連載小説
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第伍章 義賊は疾風の如く宝を取り返す
悪しきを挫き、善きを助ける
強きを討ち、弱きを救う
ソレが義賊という称号

だけど

そんな大層なモノはいらない
ワタシ達が欲しいのは……

―義賊は疾風の如く宝を取り返す―

「いっや〜、警備が当然というか何というかぁ、すっごく厳重なのですぅ」
「無駄口は叩かない方がいいですよ、藍沙(アイシャ)。ボク達の目的は『彼』の奪還、このような所で気を抜いて失敗したら、元も子もありませんよ」
「むぅ〜、魅朱(ミソホ)は真面目過ぎなのですぅ。緊張し過ぎても、失敗するですぅ」
「はぁ……貴方は本当に、口が達者ですね」
会話する二人がいるのは、二人が見ている屋敷の近くにある木の天辺だが、二人が足場にしている木は目算でも一〇メートル近い大木である。
二人は人に近しいが、ヒトではなかった。

藍沙と魅朱はジパングでは「オニ」と呼ばれる魔物で、極めて人に近い姿をしているが、決定的に異なる部分がある。
ソレは二人の額から生える雄々しい二本角、細かく言えば藍沙の肌は燃え盛る業火の如く紅く、魅朱の肌は晴れ渡る青天の如く蒼い。
藍沙の種族は「アカオニ」、魅朱の種族は「アオオニ」だが、二人の名前は『名は体を表す』という言葉を真っ向から否定する名前である。
鬼という言葉で連想するのは虎柄の衣服だが、二人が纏うのは黒一色の忍装束で、コレも固定概念を粉砕するには充分過ぎる。
尤も、普段の二人は連想通りの虎柄のサラシと腰巻きだが、今回は事情が違うのだ。

「全く、ワタシ達も大馬鹿なのですぅ。身一つで、こ〜んなに厳重に警備されてる屋敷に忍び込むのですからぁ」
「ソレには同意です……けど、貴方は『彼』を助けたいと思っていないのですか?」
「そんな訳無いのですぅ、ワタシだって『彼』を助けたいのですぅ!」
「なら、いいじゃないですか。生涯、一度だけでも大馬鹿になりましょう」
そう言いながら、魅朱は足場にしていた大木の天辺から飛び降りる。
「あっ! 待ちやがれなのですぅ! 抜け駆けは駄目なのですぅ!」
飛び降りた魅朱に追従するように、藍沙も大木の天辺から飛び降りた。
二人の目的は、二人が『彼』と呼んでいた人物の奪還。
藍沙と魅朱にとって、『彼』は大切な存在なのだ。

×××

「……はぁ」
拙者は、何度吐いたのかを忘れる程に溜息を吐いていた。
今の拙者の四肢には杭が打ち込まれており、磔にされた聖人のような体勢になっている。
正直、「痛い」という表現が生温く感じる程の激痛が、拙者の四肢を蝕む。
拙者がいるのは窓すら無い無機質な石造りの部屋、所謂牢屋だ。
窓は無く、廊下にも灯りが無い以上、牢屋は暗闇に包まれており、如何に豪胆な精神力の持ち主だろうと、何れは発狂してしまうだろうな。

「……はぁ」
四肢を封じられた拙者に出来るのは溜息を吐く事だけであり、眠りたくとも四肢を封じる杭が齎す激痛で眠気は地平線の彼方へ吹き飛ぶ。
拙者は溜息混じりに想う。
拙者が想うは、ただ一つ……藍沙と魅朱の事だけだ。
二人に会いたい、ただソレだけを支えに拙者は発狂を免れていた。

×××

さてさて、此処で昔噺といこうじゃないか。
あ? 真面目な我輩が気持ち悪い?
あのねぇ、流石に我輩も空気は読むよ? こんな状況で、いつものノリで喋ったら台無しじゃん。
ま、気を取り直して昔噺を、今回は牢屋で磔にされてる少年の経歴だ。

今、牢屋で磔にされてるのは冲田愁司(オキタ・シュウジ)君、妖怪と友好的なジパングじゃ珍しい反魔物派領・クルスの領主の息子さんだ。
何でクルスが反魔物派なのか、だって? 何故なら、クルスは大陸で幅を利かせてる教団に媚びてるからさ。
元々、クルスは小さな港街だったんだけど、愁司君の祖父さんが偶々ジパングを訪れてた教団と接触したのが現在のクルスの始まりだ。
愁司君の祖父さんが教団の拠点としてクルスの施設を提供、教団はクルスを拠点にジパング固有の魔物、つまりは妖怪の討伐に乗り出したんだよ。
全く、教団は見境無いね、『魔物=悪→妖怪=ジパング固有の魔物→妖怪=悪』ってな感じで脳内変換してまで、妖怪の討伐しようとするんだから。
んで、教団の遠征部隊が持ち込んだ大陸製の品をジパング各地に輸出して、小さな港街だったクルスは一躍大陸との窓口として発展したのさ。
んなもんだから、クルスの住人は教団の偏見思想にドップリ肩まで浸かっちゃっててさ、妖怪達はクルスに絶対近付かないんだよ。
因みに、オルガン君と更紗ちゃんを襲った騎士連中と、元教団専属暗殺者だったアルト君も此処から来たのさ。

そんな環境で育った愁司君だが、彼だけがクルスで唯一のジパング的思想の持ち主だ。
妖怪は良き隣人、手を取り合って助け合うべきなのに、自分の周りは妖怪は敵だと言う。
そんな環境が嫌で嫌で堪らなくなった愁司君、一〇歳の誕生日に家出したんだよ。
お坊ちゃんが一人で家出なんて大丈夫? なんて、諸君は思うけど、周りからは「神童」と呼ばれる位に愁司君は剣術が達人級の腕前でさ、自己防衛はバッチリだ。
因みに、愁司君は無益な殺生を好まない優しい性格だから、武器の刀は刃を潰した不殺刀……あ、コレ、命名は愁司君だから。

若くして流浪人になった愁司君、家出旅の途中で助けた大陸の魔法使いに魔法を教わって、高等な魔法は使えないけど、ある程度は魔法が使えるようになったんだ。
教わったのは雷系の魔法、自前の剣術と組み合わせた我流剣術のお陰で、山賊とか、野生の獣とかなら無敵になったのさ。
あと、路銀稼ぎと剣術の修練を兼ねて、祓師の真似事をやった事もあったね。

ま、愁司君の経歴はこんな所だね。
愁司君が何故牢屋で磔にされてるのか、愁司君と藍沙ちゃんと魅朱ちゃんの関係とかは、コレからのお楽しみだ。
んじゃ、本編再開といこうじゃないか。

×××

「あはははっ! ブチブチに潰してやるですぅ! 虫けらは潰して殺すのが一番ですぅ!」
「はぁ……本当は殺せないのに、物騒な事は言わないでください」
ボクと藍沙は金棒を手に、屋敷の警備兵達と戦っています。
屋敷に忍び込んだのはいいですけど、早速見つかるとは予想外でした。
まぁ、飛び降りてみたら、着地した場所が運悪く兵達の詰め所の屋根だったのが、最大の誤算だったのですが。

藍沙は『巨大な徳利』と形容出来そうな金棒を振り回し、迫る警備兵達を薙ぎ倒す。
先程、「殺してやる」と藍沙は言いましたが、ボク達妖怪は人を殺す事に本能的な嫌悪感がありますから、実際には殺していません。
精々、金棒を叩きつけられた部分が骨折するくらいですよ。

「はぁっ!」
ボクの金棒は藍沙と比べると細長く、金棒というよりは太い針金といった感じですね。
ボクはソレを的確に振り下ろし、振り回し、ボクへと迫る警備兵の武器を破壊し、武器を破壊されて一瞬戸惑う警備兵に、藍沙の金棒が綺麗に決まる。
「大好きな愁やんを攫った虫けらに、お情けは無駄無駄なのですぅ」
「それでも、です。愁司を助ける為にボク達が人を殺したら、彼は悲しみますよ」
尤も、ボク達は本能的嫌悪感で人を殺す事は出来ませんけど。

「むぅ〜……それは、そうですけどぉ」
拗ねるように口を尖らせる藍沙ですが、背後から襲い掛かってきた警備兵に振り向かずに、金棒を振るって迎撃する。
藍沙はこと戦闘に関しては天才的感覚の持ち主で、こうして背後からの攻撃も難無く対処出来るのは同じ妖怪として、素直に凄いと思います。

「さぁ、此処で足止めされている暇はありません。早く、愁司を探しましょう」
「そうですねぇ、こんな虫けら共の相手をするのも面倒になったのですぅ」
未だにボク達は警備兵達に囲まれていますが、余計な戦闘で増援が来ても面倒ですので、藍沙に突破口を抉じ開けてもらい、ボク達は走り出す。
待っていてください、愁司……今、ボク達が助けにいきますから!

×××

愁やんを探して屋敷の中を走り回るワタシは、自分達がやってきた事と愁やんとの出会いを思い出していたのですぅ。

ワタシと魅朱は巷じゃ「義賊」と呼ばれてるんですけどぉ、正直そんな糞くらえな呼び方は御免ですぅ。
ワタシ達が義賊と呼ばれるようになったのは、魅朱の正義感の所為なのですぅ。
魅朱は正義感が強くて、悪党を見ると口より先に手が出ちゃうのですぅ。
ワタシと魅朱は鬼ですからぁ、魅朱が悪党に手を出すと「命だけはお助けぇっ!」と勝手に金品を置いてトンズラするのですぅ。
んで、ジパングを旅する流れ者のワタシ達には嵩張るだけの金品は邪魔なだけでぇ、質屋で換金して、必用な分以外は適当に其処ら辺の有象無象にくれてやったのですぅ。
ソレが間違いだったのですぅ……ソレを繰り返していたら、有象無象共が勝手にワタシ達を義賊なんて呼び始めたのですぅ。

魅朱は義賊と呼ばれて満更でもないみたいですしぃ、寧ろ
『義賊と呼ばれるようになった以上、ボク達も相応の行いはするべきです』
なんて、言い始めたのですぅ。
正義感のままに突っ走る魅朱に引き摺られては違法商人やら山賊やらをとっちめて、戦果を有象無象にあげて、の繰り返しですぅ。
ワタシと魅朱は幼馴染だから諦めてましたけどぉ、魅朱の真面目っぷりには呆れるだけですぅ。

ワタシ達と愁やんが出会ったのは、ワタシ達が義賊と呼ばれ始めてから間もない頃でぇ、今考えると随分と最悪な出会いだったのですぅ。
ワタシ達は有象無象からは義賊って呼ばれてますけどぉ、ヤられる側から見ればコッチが悪党ですぅ。
んなもんですからぁ、ワタシ達が忍び込む予定の屋敷の持ち主である違法商人に、愁やんは腕を見込まれて用心棒として雇われたのですぅ。

いやぁ、いざ対峙してみると、愁やんの剣技は凄かったのですぅ。
何故か刃が潰れてる刀だったんですけどぉ、雷系の妖術と組み合わせたらしい我流剣術は実戦豊富なワタシ達でもキツかったのですぅ。
だって、掠っても刀身が纏う雷で痺れてぇ、当たると叩かれる痛みと雷で二重で痛いのですぅ。

愁やんに足止めされてたワタシ達の元に違法商人の部下共が集まってきてぇ、駄目駄目だなと思ったら、この部下共は味方である愁やんにも襲ってきたのですぅ。
後で知った事ですけどぉ、この違法商人……ワタシ達諸共、雇った愁やんを殺す算段だったみたいですぅ。
そんな事を知らなかった愁やんとワタシ達は休戦協定結んで共闘して、ついでに違法商人から金目の物を粗方ふんだくって脱出したのですぅ。

屋敷を脱出した後、ワタシ達は愁やんと色々話して意気投合してぇ、愁やんを加えた三人で本格的に義賊を始めたのですぅ。
ワタシは正直義賊なんてやってらんねぇですけどぉ、魅朱と愁やんが楽しそうで、何にも言えなかったのですぅ。

「藍沙っ! 避けて!」
「へっ? ぬぉわっ!」
回想に耽っていたワタシは魅朱の慌てた声で現実に戻されて、横から迫る丸太を間一髪で避けたのですぅ。
ドゴォンと鈍い音を立てて壁にめり込んだ丸太を見て、ワタシは冷や汗を流したですぅ。
「糞がっ! こんな可愛い女の子を、ゴキブリみてぇに潰そうとしたのは誰だ!」
「誰だも何も、屋敷の主人に決まってるでしょう? どうしたんですか、藍沙? 貴方が、ボウッとしてるなんて」
思わず地が出ちゃったワタシに苦笑いする魅朱は、どうして声を掛けるまで丸太が迫っている事に気付かなかったのかを聞いてきたのですぅ。

「別に何でもないですぅ、ちょっと昔を思い出してただけですぅ」
「……余計な考えは避けた方がいいと思います。ボク達は、敵陣の真っ只中にいるんですよ」
呆れた溜息を吐く魅朱を無視して、ワタシは周りを見渡したのですぅ。
今、ワタシ達がいるのは暗くてジメジメした石造りの廊下で、後ろを見ると発動したのはいいけど、見事に避けられた罠が沢山並んでたですぅ。
「考え事をしながら罠を避けたのは凄いですけど、コレからは充分気を付けてください」
「はいはい、分かってるですぅ。今度から気を付けるですぅ」
注意する魅朱に適当な返事を返しながら、ワタシは廊下を走り始めたのですぅ。

×××

「……ん?」
激痛で朦朧としている拙者の耳に、忙しない足音が聞こえる。
反響の所為で上手く距離は掴めないが、誰かが此処に向かってきているようだ。
時折、轟音等が聞こえる以上、少なくとも屋敷の者ではないのは確かだな。
屋敷の者なら、拙者のいる牢屋に続く通路の入口近くにある隠し通路から此処に来る。
この牢屋に続く通路は短いものの、侵入者用の罠が過剰に設置されているからだ。

「……んふっ」
ならば、導かれる答えは一つ……藍沙と魅朱が此処に来ている。
若しかしたら単なる賊かもしれないが、拙者はソレを否定する。
この冲田屋敷の警備兵達は全員が腕利きの剛の者、十把一からげの賊では此処に辿り着く事も出来ないからな。
心に希望の灯火を灯した拙者は微笑を浮かべて、二人を待つ事にした。

×××

「え……行き止まり、ですか?」
ボクと藍沙は過剰に仕掛けられた罠を乗り越えて、通路の奥に漸く辿り着きましたけど、通路の奥は袋小路で、部屋らしきモノはなかった。
確かに此処から愁司の精の匂いがするにも関わらず、肝心の奥は袋小路なんて……一体、どういう事なのでしょうか?

「ん〜……オラァッ!」
頭を捻らせるボクですが、藍沙は思考するボクの横を通り過ぎ、袋小路の壁を呼び出した金棒で豪快に粉砕したのです。
その行動にボクは目を丸くし、開いた口が塞がらないボクに藍沙は満面の笑みで振り向く。
「こういうのは、奥に隠し部屋というのが相場なんですぅ。そんで、大当たりなのですぅ!」
「全く……飛んできた破片が拙者に当たったら、どうするつもりだったんだ?」
土煙の向こうから聞こえる声に、ボクは嬉しさを隠せません。
呆れた声の主は、ずっと会いたかった愁司だったのですから。

「愁司! 大丈夫ですか!?」
「ひ、酷いのですぅ……」
通路奥の隠し部屋にいた愁司を見つけたボク達は、驚きを隠せませんでした。
その四肢には杭が打ち込まれ、傷口には固まった血がこびり付いていて、逞しかった愁司の身体はかなり痩せ細っていたのです。
「コレが大丈夫に見えるかい? インキュバス化してなかったら、確実に死んでいたよ」
力無く笑う愁司にボク達は駆け足で近付き、藍沙は愁司の身体を支え、ボクは彼の四肢を縫い止めていた杭を外しました。

「うわっ!? 愁やん、軽過ぎなのですぅ!」
「……だろう、な。攫われてから、二週間程になるか? 拙者に与えられたのは罵倒だけだから、な」
「ソレって、此処に閉じ込められてから、何も食べてないって事ですか!?」
ボクの驚き混じりの問いに、愁司は力無く笑う事でボクの問いに答えたのです。
愁司はボク達と何度も交わった事がある為、既にインキュバス化していたのが幸いでした。
インキュバスは普通の人間よりも生命力が強く、番である妖怪の妖力があれば、最悪何も食べなくても死ぬ事は無いのですから。
「……早速で悪いが、頼む」
「分かりました……それでは」
ボクは愁司の唇と自分の唇を触れ合わせ、ボクの妖力を愁司に流し込みました。
久し振りに感じた愁司の感触にボクの頭は蕩けそうになり、秘所が疼きますけど、交わるのは此処を脱出してからです。
それに
「むぅ〜」
口付けを交わすボク達の横で、藍沙が嫉妬でボクを睨んでますから。

×××

「愁司、貴方の刀です」
そう言いながら魅朱は拙者の刀を呼び出し、魅朱の妖力である程度回復した拙者に渡す。
正直、剛の者ばかりの屋敷に丸腰で出るのは勘弁したいからな、魅朱の気配りには感謝だ。
拙者は魅朱から受け取った刀を腰に差し、準備運動を兼ねて軽く身体を動かす。

「ん〜」
「どうしたんだ、藍沙? 何か気になる事でもあったのか?」
珍しく難しい顔をしている藍沙が気になった拙者は、気になる事でもあるのかと聞いた。
「どうして、此処の虫けら共は愁やんを攫ったのかなぁ、と思ったのですぅ」
「ソレは、ボクも気になります。勘当した愁司を態々攫うなんて、何かあるのでしょうか?」
確かに、そうだな……拙者は家出した際に親父殿から勘当された身、勘当した拙者を態々攫う必要は無く、牢屋に磔にする事も無い。
心当たりも無い以上、ソレを考えるのは後回しだ。
拙者は二人に外へ出ようと促し、拙者達は暗闇に包まれた牢屋を後にした。

「よくぞ、此処までやってくれたなぁ……忌々しい畜生風情が」
拙者達が牢屋に繋がっていた地下通路を出ると、見知った顔が出迎えてくれた。
嫌な出迎えが来たものだ……拙者達の前に立つのは拙者の親父殿、一応故郷であるクルスを束ねる領主・冲田丙壱郎(ヘイイチロウ)。
拙者達を―正確には、拙者の後ろにいる藍沙と魅朱だ―見て、親父殿は苦々しい顔で呟く。
「テメェが、愁やんを攫った張本人か? ソッチから来てくれるとはなぁ……」
猫被りを止めた藍沙は敵意に溢れた目で親父殿を睨み、自慢の金棒を呼び出して臨戦態勢を取る。
「…………」
本来先走りそうになった藍沙を止めるのが魅朱の役目だが、歯止め役である魅朱も金棒を呼び出しており、何時でも戦える体勢だ。
どうやら二人共、拙者への仕打ちで頭に血が昇っているみたいだな。
「親父殿、何故拙者を攫ったんだ? 勘当息子に、今更何の用があるんだ?」
拙者は猛る二人を手で制して、親父殿に聞きたかった事を聞く。

「ふん……貴様という存在が、邪魔になったからだ」
「アァ、ふざけんな! 愁やんが邪魔になったからだとぉ!」
「落ち着け、藍沙……邪魔だから攫うっていうのは、おかしくないか? 邪魔になったんなら、拙者を殺せば済むだけだろう?」
拙者が邪魔だからと言いきった親父殿に藍沙は激昂するが、更に聞きたい事が出来た拙者は親父殿に問う。
親父殿は鼻で笑い、冥土の土産と前置きしてから、何故拙者を攫ったのかを語り始めた。

「何故、貴様を攫ったのか……それは、貴様の存在がクルス発展の妨げになるからだ」
親父殿曰く、クルスは教団に協力する事で発展してきたが、跡取りである拙者が親魔物派である事は親父殿にとって都合が悪い。
プラニスという反魔物派領を裏切り者の手引きで制圧した親魔物派領・ラキール、魔王の娘・デルエラ率いる部隊に制圧されたレスカティエ、という前例もある。
拙者がジパングか大陸の親魔物派領と協力してクルスを制圧、クルスが親魔物派領になるのは避けたい。
然し、拙者を殺せば殺人罪で親父殿は投獄され、ジパング中枢であり親魔物派である帝都から派遣された新任の領主に、クルスを改革されるのも避けたい。
故に、拙者を地下牢に閉じ込めて衰弱死させる事で、安全に拙者を始末する計画だ、と。

「二週間もしぶとく生き残り、忌々しい畜生風情が貴様を助けにきたのは誤算であったわ」
そう締めくくった親父殿は強烈な殺気を放ち、親父殿の殺気を感じた二人は金棒を構えるが、拙者は構える二人を手で制する。
「何で止めるんだよ! コイツをボッコボコに潰してやらねぇと、ワタシの気が済まねぇ!」
「愁司、何故止めるのですか! この男は、息子である貴方を殺そうとしたんですよ!」
怒りで猛る二人には悪いが、正直二人に親父殿の相手は荷が重い以前の問題だ。
なにせ、「神童」と呼ばれてた拙者の師匠は、目の前の親父殿だからだ。
だから、拙者が戦う……前へと進む拙者を見た二人は拙者の意を汲んでくれたみたいで、取り敢えず怒気を収める。
流石、何度も交わっただけはある。

×××

「「………………」」
重苦しい沈黙が、ボク達の周囲を包む。
父と子の一騎討ち……ボク達は勿論、駆けつけた警備兵達も固唾を飲んで見守っている。
二人共、一撃で勝負を付けるつもりのようで、二人共刀は鞘に納めたまま。
抜刀術……高速で刀を抜き、斬り伏せる居合斬り。
風の吹く音だけが支配する空間は、以前呼んだ創作小説の一幕を思わせる。

―ジャリ…

固唾を飲んで見守る誰かが、砂利を鳴らした瞬間、一瞬で決まる勝負が始まった。
妖怪のボクですら驚く驚異的な踏み込みで、二人が肉薄し、交差する。

「「………………」」
二人は動かない。
何秒、何分、若しかしたら何時間……そう感じさせる程に沈黙が長い。
そして

「……こんの、馬鹿息子が」
「冲田流 天雷が崩し、迅雷剣 歎(ナゲキ)……コレで完全に決別だ、親父殿」

倒れたのは……丙壱郎だった。

×××

「あふ…んむぅ、ぢゅるる……」
「れる、ぢゅずず…れろ、んん……」
今、藍沙と魅朱は拙者の足の間に潜り込み、一心不乱に拙者のマラを舐めている。
二人共、二週間程お預けをくらっていた為責めが激しく、特に藍沙は先刻拙者との口付けが出来なかった鬱憤を晴らすように情熱的にマラを責めたてる。

親父殿との一騎討ちが終わった後、拙者達は残されていた拙者の部屋で酒を呷ってから、久し振りの交わりを満喫していた。
八年振りに入った自室は家出前とそれ程変わっておらず、小まめに掃除されていたのか、意外と綺麗だった。
親父殿曰く、
『貴様が心変わりして戻ってきた時、直ぐに使えるようにな』
との事で、なんだかんだ言いながら、拙者の事を考えていたみたいだな。

「んむ、んふ……じゅる、ぢゅず…れるる、んんぅ……」
藍沙は先程から敏感な亀頭や雁首を執拗に責めたて、元々真っ赤な顔を更に紅くしている。
拙者の視点では見えないが、淫らな水音が聞こえている以上、どうやら自分の秘所を己の指で慰めているみたいだ。
「んっ、んふ…ちゅる、んむ……ぢゅずる、ぢゅぢゅ…」
魅朱は藍沙に敏感な部分をとられているからか、竿や睾丸を酒を味わうかのように舐め、蒼い肌故に若干分かり難いが、酒気と快感で頬が随分と紅い。
以前の拙者では二人の痴態に堪えきれずに射精していただろうが、何度も交わっている為、この程度なら余裕で耐えられる。

「んふふふふ〜、愁やんのマラは正直なのですぅ。ワタシ達のオマ○コに入れたいって、ビクビクしてるのですぅ」
マラから口を離して藍沙はニヤニヤと笑い、恥じらいの強い魅朱は藍沙の台詞で紅い顔を更に紅くした。
藍沙の言う通り、拙者のマラは小刻みに震え、頻りに二人の秘所に入れさせろと訴えてる。
「それじゃ、ワタシが一番ですぅ❤ 魅朱は抜け駆けしたから、ワタシの後で犯るですぅ」
「うぅ……」
拙者の足の間から魅朱が退くと、藍沙は拙者のマラを握って上に跨る。

「んふふぅ❤ 天国の扉が開くのですぅ❤」
握ったマラを秘所に導くと藍沙は腰を下ろし、肉壁を掻き分ける感覚がマラから伝わってくる。
一気に最奥までマラを入れた藍沙は、お預けの鬱憤を晴らすかのように、いきなり激しく腰を上下させる。
「あははっ❤ ワタシの、オマ○コがぁ❤ グチュグチュで、ドロドロで、ビチャビチャですぅ❤」
快感で蕩けた顔を晒しながら激しく腰を上下させ、その動きに振り回されるように藍沙の豊かな胸が弾む。
藍沙は交わりはいつもこうだ……相手も自分も省みない、あまりにも激し過ぎる交わりで、経験の少ない人間だったら、ものの数秒で果てるだろうな。
事実、初めて藍沙と交わった時、拙者は九秒で射精してしまった。

「気持ち良い、ですぅ❤ 愁やんのマラがぁ、ワタシのオマ○コの奥にぃ、刺さってぇ❤ 脳味噌も、オマ○コも、蕩けちゃいそう、ですぅ❤」
快感で蕩けた顔を晒し、だらしなく口を開けて涎を垂らし、拙者の上で淫らな踊りを踊る藍沙の姿に、拙者の劣情は際限無く高まっていく。
横に視線をずらせば、拙者と藍沙の交わりをツマミに秘所を指で慰めつつ酒を呷る魅朱の姿があり、ソレも拙者の興奮を否応無しに高めていく。

「もう、ワタシ、駄目駄目なのですぅ❤ 愁やんのマラで、イかせて、ほしいのですぅ❤ 愁やんの子供が出来る程のぉ、子種汁ぅ、オマ○コに飲ませてほしいですぅ❤」
絶頂が近く、あられもない藍沙のおねだりに、拙者は腰を突き上げる事で答える。
藍沙の動きに加え、自ら腰を突き上げる事で、二乗では済まない快感が拙者のマラを襲い、藍沙の秘所も搾り取るように締めつけてくる。
「あ、ひ、ひあぁぁあぁ―――――――!」
くぅ……絶頂を迎えた藍沙の秘所がキツく締まり、拙者のマラは締めつけに堪えきれず、藍沙の奥に精液を放つ。
藍沙の秘所からは収まりきらずに、逆流した精液が溢れ、拙者の股間は精液と藍沙の蜜でドロドロだ。

「んぃ〜、こんろはボクのふぁんれふよ〜、しゅうじぃ」
絶頂を迎えた藍沙を拙者の上から退かして呂律の回らない魅朱が跨り、未だに滾っているマラを自らの秘所へ迎え入れる。
が、呂律の回らなさがおかしい……魅朱、お前は何を飲んだんだ?
「ひっく、これれふよ〜」
そう言いながら魅朱は先程まで飲んでいた一升瓶を見せ、拙者は冷や汗を流した。
魅朱が飲んでいたのは『人鬼殺(ジンキサツ)』……あまりの強さに、先天的な飲兵衛である鬼も御猪口一杯で酔っ払いになるという、貴重で危険な酒だ。
鬼にしては非常に酔い易いアオオニが、コレを飲んだらどうなるか。
ソレは、拙者が今から体験する事になる。

「ぬふふ〜、ほれれは、いひまふにぇ〜」
真面目で理知的な魅朱の面影は既に無く、拙者の上に跨るのは魅朱の姿をしたケダモノだ。
魅朱は藍沙に負けず劣らずの激しさで、腰を上下させる。
然も、マラの先端が見えそうな程に抜いてから一気に奥まで入れるという、大きな動きを鬼の身体能力が為し得る速さで行うから、拙者は堪ったものではない。
「にゃはは〜❤ しゅうじのオチ○ポがぁ、ボクのひひゅうを、ふふいへる〜❤」
オマケに、酔いで恥じらいを地平線の彼方に放り投げた魅朱の卑語が、拙者の耳を犯す。
「もっひょ、もっひょ、ふいへよ、しゅうじぃ❤ ボクのオマ○コがぁ、ひぇつにゃいから〜❤ ボクのオマ○コはぁ、しゅうじへんひょうのオマ○コひゃからぁ❤」
そう言われては男が廃る……拙者は直ぐに射精してしまいそうな快感を堪え、魅朱の動きに合わせて腰を突き上げる。

「んひぃ❤ ひょうらよ、しゅうじぃ❤ もっひょ、ボクのオマ○コをふいてぇ❤ こひゃへるふらい、はへひくふいてよぉ❤」
酔いと快感で、最早何を言っているか理解し難い程に呂律が回らない魅朱の秘所を、拙者は我武者羅に突き上げ、魅朱もお返しと言わんばかりに腰を振る。
あまりの激しさにベッドが抗議を上げるが、その抗議は却下させてもらう。

「にゅふふ〜、此処でワタシの出番ですぅ」
「ひぅん!?」
何時の間にか復活していた藍沙が魅朱の背後にいて、魅朱の乳首を藍沙は摘み、捏ねり、胸からくる快感に魅朱は腰を振るのを忘れて、動きを止める。
「うりうり、此処か、此処がえぇのんかぁ〜、ですぅ❤」
「ひゃ、ひゃめ!? あいしゃ、むにぇはらめ……んひぃっ!?」
胸からくる快感に悶える魅朱は、拙者が腰を動かしている事を忘れていたらしいな。
拙者に秘所の最奥を突かれ、藍沙に胸を揉まれ、魅朱の秘所は急速に締めつけを強くする。
駄目、だな……コレ程煽情的な光景を見て、射精を我慢出来る男はいない。

「イっちゃうがいいですぅ❤」
「んにゃあぁあぁぁあ――――――!」
藍沙が乳首を強く抓ると同時に、拙者は魅朱の最奥に精液を叩きつけ、魅朱は甲高い声を上げて絶頂を迎えた。
絶頂で小刻みに震える魅朱を藍沙は退かし、獲物を狙う獣さながらの視線で拙者のマラを見つめている。
「さぁ、今度はワタシの番なのですぅ。お預けくらってた分、たぁっぷり出すですぅ❤」
無尽蔵に等しい性欲に呆れながら、拙者は藍沙を押し倒す。
全く、藍沙の言う通り、天国の扉が開きそうだ。

×××

「愁やんは、コレからどうするですかぁ?」
「コレから?」
いつになく濃厚な交わりを終えた拙者達は裸のまま川の字で寝っ転がっていたが、唐突に藍沙が拙者に身体ごと顔を向けて、コレからの事を聞いてくる。
「そうですね……ボクも愁司がコレから何をしたいのか、気になります」
すると、魅朱も身体ごと顔を拙者に向けて藍沙と同じ事を尋ねてくる。
コレからの事か……拙者はどうしたいのかを考え、部屋は沈黙に包まれる。
が、拙者の答えは直ぐに決まった。

「拙者はこのまま、藍沙と魅朱と共に義賊を続けたい」
そうだ……答えを考える必要もなかった。
確かに、義賊として活動して、貧困や理不尽に喘ぐ民衆に感謝されるのは心地良い。
だが、義賊として活動しても、感謝される喜び、厳重な警備の中に忍び込む緊迫感、目標を達成した充実感を分かち合う者がいなくては、つまらない。
ソレ等を共に分かち合いたい、大切な者がいるからこそ、拙者は義賊を続けたい。

「なぁ……藍沙、魅朱」
「なんですかぁ?」
「どうしたのですか、愁司?」
あぁ……当たり前のように願っている事を、改めて口にするのは、どうしてコレ程までに勇気がいるのだろうな。
口にしなくても分かってもらえるという甘えか、期待の所為か。
だが、コレは言わなくてはならない事だ。

「……何時も、ありがとう。二人が傍にいてくれる事、二人が拙者の伴侶で良かった」
「「……………」」
キョトンとした顔をする藍沙と魅朱に、もう一言、伝える事がある。
ソレは過去ではなく、未来の事だ。

だから、コレからも、ずっと、拙者の傍にいてほしい

藍沙と魅朱は暫くキョトンとした顔をしていたが、改めて伝えられた言葉に答えるように、二人は拙者を抱き締めてくれた。

×××

さぁさぁ、どうでしたかな?
義賊の剣客と二人の鬼の三人が紡いだ物語は?
折角なんで、三人のその後を教えてあげようじゃないか。

屋敷で一晩過ごした愁司君達、身支度をさっさと済ませてクルスを去ったんだ。
ま、当然だよねぇ。
クルスは反魔物領だしさ、幾等愁司君が領主の息子さんでも、何時までも居座っちゃぁ、住人にリンチされちゃうかもしれないしね。
あ、そうそう……去り際に藍沙ちゃんがコッソリ、シッカリ金目の物を頂いてたのに気付いた丙壱郎さんは大層お怒りだったそうな!

義賊を再開した愁司君達は、ジパングの彼方此方を巡りながら山賊、違法商人等をバッサバッサと薙ぎ倒し、戦果を被害にあった人達に分け与えたのさ。
ヤられる側は、愁司君達に何時自分が狙われるかにビビッて、勝手に悪行減らしてくれたもんだから、今じゃ義賊は開店休業状態。
因みに、ジパングの犯罪件数も減ったんだが、ソレは愁司君達の知らない事さ。

義賊が開店休業状態になっちまった愁司君は、酒好きの藍沙ちゃんと魅朱ちゃんの為に、酒蔵を始めてね。
試行錯誤を繰り返し、経営難に頭を悩ませ、藍沙ちゃんのツマミ食いならぬツマミ飲みに呆れたりしながら、杜氏の勉強しながら頑張ってるぜ。
勿論、義賊は続けてるぜ……風の噂で悪党を聞きつければ、疾風の如くババァンと参上っ! お宝頂戴!
捕まって、釜茹でにされない事を祈ってるぜぇ。

ま、こんな所かな?
それじゃ、次のお話を用意しておくから、それまで諸君は楽しみにしてくれたまへ。
それでは、オサラバッ!
12/09/11 16:22更新 / 斬魔大聖
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■作者メッセージ
東方魔恋譚 第伍章はアカオニ&アオオニでお送りしました。
第陸章は、リクエストのあった白蛇でお送りします。

お詫び
白蛇の話を執筆してほしい、とリクエストしてくれた方。
リクエストに気付くのが遅れ、申し訳ありませんでした。
リクエストに気付いたのが第肆章投稿後、第伍章の予定をお知らせした後でした。
今度から、小まめに感想をチェックする事にします。

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