連載小説
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行進曲第伍番 ヒカリの場合
彼女の名前はヒカリ。このジャイアントアントコロニーの中で数少ない、女王蟻と成るべくして生まれて来た少女である。しかし、まだ生まれて間もない頃にヒカリは崩れた瓦礫の下敷きになった。幸い救出されたものの、彼女の喉はその時に甚大な傷を負った。気管などでは無かった為に呼吸系にはなんら問題は無いが、声帯と呼ばれる声を出す為の器官が8割方削れて無くなっており、残りの2割では声を出す事も出来ない状態に彼女はあった。

「・・・・」
彼女は今、数人のお手伝いに付き添われて食事を摂っている。内容はともあれ、お付きの人たちが一番心配している事、それはヒカリが体の不自由を訴える事だった。もともと体の弱い少女であるヒカリは、病気の類によく罹る。その度に吐血をしては医者に診てもらう事になるのだ。

「・・・・・」
ヒカリが食事を終えて礼儀正しく両手を合わせると御馳走様の手にした。そしてお付きに食器の片付けを任せてあるヒカリは、何処か虚ろ気なその眼差しのまま自分の部屋へと戻って一人きりになった。

「・・・・・・」
彼女は自分の部屋に戻ると、布団の上に敷いてあった布団を手に取って悔し涙を流していた。どうして自分はこんな体になってしまったのだろう。どうして私はこんなにも痛い仕打ちを受けなければいけないのだろう。と。

「・・・!」
彼女が悔し涙で心を誤魔化している最中、ひっそりとした空気の中で何処からか人の気配を感じた。言葉を発していない分、耳が発達しているヒカリは小さな音を聞き分ける程度の事は造作も無かったのだ。

「・・・・・」
一瞬、自分を殺しに来た暗殺部隊のキラーかと思ったヒカリだが、その読みは彼女の願いどおり、当たる事は無かった。

「ひめさま?わたし、カノンっていうの。よろしくね?」
「・・・!・・」
カノンと名乗った少女は、笑顔でヒカリに握手を求めて来た。その身体は不自由で、彼女は車いすに乗っていた。それを見たヒカリは、心の中の何かが爆ぜたような気がした。自分だけがこんな障害を持っている訳じゃない。自分だけが特別だと思うんじゃない。そう言い聞かせるように心のどこかで自分の物なのかもしれない声が聞こえた。澄み切っていて美しい声音だ。

「・・・・」
「あはは!これでひめさまとカノンはともだち!」
恥ずかしくなりながらもカノンの手を握ったヒカリは、晴れてカノンと友達になった。その笑顔は両者ともに負けを知らない明るい笑顔だった。

「さぁ、ひめさまはなにしてあそびたい?」
「・・・・・」
カノンが、ヒカリにいろいろな物を前に並べようとして頑張って手で並べて行っていた。途中でバランスを崩しかけたが、ヒカリが支えてあげたので何とか無事に済んだ。そしてヒカリの前には色々なおもちゃが並んだ。それぞれは小さいが、どれにもきっとカノンの想いが詰まっている事だろう。ヒカリはそれを心に刻みつけると、一番右端にあったおもちゃを指差してそれでカノンと遊び始めたのだった。その姿は何も不自由などない少女達そのものだ。
10/10/21 08:24更新 / 兎と兎
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■作者メッセージ
今回のお話は、喉に障害を持つヒカリと、足に障害を持つカノンとのお話でしたが、今回のお話は障害者の方々に読んでもらいたい話なのかもしれませんね。
次回の伴奏:カノンの場合

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