連載小説
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Blood Sugar Sex Magik

「もう今日から外出てもいい。これ付けな。」

そう言われたのはあの日から二週間経った日の朝だった。怪しい薬の匂いが染み付いた白衣から取り出した眼帯を取りだした。

耳にかけてもらう前にちらりと鏡を見る。
肉がただれ、頬骨が露出した僕の顔の右側はいまでも穴の奥に臭い膿が湧いていて酷い臭いを放っている。

「消臭と消毒効果があるから、もうこれ以上悪化することは無い。」

そう言って僕の後ろに回り、眼帯を付けてくれる。薬品の匂いに混じって甘くて優しい香りが僕の鼻をくすぐる。

「うん、ありがとう。レーヴィさん。」

ギシギシとやかましい音を立てる椅子がレーヴィさんに向かって一人でに滑ってきて彼女のお尻に収まる。
あの日、空から災いが降ってきたときからレーヴィさんはずっと僕を自宅に住まわせてくれている。

レーヴィさんは魔女だ。色々な材料を調合して魔法薬を精製するのが専門みたい。大人びた外見だけど、まだ18歳らしい。いたるところに魔法が仕掛けられたこの小さな家に一人で住んでた。

いまは乱雑にものが放置された机に置かれたコーヒーカップに手を伸ばし、ズルズルとすすっている。このコーヒーカップはさっきキッチンから文字通り飛んできたものだ。

口を離し、ペロリと唇を舐める仕草が凄く色っぽい。化粧もして無いはずなのに吹き出物一つ見えない白い肌は、無意識の内に僕の視線を引きつけていた。こんなに綺麗なら男の人はほっとくはずが無いのに、どうしてこんな所に一人で暮らしてたんだろう?

そんな疑問と余計なお節介を考えていた僕にずいっと何かが差し出される。

「飲む?」
それはコーヒーカップだった。僕がレーヴィさんの顔を凝視していたのをコーヒーが飲みたがってると勘違いしたみたい。

「え!?あ......うん!ありがとう.....。」

びっくりして思わずカップを受け取っちゃったけれど、どう見てもこれはさっきまでレーヴィさんが飲んでたやつだ。これは関節キスっていうのになっちゃうんじゃないのかな.....。

でも、きっとレーヴィさんはそういうの気にする人じゃないから大丈夫......のはず。僕は思い切ってコップを飲み干した。

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」
次の瞬間、僕は口にいれたそれを吐き出しそうになった。コーヒーだと思ったら酷い甘さだ。

ありえない量の砂糖が溶けている。

「レーヴィざん"!?な"に"ごれ"!?」
胸焼けで嘔吐しそうになったのは生まれて初めてだった。なんでこの人はこの黒い汁を平気で飲めるんだろう。

「コーヒーだけど?小さい子って甘いの好きでしょ?」
そう言ってカップを放り投げた。カップは地面に激突して割れる前に円盤のように回転しながら浮遊してキッチンに帰投していった。

やっぱりレーヴィさんはちょっと変な人だと思う。こんなものを普段から摂取しておきながらあの見事なスタイルを維持していたり、この奇奇怪怪な家に一人で暮らしていたり、実験室で色々とやばい薬を精製したり。

でも、普段は綺麗な優しいお姉さんなんだ。
この二週間、僕を本当に献身に看病してくれて、事故の記憶で精神的に不安定だった僕を毎晩優しく抱きしめてくれた。感謝してもしきれない。

.....添い寝してくれたとき、レーヴィさんのいい匂いや柔らかいところが触れて、凄くドキドキしていたのはナイショだ。最近はよく心臓がばくばくして凄く切ない気持ちになる。気づけばレーヴィさんを目で追っていることが多くなってた。もしかしたら僕はレーヴィさんのことを........





「好きなの?」
レーヴィさんが僕を見つめて急にそんなことを聞いてくる。

「へ!?あ、あの.....うん。好き.....だけど。でもこれってやっぱり恋.....かな?」

「.....うん。私も好きだよ。」
レーヴィさん、いつも通りの無表情だけど....ちょっと嬉しそう?

.......どうしよう。告白しちゃった........ことになるのかな?
こんな風に想いを伝えることになるなんて思ってもみなかった。でも、レーヴィさんも好きって言ってくれて、つまりは両思いってことで......。

お父さん、お母さん。僕、11年生きて初めて彼女が出来ました。7つも上だけど、とっても優しいお姉ちゃんみたいな.....。


「じゃあおかわり持ってくる。君の要望通りもうちょっと薄いやつ。」

「...おかわり?」

「好きなんでしょ、コーヒー。ちょっと薄いのが。」

もしかして、

好き→コーヒーが

恋→濃い

ってことだろうか。つまり、さっきのは告白じゃなくてコーヒーの好き嫌いのことで......。お父さん、お母さん、やっぱり僕はまだみたい。期待して損した。

そんな僕の気落ちした気分を代弁するかのように、やってきた二つのマグカップはふらふらと元気無く飛んできた。

僕の手に収まるカップの中身はちょっと舐めたけどほとんどさっきと変わりない強烈な甘味のままで......。

「召し上がれ.....」

レーヴィさんはそう言って目を細めて美味しそうにあの黒色砂糖水を堪能している。

やっぱりこの人は変人だ。

でも僕は......

「....いただきます。」


きっとこの人に恋をしてる。
14/01/06 00:15更新 / 蔦河早瀬
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■作者メッセージ
あけましておめでとうございます。

エロありといっておきながら全くそんなそぶりがありませんねぇ(遠い目)

すいません。次はちゃんとえっちさせます。

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