連載小説
[TOP][目次]
第陸章 剣奴隷は飛龍の如く自由へ羽撃く
駕籠の鳥
狭い世界で、何も知らずに囀る鳥
閉じた世界で、何も知らずに生きる鳥

駕籠の鳥
外を知ったら、お前はどうする?
外を知ったら、お前は何をしたい?

駕籠の鳥
何時かその時、お前は羽撃(ハバタ)く
羽撃くその時まで、駕籠の中で囀れ

―剣奴隷は飛龍の如く自由へ羽撃く―

―オォォオォオォ――――――ッ!
「凄い……」
己(オレ)は圧倒されていた、この雄叫びに、この血生臭さに。
「どうだ、雪緒(ユキオ)? 此処の雰囲気は?」
隣でとぐろを巻く、己の仕える主……龍の翠鱗(スイリン)様は、此処の雰囲気はどうだと問う。
正直に言えば、此処は己の居るべき場所ではないと思う程、異常な熱気に包まれていた。

己の名は雪緒、代々翠鱗様に仕える白蛇だ。
白蛇とは何だ、だと? 結論から言えば、半人半蛇の妖怪だ。
名に『白』を冠しているだけあって、己の肌や髪、蛇体を覆う鱗も穢れ無き純白。
白蛇は妖怪の中でも強い力を持ち、妖怪の中でも一際強大な力を持つ龍に巫女として仕え、同時に龍と共に人間達の信仰対象になる事もあるのだ。

今、己と翠鱗様が居るのは、ジパングから若干離れた沖に浮かぶ小島。
その小島には闘技場なる施設があり、己と翠鱗様は其処に居る。
翠鱗様が言うには、ジパングの富裕層が在り余る金に物を言わせ、大陸にある同じ施設を真似して造り上げたらしい。
此処に入れるのは富裕層か翠鱗様のような力を持つモノ、闘士として育てる為に買われた孤児に、闘士として雇われた剛の者だけだそうだ。

「正直、己は好きになれません。此処は、血生臭過ぎる」
「ふふっ……物言いは男勝りな癖に、根はやはり白蛇よのぉ」
クックッと笑う翠鱗様に、己は反論出来ない……己を含めた白蛇は生来穏和な性質であり、このような血生臭い場所はどうにも好かないのだ。
何故、血生臭いのを好まぬ己が此処にいるのか? ソレは本来の姿へと変化した翠鱗様の背中に乗せられ、社会勉強の一環という名目で半ば強制的に連行されたのだ。
本来、仕える主の背中に乗るのは無礼を通り越して討首獄門にされても文句は言えないが、翠鱗様はこういう所には極めて大雑把だ。

「何時来ても、熱気に溢れておるのぉ……お? どうやら、試合が終わったようじゃな」
己と翠鱗様は貴賓席で試合を観戦しており、試合場とソレを囲む観客席が一望出来る。
翠鱗様が終わったと言うので己は試合場を見ると、巨漢が勝利の雄叫びを上げていた。
然し、三つ編みにしたモミアゲ以外はツルッパゲ、桃色の褌一丁、気色悪い程の筋肉達磨、という暑苦しい要素を兼ね備えた容姿は少々……いや、かなり濃い。
あんなのと出会ったら、己は全力で逃げるな。

『次は今日一番の目玉! 当闘技場最強の王者と、挑戦者の特別試合だぁ―――っ!』
司会と思しき男の声が響くと同時に、男の声がかき消える程の雄叫びが観客席から上がる。
耳をやられかねない大音声に思わず耳を塞ぎながらも、己は試合場を見る。
試合場に居るのは、先刻の筋肉達磨には劣るものの相当の筋肉が付いた巨漢と、この場に不相応な小柄な子供。
「ほほぅ……この闘技場の王者に挑むとは、中々のウツケよのぉ」
翠鱗様が意地悪そうに笑うが、ソレは己も同感だ。
アレだけの体格差があれば、どう見ても子供の方が圧倒的に不利だ。
『それでは、試合開始だぁぁ――――――っ!』
司会の叫びと共に開始を告げる銅鑼の音が鳴り響き、試合という名の私刑が始まった。

「どうした、雪緒? 開いた口が塞がらぬようだなぁ?」
意地悪そうな笑みを浮かべる翠鱗様だが、己はただ口を開けて呆然としていた。
確かに試合という名の私刑が行われたのだが、己の予想を裏切ったのは、私刑される側が子供ではなく巨漢の方だったからだ。
子供の動きは餓狼が獲物に喰らいつくかの如く、巨漢を殴り飛ばし、一撃で倒れた巨漢に馬乗りし、胸板や顔面に小さな拳を一方的に叩き込む。
圧倒的過ぎる、まさに私刑と呼ぶに相応しい試合は子供の圧勝という形で終結した。

「むぅ……」
己が今居るのは、件の子供の控室の前……あの子供がこの闘技場の王者だと知った己は、翠鱗様に無理を承知で彼に会ってみたいと頼んだ。
すると、翠鱗様は構わないと一言残してから去ると、大体二、三時間程経った頃に運営者の許可をもらって戻ってきたのだ。
翠鱗様の身体から新鮮な精の匂いがしたのは、敢えて問うまい。
兎に角、折角翠鱗様が許可をもらってきてくれたのだ、尻込みして無碍にするのも嫌だが、己は人間の男には触れるどころか、喋りかけた事すら無い。

「むぅ……えぇい、ままよ!」
己は意を決して控室の扉を叩き、中にいるであろう子供の返事を待つ。
『鍵は空いてるから、入ってきてもいいよ〜』
呑気な声で返事が返ってきたので、己は扉を開ける。
「話はオッサンから聞いてるよ〜、オイラに会いたい人ってアンタかい?」
扉の向こう、控室の主は外観相応の朗らかな笑みを浮かべていた。

×××

「へぇ……アンタ、翠鱗の姐さんとこの巫女さんか! オッサンが許可した訳だ!」
ケラケラと外観相応の無邪気な笑顔を浮かべるが、己は未だに信じられない。
このような年端もいかない子供が、本当に此処の王者なのか?
王者たる子供の身長は大体四尺(一二〇センチ)程、何処をどうすれば、挑戦者だった二倍近い体格の巨漢に勝てるのだ?

「あ、そう言えば自己紹介がまだだったね! オイラは大楯連八(オオタテ・レンパチ)、白蛇のお姉さんは?」
「あ、あぁ……己の名は雪緒だ。連八と言ったか、お前は本当に此処の王者なのか?」
未だに信じられない己は思い切って聞いてみると、連八と名乗った子供は口元に手を当て、クスクスと笑っている。
「あぁ……雪緒は、此処に来るの初めてなんだ? 信じられないでしょ? オイラみたいなガキが、闘技場の王者なんて」
まぁ、初対面の年長者をいきなり呼び捨てで呼ぶ無礼は、この際無視しよう。
己は連八の言葉に頷き、連八は胡坐をかいて座っていた椅子から降りると、近くにあった鍛練用と思しき円盤状の重りが付いた棒へと近付く。
円盤状の重りには五貫(一五キロ)と刻まれた物が端に一つずつ、棒の重さを抜いても一〇貫(三〇キロ)はある。
どう考えても、無理だろうと己は思っていたが、連八に常識は通用しないらしいな。

「うりゃっ!」
子供らしい掛声と共に一〇貫の重り付き棒を、連八は片手で容易く持ち上げる。
「えへへぇ、驚いた?」
「驚愕を通り越して、呆れている」
己でも両手を使わなければ持ち上げられそうにない重り付き棒を、軽々と持ち上げるとは、連八の腕力はどれ程のモノなのか。
寧ろ、ソレだけの腕力を生み出す筋肉を、小柄な身体の何処に収めているのか気になるが、初対面である以上、あまり踏み込まないようにしよう。

「ねぇねぇ、雪緒。雪緒は外のヒトなんでしょ?」
「当然だ。己は、このような血生臭い場所は好まん」
「だったらさ、外のお話してよ! オイラ、此処以外の事、あまり知らないんだ」
己は連八にせがまれるまま、己の知る事を話す。
連八は異常な腕力を持っていても思考は外観相応で、己の話に大袈裟な反応ばかりだ。
そんな連八に緊張が解れたのか、何時の間にか己は翠鱗様の相手をしている時のように、気楽に連八と語り合っていた。

因みに、だ……翠鱗様は上下関係等には極めて大雑把であり、己を含めた巫女達にも友人、と言うよりは妹を相手にするような感覚で話す。
仕える主に畏まるのは当然だが、翠鱗様は「もっと気楽に構えい」と言われる為、新入り以外は翠鱗様を「頼れるお姉さん」といった感じで気楽に話すのだ。

「あれ? もう、こんな時間なんだ?」
連八が壁掛け時計に目をやり、己も視線を移すと、時計の針は既に九時を指していた。
己が連八の控室に訪れたのが大体五時頃、かれこれ四時間近く連八と話していた事になる。
「流石に、これ以上は無理だな。翠鱗様をお待たせする訳にもいかん」
「う〜ん、残念だなぁ……あ、そうだ!」
これ以上翠鱗様を待たせる訳にもいかない己は、連八の控室から去ろうとすると、連八は急に机の引き出しを開け、中を漁り始める。
「えっと、コレじゃない……コレは、違う…あ、あったあった!」
見当もつかずに呆けていた己に、連八は掌程の大きさの薄い金属板を己に差し出す。

「何だ、コレは?」
「通行手形! コレがあれば、翠鱗の姐さんに態々許可を貰わなくても、此処に入れるよ!」
無邪気な笑みと共に通行手形を差し出すが、そのような物を受け取っていいのだろうか?
「雪緒は特別! だから、コレをあげる!」
「そ、そうか……なら、有難く頂こう」
この無邪気な笑みを見て、断れる者はおるまい……そういう己も、戸惑いながら連八から通行手形を受け取る。
待て、コレは生まれて初めて男性から贈られた物になる。
むぅ……そう考えると、色気も何も無い贈り物だが、何だか恥ずかしいな。
「だから、また此処でお話しようよ!」
「あぁ、分かった。暇が出来た時にでも、来るとしよう」
受け取った通行手形を懐に収め、己は連八の控室を後にした。

その後。
「随分と遅かったのぉ? まさか、シッポリと交わっておったか?」
床に精根枯れ果てた何人かの若者が倒れている貴賓席の中央、女である己も惹かれる程に妖艶な笑みを浮かべる全身精液塗れの翠鱗様に冷やかされた。

×××

「此方が、今月分の帳簿です」
「うむ……然し、相変わらず堅苦しいのぉ。周りの巫女達のように、気楽に話さんか」
「私事ならば兎も角、此処は翠鱗様の御殿。仕事中に気楽に話せというのは無理です」
翠鱗様に闘技場へ強制連行されてから、早くも半年。
今日の仕事―翠鱗様の身辺の世話、御殿の清掃、帳簿・備品の管理が巫女の主な仕事だ―を終わらせた己は、逸る気持ちを抑えて翠鱗様に帳簿を渡す。
翠鱗様は渡された帳簿を捲り、眺め、溜息を吐く。

「今月も変わり無し、先月と似た数字ばかりよのぉ……少しは変化が欲しいところぞ」
「微細な変化なら兎も角、急激な変化は管理する側としては困ります」
翠鱗様の言う変化は御殿の維持費や備品購入等の支出の推移であり、緩やかに黒字ならば兎も角、急激に赤字にでもなったら、目も当てられない。
だが、こうして問答している時間は、今の己にはもどかしい。
ソレを知ってか、知らずか、翠鱗様は意地悪そうに己に話し掛ける。
「最近、週末になると必ず外泊しておるなぁ? 気になる男でも、見つけたのかえ?」
「……失礼します」
図星を突かれた己は、紅くなった頬を悟られぬように身を翻し、翠鱗様の部屋を後にした。

「あっ、雪緒! 来てくれたんだ!」
翠鱗様の御殿を後にした己は、以前連行された闘技場に来ている。
目的は、連八との語らいだ。
この半年……己は週末になる度に闘技場を訪れては、泊まりがけで連八と過ごすのが習慣になっている。
土曜日の朝、長距離転移の妖術陣―ジパングは中枢たる帝都の意向で、各地に長距離移動を助ける転移妖術陣が設置されているのだ―を乗り継ぎ、六時間掛けて闘技場へ。
到着後は連八の控室へと向かい、時間が許される限り二人っきりで過ごし、日曜の夜には翠鱗様の御殿に到着するように闘技場を去る。

「……と、いう事があってな」
「あははっ! 翠鱗の姐さんも、災難だったね!」
己は控室にある寝具に腰掛けて、月曜から金曜までに起きた些事を話したり、持ってきた創作小説を連八と共に読んだり、語らいながらの食事を楽しんでいる。
因みに、だ……交流の最中で知ったのだが、連八の一回の食事量は非常に多く、今でこそ慣れたが、始めの頃は胸焼けを起こしそうだった。
更に、連八は一歳だけとはいえ己より年上―己は今年で十八歳になる―である事に、己は衝撃を隠せなかった。

連八は己の膝の上―尤も、下半身が蛇体の己に『膝』は無いのだが―がお気に入りらしく、大抵は其処に座っている。
外をあまり知らない連八は己の他愛無い話でも感心し、歓喜し、驚愕し、話している己は飽きる事無く、安らかな時を過ごす。
僅か半年を共に過ごしただけで、連八との時間は己にとって掛け替えの無いモノになった。

「あのさ、雪緒……」
「ん? 何だ、連八?」
常に明るい連八が不意に愁いを帯びた声で己を呼び、その声に己は今から連八が話す事は彼自身に関わる重大な話だと悟る。
「コレから話す事は、さ……オイラの昔の事でさ、雪緒には知っててほしいなって」
「……分かった。お前の過去が何であろうと、己は受け入れよう」
ありがとう、と言ってから、連八は自身の過去を淡々と語り始める。

×××

はいよ、我輩語り部の昔噺の時間だ。
今回も、真面目に連八君の過去に纏わるお話をしようじゃないか。

連八君、実はジパング人じゃなくて、海の向こうの大陸で生まれた大陸人だ。
連八君は雪緒ちゃんと同じで、髪と肌は真っ白、瞳は真っ赤な所謂アルビノって奴でさ、生まれ故郷である村じゃ、アルビノは忌み子として嫌われてたのさ。
んで、生まれた時から嫌われ者の連八君は、村が飢饉でピンチな時に、人身売買で真っ先に奴隷商人に売られちまったんだよ。

奴隷商人に売られた連八君を買い取ったのは、見るからに怪し過ぎる学者で、その学者は連八君を研究の材料にしたんだよ。
学者の目標は対魔物用生体兵器……即ち、魔物に対抗する為の生体兵器を生み出す事で、連八君はその実験台にされたんだ。

毎日、毎日、人体実験されて、その結果が連八君の馬鹿力だ。
連八君の身体は常に筋力強化の魔法付与(エンチャント)が掛かってる状態で、更にベストコンディションを維持する為に常に高い体温を保つように改造されたのさ。
勿論、改造の副作用はあるさ。
馬鹿力と高体温の維持に必要なエネルギーの消費を抑える為に身体の成長を止められるし、オマケに定期的に大量の食事を取らないと身体が維持出来なくて死んじまうんだ。
その食事量も半端無くて、一日の食事量は平均六〇キロ、幾等副作用でも一二〇センチ程の身体の何処に収まるんだよ、ソレ?

連八君をそんな身体にした肝心の学者なんだが連八君を失敗作扱い、連八君の改造費用を補填する為に、連八君を奴隷商人に売り飛ばしたのさ。
再び売り飛ばされた連八君、其処から大変だ……誰かに買われても膨大な食事量とソレに伴う食費で売られて、また誰かに買われても食費の問題で売られての繰り返し。
転売続きの連八君が辿り着いたのが、件の闘技場って訳だ。

この闘技場、完全な実力主義だから、この馬鹿力で戦って勝ち続ける限りファイトマネーを粗方食費に回せば食事は問題無し。
闘技場の客は金持ち連中だから、試合一回辺りのファイトマネーも食費に見合う額だしね。
生きる為に、連八君は日夜闘技場で戦ってるのさ。

因みに、連八君の名前だけど、人体実験されてた時、『試験体二八八号』と呼ばれててさ。
この世界だと二月を大楯月と呼ぶから名字は『大楯』、八が連続だから名前は『連八』、と語呂合わせで付けたんだと。
何で、改めて名前を考えたのかって? 人体実験の材料にされてた時に記憶をイジられて、自分の名前を忘れちまったんだってさ。

ま、連八君の過去はこんな感じだ。
連八君の過去を聞いた雪緒ちゃん、これからどうするのかな?
諸君も楽しみにしたまえ。

×××

「……そう、だったのか」
連八の話を最後まで聞いた己は、その一言しか言えなかった。
だが、同時に納得した……異常な腕力、圧倒的戦闘力、見るだけで胸焼けを起こしそうな食事量、全てが連八の体質が齎すモノだったのだ。
「ゴメンね、雪緒……こんな辛気臭い話、しちゃってさ」
膝の上に座っていた連八は身体ごと顔を己に向けて、乾いた笑みを浮かべる。
その笑みは見ているだけで辛く、己は硝子細工を扱うかの如く、優しく連八を抱きしめる。

「雪緒?」
「済まない……暫く、こうしていたい」
連八の耳元で己は囁き、連八は恐る恐る己の背に腕を回して抱き付いてくる。
連八の身体はまるで火鉢のように熱く、体温の低い己には逆に心地良い。
だが、この心地良い熱さは無理矢理植え付けられた力であり、心地良さと共に沸々と連八の身体を改造した狂学者への憤怒が湧く。
己と連八は試合が迫っている事を告げに警備員が来るまで抱きしめ合い、控室に残された己は、連八の為に何が出来るのかを考えていた。

×××

「翠鱗様……夜分遅くに失礼ですが、折り入って相談があります」
「ほぅ……帰ってきて早々、相談とは何ぞ? 話してみせい」
闘技場から翠鱗様の御殿に帰ってきた己は、夜分遅くである無礼を承知で翠鱗様の部屋に向かい、連八が話してくれた自身の過去を話す。
翠鱗様は己の話を静かに最後まで聞き、話し終えると同時に溜息を吐く。
「成程……我も彼奴が何故王者に君臨しているかが疑問であったが、そういう事か」
「はい……翠鱗様に相談したい事は」
「言わずともよい、連八の身体の事であろう?」
長い年月を生きているのは伊達では無いようで、翠鱗様は己の声を遮るように言う。
翠鱗様の顔は険しく、推測に過ぎないが翠鱗様も連八の身体を改造した狂学者への憤怒が湧き上がっているのだろう。

「結論から言えば、元通りにする事は不可能ぞ」
薄々理解していたとはいえど、正面からハッキリと断言されると流石に辛い。
それでも己は、辛さを堪えて翠鱗様の言葉を待つ。
「じゃが、元通りにするのは無理でも、改善する手立てはある」
「っ!? 方法があるのですか!?」
方法があると言った翠鱗様に己は歓喜をするが、何故だ? 翠鱗様の顔が、妙に邪悪さを感じさせるのだが。

「……雪緒よ」
「はいっ!」
「連八と交われ♪」
翠鱗様の言葉に、己は思いっきり額を床にぶつけてしまう。
こ、このお方は……何故、このような雰囲気を容易く粉砕するのだ!
「まぁ、聞け……何の考えも無しに、交われと言った訳ではないぞ」
その言葉に疑念を抱きながら、己は翠鱗様の話に耳を傾ける。

「先も言ったが、元通りにするのは不可能ぞ。じゃがな……」
翠鱗様曰く、連八の身体を元通りにするのは、どう頑張っても無理がある。
だが、妖怪と交わる事で、大陸では「インキュバス」と呼ばれる半人半妖の存在になれば、少なくとも飢餓による生命の危機は免れるそうだ。
インキュバスは番となる妖怪の妖力さえあれば、最悪断食しても生きる事が可能らしい。
つまり、食事で補充する生命力を、交わる事で得る番の妖力で代替する。
その為には己と連八が交わり合い、連八をインキュバスにする事が必要があるそうだ。

「雪緒よ……この方法は、連八に新たな枷を強いる事になるぞ」
翠鱗様の言葉に、己は沈黙する。
確かに、連八をインキュバス化させれば、飢餓による生命の危機は免れるが、裏を返せば「己がいなければ、連八は生きる事が出来なくなる」という事だ。
己という存在が、生命の危機という枷から放たれた連八の新たな枷になる。
それでも、それでも己は連八に生きてほしい。
だから、己は……連八を己の伴侶にすると、決意した。

×××

「急にそんな事を言われても、困ります! 連八は、ウチの目玉闘士なんですよ!」
「金なら在る! だから、連八を身請けするんだ!」
次の週末、己は連八がスッポリ収まる程の革袋に小判を詰めこみ、闘技場に訪れていた。
今回の目的は連八の身請け……闘技場の闘士である連八を身請けして、戦いを強いられる宿命から連八を解き放つ為、己は翠鱗様から借りた身請け金を手に、此処まで来たのだ。
顔馴染みになった運営者は突然の身請けに困惑しているが、己は運営者を押しきるように捲くし立てる。

「別にいいではないですか、たかが闘士一人」
埒があかない事に苛立つ己は、運営者の背後に立つ男に漸く気付いた。
運営者は背後からの声で気付き、驚愕の表情を見せるが、この男は何者なんだ?
「え、エラトマ様!? 何を言ってるんですか!」
何? この闘技場で最高権力を持つであろう運営者が、様付けで呼ぶだと?
「どうも初めまして……私、エラトマ・ヴィツィオーネ、此処の真の運営者です」
このエラトマとかいう男、この闘技場の真の運営者を名乗ったが、この男の顔は何処かで見覚えがある。
「普段は運営顧問として、ある時は闘技場の医師として駐在してます」
あぁ、思い出した……時折、定期健診とかで連八の控室に来ていた男だ。

「話は途中からですが、聞かせてもらいました。何でも大楯連八を身請けしたい、と」
「あぁ……身請け金なら用意した」
肩に背負った身請け金を詰めた革袋を下ろそうとした己を、エラトマは手で制する。
「いえいえ、身請け金は不要です。ただ、条件があります」
条件、だと? いいだろう、如何なる条件であろうと達成してやろう。
己の意思を籠められた目を見たエラトマは、嫌悪感に溢れる下衆な笑みを浮かべた。

×××

「はあぁぁっ!」
己は斧槍を目前の異形に振り下ろすが、異形は己の一撃に効いていない。
全く、コイツは面倒だな……

エラトマが出した条件、ソレは己が闘技場の闘士と戦い、勝利する事。
翠鱗様の護衛も担当する己は容易いと一笑するが、その自信は見事に砕かれた。
己が戦うのは、闘士という名の異形……外観は人間だが、幾等己の得物である斧槍で斬り、薙ぎ、叩いても、全く効果が無い。
いや、効果が無い訳ではない……事実、異形の身体には傷が無数に刻まれているのだが、痛みを感じてないらしい。

意思の欠片も無い虚ろな瞳が己を見つめ、欠伸が出そうな程に遅い拳が振り下ろされる。
己はその拳を避けるが、拳が叩きつけられた場所が見事にへこんだ。
全く、分の悪い戦いだ……己の攻撃は効果無し、向こうは一撃を当てれば良いのだから。

「ふふふ……『試験体四四四号』は実に使える。『試験体二八八号』よりも優れている!」
な、に?
観客席で高見の見物をしていたエラトマの言葉を、己の耳が捉える。
この男、目前の異形を『試験体』と呼び、それどころか『試験体二八八号』とも言った。
まさか、コイツは!
「えぇ、察しがついたようですねぇ! そうですとも! 連八……『試験体二八八号』を改造したのは私なのですよ!」
そうか、貴様が……貴様が連八を!

「『試験体二八八号』は失敗作でしたよ。異常筋肉だけが取り柄、ソレ以外は普通の人間と変わらない上に欠点は深刻。実に、実に下らない!」
己の集中力を削ぐように、エラトマは独白する。

限りある資金を浪費する失敗作!
ソレを奴隷商人に売り払い、その資金で改造した試験体を試す為、態々田舎のジパングに渡り、金持ちを煽って闘技場を作りました。
売上を研究に費やし、闘士候補の孤児を試験体に改造していたら、まさか生涯最悪で最高の失敗作が此処に売られてきた時は驚きでしたよ!

黙れ……

ですので、失敗作には失敗作らしく、此処で死ぬまで戦ってもらう事にしましたよ!
えぇ、史上最高の大天才である私の汚点である『試験体二八八号』!
汚点を作った罪はその身で償ってもらいますよ、一生ねぇ!
あはははははははははははははははっ!

黙れ、黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇぇっ!
己は滾る憤怒を籠めた斧槍を異形に振り下ろし、迫る異形を袈裟懸けで叩き斬る。
漸く入った致命傷、如何に痛みを感じなかろうと、この一撃は耐えられまい。
外観だけは人間の為、本能が吐き気を催す程の嫌悪感を訴えるが己はソレを封殺する。
「どうだ、外道! この勝負……」
「貴方の勝ち、ではありませんよ?」

「がぁぁぁっ!?」
勝利を確信した己はエラトマの言葉に疑問を抱くが、疑問を抱いた一瞬の隙を突かれて、異形の重い拳を腹に受けてしまう。
な、何だと!? 己は確かに致命傷を与えた筈だ!
その疑問を、目前の悍ましい光景が答えた。

「な、何、だと……!?」
生きていた、異形は生きていた。
袈裟懸けに叩き斬られ、右肩から左脇腹にかけて切り離された状態でありながら、異形は生きている!
切断面からは紅い触手が蠢き、伸びて地に落ちている部分を拾い、生々しい音と共に強引に身体を接合させた。
「驚きました? 驚きましたよねぇ! その『試験体四四四号』は頭を完全に破壊しない限り、痛みを感じる事も、死ぬ事もありません! 私の自慢の逸品ですよ!」
耳障りな高笑いを上げるエラトマに、己の身体に激痛と虫唾が走る。
この外道、命を何だと思っているのだ!

「さぁ、どうします? どうしますぅ!? 貴方達魔物は、人間を殺す事を嫌う! 同族でも、殺すのは躊躇う! 流石は『試験体四四四号』、手間暇掛けて改造した甲斐がある!」
耳障りな声を上げるエラトマに、己は憤怒を隠せない。
命を道具、材料としか見ていない外道に負けるのは何としても避けたいが、先刻の一撃で身体が痺れて思うように動けず、振り下ろされる拳を避けるので精一杯だ。

「凄いよ、『試験体四四四号』! 流石は、私の最高傑作ぅぅぅっ!」
逃げ回るしかない己を見て、エラトマは感極まった声を上げるが、今の己には単なる雑音にしか聞こえない。
頭を潰さない限り異形は死ぬ事は無く、袈裟懸けに叩き斬っただけで、吐き気を催す程の嫌悪感を訴える己には相手が悪過ぎる。
異形の拳を避けながらも、己はエラトマに疑問をぶつける。
「エラトマ……何故、貴様は妖怪を憎む! 何故、命を弄んでまで妖怪を滅ぼそうとする!」
連八から聞いた話と、エラトマの言葉から判断すれば、コイツが反魔物派と呼ばれる思想の一派である事は明白。
何が、エラトマに命を弄んでまで妖怪を滅ぼそうとさせるのだ!

「何故、何故にですか……ソレは私のパパンを、貴方達が奪ったからですよ!」
ぶつけられた己の疑問に、エラトマは歌劇の役者のように再び独白を始める。

あぁ、私の敬愛するパパン!
強く、逞しく、格好良く、全てが素晴らしい私のパパン!
パパンは、私の自慢! 私の全て!
私は、パパンの息子として生まれたのが誇りだった!

だけど、パパンを貴方達魔物が奪った!
病でママンを失って悲しむパパンを、貴方達魔物が奪った!
貴方達魔物が私の敬愛するパパンに近付き、籠絡し、奪ったんだ!

だから、私は貴方達魔物を許さない!
神が許しても、私が許さない!
だから、私は始めた、貴方達魔物を滅ぼす為の研究を!
貴方達魔物を、一匹残らず駆除する為の研究を!

敬愛するパパンを失ってから、貴方達魔物を滅ぼす事が私の全て!
そして、何れ私は魔王も滅ぼしてみせる!
そして、貴方達魔物からパパンを取り戻すのです!

「エラトマ、貴様……たかが八つ当たりで、妖怪を滅ぼそうとするのか!」
「たかが八つ当たり!? 私にとって、パパンが全て! パパンを奪われた、私の怒り、私の悲しみ、私の憎しみを貴方達魔物にぶつける事の何が悪い!」
その独白を聞いた己は異形の拳を避けつつ、その身勝手さに憤激し、エラトマも己の言葉に怒りを露わにする。
狂っている、どうしようもない程にエラトマは狂っている。
父への敬愛が度を超して、歪んでいる。
そのような身勝手で連八を、目前の異形を、見知らぬ誰かを弄んだ貴様を己は許さん!

「そういう理由で、オイラを改造したのかよ……この糞野郎がぁ!」
「え……んごぁっ!?」
背後から聞こえた声にエラトマは振り返り、声の主の飛び蹴りが顔面に直撃する。
飛び蹴りが直撃したエラトマは観客席から吹き飛び、試合場へと落ちてくる。
その声を、己は忘れない……エラトマの顔面に飛び蹴りをくらわせ、観客席に立つのは、怒り猛る連八だった。

「貴様、『試験体二八八号』! 何故、此処にいる!」
滝の如く鼻血を垂れ流すエラトマは連八がいる事に驚き、猛る連八は鼻で笑う。
「何時もなら、もう着いてる時間なのに、雪緒が来ないなって思って探してみたらさ……アンタの苛々する高笑いが聞こえたんだ」
そう言いながら連八は観客席から飛び降り、へたり込むエラトマに近付いていく。
そして、連八はエラトマの胸倉を掴み
「アンタの身勝手……アンタが償え、ド畜生!」
「う、うわぁぁぁぁぁっ!?」
小石を投げるように、戦っている己と異形の方へと投げ飛ばす。

投げ飛ばされたエラトマが、此方に飛んでくる。
異形の遅過ぎる拳が、己に迫る。
己は蛇体で飛んできたエラトマを絡め取り、絡め取ったエラトマを異形の拳の盾にする。
「貴様の身勝手、貴様の命で償え……さらばだ、エラトマ・ヴィツィオーネ」
「ひ、い――――」
己なら耐えられる拳は、只人であるエラトマには荷が重過ぎる。
異形の拳はエラトマの顔面に突き刺さり、腐った果実のようにエラトマの頭は砕け散った。
後は、エラトマに弄ばれた目前の異形だけだ。

「雪緒!」
頭が砕け散ったエラトマだったモノを投げ捨て、服の袖で飛び散った脳漿を拭う己の元に、連八が駆け足で近付いてくる。
近付いてくる連八に、己は叫ぶ。
「連八! 頭だ、頭を狙え! ソレしか、この異形を弔う方法は無い!」
「合点承知!」
己の叫びを聞いた連八は跳躍し、連八の左腕が風船の如く膨らむ。
己の蛇体程の太さにまで膨れた腕を、ゆっくりと残る拳を振り上げる異形の頭へと向ける。
異形の拳が己に振り下ろされる瞬間、連八の腕が異形の頭を捉える。
「さよなら、兄弟……」
悲しそうに呟く連八の拳は異形の頭に直撃し、異形の頭はエラトマと同じ末路を辿る。
連八の拳が当たる瞬間、異形の顔が安らかに見えたのは己の気の所為だったのだろうか。

「雪緒、怪我は無い!?」
「あぁ……妖怪は身体が丈夫だ。殴られた場所がまだ痺れているが、骨に異常は無い」
頭が砕け散り、地に伏した異形。
ソレを見届けた己に、連八が泣きそうな顔で己に抱きついてくる。
心配してくれるのは大変嬉しいのだが、飛び散った脳漿や返り血が服にこびり付いた己に抱きつくのは勘弁してほしい。
己も女だ……血の臭いを漂わせている状態でいるのは、恥ずかしい。
「なぁ、連八」
「ふぇ? どうしたの?」
「済まないが、風呂に入らせてくれ」

×××

「ん、ちゅっ…れる、んぅ……じゅるる…」
連八と共に風呂に入った己は、連八に今回闘技場に来た目的を告げると、連八は己の提案……インキュバス化による体質改善を、快く受け入れた。
勿論、インキュバス化すれば己から二度と離れられない事も含めて、だ。
『オイラは好きだよ、雪緒の事。友達じゃなくて、女の人として、さ』
はにかみながら告白する連八に、妖怪の本能を刺激された己は連八の唇を奪った。

「んふ…れろ、ふぢゅちゅ……んれる、んむ…」
生まれた姿のまま、己は唇と舌の触れ合いを楽しむ。
仰向けに横たわる己の蛇体に連八は跨り、視線を下にずらせば連八の勃起した逸物。
連八の逸物は勃起しても皮が若干被っており、僅かに見える亀頭は淡い桃色をしている。
己は蛇体の先端を連八の胴体に優しく巻き付け、逸物が己の目前にくる程度の高さにまで連八を持ち上げる。

「ふぁ…? あ、駄目だって、ばぁ……」
連八の弱々しい抗議を無視して己は連八の逸物を口に含み、亀頭を包む皮と亀頭の間に舌を割り込ませる。
白蛇特有の長い舌を、硝子細工を扱うように皮と亀頭の間で蠢かせ、時折舌を抜いては竿に巻き付けて連八の逸物を扱く。
口に逸物を含めながら見上げると、快感に悶え、切なげな顔をした連八と目が合う。
あぁ、己の舌で気持ち良くなっている……ソレが嬉しく、己は巻き付かせている舌の動きを少しだけ強くする。

「ひ、あぁ……だ、め…雪緒ぉ……」
快感に悶える連八と、その逸物が己には愛おしい。
高級な酒を味わう―己は酒を飲んだ事は無いのだが―ように、御神体を丁寧に磨くように、己は連八の逸物を責める。
そして
「駄目、ゆき、お…出ちゃう、よぉ……」
連八の限界宣言を聞いた己は、巻き付かせていた舌の動きを更に強くすると、連八の逸物は限界を迎え、精液が己の口腔に放たれる。
口腔に広がる、連八の精液の味……あぁ、今まで己が食べてきた、どの食べ物よりも美味で、癖になりそうだ❤

「あ、あぁ……」
己は連八の逸物から口を離し、口腔内に残る精液を咀嚼し、ゆっくりと嚥下する。
喉に絡まる、精液の感触が心地良い。
「雪緒ぉ、オイラ……」
あぁ、分かっている……己は蛇体で持ち上げていた連八を下ろし、少し恥ずかしいが、指で己の秘所を広げて誘う。
初めて見るであろう秘所を、連八はジッと見つめており、その視線で只でさえ疼いていた己の秘所は更に疼く。
舌で逸物を責めていた時から己の秘所は蜜で溢れ、連八の視線で湧水の如く蜜は溢れ出す。
さぁ、己の純潔を連八に捧げよう……

「雪緒、いくね……」
そう前置きしてから、連八は逸物を己の秘所へと押し入れる。
ブツリ、と肉を裂く音と共に己の純潔は破られ、己の秘所は連八の逸物で埋め尽くされる。
あぁ、なんて幸福な痛み……己は、連八のモノになったのだ❤
「ごめん、ね……もう、駄目…」
幸福の余韻に浸る己の秘所の中で連八の逸物が震え、連八の精液が秘所の奥へと放たれる。
あ、あぁ……連八の、熱い精液が、己の中を満たしていく❤

「動いて、いい?」
長い射精を終えた連八は己の耳元で囁き、己はソレに頷きで返す。
己の答えを確認した連八は、技術も何も無い、我武者羅な動きで己の秘所を逸物で抉る。
蜜と精液が撹拌される淫らな音が、肌がぶつかり合う音が、反響して風呂場の中に響く。
「ゆ、雪緒っ…んむ!? んちゅ、れる…ぢゅず、んれろ……」
愛しさと幸福で感極まった己は連八を抱き寄せて唇を奪い、舌を絡ませる。
舌を絡ませ、秘所を蠢かせ、己と連八が溶けて混ざり合うような快感に身を委ね、連八を絶頂へと導き、己も導かれていく。

「んぶっ…ふぁふ……んぅんっ!」
我武者羅な動きは瞬く間に限界を迎えさせ、連八の逸物が再び己の秘所の中で震える。
ソレを感じ取った己の秘所は自然と連八の逸物を締めつけ、子を宿す聖域の入口が亀頭と触れ合い
「んぅ――――――っ!」
三度目とは思えない濃厚な精液が聖域の入口に迸り、同時に己も絶頂を迎える。
息苦しさで唇を離し、己と連八は繋がり合ったまま、上下の感覚が希薄になる程の快感に身を委ね、抱きしめ合う。
戦いの疲れもあってか、瞬く間に睡魔が襲ってくる。
「大好きだよ、雪緒……」
連八の囁きを子守唄に、心地良い重みを感じながら、己は眠りについた。

×××

「後悔、してないか?」
「んぅ? 何が?」
眠りから覚めた己は連八と繋がったまま控室へと移動し、其処で再び交わり合い、交わりが終わった後、己を抱き枕にしている連八に問う。
連八に『己』という新たな枷を付けてしまった事を、連八はどう思っているのか?
不安に思った己の問いを、連八は朗らかな笑みで答える。

「後悔なんてしてないよ、雪緒。沢山食べなくても死なないし、オイラの大好きな雪緒と一緒に居られるんだし」
そう言いながら、己を抱きしめる連八。
身長差の所為で己の胸に顔を埋めながら、連八は告げる。
「オイラは、雪緒を枷だなんて思ってないよ。だって、さ……」

大好きな人と一緒に居られる時間が、枷になる訳無いじゃんか

その言葉に、己は歓喜と幸福で大粒の涙をボロボロと流した。

×××

さぁさぁ、どうでしたかな?
勇ましい白蛇と、身体を弄ばれた剣奴隷の物語は?
折角なんで、二人のその後を教えてあげようじゃないか。

闘技場から連八君を身請けした雪緒ちゃん、翠鱗姐さんの御殿に戻って結果を報告。
翠鱗姐さんと同僚の白蛇さん達、二人が仲良く結ばれた事を祝福してくれたさ。
んで、連八君は「身体を動かさないのは性に合わない」って理由で、翠鱗姐さんの御殿で働き始めたんだ。
いやぁ、御殿の皆は喜んだよ! なにせ、連八君の馬鹿力のお陰で、面倒だった力仕事が捗る、捗る。
妻の雪緒ちゃんも、鼻高々ってもんよ!

そうそう、マッドなファザコン野郎のエラトマが作った闘技場なんだけど。
雪緒ちゃんの報告を受けた翠鱗姐さんが解体、エラトマが作った試験体達は厳重な封印を施して御殿の地下でオネンネしてるぜ。
何時か、技術が発展したら元に戻してあげられるように、ね。

あ、忘れてた、忘れてた。
エラトマってば、大陸でも大量の札付き、超弩級のワルだったみたいでさ。
罪状は生体改造、人身売買、殺人、誘拐、殺人教唆等々、叩けばボロボロ埃が盛り沢山!
雪緒ちゃんと連八君、国際指名手配犯逮捕の功績で、魔王の娘さんであるデルエラ様から名誉勲章を貰ったんだぜ!
ま、頭が吹っ飛んだ死体だけど!

んで、雪緒ちゃんと連八君は翠鱗姐さんの御殿で幸せ満喫な生活を送ってるぜぇ。
たまぁに、翠鱗姐さんが連八君にチョッカイ出すけど、雪緒ちゃんの殺気混じりの視線に流石の翠鱗姐さんもビビッて手は出さず仕舞いだけどさ。

ま、こんな所かな?
それじゃ、次のお話を用意しておくから、それまで諸君は楽しみにしてくれたまへ。
それでは、トゥービーコンテニュード!
12/09/14 00:48更新 / 斬魔大聖
戻る 次へ

■作者メッセージ
東方魔恋譚 第陸章は白蛇でお送りしました。
第漆章はクノイチを予定しておりますので、よろしくお願いします。

初めてのリクエスト、という事で気合入れて執筆しましたが、気合の入れ過ぎで色々とブッ飛んでしまいました。
公式設定とは全然違う白蛇、変態マッド野郎、ちょいとグロテスクな表現等。
雪緒の性格は、まぁ……個性という事で許してください。
だって、創刻の○テリアルのメヒー○ャさんが、執筆中の私の脳内に神々しく降臨してきたのです。

まぁ、兎に角、これからも東方魔恋譚をよろしくお願いします。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33