連載小説
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行進曲第E番 カノンの場合
彼女の名前はカノン。まだ幼いながらも体に障害を持っていて、彼女の足はピクリとも動かない。現在はその心の明るさを買われて、女王蟻として育てられているヒカリの下で一緒にいる。今日もまた、ヒカリとカノンはボードゲームをして遊んでいた。その周りには、二人のメイド姿のアント達二人が少ない頭数の埋め合わせをしていた。今のところの順位は、一位がカノン、二位が髪の毛を括っている方のメイドさん「ファラ」三位と四位が同じで、ヒカリともう一人のメイドさん「ネリィ」だった。

「・・・♪・・!」
「あははっ!ひめさま、これでななますすすむから「投資した子会社が倒産!手持ちから10,000アンツ払う」だって!」
「落ち着いて下さい!姫様なら次はきっと良い目をお取りになれますよ。」
「そ、そうですよ!気合とガッツですよ?姫様。」
みんなはヒカリが悪いマスに止まった事を悪い事だと思わせまいと、必死に励ましていた。これでヒカリの所持金は130,000アンツから120,000アンツになった。そこまで痛くない様に見えるのは、ここが控え目ゾーンと呼ばれるいわばお子様向けゾーンだからなのだ。

「それでは次は私のターンです。行きます!はぁっ!」
ヒカリの次の順番であるネリィがルーレットを回した。力加減を分かっているのか綺麗に回って詰まりがない鮮やかな回転になっていた。暫くしてルーレットが指した数字はルーレットの中で最も少ない1だった。

「1だから進んで・・・『男の子が二人生まれる。みんなから10,000アンツ貰って車に二人乗せる』・・・////」
出た目の内容がネリィには少し恥ずかしかった。元々ジャイアントアント(面倒だしこれからアントと表記)は生殖機能を保持していない。精々男の精液を飲み干す膣と子宮くらいな物だ。しかし、そんなアント達にも子供を授かる方法はある。夫とヤッてヤッてヤリまくるのだ。するとその内に生殖機能が活性化を初めて卵が産める体に成るらしい。

「では次は私ですね?行きます!それっ・・・・♪」
もう一人のメイド、ファラがルーレットを綺麗に回す。軽快なリズムを刻んで動きを遅くしていったルーレットは、狙い澄ましたかのように最大値の10に止まった。そして嬉しそうに駒を進めて行ったファラだが、目の前に面白い物が見えていた。

「ええっと?『ホ―ネットと大喧嘩を起こして家族が怪我をする。治療費130,000アンツを払って次のマスに進む』ですって。災難でしたわね、ふぁ・・ら・・?」
「お・・・お金が・・・足りないよぅ・・」
ファラの手持ちは少なく、110,000アンツしか持ってはいなかった。通常ならばアンツ銀行と呼ばれるお札入れから借り入れて、借金額−一番近い約束手形の値段でお金の取引が為される。この場合は、一番近い約束手形が140,000なのでファラはそれだけを引っぱり出して全てを払いだした事になり、お釣りの額だけを貰って次のマスへ進んだ。しかし、カノンはあるボケを思い出したらしくファラの失敗を掘り起こした。

「おやぁ?おねえさんはおかねがないようですねぇ。だったらからだではらってもらいましょうかねぇ・・(←意味を理解していない。)」
「ちょっ!カノンちゃん!何処でそんな言葉覚えたの!?」
「えっ?もんばんのおねえさんが、おとこのひとに「ここをとおりたきゃからだでつうこうりょうをはらいな!」っていってたから、おなじだとおもってつかってみたの・・」
「あんの発情姉御肌がぁ・・いつか粛清しちゃる・・」
こんなコントを繰り広げていて、何度もヒカリは顔に笑みを零している。しかし、声を出して笑いたいと思っても声が出ないので爆笑しようとしない。

「・・そっか!あたしか!いきまぁす!そぉれ・・ありゃりゃ・・1,2、」
次の出番になったカノンは、楽しそうに自分の手を振り上げてアピールすると勢いよくルーレットを回した。しかし、勢いが付きすぎたのかルーレットは一周とちょっと廻って直ぐに3で針を止めた。その指示に従って駒を進めて行った。

「・・・『子供を連れて旧悪魔城を探検しに行く。旅行費1,800,000アンツを払って一マス戻る』・・・うぅ・・」
よりにも寄って一番ゴールに近かったカノンがとんでもない大玉を引き当ててしまった。その内容はカノンの持ち金の殆んどを根こそぎ奪って行った。悔しさのあまり、カノンは泣きだしそうになっていた。

「・・・・♪・・・!」
順番が周って来たヒカリは、残り10マスになっている事に今更ながらに気が付いていた。そしてその心境のままにルーレットを軽快に回した。カラカラと軽快な音を立ててルーレットはだんだんと速度を落として行く。

「・・(ゴクッ」
「・・・・・なっ!どっち!?」
殆んど速度を無くしたルーレットを見ながらヒカリは唾を飲み込んで緊張していた。そして、ルーレットは止まった。9と10を隔てる僅かな留め具の上で完全に動きを止めた。

「動け!どっちに動くんだ!?」
「・・・・・♪」
結果は暫くした後に現れた。じっと見守っていたヒカリの願いが通じたのか針が留め具を外れて10のエリアへと止まった。そして喜んで駒を進ませたヒカリは晴れて最初の億万仙人へと到達した。ぶっちぎりでヒカリの逆転勝利だ。それを悔しそうに見ていたカノンも、次の順番でゴールして他の二人の追随を許さないほどの差を空けて2位になった。最後に争い合った二人だったが、結局勝利したのはファラ。貧民風情になって敗北し、罰ゲームとして片付けをする事になったのはネリィだった。そしてヒカリとカノンの充実した日々は刻々と過ぎていく。
10/10/21 17:08更新 / 兎と兎
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■作者メッセージ
今回はやたらとほのぼのさせてみました。
当初の進行予定:「・・クラ○がっ!ク○ラが立ったぁ!」
現在の進行方針:「お姉ちゃん!大好きっ!フフフッ・・」
と言った感じです。かなりの補正が掛けられています。やっぱり、シリアスばっかりじゃ気分が滅入っちゃいますよ。
次回の伴奏:クスハの調べ
次回から行進曲篇が舞踏曲篇に変わります。それでは、お楽しみに!

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