連載小説
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幕間4 愛を取り戻せ!下 
チリン・・・・・・

彼岸が過ぎ、夏の暑さが和らいだ頃、妙齢の女性がその膝に少年の頭を乗せ、優しくその髪を撫でていた。
彼女の名前は「斎藤 千紘」。政財界に太いパイプを持つ斎藤家の次男である「斎藤 公介」に嫁いだ女性で、少年「斎藤 彰」を生んだというのに女性としての色香は些かも失っていなかった。
見る人が見れば、母親と息子の微笑ましい光景と思うだろう。
だが・・・・。
千紘の瞳には親子の愛とも違う仄暗い情念が渦巻いていた。

「この髪の肌触り・・・公彦様そっくりね・・」

彰の父親である「斎藤 公介」には双子の兄である「斎藤 公彦」がいた。しかし、彼は生まれつき病弱で14歳になる前に夭折してしまう。公介と幼馴染である千紘は大いに嘆き悲しんだ。そして二人は惹かれあい結婚し結ばれた。
公介は知らなかったのだ。
千紘がなぜ彼に「近づいたのか」を。

「双子ならDNAも同じ。生まれてきたこの子の髪も顔つきもみんな公彦様そっくり・・・。でも!」

千紘の手が彰の瞳に伸びる。

「眼よ!!眼だけが違うのよ!!!なんでアナタは公彦様と同じペリドットの瞳を持って生まれてこなかったのよ!!!」

彼女の願い、それは・・・・。

「まだ完全じゃないわ!!!!」


― 公彦の「双子」の弟である公介と交わり、自らの「息子」として夭折し想いを遂げられなかった「斎藤 公彦」の代用品を得る事 ―


「まぁいいわ。目の色くらい変える方法ならいくらでもあるもの。そうだ。いっそのこと目を・・・・」


彼女の悍ましい計画は実行に移されることはなかった。
数日後、彼女はタンクローリーの事故に巻き込まれ、遺骨すら残らずこの世から消えた。
しかし彼女はゴーストにもならなかった。
彼女は死んだことでようやく、公介と彰を裏切ってまで手に入れたかったモノを手に入れることができたのだから。



― 愚連隊「明るい家族計画」アジト ―

「・・・・お前が誘拐した彰くんを返せ」

黒い竜へと変わった若葉がアイシャに命令する。冷たく、その声に暖かさはなかった。

「それが落し物を拾ってくれた恩人に対する言葉かね?」

「返せ。二度は言わない」

そう言うと若葉はアイシャにナイフのように鋭い爪を向けた。

「言葉より暴力か。下品だな・・・・」

アイシャもその翼についた爪を若葉に向ける。

「アタシも下品なのは嫌いじゃないぜ!!!!」

二人の獣はぶつかり合った。


ドタドタ!!


「彰!大丈夫か!!!」

「あと若葉ちゃんも!!」

若葉に遅れて数分後、タロンとドーラが若葉に合流する。ワイバーンであるタロンとドーラが竜化したとはいえ、若葉に遅れをとることはないはずだった。
だが、タロンからアイシャの寝床を知った若葉は二人をその場において壁を窓ごと破壊して飛び立ったのだ。

「しかし竜化してその力を既に使いこなしているとは・・・・」

若葉が「学園」で戦闘訓練を積んでいるとはいえ、ホルスタウロスとドラゴンでは根本的な力の使い方が違う。
だが、若葉はドラゴンの持つ圧倒的な力に「慢心」することなく、アイシャの攻撃を受けていた。

バシッ!

アイシャの前蹴りが若葉に決まるが、ドラゴンの耐久力を持つ若葉には蚊に刺されたほどの痛みはない。

「やっぱり固てぇな!おい!」

彼女は若葉に掴まれる前に、蹴りの反発力を生かして高く飛ぶ。

― いい?若葉、ドラゴンというのは戦艦に例えられる。驚くほどの耐久性とブレスに代表される攻撃能力 ―

― 対してワイバーンは駆逐艦ないしは軽巡洋艦だ。スピードを生かした手数で相手を翻弄し、必殺の一撃を狙う ―

若葉の脳裏に「学園」の格闘教官であったサキュバスの「ナジャ・クロスロード」の教えが思い出される。

「コイツがアタシのとっておきだぁぁぁぁぁ!!!」

アイシャが天井高く飛びそのまま回転し、若葉の脳天に向かって両脚のかかとを振り下ろそうとしていた。

「ダブルハンマー!!」

ゴゴゴゴゴ!!!

「ふん!!!!!!」

アイシャの渾身の一撃は若葉の両腕で容易く受け止められてしまう。
不発。
しかし、それこそがアイシャの狙いだった。

「かかったなアホが!!」

すぐさまアイシャが翼を十字に組み魔力を波紋のように纏わせる。

「あれはヘッドの必殺技!稲妻十字空烈刃(サンダークロススプリットアタック)!!!」

「勝った!若葉のドラゴニア旅行記完!!」

いつの間に復活したのだろうか、ホリーとダリ―がアイシャに声援を送る。

「・・・・」

若葉が口を大きく開く。タロンが微かな空気の震えを感知した。

「いかん!!ドーラ!あとその他!!今すぐ耳を塞げ!!!!」

ギュォォォォォォォォォォォォ!!!!

洞窟住居の全てが震える。
竜の最大の武器である「ドラゴンブレス」。
ドラゴンの駆除を生業とするドラゴンスレイヤーたちが最も警戒する攻撃の一つだ。
魔王の代替わり以前、この強力な一撃に対抗するため方法は研究されており、一度だけブレスを無効化するドラゴンの生皮などを予め着込むことや、ブレスの吐けない場所への移動、腕に覚えのあるドラゴンスレイヤーなどは命知らずにもブレスを吐く前、大きく開けたドラゴンの口に爆弾を投げ入れたなどの記録がある。
だがドラゴンとてただの蜥蜴ではない。対処法は既に編み出していた。
それが「ハウリングブレス」だ。
竜の咆哮を一つの音波にまとめて相手に放つ攻撃で、現状対抗手段はない。
若葉は誰からも教えられずソレを放ったのだ。
なお、魔王の代替わり以降ハウリングブレスはドラゴニアにおいて、音波マッサージに有効活用されている。

パラパラ・・・・

「ドーラ・・・・・大丈夫か・・?」

「女竜会でのアルトイーリスリサイタルよりはマシだよ・・」

タロンが若葉とアイシャを見ると、二人ともダメージを受けていた。若葉のブレスよりもアイシャの稲妻十字空烈刃の方が早かったのだ。
故にハウリングブレスの威力は半減してしまった。
二人とも満身創痍。
だが・・・二人の闘志に陰りはない。
だから気付けなかった。
愛しい伴侶が目を覚ましたことに・・・・。


身体を揺らす衝撃に彰は懐かしい「母」の思い出から目を覚ました。
目の前には黒い黒曜石のような鱗を持つ竜の姿になった若葉と・・・・。

「若葉と・・・あの時のワイバーン!」

彰はダークメイジに薬を嗅がされ意識を失う前、ひとりのワイバーンが彼を助け出したことは朧げながら知っている。
あのワイバーンが母親が幼子をあやすように介抱してくれたことも・・・。
意志ある存在にとって消えることのない「闘争本能」。人は常に闘争を求める。
彼の声は今の二人には「カナリア」の鳴き声ほどの価値はない。
愛する伴侶と恩人が戦うのは彰とて見たくなかった。

「覚悟完了・・・・・」

そう呟く彰に恐れはなかった。


「どりゃぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!!!」

若葉がそのガントレットのような鱗に包まれた拳を振り上げる。

「沈めやぁぁぁぁ!!!」

アイシャも満身創痍になりながら荒い前蹴り、所謂「ヤクザキック」を繰り出す。

その瞬間だった。

「あ!」

バキ!

グシャ!

「え?」

マキョ!

ゴネゴネ・・・・

小柄な人影が二人の間に入り込んだのだ。当然、技を止めることはできず、その小柄な影は若葉とアイシャの攻撃を受けることになってしまった。
呆気にとられた二人をその小柄な影、「ショタ化」した彰の手がガッチリと拘束する。

「皐月流番外!椋鳥!!!」

彰が二人を抱え上げた体勢から腰と膝のバネを生かして体を捻り二人を自身の左後方へと投げ放った。



「・・・・知らない天井だ」

昏睡から目覚めたら言いたいワードナンバーワンのセリフである。

「彰くん大丈夫だった!!!ごめんなさい!!」

「済まねぇ!!アタシとしたことが・・・・」

彰が身を起こすと、若葉とアイシャが彰を挟むようにソファーに座っていた。

― 皐月流番外 椋鳥 ―

皐月流には珍しい「死に技」だ。
死に技とは次ぎの技に繋げない技のことであり、例えば柔道の「巴投げ」、剣術における「突き」などがあげられる。
「椋鳥」は一度に二名の相手に対抗する技であり、敵の力を自身から外しつつ敢て全身で攻撃を受け止めた上で拘束し投げ放つ技だ。
再起不能と紙一重の、一命を賭したまさに「捨身技」だ。

「その様子だと二人は事情がわかったんだね」

「うん・・・・彰くんが攫われたと思って・・・・」

「アタシは馬鹿だから、舎弟のホリーとダリ―がやられたのを見て頭に血が上っちまった」

アイシャが銀の皿に載せられた「ソレ」を彰と若葉の前に置く。

「アタシらにとっての虎の子、上物の・・・チョコレーホーンさ。遠慮なく食べてくれよ」

― チョコレーホーン ―

ドラゴニア全土で大人気のスイーツの一つで、期間限定商品としてラブライドで販売されている。
近年は門の向こうからの観光客や様々なガイドブックに掲載されていることから、その入手は難しくなってきている。

「ったく!今じゃ入手が難しいってのに!!」

「ホリーさんにダリ―さん、ごめんなさい・・・」

「ならさ・・・・ソイツを抱かせてくれよ?」

「?!」

「おいおい青筋立てんなよ。アタシはただハグしたいだけさ」

「ハグ・・・・?」

「アタシらはイエスショタコン!ノータッチ!で通してんだよ。ヘッドもアタシらもショタコンでさ、不良と呼ばれても困ったガキは見逃せねーのさ」

「彰くんがいいのなら・・・・」

若葉が彰を見る。

「うん。ハグくらいなら・・・いいよ」

そう言うと彰がダリ―を上目づかいで見る。

「グハァ!!凶悪すぎ・・・・!」

ギュッ!

ダリ―が彰を抱きしめる。
ショタ独特の中性的な柔らかさと、その中に潜む雄を感じさせる筋肉を全身で感じたダリ―は・・・・。

「我が人生に一片の悔いなし・・・、ガクッ」

彼岸に行ってしまった・・・・。
彰がホリーとアイシャに謝罪を兼ねた抱き枕になっている時だ。

ガガガガガガ!!!!

アジトに使っている洞窟住居全体が揺れた。

「地震?!いや違う!!コイツは外部から攻撃を受けている!」

「何処の馬鹿だよ!!ヘッド!」

「ホリー!ダリ―!表にでるぞ!」

「「了解!!!」」

「彰くん!」

「助けてくれた恩に報いるのは当然のことだよ若葉!」

タロン、ドーラも二人に続いた。


― 愚連隊「明るい家族計画」アジト前 ―

「オラァ!!出てこいやクソトカゲが!!!」

一人のダークメイジが半狂乱になりながら杖を振り回していた。
薬を嗅がせて彰を拉致しようとした件のダークメイジだ。

「ったく!今日は千客万来だな、おい!」

「やっと出てきやがったなクソトカゲが!!処女膜破って、無様にアヘッてる姿をばら撒いて表を歩けないようにしてやるよ!!!」

「なになにどうゆうこと?ドラちゃんにも教えて!」

ドーラが入口から顔を出した。

「?そいつ・・・どこかで・・・、あ、ピンクのフリフリを来て媚び売ってるビッチワイバーンだ!!」

「ひどいなぁ・・・ドラちゃんはアイドルなのに!」

「?!」

アイシャの全身を悪寒が走る。この感覚は絶対的な強者の前にした時と同じだ。

「アイドル〜〜!ハハッ、冗談きついぜ!!!」

「(あのダークメイジ死んだな)」

ドーラの桃色の髪が徐々に青白いものに変わっていく。

「ホントはアイドルがこんな事をしちゃいけないんだけどね・・・・」

優し気なドーラの瞳が赤く染まる。

「久しぶりにキレちまったぜ・・・・。覚悟できてんだろうな!!!!」

青白い髪と血のように赤い瞳のワイバーンがそこに立っていた。そこに「竜騎士団のアイドル」と自称する、ドーラ・シェフィールドの面影はない。

「あたしとやり合うつもりか?おいお前ら!!!」

「「「「「へい!」」」」

ぞろぞろと柄の悪そうな連中が出てくる。確実に30人以上いるだろう。

「会いたかったぜ貴様!。ショタを傷つけようとしたお前の罪を数えろ!」

アイシャが

「彰のおかげでショタニウムは補充できたからな、ダリ―さんやっちゃうよ!!!」

ダリ―が

「アタシこの戦いを終えたら、彰のほっぺをスリスリするんだ・・・・」

「それは流石にアウト」

ホリーのフラグを容赦なくへし折る若葉

戦意高揚、いわゆる「キラキラ状態」の彼らの前に一個師団とて障害にならない。
戦いは一方的だった。

「粉微塵に吹っ飛べぇぇぇぇ!!!」

キュォォォォォォォォォォォォ!!!!

竜の咆哮のような異音が周囲を満たした。
若葉が右腕の黒曜石のような鱗に魔力を流し超振動を発生させ敵の集団に突っ込んでいく。地上スレスレを飛行したのだろう、地面には醜くえぐれた後が残った。まるでデロリアンである。

モブ「お・・おい、アレ!!!」

異変に気付いた敵が逃げようとするが、時すでに遅し。
その瞬間、マッパになった連中が宙を舞う。
そこ、「グラインドブレード乙!」とか言わない。

「ダリ―、若葉ばっかりイイ恰好させるわけには!」

「いかないぜホリー!」

「「ファイナルフュージョン!!」」

ワイバーンのダリ―がリザードマンのホリーを掴むと高高度まで飛んだ。

「「ストライク決めるぜ!!!!」」

ダリ―は急降下の勢いのままホリーを投下した。
無論、ただ投下したわけではない。ホリーはその手にランスを構え、空中でドリルのように回転し敵の集団に突っ込んだのだ。
そこ「仮面ライダーナイトのファイナルベントかよ!!」とも言わない。

モブ集団「なんだよぉぉぉ!!!!」 パッカーン!!

敵集団はホリーとダリ―の合体攻撃に為すすべもなくボーリングのピンのように吹っ飛んだ。

「みたかダリ―!ストライク決めてやったぜ!!!」

「ホリー!次いくぜ次!!」

「応!!!」

パッカーン!!

パッカーン!!

モブが吹っ飛ばされる音が周囲に響いた。

「何だよ!!何なんだよコイツら!!!」

ダークメイジのアリアラは混乱していた。獲物をむざむざと奪われたのだ、これくらいの戦力ならただの愚連隊なら磨り潰せるだろうと思っていた。しかしその目論見は水泡に帰した。
強すぎるのだ彼らは。

ガシッ!

「へ?」

アリアラの背後を何者かが拘束した。

「何子分見捨てて逃げてんだよ?」

「あ・・ああ・・」

アリアラの背後で魔力偽装を解いたドーラがニヤリと笑う。

「おいおい!ソイツはアタシの獲物だぜ」

「そうね・・・。一緒に楽しまない?空中リフティングでさ」

「いいな!ソレ!!」

「ヒッ!嫌ぁぁぁぁぁ!!!」



空中一万メートル

ポーン!

あやまるからもう許して

「アンタ結構いい線いってんじゃん!」

「何、正式な訓練は受けてねぇよ」

ポーン!

目がまわるぅぅ

「もしかして移住組?」

「ああ、ホリーもダリ―もさ。アタシ達が愚連隊なんてヤクザなことになっちまったのは理不尽が許せなかっただけさ!よっと!!」

ポーン!!

ぬぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

アイシャがサッカーボール代わりにされているアリアラを高く蹴り上げる。

「うわっ、ションベンがついちまったぜ!!」

― 空中リフティング ―

ワイバーンが行う私刑、リンチの一種で文字通り、対象を空中でサッカーボールのリフティングのように蹴り続けるものだ。
絶対に死ぬことなく傷つくほどの力で蹴らないにしろ、高高度で二人のワイバーンに蹴り倒されるのだ。控えめに言って「地獄の責め苦」といえる。
ちなみに、ワイバーンのみで構成されたとあるギャング団の入団テストは、この空中リフティングに10分間耐えることだったりする。

「なぁ、もしよければ一緒に来ないか?」

「ホリーとダリ―と一緒ならな」

ヒューンン!

「よっと!!」

落下してくるアリアラをドーラが足先で掴む。

「歓迎するぜ!ドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊へ!!」

かつて、はみ出し者だった自分がクーラにスカウトされた時のようにドーラは微笑んだ。




「どうしてこうなった・・・・・」

ジギー・カスケードは頭を抱えていた。

「ホリーちゃん!ダンスの時はもう少し腰を突き出す!!」

「へ、へい!」

「あとダリ―ちゃんはもう少し笑って!!」

「この顔は生まれつきで・・・・」

「ドーラちゃんに口答えしない!いいね・・・・?」

「はっ!はい!!!!」

「そうだぜ、ホリー、ダリ―!」

「アイちゃんはサービスし過ぎ!!パンチラは見えそうで見えないのがいいの!!!あとアイドルがスケスケ黒パンなのはアウト!!白パンにしなさい!」

「えっ?!ええええええええ!!!!」

思わずアイシャがスカートを押さえる。

「・・・・・・・」

ポチポチ

「ドラゴニア知恵袋」

― 緊急!職場がアイドルの訓練所になっていました・・・・。誰か助けてください ―

苦労人ジギー・カスケードが報われる日はやってくるのだろうか・・・。




19/10/28 20:20更新 / 法螺男
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■作者メッセージ
彰は母である千紘の本性を全く知りません。
故に、彼にとっての理想の母だったりします。
来週は「氷上の観艦式」で更新できない、かもです。

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