しんりゃく!まものむすめ!
「そうです!今日こそ!今日こそ!全サバトにこの大魔女ヘンルーダちゃんの真の才能を知らしめる時が来たのです!」 地下室で「ふおおおお!」と気炎を上げる小さな影の足元には、召喚用のものに似た魔法陣がほんのりと赤い光を放っていた。 「苦節云年……初級魔法も使えない、男も誘惑できないダメ魔女アホ魔女お邪魔女と言われてきた苦労が今日こそ実る!」 なぜって私ったら大器晩成型だからー!と誰も聞いてない雄たけびが地下室に響いた。 「ふっふっふ…お茶くみ係としてこっそり会議の様子を聞いていて、ティン!と来ました。魔界の興亡この一戦にあり!なぜなら私!初歩の魔法はちょびっと苦手ですが!空間転移魔法だけは大得意!読者の皆さんに判りやすく言うと、三ケタの足し算はできなくても微分積分はできちゃうみたいなチートな魔女だからです!説明終了!」 どう考えても不安しかない説明を虚空に呟きながら、ヘンルーダはせっせと触媒を用意していた。 「儀式用短剣……剣って危ないですよね指とか切ったら大変。とりあえずバターナイフで代用しときましょう。安全第一!ワンド……はいはい、杖ですねー……あれ、どこしまったかな?ああ、もう!このヤマイモでいいです!長いし。カリス……杯なんてお酒飲まないから持ってないですよ。仕方ない、愛用のマグカップで代用しましょう。あとは星型を描いて……テーレッテレー!完成!」 ドヤ顔で間に合わせ魔法陣の前に立った魔女の姿は、誰がどう見てもごっこ遊びをしている幼女でしかなかった。 マグカップに描かれた今にも裏声で「ハハッ」とか笑いだしそうなネズミのキャラクターがシュールさを醸し出している。 「さあ、後はとってもかっこよくて強いお兄ちゃんがいっぱいいそうな世界へくすくすわらってごーごーするだけです!よいしょっと。」 その辺に置かれた麻袋の上に腰をおろして、彼女は真剣な顔で『文献』を吟味し始めた。 どれも異世界から召喚してきた貴重な品々である。 魔界にとって有益な勇者に匹敵する者、大魔術師、異能の血を継ぐ人間を、できるだけサバトに勧誘することで魔界の戦力を増やす。 それこそがこの頭が常春な魔女の目的であった。 「人間の身で光速を超える拳を使える猛者が12人も…これは勇者にとって脅威ですね!あらゆる事象を幸運で塗り替える……運命改変の魔術でしょうか?神をも脅かす大魔術とは研究の余地ありです!あらゆる魔物を消滅させる呪いの槍……うう、怖いのはパス!次です次!」 足元に積み重なった文献には、様々な異世界の英雄譚が描かれている。 と、ヘンルーダは勝手に思い込んでいた。 「とにかく、これで異世界の知識も調査も万端ですね。待っててくださいバフォ様!魔王様!私は魔界の偉人になります!」 少量の硫黄の粉を撒いた途端、魔法陣は輝きを増し朱色の光が辺りを包みこむ。 「いざゆかん!日本へ!そして素敵なお兄ちゃんをゲットするぞー!」 おー!と片腕を振り上げたまま、地下室からはヘンルーダの姿は掻き消え、魔法陣が、再び淡い光を放って鎮座していた。 |
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