連載小説
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舞踏曲第2節 ラトの調べ
お話は『クスハの調べ』から少しばかり溯る。少女の名前はラト。いつも寡黙で無口な陰湿少女と言うのがまず間違いなく周りの第一印象だろう。

「・・・・」
今日もラトはスコップを片手に持って未開拓エリアでの拡張作業に従事していたが、今回はラトには重い仕事らしかった。その内容とは、重機が無い状況下での大量岩壁削岩及びその断片の運搬作業だった。

「はぁ・・はぁ・・・」
ラトは率先してその作業に当たっていたが、彼女はまだハイスクールに通っているような年齢故に、体力には乏しい所があった。それでも、ラトは息を切らせながらも諦めることはしなかった。

「・・・キャッ!」
運搬作業を終えて削岩作業に移っていたラトだったが、頭上から岩壁の断片が落ちてくるのに、影が出来るまで気付けなかった。もう反応するには遅すぎた。これでは到底逃げられない。前かがみに逃げた所でそこは壁。どうする事も出来ずに、ラトは目を閉じて最後を覚悟していた。

「覇あぁぁぁぁっ!」
唐突に聞こえたその声に、ラトは聞き覚えがあった。そして頭上の直ぐそこまで来ていた断片を、その声の主はパンチ1発で壁にめり込ませて削岩道具にしてしまった。壁にめり込んだ岩は、そのままずり落ちてくることも無く壁を抉っている。

「・・・ユウキッ!」
助けてもらった事と、ユウキに会えた嬉しさからラトは表情を綻ばせて自分の愛する夫を呼んだ。するとユウキも「おうっ!」とだけ返事をしてガッツポーズを見せていた。

「フッ・・・お似合いのカップルだな。ラト!作業の進行状況は?」
「・・あっ!はい。現在、削岩作業を放棄した状況に置いて断片の運搬作業を優先してしているところです。」
「そうか。」
ユウキの後ろからやってきたこの男の名前はレイド。女王蟻の夫だそうで、アント達を顎で使える実力の持ち主だ。なにかと謎が多いレイドだが、ユウキは格闘術の教官として、ラトはユウキと同じく教官として、そして仕事現場のコーチとしても信頼している。

「・・・・コーチ。ヴィレッタ・・女王様の所に居なくて良いんスか?」
「流石に今抜け出した所だからな。直ぐには見つかりは・・」
「待ちなさぁい!逃がすもんですか!レイドォ!今日も二人で愛し合うって言ったじゃないの!逃がさないわよぉ」
「ふむ・・いかんな。それでは、ラトはそのまま作業を続けてくれ。さらばだ!」
「あっ。逃げた。」
コーチであり教官でもあるレイドにも怖い物はある。それは、トカゲと妻である。トカゲは昔に尻尾を千切っているのを見てトラウマを覚えたとか。妻の方はレイドも逃げ出したいはずだ。なにしろレイドの妻「ヴィレッタ」はどうしようもない程にレイドを愛しているのだ。それ故に、レイドに浮気の疑惑でも掛けられれば、即座にレイドを八つ裂きに掛かるだろう。

「愛の裏返し・・って奴だな。」
「・・・うん・・・」
レイドが逃げ出して、それをヴィレッタが追いかけたのを見ていたユウキとラト。そのまま作業と学校に戻って行った二人は、仕事を終えた夜にもう一度会う事になる。それは、消極的なラトが手に入れた数少ない幸せの一つ。
10/10/26 06:53更新 / 兎と兎
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■作者メッセージ
今回も一部面白いキャラクターが出てきましたね。

次回:ヴィーナスの調べ

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