連載小説
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14.事件は繋がる
「シロー! どこだー!?」
「坊主ー! 出てこーい!」

辺りがほぼ暗闇となる時間。
エトナとジェフは、大声を張り上げながらシロを探していた。

「くそっ! 何でアタシは・・・」
「今更仕方ねぇ。とにかく、何か手がかりでも・・・っと?」

ジェフの視線の先。
丁度、街灯に照らされていた路面に、何かが落ちていた。
小さい物だが、光を反射している事から金属の類と思われる。

落し物を拾い、街灯の方に翳す。
そして、すぐに判明した。

「おい、ちょっと来い!」
「あ? 何だ?」
「これ見てみろ!」
「・・・って、まさか!?」

ジェフが見つけた落し物。

それは、シロにプレゼントした指輪だった。



(・・・んっ・・・?)

絨毯の上。
顔を上げれば、高そうな絵画と、火のついている蝋燭が三本立てられた燭台。
左を向けば、枕や毛布に敷布団といった、寝具一式。
右を向けば、ドアと小窓。

そして、自分の両手に嵌められている手錠。

「参ったな・・・」

周囲を確認し、呟く。
そして、状況を理解する。

「本当に、こうなっちゃうか」

すっと立ち上がり、ドアに向けて歩く。
狭い部屋なので、3歩も進めば辿り着く。

ノブをひねり、回す。
押しても引いても、ビクともしない。

「・・・あはは。そりゃ、そうだよね」



攫われてから2時間後。
シロは、囚われの身となっていた。



部屋を見渡す。
入口は鍵のかかったドアのみ、小窓も開かない。
壁を叩いてみたが、反応は無い。

(・・・それにしても、妙だ)

自分が攫われた理由は、ある程度見当がついている。
しかし、一つ不可解な事があった。

(この部屋・・・閉じ込めるにしては、豪華すぎる)

絨毯の敷かれた床や、漆喰の壁。
蝋燭が立てられた燭台は金色に光り輝き、主張しすぎない装飾が上品さを演出している。
寝具の類も明らかに高級なものであり、閉じ込める事が目的なら
わざわざ用意する必要の無い物だ。

(どう受けるべきなんだろうな。多分殺されはしないだろうけど、
 この状況だとあまり下手な真似は出来ない。
 ・・・となると、気付いてもらえるか、だけど)

意識を失い、連れ去られる直前。
シロは、咄嗟の判断でその場に残した。

(エトナさん、ごめんなさい。
 本当に身勝手ですけど、助けて下さい)

右手の人差し指を左手で握りながら、祈る。
そこには、僅かに残る指輪の跡があった。



「手がかりだが、あんまり嬉しくねぇな」

シロの残した指輪は、ジェフとエトナの手に渡った。
それにより、二人は理解する。

「坊主はここで、何かあった訳だ。九割九分、見当つくが」

人さらいに遭った。
それ以外の理由は、二人とも浮かばない。

「なぁ、オーガ。泥棒にこんな事言われるのも癪だろうけどさ。
 ・・・何で、テメェは坊主から離れた!」

地を揺るがすかのような叫び。
心に突き刺さるその言葉を、エトナは黙って受け入れる。
相手を叱責できる立場に無いという事は重々承知の上だが、
それでも、ジェフは続けた。

「何があった。喧嘩一つで、坊主ほっぽりだす訳ねぇだろ」

静かに、しかしはっきりと問う。
夜風の音だけが響く、静寂の時間を少しおいた後、エトナは同じ口調で答えた。

「・・・否定された。アタシの心配を」
「ほぉ・・・足りねぇ。どういう事か詳しく」
「・・・分かった」

事の顛末を話す。

シロが何かに焦っているように見えた事。
明らかに無理をしているように見えた事。
その心配をありがた迷惑だと言われた事。
そこでキレて、心にもない事を言ってしまった事。

「で、あとは馬車に誰か入るのが見えて、アタシだけ先に行った」
「・・・俺も関わってたな。偉そうな事言ってすまなかった」

自分も原因の一端になっていた事を知り、謝罪するジェフ。
その一方で、言い争いになった原因を推測する事が出来た。

「この事の落とし前はつける。ただ、一つ分かって欲しいんだ。
 確証はねぇが・・・坊主がそう言ったのは、自然な事だ」
「・・・どういう、事だ?」

努めて冷静に、聞き返す。
シロがあんな事を言うのは自然な事だなどと言われて、あまりいい気分はしない。

エトナの表情が険しくなった事を認識しながらも、ジェフは理由を示した。

「坊主ぐらいの年になると、子供は親から離れようとし始めるんだ。
 何て言うのか・・・自立したがる、ってとこか? まぁ要するに、親の言う事に逆らって、
 自分で出来る事を自分でしたがるっつーか、余計な心配して欲しくないっつーか・・・
 何だ、その、上手く言えねぇけど、親を鬱陶しく感じる年頃なんだよ。
 これは坊主だけじゃねぇ。大抵のガキはそんな感じになる。確か『反抗期』とかって言うんだ」

個人差はあれども、大抵の人間は二度の反抗期を経験する。
一度目は親の指図に反抗し、二度目は親そのものから離れようとする事もある。
シロは育ちが特殊な環境だという事もあり、時期がややズレたが、成長段階の一つとして、
反抗期を迎えた、のかもしれない。
つまり、それが示す事は。

「坊主は確実に、成長してるって事だ」

反抗は、大人への一里塚。
実質的に親代わりとなっているエトナに、それを受け止める役目が与えられた。
全ての話を聞き終わり、エトナは考える。

(シロのアレが反抗期の一環、って事は十分あり得る。元々、シロは従順すぎた。
 なら・・・そろそろそういうのがあっても、おかしくねぇ)

辻褄は合う。
事の真相はまだ分からない。だが、今するべき事は分かっている。

「とりあえず衛兵に知らせるか。その後、アタシとジェフさんで色々やる」
「そうだな。んじゃ、いったん戻るか」

馬車へと戻る二人。
背中を照らす月だけが、その姿を見ていた。



(むぅ・・・)

一通りの探索を終える。
壁や床を叩いたり、絨毯や絵画の裏を確認したり、燭台を調べたりしたが、特に何も得られなかった。
ドアは依然、固く閉ざされており、小窓も外から鍵がかけられているようだ。

(指輪に気付いたとして、早くて3日。遅ければ・・・どこまでもかかるな。
 こっちから動ける事はもう無いし。それに、最悪のケースになると・・・)

不安だった。
エトナは確かに強い。しかし、それはフェアな戦いの場合。
何かしら卑怯な手を使われたり、罠に嵌められたりすれば、エトナといえども厳しい。

自分を助けに来てくれるかもしれないが、エトナに二次被害が及ばないとは限らない。

(・・・いっその事、あの時の喧嘩で僕を見限ってくれればいいんだけどな。
 そうすれば、僕だけで済む)

ぼんやりとしながら敷布団の上に横になり、毛布もかけずに寝ようとした時。
扉の横、床面近くにあった小窓が開いた。

「あの・・・」

聞こえてきたのは、呼びかけの声。
自分と同い年くらいの少女が発するような、か細い声だった。

(・・・?)

戸惑いながらも、小窓へと歩き、しゃがむ。
そこから見えたのは、白い羽と、黒い袋。

「これ・・・お夜食、だそうです」

そう言って差し出したのは、彼女が持っていた黒い袋。
曰く、パンケーキと牛乳が入っているとのことらしい。

「30分くらい後に、片づけにきますから、その時に・・・」
「ちょっと待って」

思わず、相手を呼びとめた。
話す事は殆ど考えていないが、これは機だと踏み、言葉を紡ぐ。

「まず・・・コカトリスさん、ですよね?」

小窓から覗く白い羽と、おどおどした話し方。
情報は僅か二つだが、特定には十分だった。

「えっ!?・・・あ、その・・・はい」
「僕はシロって言います。名前、教えて頂けますか?」
「名前は・・・リノアと申します」
「率直に聞きます」

シロは、ここで賭けに出た。
自身の勘と、コカトリスの特性を考慮してもなお感じる違和感を信じ。



「リノアさん、ベング商会の方ではないですよね?」






シロが攫われてから一夜明けて。
エトナとジェフは、早速シロの捜索に取り掛かった。

「この辺で喧嘩して、そこでジェフさん見つけて走った」
「で、指輪がここにあったという事は・・・ほぼ直後だな。
 つけられてたと見ていいだろ」
「気配は全然無かった。・・・相当な手練れだな」

現場をもう一度確認し、手がかりを探す。
しかし、シロの残した指輪以外、特に何も見つからない。

それでも辺りを探している最中、エトナはある事を思い出した。

「なぁジェフさん」
「ん、どうした?」
「あの時言ってたよな。ベング商会に関わるなって言った後、アタシとシロみたいな
 子供と魔物の組み合わせが一番危ないって。どういう事だ?」
「その事か。・・・ホーキッド・サービスって知ってるか?」

ホーキッド・サービス。
シロが名前を挙げた、急速に収益を出した店の一つ。

「ベング商会の店か。シロが怪しいって言ってたとこの一つだ」
「あぁ。俺も怪しいと思ってる。まず、具体的にどういうとこか説明しとくか。
 名前で分かると思うが、やってる事業は人材派遣。介護を中心に、
 警備や家事手伝いに害虫駆除まで、色々やってる便利屋みたいなとこだ。
 聞いた話じゃ、ベング商会の先代の会長が半ば慈善事業として始めたらしい。
 儲けの還元を目的にしてるから、赤字で当然なんだと」
「そういや、一番マイナス多かったな」
「去年までは、な。それがどういう訳か、表向きやってる事は変わらねぇのに、
 バカみたいな利益を出し始めた。んでもって、決算の数か月前から起きた人さらい。
 これなんだが・・・元からノノンにいた奴と、観光客の被害人数はどっこいどっこいなんだ」

新たに明らかになった、人さらいの状況。
そのまま、ジェフは続ける。

「多いのは、魔物のツレの男が攫われて、助けに行った魔物も捕まるっていうパターン。
 その男が子供なら、攫いやすいし、魔物も来やすい。そういう訳だ」

男を愛する魔物娘の習性を利用した、卑劣な手段。
しかし、この上なく効果的であるという事も、また事実だった。

「ふざけた真似しやって・・・! よし、とりあえず潰して来る!」
「待て! 言ったろ、捕まるって! 力押しでどうにかなる程ヤワなとこじゃねぇよ!
 それに証拠はねぇんだ、今突っ込んだところで捕まるのは俺らだ!」
「ならどうすりゃいいんだよ! 黙って指咥えて見てろってか!?」
「落ち着け! だからこそ、坊主を探し出すんだろうが!」
「ぐっ・・・あぁ、そうだな。悪い、熱くなっちまって・・・」
「気にすんな。だが、坊主に会うまでに、坊主への詫びの言葉考えとけよ。
 さて・・・ここにはもう何も無さそうだな。一回別んとこ行くか」

場所を移し、手がかりを探す。
その移動中、エトナは思う。

(悪い癖だな・・・シロの事になると、周り見えなくなるのは。
 ・・・シロ自身の心配し過ぎっていうのも、その一つだ。
 その結果がこの様・・・シロ。頼むから、生きててくれ)



その頃、シロは。

「・・・よし、大分まとまった」

自分の行動計画を考えていた。

元々、ここで出来る事は殆ど無いと思っていた。
事実、捕えられてから数十分は、ほぼ意味の無い部屋の探索以外何も出来なかった。
しかし、ある事がきっかけで、状況が大きく変化した。



事は昨夜に遡る。

「リノアさん、ベング商会の方ではないですよね?」

思い切って、その真偽を確かめる事に出たシロ。
この博打が、功を奏した。

「えぇっ!? えっと、その、い、いや、私っ!」
「落ち着いて下さい。ゆっくり息を吸って」
「えっと、その・・・」
「吸って」
「・・・すぅー」
「ゆっくり吐いて」
「はぁー・・・」
「大丈夫ですか? 落ち着きました?」
「えっと・・・はい、その、ごめんなさい」
「いえいえ。それでは、先程の質問に答えて頂けますか?」
「あっ、はい。・・・えぇ、私はここの者ではありません」

シロの予想は正しかった。
さらに、その先の予想の答え合わせをする。

「もしかしなくても、僕と同じで・・・誰かに捕まった」
「え・・・何で分かるんですか?」
「ベング商会に関わりが無いのにこんなとこまで来るのなら、
 恐らくは僕と同じ状況と考えるのが自然でしょう。
 察するに・・・商会の人から、雑務を押し付けられたって所ですか?」
「お、おしゃっしゃる通りです!」
「落ち着いて。・・・そっか、やっぱりか」

自分の考えが正しかった事を確認し終わると、シロは寝転び、小窓からリノアの姿を覗く。
小柄な体躯が特徴のコカトリスにおいても、とりわけ小さな身体をしていた。

「ふぇっ!?」
「落ち着いて下さいって。相手はこんな子供なんですから。
 それより、聞きたい事が・・・」
「すすっ、すいませぇーん!!!」
「ちょっ、待っ・・・」

小窓を開け放ったまま、逃げるようにして走り去るリノア。
シロは、コカトリスの臆病さを少し甘く見ていたようである。

「・・・窓空いてるな。警備の人とか来なきゃいいんだけど」



「さっきはすいませんでしたっ!」

凡そ20分後。
渡された夜食を丁度食べ終わった頃、リノアが戻ってきた。
平身低頭、こちらが戸惑う位の謝りっぷりである。

「いえいえ。それよりリノアさん、ちょっといいですか?」
「ふぇっ!? もしかして私、また何か粗相を・・・」
「してませんから大丈夫ですって。聞きたい事があるだけです。
 勿論、無理に答える必要はありませんし、答えられなくても大丈夫ですよ」

先程の出来事を反省し、なるべくリラックスさせた状態にする為、起こり得る事を先読みし、
心身の安定を促す。
思いが通じたのか、リノアはゆっくりと顔を上げて、シロと目を合わせた。

「え、えっと・・・私に出来る事なら」
「ありがとうございます。それでは・・・」

ここで、シロは3つの事を聞いた。

ここがどういう建物のどういう場所か。
この建物の間取りを知る手段はあるか。
今、何月何日か。

「ここは、ベング商会の本部で、シロさんが今いらっしゃるのは特別地下牢、と言われています」
「特別?」
「はい。商会の方からそう言われまして。特別地下牢に夜食を持って行けと・・・」
「地下牢と言うくらいだからここは地下か・・・地下の構造ってどうなってますか?」
「私も詳しくは・・・ただ、ここから直接外に出られる非常階段がありました。
 入口と出口がシャッターで塞がってますけど」
「実質的に通れないか。リノアさんは普段はどこに?」
「二階の部屋にいます。こういう時しか出られないので、牢屋って言った方が近いかもしれませんけど」
「ふむ」
「そして、今日の日付ですけど・・・ごめんなさい、分かりません。
 ここに来てから、昼と夜の感覚が全然無くて」
「分かりました、ありがとうございます。・・・それと、もう一ついいですか」
「えっ、何でしょうか?」
「ちょっと、耳を貸してください」



「無茶言ってるのは承知の上です。嫌でしたら、断っても構いません」
「・・・いえ、私、やります」
「いいんですか?」
「シロさんとお会いしたのは初めてですけど、なんとなく、信用できるんです。
 何でかは、全然わかりませんけど・・・それに、仰る事が本当なら」
「えぇ。」



「リノアさんと一緒に、ここを脱出出来ます」



「後は、警備状況かな」

リノアから得た情報を元に、脱出計画を考える。
思いがけず、タリアナで領主の間の扉を開ける為に持っていた針金が役立った。
手錠の所為もあり少し手間取ったが、今はいつでも牢を出られる状況にある。

しかし、その一方で気がかりな事があった。
自分が閉じ込められた部屋―――『特別地下牢』という名前に。
手がかりは僅かだが、シロは自分なりに推測を始めた。

(多分、ここは商会にとって相当な利用価値を持つ者を閉じ込めておく所。
 そこそこ豪華に部屋を作る事で、抑鬱感を無くし、自殺を防ぐ。
 つまり、死なれたら困る存在なんだ。そういう所だとすると、僕の価値は・・・)

ずっと、記憶の奥底に押しとどめていた、どす黒い過去。
忌まわしき能力を元に名づけられた、『物』としての自分の呼び名。



「・・・破魔蜜、か」



魔物娘を呼び寄せる、特異体質。
かつて教団によって悪用され、多くの魔物娘が殺された。

(やっぱり人間や魔物娘を商品として売ってると見ていいな。リノアさんも多分、それで捕まった。
 コカトリスは人間の男を呼び寄せるって聞くし、商会にとっての価値は高い。
 それなら僕と同じで特別地下牢でいいと思うけど、部屋数の問題か、希少さの違いか・・・)

いずれにしても、ロクな理由は無いだろう。
目を閉じ、思考を加速させる。

(とにかく、綿密に計画を練れば、ここから出る事は不可能じゃない。
 ・・・それに、あんまり使いたくないけど・・・最終手段もあるし、ね)



昼と呼べる時間帯に差し掛かろうとする頃。
シロの捜索を続けるジェフとエトナは、衛兵の詰め所に来ていた。
すると、二人を見るやいなや、一人の衛兵が駆け寄る。

「エトナさんですね。ご報告頂いた件ですが、目撃証言が届いています」
「マジか!? よし、早速頼む!」
「はい。検証はまだしていませんから、落ち着いて全ての証言を聞いて下さい」

興奮するエトナを宥めつつ、軽く前置きをしてから、衛兵は届いた証言を伝え始めた。

「犯行予想時刻の現場周辺で、不審な人影を見たという情報が入っています。
 数件の証言をまとめると、3、4人程度の黒服の集団で、体型はやや大柄。
 この辺りまでは、今まであった人さらいでも来ていましたが、一つ、新たな情報が」
「何だ一体?」
「確定したわけでは無いので、落ち着いて下さい。
 人を担いでるように見えたという事なので、恐らく人さらいを済ませた後。
 街灯に照らされて一瞬見えた腕章に、黒十字があったそうで」
「黒十字・・・って事は」
「はい、ベング商会ですね。黒十字は他の商会のマークでは使っていませんし、
 この証言が事実なら、100%ベング商会の犯行とみていいでしょう」

犯人がベング商会の人間である事を確定させる、有力な証言。
確定したわけでは無いとはいえ、これは相当に強力な証拠となり得る。

「丁度、ベング商会には嫌疑が色々とありましたし、今日にでも一斉捜査を行います」
「なぁ、それってアタシも行けるか?」
「バカ言え。そんな易々と混ざれる訳ねぇだろ。それに、多分お前も狙われてるんだぞ?」
「足引っ張るつもりはねぇ。腕には自信ある。そこを何とか!」
「そうですね・・・まぁ、オーガが易々とやられる訳ないですし、いいでしょう。
 むしろ、ベング商会の力を考えると、助っ人として来て頂けた方が心強いです」
「よっしゃ! 殴り合いなら任せとけ!」
「衛兵さんよ、いいのかい・・・俺は何も出来そうに無いし、待ってるか」

着々と、手筈が整う。
何があっても、絶対にシロを取り戻す。そして。

(謝らせてくれ、シロ・・・あの時のアタシはどうかしてた)

残ってしまった蟠りを取り除こうと、決意を新たにした。



同日、夕刻。
夕日に染まるベング商会本部の前に、エトナと多数の衛兵が集結している。

広大な庭園に、高い樹木が数本。
そして何より目立つのが、建物の前面に描かれた、巨大な黒十字。
ノノン最大の商会、ベング商会を示す証である。

真っすぐに庭園を抜ければ、そのままベング商会のエントランスへとたどり着く。
先頭を歩く兵長が、受付に捜査令状を出した。

「ギルドの許可を得ています。只今より24時間、人の出入りを封鎖し、捜査を行います」
「かしこまりました」

意外にも、素直に令状は受け取られた。
予定通り、衛兵たちはそれぞれの担当場所へと向かい、捜査を始める。

この時、エトナに任されたのは2階東部だった。・・・が。

(・・・何か、見落としてる気がするな)

原因不明の違和感。
培われてきた第六感が、何かを告げようとしていた。
具体性は全く無いが、こういう予感は比較的当たるという事を、エトナは知っている。

「兵長さん」
「どうしました?」
「悪い、どうも1階の向こうが気になる。
 変えてもらえねぇか?」
「一応出来ますが、何故?」
「勘。だけど、シロがこっちにいるような気がして」
「勘ですか・・・ですが、こういう場では得てしてそういった説明出来ない力が働くのも事実。
 分かりました。1階西をお任せします」
「恩に着る! んじゃ、行ってくるな!」

衛兵と入れ替わり、西へ。
自分の勘を信じ、エトナはベング商会へと足を踏み入れた。



(やけに騒がしいな)

頭上から、大きな足音が聞こえる。
間隔からして、重い人間がいるのではなく、大勢の人間が駆け込んでいるような足音。
そこまで理解し、気付く。

(まさか、もう一斉捜査に来たのかな。・・・予定より大分早い。どうしようか)

助けが来たという事は嬉しい。しかし、自身の計画の遂行はもっと後と想定していた。
さらに、地下の構造もまだはっきりとは分かっていない。
情報が足りない中、想定外の事態の発生。困惑しつつも、何とか気持ちを落ち着かせ、シロは考えた。

(現状、僕は基本的に動けない。そしてここに捜査に来た・・・衛兵さんたち、かな。そこも、
 どこまで状況を知っているかは分からない。となると・・・
 あー・・・結局、何もする必要ないし、出来ないか)

静かに、祈る。
それがシロに出来る、唯一の事だった。



・・・と、思ったが。



不意に、扉が開き、黒装束を纏った男が入る。
どうやら、シロにはそんな最低限の事も許されていなかったらしい。

「え・・・?」

男は、無言でシロに近づくと、



首にかけられていた、シロの力を抑え込む術式が込められたお守りを引きちぎり、
部屋の蝋燭の火で燃やした。
14/04/25 20:39更新 / 星空木陰
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■作者メッセージ
本当にお待たせしてすみませんでした。
第14話、ようやく完成です。執筆から休止を挟んで3年目に突入・・・遅筆にも限度ありますよね・・・本当すいません・・・
ようやく生活環境が安定したので、今後はある程度定期的に更新できると思いますので、宜しければ最後までお付き合い下さい。

囚われのシロ、奔走するエトナ。
コカトリスのリノアに、シロは一体何を話したのか。
お守りを失ったシロは一体どうなるのか。
次回、ベング商会編完結(予定)。乞うご期待。

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