連載小説
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幕間3 愛を取り戻せ!中
― Y13訓練所 裏庭 ―

〜 悪りぃ、書類を提出してたら遅れちまった! 〜

〜 ん?ああ、そうさガンプ。とうとう放校処分になっただけさ。まぁ、あのふざけた先公の顔を見ずに済むからいいけどな 〜

〜 おいおい!泣かなくていいぜ!賢いアタシはちゃんと次が決めてるから心配すんなよガンプ! 〜

〜 な?!アタシは身体なんか売る気はないぜ!よく考えろよ、嫁になって永久就職なんてアタシの柄じゃないだろ? 〜

〜 ちゃんとした所さ。アタシをスカウトした上司も話せる奴だしな、おまけに滅法喧嘩も強いし。ホント、雌にしておくのが惜しいくらいだぜ 〜

〜 なぁ、ガンプ・・・〜

〜 ・・・一緒に来ないか?こんな糞みたいなとこを辞めてさ! 〜

〜 心配すんなよ!今まで以上にバカやれるトコさ! 〜

 

「一緒に行こうぜ!ドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊へ!」



カッカッカッ!

竜騎士団本部の廊下を歩く、ドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊の隊員であるワイバーンのタロン・クロフォードの後に若葉が続く。隊員であるドーラも一緒だ。

「ここだ」

タロンの声に若葉が見上げると、重々しい鉄のドアには「ドラゴニア竜騎士団兵装技術科」とあった。

「ここは主に竜騎士団の兵装の開発、実験を行っている工廠だ。・・・・入るぞ」

「・・・はい」

ガチャッ!

鉄製の扉から物々しい印象を持つが、工廠の中はごくごく普通の内装だ。もっとも部屋の内装に似つかわしくない仄かに漂う機械油やオゾン臭、分解された拳銃やホルマリン漬けの何かしらの生物がテーブルに置かれていたが。

「ドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊、タロン・クロフォードだ。箱の封印解除を頼む!」

「大声出さなくても聞こえているよタロン・・・・」

奥の机に置かれた本の山が崩れる。中からは眼鏡をかけた黒髪の青年が顔をあげた。

「おいおい里桜。また徹夜だったのか?」

「僕を心配してくれるのかい?タロン」

「なに、お前が倒れると色々面倒だ。特に特殊工兵隊の爆雷はココでしか調整はできないからな。そういえば奥さんのダリアは何処にいる?」

「ああダリアなら、6号フライトスーツを着込んで空の散歩さ」

「相変わらずだなダリアは」

「そう言ってやるなよタロン。ダリアはドラゲイ帝国時代、骨折が治らず飛べなかった事で処分されたんだ。機械の手を借りているとはいえ今は自由に飛べる、これほどうれしいことはない」


― 「ドラゴンゾンビ」のダリア ―

彼女はドラゴニア竜騎士団兵装技術科に籍を置くドラゴンゾンビであり、飛行能力を「アシスト」するフライトスーツの専任装着者だ。

ドラゴンゾンビであるダリアがなぜ竜騎士団に所属しているのか?

それを語るにはあまりにも時間がない。だがいずれ明かされるだろう、今はその時ではない。


「あの・・タロンさん」

「ああ済まない。彼は里中里桜技術少佐だ。この工廠の責任者で、わかると思うが彼は門の向こうの国出身だ」

「初めまして里中里桜です。えっと・・・」

「若葉響です。よろしくお願いします」



「若葉さん、事情はわかったよ。でも・・・・・」

里桜がタロンを見る。

「彼女も覚悟している。それに私と君で、封印解除に必要な幹部二名の同意は満たしている」

「だが・・・・」

若葉の決意は固い。

「仕方ない。見てもらってそれから判断してもいいだろう。ちょっと待っててくれ」

里桜が何の変哲のない壁際に静かに立った。

「ドラゴニア竜騎士団兵装技術科、里中里桜技術少佐が命ずる!ストラクチャー解除!!!」

ピシッ!ピシシシィ!!

ガラスに罅が入るように「空間」が崩壊していく。そして、そこに壁はなく広い研究室が広がっていた。

「認識阻害結界と位相差バリアの応用。極々たま〜に技術を盗もうと侵入する連中がいるんでね。少々大袈裟だが必要なことだ。タロン、それと若葉入ってくれ。あとドーラは留守番」

「え〜〜〜!ドラちゃんも入りたいよ!!!」

「この研究室は魔法警戒レベル3だ。若葉とタロンは大丈夫だけど・・・・・。ドーラ、君が重ね掛けしているソレを解除するなら問題ないけどね」

里桜がドーラを見る。

「これはドラちゃんのアイデンティティなのに!!!いいよもう!ここでダンスの練習してるから!!!!」

「助かるよ」

三人は研究室に入った。

「ッ!」

若葉は身体全体が押されるような感覚に声をあげた。

「門の向こうでは位相差空間は門以外にはないからね。大丈夫、身体には影響はないよ」

ピピッ!

― 指紋及び魔力認証完了しました ―

「セントラル!封印指定物件イの5号を此処に」

― 了解しました ―

すぐさまキャンサーの触腕のようなハンドが伸び、奥から鋼鉄製の箱を掴んで中央のテーブルに乗せる。

「タロン、手を。最終認証をする」

「ああ」

里桜の言葉にタロンが「箱」に手をかざした。

パシュッ!ガシャ!ガシャッ!!

「箱」が一人でに開いて、中から現れたのは深い闇色の宝石が嵌められた首飾りだった。

「竜魂の首飾り?」

「若葉さん、竜魂の首飾りの事については知っているかな?」

「ええタロンさん。確かガイドブックに書いてありました。ドラゴニアの国宝だとか・・・」

「なら説明を省くことができるな」


― 竜魂の首飾り ―

かつてのドラゲイ帝国時代に制作された高位魔法装飾具の一つであり、その特性は「身に着けた者の魔力に干渉し強制的に竜へと書き換えてしまう」ことだ。
ドラゴンブレスでのみ精製できる希少鋼「ドラゴダイト」がふんだんに使用されていて、その制作方法は全く不明であり王魔界の錬金術師や魔導士でも再現は不能。ドラゴニアでは4点発見されていて、内一つは魔王軍サバトへ貸与され、もう一つはレスカティエの主である「デルエラ」に送られている。
或る人は言う、これは「人の持つ可能性」であると・・・。


「でもどうして、此処に・・・・?」

「それについては僕から説明するよ。どんな希少なアーティファクトでも制作段階で出た試作品や不良品が見つかることがある。数年前、あるドラゴンの夫婦が邸宅を改装した際に、隠し部屋と一緒にこれが見つかったのさ。ご丁寧に製作者の死体と一緒に」

「これは・・・つまりは本物なのですか?」

「本物と言えば本物だろう。もっとも調べたら使用不可の不良品だった。んで、使用されている技術や術式を解明するために此処、技術科に持ちこまれた。何とか不良の原因もわかり作動実験を行っていたんだが・・・・・」

里桜が言葉を止める。

「対象者は人間以外の魔物ならどんな種族でも完全に竜化できた。できたんだが、意識を失いそのまま暴走を始めた。幸い、対象者に怪我もなく暴走による死傷者はいない。だが、対象者はこう口々にこう言っていた。意識を失う前に禍々しい黒い竜に喰われた、と」

「喰われた・・・?」

「ああ、なんでも首飾りを装着した瞬間、意識化で黒い竜に飲み込まれて、気が付いたら暴走していたらしい。実験で首飾りをつけたアルトイーリス隊長によると、黒い竜の正体は対象のトラウマや記憶の塊ということだった。流石は団長だ、暴走なんてせずに原因を見つけ出したんだから」

「里桜さん、つまりは自分のトラウマを乗り越えることができれば・・・・!」

「竜化してその力をモノにできる。それは間違いない」

若葉は首飾りに手を伸ばした。

「待つんだ若葉さん。覚悟はできているのかい?」

彼女は静かに頷いた。

「覚悟なんて、彰くんと結婚した時にしています。私に・・・私にその首飾りを!」

「例え暴走したら若葉さんでも私は容赦しない。いいね?」

「元より覚悟の上です!タロンさん!」

そう言うと若葉は竜魂の首飾りを手に取った。



ごりごりごり・・・・・・

既に日が出ているのにその部屋はカーテンが閉じられ、薄闇に包まれていた。

「ひぐぅ・・・ひぃ・・・・・」

少女は「異形」であった。
その柔らかな髪に包まれた頭には牛の角が生えており、牛のものに似た尻尾が赤いスカートからはみ出している。
魔物娘「ホルスタウロス」
それが彼女の「種族」だ。
彼女は何も生まれついての魔物娘ではない。
過激派のテロにより、強制的に「魔物」にされてしまったのだ。
魔物娘は魔王の代替わりにより、人を傷つけず彼らを愛することを目的に生きるようになった。
だが・・・・。


― 人間は生まれながらにして不幸だから魔物に変えてあげる ―


「過激派」と呼ばれる存在がある。彼らにとっては「魔物化」は「救い」であり「幸福」なことなのだ。


― だが意図せずに魔物に変わった人間はどうなる? ―


彼女のような「子供」にその重大さが理解できない。いきなり「お前は人間じゃない」と言われて果たして理解できるだろうか?
・・・・彼女にはできなかった。


「あともう少し・・・もう少しで牛さんの角がなくなる・・・そうすれば・・・人間に戻れるよね?」


激痛に気を失いそうになりながら、少女「若葉響」は角にのこぎりをあてゆっくりと挽く。きっと人間に戻れると信じて・・・・。


〜 あれは・・・ 〜


「そうだ。魔物になり周囲の人間から爪弾きにされ、ホルスタウロスの角と尻尾を切り取れば人間に戻れると信じる、純真で無垢そして無知で愚かなかつてのお前だ」


化け物女と虐められたこともある
それまで家族ぐるみで付き合いのあった友達からは絶交されたことさえ・・・


「人間はお前に何をした?お前の悲しみを理解せず、排斥しただろう?だから・・・」


― 全てを壊セ!!!!!!!! ―


人間が嫌い!

魔物が嫌い!

世界が嫌い!

目に入る人がモノが全て嫌い!!!


黒い竜が若葉に囁きかける。竜の力を持って全てを壊せと!


「儂に身を委ねよ!!悲しみに身を委ねよ!!怒りに身を委ねよ!!力が欲しいのだろ?全てを葬る力が!!」


若葉の意識を「黒い何か」が覆い包む。


「そうだ!!お前は竜になるのだ!!傲慢で恐れ敬られていた竜に!!!」


〜 そんなの・・・・ 〜


「違う!!!!!!!!!!!」


闇に飲み込まれようとした若葉が叫ぶ。

違う!

違う!

違う!


〜 何ィ!儂の力を払い除けただとぉぉぉ!!この小娘が!! 〜


「アナタがどんな絶望を見て来たか私は知らない。だけど・・・・私を・私の人生を否定することは許さない!!!!」


思い出せ!

思い出せ!

思い出せ!

あの日の事を!

あの時に感じた暖かさを!!!


― 思い出せぇぇぇぇ!!!! ―


バギィ!!!

音を立てて若葉のドアが砕ける。
一緒に飛び込んできたのは若葉と同い年の少年だった。

「あき・・らくん?もうすぐだから・・・もうすぐで角がなくなるから・・・そしたら・・」

「止めろ若葉ァ!!!!!!!!!!」

カラン!!

のこぎりが乾いた音を立てる。
彰と呼ばれた少年が若葉の手から血に染まったのこぎりを払いのけたのだ。

「どうして・・・どうしてこんなことするの!!!!!」

頭から血を流し若葉が叫ぶ。
少年は彼女に答えず抱きしめた。

ギュッ!

「若葉・・・少し前に僕のお母さんが死んだことは知っているよね・・・お母さんはよく僕をこうして抱きしめてくれたんだ。そうしたら、悲しいことや苦しいことが消えていったんだよ」

彰と呼ばれた少年が若葉を優しく抱きしめる。その暖かさが彼女の凍えた心をゆっくりと溶かしていった。

「う・・・うゎぁあぁっァァァァァァァァァ!!!!」

若葉は彰の胸の中で泣いた。今までの悲しみや苦しみ、怒りが全て涙へと変わり流れ落ちていく。

「世界中の人間が若葉を嫌っても僕は若葉を見捨てたりしない!!!この命に誓って!!」

男の誓い。
この時、少年は本当の意味で男になったのだ。

「おやおや、私が来なくても解決したのね」

不意に彰の背後から声が響く。声色は成熟した女性のものだ。今、若葉の家には彰と若葉しかいない。彼女を守れるのは彰ただ一人だ。

「誰だ!!」

彰が振り向くと「魔物」が立っていた。

〜 コイツ・・・強い! 〜

一目で彰は目の前の魔物の強さがわかった。だが、それは彼が身を引く理由になるわけではない。若葉に誓ったのだ。どんなことがあっても守ると。
父親から「皐月流柔術」を伝授されている彰は戦う術を心得ていた。
彼は見慣れない人物に五本の指を真っ直ぐ伸ばす「貫手」の構えをとる。

「小さな勇者さん、私は何も貴方たちと闘いに来たわけではないわ。とある人物の要請で来た、ただのコーディネーターといったところかしら」

「・・・・信じない。お前も魔物だろ!若葉を・・・こんなにした魔物の言うことなんて信じるもんか!!!」

「信じる信じないは貴方の決めること。私は強制なんてしないわ。でも・・・・」

目の前の「魔物」は彰の手を指さした。

「貴方の、そのボロボロの手でできることなんて限られているわよ」

「!」

彰の手はのこぎりを直接掴んだせいでズタズタになっていた。彰は自らが傷つくことさえ若葉を守れるなら些細なことだったのだ。

「今は信じなくていい。でも、私に彼女と貴方の治療はさせてくれないかしら?」

「お前・・・」

「私はお前って名前じゃないわ。ヴァン・ロゼッタ、そうね・・・・グランマとでも呼んで頂戴」

「グランマって、ばあさん?」

「フフ、私は貴方が思う程若くないわよ?」



「私はその後、グランマのケアを受け開設して間もない学園の一期生として入学した」


〜 糞!お前は悔しくないのか!!人間として生きる術を失ったのだぞ!永遠に!!そうだ永遠だ!!お前は永遠に人間ではなくなったのだぞ!! 〜


黒い竜は「若葉」に言ってはいけない言葉を口にしてしまった。


「それが・・・それがどうしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


黒い竜の幻影が消えていく。


〜 儂が・・・儂が消えていく!!!貴様!!!儂を喰っておるのかぁぁぁ!!!このイレギュラーが!!! 〜


「イレギュラー?私は・・・・」



― 魔力反応増大!臨界を超えます! ―

「セントラル!!こんなことは初めてだぞ!!!」

里桜が叫ぶ。
今までの被験者の場合は装着して直ぐに変化を起こしていた。
だが、彼女「若葉」の場合は違う。

「タロン!!ドーラを連れて今すぐ避難・・・・」

里桜が言い終わらないうちに研究室は黒い魔力に包まれた。

「私は人間だァァァァァァ!!!!!!!」

若葉の絶叫が響いた。
それはまるで竜の咆哮のように・・・・。



― 愚連隊「明るい家族計画」アジト ―


「ッたく!あのダークメイジのヤロウ、ガキ相手にどんだけ強い薬使ってんだよ!!」

アイシャは憤りを隠さない。

「あのダークメイジ、次見たらヒモ無しバンジーの刑100回だな」


― ヒモ無しバンジーの刑 ―

主にワイバーン達が行う私刑、リンチの一つだ。
やり方は単純明快。縛った対象を掴み高高度まで飛びそこで落とす。そして地表ギリギリで掴んで再び高高度まで飛ぶ。その繰り返し。
決して死なないし死なせないと言っても、その恐ろしさは有名で主神教の荒くれでもこの刑に処すと告げられると、赤子のように泣き叫んで慈悲を懇願するくらいだ。
なお、ワイバーン同士の場合は度胸試しの、所謂「チキンレース」となる。


ドガァァァァっァァァ!!!!!

前触れもなく、アイシャの目の前で扉が粉々粉砕され、舞い散る粉埃を掻き分けて「何か」が彼女目掛けて投げ飛ばされた。

ドサッ!ドサッ!!

「なッ?!ホリー!ダリ―!」

彼女の目の前に手下のホリーとダリ―、二人が放り投げられていた。彼女達も腕に覚えのある戦士だ。抵抗したのだろうが、その衣服はボロボロで二人とも白目を剥いて・・・アヘッていた。

「彰くんはどこだぁぁぁ!!!!!」

土煙が晴れると、一人の「ドラゴン」が立っていた。


宝石のような輝きを持ちながら、触れるもの全てを切り裂く「のこぎり」のような黒曜石の鱗

捩れた爪にホルスタウロスの「角」

ホルスタウロス特有のペリドットの輝きを持つ優し気な瞳は、鬼灯のような深紅の瞳へと変わっていた


「ほぉ・・・・。ウチラにカチコミかけるような骨のあるヤツがいるとはね・・・」

彼女はホリーとダリ―を見る。

「どうやらホリーとダリ―とは挨拶を済ませたようだな。お前、名前は?」

「私の名前は若葉響!!!彰くんを返してもらうよ!!!」

禍々しい黒竜と変化した若葉がアイシャを睨みつけた。

















18/06/24 21:17更新 / 法螺男
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■作者メッセージ
皆様、艦これオンアイスの予約は済まされましたか?
予約はしたんだけど・・・・私クジ運悪いからな・・・・。

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