連載小説
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中立の街戦場と化す
現在地-ダダイル-ギルド

酒場での騒動から1日経った。

俺の財布の中身は随分と寂しくなり重さも軽くなってしまった。

そして俺たちは再びギルドの酒場で朝食を取っていた。

だが昨日までとは違い関が1つ多く埋まっている…そこには昨日アーリアと一戦交えたデュラハンが座っている。

「昨日は迷惑をかけた…私の名はティファルナだ」

「俺はセン・アシノ…sans rival傭兵団の団長だ」

食事の手を進めながら自己紹介をしていき、全員の自己紹介が済むとティファルナが腰のポーチの中から何かを差し出した。

「…これは?」

「昨日私が壊してしまった物を弁償してくれたそうじゃないか…それは私の騎士道精神から外れてしまうのでな…少々足りないだろうが…」

少々と言うか大分足りない…あとこの3倍の金がかかる。

「…いや全然足りないんだが」

一応言ってみるとティファルナはピクリと反応する。

「い、いくら足りない?」

「後この3倍くらいだ」

「そ、そんなにか…!?」

俺の言葉を聞いたティファルナは顔を青ざめさせて固まってしまった。

周りの皆も苦笑いだ。

いや、1人だけ睨むように此方の会話を見ている男がいた。

「カズマ…まだ昨日の事を根に持ってるのか?」

そう、カズマが昨日の試合の事でティファルナにいい態度を見せていないのだ。

「ケッ!別に」

ガツガツと食事に喰らい付くカズマに俺は溜息を吐くことしかできず、ティファルナも申し訳無さそうな目で俺を見てくる。

と言うかカズマもそれ位のこと水に流せよ…意地っ張りで負けず嫌いだな。

「勝負に負けたくらいでそんな態度を取るなんてちっちゃい男だニャ」

「んだとコラァ!」

シャムの挑発に、テーブルに身を乗り出すカズマ。

「ま、あっちは放っておいて…足りない金は別に…」

「そ、それならお前たちの傭兵団に入って金を帰させて貰いたい!」

別にいい…と言おうと思ったがその前に反論されてしまった。

「…いいのか?俺たちは宛ても無く旅をしていて…今はジパングを目指している最中だぞ?」

「私は魔王軍に入るために修行の旅の最中だったし、受けた恩は必ず返せと父に教えられていたのでな…構わん」

「そうか…なら歓迎するぜティファルナ」

手を差し出すとそれに答えて手を握り返される。

「実力の程は…まあ大丈夫だな」

昨日、この酒場で行われたアーリア対ティファルナの戦いは両者体力切れで引き分けになったらしい。

まあデュラハンだし剣術はかなりの物だし大丈夫だろう。

首が落ちないか心配ではあるがな。

「それじゃあ今日も張り切って依頼をこなすか」

そして俺たちはまたグループに分かれてギルドのクエストボードに張り出された依頼を受けていった。




現在地-ダダイル-裏路地

俺のグループは俺とカズマとコロナとキャノだ。

俺たちの依頼内容は長い間裏路地に放置してあって悪臭を放つ生ゴミを処分して欲しいとの事だった。

俺とカズマとキャノがゴミを集めて運び、コロナが魔法で焼いて塵にする。

「ほらコロナ、これが追加の分のゴミだ」

皮袋に集めたゴミをコロナの前に置くと先ほどからそうだったが更に顔を顰める。

「むぅ…何時になったら終わるのじゃ!ワシの魔力も大分使ってしまって…こんな臭い仕事は嫌なのじゃー!」

とうとうだだをこね始めたコロナ…しかしこればっかりは仕事だからしゃんとして貰わないとな。

「よし、頑張ってくれたら今夜はコロナ1人の相手をしてやるよ…インキュバスになったし激しくヤるぞ?」

「よし兄様!次のゴミを持ってきてくれ!」

早っ!?

瞬きをしたと思ったら次の瞬間にはコロナは意気揚々とゴミを魔法で燃やしていた。

ま、仕事してくれるなら大いに歓迎なんだが。

「…なぁお前あのデュラハン以外の奴とはそういう関係なんだよな?」

「ん…まぁな」

カズマがそう聞いてくるのでとりあえず答える。

男同士だからこういう会話もあるのだろうが少し気恥ずかしいし何人も女を作るって言うのは節操なしに聞こえそうでな。

「…チッ」

カズマは小さく舌打ちすると、ゴミを集めにか裏路地に行ってしまった。

嫉妬…されてるのか?

「終わったー!」

キャノが3つの大きな皮袋を頭の上に持ち上げて戻ってきた…。

あの体でよく運べるよなぁ…。

それにしてもあれで最後ならカズマが行った意味が無くなっちまうな…まあその内戻ってくるか。



現在地-ダダイル-裏路地

sideカズマ

「気に喰わねぇ…!」

近くにあった小石を蹴飛ばして小さくそう呟いた。

どうなってんだよ…俺は楽しく女を犯せてればそれで良かったってのにいきなりこんな世界に来ちまって雑魚扱いだ。

元の世界じゃ剣道で全国大会まで行ったんだぞ!?

なのに…

「畜生が!センも魔物共も舐めた態度取りやがって!」

そして壁を足で蹴るが、逆に足が痛くなっちまう…畜生!これじゃ唯の間抜けだろう!

「…そこの君」

すると路地の奥から灰色のローブを纏った2人の男が出てきた。

「あぁ!?今俺は機嫌が悪いんだよ!ぶっ殺すぞ!」

腰に挿していたロングソードを抜いて構えると奴は両手を上げて無抵抗なのを証明する…。

戦闘の意思は無いって事かよ?

「君に話がある…君はあの汚らわしい魔物達と共に行動していたが快く思っていない…そうだね?」

「それがどうしたってんだ?」

僅かに見える口元がニィと薄く笑うのが見えた。

「それなら話が早い…私たちと手を組まないか?無論報酬は用意する」

なんだと…?

「手を組んで如何しようってんだ?」

「魔物をこの世から消し去る…まずはこのどっちつかずの街を潰す」

…ハッ!上等じゃねえか。

「いいだろう…俺はカズマ・スギノ…お前等は?」

「俺たちは教団の過激派と呼ばれる派閥の構成員だ…詳しい事はこれに書いてある…読んでおけ」

そう言って手渡されるのは1つの手紙と筒の様な物。

「…分かった、上手くやるぜ」

「是非そうしてくれたまえ…同じ志を持つ者がこの街にいて良かった」

そう言い残して奴等は去っていった…。

残された俺は手紙を開けて内容に目を通していく。

「成る程な…こりゃ面白そうだ…!」

全てを叩き潰して蹂躙できる…そう思うと鳥肌が立つかのようにゾゾゾとした気持ちの良い感覚が俺の背を通り過ぎた。



現在地-ダダイル-宿屋

sideセン

依頼を済ませて金を手に入れた俺たちは旅に必要な荷物や食料を買って宿屋に戻った。

そろそろこの街を出る頃合かね。

そんな事を考えていると外がいやに騒がしくなってくる…何かあったのか?気のせいか金属と金属がぶつかるような音がするし悲鳴みたいな声も…。

「なんだい…?今日は嫌に騒がしいね」

「お祭りかもよー?」

「かもよー?」

アノンも気がついたらしくそう漏らすとポップとキャノのちびっ子コンビがなんとも気の抜けた答えを言った。

「流石にそれは無いと思いますが…」

「…ん」

ミスティとミンも否定するがイエーイとはしゃいでいる2人には届いていないようだ。

だが突然に部屋の扉が開いた。

開けたのはカズマで、ゼェゼェと息を切らしている。

「セン!ヤバいぞ!外で戦闘が始まっている!」

「なっ!?」

突然部屋に入ってきたマコトの言葉に俺たちは動揺する。

「戦闘だと!?こんな街中でか!?」

ティファルナも驚きを隠せない。

「勢力は分かるか?」

俺は落ち着いて足に足刀を装着させるとそう尋ねた。

「白い鎧を着た奴等と魔物…後この街の自警団の3つだ!」

「白い鎧の軍勢は教団ね…さしずめ教団対魔物&自警団って所かしら?」

ヴェロニカの解説に皆納得した顔つきになる。

「とにかくこの街から脱出するぞ、イズマとティピとポップとアノンとシャナとコロナは荷物を纏めて馬車で北門から脱出して夜に合流だ!後は俺に付いて来い!」

俺が指示を出すと皆は頷いて俺の言うとおりにした。

外に出ると住民が逃げ惑っている。

「邪悪なる魔物に裁きを!」

そう言って羽ばたいて逃げようとするハーピーの女性に剣を振り上げる。

「止めろ!」

俺は全力で地面を蹴って間に割り込み白地で剣を受け止める。

その間にハーピーはパートナーの男性を足で掴んで飛び立っていった。

「我等の正義の制裁を邪魔するか!」

「逃げようとする魔物を後ろから斬ろうとしてなにが正義だ!」

足で剣を押し返して隙が出来た所を反対の足の黒空で切り裂いた。

傷口から血を噴出して倒れていく男を尻目に皆に向き直る。

「俺たちの相手は教団だ!出来るだけ民間人を逃がしつつ北に逃げる!」

「っ!?センさん危ない!」

いきなりミスティが杖を構えて無詠唱で氷の刃の魔法を放つと、俺を狙っていた弓兵を切り裂いた。

気づかなかった…危なかったな。

「ありがとなミスティ…互いに互いをカバーしながら戦うんだ!」

そう言った直後、宿屋の裏から2台の馬車と荷車が飛び出してきた。

片方の馬車はイズマが引いている。

馬車は凄い速度で北へと向かって行った。

「良し!教団は南から攻めてきている…北へ後退しながら応戦するんだ!」

俺の指示通り、皆は後ろに下がりながら教団の兵士と戦っている。

後ろに気配を感じ、目だけ其方に向けるとカズマが居た。

「如何した?」

「いや…もうすぐだと思ってな」

もうすぐ?まだ北門までには距離があるぞ?

そう考えながら斬りかかって来る教団の兵士の剣を弾き、蹴り飛ばす。

「お前の考えてるような意味じゃねえよ」

「なら如何いう事……?」

ドッと音が聞こえ、俺の胸に熱い感覚を感じる。

何だ…今何が起こったんだ…?

思わず自分の胸を見ると、そこからは鉄の剣の切っ先が生えていた。

俺は…貫かれたのか…?

剣が引き抜かれた感触と共に俺は振り返ると、ドロリと血をこびり付かせた剣を構えるカズマが居た。

そして再度、横に振られた剣を受けて俺は腹を斬られた。

「ガッ…」

その場で両手両膝を着く。

熱い…斬られた場所が熱い…。

久しぶりに味わう感覚と仲間に斬られたという現実を前に思考が少し朦朧とする。

「カズマぁああああああああ!!」

ハッと気づいたのが1番早かったのはイオだった。

イオの爪を剣で何とか防いで南側へ向けて走り出すカズマ。

「ご、ご主人様!しっかりして下さい!」

目に沢山の涙を溜めたポウが俺に駆けつけてくれる…。

胸に手を当てて自分の目の前に持ってくると赤い手の平が見えた。

俺は今までに何人も殺してきてる…殺される覚悟も出来てるし今死んだって文句も言えない。

だが愛しているこいつ等を残していくのと仲間に殺されるってのが少し悲しいかな…。

「カズマ!貴様何故センを斬ったぁああああああ!?」

イオは顔を真っ赤にしてカズマを睨みつけている。

「ハッ!うるせえよ…俺はもうこっち側なんだよ!」

そう言って右手に持つ筒の様な物を空に向けて紐を引くと煙が上がる。

あれは狼煙か…?

「センさん…!うっ…しっかりして下さっ…!今、今回復魔法を…使いますからっ!」

ミスティが杖を俺に向けて回復魔法を使おうとしているが泣きじゃくっていて詠唱が出来ないみたいだ。

皆どんどん俺に駆け寄って来てくれる。

イオも俺の傍に来てくれた。

「うぁ…み…んな……」

「セン、喋るな…!なんとかする…だからもう喋るな…!」

アーリアも涙をボロボロと流していて銀の雫が俺の顔に落ちる。

「貴様…彼はお前の為に武器を買い、頭を下げたのだぞ!それなのに仇で返す者が何処にいる!」

ティファルナは剣を抜いて険しい顔でカズマを見ている。

「ハッ!知るかってんだよ…それより俺はもう行くぜ…あばよ!」

「待て!」

南門へ向けて走り出すカズマを追おうとティファルナだが上空から何かが降ってくる。

それは巨大な岩だった。

しかも麻で包んでありよく燃えている。

間一髪バックステップで避けるがその際に首が落ちてしまう。

「しまった…!」

体は首を拾おうと慌てて駆け寄ってくるが次々に燃える岩が降り注ぐ。

「今は退くわよ…カズマへの報復は何時かね…」

ヴェロニカはティファルナの首を素早く拾うと戻ってくる。

その表情は決して穏やかではない。

「ご主人様…!ご無事でいて下さい…!」

「シャムが運ぶニャ!皆、此処は一気に逃げるニャ!」

クーの心配する声とシャムに背負われる感覚を感じる…殆ど意識が飛んじまってる…。

「私たちが道を作ります〜!」

「兄貴…持ちこたえてくれよ…」

「作るー!」

「絶対に…絶対にセンさんは死なせない!」

皆の声を聞きながら、俺は不思議と安心しながら気を失っていった。



現在地-草原-街道

sideイオ

センが斬られた。

愛する者が瀕死の状態で、私たちは戦いそっちのけでダダイルから逃げ出した。

先に脱出したパーティに合流すると、目の色を変えて何があったのか問い詰めてきた。

説明を終えると、アノンは憎悪にその顔を歪ませて今すぐにでもカズマを殺しに行くのではないかと思うほどの殺気を放っていた。

コロナとミスティの回復魔法によって傷を治療し、ミンの包帯を借りて傷を手当した。

斬られる瞬間に後ろに下がっていたようで内臓に傷は殆ど無く今は落ち着いているそうだ。

皆、纏う空気は様々だ。

ポムとシャナとミンとウトは暗い雰囲気になっている。

クーとアーリアとキャノとティピとポップとミスティはセンを心配するかのように寄り添っている。

私やアノン、パノとイズマとクーとコロナとポウは苛立ちを隠せないようにあちこちをウロウロしたり貧乏ゆすりを繰り返している。

ヴェロニカとシャムは妙に落ち着いた雰囲気だ。

「……………っ!」

ずっとウロウロとしているポウは何度目か数えるのも面倒なほどの舌打ちをして地面にドカッと座った。

「…皆少しは落ち着いたらどう?」

冷静な口調でヴェロニカが言うが、ポウやアノンやクー、勿論私もそんなヴェロニカを睨みつけた。

「うるさい!落ち着いてなんか居られる訳ないでしょ!?ご主人様が死に掛けたんだよ!?それもカズマなんかのせいで!」

ポウが叫ぶ。

カズマの剣の腕はあまり大したことは無い。

だがセンがやられたのは仲間だという油断によるものだろう。

「ご主人様はカズマを気にかけてたんだよ!?色々と手助けしてあげてたんだよ!?なのに何でご主人様が斬られなきゃいけないの!?ヴェロニカは悔しくないの!?」

「黙りなさい!」

珍しく大声を張り上げたヴェロニカにポウだけではなく私やクーやアノンも少々たじろぐ。

「私だって出来るならあの男の喉を掻っ切ってやりたいわ…でもそれは出来ない…なら今は心を整理する為に落ち着くのよ」

「…うん、怒鳴ってごめん」

素直に謝るポウにヴェロニカは頷く。

皆落ち着いて、今夜は追っ手が来ないか見張りをつけて眠る事にしたのだった。
13/01/08 23:07更新 / ハーレム好きな奴
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■作者メッセージ
とりあえずは今まで通り書いていますが……やはり読み辛いという方は感想にて投票して下さい。

と、まぁ今回はカズマの裏切り回です。

本来はもう少し仲間でいる予定だったのですが、予定を繰り上げて裏切らせました。

これからsans rival団は少しずつ追い詰められます。

次回も近いうちに……ご期待下さい。

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