連載小説
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舞踏曲第1節 クスハの調べ
このコロニーは、他のコロニーと比べて優れている。何に優れているのか?それは見れば一目瞭然だった。他のコロニーが一般的に土を掘り進んで作られているのに対して、ここのコロニー「アストレア」は全体をコロニー独自の発展科学技術でコーティングしており、正しく現代の要塞の様な作りになっている。土との中に有るとは思えないような巨大な空間を、全て頑強な合金や鋼鉄で包み込んでいる形となっている。余所からの来訪者も積極的に受け入れているのもここのコロニーの良いところだろう。

「・・・出来たっ!」
この少女、クスハも此処のコロニーに住まうアントの一人である。クスハは只今自宅にて一人きりでたくさんの料理の面倒を一気に見ていた。そして、その全てが出来あがったクスハは、誰に言うでも無くそう叫んで料理を取り出した。

「みんな、喜んでくれるかな・・・」
トレイに乗せた「それ」を集まっている皆の元へと持って行くクスハ。しかし「それ」は明らかに食べ物でも飲み物でも無いような色をしている。しかも泡立っているではないか。これがその材料だ!
材料:コノガタテントウ・アルラウネの蜜・フェアリーティル・マンドラゴラモドキ・バタフリーバタフライ・ケサラン粉・スライムゼリーの基・カップルアップル・ミノタウロスの母乳・アカオニ自慢酒「幻想殺し」・カタツムリンゴ

この材料を使って料理をした結果「水色に輝く素敵なステーキ」と「真紅に染まった気持ち悪いキムチライス」と「発酵している養命酒『クスハ汁』」や「色彩鮮やかな虹色の唐揚げ」などなどの逸物が皆の基へと運ばれて行った。

「・・・・」
「・・それでな?・・・ラト?聞いてるか?」
「お前のお陰で台無しになったんじゃないか?」
「ちょっとファイ?ユウキにちょっかい出さないのっ!」

「おっ?出来たみたいね。お〜い!」
「えっ、クスハ、早くないか?」
「良いんじゃないか?それくらい早く皆に食べさせたいんだろう。」
「そうよぉ?やっぱり皆で食べた方がランチは美味しいでしょう?フォール君も食べなきゃ、「腹が減ってはHは出来ぬ」よぉ?」
「『腹が減っては戦も出来ぬ』だ。間違っているぞ。ヴィーナス。」
「わぁお!ハルカズ先生の説教が聴けるのかしら・・?」
「みなさん、盛り上がってますね!」
この場には、クスハも含めて8人のアントと人間が集まっていた。皆が皆個性に溢れている。まず一番最初で黙っていた女の子はラト。アントにしては珍しい消極的なタイプのアントだ。凄く無口なのが残念。眼鏡で陰湿に見えるが外すと可愛い。その隣で話の途中で話しかけて来たのがユウキ。ラトが選んだ人間の男性である。しかし、ラトは消極的すぎる故にユウキを襲ったりはしないだろう。そこにユウキにツッコミを入れているのがファイ。元々は上流貴族らしいが、迎えにまで来てくれたモミジに惹かれて彼女の夫になった一途な人間だ。そしてケンカに発展しそうなのを止めていたのがモミジ。ファイをわざわざ仕事中に抜け出してまで告白しに行き見事に成立したアントである。この中での一番の苦労人である。そことはちょこっとだけ離れた場所では、ヴィーナスがクスハの足音を聞きつけて彼女を呼んでいた。明るい性格のヴィーナスはとにかくハイテンションだった。その隣でクスハのあまりに早い出来あがりに不安を覚えていたのがフォール。クスハが選んだ夫で、今回は特に何もしなくてよいと言うクスハの言葉に甘えて皆の中に混じっている。基本的に頑張り屋であり、良く尽している。その隣でふざけた事を言ったヴィーナスを止めたのはハルカズ。ヴィーナスが選んだ夫である。基本的に寡黙だが心は炎の様に燃えている漢。ヴィーナスを少しの間なら黙らせる自信だってある。フォール達の集まりのリーダー的な存在。そこへクスハが「例の料理」を持ってやって来た。どうやら皆してお喋りに夢中だったようだ。

「・・・(なに・・これ・・)」
テーブルに並べられるまでそれが何なのかが分からなかったが、並べられてもっと分からなくなっていた。

「おっ?美味そうだな・・ちょっとつまみ食いぃ♪・・・」
ユウキが、並べられてクスハが後ろを向いた隙を突いて唐揚げの一つを口に素早く放り込んだ。実に楽しそうだ。なんとも言えない笑顔を作っている。

「・・・・(バタン」
「キャーッ!ユウキ君が倒れたっ!誰か!救急車を・・」
「自業自得だな。」
「気にする事は無い。」
「わぁお!クールな二人に叩かれてるぅ!」
「ヴィーナスさんふざけないで!く、クスハ・・これは美味しすぎて倒れたんだよ、きっと。ほら、いっぱい食べたら眠くなるだろ?あれだよ。」
どうしようもなく呆れるコントが繰り広げられていた。そんな中でラトはユウキの食べた唐揚げの破片を試験管に入れて何かを測っていた。

「・・・測定終了。検出毒素レベルは14。化学反応越えて環境汚染対象だわ、それ・・」
「・・えっ?そんなはずは・・・(パクッ)・・ふえぇん!また失敗しちゃったぁ・・・(パタッ」
ラトが検出したのは、毒素だった。その結果は前代未聞で、クスハはそれを食べるとユウキと同じように倒れてしまった。目を覚ますとそこは病院だったらしい。そんなこんなでクスハはフォールと一緒に過激でも刺激のある毎日を面白おかしく暮らしていた。
10/10/22 05:28更新 / 兎と兎
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■作者メッセージ
今回は、何故みんながクスハの基に集まっていたかと言うと、その日はラトの誕生日だったからなのです。それを祝おうと作ったもので倒れた自分の夫と友人。この状況を見たラトは何を思ったのやら。

次回の伴奏:ラトの調べ

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