連載小説
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幕間5 またね・・・・
「てやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

黒い黒曜石のような鱗をきらめかせながら、竜化した若葉がハルバード ― 槍と長柄斧の特性を併せ持つ長柄武器 ― を振りぬく。

「甘いわね若葉さん!」

ドラゴニア竜騎士団団長である、アルトイーリスはその攻撃を鞘ごとロングソードを当てることにより無効化した。

〜 来る・・・! 〜

打撃武器、斬撃武器など白兵戦用の武器は数あれど、これらには共通のウィークポイントが存在する。
それは「インパクトの瞬間完全に無防備状態になる」ということだ。

ダッッッ!!!

若葉が地面を蹴り後方へと飛ぶ。
「学園」で格闘教官の「ナジャ・クロスロード」から学んだ「回避方法」。
最も効果的で・・・・「テキスト」通りの動きだ。
アルトイーリスがニヤリと笑う。

「螺旋弾!!!!!!!!」

振り払われた諸刃のロングソードの軌道から放たれた、小さな竜巻にもみえる空気弾が若葉を襲う。

「クッ!避けられない!!!」

今の若葉に放たれた空気弾を避けることなど、できない。

バシッ!バシッ!!!

「キャアァァァァァ!!!!」

ろくな退避行動をとれない若葉はなすすべもなく落とされた。


「流体力学」という学問がある。流体の静止状態や運動状態での性質、また流体中での物体の運動を研究する力学の一分野の総称であり、これは諸兄には馴染みのない学問ではあろう。
しかし、新幹線の静音パネルや果ては少量の水で全て流せるエコノミーウォシュレットにも理論が応用されるなど我々の日常生活にとってなくてはならない学問だ。
アルトイーリスが放った「螺旋弾」は、ロングソードを振り払うことにより発生した空気の渦、それに魔界銀製のロングソードを導線に魔力を流し込んで固定し、相手に放つ「弾幕技」だ。
剣士であるアルトイーリスが「弾幕を張る」という、この奇策に対抗できる者は少ない。アルトイーリスのドラゴニア竜騎士団団長襲名は女竜会でその場のノリで決まったわけではないのだ。
実際はそうだが・・・・。


「ははっ、負けちゃったね・・・」

「若葉さん立てるか?」

「うん・・・大丈夫よ、アルトイーリスさん」

「若葉さん、私のことはアリィでいい」

そう言うとアルトイーリスは微笑んだ。

「汝、若葉響を名誉竜騎士団員として、ドラゴニア女王デオノーラが認める!!」

突如として、ファンファーレが鳴り響いた。

事は「彰ショタ化事件」に遡る。
あの日、若葉はドラゴニアで再生された「竜魂の首飾り」を使用して竜化し、ショタ化した彰を拉致した愚連隊「明るい家族計画」のアジトにカチコミをかけた。
もっとも、件の愚連隊の連中は不貞の輩に攫われそうになった彰を助けてくれた恩人だったのだが。
しかし、その後彼ら愚連隊に恨みを持つ連中が襲い掛かってきたことにより共闘することになる。結果として襲い掛かってきた連中は指名手配中の輩も多く、若葉達の行動は称賛されることになった。
愚連隊の面々はその後「ドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊」に入隊し、若葉もデオノーラ女王より名誉竜騎士団員として叙勲を受けることになった。
竜騎士団長である「アルトイーリス」との激しい模擬戦は若葉自身の力を女王デオノーラに示す意味合いがあったのだ。


「疲れたぁぁぁぁぁ!!!!」

叙勲式を終えて訓練所に戻った若葉は背を伸ばした。

「ははっ、確かに疲れたよ。叙勲式にはアルトイーリスさんを始めデオノーラ女王や妹君、それにドラン人魔共国のマリオンさんもいたしね」

そう言うと彰は自らの腕につけられた腕輪を見る。ドラゴニア竜騎士団名誉団員としての身分を保証するそれはデオノーラ女王自身の魔力が込められており様々な特権が付与されていた。とは言っても、貴族のような所領を得られるわけではなく買い物の際に割引が効く程度なのだが。

「さてと・・・・!」

「どうしたんだい若葉」

「ドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊のみんなから女竜会に誘われたんだ!彰君もでしょ?」

「ああ、里桜さんと一緒に飲みに行く予定だよ」

「里桜さんなら安全だね」

「ああ、若葉も楽しんで来てね」

「うん!」

今日はドラゴニア滞在の最後の夜。明日の午後にはフライング・プッシー・ドラゴン号に乗って、「門の向こうの国」こと懐かしい「日本」へと戻ることになるのだ。


― 元祖竜骨ラーメン「紅白亭」 ―

ここはドラゴニアでも珍しい日本から移住したサキュバス夫婦の経営する、ドラゴニア唯一の日本式ラーメンを出す店だ。
ドラゴニア観光の魅力の一つに食事があるが、例の「神待ち」以降はこの店で食事をすることにしている。経営者は共に元日本人なので、ドラゴンサイズの料理ではなく普通サイズの料理を出してくれるのもいい。
無論、ドラゴンサイズのラーメンも出せるので観光客以外にも顧客は多い。

カランカラン

真鍮製のドアベルが鳴った。

「こんばんわましろさん」

「いらっしゃい!若葉さん!!」

店番をしていたサキュバスの女性が若葉を抱きしめた。
彼女の名前は「竜崎ましろ」。
ペイパームーンのオーナーバーテンドレスである「グランマ」の「妹」の一人であり、「人間」から「魔物娘」へと転化した存在でもある。

「あの・・紅白ちゃんは?」


― 竜崎 紅白 ―

店主である紅とましろの間に生まれた娘であり、彼女を見ることが若葉の楽しみの一つでもあった。


「紅白は知り合いのドラゴンが見てくれるから安心して若葉さん」

「すいません。夫婦の団欒を邪魔したみたいで・・・」

「いいのよ。グランマにもちゃんとしているところを見せたかったし」

そう言うとましろは若葉に笑顔を向けた。

「みんなはもう来ているかな?」

「ええ。後はアリィかな。何でも知り合いを連れてくることになったとかで遅れるって連絡があったわ」

「場所は二階?」

「軽くつまめる物とジュースを置いてあるからゆっくりと寛いでね。お店は貸し切りにしてあるから」

「ありがとうございます!」



「よ!若葉待ってたぜ」

二階に上がった若葉を歓迎してくれたのはクーラだった。

「元気そうねクーラ!タロンさんから査問会に呼ばれたって聞いて心配していたんだよ!」

「ハハッ!アタシの罪は帳消しになったし、あの査問会もアタシが軍に復帰するかどうかについてだったからな。若葉、心配させて悪かったな」

元気そうなクーラの姿を見て若葉は安堵した。
思えば、あの飛行船の一件以来まるで毎日が「祭り」のようだった。時にはヒヤリとすることもあったがいい思い出だ。
見るとクーラの他にドラゴニア特殊工兵隊のタロンやドーラ、ジギーもいて、皆それぞれ寛いでいた。
ドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊には「ワームのガンプ」という隊員がいるのだが、今日の女竜会には出席していない。ドーラの話ではなんでも、大食い大会に出場して優勝したのはいいけど、その後撃沈。宿舎で呻いているそうだ。
アイツバカだから限界がわからない、とは親友のドーラの言葉だ。

ガラッ!

「遅れて済まない!!」

引き戸を開けて現れたのはアルトイーリス。ドラゴニア竜騎士団のトップであり、その実力は若葉との模擬戦で証明されている。
そして・・・・・。

「へ?!」

アルトイーリスと一緒に入ってきた人物に全員の目が釘付けになる。恐らく「竜騎士団のアイドル」ことドーラ以上の有名人であろう、その人物の名は・・・。

「あの〜〜〜、デオノーラ女王ですね?」

透き通るような透明な銀髪、隠そうとも隠し切れないドラゴン独特の強烈なオーラ。この竜皇国ドラゴニアの元首であるデオノーラ女王に間違いなかった。
しかし、今は牛乳瓶の底のような眼鏡と幼年学校の制服である「セーラー服」を着用している。
別の意味で強烈だ。

「い、いやわら、私は士官候補生のノーラですぅ!アリィ先輩に連れられて来たんで〜〜〜」

デオノーラ女王の熟成された肢体をセーラー服に押し込んでいるのだ。恐らく、万人が万人こう言ってしまうだろう。BBA無理すんな、と。

「・・・・・」

クーラが

「・・・・・」

タロンが

「・・・・・」

ジギーが

皆一様に黙ってしまう。

だが。

「私、竜騎士団のアイドル!ドラちゃんだよ〜〜〜!」

ノーラがデオノーラ女王であることを知っているのか知っていないのか、それともただの天然か。
いつもと変わらないドーラ。そのことがその場の空気を変えた。

「まぁ、無礼講の飲み会だからな。楽しくやろうぜ!ノーラ!!」

そう言うとクーラが「ノーラ」の肩を抱く。

「若葉もドラゴニア最後の夜なんだから楽しまなきゃ損だぜ!」

「ええ、そうね!」

全員がエールの注がれたジョッキを持つ。

「「「「「「「乾杯!!!!!」」」」」」」

ジョッキを打ち鳴らす音が景気良く響いた。



「でさ、若葉〜〜〜、彰のヤツといつヤったんだ?」

酒も美味い料理もある。
と、くれば「エロ話」の時間だ。
若葉はこの女竜会では唯一の既婚女性。アーシアはセシルと今後の事を話し合うということで参加していない。

「え?、いや〜〜その〜〜」

「言っちゃえよ!その方が盛り上がるし!!」

「は〜〜〜い!ノラちゃんモノマネやりまーす!!!」

デオノーラ女王、もといJKのノーラが立ち上がる。

「ドラゴニア女王、デオノーラが命ずる!若葉、そちの睦事をわらわに話すがよい!!」

「ウッ・・!」

さすがに女王命令とあれば話さなければならない。
若葉も白旗を上げざるを得なかった。

「一応言っておくけど、引かないでくださいね・・・・・?」

「ああ、人のセックスを笑う程落ちぶれちゃねーよ」

「そうそう夜の参考にはしちゃうけどね!ノーラちゃんもでしょ?」

ドーラの物言いにノーラのこめかみに青筋が見える。が、それも一瞬だった。

「あれは私が学園の高等部に・・・」

「え?確か若葉は小学生高学年くらいの時に転化したって言っていたよな」

「うん。そうだよクーラ」

「じゃあ若葉さんは三年近く彰さんと清い関係をしていたって事?」

ジギーが身を乗り出す。

「清い、と言えばそう・・・かな。文通していたし」

「遠距離恋愛ってこと!なんかドラちゃん憧れちゃう!!!やっぱり親に反対されたとか!!」

「遠距離というか・・・・彰くん、三年くらい神隠しにあってて」



「「「「「「へ?」」」」」」



「ほら!雰囲気が変わっちゃう!」

「その・・・神隠しということは失踪していたってことか?」

若葉が静かに頷く。

「私が学園に落ち着いて一年経った日の事で・・・」




「・・・・・・若葉ちゃん、楽しそうだったな」

彰は一人、布団の中で昼間の出来事を思い出していた。
人魔共栄を掲げる「学園」。彰の幼馴染である「若葉響」はその魔物の起こしたテロで「転化」させられた。
全ての魔物がそうではないとまだ幼い彼でも理解できる。
だが心に芽生えた不心は拭えなかった。そう、「学園」で自分らしく振舞っている若葉の姿を見るまでは。
急に、自分が若葉から「置いてけぼり」になってしまったように感じた。

「?!」

空気が水飴になったように重く感じる。

「な・・・に・・こ・・・・れ?」

口も思うように開けず、助けさえ呼ぶことは出来ない。


― 驚いたな。儂の心の一法を喰らっても動けるとは ―


「だ・・・れ・・・・?」

彰が辛うじて自由に動く瞳で見たもの。

「?!」

それはまさに「異形」だった。

血が乾いたかのようなドス黒い色に染まった天狗面

衣服は身に着けておらず、赤フンドシのみを着用していた。

赤フンドシに包まれた、その男の男根は・・・・激しく勃起している。

「グッ・・・・ガァァッァァァァ!!!!」

命の危険もさることながら、「貞操」の危険を感じる状況が彰の秘めたる能力を覚醒させた。
彰は何とか立ち上がり構えを取るが・・・・・。

「いない・・・・?」


― お前を天狗の国に連れていく ―


彼の背後からその声が響いた瞬間、彰の意識が刈り取られた。




「彰くんの話では何処かの山で三年間特訓を受けてたって。まぁ、毎週手紙はもらっていたけどね」

「「「「「「・・・・・・・」」」」」」

あまりにもヘビーな話に一同、声はない。
しかしただ一人、ノーラいやドラゴニア女王であるデオノーラだけは思案顔だった。

〜 まさか怪人「赤フン天狗」! 〜


― 怪人「赤フン天狗」 ―

おおよそ都市伝説と化した存在ではあるが、記録によると一世紀以上前から活動しているとされている。
どこぞの改造勇者軍をたった一人で壊滅させたとか、赤いサラシとフンドシ、ザーメンをぶっかけたかのように白く染められたオカメ面をつけた「赤フンお仮面」と一緒に世直ししているとか。
酔っ払いどもの与太話にしか聞こえないが、それらに共通するのはあり得ないほどの強さを誇り見た事のない「武術」を使うことだ。
一説によるとその「武術」はジパングの武道家が使っている武術によく似ているとも、「門の向こうの国」の武術であるとも言われている。


「それで失踪してから、ちょうど三年後に彰くんが学園に会いに来てくれて・・・・。思わず抱きしめたら、その・・・ズボンがズレて彰くんが締めていた赤フンドシが見えちゃって・・・」

ホルスタウロスは原種ともいえるミノタウロス同様、個体による差はあれど「赤色」に反応する。
三年間、ある意味お預けを喰らった上にダメ押しの「赤フンドシ」。
若葉の意識を吹き飛ばすには十分だった。

「ヤっちゃったのね・・・・」

タロンの言葉に、顔を赤く染めながら若葉が静かに頷く。

「彰さんは只者じゃないとは思っていたが・・・そんな過去があったとは・・・」

飛行船での一件で彰と戦ったタロンが感慨深げにつぶやく。
彼女とて軍人。傷つけるつもりはないがさりとて手を抜いたわけではないのだ。

「若葉」

ノーラが若葉に向き合う。

「・・・・ここに残ってドラゴニア竜騎士団に入る気はないか?」

「え?!」

「真面目に答えて欲しい」

そこに居るのはムチムチの肢体を無理やりセーラー服に押し込んだ「JKのノーラ」ではない、竜皇国ドラゴニアを統べる女王である「デオノーラ」だ。

「折角の申し出ですが・・・お受けできません」

「理由を教えてもらっても?」

「だって・・・・」




一方、彰はと言えば・・・・

― Bar 月明かり ―

日本で刊行されているガイドブックに紹介されているくらい有名店だ。
双子のワームが切り盛りしている此処はドラゴニアでしか飲めないカクテルだけではなく、「門」から輸入された魔力を持たない「アチラ」の酒も出している。

「それで週に一回以上は赤フンドシを締めてのセックスが夫婦のルールになったんだよ・・・・」

彰が台湾のシングルモルト「カバラン」の入った薄手のオールドファションドグラスを傾ける。
女性のみの飲み会が「女子会」ではあるが、男性のみの飲み会は「男子会」とは言わずただの「飲み会」と呼ばれる。
既婚者、それも魔物の嫁を持つ男性なら話題は一つ。
そう、夫婦の「悩み」だ。

「その気分はよくわかります。僕も妻がその・・・ドラゴンゾンビなんで寝る時なんかはいつも抱き枕状態で・・・・」

「トイレは一体どうしています?」

「寝室に一つ増設しました。流石にオムツプレイはちょっと・・・・」

「・・・・結構里桜さんも大変ですね」

「ええ・・・・」

彰と若葉は魔物の嫁を持つ夫同士、こうしてドラゴニア最後の夜を過ごした。



― ドラゴニア飛行船発着場 ―

「行っちゃったね・・・若葉達」

クーラがフライング・プッシー・ドラゴン号を見ながらポツリとつぶやく。
査問会で軍に復帰することが決まった以上、永遠の別れではないが気軽に会いに行けないだろう。
結局のところ、若葉は日本に帰国することを選んだ。
あちらで彰の子供を産んで両親に見せたいからと・・・。

「寂しいのかクーラ?」

「まぁな・・・・」

「安心しろ。デオノーラ女王も何かお考えのようだ。悪いようにはしないだろう」

「アリィ?」

「私からは以上だ。宿舎に戻るぞ」

クーラはまだ知らなかった。
自分がセシルの第二夫人になること。そしてアーシアと二人で「門の向こうの国」に赴任することを・・・。




魔王の娘たる存在「リリム」
レスカティエの盟主デルエラのように国の元首として君臨する者や、親魔国に嫁ぐ者もいる。

ゴウンゴウン・・・

若葉と彰がドラゴニアを発ったその日。一機の巨大な飛行船が高空を航行していた。
飛行船の名前は「蒼天航路」号。
フライング・プッシー・ドラゴン号を二隻横に繋げたような形をしていて、リリムが乗船していることと強大な軍事力を持つことから移動できる飛行船でありながら一種の「国家」として認識されていた。

「サイトウ、貴方が手塩にかけて技を教え込んだ可愛い子孫に会っていかなくていいの?」

「何、夫婦水入らずで過ごしているんだ。今更カビの生えた爺さんが会いに行っても迷惑なだけだろう」

「カビねぇ・・・」

ソファーで寛ぐ「サイトウ」と呼ばれた壮年の男に一人の女性、いや魔物であるリリムが寄り添う。

「貴方のココはそうでもないわよ?」

そう言うと赤いフンドシ越しに彼自身を優しく撫でる。

「相変わらず底なしだなローグ」

「だってリリムですもの」

ローグと呼ばれた赤いサラシとフンドシのみを身に着けたリリムが微笑む。

「ねぇ・・・・」

彼女が顔を近づけた時だ。

「てぇぇぇぇぇぇいっっっ!!!!!」

背後から加えられた予期せぬ衝撃にローグがのけぞる。

「ローグの番は昨日でしょ!!!今日は私の番だよ!!」

「蓮実・・・・。いきなり背後からハンマーは卑怯でしょ!」

頭から生えた角、一つしかない瞳。
「蓮実」と呼ばれた、伝承における「鬼」そのものであるサイクロプスが怒り心頭でハンマーを振り回す。
当然のことながら、彼女も赤いサラシとフンドシのみだ。

「そう・・・・決着をつけなきゃね」

ローグが立ち上がる。と、同時に蓮実がハンマーを手放した。
二人の「魔物」がサイトウに向き合う。

「どちらが先にサイトウをイかせられるか!」

「勝負ね!」

瞬く間に淫臭と水音に包まれるキャビン。それを壁にかけられたドス黒い色に染められた天狗面と純白に染められたオカメの面が見つめていた。






― 斎藤議員!!お答えください!! ―

「所属する新聞社とお名前を答えてください」

― 毎朝日報の文月です。先日提出された法案はどうお考えですか?あれは・・・ ―

「魔物には狂暴な種もいる。故に国家の名において彼らに指紋登録やGPS装置の携帯を強いるのは当然だ」

― でもそれは人権に対する・・・・ ―

「差別法案とでも?差別とは人間同士だから起こることだ。区別と言って欲しいね」

― 斎藤議員! ―

― 斎藤議員! ―

「予定が押しておりますので質問はこれまでにさせていただきます」

黒のタイトなスーツに身を包んだ秘書が記者達を制する。

― おい逃げんな!! ―

― 差別主義者が!! ―

野党「神民党」の総裁である、「斎藤 公介」は背後からの罵声を無視して黒のクラウンに秘書官と一緒の乗り込む。

「もう人化を解いてもいいぞ、レーム」

「ありがとうね。人化は肩が凝って仕方ないの・・・・揉んでくれるかしら?」

ダークスーツが溶け出し、彼女の身体を覆う。同時に白い肌が青白く染まり瞳が赤と黒に変わる。
テロリストとして「門の向こうの国」どころか「外地」においても賞金がかかっているデーモンの「マクスウェル・レーム」が座っていた。

「知性が足りないことは罪ね。去年起こったケサランパサランとマンドラゴラの大量失踪、いや誘拐事件を忘れているのかしら」

「自分の身内に関わりがなければそんなものだ。人間という生き物はな。それになんだかんだ言っても君は誘拐された彼女達を全て助け出したじゃないか」

「私、同族だけには優しいのよ?」

「違いない。君の事だから犯人は大方、男日照りの親魔国辺りに売り飛ばしたんだろ?」

「どうかしらね?」

公介の問いかけにレームは蠱惑的な笑みを浮かべるだけだった。

「魔物排斥派の急先鋒である貴方が実は過激派と繋がっていると知ったらどう思うかしらね」

「どうも思わんさ。人は一度レッテルを貼ったら決して剥がさない。それが間違いだとしても」

「やっぱり素敵よ貴方・・・・!ますます欲しくなったわ」

「俺の魂か?なら無駄だな。俺の魂はずっと死んだ妻のものだ、誰にも渡す気なんぞない」

「これはゲームよ。貴方が死ぬまでに私が貴方を堕としたら私の勝ち。逃げ切ったら貴方の勝ちよ」

「お受けしよう」

二人を乗せたクラウンは都会の喧騒を進む。
その先に何があるのか、誰も知らない。











18/10/15 21:00更新 / 法螺男
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■作者メッセージ
イベント開始前に終えることができてよかった・・・。
赤フン天狗の正体は「幕間の物語」と感想欄を読むとわかります。

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