連載小説
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行進曲第W番 ミトリの場合
ナズナの場合にも出ていた彼女。アントのミトリは説明し損ねていたがナズナ達を同じく、ナズナの幼馴染である前に一人の食糧調達班の小隊長なのだ。

「はいっ!私はこれから出かけるので、後の戸締りや整頓の方、宜しくお願いします。」
彼女は、食糧調達班の中でも一番最下位の12番小隊の小隊長をしている。ここの小隊員は、皆がやる気があっても運が無くて見つけられない。風邪をこじらせて出撃出来ないなどの意味で運に見放されていた。

「さて・・なにから買ってあげ・・きゃっ!」
現に彼女がいま、何も無い所で転んだのも運の無さなのだ。しかし、誰一人としてその運命に挫けたりはしていない。何故なら、ミトリはこの食糧調達班に入ってから最も大きな物を持ちかえった経歴があったのだ。それは、ジャイアントアントですら持ち上げる事が辛いと言われている巨大なスイカだった。それをミトリは、吸血鬼などの力を持っている訳でもないのに持ち上げて見せたのだ。そしてそれを買われた本部にスカウトされた所謂エリート様なのだ。だが、運は皆無だったので現在の応急処置として最下位の小隊長に任じられている。

「えぇ・・と?まずはナズナにあのぬいぐるみを買ってあげて・・・そうだ。あんまり知らないけどコノハちゃんにも何か買ってあげよっ!」
頭の中でお金をどのように使っていくのか考えて歩いていたミトリ。しかし、よそ見をしていれば棒にぶつかるか人にぶつかるかとなるのは見えていた。直ぐに道を隔てている道と道の間の場所に正面から突っ込んだ。幸いにも誰も通っていなかったので良かったが、もしもこれが大通りの出入り口だとすれば真っ先に人に見られて笑われていただろう。

「あっ!後はキリュウ君にも何か買ってあげなくちゃね!」
彼女の言っているキリュウ君と言うのは、彼女の彼氏の名前である。本名はとても平凡で「桐生 満(きりゅう みちる)」と言う青年だ。この青年は、とある遠い地方から来たらしいが、ミトリは彼の事が気に入ってしまっていて彼の帰還権利は無い。

「さて、どこから廻ろうかしら・・・」
「あっ!ミトリ先輩!」
「あらあら。キクリちゃん、ごきげんよう。」
ミトリが何処の店を最初に行くか迷っていると、遠くの方から声が掛かった。殆んどアントの姿も男性の姿もないので声が良く通る。その声の主は、ミトリの学生時代の二つ下の後輩で、名前はキクリと言うナズナより少し大きいくらいの小柄な少女である。

「先輩はこれから何処へ?」
「まだ決まって無いわぁ。」
「なら、良い店を知っているんですよ!付いて来て下さい!」
「あらあら、せっかちねぇ・・」
ミトリに出かけ先を聞き出したキクリは、ミトリが当てが無いと言っても持ち物から何が買いたいのかを察して、ミトリの手を掴んで引っ張って案内した。

「へぇ・・・粋なデザインのおもちゃ屋ねぇ。」
「ナズナさんへのお土産なんでしょう?だったら、ここのぬいぐるみは可愛いのから笑いを取る為のデザインの物まで勢ぞろいですよ?たまには此処に来てみたらどうです?」
キクリが案内したのは「phantom highg」という名のおもちゃメーカーだった。その名前を、ミトリは聞いた事があった。元々は大手の手紙配達社だったらしいが、ここ数年で一気に事業を伸ばして色々な方面に巨大な企業を持つ大きな会社だとか。まぁ、ミトリには関係の無い話だ。これを経営している者がアントアラクネだろうが人間だろうが魔王だろうが、ミトリには関係が無い。

「それじゃ・・・・このカメさんのぬいぐるみなんてどうかしら。」
「それはちょっと幼稚すぎやしませんか?ナズナさん、キレて捨てちゃいかねませんよ?もう少しこう・・・綺麗で可愛い物とかが・・」
それから数十分の間、二人は賑わっている店内で延々とお喋りした結果、最初にミトリが選んだウミガメの抱きぬいぐるみを購入していった。そしてキクリと分かれたミトリは、また自分のお土産を買って帰ろうと色々なお店を見て回り始めたのだった。
10/10/21 07:58更新 / 兎と兎
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■作者メッセージ
今回のミトリは、仕事ではしっかり者だがプライベートはフニャフニャしてる不思議ちゃん!みたいな感じになりました。それでも、これが彼女の個性であり強さなのです。
次回の伴奏:ヒカリの場合

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