Bad Day
目を覚ますとそこは焼け爛れたテントでは無く、木で組まれた天井だった。
上半身だけで飛び起きると、僕から見て左手に人がいた。
ふかふかのベッドで寝かされた僕を覗き込むのは、あの時のお姉さんだった。
「.....大丈夫?」
お姉さんはとても綺麗な人だった。髪と肌は雪のように白くて、瞳は星の無い夜みたいだった。その大きな瞳に見つめられると、吸い込まれてなくなってしまうような不思議な感覚に襲われた。僕は落ち着かなくなって部屋をキョロキョロと見回した。こんな綺麗な人に見つめられるのは初めてだったから。
でも、それ以上お姉さんに見惚れる余裕は僕にはなかった。部屋の壁にかかった鏡に映った眼帯をつけた僕が、僕にあの時の惨劇を思い出させた。
右眼に当てられたガーゼの端から黄色い膿の腐った臭いと色がほんのり染み出している。
身体が一人でに震え出した。
やっぱりあれは夢じゃなかった。お母さんが爛れた服がひっついて花柄になったのもお父さんの溶けた腕が水に流れたのも僕が眼を無くしてひとりぼっちになったのも全部すべてみんな現実だった。視界がぐるぐる周り、目の前が白くなった。周りの音が曖昧になり、汗が大量に吹き出して僕を濡らす。息苦しくなった僕は身体を支える事さえ出来なくなり、転げ落ちる体勢になった。
でも崩れ落ちる僕の身体が床に叩きつけられる事はなかった。
倒れる僕をお姉さんが受け止めてくれた。そして怖くて震える僕を優しく抱きしめてくれる。お姉さんの胸に甘くて優しく香りとともに抱かれると、途方も無い安心感に包まれた。僕の左眼から涙がポロポロと流れ落ちてお姉さんの白いブラウスを濡らした。お姉さんの胸の感触が、遠い彼方に埋れた幼い日のお母さんとの記憶を掘り起こしたのだろうか。
でも、あの温もりをくれた人はもう居ない。いつもその傍にいた人も。親戚も居ない僕に、もう家族と呼べる人は無いのだ。
「ぼ、僕.....ひとり......ぼっちに.....なっちゃった......んだ。」
自覚した途端、喉からは嗚咽混じりの声しかでなくなっていた。これからどうすればいいのか分からなくて、不安で仕方がなかった。
「.....っ!わ..私が.........側に.....いてあげるよ。
絶対.......なにがあっても......守って...あげる。」
一瞬お姉さんが何をいったのか分からなかった。暫らしてお姉さんの言葉の意味を理解して、僕はお姉さんを見あげる。
でも僕がお姉さんの顔を見る事は出来なかった。お姉さんは白くて長い指で僕の頭を優しく撫でると、さっきよりもきつく抱きしめた。
「あなたのお母さんとか...お父さんの代わりになんてなれないのはわかってるけど.....。それでもあなたの居場所になら、なれる。
あなたを....ひとりぼっちになんて、絶対にさせない!
それに、あなたの家族を殺したやつは、私が絶対見つけて始末するから......!」
「.........うう。うわああああああああああああ!」
このお姉さんは何者なのかとか、どうして僕にそこまでしてくれるのかという疑問は、その時僕の中には全くなかったと思う。抱き締めてくれるお姉さんがどうしようもなく温かくて、僕は十歳の誕生日も越えたところなのに赤ん坊のように泣いてしまった。離れたく無い気持ちを表すかのようにお姉さんにしがみついた。
お姉さんはそんな僕に何も言わず、頭を撫でる手とは逆の手で赤ん坊をあやすように優しく背中を撫でてくれる。寂しさや恐怖が、少しずつ薄らいでいくのがわかった。
「今日はもう遅いから、寝よ?私が一緒にいてあげるから。」
その言葉に僕が何度も何度も頷くのを確認したのか、お姉さんは僕を抱きかかえたままベッドに体を滑り込ませ、毛布を被せる。身体の震えが段々と取り去られていき、僕は再び意識を失った。
上半身だけで飛び起きると、僕から見て左手に人がいた。
ふかふかのベッドで寝かされた僕を覗き込むのは、あの時のお姉さんだった。
「.....大丈夫?」
お姉さんはとても綺麗な人だった。髪と肌は雪のように白くて、瞳は星の無い夜みたいだった。その大きな瞳に見つめられると、吸い込まれてなくなってしまうような不思議な感覚に襲われた。僕は落ち着かなくなって部屋をキョロキョロと見回した。こんな綺麗な人に見つめられるのは初めてだったから。
でも、それ以上お姉さんに見惚れる余裕は僕にはなかった。部屋の壁にかかった鏡に映った眼帯をつけた僕が、僕にあの時の惨劇を思い出させた。
右眼に当てられたガーゼの端から黄色い膿の腐った臭いと色がほんのり染み出している。
身体が一人でに震え出した。
やっぱりあれは夢じゃなかった。お母さんが爛れた服がひっついて花柄になったのもお父さんの溶けた腕が水に流れたのも僕が眼を無くしてひとりぼっちになったのも全部すべてみんな現実だった。視界がぐるぐる周り、目の前が白くなった。周りの音が曖昧になり、汗が大量に吹き出して僕を濡らす。息苦しくなった僕は身体を支える事さえ出来なくなり、転げ落ちる体勢になった。
でも崩れ落ちる僕の身体が床に叩きつけられる事はなかった。
倒れる僕をお姉さんが受け止めてくれた。そして怖くて震える僕を優しく抱きしめてくれる。お姉さんの胸に甘くて優しく香りとともに抱かれると、途方も無い安心感に包まれた。僕の左眼から涙がポロポロと流れ落ちてお姉さんの白いブラウスを濡らした。お姉さんの胸の感触が、遠い彼方に埋れた幼い日のお母さんとの記憶を掘り起こしたのだろうか。
でも、あの温もりをくれた人はもう居ない。いつもその傍にいた人も。親戚も居ない僕に、もう家族と呼べる人は無いのだ。
「ぼ、僕.....ひとり......ぼっちに.....なっちゃった......んだ。」
自覚した途端、喉からは嗚咽混じりの声しかでなくなっていた。これからどうすればいいのか分からなくて、不安で仕方がなかった。
「.....っ!わ..私が.........側に.....いてあげるよ。
絶対.......なにがあっても......守って...あげる。」
一瞬お姉さんが何をいったのか分からなかった。暫らしてお姉さんの言葉の意味を理解して、僕はお姉さんを見あげる。
でも僕がお姉さんの顔を見る事は出来なかった。お姉さんは白くて長い指で僕の頭を優しく撫でると、さっきよりもきつく抱きしめた。
「あなたのお母さんとか...お父さんの代わりになんてなれないのはわかってるけど.....。それでもあなたの居場所になら、なれる。
あなたを....ひとりぼっちになんて、絶対にさせない!
それに、あなたの家族を殺したやつは、私が絶対見つけて始末するから......!」
「.........うう。うわああああああああああああ!」
このお姉さんは何者なのかとか、どうして僕にそこまでしてくれるのかという疑問は、その時僕の中には全くなかったと思う。抱き締めてくれるお姉さんがどうしようもなく温かくて、僕は十歳の誕生日も越えたところなのに赤ん坊のように泣いてしまった。離れたく無い気持ちを表すかのようにお姉さんにしがみついた。
お姉さんはそんな僕に何も言わず、頭を撫でる手とは逆の手で赤ん坊をあやすように優しく背中を撫でてくれる。寂しさや恐怖が、少しずつ薄らいでいくのがわかった。
「今日はもう遅いから、寝よ?私が一緒にいてあげるから。」
その言葉に僕が何度も何度も頷くのを確認したのか、お姉さんは僕を抱きかかえたままベッドに体を滑り込ませ、毛布を被せる。身体の震えが段々と取り去られていき、僕は再び意識を失った。
14/01/02 10:59更新 / 蔦河早瀬
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