連載小説
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幕間2 愛を取り戻せ!上
― once upon a time ―

ドラゴニア竜騎士団訓練所。
日々、ドラゴニアの空と国民の安全を守るドラゴニア竜騎士団。所属する隊員も多く、「特殊工兵隊」や「水龍隊」といった特殊部隊を多く擁することからドラゴニア領内には所々に訓練所をもっている。
その為、候補生の特性や性格により所属する訓練所に振り分けられていた。当然のことながら、他の訓練所ではやっていけなかった候補生もいる。
そういった「鼻つまみ者」の候補生が集まる訓練所の一つが「Y13訓練所」。しかし誰もその名前では呼ばない。YがZの一つ前ということから通称「ズンドコ訓練所」とあだなされていた。
その訓練所裏。
訓練所の性格上、揉め事を起こす候補生が多く話し合いよりも手が先に出ることが往々にしてあった。人目に付きにくい此処はケンカをするには絶好の場所であり、故に教師達すら踏み込めない無法地帯となっていた。
その訓練所裏で二人のワイバーンが大の字で横になっていた。

「ク・・・・、あんた将校の癖にやるじゃねーか・・・・」

青白い髪のワイバーンが隣に横たわるワイバーンに声を掛ける。よく見るとそのワイバーンが付けている識別章の階級は少佐を表していたが、彼女にとってはどうでもよいことだ。

〜 どうせ放校処分だろうな。それだけの事をしたんだし 〜

彼女には「ガンプ」という名前のワームの友人がいる。
ハッキリ言ってガンプは「馬鹿」だ。何せ鼻で息ができることを彼女が指摘するまで知らなかったと言えば、ガンプの深刻な馬鹿さ加減が理解できようものだ。
だが・・・・彼女にとってガンプは無比の友人、だからこそだ。彼女を「空も自由に飛べない地虫」と嘲り笑ったあの教師をこのワイバーンは許せなかった。

「貴様もだよ。聞いたぜ?友人を馬鹿にした教師を凹ったって」

「許せないヤツをノしただけさ。それに後悔なんてない」

「しかしなぁ、事情を聴きに来たアタシに殴りかかるなんて、ちっとは考えろよ」

「仕方ねぇだろ。あんたが訓練所裏に呼び出すから・・・」

訓練所裏への呼び出しは「肉体言語」のお誘い。
これはヤンキー漫画の鉄板である。

「違う違う。アタシはただ他の連中から離れて話せる場所は何処かって聞いただけだぜ?」

嘘である。
彼女は目の前のワイバーンの実力を見るためにわざと勘違いさせたのだ。

「で、結果は?」

「軽く言って放校処分だ」

「そうか・・・・・」

「リアクションが薄いな。辞めるつもりであんな事をしでかしたのか?」

「ちげーよ。そんなにあたしは頭は良くないさ」

「貴様にやる気があるなら就職先を紹介しないわけでもないが・・・・」

「ハハッ!札付きのあたしを雇う気骨のあるヤツが何処いるのかね」

「いるさ。目の前に居る」

そう言うと服に着いた砂を払い落し彼女は立ち上がった。

「ドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊隊長、クーラ・アイエクセル少佐だ。貴様の答えは?」



― 竜皇国ドラゴニア 竜の寝床横丁 ―

ラブライドに代表される飲食店が犇めく「竜翼通り」。光あるところに闇がある。
此処、「竜の寝床横丁」は言うなれば下町。竜翼通りではあまり扱いのない、ボーダーなアイテムや薬なども販売されている。中にはドラゴンゾンビホイホイこと「竜哭笛」さえ店先に並べられているのだ。
夜はお嫁さん志願の「娼婦」や怪しげな客引きが現れるが、日の高い昼間なら危険度はかなり低くなる。
その竜の寝床横丁を軽快な売り子達の口上を聞きながら、一組の「親子」が歩いていた。母と思われるホルスタウロスの女性と、おそらく彼女の息子と思われる少年。少年は艶やかな黒髪と切れ長の目が特徴的で、儚げな印象を見るものに思わせた。
しかし、人間と番い孕んだとしても魔物から生まれるのは魔物。ではなぜ、彼女は人間の息子を連れているのか?。

「まるで私たち、母親と子供みたいだよね、彰君?」

ホルスタウロスの親子、その正体は「若葉」と「彰」だ。


諸兄は覚えておられるだろうか?
飛行船「フライング・プッシー・ドラゴン」号で、臨検に訪れたドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊の目から脱走兵クーラをごまかした方法を。
そう
二人は「幼児化薬」をクーラに投与し、幼女化した彼女を若葉と彰が挟んでその上からシーツをかけたのだ。これで「アハーン」とか、「んほぉぉぉぉ」とか喘げば、二人は「夫婦の営み」をしていると相手は勘違いし、隊員の臨検からクーラをまんまと隠し通すことができた。もっとも、クーラを追い求めるアーシアの執念には負けたが。
彼女たちは当初の目的通り、彰に幼児化薬を投与して「ホルスタウルスと彼女に引き取られた少年」という設定でイメージプレイに勤しんでいたのだ。


「若葉ぁ・・・恥ずかしいよぉ・・」

当然のことながらショタ化した彰は短パンを装備していた。いくら見た目がショタになったとはいえ、成人している彰が膝上丈の短パンはかなり恥ずかしい。羞恥のあまりもじもじと身体をくねらす彰の姿は若葉の「開いてはいけない扉」を開きつつあった。

〜 今度肉山さんに魔界銀製のぺ二バンの使い方を教えてもらわなきゃ! 〜

ゾクッ!

彰の背筋を冷たいものが走る。

「若葉・・・何か・・口にするのもおぞましい事を考えた・・・?」

「そ、そんなことはないよ彰君。ホンとだヨ?」

彼らはこの時はまだ「幸せ」だった。彼、いや彼女は痛感することなる幸せはこんなにも脆く崩れてしまうことを・・・・。


― 竜の寝床通り「カフェ 焔龍亭」 ―

まるで中華料理店のような名前ではあるが、店主はあくまで「お洒落なカフェ」のつもりで経営している。
とはいえ・・・・

ペペロンチーノとメニューにあるが出てくるのは「かた焼きそば」

シーフードピラフが「海鮮炒飯」

と、料理がかなり「ズレて」いるのだ。
決してマズいわけではない。寧ろ最高の「中華料理」だ。
そう、焔龍亭の大将、失礼焔龍亭の「マスター」は料理の才能が別のベクトルに向かっているのだ。
ならいっそのこと中華料理店に改装すればと思うが、彼「成田帝一」は頑なにそれを拒む。お洒落っぽいカフェの内装は一族のしきたりを破ってまでインキュバスにもなっていない自分と一緒になってくれた、ニンニク好きなヴァンパイアである「彼の妻」たっての願いなのだそうだ。

― カフェとして訪れると落胆するが、中華料理店と思えば最高の店 ―

と、貶されているのか評価されているのかイマイチわからないが、それなりに常連客もいる。

「なぁ、ヘッド。グリズリーって美味いのか?」

紅い髪を鬣のように立てたワイバーンが雑誌を読みながら、ヘッドと呼ばれたワイバーンに声を掛ける。

「おいおい、ダリ―、それはコッチのグリズリーか?それともアチラのグリズリーか?」

「アチラ。アチラの雑誌に書いてあんよ。何でも人を襲う熊が増えすぎて駆除してカレーにしてるって」

ダリ―と呼ばれたワイバーンが指し示した雑誌には確かに熊の写真とその肉で作られたカレーの記事があった。

「熊は雑食性だからな・・・カレーにしても多分臭いぞ」

「うげっ。臭いのは苦手だな」

「この店ご自慢の激辛ラーメンを喰っておきながら、アンタにも苦手なモンがあるんだ?ダリ―」

「うっせーよ!ホリー!!」

ダリ―は炒飯、もとい「ピラフ」をパクつくリザードマンを小突く。

「やりやがったな!」

「ん?やんのか」

ホリーがダリーを睨みつける。

「お前ら!店に迷惑をかけんじゃねーよ!!」

ゴン!

「あいたー!」

ゴン!

「ひでぶー!」

ヘッドの鉄拳がホリーとダリ―の脳天に炸裂する。

「いつもすまないねアイシャちゃん」

「いいってことよ。此処くらいだぜ。鼻つまみ者のアタシたちがケンカ売られずに優雅にランチを喰えるのはさ」

ゴトッ!

店の店主である成田が三人の前に小鉢を置く。

「頼んでないぜ?」

「なに、パンナコッタの試作品さ。ちと作り過ぎたんで出しただけ。金なんてとらんよ」

・・・・・店主は「パンナコッタ」と言っているが、どう見ても「杏仁豆腐」なのは言わない約束だ。

「ありがてぇな・・・・ん?」

アイシャがウィンドーを見ると半ズボンの少年が通りを一人で歩いていた。

「悪りぃ、ツケといてくれ」

そう言うとアイシャが店を出ていく。

ガチャ!ダッダッダッ!!

「ああ、行っちまったぜヘッド」

「仕方ねぇよダリ―。ヘッドの子供好きは筋金入りだぜ」

「でもよ、毎回毎回ガキを黙らせる俺らの身になって欲しいよ。この前なんか虎の子を使う羽目になったし」

「アレ、高いしな。だけど・・・・」

「「アタシ達にもおこぼれもあるしな」」

ホリーとダリ―はそう言うと笑みを浮かべた。


「どこだよ・・・ココ・・・」

彰は一人若葉を離れて一人で途方に暮れていた。理由は若葉が大人のおもちゃ屋で真剣に「魔界銀製のペニスバンド」を熱心に見ていたからだ。流石にアナルセックス、それも逆アナルは彰の守備範囲ではない。それで若葉から離れたのだが人の流れに巻き込まれ、気が付くと知らない場所に立っていた。
竜の寝床横丁は観光スポットである竜翼通りと比べると、増築に次ぐ増築でハッキリ言ってダンジョンと化していた。まぁ、ダンジョンにはドラゴンが付き物であるので正しいと言えなくもない。

「坊やどうしたかしら?」

「?!」

彰が振り向くとスライムを連れたダークメイジが彼を見つめていた。
美女であることは間違いなく、優しげな笑みを浮かべていた。しかし、彰にはその笑みの本当の意味がわかっていた。そう、餓えた犬が餌を前に浮かべる笑みのそれだ。
彼の中で警報が鳴り響く。
ゆっくりと彰は皐月流の構えをとる。幸い、彰は自衛武器として魔界銀製の鋼糸を編み込んだグローブを装備していた。いつものナックルダスターよりは威力に劣ってしまうが、自衛には十分だ。

「ねぇ、お姉さん。坊やと話をしたいんだけど・・・・な!!!」

突如、ダークメイジの杖から放たれた魔力弾が彰を襲う。

「悪いけどそんなの当たらないよ!!」

少年特有のソプラノボイスが響く。彰は皐月流のセオリー通りに魔力弾に飛び込んだ。


諸兄は自殺行為だと思うだろう。だが、この動きは皐月流にとっては「活」だ。古流の手裏剣や投げ槍では到達点を目測して放つ。魔力弾とてその理合いは同じ。
相手の目的が彰の「身体」ならば、放つ魔力弾はスタン効果があるものだろう。
ならば直撃さえ気を付ければ問題ない。


「な?!」

いきなり現れた彰に姿にダークメイジの動きが鈍る。それこそが彰の狙いだった。

「皐月流一の型、崩山!!!!」

ダッ!!

彰が屈み全身のバネを使い、跳躍しその勢いと共に彼女の子宮目掛けて掌底を喰らわせる。魔界銀の鋼糸が仕込まれた革製のグローブの一撃が魔物娘のウィークポイントに炸裂した。

「グハッ!」

ダークメイジが杖を取り落とし、その場に倒れた。

「まずは一人・・・」

「はぁ?すらちゃんもいるんですぅ」

彰を背後からスライムが拘束しようとする。彰はそれを体捌きで躱す。軟体であるスライムに先程のような打撃は効かない。しかし、振動は「通る」。


身体を流れる「血潮」

神経を走り回る「電気」

そしてインキュバスとしての「魔力」

それらを一つにまとめる


「ハァァァァァ!!!!」


まだ

まだだ


「かんねんしてすらいむふろにしずみましょうね〜〜〜」


スライムが近づく


今!!


「皐月流一の型極め、鉄山!!」

風のように

流れる水のように

右足から腰へ

肩を回し

身体全体で生み出した「波動」

彰はそれを掌に纏わせ、縦拳を目の前に迫るスライムに撃ち放った。


バン!!!!


衝撃音とともに彰を覆い包めるほどに肥大したスライムが二メートルほど吹っ飛び目を回す。


― 皐月流一の型極め 「鉄山」 ―

皐月流において最も威力の高い打撃技である。
その威力は凄まじく、喰らった相手は身体の力が抜けて焦点を合わす事ができず立ちあがる事さえできない。
非常に危険な技だ。
皐月流は基本的に相手を殺すのではなく、「再起不能」にするのを目的としている。
故に皐月流の技を知るものは、皐月流をこう言い表す。

「殺さず、さりとて生かさず」と。

もっとも皐月流の技は相手を「再起不能」にするとは言っても、一時的に気絶させるだけで対象に障害を与えるほどの威力はないのだが。
この「鉄山」も、鉄鎧を着た武者の心臓に強い衝撃を与えて失神させるのが目的だ。

「さてと・・・・・」

相手を気絶させた以上、長居はしていられない。彰がその場を後にしようとした瞬間だ。

ギュッ!!

「捕まえた!」

振り向くと、彼が倒したはずのダークメイジが彰を拘束していた。
いつもの彼ならこのようなことはない。だが今の彰は「幼児化」していた。
いくらインキュバスとなっていても筋力は大人よりも弱くなっている。そのため一撃必殺の威力が弱まっていたのだ。

「グっ!離せ!!離せぇぇぇ!!!!」

「五月蠅いガキだね!!!」

彰の口に布があてられる。何かしらの薬品が染み込まされていたのだろう、すぐに身体の自由が利かなくなっていく。

「若葉・・・・ごめん・・・」

彼の呟きを下卑た笑みを浮かべるダークメイジが聞くことはなかった。



― ドラゴニア竜騎士団本部 ―

「・・・・・・私のせいだ」

一人っきりの部屋で若葉が呟く。
彼女がウィンドウショッピングに興じていた隙に彼女の夫である彰の姿がなかった。
彰はそれなりに荒事の経験もあるし、実力もある。だが、待てども彰が姿を現すことなく、探し回っても見つからずこうしてドラゴニア竜騎士団を頼ったのだ。運悪く、代理のジギー・カスケードはクーラとセシル、アーシアと一緒にデオノーラ女王を始めドラゴニアの首脳陣と査問会に出席しているためいなかった。頼れるのはタロンとドーラの二人しかしない。

ガチャ・・・

「タロンさん!彰くんは見つかったの!!」

ドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊のタロン・クロフォードが部屋に入ってくる。彼女の表情は沈んでいた。

「若葉さん・・・落ち着いて。彰さんは見つかった。だが・・・」

「だが・・・って?」

若葉が不安そうにタロンを見る。

「映像で見たほうが早いな」

ゴト

タロンが水晶玉を置く。

「ドラゴニアには治安維持のために幾つか監視カメラが仕掛けてある。その一つに彰さんの姿があった」

水晶玉に映し出されたのはダークメイジとスライムを相手に戦う彰の姿。しかし、彼の善戦空しく何かの薬品をかがされぐったりした彰は物陰に引き込まれて・・・・。
しかし、その後すぐ一人のワイバーンが彰を翼に包むように抱きしめその場を後にしていた。

「映像を確認してすぐさま竜騎士団員が急行したが、そこにはアへ顔を晒すダークメイジと液状化して目を回しているスライムしかいなかった。彰さんは恐らく最後に映ったワイバーンのところに居るのだろう」

彰を拉致した切れ長の目をした黒と白の髪をしたワイバーン。若葉には彼女はかなりの実力者に見えた。

「アイシャ・ギリア。札付きのワルさ。同じワル仲間とつるんで愚連隊を結成していて厄介だ。今救出隊を編成している。だから、私達を信じて待ってくれ」

「タロンさん!!私も・・私も行きます!!」

「・・・・勧められない。彰さんが姿を消して三時間経っている、魔物娘である若葉さんにはこの意味が理解できるね?」

タロンが若葉を試すように見つめる。

「何があっても私は受け入れます!それが・・・私への罰だから・・・・」

「その決意に嘘偽りはないな?」

「はい」

「相手はワイバーンだ。空を飛ぶことのできないホルスタウロスじゃ、足手まといだ」

「でも・・・!」

「唯一、ホルスタウロスでもドラゴンやワイバーンに対抗する方法がある。だが・・・・それには代償が必要だ」

若葉は静かに頷く。

「・・・・・・ついておいで」

〜 彰くん・・・無事でいて・・・・! 〜

若葉はギュッと拳に力を込めた。



― 愚連隊「明るい家族計画」のアジト ―

「洞窟住居」、ドラゴニアに住むワイバーンは原種同様洞窟で生活するのを好む。洞窟と言ってもただの穴倉ではない。住居と銘打たれるように、内部はしっかりと住環境が整えられていた。
ドラゴニアに点在する洞窟住居、その一つが愚連隊「明るい家族計画」のアジトだ。

コンコン!

「ヘッド入るぜ」

ガチャ!

しっかりとした作りのドアを開いてワイバーンのダリ―が入ってくる。

「おいダリ―!もう少し声のボリュームを下げろ!」

見るとヘッドである、アイシャの豊満な胸の谷間に顔を埋めて彰が寝息を立てていた。

「もう仲良くなってんじゃん。なぁなぁ、ヘッド〜〜アタシにもその子抱かせておくれよ!」

「馬鹿野郎!お前がヤっちまったら起きちまうだろ!」

アイシャがダリ―を睨む。

「怖ぇ怖ぇ、頼まれた虎の子を置いとくぜ」

そう言うとダリ―がソファー横のサイドテーブルに紙の包みを置く。

「虎の子を喰って大人しくなったらお前にも抱かせてやるぜ。ただ優しくな」

「ヘッド、そうこなきゃ!」

ダリ―が舌なめずりする。

「優しく抱いてやるぜ。たっぷりとな・・・・」












18/06/09 22:53更新 / 法螺男
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■作者メッセージ
続きは早めに投下できそうです。
さて!艦これイベントもうひと頑張りです!アゲアゲで行きましょう!!

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