっはっはっはっはぁーー！！
今の攻撃を避けるとは少しは成長したようだなぁ人間よ！」
（出たよ…）
毎度毎度のお決まりパターンに
ため息がこぼれてしまうギュラスなのであった。
キマイラは複数の人格が混合した種族であるが当然このナクレラもそうだ。
普段の大人しいというかクールな性格と、この攻撃的なハイテンションな性格とまぁいろいろだ。
いつも自分とどこか距離があるナクレラはこうなると一変してめちゃくちゃズカズカ来るので色々と面倒くさい。
「ふっふっふっふー！しかぁーし、今から私が見せる新奥義…果たして貴様に避けられるかなぁ〜？」
「え、まってなんでオレまるでバトッてるような状況になってんの？魔力が枯渇してるって言っ……だぁあぁぁおい待て待て待て！ここでぶっ放す気か！？」
「必殺ぅーーー！！」
「うるさいよナクレラ！！せっかくのパーティーを台無しにする気かい！！！」
「ひぃぃいいーーん！ごごごごめんなさいクラティカ様…！！」
クラティカから膨大な魔力の渦が巻き起こったと同時に放たれた威圧にナクレラは完璧に委縮し、玉座のカーテンの裏にまで隠れて行ってしまった。
「…た、助かった……」
「ふんっ、おいギュラス。あんたも幹部ならもっとシャキっとしな。折角の魔王様からの推薦で入会したんだ。もっと幹部としての気構えってのがあんたには必要だね」
「お、おおう…」
そう言われても、すでに眼の間で思い知らされた魔力の差に思い知らされたばかりなのであまり慰めにもなっていないのだが。
「ほーっほっほっほ！あーらギュラスさん、あの程度で狼狽えるだなんて随分とみっともｎ」
「あんたも黙ってなソフィリア！！」
「はいいいいいいいいいいっ！！！？？」
（おお怖ぇ…）
「たくほんっとあいつらは…もっと幹部としての気品を……。
そうだ、姫！姫からもなんか言ってやって………姫……？」
「手間とらないもぉん……次は、ひっく…次は上手くやるもん……(;△;)」
「また姫泣いちゃったよ！！
そうだな姫！次はもっと上手くやるもんね！
私も全力でサポートするから、ねっ？だから元気出してって姫！
ほーらほらよしよしいい子いい子……姫は出来る子…！」
(ﾟ*´Д⊂)ヾ(´∀｀)
「ぐすっ…クラティカぁ……」
（……うちのトップが一番幹部として問題なのはどうなんだ？）
本来、微笑ましいはずの光景なのだが
それを繰り広げているのがこの世界の魔王軍のナンバー１とナンバー２という現実に、ある意味この場で一番頭を悩ましているのがギュラスなのであった…大丈夫かこのチーム？
決行するにあたって暗黒の渦を発生させた魔王。
そしてその渦より大挙として現れた魔物娘たち。
このテミスバスタに訪れた彼女たちは、世界と世界を結びつけるゲート発生の条件が一番適した地、つまるところ暗黒の渦たるゲートの真下に、魔界幹部会ダークラバーズは拠点である魔界、城を構えていた。
魔王の力をもってすればカップラーメンを作るよりも早く城一つ作り出すこと造作もないことなのだ。まおうのちからってすげー！！
そしてその城「ラバーズキャッスル」の一室、
無駄にだだっ広い玉座の間にて魔界幹部会一同は集結していた。
今現在、テミスバスタを侵略しようとする一同が
こうしてひとつの部屋に集結したその様子は
テミスバスタの民からしてみれば悪夢に等しい光景だろう…。
「えーそれじゃ、色々とグダグダなところはありはしたが
我ら魔界幹部会ダークラバーズの『決め台詞揃いました！』記念を祝して…姫、どうぞ」
「ありがとうクラティカ、それじゃぁみんな…カンパァーイ！！」
『カンパァ〜イ♪』
悪夢に等しい光景である…悪夢に等しい光景である！悪夢に等しい光景である！！！
玉座の前には簡易的なテーブルが設けられ（それでも豪華な造りだが）
一見恐ろしい風貌をした、魔物娘の中でも上級の魔物娘…そのなかから魔王直々に選びすぐれた幹部たちが、こうして祝杯を挙げていた。
テミスバスタ侵略もほったらかして。
ちなみに彼女たちが飲んでいたのは女性受け…というか魔物受けが良い魔界特産の葡萄ジュース的な飲み物である。
「たくっ、うまくいったからよかったものの…
もう少しでグダグダになるところだったよ。あんたたち！姫に恥をかかすことはこのクラティカ様が許さないよ！」
「はははっ！そうカッカされるなクラティカ殿。眉間のシワがさらに深くなるぞ？」
「はっ倒されたいかタラマ！それにあたしの眉間にもともとシワあるみたいな言い方するんじゃないよ！！あたしは今も昔もシワなんかないピチピチだよ！！」
「うむ、自分でピチピチと言ってしまうあたりもう手遅れだったか！」
「よーしわかったはっ倒されたいんだな！？そうなんだな！！」
「よさないかクラティカ、いちいちタラマの天然さに付き合っていたらそれこそ本当にシワができてしまうぞ」
「で、でも姫ぇ！」
「まぁまぁ、貴方も私の右腕ならもう少し落ち着いた立ち振る舞いをだな…」
（決め台詞失敗して大勢の人の前で泣いちゃった姫様にだけは言われたくない…）
ひとりちびちびと飲んでいたナクレラは内心ツッコむのだった。
「ほ〜っほっほっほっ！ですが姫様！
こうして私たちダークラバーズの決め台詞が揃ったからには、このテミスバスタの完全制圧も目前となったも当然ですわね！」
「ほぉソフィリア、言うじゃないか。
その通り！今まで決め台詞ひとつも失敗に失敗を重ね、練習を重ねに重ねて侵略もままならなくなっていた毎日だったが、こうして我ら魔界幹部会『五人』全員の決め台詞が揃ったからには、このような異界…制圧したも当然！そう…なぜなら我らは！」
魔界幹部会首領たるエルナンディルナが握り拳を掲げると、
ほかの幹部一同も拳を掲げた。
「我ら五人！魔界幹部会！！」
『ダークラバーズ！！』
「待てやぁっ！！！」
バーーーーンッ！と、豪快な音とともに
玉座の間の扉が開かれ、そこには全身ボロボロの男。
魔界幹部会第六位、【狂乱】のギュラスが登場した。
「さっきから聞こえてたがどう考えてもおかしいだろ！
魔界幹部会はオレ含めて六人だろうがっ！！
しかもお前らあの後いきなり帰ったからなにしてんだと思って魔力もほとんどないのに頑張って帰ってきたと思えばなにちょっとしたパーティーやってんの！？
名乗るだけ名乗って満足したから帰るって子供かお前ら…！俺のこと助けに来てくれたんじゃないのか！？お前ら帰った後の空気どんだけ気まずかったと思うよ！？敵さんも「隊長、帰りますか…」「……そうするか」って言ってこれ以上にないほどやるせない表情で帰ってったよ！ズタボロだった俺のことも完璧に忘れて！色々とつっこみが長くなったから結論言わせてもらうがお前ら本気でこの世界征服する気あんのか！？」
「そうですわ姫様！実は祝杯のとっておきに我が家から取り寄せた秘蔵の一品がございますのよ♪」
「ほほぉ、それは楽しみだなソフィリア！」
「あんたにしちゃぁ気が利くじゃないか」
「ねぇゴメンほんっっっっと傷つくから無視しないで！！」
怒りのままに乗り込んできたギュラスであったが、
そのメンタルはすでにひび割れたガラスのハートもいいところであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
魔界幹部会ダークラバーズは言うなれば
魔王が直々に選定した凄腕中の凄腕…選ばれし魔物たちが所属することが許される魔王軍の中でもエリート中のエリートチーム。
魔王の娘である『リリムの姫、エルナンディルナ』。
愛称はエルナ。通称は姫。 彼女を筆頭に構成され、
位が高ければ高いほどその階級は上であり、
簡単に言えば第六位であるギュラスは最弱もいいところの地位であった。
元より、人間である彼がこの幹部会に数えられるということ自体、普通ならあり得ないと言っても過言ではないことなのだ。
まぁ、ギュラスが幹部会に所属することができたのはそれなりの理由があるにはあるのだが今後の展開のため今はとりあえず割愛しよう。
魔界幹部会に入りそれなりに経つが
はっきり言えばギュラスの扱いは散々であった。
リーダーであるリリムのエルナからは出会って間もないころ
彼女から挨拶変わりだかなんだかで遊び半分で誘惑の術を掛けられそうになったことがあるのだが…。
「さぁギュラス…貴方も私の虜に………あれ…？
…なんでならないの！？なんでリリムの私の魅了が効かないのよぉーーーーーっ！！？」
その時の出来事がきっかけか、どうにもリリムながら魔王の娘としての誇りを重んじる性格をしているエルナのプライドを傷つけることにつながってしまったらしい。
以来ギュラスは彼女から嫌われている。
どうしてあの時、リリムほどの力を持つ彼女の誘惑がギュラスに効かなかったのかはとうの本人ですらよくわからない。もっとも、エルナのあの性格ならミスのひとつやふたつあってもおかしくないだろうと結論付けてはいるが…。
とまぁ首領でエルナを筆頭に
他の幹部たちも似たようなものだ。
『デーモンのクラティカ』は幹部会の最古参で魔王に忠実なデーモンだ、
なんでも噂では魔物たちが少女の姿に変化する以前から魔王とは主従関係にあったらしく、魔王…引いてはその娘であるリリムのエルナには絶対的な忠誠を誓っており、彼女たちに仇なすものには一切合切容赦はしない。
今でもよく覚えている…思い出すたびギュラスは全身に鳥肌を感じていた。
「魔王閣下の意向であればあたしは文句はないさ。
…でもねぇギュラス、もしも閣下や姫の顔にドロを塗るようなことがあれば、その時は覚悟しとくんだね…くくくっ…」
あの時のクラティカの顔は今でも時々悪夢としてギュラスを襲っている。
『ヴァンパイアのソフィリア』…。
彼女ははっきり言えば口調も含め典型的なお嬢様タイプだ。
なんでもヴァンパイア界最強の眷属の末裔らしい。
性格もヴァンパイアらしい高飛車であり、人間を見下すことなどお約束…。しかし彼女は決してギュラスに対して淡い思いを抱いてなどいない。
なぜなら単純に「好みじゃない」からだそうだ、どうにも筋肉質でガテン系のギュラスは彼女の好みからかけ離れているらしい。
それどころか時々嫌がらせはするわことあるごとに幹部会から追い出そうとするわである意味ギュラスが一番嫌いなのがこのソフィリアである。
次に『人虎のタラマ』。
彼女は天然が入っているが典型的な脳筋思考の持ち主だ。
暇さえあれば鍛錬鍛錬また鍛錬、そういった魔物娘だ。
なんでも霧の大陸よりやって来たらしいがそこらへんはどうでもいい。
問題なのは彼女はその鍛錬に仲間を巻き込もうとするところだ、そしてその最大の被害者こそがギュラスなのである。
タラマとギュラスは共に格闘による接近戦スタイル。もっとも人間であるギュラスと人虎のタラマの実力は月にスッポンもいいところだが、彼女は彼女なりにギュラスに見込みのようなものを感じており、必要以上にギュラスを鍛錬に巻き込んでくる。恐らく本人に悪意はないと思われるが、それでもギュラスにとっては戦闘以上の苦痛である。
最後に『キマイラのナクレラ』、なのだが…
ギュラスが一番苦手なのは実は彼女であった。
ナクレラはギュラスの後に入会した一番新参の幹部なのだが、実力は高くあっさりとギュラスを追い抜き第五位の地位を手に入れている。
苦手、というのはギュラス自身ナクレラのことがよくわからないからだ。
以前戦闘から戻ってきたときのことだ、いつも帰っても誰も出迎えてもくれないのに…彼女はいた。手にはタオルを持っており深夜だというのに一人ぽつんと、彼女が立っていたのだ。
ギュラスは最初なんだなんだ？と困惑したが、彼女のほうから歩み寄って来た思うと突然…
「おい人間！あんな簡単な任務でここまで遅くなるなど恥ずかしいと思わないのか！？貴様のような役立たず、とっとと幹部会から抜けたほうが姫様の為だ！！」
と言っていきなりタオルを叩きつけ走り去っていった。
それ以降も似たようなものだ、昼時に大きな弁当を持って現れたと思うと顔面に弁当を叩きつけられるなど何度も経験した。以来ギュラスにとってナクレラは幹部会で一番よくわからないなんだか危ない奴と認識している。ただ顔面に食らった弁当の中身は旨かったのはよく覚えている。
あとまぁこれは余談といってもいいのだがそんな幹部たちに蔑ろにされている
ギュラス本人についても説明しておこう。
『人間のギュラス』。
幹部会に入ってそれなりに経つが未だ最下位である第六位を不動のものとし、幹部会では主に使い走りや戦場での最前線、なにかと嫌な作戦の執行を指示されてしまっている。前述の通り異例の幹部会入りを果たし、来る日も来る日もこの世界の人間との小競り合いばかり繰り広げている。
敢えて擁護して言うなら実力は決して低くはない。低かったら幹部会になど入れない、それだけは確かである。しかしそれは所詮『人間』というカテゴリーの中だけの話であり他幹部に比べてしまうと…といった感じだ。
あと人間離れした風貌だとよく言われるが彼はれっきとした人間である。
以上が、この魔界幹部会ダークラバーズの幹部たちと
ギュラスとの関係である。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ？なんだギュラス、いたのかい」
無視されないだけまだマシかもしれないが、
それでもクラティカの容赦ない一言がギュラスの心に突き刺さった。
「あら？誰かと思ったら幹部会最下位ギュラスさんじゃありませんか。さっきからえらく耳障りな声がするものでしたからてっきり羽虫かと思いましたわぁ〜」
毎度毎度飽きずに嫌がらせの言葉を投げかけてくるソフィリアの言葉に青筋を浮かべながらも、ギュラスの心はさらに打ちつけられた。
「あんまりだ…泣きたい…」
勝ち誇った表情で笑みを浮かべるソフィリアと対照的に
肩を落として暗い影を落として涙声になるギュラスなのであった。
すると突然、人虎タラマがギュラスの背中を叩き、当然ギュラスの体は悲鳴を上げた。
「はははっ、そう不貞腐れるなギュラス！
今は実力不足だが、もっともっと鍛錬して見返してやればいい！
よし、この後すぐ私が朝まで鍛錬に付き合ってやろう！」
「殺す気か！！魔力もほとんど枯渇しててガタガタなんだぞオレは！！」
「なぁにそれだけのつっこみの気力があれば大丈夫だ！男は度胸！魔物は酔狂というやつだ！」
「うるせぇよ脳筋女！こちとらお前ら全員の相手したら嫌でもつっこみ力だけが付いちまって悲惨なんだよ！！」
「まったく、あのツッコみの勢いをもう少し闘いでも役立ててくれれば私たちにとってもありがたいと言うのに…はぁ〜あ、せめてもう少し私たちに近い実力を身に着けてくれればもう少し楽できるのに」
「それは酷ってもんだよ姫。あいつの戦い方は魔力によるブーストでの肉弾戦。ある程度ならまだマシに戦えるかも知れないけど、長期戦となるとすぐ魔力不足になってダメになる。それがウチの第六位様さ」
「はぁ〜、帰ってきてからまだお礼の一言も貰ってないのにぃ〜。
いやだわ、これじゃぁまだまだ前途多難ね」
「…姫様よぉ、生憎とオレぁ味方もろとも巻き添えにして攻撃するような方に礼をするほど特殊な性癖しちゃいませんぜ？」
「あら聞こえてたの？ふふっ、実力はまだまだだけど耳はよくなったじゃない」
「えーえーそうでしょーとも。毎日毎日陰口叩かれたら嫌でも地獄耳になるってもんだ」
「拗ねないの。せめてこれから先はその耳と一緒に実力もよくなってくれることを願ってるわ、第六位の狂乱の幹部さん♪」
「……ケッ、だったらもう少しスムーズに登場シーン決めてくれたらまだ示しがつくってもんだと思いますがね〜っと」
カチンっ、とエルナから明確に聞こえてきた。
「な、なななな……なにをぉーーーーーーー！！
あれは私じゃなくてタラマや他のみんなが先に名乗ったからちょっと手間取っただけじゃない！！」
「おや姫様、私たちのせいにするおつもりか？
私の記憶が正しければ確かその前、姫様が焦って相手が訪ねてもいないのに無理やり名乗りの段階に入ってしまったという失態があったはずだが？」
「おいあんたたち！姫に向かってなんて口聞いてんだい！
いくら事実だからってそれを隠してやるのが本人のためってもんだろう！？そうしないと姫が恥ずかしくてかわいそうだろ！？」
「お前も結構追い打ちかけてんぞ！」
「ぐ、ぐ、ぐぬぬぬぬぬぅ〜………！！」
先ほどのシリアスな雰囲気から一転して、
涙目になりながら赤面して悔しさを噛みしめるエルナなのであった。
「………ギュラス…」
「ん？」
そんな喧噪のなか、突如マントを軽く引っ張られ顔を向けてみると
先ほどから会話に参加していなかったナクレラがそこにいた。
「なんだ？」
「…えっと…あのね…」
「おう、だからなんだ？」
「その…あの…」
何かを伝えたいのは、わかる。
いつものことだ。しかしナクレラはギュラスに何か言おうとするといつも俯いた状態で顔も見せず言葉足らずになる。ほかの幹部とはまだ普通に会話するというのに…。
「………………」
「……おい、ナクレラ？」
「…………ス…」
「ス？」
「スネークアタァーーーック！！！」
「危ねえぇっ！！！」
そしていつもこうだ。理不尽な攻撃。
今回は突如の尻尾の蛇による噛みつき攻撃。
かろうじて回避できたのはある意味、今までの経験から生かされた悲しい賜物だ。
「ふーーーーっはっはっはっはぁーー！！
今の攻撃を避けるとは少しは成長したようだなぁ人間よ！」
（出たよ…）
毎度毎度のお決まりパターンに
ため息がこぼれてしまうギュラスなのであった。
キマイラは複数の人格が混合した種族であるが当然このナクレラもそうだ。
普段の大人しいというかクールな性格と、この攻撃的なハイテンションな性格とまぁいろいろだ。
いつも自分とどこか距離があるナクレラはこうなると一変してめちゃくちゃズカズカ来るので色々と面倒くさい。
「ふっふっふっふー！しかぁーし、今から私が見せる新奥義…果たして貴様に避けられるかなぁ〜？」
「え、まってなんでオレまるでバトッてるような状況になってんの？魔力が枯渇してるって言っ……だぁあぁぁおい待て待て待て！ここでぶっ放す気か！？」
「必殺ぅーーー！！」
「うるさいよナクレラ！！せっかくのパーティーを台無しにする気かい！！！」
「ひぃぃいいーーん！ごごごごめんなさいクラティカ様…！！」
クラティカから膨大な魔力の渦が巻き起こったと同時に放たれた威圧にナクレラは完璧に委縮し、玉座のカーテンの裏にまで隠れて行ってしまった。
「…た、助かった……」
「ふんっ、おいギュラス。あんたも幹部ならもっとシャキっとしな。折角の魔王様からの推薦で入会したんだ。もっと幹部としての気構えってのがあんたには必要だね」
「お、おおう…」
そう言われても、すでに眼の間で思い知らされた魔力の差に思い知らされたばかりなのであまり慰めにもなっていないのだが。
「ほーっほっほっほ！あーらギュラスさん、あの程度で狼狽えるだなんて随分とみっともｎ」
「あんたも黙ってなソフィリア！！」
「はいいいいいいいいいいっ！！！？？」
（おお怖ぇ…）
「たくほんっとあいつらは…もっと幹部としての気品を……。
そうだ、姫！姫からもなんか言ってやって………姫……？」
「手間とらないもぉん……次は、ひっく…次は上手くやるもん……(;△;)」
「また姫泣いちゃったよ！！
そうだな姫！次はもっと上手くやるもんね！
私も全力でサポートするから、ねっ？だから元気出してって姫！
ほーらほらよしよしいい子いい子……姫は出来る子…！」
(ﾟ*´Д⊂)ヾ(´∀｀)
「ぐすっ…クラティカぁ……」
（……うちのトップが一番幹部として問題なのはどうなんだ？）
本来、微笑ましいはずの光景なのだが
それを繰り広げているのがこの世界の魔王軍のナンバー１とナンバー２という現実に、ある意味この場で一番頭を悩ましているのがギュラスなのであった…大丈夫かこのチーム？
15/10/04 22:27更新 / 修羅咎人
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