連載小説
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お前らだって一度は妄想しただろ(前)
目覚ましが鳴るまでの少しの間、ふわふわと宙に浮かんでいるようなまどろみは最高に気持ちがいい。
いつもこれで、二度寝して大慌て手で登校する羽目になるんだよなー。
ああ、でも本当に気持ちいい。
この気持ちよさのためなら朝食後の全力自転車レースなど些細なことに思えるくらい。

などと駄目人間丸出しのことを考えながら、ごろんと寝返りを打つ。

むにゅり

柔らかくて、適度に弾力がありつつ、すべすべとしていながらもふんわりとした包容力のあるものに顔が包まれた。
おっぱい!
朝目覚めたらおっぱい様が隣におっぱっておられる。
それは全男性の求める桃源郷、見果てぬ理想、彼方の地平線。

「おっぱああああああああああい!!!!!!!!!!!!!」
俺は叫んだ。
力の限り叫んで飛び起き、恐れ多くも隣で俺を慈悲深くおっぱられていらっしゃるはずのおっぱい様へと眼を向けた。
「むにゃ……ぐー……」
二度見。
三度見。
大きく息を吸ってー

「尻じゃねええええええよおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」

ベッドで上下さかさまになって、尻丸出しで惰眠をむさぼっているロリに怒りの咆哮を叩きつける。
「おっぱいがねえよお!おっぱいがねえんだよお!!くそくそくそひいいいい!」「あ、おはよーございますう」「黙れ大平原!」
ソウルフルにシャウトしながら部屋の隅から隅までローリング、ついでにその場でびったんびったんと跳ねまわる。
おっぱいを奪われた青少年の苦しみはかくも深い。
海よ泣け、大地よ割れよ、雷鳴よ轟け、おっぱいは揺れろ。
俺の怒りは雲を突き抜けファーラウェイ、いまや有頂天へ到達した。
「裸ワイシャツは大人のお姉さんだけに許された特権なんだよ!どきどきしながらシャワーを待ってると『あ、正行君?これ借りちゃったわよ」なーんてちょっと悪戯っぽく挑発的に言いながら湯上りの火照った体に、いつも俺の着ているワイシャツをさりげなく着こなし石鹸のいい香りをさせながら『年下だって思ってたけど、さすが男の子ね。やっぱり袖が余っちゃうわ」なんて、少しはにかんだようにかつ大人の余裕を覗かせながらたわわなおっぱいの先の桜色のシャングリラを白いシャツ生地からつんと張り出して言うのがジャスティスなんだろおおがあああああああ!」
「わあ、すごいです!ここまでノンブレス」
布団をさぬきうどんのように捏ね回し、頭から被って、服を脱ぎ捨て、尻にリモコン挿しながら叫ぶ俺を、呑気に放置してヘンルーダはさっさと着換え始めた。

「ところで、お兄さん」「どうした」「しこっていいのよ?」

無言でオナホ(未使用)を投げつける。
何やら泣いているようだが関係ない、くやしかったらあと二十歳は年取って巨乳になってから誘惑しろ。
そしたら、土下座して「やらせて下さい!」と叫ぶ。


朝飯食って、登校。京子に「朝から近所迷惑!」とぶん殴られた右顔面が痛い。
「そしてなぜおまえも付いてくる。」
当然のような顔をしてコスプレまがいの服装からワンピース(京子のチェニック?チュナック?を転用)に着替えたロリが後ろでスキップしている。

「世界征服の第一歩はご近所からといいますし、お兄さんの学校をまず拠点にしようかと思って」
「幼稚園バスジャックするような連中の理論は当てにならんぞ」「そんな野蛮なまねは致しません」

だいたい幼稚園児に幼女の魅力と背徳を教え込む意味がないです。と小さく呟くヘンルーダ。
年齢か。問題は手法じゃなくて年齢なのか。
疲れたサラリーマンの皆様が乗り込んだ深夜バスとか、希望に満ち溢れた球児が甲子園へ向かうバスとかなら喜んでバスジャックしそうな気がする。
彼女いわく魔物娘の考える征服とは、人間の抑圧された本能を解き放ってうふふでむふふなパラダイスを作ることらしい。
「魔界には一人で国一つ落とした姫もいらっしゃいますよ」「なにそれこわい」
単騎で国を落とすとかどんな姫君だ。
王宮の壁をぶち破って、じいやとうだつの上がらない神官連れてモンスター殴り殺して回る王女より酷い。
背中に鬼の顔が浮かんでるんじゃないの?

「お兄さんの通っているのは男子校とおねーさまにお聞きしました。」「おう」

にたあと嫌な笑い方をするロリ。
「男子校ということはですよ?若い性欲がオスだらけの閉鎖空間で抑圧されまくりーの。性への興味が暴発しーの妄想と栗の花の匂い溢れる楽園じゃないですか」
たしかにエロ本とか貸し借りの契約は結んだりするが、そこまでカオスな野生の王国じゃない。
ていうか、学校中にイカスメルが漂ってたら速やかに登校拒否してるからね?
「じゃあ、妄想はしないんですか?」
「美人保険医が来るとか、美人ELTが来るとか、学校に凶悪犯が立てこもってかっこよく撃退とか月並みな妄想しかしてないぞ。」
ていうか、校門のあたり騒がしいな、抜き打ちの風紀検査か?

「君たち、すぐに下校しなさい!校内に現金強奪犯が立てこもったんだ!」
な、なんだってー

警察官の言葉に思わず脳内で気の抜けた返答をする。何これ、まだ夢見てるの俺?きゅうじつがふえるよ!やったねおれ!
「立てこもりってそんなによくあるんですねー。」
なんか納得した顔をしたヘンルーダが後ろのほうでしきりに感心してるが、そんな日常送ってるのはセガールくらいだ。

「なんかよくわからんが、帰るか…。」

その瞬間
俺の脳内に電撃奔る……!
あ。
やばい。
「ヘンルーダ、ついてこい!俺にはどうしても取り戻さなきゃいけないものがある!」


警察の包囲網をヘンルーダの迷子作戦でかわし、運動部のさぼり専用通路から後者に近づく。
「な、お前魔女なんだろ?この鍵何とかしてくれるか?」「おお!珍しく頼ってくれましたね!」
ヘンルーダはポケットから何かテープのようなものを取り出し、丸く窓に貼りつけていく。
あれが本物の魔法陣なんだな。
そのまま中央にも線を一本、二本、三本、四本……
「そおいっ!」
杖を振り上げて一閃。
テープで見事に覆われた円は、ぐしゃっと言う音を立ててガラスごと床に落ちた。
うん。
これ、魔法じゃない。
明らかに、魔女とか魔法使いとか魔導師というより、空き巣とかこそ泥とかストーカーのする作業です。
「よいしょ。」
ガラスの割れた部分から手を突っ込んで鍵を開ける音。
「では!行きましょうかお兄さん!!」

(つづく)
12/10/11 23:13更新 / 佐野
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■作者メッセージ
まだ前篇です。
ネタチェックに協力してくれた皆さまに感謝。

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