2人の足刀使い
現在地-詳細不明-詳細不明
「う…ぐあ…」
目を覚ますと俺は立ち上がる…。
「こ、此処は…」
周りを見渡すとそこは見知った場所だった。
「道場…!?」
そう、俺の実家でもある脚刀流の道場だ。
なんだか妙に空気が赤いと言うか禍々しい感じだが…。
因みに門下生は0人だ。
「どうなってるんだ…?俺はカズマに斬られて死んだはず…」
そして玄関側の襖がガラガラガラと音を立てて開く。
そこから道場に入ってきたのは…俺の親父とお袋…。
だが俺の親父とお袋はもう既に他界している筈…何故こんな所にいるんだ!?
「尖…お前のせいだ…」
親父は光を無くした目で俺を見つめると、屍のように力なく俺に歩み寄ってくる。
思わず俺は後ずさる。
「お、親父…面白くねーって…止めてくれよ…」
渇いた笑みと共に後ずさりするが、壁に背を預けてしまいもう下がれない。
「尖…貴方のせいで私たちは死んだのよ…」
お袋も近寄ってきて俺の頬に手を添える。
「ま、待ってくれ…!俺はあの頃はまだ子供で…!」
言い訳をしようとすると頬に添えられているお袋の手にグッと力が込められる。
「貴方のせいよ…!貴方のせいなのよ…!」
「ヒッ…!?」
その時のお袋の目は憎しみや憎悪などの感情に染まっていた。
親父も俺の髪の毛を掴むと引き寄せる。
「お前が俺たちを助けなかった…救わなかった!殺してやる殺してやる…!」
「そうよ!貴方なんて…死んで償いなさい…!」
「ハッ…ハッ…!?」
俺の顔を潰そうとでもしているのか2人の手に更に力がこもり、俺は動けない。
「コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル…」
「ツグナイナサイツグナイナサイツグナイナサイツグナイナサイツグナイナサイツグナイナサイツグナイナサイツグナイナサイ…」
俺の視界は赤き血に塗れた両親…。
そのまま俺の意識は闇に堕ちていった。
現在地-詳細不明-詳細不明
「うぁああああああああああああああああ!?」
バッと上半身だけ起こすと、俺は息を荒くして周りを見渡す。
「……ここは」
周囲は静かな森で、俺の傍には驚いた様な顔のティピ、アーリア、アノンがいた。
「どうしたんだいセン!」
「センお兄ちゃん、すっごくうなされてたよ?」
俺を心配してくれているのか、すぐに俺に近づいてきてくれる3人だが、俺は今域を荒くしていて、受け答えをするほど余裕が無かった。
今のは…夢、だったのか。
凄く嫌な夢だった……あれは間違いなく俺の親父とお袋……。
「ハァ……すまない皆、悪い夢を見てただけだ」
夢だと分かって落ち着いた俺は深いため息を吐いて漸く3人に対応する事ができた。
「ところで此処は?俺は確か…」
ハッとなって思い出す。
俺はカズマに斬られて気を失ったんだった。
「ここはダダイルを北に抜けた森の中だ。ダダイルを抜け出した私達はセンを守りつつ此処まで逃げてきたんだ」
「他の皆は?」
「偵察に出ている。これから逃げる先と追っ手が来ているかどうかの確認の二手に分かれている」
俺の質問にはアーリアが答えてくれた。
そこへ丁度、イズマを先頭としてゴブリン団の4人とポップ、ティピ、ヴェロニカ、ミンが戻ってきた。
「セン、目が覚めたのか!」
「イズマ達、帰ってきてもらって早速だが、このまま北へ進むとどうだ?」
戻ってきたのは先行班だったらしい。
アーリアが尋ねると、イズマは顔を少しだけ顰めた。
「このまま北へ進むと反魔物領の関所がある。やはり東へ逃げるしかないな」
「東に進むと崖があったけれど、一本だけつり橋が見つかったわ」
イズマに続いてヴェロニカが説明してくれる。
東か……親魔物領にはやいとこ入れるといいが……。
と、そこへポウを先頭にしてイオ、コロナ、ミスティ、クー、シャム、シャナ、ティファルナが戻ってきた。
多分後方班だろう。
「ご、ご主人様!」
「兄様!起きたのか!ワシも心配だったのじゃ〜!」
起きている俺を見るや否や、ポウとコロナが俺に飛び掛ってきた。
だが…
「いでででっ!ポウ…コロナッ……そこ傷口……!」
傷口に触って俺は悶絶していた。
「2人とも、嬉しい気持ちは分かるし、正直羨ましくもあるが早く報告を」
冷静を装っているつもりだろうが、尻尾がフリフリと動いているぞアーリア。
「それが……教団の兵団は少しずつ、だが確実に我々の後を追ってきている…恐らく、カズマだろう」
カズマの名前が出た瞬間、場の空気が一気に悪くなった。
「カズマが俺達の情報を教団に与えて追ってきてるのか……急いで東へ向かおう。つり橋を渡ればすぐに東の親魔物領に入るから、そこまで行けば勝ちだ」
俺は立ち上がって皆に準備をさせるように言うと、皆すぐに荷台と馬車を用意して出発した。
俺は傷もあるので馬車に乗せて貰っている。
すると、急に馬車を引いているイズマが足を止めた。
「どうしたイズマ?」
「雨が降ってきた……少し急ごう、足跡を残すと共に進み難くなってくる」
最初はポッポッとしか降ってなかった雨も次第に大粒の雨になってくる。
そして暫く進んでいくと、急にガタン!と音を立てて傾いた。
「うわっ!」
「な、何だ!?」
俺とイズマが慌てている中、ミスティが声を上げた。
「攻撃です!風の魔法で馬車の車輪を攻撃されました!」
くそっ!追いつかれたのか!?
慌てつつも俺は馬車から出て、イズマも馬車から離れる。
雨に濡れながらも後ろを振り返ると、白い鎧に灰色のローブを纏った教団の兵士達が此方に向かってきている。
「フン、蹴散らしてくれる!」
イオはやる気らしいが、此方は奇襲されて体勢がメチャクチャだし、ティピやポップみたいな戦えない仲間もいる。
ここは逃げるが勝ちだ!
「イオ!此処は逃げるぞ!」
「何!?何故だセン!」
「戦えない仲間もいるだろ、俺も怪我があるし、つり橋を渡って逃げるぞ!」
荷台を引いている馬を急がせて俺も走って先行する。
「センさん!つり橋はこの先です!」
「ですー!」
「怪我してるんだから無理しちゃ駄目ニャよ」
ウトとキャノ、シャムが付いてきてくれた。
こりゃあ心強いと、俺はそのまま走り続け、漸く崖に辿り着いた。
だが…
「橋が……落ちてる」
つり橋は無残にも破壊されており、向こうに渡る道は無かった。
すると辺りの森の茂みから教団の兵士達が現れて俺達を取り囲んだ。
「ニャに!?」
「まさか……このつり橋に追い込まれること事態が罠だったとはな」
取り囲んできた数は20人ほどか……後から追ってきてる奴も含めると50人以上はいるな。
「仕方が無い…!セン、私が変化して皆を運ぼう!」
イオがそう言って身構えるが、その前に地面に魔方陣のようなものが現れた。
そこから光の鎖が飛び出してイオの腕を縛り、先端が地面に埋まる。
「な、これは…!?」
「緊縛式魔方陣です!完全に捕まる前に逃げてください!」
驚くイオに、ミスティがそう言うが、すぐさま5つの魔方陣が追加で展開されて光の鎖がイオを縛りつける。
これなら魔法を使う奴を先に倒したほうが早いな。
木々の奥にいる杖を構えた教団兵を見つけると、すぐさま走って接近する。
しかしその行く手を遮られた。
「なっ……!?」
しかも唯遮られた訳じゃなかった。
俺を止めたのは足に専用の器具で刃を装着した騎士…脚刀流の使い手だった。
「お前は…」
向こうも俺を見て驚いているらしい。
全身鎧を着ていて、兜も被っているから表情は確認できないが、恐らく互いに自分以外に脚刀流を扱うことについてだろう。
そう言えば前から教団側にも足に刃を付けた男が魔物を狩ってるって噂だったが……。
「兄様!イオはワシ達で助けるから逃げるのじゃ!」
コロナがイオの方へ向かって駆け出すのを視界の端に捉えた。
同じ魔法を使う者ならば、バフォメットであるコロナを凌ぐ者等そうそういないだろう。
ならイオを縛っている鎖の魔法を解除する事も容易い筈だ。
「分かった!任せ――」
「手はずどおりだ、バフォメットを狙え」
俺の返事を目の前の騎士が遮った。
コロナに向けて弓兵達の弓矢が放たれる。
「ふん!こんな物でワシを倒せると思ったか!」
素早くコロナは鎌を矢へと向けて防御用の紫色の魔方陣を展開させ、魔方陣を盾として矢を防いだ。
しかしそれも罠だった。
コロナの足元に青い魔方陣が展開されたと思えば、コロナを白い光が包み込む。
「むっ!?これはっ!?」
光が収まると、そこにはクリスタル状の氷に包まれたコロナの姿があった。
「コロナ様!」
「氷結封印魔法か!」
ミスティが焦ってコロナに近づき、それをフォローするようにイズマが弓を構えて兵士を牽制する。
「クッ!お前等!」
俺はイオとコロナが戦闘不能状態にされたことで怒り、目の前の奴へ中段蹴りを放つが、あっさりと奴の足刀に止められる。
足刀がぶつかり合った衝撃が俺の傷口に響いて体勢を崩す。
「ぐっ!」
「貰った!」
奴は右足で蹴り上げてきたが体勢を崩していた俺はそれを避けることはできなかった。
俺の右腰の辺りから肩まで切り裂かれて鮮血が舞う。
「ぐうっ!」
左手で傷口を押さえて一旦距離を取るが、奴はそれを許さずに、脚刀流の使い手として見事な脚力で俺との距離を詰める。
拙い…!
「ご主人様に……!」
「センに……!」
そこへ2つの影が飛び込んでくる。
「「手を出すなぁっ!」」
ポウの爪とヴェロニカの尻尾が奴の足刀を弾いた。
「ポウ、ヴェロニカ……」
「今度は、私がご主人様を守ります!」
「此処は私達に任せて、先に逃げなさい」
2人の申し出はありがたいが、俺は自分の女を置いて逃げるほど弱い男じゃない……。
「はっ、これくらいの傷……」
傷口を押さえていた手を払って俺は前に出る。
「駄目よセン、カズマから受けた傷は決して浅くはないのだから」
「自分の女の前でくらい格好つけさせろよ」
痛む傷をやせ我慢してヘヘッと笑う。
それでも流れ出る血と汗は止まらずに流れ続ける…血を流しすぎたかな、少しだけぼうっとしてきた。
だが、それでも!
地面を蹴って一気に奴に接近すると、走る勢いを利用して空中に跳んで身体を捻って回転させる。
勢い、重力、脚力を全て合わせて奴に叩きつける。
「成る程、だが!」
俺の足が叩きつけられる前に奴も空中に跳んで俺の足を手で押さえて防ぐと共に左足の足刀を俺にぶつけて蹴り飛ばした。
再び斬られた俺は血を流して吹き飛び、そのまま地面を転がった。
「ご主人様!キャンッ!?」
ポウが心配して近寄ってこようとするが、イオを縛っているのと同じ魔法の鎖で捕らえられてしまった。
「大変です〜!皆でお兄さんとポウさん達を助けに行きますよ〜!」
「「「おー!」」」
「っ!こっちに来ては駄目よ!」
ポム率いるゴブリン達が俺たちの方へ走ってくる。
だが教団の兵士達は予想通りと言わんばかりに4人に向けて大きい網を投げつけた。
それに一瞬早く気が付いたヴェロニカは4人を助けようと走ったが、間に合わずポムたちと一緒に網に捕われてしまう。
「うわっ!?なんだこりゃ…だせー!」
「だせー!」
「姐さんの力やヴェロニカさんの短剣で抜け出せないんですか!?」
「ふん〜!」
「駄目ね…鉄で編みこまれているわ」
くそっ…仲間もどんどん捕まって、総崩れだ。
傷口を押さえて歯を食いしばっている俺の前に足刀使いの奴がやってくると、いきなり頭を足蹴にされた。
「ぐぁ…!」
「何故お前が脚刀流を扱えるのかは気になる。だから我々と取引をしようじゃないか?」
人の頭足蹴にして、取引って状態じゃないだろう…。
「お前の師の名と、その居場所を教えろ…そうすればお前達全員見逃してやる」
成る程……確かに願っても無い条件だが……。
「断る…!」
「ほう?今のお前たちには破格の条件だと思うが?」
「お前達教団が、魔物絡みでそう都合よく見逃してくれるかよ?」
そう言うと、奴は俺の頭から足を退けるとすぐさま顔面を蹴られた。
また少し吹き飛ばされたと思ったら、身体に急な浮遊感を感じる。
思ったより移動していた俺は崖まで追い込まれて、崖から落ちそうになっていたのだ。
「くっ!」
拙いと思い手を伸ばして崖を掴むが、雨で土が脆くなっていてうまく掴めない。
その上傷が痛んで手にも力が入らない。
下を見てみると、この雨のせいでか茶色い濁流がとてつもない勢いで流れている。
万事休すか…!
「ご主人様!」
「拙い!誰かセンを!」
「私が……キャッ!?」
クーの呼び声とイズマの切羽詰った声、そしてティファルナの悲鳴が聞こえた。
「ぐっ、皆…!」
両手を使ってどうにか登ろうとしたとき、片手が蹴られて弾かれる。
手を蹴ったのは足刀使いの奴で、俺を見下ろしていた。
「ここまでだな……魔物に組する者は、死ね」
そう言うと奴は俺が掴んでいた最後の手を蹴って弾き、俺は重力に従い落下していく。
俺が濁流に飲み込まれる前に見たのは、兜を外して俺を見下ろす、銀髪の男だった。
「う…ぐあ…」
目を覚ますと俺は立ち上がる…。
「こ、此処は…」
周りを見渡すとそこは見知った場所だった。
「道場…!?」
そう、俺の実家でもある脚刀流の道場だ。
なんだか妙に空気が赤いと言うか禍々しい感じだが…。
因みに門下生は0人だ。
「どうなってるんだ…?俺はカズマに斬られて死んだはず…」
そして玄関側の襖がガラガラガラと音を立てて開く。
そこから道場に入ってきたのは…俺の親父とお袋…。
だが俺の親父とお袋はもう既に他界している筈…何故こんな所にいるんだ!?
「尖…お前のせいだ…」
親父は光を無くした目で俺を見つめると、屍のように力なく俺に歩み寄ってくる。
思わず俺は後ずさる。
「お、親父…面白くねーって…止めてくれよ…」
渇いた笑みと共に後ずさりするが、壁に背を預けてしまいもう下がれない。
「尖…貴方のせいで私たちは死んだのよ…」
お袋も近寄ってきて俺の頬に手を添える。
「ま、待ってくれ…!俺はあの頃はまだ子供で…!」
言い訳をしようとすると頬に添えられているお袋の手にグッと力が込められる。
「貴方のせいよ…!貴方のせいなのよ…!」
「ヒッ…!?」
その時のお袋の目は憎しみや憎悪などの感情に染まっていた。
親父も俺の髪の毛を掴むと引き寄せる。
「お前が俺たちを助けなかった…救わなかった!殺してやる殺してやる…!」
「そうよ!貴方なんて…死んで償いなさい…!」
「ハッ…ハッ…!?」
俺の顔を潰そうとでもしているのか2人の手に更に力がこもり、俺は動けない。
「コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル…」
「ツグナイナサイツグナイナサイツグナイナサイツグナイナサイツグナイナサイツグナイナサイツグナイナサイツグナイナサイ…」
俺の視界は赤き血に塗れた両親…。
そのまま俺の意識は闇に堕ちていった。
現在地-詳細不明-詳細不明
「うぁああああああああああああああああ!?」
バッと上半身だけ起こすと、俺は息を荒くして周りを見渡す。
「……ここは」
周囲は静かな森で、俺の傍には驚いた様な顔のティピ、アーリア、アノンがいた。
「どうしたんだいセン!」
「センお兄ちゃん、すっごくうなされてたよ?」
俺を心配してくれているのか、すぐに俺に近づいてきてくれる3人だが、俺は今域を荒くしていて、受け答えをするほど余裕が無かった。
今のは…夢、だったのか。
凄く嫌な夢だった……あれは間違いなく俺の親父とお袋……。
「ハァ……すまない皆、悪い夢を見てただけだ」
夢だと分かって落ち着いた俺は深いため息を吐いて漸く3人に対応する事ができた。
「ところで此処は?俺は確か…」
ハッとなって思い出す。
俺はカズマに斬られて気を失ったんだった。
「ここはダダイルを北に抜けた森の中だ。ダダイルを抜け出した私達はセンを守りつつ此処まで逃げてきたんだ」
「他の皆は?」
「偵察に出ている。これから逃げる先と追っ手が来ているかどうかの確認の二手に分かれている」
俺の質問にはアーリアが答えてくれた。
そこへ丁度、イズマを先頭としてゴブリン団の4人とポップ、ティピ、ヴェロニカ、ミンが戻ってきた。
「セン、目が覚めたのか!」
「イズマ達、帰ってきてもらって早速だが、このまま北へ進むとどうだ?」
戻ってきたのは先行班だったらしい。
アーリアが尋ねると、イズマは顔を少しだけ顰めた。
「このまま北へ進むと反魔物領の関所がある。やはり東へ逃げるしかないな」
「東に進むと崖があったけれど、一本だけつり橋が見つかったわ」
イズマに続いてヴェロニカが説明してくれる。
東か……親魔物領にはやいとこ入れるといいが……。
と、そこへポウを先頭にしてイオ、コロナ、ミスティ、クー、シャム、シャナ、ティファルナが戻ってきた。
多分後方班だろう。
「ご、ご主人様!」
「兄様!起きたのか!ワシも心配だったのじゃ〜!」
起きている俺を見るや否や、ポウとコロナが俺に飛び掛ってきた。
だが…
「いでででっ!ポウ…コロナッ……そこ傷口……!」
傷口に触って俺は悶絶していた。
「2人とも、嬉しい気持ちは分かるし、正直羨ましくもあるが早く報告を」
冷静を装っているつもりだろうが、尻尾がフリフリと動いているぞアーリア。
「それが……教団の兵団は少しずつ、だが確実に我々の後を追ってきている…恐らく、カズマだろう」
カズマの名前が出た瞬間、場の空気が一気に悪くなった。
「カズマが俺達の情報を教団に与えて追ってきてるのか……急いで東へ向かおう。つり橋を渡ればすぐに東の親魔物領に入るから、そこまで行けば勝ちだ」
俺は立ち上がって皆に準備をさせるように言うと、皆すぐに荷台と馬車を用意して出発した。
俺は傷もあるので馬車に乗せて貰っている。
すると、急に馬車を引いているイズマが足を止めた。
「どうしたイズマ?」
「雨が降ってきた……少し急ごう、足跡を残すと共に進み難くなってくる」
最初はポッポッとしか降ってなかった雨も次第に大粒の雨になってくる。
そして暫く進んでいくと、急にガタン!と音を立てて傾いた。
「うわっ!」
「な、何だ!?」
俺とイズマが慌てている中、ミスティが声を上げた。
「攻撃です!風の魔法で馬車の車輪を攻撃されました!」
くそっ!追いつかれたのか!?
慌てつつも俺は馬車から出て、イズマも馬車から離れる。
雨に濡れながらも後ろを振り返ると、白い鎧に灰色のローブを纏った教団の兵士達が此方に向かってきている。
「フン、蹴散らしてくれる!」
イオはやる気らしいが、此方は奇襲されて体勢がメチャクチャだし、ティピやポップみたいな戦えない仲間もいる。
ここは逃げるが勝ちだ!
「イオ!此処は逃げるぞ!」
「何!?何故だセン!」
「戦えない仲間もいるだろ、俺も怪我があるし、つり橋を渡って逃げるぞ!」
荷台を引いている馬を急がせて俺も走って先行する。
「センさん!つり橋はこの先です!」
「ですー!」
「怪我してるんだから無理しちゃ駄目ニャよ」
ウトとキャノ、シャムが付いてきてくれた。
こりゃあ心強いと、俺はそのまま走り続け、漸く崖に辿り着いた。
だが…
「橋が……落ちてる」
つり橋は無残にも破壊されており、向こうに渡る道は無かった。
すると辺りの森の茂みから教団の兵士達が現れて俺達を取り囲んだ。
「ニャに!?」
「まさか……このつり橋に追い込まれること事態が罠だったとはな」
取り囲んできた数は20人ほどか……後から追ってきてる奴も含めると50人以上はいるな。
「仕方が無い…!セン、私が変化して皆を運ぼう!」
イオがそう言って身構えるが、その前に地面に魔方陣のようなものが現れた。
そこから光の鎖が飛び出してイオの腕を縛り、先端が地面に埋まる。
「な、これは…!?」
「緊縛式魔方陣です!完全に捕まる前に逃げてください!」
驚くイオに、ミスティがそう言うが、すぐさま5つの魔方陣が追加で展開されて光の鎖がイオを縛りつける。
これなら魔法を使う奴を先に倒したほうが早いな。
木々の奥にいる杖を構えた教団兵を見つけると、すぐさま走って接近する。
しかしその行く手を遮られた。
「なっ……!?」
しかも唯遮られた訳じゃなかった。
俺を止めたのは足に専用の器具で刃を装着した騎士…脚刀流の使い手だった。
「お前は…」
向こうも俺を見て驚いているらしい。
全身鎧を着ていて、兜も被っているから表情は確認できないが、恐らく互いに自分以外に脚刀流を扱うことについてだろう。
そう言えば前から教団側にも足に刃を付けた男が魔物を狩ってるって噂だったが……。
「兄様!イオはワシ達で助けるから逃げるのじゃ!」
コロナがイオの方へ向かって駆け出すのを視界の端に捉えた。
同じ魔法を使う者ならば、バフォメットであるコロナを凌ぐ者等そうそういないだろう。
ならイオを縛っている鎖の魔法を解除する事も容易い筈だ。
「分かった!任せ――」
「手はずどおりだ、バフォメットを狙え」
俺の返事を目の前の騎士が遮った。
コロナに向けて弓兵達の弓矢が放たれる。
「ふん!こんな物でワシを倒せると思ったか!」
素早くコロナは鎌を矢へと向けて防御用の紫色の魔方陣を展開させ、魔方陣を盾として矢を防いだ。
しかしそれも罠だった。
コロナの足元に青い魔方陣が展開されたと思えば、コロナを白い光が包み込む。
「むっ!?これはっ!?」
光が収まると、そこにはクリスタル状の氷に包まれたコロナの姿があった。
「コロナ様!」
「氷結封印魔法か!」
ミスティが焦ってコロナに近づき、それをフォローするようにイズマが弓を構えて兵士を牽制する。
「クッ!お前等!」
俺はイオとコロナが戦闘不能状態にされたことで怒り、目の前の奴へ中段蹴りを放つが、あっさりと奴の足刀に止められる。
足刀がぶつかり合った衝撃が俺の傷口に響いて体勢を崩す。
「ぐっ!」
「貰った!」
奴は右足で蹴り上げてきたが体勢を崩していた俺はそれを避けることはできなかった。
俺の右腰の辺りから肩まで切り裂かれて鮮血が舞う。
「ぐうっ!」
左手で傷口を押さえて一旦距離を取るが、奴はそれを許さずに、脚刀流の使い手として見事な脚力で俺との距離を詰める。
拙い…!
「ご主人様に……!」
「センに……!」
そこへ2つの影が飛び込んでくる。
「「手を出すなぁっ!」」
ポウの爪とヴェロニカの尻尾が奴の足刀を弾いた。
「ポウ、ヴェロニカ……」
「今度は、私がご主人様を守ります!」
「此処は私達に任せて、先に逃げなさい」
2人の申し出はありがたいが、俺は自分の女を置いて逃げるほど弱い男じゃない……。
「はっ、これくらいの傷……」
傷口を押さえていた手を払って俺は前に出る。
「駄目よセン、カズマから受けた傷は決して浅くはないのだから」
「自分の女の前でくらい格好つけさせろよ」
痛む傷をやせ我慢してヘヘッと笑う。
それでも流れ出る血と汗は止まらずに流れ続ける…血を流しすぎたかな、少しだけぼうっとしてきた。
だが、それでも!
地面を蹴って一気に奴に接近すると、走る勢いを利用して空中に跳んで身体を捻って回転させる。
勢い、重力、脚力を全て合わせて奴に叩きつける。
「成る程、だが!」
俺の足が叩きつけられる前に奴も空中に跳んで俺の足を手で押さえて防ぐと共に左足の足刀を俺にぶつけて蹴り飛ばした。
再び斬られた俺は血を流して吹き飛び、そのまま地面を転がった。
「ご主人様!キャンッ!?」
ポウが心配して近寄ってこようとするが、イオを縛っているのと同じ魔法の鎖で捕らえられてしまった。
「大変です〜!皆でお兄さんとポウさん達を助けに行きますよ〜!」
「「「おー!」」」
「っ!こっちに来ては駄目よ!」
ポム率いるゴブリン達が俺たちの方へ走ってくる。
だが教団の兵士達は予想通りと言わんばかりに4人に向けて大きい網を投げつけた。
それに一瞬早く気が付いたヴェロニカは4人を助けようと走ったが、間に合わずポムたちと一緒に網に捕われてしまう。
「うわっ!?なんだこりゃ…だせー!」
「だせー!」
「姐さんの力やヴェロニカさんの短剣で抜け出せないんですか!?」
「ふん〜!」
「駄目ね…鉄で編みこまれているわ」
くそっ…仲間もどんどん捕まって、総崩れだ。
傷口を押さえて歯を食いしばっている俺の前に足刀使いの奴がやってくると、いきなり頭を足蹴にされた。
「ぐぁ…!」
「何故お前が脚刀流を扱えるのかは気になる。だから我々と取引をしようじゃないか?」
人の頭足蹴にして、取引って状態じゃないだろう…。
「お前の師の名と、その居場所を教えろ…そうすればお前達全員見逃してやる」
成る程……確かに願っても無い条件だが……。
「断る…!」
「ほう?今のお前たちには破格の条件だと思うが?」
「お前達教団が、魔物絡みでそう都合よく見逃してくれるかよ?」
そう言うと、奴は俺の頭から足を退けるとすぐさま顔面を蹴られた。
また少し吹き飛ばされたと思ったら、身体に急な浮遊感を感じる。
思ったより移動していた俺は崖まで追い込まれて、崖から落ちそうになっていたのだ。
「くっ!」
拙いと思い手を伸ばして崖を掴むが、雨で土が脆くなっていてうまく掴めない。
その上傷が痛んで手にも力が入らない。
下を見てみると、この雨のせいでか茶色い濁流がとてつもない勢いで流れている。
万事休すか…!
「ご主人様!」
「拙い!誰かセンを!」
「私が……キャッ!?」
クーの呼び声とイズマの切羽詰った声、そしてティファルナの悲鳴が聞こえた。
「ぐっ、皆…!」
両手を使ってどうにか登ろうとしたとき、片手が蹴られて弾かれる。
手を蹴ったのは足刀使いの奴で、俺を見下ろしていた。
「ここまでだな……魔物に組する者は、死ね」
そう言うと奴は俺が掴んでいた最後の手を蹴って弾き、俺は重力に従い落下していく。
俺が濁流に飲み込まれる前に見たのは、兜を外して俺を見下ろす、銀髪の男だった。
13/01/14 22:40更新 / ハーレム好きな奴
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