第二話:魔物の夫(挫折編)
控えめなノックの音が聞こえて、私はベッドから身を起こした。
あぁ、全身べっとべとだ。誰かに見られても問題ない程度にシーツで拭いて、シャツを着る。ちょっともったいないけどしょうがない。それにまたシャルルにこうしてもらえばいいんだし。
もう一度ノックされる前に私は扉を開ける。多分そうじゃないかと思ったけど、外に居たのは予想通りアンだった。
仕事道具が入っているんだろう、かなり大きなザックを背負っていた。蟻のしっかりした下半身を持つジャイアントアントじゃなかったらひっくり返ってしまいそうだ。
アンは私と目が合うと、朗らかな笑みでパンとスープの乗ったトレイを手渡してくれる。
「あ、おはようメアリーちゃん。朝ごはん持ってきたよ」
「いつもごめんね。でも朝は忙しいでしょ。別に無理しなくても」
「私はメアリーちゃんの方が心配だよ。旦那さんの看病につきっきりで、休む暇も無いだろうし。……シャルルさん、まだ良くならないの?」
「うん、まだベッドから出られなくて。……仕事にも行けなくて、ごめんね」
嘘は言っていない。最初にアンが来たときだって、私は『彼がベッドから出られないから離れるわけにはいかない』としか言っていない。アンが勝手に勘違いしているだけ。私は悪くないんだ。悪くない……。
休む間もないというのも間違ってはいない。ただし、意味は違うけれど。
アンはそっと首を伸ばして部屋の中を覗き込む。友達の夫という事で興味があるのか、落ち着きなく触角がひょこひょこと動いていた。
大丈夫。シャルルはシーツを被っているし、見られても困るものは何も無い。
ただし、匂いは別だ。部屋の中には二人の愛液の混ざりあった、淫らな交わりの匂いが満ちている。でも私達は夫婦なんだし、別にやましい事をしているわけじゃ無い。仮にえっち出来る元気はあるのかと聞かれても、それらしい怪我でも病気でも適当にでっち上げればいい。
私達の匂いに気が付いたのかは分からないけど、アンは頬を赤らめて、首を引っ込めた。
「こ、これ。厨房の人たちが元気になるから渡してって。じゃ、私行くね」
アンは私に小瓶を握らせると、自分からすぐに扉を閉めてしまった。
精力剤だ。ジャイアントアントの旦那達も、私達の事に気付いているのかいないのか。とにかく、使えるものはありがたく使わせてもらおう。
「シャルル、朝ごはんだよ」
シーツを取って、裸で横たわる彼に這い寄る。あそこに朝の挨拶をしてあげると、すぐに元気に大きく硬くなった。
指を振って唇の封を解く。でも、手足はそのまま。
「ねぇメアリー。そろそろ普通に食べさせてよ」
「だぁめ。それにそのまんまじゃ食べられないでしょ」
私は一口スープを口に含む。コンソメの野菜たっぷりのスープだった。しっかり咀嚼してから、彼の身体を這い上がるようにして顔に近づいていく。
「だから糸を解いっむぐっ」
口づけして、ゆっくりと流し込んであげると、シャルルはいつものように目を蕩けさせながら喉を上下に動かして飲み下していく。
唇を離すと、二人の間に糸が引いた。
「おいしい?」
「ん、うん」
「じゃあ、もう一口ね。ふふ、全部こうやって食べさせてあげるんだから」
最初の一度こそ嫌がっていたけれど、彼はすぐにこの食事方法にも慣れてくれた。今では食べさせるときに積極的に舌を絡めてくるくらいの余裕すらある。
パンもスープも、肉も魚も野菜も、こうやって食べれば本当の意味で二人で味わえる。
最後に精力剤を口移しで飲ませて、長い時間をかけた二人の食事が終わる。
そして彼の為の食事の後は、私の為の食事だ。
食事中、ずっと勃ちっぱなしだった彼のあそこを慰めるために口づけてから、私は彼に跨って腰を沈める。
彼が私の穴を埋める。私の深いところまで硬く突き上げて、満たしてくれる。生きてるって一番実感できる至福の時間。
「うっ、くぅ。メアリーっ」
両腕の束縛を解いてあげると、即座に胸に抱き寄せられて、髪の毛を撫でられた。
どんなに激しく腰を打ち付けても、彼は優しく髪を撫でてくれる。おっぱいを揉んだり口に含んでいる時も、決して乱暴にはしない。
「シャルルぅ。すごくっ、あっ、ぃ、いいっ」
髪を撫でる手がぎこちなくなり、寝起きの濃厚な一発目がお腹の中をさかのぼる。反射的に、ぎゅっと彼の身体に強くしがみついてしまった。
ふふ、でもまだこれは一口目だ。まだまだいっぱい食べさせてもらわなきゃね。
私達の生活は大体こんな感じだった。
疲れて意識が飛ぶまで交わって、回復したらまた交わる。アンがご飯を持ってきてくれた時だけ息抜き代わりに二人で食事を味わって、食べたらまた交わる。
初めてシャルルと出会った日から一ヶ月以上こういう生活を続けているけれど、特に何の問題も無く私達は幸せにやっていた。
初日こそシャルルは憔悴して少し怖がっていたけれど、そんな状態も極短期間に過ぎなくて、今では自分から私の身体を抱き寄せたり髪を撫でたりしてくれるようになった。
一週間が経ち、二週間が過ぎた頃には、糸で彼をベッドに縛るのも止めた。
そんな風にしなくても、彼は私が求めている事を自分からしてくれるという事に気が付いたから。髪や頬を撫でて、肌に唇を這わせ、舐め、そして抱きしめてくれる。
縛ったままの彼とするのも凄く興奮したけど、彼に求められるのはそれはそれで同じくらいに満たされるのだった。
意外だった。怖がる相手に対してでも、無理矢理にでも快楽を与えて射精させて搾り取るのが一番気持ちいい事だと思っていたのに。男にとっても幸せだと思っていたのに。彼が笑ってくれるだけでそれと同じくらい胸がいっぱいになるなんて。
でも、最近彼の様子がおかしい。
交わりの時は変わらず目を輝かせて私に夢中になってくれているのだけれど、それ以外の時にふとした瞬間に寂しげな表情を浮かべるようになってしまった。
後ろから抱きすくめられている今も、こっそり額の目で見上げてみれば彼はどこか遠くを見るような目をしている。
私と一緒に居るのに……。一緒に居るだけで私は幸せなのに……。
「ねぇ、シャルル。何考えてるの?」
「……メアリー事以外、何を考えるっていうのさ」
私のうなじに顔を沈めて深く息を吸う。最初の怯えと遠慮はどこへやら、今では何のためらいも無く自分からこういう事をしてくる。
「嘘。最近何か、別の事考えてるでしょ」
彼は何も言わずに私に回した腕に力を込める。
私も無言で彼の言葉を待つ。彼はしばらくそのまま私を抱きしめ続けた後、諦めたように大きく息を吐いた。
「まったく、メアリーには敵わないよ。そう、考えていることがあるんだ。
怒らないで、悲しまないで落ち着いて聞いてほしい。僕は、外に出て働きたいと思っているんだ」
いくら予防線を張られていたとはいえ、その一言は私の胸を大きく揺さぶった。
だって外に出て働きたいって事は、私から離れるっていう事だ。私と一緒に居るだけじゃ満たされないって言っているようなものじゃない。
「メアリーに不満があるとかそう言うんじゃないんだ。ずっとまぐわって居たいっていう気持ちは僕もあるし、メアリー無しの人生なんて考えられないんだけど、でも」
彼はそこで言葉を切った。すごく辛そうな顔。言うか言うまいか迷っているんだろう。きっと私と向き合っていたらこんな顔は絶対しない。私が悲しまないように気を使うから。
「この巣の役に立ちたいんだ。メアリーの為にも」
私の為を思うんなら、一緒に居てよ。働くなんて言わないで。ずっと抱きしめていてよ。……私には、あなたしかいないんだから。
そう言いたかったけど、シャルルの顔を見てしまったら言えなかった。彼の辛い顔を見るのは、彼が辛い思いをするのは私だって嫌なんだ。
私だって、シャルルには満ち足りた幸せを手にしてほしいと思う。私で足りないとは思いたく無かったけど、でも、もしそうだとしたら。
今度は私が顔を伏せる番だった。こんな顔、彼には見せられない。
「……まぁ考えているだけだけどね、やっぱり僕は」
わざとらしいくらい明るい声でシャルルは言った。見えないけど、顔も笑っているに違いない。でも、作り笑顔なんて見たく無かった。
「分かった。シャルルがしたいなら、私はそれでもいい」
「ほ、本当にいいの? メアリー」
「ただし、その時は私もくっついていくから」
声が震えそうになるのを堪え切った自分を褒めてあげたかった。それでもやっぱり顔が不機嫌になってしまうのだけはどうしようもない。
振り返ると、彼は見惚れてしまうくらい晴れやかな顔で私にキスしてきた。
「ありがとうメアリー! 僕、頑張るよ」
頑張らなくていい。むしろ早く挫折して、今よりもっと私に依存するくらいでいい。何があっても、どんなに失敗しても、私だけは絶対あなたを裏切らずに幸せにし続けるから。
心の底から浮かんだその言葉は、しかし彼の気持ちを考えれば決して口には出来なかった。
彼の行動力には目を瞠るものがあった。私が彼の仕事を許したその日のうちに私の仕事道具の手入れを終えてしまうと、翌日にはジャイアントアント達の仕事場に向かう隊列に加わったのだ。もちろん私の隣の位置に、だが。
反対側の隣で、私の気持ちとは対照的に「旦那さんが元気になって良かったね」とアンが凄く喜んでくれていたのが印象的だった。
思い返してみればシャルルとは出会いからして彼が人間の財を取り戻すために単身巣に忍び込んできた時なのだから、もともとフットワークが軽いところはあったのかもしれない。
そしてつまみ食いをしているところを捕まったという事を思い返せば、少し考えてみればそのあとどうなるかも事前に大体予想は出来たかもしれない。
全ては今更だけど。
「だから人間には無理だと言ったんだ」
「私もそう言ったんですけどね」
仕事場の程近くに建てられた簡易休憩所のバラック。そのベッドの上に伸びているシャルルを見下ろしながら、現場主任と私はそろってため息を吐いた。
ジャイアントアント達に交じって張り切って仕事を始めたはいいが、シャルルはろくに成果を残すことも出来ず、むしろ失敗ばかりを繰り返しているうちに体力が尽きて倒れてしまったのだ。
土砂運びをすれば重さに耐えきれずに下敷きになってしまう。
荷物運びが駄目なら掘削はどうかとつるはしを握らせてみれば、今度はバランスを崩して仲間にぶつかりそうになる。
潰れて圧死しそうになったかと思えば生娘を物理的に傷物にしそうになったりと、一緒に居る私の方が肝を冷やしてしまった。最初は不満でくっついていたけど、今は不安で離れられない。お昼もまだだって言うのに。
結局すぐに体力が尽きて動けなくなってしまったけど、それ以上被害が出ないと考えれば逆に良かったのかもしれない。
「や、病み上がりだからです。体力をつけ直せば」
絞り出すようなシャルルの声を切り捨てるように、主任の眼鏡が鋭く光った。
彼女は厳しい表情のまま首を振る。ジャイアントアントにしては珍しい長髪が背中でさらさらと流れた。この髪質は羨ましい……って、今はそれどころじゃ無かったか。
「屈強な戦士でも我々の仕事に三日と付いて来られないのだ。言っては悪いが、君みたいな子どものような体格の男がいくら頑張っても使いものにはならないだろう」
「そんな……」
よっぽどショックだったんだろう、シャルルは表情を失ってしまった。こうなる事くらい私は分かっていたのに。やっぱり外に出すべきじゃ無かった。
「シャルル。もう帰ろう? 帰っていつもみたいにって、あ」
やば。主任の前だっていうのに、私。
「まぁ、現場は手は足りているし、君もあまり丈夫じゃないしな」
「待ってください。体力が駄目なら、頭を働かせます。納期までの計画とか、設計とか、色んな費用の会計とか、そういう仕事なら」
「なら、君は我々のフェロモンを感じ分けられるか」
「え?」
無理だ。私だって大雑把にしか嗅ぎ分けられないんだから。
主任は眼鏡を直しながら、あくまでも丁寧に分かりやすく説明してくれた。
「我々は何も言葉だけでコミュニケーションをしているわけではない。設計や施業計画と言う物も、言葉や文字だけで行っているわけではないんだ。
言葉や紙とペンの代わりに使うもの。それが我々の身体から発せられる情報伝達用のフェロモンだ。人間にはただの大雑把な匂いにしか感じられない物の中に、我々は千の言葉以上の情報を載せ、また受け取っている。触角や鼻を使ってな。
そうは見えないのも、無理はない。我々とて明確に言葉にして思考しているわけでは無いからな。
一見ただ周りに合わせてがむしゃらに仕事をしているだけに見えるだろうが、そうではない。確かに言葉で表現するとすれば『フェロモンから何となくどうすればいいのかを理解し合っている』としか言えない。だが、そもそも言葉で説明する必要が無いんだ。フェロモンを使う事で我々はより正確で大量の情報を瞬時にやり取りしているからな。これのおかげで誤解もほとんど無くて済んでいる。
人間と違い、フェロモンを使う事で我々現場のジャイアントアント達は全員が寸分たがわぬ完成図を頭の中に共有することが出来るんだ。建物の完成図、工事の進行計画、予算の使いどころ。そう言った物も同じ、常に全員で考えながら足りない所を補い合っているとも言えるな。
無論、フェロモンが完璧だと言うつもりは無い。全てを伝え切れるというわけでは無いし、表現出来ない事も多い。だからこそこうやって言葉を使っているのだしな。だが、我々のコミュニケーションにおいてフェロモンが重要だという事は変わらない。
君にそれらが理解でき、我々に対して画期的なアイデアや不備を提案してくれるというのであれば是非とも仕事をお願いしたいが、そうでなければ巣で大人しくしていてほしい。間違って怪我でもされたらメアリーに合わせる顔が無くなってしまう。
気持ちはありがたいが、我々の現場は人間には少し厳しいんだ」
なるほど、そう言う理屈だったんだ。私の場合は仕事場に出ても本当に単純に周りに合わせる事しか出来ていなかったけど、ここの子達は幼げな顔の割にかなりすごい事をしていたらしい。
私にだってとても出来そうにない。シャルルよりはずいぶん長い間巣の中には居るけど、仕事をするジャイアントアント達の間には全然入っていけないもの。
シャルルは可愛そうな程青ざめてしまっていた。かなり堪えたみたいだった。
でもこれで身を持って分かってくれたよね。働く事より私を抱いている方がずっと幸せだって言う事。帰ったらたっぷり慰めてあげるからね。
「すまない。気を悪くしたのなら謝る。私は、その、あまり言葉の選び方と言うのが上手く無くてな。旦那にも気を付けろと言われているのだが……」
しかし、こんなにきっちり仕事が出来て真面目な彼女の旦那がキリスと言うのだから、世の中良く分からないものだ。
「いえ、気にしないでください。良く、分かりました」
シャルルの手に指を絡めて握りしめる。私だけを見てほしいとは思うけど、落ち込んでいるシャルルの姿はやっぱり見ていられなかった。
「大丈夫だよ」
彼は私に向かって笑うけど、そこにいつもの元気は無かった。
「まぁ何だ、誤解しないで欲しいのだが、別に人よりジャイアントアントの方が優れていると言っているわけでは無いからな。言わば鳥と魚の違いのようなものだ。
確かに私達は穴を掘ったり建物を立てたりという事は得意だが、学問を究めたり、絵を書いたり物語を作ったり歌を歌う事は人間の方が得意だろう。これも個性だという事で理解して欲しい」
彼は上半身を持ち上げて、私の蜘蛛の身体を撫でながら頷いた。
「確かに、そうですよね」
種族の個性、か。私にも何かあるのかなぁ。それとも、ジャイアントアントに外見が似ているだけで、こうやって忍び込むだけが能なのかなぁ……。
それは、ちょっと嫌だ。
「恋の相手を求める時も同じだ。つがいの相手が欲しいという気持ち、夫を愛しいと思う気持ち、言葉にするには強すぎる気持ちを、私達はフェロモンで相手に伝えている。
まぁ、自分達の事をこんな風に考えているのは私だけかもしれないがね」
「……素敵ですね」
え? シャルル?
「種族が違うからそう思うだけで、個人個人愛の伝え方が違うのと同じ事さ。君だってもう身を持って知っているだろうがな」
「それはまぁ」
何だろう、この胸がもやもやする感じ。ジャイアントアントじゃない私にはフェロモンを出す能力は無い。私はアントアラクネだから。
私は住む場所も、食べ物も、姿さえもジャイアントアントのものを借りている。この身体に染みついたフェロモンだってジャイアントアントのものだ。
それって、つまり……。
「そろそろ昼の時間か。二人とも、昼ごはんの準備位は出来るな? 弁当を席に並べてくれ」
「メアリー?」
シャルルと主任が私の顔を不思議そうに見ていた。
「え、あ、はい。シャルル、立てる?」
「うん。ありがとう」
私の身体に捕まらせて、彼を立ち上がらせる。それにしても私、何考えてるんだろう。シャルルがそばに居てくれるのなら、それ以外の事なんてどうでもいいのに。
みんなのお弁当はサンドイッチだった。ハム野菜サンドとたまごサンドが一つずつ。それにしてもこれだけで午後ももつというんだから尊敬してしまう。
ちなみに既婚者組は大体旦那様お手製のお弁当を持ってきている。私達が準備していたのは独り者用のお弁当だ。
独り者のお弁当は誰が用意しているかと言うと、実は有志の旦那達が持ち回りで作ってくれているのだ。食堂の料理係や、独り者の子達の洗濯物なども同様だ。
「ふあー、お腹空いたー」
「あ、メアリーにシャルル。準備しててくれたんだね」
お昼ご飯を並べ終えると、タイミングを見計らったかのように仕事を終えたジャイアントアント達が入ってきた。
私とシャルルは奥の席に詰めて彼女達の席を空ける。
「メアリーちゃん。一緒に食べていい?」
「あ、アン。端っこだけどいい?」
「うん。メアリーちゃんと一緒のご飯も久しぶりだね」
顔いっぱいで喜びを表現しながら、アンが私達の正面に座る。
汗だくのジャイアントアント達がみんな一気に入ってきたせいだろう、みんなが席に着くころには狭いバラックの中はジャイアントアント達の汗の匂いでいっぱいになっていた。
汗の匂い、それはつまりフェロモンの匂いでもある。
仕事の後のせいか、アンたちの顔がほんのり赤かった。
私の身体にも染み付いている男を引き寄せるフェロモン。でもこれは結局借り物で、じゃあシャルルが私を好きになってくれたのは、もしかして?
やめよう、深く考えるのはやめておこう。
「「「いただきまーす」」」
そろった掛け声とともに、ジャイアントアント達は各々自分のお弁当に手を付け始める。
つられて私もサンドイッチに口を付ける。食事のときは考えるのはやめよう。食べる事に集中しよう。
そういえば、このパンは前に来た時も食べたことがあったなぁ。結構悪くない味だとは思うんだけど、なんか物足りないのよねぇ。
いつもと違って周りに大勢いるのでいろんな話が聞こえてきた。昨日のパンの方が美味しかったとか、作ってもらえるだけでもありがたいとか、早く旦那さまのお弁当が食べたいとか。結局最後は旦那の話になっていくみたいだったけど。
やっぱり大勢で食べる食事は騒がしいなぁ。ま、嫌いでは無いけど。でもやっぱりシャルルと二人の食事の方がいい。
そう言えばシャルルはまだ食事に手を付けてない。なぜか俯いて、そわそわと周りを見たり私を見たり、パンを見たりと落ち着きが無い。
「シャルル、どうかした? 食欲無いの?」
「いや、そう言うんじゃないんだけど、その」
彼は私の唇を見ながら、誰にも見られないように机の下に隠して指を絡めるようにして手をつないでくる。
あぁ分かった。いつもみたいに食べたいんだ。でも流石にこの場じゃ出来ないし、そう言う事ね。
「焦らないでゆっくり食べよう? 食べ終わるまでそばに居てあげるから」
「うん。ありがとう」
そう言う事なら、私だけ先に食べちゃうわけにもいかない。
でも、ふふ。ちょっと不安になってたけど、やっぱりシャルルは他の誰でもなく私の事を求めてくれているんだ。良かったぁ。
パンをお皿に戻すと、今度はアンが熱っぽい視線を私の手元に向けていた。よだれを垂らしながら。
「アン、垂れてるよ」
もう、しょうがないなぁ。私は自分のタオルで彼女の口元を拭ってあげた。アンは面倒見がいいように見えてその実、こんな風に子どもっぽかったり抜けていたりするところがある。まぁ、そこがまた可愛いんだけど。
「ご、ごめん。き、昨日のパンの味を思い出してただけだから。べ、別に余るくらいなら食べたいなぁとか思ってたわけじゃ無いから」
「……私このたまごサンド一つあればいいから、良かったら食べる?」
まだ手を付けてないハム野菜サンドを勧めると、アンは目を輝かせながらサンドイッチを凝視した。本当、分かりやすい子だ。
「い、いいの? わぁ、メアリーちゃん大好き! ありがとう!」
両手でサンドイッチを受け取って、本当に美味しそうに食べ始める。
それはそうと。
「昨日のパンってそんなに美味しかったの?」
「え、うん。カレーパンだったんだけど、一昨日の魔界豚のカレーの残りが使われててね。昨日の午後は疲れ知らずで頑張っちゃったよ」
一昨日の魔界豚のカレー。すっかり忘れてたけど、一昨日の夕ご飯は確かにいつもより美味しかったっけ。まぁ、どんな食事も彼の精の前では霞んでしまうんだけど。
「あ、確かにこの間のカレーは美味しかったです。いつもの食事も美味しいんですけどあれはダントツでした。
そうだった。アンさん、いつも部屋に食事を持ってきてくれてありがとうございます」
「え? そんな、いいんですよ。私も二人の顔見たいし、早く元気になってもらいたいし」
何か魔界豚のカレーに負けた気がするのはなぜだろう。あと、彼が私以外に笑顔を向けてると胸がもやもやする。
「ね、ねぇアン。あれは見つかった? 前に言っていた魔晶石、だっけ」
「魔宝石の事? うん、お仕事しながらも掘り起こした土の中から探しているんだけど、まだ見つかってないんだぁ。やっぱり魔界みたいに魔力の濃度が濃いところじゃないと駄目みたいで」
「あの、魔宝石って何なんですか?」
シャルルがおずおずと尋ねる。正直私も詳しく無かったから、聞いてくれて助かった。
「魔宝石っていうのは、本来は魔界の鉱脈とかから掘り出される鉱石で、魔界の宝石みたいなものだよ。最初は無色透明なんだけど、魔力が込められるとその魔力に応じて色や輝きが変わるの」
「へぇ、不思議な石ですね。でもどうしてそれを?」
「女王様とその旦那様、つまりアンのお母さんとお父さんがお揃いの魔宝石の指輪をしてるから、だったっけ?」
「うん。正確にはお揃いじゃなくて、お互いの魔力を宿した魔宝石の指輪をしてるんだけどね。
お母さんはお父さんの精を宿した指輪を、お父さんはお母さんの魔力を宿した指輪をしてる。子どもの頃からずっといいなぁって思ってて」
アンは急にはっと我に返ったように顔を上げて、照れ笑いを浮かべる。
「あはは、でもまずは旦那様を見つけないとね」
本当、アンのこういうところを見るたびに、旦那さんになる人は絶対幸せになるだろうなぁと思う。私も見習わなきゃなぁと思うんだけど、すぐに忘れてしまう。
「アン! そろそろ皆行くよー!」
いつの間にかみんな食事を終えていて、外に出る準備も済ませていた。あれ、でも昼休みってこんなに短かったかな。
私は声を落とした。
「仕事の期限とかやばいの?」
「ううん。行くのは行進だよ。今の仕事場は割と人里にも近いから、みんなで行進してフェロモンを振りまいてみてるの。人数が多い方がいいからって主任たちも手伝ってくれてるんだ」
アンは次第に外に出始めている仲間たちに向かって声を上げる。
「ご、ごめん! あの、今日は久しぶりだから、私メアリーちゃんたちと」
「だめだよ。それだったらなおさら行かないと。アンが早く相手見つけないと私だって安心できないよ」
本当に人がいいんだから。これだけ努力してるんだから、アンにだって早く報われて欲しい。私達の相手なんていつでもできるんだから。
アン自身は私やシャルルの方を見ながら迷っているようだったけど。
「私達にはまたいつでも巣の中で会えるんだからさ。行ってきなよ」
そう言ってあげると、アンは頷いて、急いで残りのサンドイッチを口の中に入れて群れに混ざっていった。
「二人はゆっくり休んでてね。じゃ、行ってきまーす」
部屋の中に残されたのは、私とシャルルと濃厚なジャイアントアント達のフェロモン。
「ねぇ、本当にいつもみたいに食べたいの」
「……うん」
「私の分も、ここでいつもみたいにもらう事になるけど、それでもいいんだよね」
「……うん」
シャルルはもじもじしながら消え入りそうな声で答える。しっかり欲情している割に、いつもと違う環境だから緊張しているんだろう。
私は椅子に座ったシャルルの上に跨る。ズボン越しにも、もう固くなってるのが分かる。このまま食べちゃいたいけど、彼だって我慢してたんだもの、私もちゃんと食べさせてあげなきゃ。
いつものようにサンドイッチを彼に口移しで食べさせてあげる。唇同士が触れた瞬間、彼はもう我慢できないと言った感じで私の背に強く腕を回してきた。
「きゃ、もう驚かせないでよ。……どう、おいしい?」
「うん。凄く」
「もう、この間は自分で食べたいって言ってたくせに」
「そうなんだけど、だって、午前中はほとんど触れ合う事も出来なかったし」
全く本当に、可愛いんだから。もう、私だって我慢できない。
「そうだね。みんなの目もあったし」
「あ、メアリーっ。うあぁっ」
彼のズボンを下ろして、少し強引につながり合う。気持ちは私だって同じだ。彼が私の中に入っていてくれないだけで不安になってしまうくらいなんだから。
「でももうみんな行っちゃったし、いいよね? ねぇシャルル、出したくなったらいつでも出していいからね? 私もとってもお腹が空いてるから、いっぱいちょうだい?」
それ以上、私達には言葉はいらなかった。それから、私達はゆっくりと昼食を味わった。
その後、シャルルは午後も働こうとしたのだが結局主任に見つかって止められてしまい、休憩室でずっとうな垂れていた。
私が抱きしめると表情こそ和らげてくれるのだけど、魚の骨がのどに刺さっているみたいにやっぱりその笑顔にはぎこちなさが残っていた。
みんなが仕事を終えて、ようやく巣に帰れるようになっても彼の様子は変わらなかった。
帰り道では、いつもと違ってアンまで元気が無かった。誰かが捕まえたんだろう、隊列には見知らぬ男が混ざっていたけれど、この様子じゃアンの恋人と言うわけでは無いみたいだ。どう声をかけていいのか分からず、私も黙って歩くしかなかった。
何とか元気づけてあげたかった。でも、アンの方は私ではどうすることも出来ない。彼女の寂しさは、多分私では埋められないから。
だったらせめてシャルルだけでも元気にしてあげたい。そうだ、今日はたっぷりサービスして、仕事なんてしなくたって私だけが居れば生きていけるって事を改めて身体に教えてあげよう。外に出なくたって一緒に居てくれるだけで私は満たされるんだって教えてあげよう。
どうやって慰めてあげようか、考えている間に自室の前までたどり着いてしまっていた。
まぁいいか。いつも通りにしてあげるのが一番の慰めになるだろうし。うん、きっとそうだ。
「ただいまー。今日は疲れたね、シャルル」
まずはベッドで一回。一回で済むかはともかく、あとの事はそれから考えよう。
「メアリー」
扉を閉めるなり、シャルルは私の腕を引いて止める。
戸惑う間もなく後ろから抱きつかれ、いきなり激しく胸を揉み上げられた。シャルルの手が少し乱暴に動くたびに私のおっぱいが形を変える。不意打ちに敏感なところをつねり上げられて、一瞬息も出来なくなってしまう。
彼の荒い息が首元に当たる。くすぐったくて、全身が鳥肌が立ったみたいになる。
「ちょ、シャルル。いきなり強引すぎるよぉ」
「ごめん、でも、もう、我慢できなくて。……帰り道でも、ずっと」
私の首筋に吸い付き、舐めてから、シャルルは続ける。
帰り道で辛そうな顔してたのは、落ち込んでたからじゃなくて、そう言う事だったの? なんかちょっと拍子抜けだ。
「自分を抑えてたけど、部屋に入って、君の、メアリーの後姿を見たら、もう抑えられなくて」
「でも、せめてベッドの上にしようよ、ね?」
何だか私が押されてる。でも、凄い胸がどきどきするのは何? いつもの、私が上になってる時のぞくぞくとは違う。慣れない感じもあるけど、これもいい。
「そんなぁ。ベッドなんて、凄く、遠いじゃないか」
「遠いってすぐそこじゃ、ひゃあぁんっ」
彼の手がいきなり私のあそこの中を掻き回す。あ、やばい。もう何も考えられない。
「メアリーも、こここんなにして、ベッドまで我慢するの、辛いよね。そうだ、いい事思いついた」
彼は私の腰当を強引に引きはがすと、正面に回って自身のズボンを一気に引き下ろす。
「ちょっとシャルル。何もこんなところで……。はやすぎるよぉ」
溢れ出る彼の精の匂いにくらくらしつつ私は何とか冷静を保とうとするのだが、全身に力が入らない。
シャルルは朦朧としている私を軽々と抱き上げて。
「シャルルってば、ちょっとまっ、あ、ああぁっ」
そして一気に私の身体を貫いた。
あまり準備も出来て無くて、少し引き千切られるような感じもしたけれど、彼がしてくれていると思っただけで全ては強烈な快感として塗り替えられてしまう。
「ぁうぅ。シャル、ルぅ」
「さぁ、ベッドに行こうね」
シャルルが一歩進むたびに、あそこを突き上げられる感覚が頭を揺さぶってくる。必死でしがみついていないと、気持ち良すぎてどこかに行ってしまいそうだった。
「ぁ、あ、あっ! シャルル、もっと、ゆっくり、歩いてよぉ」
こすれる。いつもと同じなのに、いつもと違う。シャルルが優位になっているってだけで、なんでこんなに。
「ごめんね。でも、もうベッドに付いたから。ほら」
シャルルは私を抱えたままベッドに倒れ込んだ。さらに深く彼のものが私の中を抉り、目の前にピンク色の火花が散る。
彼はそのまま私の両腕を押さえつけたまま、腰を大きく振り始める。
「メアリー。今日はいつもより、何だがすごく可愛いよ」
「あぁ、シャルルだって素敵だよ。
今日はぁ、今日はぁ、ぁたしを好きに、シャルルの好きにして、いいからねぇ。あたしはぁ、シャルルが居てくれればぁ、しあわせなんだからぁ」
「メアリー……」
「ジャイアントアントみたいにぃ、働けなくたってぇ、わた、わたしはぁ、いっしょにぃ、いっしょにいられればぁ」
「メアリーっ。で、出る」
ふにゃふにゃの思考が、下半身から真っ白に染め上げられるみたいだった。
身体の中にシャルルの味と匂いが広がっていく。でも、私に余韻に浸っている余裕は与えられなかった。
すぐにうつぶせの体制にさせられて、蜘蛛の身体を担ぎ上げられる。
「ふぇ、にゃ、にゃにしゅるきにゃの」
少しきついくらいに大きく背を反らされる。ちょうど、私のあそこが彼の目の前に来るくらいの体勢だった。こんなことして何するつもりなんだろう。胴体だって人間が担ぐのには結構重いのに。
シャルルは私と目が合うと、にやりと獣のような笑みを浮かべて。
後ろから私の身体に入ってきた。
全身が痺れてしまうような感覚が私を襲う。反射的に抵抗しようとしたものの、足を持ち上げられてしまっていて上手く力が入れられない。
シャルルはめちゃくちゃに私を突き上げてくる。一度いったはずなのに、そうとは思えないくらいに硬く、熱かった。
嘘。後ろからされるなんて。アントアラクネの私が、犬みたいに這いつくばらされて……。でも、シャルルになら、い、いいかなぁ。
奥まで突き上げられる度に私は否応なしに昂らされていく。無意識のうちにシーツを強く掴んで、声を上げていた。
私はもう限界に近かった。それでもシャルルは一向に責めの勢いを緩めず、むしろ私が弱みを見せれば見せる程さらに激しく私を責め立てた。
そして彼の白濁した欲望が私の中心に叩きつけられて、絶頂を迎えるのと同時に、私は気を失った。
「ごめんメアリー。本当にごめん」
目が覚めると私の身体はシャルルの精液で真っ白になっていて、部屋中に彼の匂いが充満していた。
別に私としては謝られる要素は無いのだけど、なぜかシャルルは私の前で両手を付いて何度も何度も頭を下げる。もういいって何度も言っているのに、やめてくれない。
「そんなに悪い事したと思ってるの?」
「だって、無理矢理押し倒して、後ろからして……。気を失った君の身体にも、何度も何度も」
そこだ。そこだけはちょっともったいないと思う。
「でも、私言ったよね? 今日は好きにしていいって。それにそんなに謝られると、私がシャルルにしてきたことも悪い事みたいじゃない。シャルルは嫌だったって事?」
人間の男だって気持ち良くなりたいよね? 子どもだって、たくさん残したいって思うよね?
「そりゃ最初は戸惑ったけど、今は全然嫌じゃないし、むしろ嬉しい」
何か引っかかる気がするけど、まぁいいか。
「だったら謝らないでよ。私だって嬉しかったし、気持ち良かったよ?」
顔を上げさせて、泣きそうな彼の額にキスした。
「だからね、もう謝らないで」
「……うん」
不安そうな表情。まだちょっと納得できてないみたいだ。そう言うところがシャルルらしくていいんだけど。
「でも、シャルルにもあんな強引だったり力持ちな面もあったんだね。ずっと私を押さえつけて、身体も持ち上げ続けるなんて」
「もしかしたら、おやつに食べたキノコのせいかも」
「おやつ?」
「朝、主任の旦那さんがくれたんだよ。干しタケリタケだって言ってたかな。もしかしたら力が出るかもしれないって」
主任の旦那って、キリスじゃない。あのバカ何やってんのよ。
「そんな馬鹿なと思ってたけど、午前中あんな調子だったでしょ? 駄目元でメアリーが昼寝しているときにこっそり食べてみたんだよ。ピリ辛で美味しかったけど、その時は力が出た気はしなかったんだけどねぇ」
「昼寝って、私寝てたっけ」
「やっぱ気が付いて無かったんだ」
だって普段は寝てやるだけの生活だったし……。
でも確かにタケリタケは魔界のキノコだったはず。それを食べた彼の身体から何か特殊な魔力が発せられてもおかしくは無いか。
……さっきのアレ、ちょっと良かったな。癖になっちゃいそうかも。
それにしても、あれだけくたびれてたのにこんなにいっぱい出して平気だったのかなぁ。明日動けなくなられても心配だし、寂しいし。
「それは分かったけど、ねぇシャルル、体調は大丈夫なの?」
「え、うん。なんか逆にすっきりしたっていうか、元気が出たっていうか。メアリーのおかげかな」
それって、インキュバス化してきてるって事だよね。匂いの感じだとまだ変化しきっては無いみたいだけど、でも、全身に染み渡った私の魔力が彼の身体を変えているって考えると、なんだかすごく嬉しい。
「えへへ、シャルルが元気になるなら、私何だってしてあげるよ」
体当たりするように彼の身体に抱きついて、一緒にベッドに転がった。
彼の指が私の髪を撫でる。たまに触角に触れられると蕩けてしまいそうになる。
シャルルもずっとこうして居たいと思ってくれてるよね、と思っていたのだけど。
「メアリー、僕、少し考えてみたんだけど、料理を覚えようと思うんだ」
また変な事を言い始める。
「えー。別にいいよぉ。そんな暇があるんだったら私と寝てようよぉ」
「でも、さっきのキノコの効果も凄かったし。魔界の色んな食材を上手に料理すれば働いているみんなはもっと頑張れると思うんだ。それに僕らの営みだってもっと素晴らしくなるよ」
私達の事の方がついでみたいになってるのが気に食わないけど、確かにさっきのは凄かった。
「歌も絵も物語も僕はやったことが無いし、料理するくらいしか出来ないから」
私をこんな気持ちに出来るのもシャルルだけなんだけどなぁ。でも、前にシャルルのしたい事に付き合うって言っちゃったし。
「……分かった」
「本当! やったぁ。じゃあ、明日は朝一で厨房に行こう」
満面の笑みを浮かべるシャルル。はぁ、なんだかんだ言っても、私はこの顔に弱いんだよなぁ。まぁ上に乗って無理矢理してる時の怯えたような顔や、さっき初めて見た獣みたいな顔も全部いいんだけど。
ん、ちょっと待って、厨房に行こうって事は。
「私も一緒に行くって事? 朝一で?」
「だって前について来てくれるって言ってたじゃない」
「う。だ、だったら昼ごろだっていいんじゃ」
朝は寝てたいよぉ。
「でも朝じゃないと他の旦那さん達が居ないだろうし……」
「分かった。もう、分かったよ。じゃあもっかいえっちして今日は寝よ」
「ありがとうメアリー。大好きだ。愛してる」
私の身体をぐっと引き寄せ、優しく何度も唇を合わせてくるシャルル。それだけで私もどうでも良くなってしまう。
まったく、ほんとにもう。
あぁ、全身べっとべとだ。誰かに見られても問題ない程度にシーツで拭いて、シャツを着る。ちょっともったいないけどしょうがない。それにまたシャルルにこうしてもらえばいいんだし。
もう一度ノックされる前に私は扉を開ける。多分そうじゃないかと思ったけど、外に居たのは予想通りアンだった。
仕事道具が入っているんだろう、かなり大きなザックを背負っていた。蟻のしっかりした下半身を持つジャイアントアントじゃなかったらひっくり返ってしまいそうだ。
アンは私と目が合うと、朗らかな笑みでパンとスープの乗ったトレイを手渡してくれる。
「あ、おはようメアリーちゃん。朝ごはん持ってきたよ」
「いつもごめんね。でも朝は忙しいでしょ。別に無理しなくても」
「私はメアリーちゃんの方が心配だよ。旦那さんの看病につきっきりで、休む暇も無いだろうし。……シャルルさん、まだ良くならないの?」
「うん、まだベッドから出られなくて。……仕事にも行けなくて、ごめんね」
嘘は言っていない。最初にアンが来たときだって、私は『彼がベッドから出られないから離れるわけにはいかない』としか言っていない。アンが勝手に勘違いしているだけ。私は悪くないんだ。悪くない……。
休む間もないというのも間違ってはいない。ただし、意味は違うけれど。
アンはそっと首を伸ばして部屋の中を覗き込む。友達の夫という事で興味があるのか、落ち着きなく触角がひょこひょこと動いていた。
大丈夫。シャルルはシーツを被っているし、見られても困るものは何も無い。
ただし、匂いは別だ。部屋の中には二人の愛液の混ざりあった、淫らな交わりの匂いが満ちている。でも私達は夫婦なんだし、別にやましい事をしているわけじゃ無い。仮にえっち出来る元気はあるのかと聞かれても、それらしい怪我でも病気でも適当にでっち上げればいい。
私達の匂いに気が付いたのかは分からないけど、アンは頬を赤らめて、首を引っ込めた。
「こ、これ。厨房の人たちが元気になるから渡してって。じゃ、私行くね」
アンは私に小瓶を握らせると、自分からすぐに扉を閉めてしまった。
精力剤だ。ジャイアントアントの旦那達も、私達の事に気付いているのかいないのか。とにかく、使えるものはありがたく使わせてもらおう。
「シャルル、朝ごはんだよ」
シーツを取って、裸で横たわる彼に這い寄る。あそこに朝の挨拶をしてあげると、すぐに元気に大きく硬くなった。
指を振って唇の封を解く。でも、手足はそのまま。
「ねぇメアリー。そろそろ普通に食べさせてよ」
「だぁめ。それにそのまんまじゃ食べられないでしょ」
私は一口スープを口に含む。コンソメの野菜たっぷりのスープだった。しっかり咀嚼してから、彼の身体を這い上がるようにして顔に近づいていく。
「だから糸を解いっむぐっ」
口づけして、ゆっくりと流し込んであげると、シャルルはいつものように目を蕩けさせながら喉を上下に動かして飲み下していく。
唇を離すと、二人の間に糸が引いた。
「おいしい?」
「ん、うん」
「じゃあ、もう一口ね。ふふ、全部こうやって食べさせてあげるんだから」
最初の一度こそ嫌がっていたけれど、彼はすぐにこの食事方法にも慣れてくれた。今では食べさせるときに積極的に舌を絡めてくるくらいの余裕すらある。
パンもスープも、肉も魚も野菜も、こうやって食べれば本当の意味で二人で味わえる。
最後に精力剤を口移しで飲ませて、長い時間をかけた二人の食事が終わる。
そして彼の為の食事の後は、私の為の食事だ。
食事中、ずっと勃ちっぱなしだった彼のあそこを慰めるために口づけてから、私は彼に跨って腰を沈める。
彼が私の穴を埋める。私の深いところまで硬く突き上げて、満たしてくれる。生きてるって一番実感できる至福の時間。
「うっ、くぅ。メアリーっ」
両腕の束縛を解いてあげると、即座に胸に抱き寄せられて、髪の毛を撫でられた。
どんなに激しく腰を打ち付けても、彼は優しく髪を撫でてくれる。おっぱいを揉んだり口に含んでいる時も、決して乱暴にはしない。
「シャルルぅ。すごくっ、あっ、ぃ、いいっ」
髪を撫でる手がぎこちなくなり、寝起きの濃厚な一発目がお腹の中をさかのぼる。反射的に、ぎゅっと彼の身体に強くしがみついてしまった。
ふふ、でもまだこれは一口目だ。まだまだいっぱい食べさせてもらわなきゃね。
私達の生活は大体こんな感じだった。
疲れて意識が飛ぶまで交わって、回復したらまた交わる。アンがご飯を持ってきてくれた時だけ息抜き代わりに二人で食事を味わって、食べたらまた交わる。
初めてシャルルと出会った日から一ヶ月以上こういう生活を続けているけれど、特に何の問題も無く私達は幸せにやっていた。
初日こそシャルルは憔悴して少し怖がっていたけれど、そんな状態も極短期間に過ぎなくて、今では自分から私の身体を抱き寄せたり髪を撫でたりしてくれるようになった。
一週間が経ち、二週間が過ぎた頃には、糸で彼をベッドに縛るのも止めた。
そんな風にしなくても、彼は私が求めている事を自分からしてくれるという事に気が付いたから。髪や頬を撫でて、肌に唇を這わせ、舐め、そして抱きしめてくれる。
縛ったままの彼とするのも凄く興奮したけど、彼に求められるのはそれはそれで同じくらいに満たされるのだった。
意外だった。怖がる相手に対してでも、無理矢理にでも快楽を与えて射精させて搾り取るのが一番気持ちいい事だと思っていたのに。男にとっても幸せだと思っていたのに。彼が笑ってくれるだけでそれと同じくらい胸がいっぱいになるなんて。
でも、最近彼の様子がおかしい。
交わりの時は変わらず目を輝かせて私に夢中になってくれているのだけれど、それ以外の時にふとした瞬間に寂しげな表情を浮かべるようになってしまった。
後ろから抱きすくめられている今も、こっそり額の目で見上げてみれば彼はどこか遠くを見るような目をしている。
私と一緒に居るのに……。一緒に居るだけで私は幸せなのに……。
「ねぇ、シャルル。何考えてるの?」
「……メアリー事以外、何を考えるっていうのさ」
私のうなじに顔を沈めて深く息を吸う。最初の怯えと遠慮はどこへやら、今では何のためらいも無く自分からこういう事をしてくる。
「嘘。最近何か、別の事考えてるでしょ」
彼は何も言わずに私に回した腕に力を込める。
私も無言で彼の言葉を待つ。彼はしばらくそのまま私を抱きしめ続けた後、諦めたように大きく息を吐いた。
「まったく、メアリーには敵わないよ。そう、考えていることがあるんだ。
怒らないで、悲しまないで落ち着いて聞いてほしい。僕は、外に出て働きたいと思っているんだ」
いくら予防線を張られていたとはいえ、その一言は私の胸を大きく揺さぶった。
だって外に出て働きたいって事は、私から離れるっていう事だ。私と一緒に居るだけじゃ満たされないって言っているようなものじゃない。
「メアリーに不満があるとかそう言うんじゃないんだ。ずっとまぐわって居たいっていう気持ちは僕もあるし、メアリー無しの人生なんて考えられないんだけど、でも」
彼はそこで言葉を切った。すごく辛そうな顔。言うか言うまいか迷っているんだろう。きっと私と向き合っていたらこんな顔は絶対しない。私が悲しまないように気を使うから。
「この巣の役に立ちたいんだ。メアリーの為にも」
私の為を思うんなら、一緒に居てよ。働くなんて言わないで。ずっと抱きしめていてよ。……私には、あなたしかいないんだから。
そう言いたかったけど、シャルルの顔を見てしまったら言えなかった。彼の辛い顔を見るのは、彼が辛い思いをするのは私だって嫌なんだ。
私だって、シャルルには満ち足りた幸せを手にしてほしいと思う。私で足りないとは思いたく無かったけど、でも、もしそうだとしたら。
今度は私が顔を伏せる番だった。こんな顔、彼には見せられない。
「……まぁ考えているだけだけどね、やっぱり僕は」
わざとらしいくらい明るい声でシャルルは言った。見えないけど、顔も笑っているに違いない。でも、作り笑顔なんて見たく無かった。
「分かった。シャルルがしたいなら、私はそれでもいい」
「ほ、本当にいいの? メアリー」
「ただし、その時は私もくっついていくから」
声が震えそうになるのを堪え切った自分を褒めてあげたかった。それでもやっぱり顔が不機嫌になってしまうのだけはどうしようもない。
振り返ると、彼は見惚れてしまうくらい晴れやかな顔で私にキスしてきた。
「ありがとうメアリー! 僕、頑張るよ」
頑張らなくていい。むしろ早く挫折して、今よりもっと私に依存するくらいでいい。何があっても、どんなに失敗しても、私だけは絶対あなたを裏切らずに幸せにし続けるから。
心の底から浮かんだその言葉は、しかし彼の気持ちを考えれば決して口には出来なかった。
彼の行動力には目を瞠るものがあった。私が彼の仕事を許したその日のうちに私の仕事道具の手入れを終えてしまうと、翌日にはジャイアントアント達の仕事場に向かう隊列に加わったのだ。もちろん私の隣の位置に、だが。
反対側の隣で、私の気持ちとは対照的に「旦那さんが元気になって良かったね」とアンが凄く喜んでくれていたのが印象的だった。
思い返してみればシャルルとは出会いからして彼が人間の財を取り戻すために単身巣に忍び込んできた時なのだから、もともとフットワークが軽いところはあったのかもしれない。
そしてつまみ食いをしているところを捕まったという事を思い返せば、少し考えてみればそのあとどうなるかも事前に大体予想は出来たかもしれない。
全ては今更だけど。
「だから人間には無理だと言ったんだ」
「私もそう言ったんですけどね」
仕事場の程近くに建てられた簡易休憩所のバラック。そのベッドの上に伸びているシャルルを見下ろしながら、現場主任と私はそろってため息を吐いた。
ジャイアントアント達に交じって張り切って仕事を始めたはいいが、シャルルはろくに成果を残すことも出来ず、むしろ失敗ばかりを繰り返しているうちに体力が尽きて倒れてしまったのだ。
土砂運びをすれば重さに耐えきれずに下敷きになってしまう。
荷物運びが駄目なら掘削はどうかとつるはしを握らせてみれば、今度はバランスを崩して仲間にぶつかりそうになる。
潰れて圧死しそうになったかと思えば生娘を物理的に傷物にしそうになったりと、一緒に居る私の方が肝を冷やしてしまった。最初は不満でくっついていたけど、今は不安で離れられない。お昼もまだだって言うのに。
結局すぐに体力が尽きて動けなくなってしまったけど、それ以上被害が出ないと考えれば逆に良かったのかもしれない。
「や、病み上がりだからです。体力をつけ直せば」
絞り出すようなシャルルの声を切り捨てるように、主任の眼鏡が鋭く光った。
彼女は厳しい表情のまま首を振る。ジャイアントアントにしては珍しい長髪が背中でさらさらと流れた。この髪質は羨ましい……って、今はそれどころじゃ無かったか。
「屈強な戦士でも我々の仕事に三日と付いて来られないのだ。言っては悪いが、君みたいな子どものような体格の男がいくら頑張っても使いものにはならないだろう」
「そんな……」
よっぽどショックだったんだろう、シャルルは表情を失ってしまった。こうなる事くらい私は分かっていたのに。やっぱり外に出すべきじゃ無かった。
「シャルル。もう帰ろう? 帰っていつもみたいにって、あ」
やば。主任の前だっていうのに、私。
「まぁ、現場は手は足りているし、君もあまり丈夫じゃないしな」
「待ってください。体力が駄目なら、頭を働かせます。納期までの計画とか、設計とか、色んな費用の会計とか、そういう仕事なら」
「なら、君は我々のフェロモンを感じ分けられるか」
「え?」
無理だ。私だって大雑把にしか嗅ぎ分けられないんだから。
主任は眼鏡を直しながら、あくまでも丁寧に分かりやすく説明してくれた。
「我々は何も言葉だけでコミュニケーションをしているわけではない。設計や施業計画と言う物も、言葉や文字だけで行っているわけではないんだ。
言葉や紙とペンの代わりに使うもの。それが我々の身体から発せられる情報伝達用のフェロモンだ。人間にはただの大雑把な匂いにしか感じられない物の中に、我々は千の言葉以上の情報を載せ、また受け取っている。触角や鼻を使ってな。
そうは見えないのも、無理はない。我々とて明確に言葉にして思考しているわけでは無いからな。
一見ただ周りに合わせてがむしゃらに仕事をしているだけに見えるだろうが、そうではない。確かに言葉で表現するとすれば『フェロモンから何となくどうすればいいのかを理解し合っている』としか言えない。だが、そもそも言葉で説明する必要が無いんだ。フェロモンを使う事で我々はより正確で大量の情報を瞬時にやり取りしているからな。これのおかげで誤解もほとんど無くて済んでいる。
人間と違い、フェロモンを使う事で我々現場のジャイアントアント達は全員が寸分たがわぬ完成図を頭の中に共有することが出来るんだ。建物の完成図、工事の進行計画、予算の使いどころ。そう言った物も同じ、常に全員で考えながら足りない所を補い合っているとも言えるな。
無論、フェロモンが完璧だと言うつもりは無い。全てを伝え切れるというわけでは無いし、表現出来ない事も多い。だからこそこうやって言葉を使っているのだしな。だが、我々のコミュニケーションにおいてフェロモンが重要だという事は変わらない。
君にそれらが理解でき、我々に対して画期的なアイデアや不備を提案してくれるというのであれば是非とも仕事をお願いしたいが、そうでなければ巣で大人しくしていてほしい。間違って怪我でもされたらメアリーに合わせる顔が無くなってしまう。
気持ちはありがたいが、我々の現場は人間には少し厳しいんだ」
なるほど、そう言う理屈だったんだ。私の場合は仕事場に出ても本当に単純に周りに合わせる事しか出来ていなかったけど、ここの子達は幼げな顔の割にかなりすごい事をしていたらしい。
私にだってとても出来そうにない。シャルルよりはずいぶん長い間巣の中には居るけど、仕事をするジャイアントアント達の間には全然入っていけないもの。
シャルルは可愛そうな程青ざめてしまっていた。かなり堪えたみたいだった。
でもこれで身を持って分かってくれたよね。働く事より私を抱いている方がずっと幸せだって言う事。帰ったらたっぷり慰めてあげるからね。
「すまない。気を悪くしたのなら謝る。私は、その、あまり言葉の選び方と言うのが上手く無くてな。旦那にも気を付けろと言われているのだが……」
しかし、こんなにきっちり仕事が出来て真面目な彼女の旦那がキリスと言うのだから、世の中良く分からないものだ。
「いえ、気にしないでください。良く、分かりました」
シャルルの手に指を絡めて握りしめる。私だけを見てほしいとは思うけど、落ち込んでいるシャルルの姿はやっぱり見ていられなかった。
「大丈夫だよ」
彼は私に向かって笑うけど、そこにいつもの元気は無かった。
「まぁ何だ、誤解しないで欲しいのだが、別に人よりジャイアントアントの方が優れていると言っているわけでは無いからな。言わば鳥と魚の違いのようなものだ。
確かに私達は穴を掘ったり建物を立てたりという事は得意だが、学問を究めたり、絵を書いたり物語を作ったり歌を歌う事は人間の方が得意だろう。これも個性だという事で理解して欲しい」
彼は上半身を持ち上げて、私の蜘蛛の身体を撫でながら頷いた。
「確かに、そうですよね」
種族の個性、か。私にも何かあるのかなぁ。それとも、ジャイアントアントに外見が似ているだけで、こうやって忍び込むだけが能なのかなぁ……。
それは、ちょっと嫌だ。
「恋の相手を求める時も同じだ。つがいの相手が欲しいという気持ち、夫を愛しいと思う気持ち、言葉にするには強すぎる気持ちを、私達はフェロモンで相手に伝えている。
まぁ、自分達の事をこんな風に考えているのは私だけかもしれないがね」
「……素敵ですね」
え? シャルル?
「種族が違うからそう思うだけで、個人個人愛の伝え方が違うのと同じ事さ。君だってもう身を持って知っているだろうがな」
「それはまぁ」
何だろう、この胸がもやもやする感じ。ジャイアントアントじゃない私にはフェロモンを出す能力は無い。私はアントアラクネだから。
私は住む場所も、食べ物も、姿さえもジャイアントアントのものを借りている。この身体に染みついたフェロモンだってジャイアントアントのものだ。
それって、つまり……。
「そろそろ昼の時間か。二人とも、昼ごはんの準備位は出来るな? 弁当を席に並べてくれ」
「メアリー?」
シャルルと主任が私の顔を不思議そうに見ていた。
「え、あ、はい。シャルル、立てる?」
「うん。ありがとう」
私の身体に捕まらせて、彼を立ち上がらせる。それにしても私、何考えてるんだろう。シャルルがそばに居てくれるのなら、それ以外の事なんてどうでもいいのに。
みんなのお弁当はサンドイッチだった。ハム野菜サンドとたまごサンドが一つずつ。それにしてもこれだけで午後ももつというんだから尊敬してしまう。
ちなみに既婚者組は大体旦那様お手製のお弁当を持ってきている。私達が準備していたのは独り者用のお弁当だ。
独り者のお弁当は誰が用意しているかと言うと、実は有志の旦那達が持ち回りで作ってくれているのだ。食堂の料理係や、独り者の子達の洗濯物なども同様だ。
「ふあー、お腹空いたー」
「あ、メアリーにシャルル。準備しててくれたんだね」
お昼ご飯を並べ終えると、タイミングを見計らったかのように仕事を終えたジャイアントアント達が入ってきた。
私とシャルルは奥の席に詰めて彼女達の席を空ける。
「メアリーちゃん。一緒に食べていい?」
「あ、アン。端っこだけどいい?」
「うん。メアリーちゃんと一緒のご飯も久しぶりだね」
顔いっぱいで喜びを表現しながら、アンが私達の正面に座る。
汗だくのジャイアントアント達がみんな一気に入ってきたせいだろう、みんなが席に着くころには狭いバラックの中はジャイアントアント達の汗の匂いでいっぱいになっていた。
汗の匂い、それはつまりフェロモンの匂いでもある。
仕事の後のせいか、アンたちの顔がほんのり赤かった。
私の身体にも染み付いている男を引き寄せるフェロモン。でもこれは結局借り物で、じゃあシャルルが私を好きになってくれたのは、もしかして?
やめよう、深く考えるのはやめておこう。
「「「いただきまーす」」」
そろった掛け声とともに、ジャイアントアント達は各々自分のお弁当に手を付け始める。
つられて私もサンドイッチに口を付ける。食事のときは考えるのはやめよう。食べる事に集中しよう。
そういえば、このパンは前に来た時も食べたことがあったなぁ。結構悪くない味だとは思うんだけど、なんか物足りないのよねぇ。
いつもと違って周りに大勢いるのでいろんな話が聞こえてきた。昨日のパンの方が美味しかったとか、作ってもらえるだけでもありがたいとか、早く旦那さまのお弁当が食べたいとか。結局最後は旦那の話になっていくみたいだったけど。
やっぱり大勢で食べる食事は騒がしいなぁ。ま、嫌いでは無いけど。でもやっぱりシャルルと二人の食事の方がいい。
そう言えばシャルルはまだ食事に手を付けてない。なぜか俯いて、そわそわと周りを見たり私を見たり、パンを見たりと落ち着きが無い。
「シャルル、どうかした? 食欲無いの?」
「いや、そう言うんじゃないんだけど、その」
彼は私の唇を見ながら、誰にも見られないように机の下に隠して指を絡めるようにして手をつないでくる。
あぁ分かった。いつもみたいに食べたいんだ。でも流石にこの場じゃ出来ないし、そう言う事ね。
「焦らないでゆっくり食べよう? 食べ終わるまでそばに居てあげるから」
「うん。ありがとう」
そう言う事なら、私だけ先に食べちゃうわけにもいかない。
でも、ふふ。ちょっと不安になってたけど、やっぱりシャルルは他の誰でもなく私の事を求めてくれているんだ。良かったぁ。
パンをお皿に戻すと、今度はアンが熱っぽい視線を私の手元に向けていた。よだれを垂らしながら。
「アン、垂れてるよ」
もう、しょうがないなぁ。私は自分のタオルで彼女の口元を拭ってあげた。アンは面倒見がいいように見えてその実、こんな風に子どもっぽかったり抜けていたりするところがある。まぁ、そこがまた可愛いんだけど。
「ご、ごめん。き、昨日のパンの味を思い出してただけだから。べ、別に余るくらいなら食べたいなぁとか思ってたわけじゃ無いから」
「……私このたまごサンド一つあればいいから、良かったら食べる?」
まだ手を付けてないハム野菜サンドを勧めると、アンは目を輝かせながらサンドイッチを凝視した。本当、分かりやすい子だ。
「い、いいの? わぁ、メアリーちゃん大好き! ありがとう!」
両手でサンドイッチを受け取って、本当に美味しそうに食べ始める。
それはそうと。
「昨日のパンってそんなに美味しかったの?」
「え、うん。カレーパンだったんだけど、一昨日の魔界豚のカレーの残りが使われててね。昨日の午後は疲れ知らずで頑張っちゃったよ」
一昨日の魔界豚のカレー。すっかり忘れてたけど、一昨日の夕ご飯は確かにいつもより美味しかったっけ。まぁ、どんな食事も彼の精の前では霞んでしまうんだけど。
「あ、確かにこの間のカレーは美味しかったです。いつもの食事も美味しいんですけどあれはダントツでした。
そうだった。アンさん、いつも部屋に食事を持ってきてくれてありがとうございます」
「え? そんな、いいんですよ。私も二人の顔見たいし、早く元気になってもらいたいし」
何か魔界豚のカレーに負けた気がするのはなぜだろう。あと、彼が私以外に笑顔を向けてると胸がもやもやする。
「ね、ねぇアン。あれは見つかった? 前に言っていた魔晶石、だっけ」
「魔宝石の事? うん、お仕事しながらも掘り起こした土の中から探しているんだけど、まだ見つかってないんだぁ。やっぱり魔界みたいに魔力の濃度が濃いところじゃないと駄目みたいで」
「あの、魔宝石って何なんですか?」
シャルルがおずおずと尋ねる。正直私も詳しく無かったから、聞いてくれて助かった。
「魔宝石っていうのは、本来は魔界の鉱脈とかから掘り出される鉱石で、魔界の宝石みたいなものだよ。最初は無色透明なんだけど、魔力が込められるとその魔力に応じて色や輝きが変わるの」
「へぇ、不思議な石ですね。でもどうしてそれを?」
「女王様とその旦那様、つまりアンのお母さんとお父さんがお揃いの魔宝石の指輪をしてるから、だったっけ?」
「うん。正確にはお揃いじゃなくて、お互いの魔力を宿した魔宝石の指輪をしてるんだけどね。
お母さんはお父さんの精を宿した指輪を、お父さんはお母さんの魔力を宿した指輪をしてる。子どもの頃からずっといいなぁって思ってて」
アンは急にはっと我に返ったように顔を上げて、照れ笑いを浮かべる。
「あはは、でもまずは旦那様を見つけないとね」
本当、アンのこういうところを見るたびに、旦那さんになる人は絶対幸せになるだろうなぁと思う。私も見習わなきゃなぁと思うんだけど、すぐに忘れてしまう。
「アン! そろそろ皆行くよー!」
いつの間にかみんな食事を終えていて、外に出る準備も済ませていた。あれ、でも昼休みってこんなに短かったかな。
私は声を落とした。
「仕事の期限とかやばいの?」
「ううん。行くのは行進だよ。今の仕事場は割と人里にも近いから、みんなで行進してフェロモンを振りまいてみてるの。人数が多い方がいいからって主任たちも手伝ってくれてるんだ」
アンは次第に外に出始めている仲間たちに向かって声を上げる。
「ご、ごめん! あの、今日は久しぶりだから、私メアリーちゃんたちと」
「だめだよ。それだったらなおさら行かないと。アンが早く相手見つけないと私だって安心できないよ」
本当に人がいいんだから。これだけ努力してるんだから、アンにだって早く報われて欲しい。私達の相手なんていつでもできるんだから。
アン自身は私やシャルルの方を見ながら迷っているようだったけど。
「私達にはまたいつでも巣の中で会えるんだからさ。行ってきなよ」
そう言ってあげると、アンは頷いて、急いで残りのサンドイッチを口の中に入れて群れに混ざっていった。
「二人はゆっくり休んでてね。じゃ、行ってきまーす」
部屋の中に残されたのは、私とシャルルと濃厚なジャイアントアント達のフェロモン。
「ねぇ、本当にいつもみたいに食べたいの」
「……うん」
「私の分も、ここでいつもみたいにもらう事になるけど、それでもいいんだよね」
「……うん」
シャルルはもじもじしながら消え入りそうな声で答える。しっかり欲情している割に、いつもと違う環境だから緊張しているんだろう。
私は椅子に座ったシャルルの上に跨る。ズボン越しにも、もう固くなってるのが分かる。このまま食べちゃいたいけど、彼だって我慢してたんだもの、私もちゃんと食べさせてあげなきゃ。
いつものようにサンドイッチを彼に口移しで食べさせてあげる。唇同士が触れた瞬間、彼はもう我慢できないと言った感じで私の背に強く腕を回してきた。
「きゃ、もう驚かせないでよ。……どう、おいしい?」
「うん。凄く」
「もう、この間は自分で食べたいって言ってたくせに」
「そうなんだけど、だって、午前中はほとんど触れ合う事も出来なかったし」
全く本当に、可愛いんだから。もう、私だって我慢できない。
「そうだね。みんなの目もあったし」
「あ、メアリーっ。うあぁっ」
彼のズボンを下ろして、少し強引につながり合う。気持ちは私だって同じだ。彼が私の中に入っていてくれないだけで不安になってしまうくらいなんだから。
「でももうみんな行っちゃったし、いいよね? ねぇシャルル、出したくなったらいつでも出していいからね? 私もとってもお腹が空いてるから、いっぱいちょうだい?」
それ以上、私達には言葉はいらなかった。それから、私達はゆっくりと昼食を味わった。
その後、シャルルは午後も働こうとしたのだが結局主任に見つかって止められてしまい、休憩室でずっとうな垂れていた。
私が抱きしめると表情こそ和らげてくれるのだけど、魚の骨がのどに刺さっているみたいにやっぱりその笑顔にはぎこちなさが残っていた。
みんなが仕事を終えて、ようやく巣に帰れるようになっても彼の様子は変わらなかった。
帰り道では、いつもと違ってアンまで元気が無かった。誰かが捕まえたんだろう、隊列には見知らぬ男が混ざっていたけれど、この様子じゃアンの恋人と言うわけでは無いみたいだ。どう声をかけていいのか分からず、私も黙って歩くしかなかった。
何とか元気づけてあげたかった。でも、アンの方は私ではどうすることも出来ない。彼女の寂しさは、多分私では埋められないから。
だったらせめてシャルルだけでも元気にしてあげたい。そうだ、今日はたっぷりサービスして、仕事なんてしなくたって私だけが居れば生きていけるって事を改めて身体に教えてあげよう。外に出なくたって一緒に居てくれるだけで私は満たされるんだって教えてあげよう。
どうやって慰めてあげようか、考えている間に自室の前までたどり着いてしまっていた。
まぁいいか。いつも通りにしてあげるのが一番の慰めになるだろうし。うん、きっとそうだ。
「ただいまー。今日は疲れたね、シャルル」
まずはベッドで一回。一回で済むかはともかく、あとの事はそれから考えよう。
「メアリー」
扉を閉めるなり、シャルルは私の腕を引いて止める。
戸惑う間もなく後ろから抱きつかれ、いきなり激しく胸を揉み上げられた。シャルルの手が少し乱暴に動くたびに私のおっぱいが形を変える。不意打ちに敏感なところをつねり上げられて、一瞬息も出来なくなってしまう。
彼の荒い息が首元に当たる。くすぐったくて、全身が鳥肌が立ったみたいになる。
「ちょ、シャルル。いきなり強引すぎるよぉ」
「ごめん、でも、もう、我慢できなくて。……帰り道でも、ずっと」
私の首筋に吸い付き、舐めてから、シャルルは続ける。
帰り道で辛そうな顔してたのは、落ち込んでたからじゃなくて、そう言う事だったの? なんかちょっと拍子抜けだ。
「自分を抑えてたけど、部屋に入って、君の、メアリーの後姿を見たら、もう抑えられなくて」
「でも、せめてベッドの上にしようよ、ね?」
何だか私が押されてる。でも、凄い胸がどきどきするのは何? いつもの、私が上になってる時のぞくぞくとは違う。慣れない感じもあるけど、これもいい。
「そんなぁ。ベッドなんて、凄く、遠いじゃないか」
「遠いってすぐそこじゃ、ひゃあぁんっ」
彼の手がいきなり私のあそこの中を掻き回す。あ、やばい。もう何も考えられない。
「メアリーも、こここんなにして、ベッドまで我慢するの、辛いよね。そうだ、いい事思いついた」
彼は私の腰当を強引に引きはがすと、正面に回って自身のズボンを一気に引き下ろす。
「ちょっとシャルル。何もこんなところで……。はやすぎるよぉ」
溢れ出る彼の精の匂いにくらくらしつつ私は何とか冷静を保とうとするのだが、全身に力が入らない。
シャルルは朦朧としている私を軽々と抱き上げて。
「シャルルってば、ちょっとまっ、あ、ああぁっ」
そして一気に私の身体を貫いた。
あまり準備も出来て無くて、少し引き千切られるような感じもしたけれど、彼がしてくれていると思っただけで全ては強烈な快感として塗り替えられてしまう。
「ぁうぅ。シャル、ルぅ」
「さぁ、ベッドに行こうね」
シャルルが一歩進むたびに、あそこを突き上げられる感覚が頭を揺さぶってくる。必死でしがみついていないと、気持ち良すぎてどこかに行ってしまいそうだった。
「ぁ、あ、あっ! シャルル、もっと、ゆっくり、歩いてよぉ」
こすれる。いつもと同じなのに、いつもと違う。シャルルが優位になっているってだけで、なんでこんなに。
「ごめんね。でも、もうベッドに付いたから。ほら」
シャルルは私を抱えたままベッドに倒れ込んだ。さらに深く彼のものが私の中を抉り、目の前にピンク色の火花が散る。
彼はそのまま私の両腕を押さえつけたまま、腰を大きく振り始める。
「メアリー。今日はいつもより、何だがすごく可愛いよ」
「あぁ、シャルルだって素敵だよ。
今日はぁ、今日はぁ、ぁたしを好きに、シャルルの好きにして、いいからねぇ。あたしはぁ、シャルルが居てくれればぁ、しあわせなんだからぁ」
「メアリー……」
「ジャイアントアントみたいにぃ、働けなくたってぇ、わた、わたしはぁ、いっしょにぃ、いっしょにいられればぁ」
「メアリーっ。で、出る」
ふにゃふにゃの思考が、下半身から真っ白に染め上げられるみたいだった。
身体の中にシャルルの味と匂いが広がっていく。でも、私に余韻に浸っている余裕は与えられなかった。
すぐにうつぶせの体制にさせられて、蜘蛛の身体を担ぎ上げられる。
「ふぇ、にゃ、にゃにしゅるきにゃの」
少しきついくらいに大きく背を反らされる。ちょうど、私のあそこが彼の目の前に来るくらいの体勢だった。こんなことして何するつもりなんだろう。胴体だって人間が担ぐのには結構重いのに。
シャルルは私と目が合うと、にやりと獣のような笑みを浮かべて。
後ろから私の身体に入ってきた。
全身が痺れてしまうような感覚が私を襲う。反射的に抵抗しようとしたものの、足を持ち上げられてしまっていて上手く力が入れられない。
シャルルはめちゃくちゃに私を突き上げてくる。一度いったはずなのに、そうとは思えないくらいに硬く、熱かった。
嘘。後ろからされるなんて。アントアラクネの私が、犬みたいに這いつくばらされて……。でも、シャルルになら、い、いいかなぁ。
奥まで突き上げられる度に私は否応なしに昂らされていく。無意識のうちにシーツを強く掴んで、声を上げていた。
私はもう限界に近かった。それでもシャルルは一向に責めの勢いを緩めず、むしろ私が弱みを見せれば見せる程さらに激しく私を責め立てた。
そして彼の白濁した欲望が私の中心に叩きつけられて、絶頂を迎えるのと同時に、私は気を失った。
「ごめんメアリー。本当にごめん」
目が覚めると私の身体はシャルルの精液で真っ白になっていて、部屋中に彼の匂いが充満していた。
別に私としては謝られる要素は無いのだけど、なぜかシャルルは私の前で両手を付いて何度も何度も頭を下げる。もういいって何度も言っているのに、やめてくれない。
「そんなに悪い事したと思ってるの?」
「だって、無理矢理押し倒して、後ろからして……。気を失った君の身体にも、何度も何度も」
そこだ。そこだけはちょっともったいないと思う。
「でも、私言ったよね? 今日は好きにしていいって。それにそんなに謝られると、私がシャルルにしてきたことも悪い事みたいじゃない。シャルルは嫌だったって事?」
人間の男だって気持ち良くなりたいよね? 子どもだって、たくさん残したいって思うよね?
「そりゃ最初は戸惑ったけど、今は全然嫌じゃないし、むしろ嬉しい」
何か引っかかる気がするけど、まぁいいか。
「だったら謝らないでよ。私だって嬉しかったし、気持ち良かったよ?」
顔を上げさせて、泣きそうな彼の額にキスした。
「だからね、もう謝らないで」
「……うん」
不安そうな表情。まだちょっと納得できてないみたいだ。そう言うところがシャルルらしくていいんだけど。
「でも、シャルルにもあんな強引だったり力持ちな面もあったんだね。ずっと私を押さえつけて、身体も持ち上げ続けるなんて」
「もしかしたら、おやつに食べたキノコのせいかも」
「おやつ?」
「朝、主任の旦那さんがくれたんだよ。干しタケリタケだって言ってたかな。もしかしたら力が出るかもしれないって」
主任の旦那って、キリスじゃない。あのバカ何やってんのよ。
「そんな馬鹿なと思ってたけど、午前中あんな調子だったでしょ? 駄目元でメアリーが昼寝しているときにこっそり食べてみたんだよ。ピリ辛で美味しかったけど、その時は力が出た気はしなかったんだけどねぇ」
「昼寝って、私寝てたっけ」
「やっぱ気が付いて無かったんだ」
だって普段は寝てやるだけの生活だったし……。
でも確かにタケリタケは魔界のキノコだったはず。それを食べた彼の身体から何か特殊な魔力が発せられてもおかしくは無いか。
……さっきのアレ、ちょっと良かったな。癖になっちゃいそうかも。
それにしても、あれだけくたびれてたのにこんなにいっぱい出して平気だったのかなぁ。明日動けなくなられても心配だし、寂しいし。
「それは分かったけど、ねぇシャルル、体調は大丈夫なの?」
「え、うん。なんか逆にすっきりしたっていうか、元気が出たっていうか。メアリーのおかげかな」
それって、インキュバス化してきてるって事だよね。匂いの感じだとまだ変化しきっては無いみたいだけど、でも、全身に染み渡った私の魔力が彼の身体を変えているって考えると、なんだかすごく嬉しい。
「えへへ、シャルルが元気になるなら、私何だってしてあげるよ」
体当たりするように彼の身体に抱きついて、一緒にベッドに転がった。
彼の指が私の髪を撫でる。たまに触角に触れられると蕩けてしまいそうになる。
シャルルもずっとこうして居たいと思ってくれてるよね、と思っていたのだけど。
「メアリー、僕、少し考えてみたんだけど、料理を覚えようと思うんだ」
また変な事を言い始める。
「えー。別にいいよぉ。そんな暇があるんだったら私と寝てようよぉ」
「でも、さっきのキノコの効果も凄かったし。魔界の色んな食材を上手に料理すれば働いているみんなはもっと頑張れると思うんだ。それに僕らの営みだってもっと素晴らしくなるよ」
私達の事の方がついでみたいになってるのが気に食わないけど、確かにさっきのは凄かった。
「歌も絵も物語も僕はやったことが無いし、料理するくらいしか出来ないから」
私をこんな気持ちに出来るのもシャルルだけなんだけどなぁ。でも、前にシャルルのしたい事に付き合うって言っちゃったし。
「……分かった」
「本当! やったぁ。じゃあ、明日は朝一で厨房に行こう」
満面の笑みを浮かべるシャルル。はぁ、なんだかんだ言っても、私はこの顔に弱いんだよなぁ。まぁ上に乗って無理矢理してる時の怯えたような顔や、さっき初めて見た獣みたいな顔も全部いいんだけど。
ん、ちょっと待って、厨房に行こうって事は。
「私も一緒に行くって事? 朝一で?」
「だって前について来てくれるって言ってたじゃない」
「う。だ、だったら昼ごろだっていいんじゃ」
朝は寝てたいよぉ。
「でも朝じゃないと他の旦那さん達が居ないだろうし……」
「分かった。もう、分かったよ。じゃあもっかいえっちして今日は寝よ」
「ありがとうメアリー。大好きだ。愛してる」
私の身体をぐっと引き寄せ、優しく何度も唇を合わせてくるシャルル。それだけで私もどうでも良くなってしまう。
まったく、ほんとにもう。
12/11/29 18:15更新 / 玉虫色
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