連載小説
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しの 19歳の冬
「おはようございます、あなた♪」



 目が覚めると、目の前にはしのの顔があった。



「あぁ、おはよう。しの」

「朝ごはんの仕度、できてますよ」



 ゆっくり上体を起こすと、冬の外気で冷えた部屋の空気が、乱れた寝巻きの隙間から懐を冷やした。俺は、うぅと小さく唸って体を震わせる。



「しっかし寒いな今日も……」

「最低気温が2℃だったそうですよ?」



 居間では、しのが炬燵の中に脚を突っ込んで、味噌汁を啜っていた。

 俺も吸い込まれるように炬燵に入り、いただきます、と手を合わせる。



「もう年越しか……」



 呟くと、しのの耳がピクリと動く。



「そうですね。もう1つ寝ればお正月です」

「正月といえば、やっぱり実家の神社は忙しくなるのか?」

「奇稲田稲荷は分社の多い神社ですけど、やはり初詣は本社に殺到します。小さい頃は参拝客のための甘酒を何千人分つくったものです」

「有名な神社も大変なことで……ところで、しの」

「…………」



 返事がない。

 目をやると、しのは茶碗を片手にボーッとしている。



「しの?」

「は、はえ!?」



 七本の大きな尻尾がビクンと震えた。

 しのは素早く周囲を見回した後、俺を見て、



「そ、そ、そうですね!お味噌汁、少ししょっぱかったですね!」

「落ち着け落ち着け、まだ何にも喋ってない」

「あうぅ……」

「お前がボーッとするなんて珍しいじゃないか」

「そ、そんなことありませんよ!」



 しのが突然に声を荒らげたことで俺が驚いて怯み、二人の間に数秒の沈黙か生まれる。



「…………す、すみません」



 沈黙を破ってしのは空いた皿を持ち、俯いて台所へと駆けていった。



「ふうん……?」



 俺は首を傾げる。

 少々、しのに違和感を覚えた。

 その違和感は、少しずつ確信に変わっていった。



「こほっ」



 それは昼間のお茶の時。

 しのが台所で茶菓子を用意しているとき、ほんの1回だけだったが、咳き込んだのだ。



「しの?」

「はい?」



 様子を見ると、いつも通りのしの。

 だが、少し彼女の顔が赤く思えた。



「お前、熱でもあるのか?」



 しのの額に手を当てようと、しのはその手を払った。



「だ、大丈夫です……」

「だけど……」

「私は……大丈夫です、はい。この通り元気です♪心配してくれて、ありがとうございます」



 しのは、そう言って穏やかな笑顔を見せた。



「さっ!あなたも悲しそうな顔はやめてくださいな」



 俺の頬を触って、用意しかけの茶菓子を居間に運んでいく。

 俺も深く考えるのは、やめにした。



















 就寝前。

 しのが、倒れた。



「はぁ……はぁ……っ」



 高熱。

 荒い呼吸。

 玉になって浮かぶ汗。



「しの!?」



 部屋に入ってすぐ慌てて駆け寄り名前を呼ぶが、返答はない。

 しのは今まで重い病気をしたことがない。俺は、しのがここまで何かに苦しんでいる姿を見るのは初めてだった。

 初めてだからこそ、俺は落ち着けなかった。



「薬……!」



 薬の入った小さな箱を開けて探る。

 一般的な風邪薬は見つかったが、ああも苦しんでいるしのを見て、病院でなければ治せないのではないかと考えた。

 俺は電話機の受話器を取って「1」と「9」のボタンに指を置くが、よくよく考えてみればこの家は山奥、救急車などすぐに来れるような場所ではなかった。麓の根川町に病院はある。だが、最低でも30分はかかる上に、外は夜で雪が降っている。しのを抱えて走っても、一時間は掛かるだろう。



「くっそ……どうしたらいい!」



 無力。

 今の俺は、どうしようもなく無力で、どうしようもなく……



「見損なったわ、うつけが」



 聞きなれぬ声が、俺の思考に歯止めを掛けた。

 声の主は大きな九本の尻尾を揺らし、水で濡らしたタオルでしのを看病しながらそこにいた。

 ずいぶんと綺麗な、狐の女。



「うぬは言った。『必ず護る』と。しかしそれは、嘘だったのか?うぬのあの覚悟は、薄っぺらい言葉だけのモノだったのか?」

「わ……若藻、さん?」



 けれど確か、若藻さんはサバトに通って子供の姿をしてたはず……



「ワシの旦那が華奢で可愛いワシのロリ姿に飽きたようでな?また元の姿のお前を愛したいと言い出しおったから元に戻ったのじゃよ」

「……そ、それでしのは……!」

「分からぬ」



 若藻さんは言った。



「しかし、死ぬことはない」

「え……?」

「しのの病名がなんであれ、病院に行けば治る。それだけは分かる」

「治る……けど、どうやって病院に」

「簡単じゃ。送ればよい」



 すっ、と若藻さんは立ち上がった。

 そして俺の顔を覗き込んでくる。



「うぬよ。しのがどういう経緯で、どうやってここに来たか覚えておるかの?」

「そ、それは……」



 しのの父である奇稲田夢平が死ぬ寸前に、育ててくれるだろう優しい人間として俺を選び、俺にしのを送った。



「まさか、送るって……」

「その通り。うぬとしのが初めて出逢った、あの方法でうぬらを病院に送る」

「え、いやでも、そんなことしたら」

「たわけが。夢平は虫の息じゃったから転送で息絶えたのじゃ。ほれ、ワシはぴんぴんしておろうが」



 少しむくれた顔で、床に狐火で陣を描き始める若藻さん。

 青い光が輪をつくり、そこから五芒星や文字が浮かび上がっていく。

 1分と掛からず、準備は整った。



「よし、しのを中心に運ぶがよい」



 言われるまましのを中心に寝かせると、若藻さんは着物の袖をバサリと翻す。袖の中から赤色の珠を連ねた数珠を左手で強く握り、目をすっと閉じて詠唱を始めた。



前には無
足元には導
答えの前に汝あり
汝の名は舟
我が願いの運び屋となる!



 青い光が突然強くなる。

 ほんの1秒未満の閃光。

 視界がチカチカするのを堪えて前を見ると、しのは陣ごと、いなくなっていた。 

 若藻さんは背伸びして、数珠を袖にしまっていた。



「さて、これでしのは助かるじゃろう。ついでに、うぬも運んでやろうか?」

「い、いいんですか?」

「その代わりと言ってはなんじゃがのぅ……」



 ニタニタと不気味か笑みを浮かべながら、俺の方を見てくる。



「えっと……出来る範囲で、なら……代価は支払いますけど……」

「なに、寿命やら金品やら、悪魔じみた代価は求めん」



 若藻さんは指を差した。

 指先には俺の股間があった。



「少しばかり、精をくりゃれ♪」

「断ります。そんなものを提供するくらいなら走って病院に向かいますよ」

「頑なじゃのう、うぬは変わらず」

「第一、背丈が大きくなっても若藻さんには旦那がいるんですよ?」

「大丈夫じゃよ。ここならば、あやつにバレることはないぞ♪」





「ひぇっくしょん!」

「どうされました?お父様。お風邪ですか?」

「心配するな異波。きっと誰かが噂しとるのだろう」



 奇稲田稲荷神社。

 本社の中では五十代後半の男(若藻の夫)と奇稲田異波(しのの母親)が、向かい合って将棋を打っていた。



「しかし遅いですねぇ母様」

「もしや若藻め、しのの見舞いのついでに浮気しとるんじゃ……」

「父様。しのの一大事ですし、さすがにそんなことは……」

「………」

「………」



 二人の手が止まる。



「……異波」

「香藍に行かせましょう。あの娘なら目一杯、説教してくださるはずですから」





「これ!逃げるでないわ!」

「逃げますよ!一昨年の前科、忘れたとは言わせませんよ!」

「黙れぃ!イイ男とイイコトしたいのは女の本能じゃわい!」



 俺は全速力で家中を走り回り、若藻さんは飢えた獣の目で俺を追う。



「……っ!こ、この尻軽の淫獣がっ!」

「あぁん♪もっと罵れぇ♪」

「この変態!ド級年増!」

「ほれほれ♪そんな言葉はくすぐり程度じゃぞ?」

「こ、この……!この……」



 二人は止まる。



「こ、言葉が尽きた」

「ボキャブラリー少なっ」

「黙らっしゃい!」



 再び鬼ごっこ。

 と、いきたかったのだが、スタートダッシュの瞬発力が若藻さんにわずかに劣り、俺は呆気なく若藻さんに押し倒される形になる。



「かっかっか!もう逃げられんぞ?」



 若藻さんが左の手のひらを広げて「ホイ!」と叫ぶと、俺の衣服は糸1本残らず消失した。



「うおっ!?」

「ぬふふふ……ついにうぬのセガレを見つけたぞぉ♪見つけちゃったぞぉ♪」

「あぁ、お婿に行けない……っ」

「安心せい。うぬが黙秘しておれば、しのにもバレn」

「御母様」



 ドスの効いた女の声に、若藻さんはダラダラと冷や汗を垂らす。

 香藍さんは眼鏡の位置を正し、若藻さんを軽蔑するかのような目で睨んでいた。



「御母様、しのは何処に?」

「ち、ちゃんと……送ったぞ。送った送った」

「では御母様。今何をしておられるのですか?」

「ぷ、プロレスごっこしてりゅの……こやつが誘ってきて……(ガタガタ」

「嘘です。御母様は人間一人を転送する代価として精を要求。しばらく追い回した後に身ぐるみを剥がし、無理矢理に行為を行おうとした。違いますか?」

「ぜ、全部知っておるくせに訊きおって……」



 こうして着物の裾を引っ張られ、若藻さんは退場した。



「嫌じゃー!ワシだってイケメンとヘコヘコの1発2発くらいしたいんじゃー!」



 と言い残して。



「では、御母様に代わって私がお送りします」

「いやいいです。徒歩で行きます」




















「しの!」



 根川町にある総合病院の内科に向かうと、しのが顔を赤らめて待ち合いのソファーに座っていた。



「あなた……」

「大丈夫か?いや、大丈夫はおかしいな……苦しくないか?しの」

「今は、大丈夫です……ええと、なんてお伝えすればいいのか……」



 その時、白衣を着た大きな手の医者がこちらに緩んだ顔で近付いてくる。



「あなたがぁ〜、しのさんのぉ〜、旦那さん〜、ですねぇ〜?」

「私が、そうですが……」

「私はぁ〜、内科医のぉ〜、ウィラですぅ〜。トロールですぅ〜」



 ウィラ先生は俺としのを診察室に案内した。

 椅子に座ると、ウィラ先生はカルテを見て説明した。



「しのさんのぉ〜、病名はですねぇ〜」

「び、病名は……?」

「発情期によるぅ〜、高熱ですねぇ〜」



 俺は思わず椅子から転げ落ちそうになった。

 しのはこれを聞いて、なお顔が赤くなった。



「たまにぃ〜、いるんですよぉ〜。発情か昂り過ぎてぇ〜、倒れちゃう魔物さん〜」

「ほ、本当に発情期なんですか……?」

「その証拠にほらぁ!」



 ウィラ先生は電光石火の勢いと覚醒した顔で、しのの浴衣をガバッと開く。

 さっきまでの口調と今の口調や動きの大幅なギャップはスルーするとして、俺としのは揃ってぎょっとした。



「は、え、あ、ええ……!?」

「ウィラ先生……!?」

「分かるでしょ!?こんなにキレイな色の乳首を勃たせて、肌もツヤツヤだし、唇も赤くしちゃって!めちゃくちゃ発情してるサインなのよ!」



 どうやらスイッチが切れたようで、ウィラ先生は元のやんわり顔に戻った。



「ってぇ〜、ことだねぇ〜」

「ちなみになぜ唇を指摘したんですか……?」

「ほらぁ〜。人間や魔物の女の子ってぇ〜、興奮するとぉ〜、陰唇が開くでしょぉ〜?それは小陰唇がぁ〜、充血で膨らむからであってぇ〜、それとリンクしてぇ〜、唇も赤くなるんだよぉ〜」



 非常にためになった気がした。



「ところでぇ〜」

「はい?」

「ウチの病院のベッドぉ〜、使ってもいいよぉ〜」

「い、いや……さすがにそれは……」



 ぎゅ。

 しのが俯いたまま、俺の裾を強く握る。



「じゃあ、使わせて下さい」




















「その、お騒がせしてごめんなさい……」



 患者用ベッドの上で、しのは涙ぐみながら正座していた。

 かくいう俺も、向かい合って正座している。



「なんで黙っていたんだ……余計に心配するだろ」

「じ、じゃあ!あなたは朝に生理現象で御立派になったモノを、私に見せつけますの!?」

「ごめん。すごい気持ち分かった」



 しばらく沈黙が続いて、しのは呟く。



「その……します?」

「ああ、しようか」



 はじめのキスは優しかった。

 かすかに触れるだけのキス。

 それから、しっかりと唇を重ねるキス。

 体を密着させて、舌を絡めながら。



「……っ、はぁ」



 しのは陶酔したような顔でベッドに寝転がり、俺の右腕を掴んで引き寄せる。

 そのまま二人重なって、再びキスを始める。

 舌を絡める、特濃なキス。

 普段は俺の舌を受け入れてリード権を譲る総受けのようなキスなのだが、発情した彼女は俺の舌を受け入れながら、自分の舌を這わすようにこちらの口内に伸ばしてきた。

 唇を離すと、互いの舌の間には透明な唾液の橋ができていた。



「今日は随分と自分から求めるな……焦らなくても、俺は逃げたりしない」

「気持ちは焦ってません……私の体が、あなたを求めて仕方ないのです……」



 浴衣胸の隙間から手を入れると、しのの体はピクリと反応した。



「冷たい手……」

「お前で温めたいのさ」

「ふふ……どうぞ、私のお胸で温まってください」

「じゃあ、お言葉に甘えて……」



 撫で回すように乳房の形をなぞると、しのの表情が僅かに悶える。



「は……ん、あぅ……」



 俺の手のひらに収まらない大きな乳房が、揉みしだく俺の手を受け入れ、形を変える。

 しのは身を委ねるように目を閉じて、涙を浮かべながら甘い喘ぎを上げる。少しずつ強くなっていく愛撫に悦んでいるようだった。



「あなた……あなたぁ……っ」



 俺の手の上にしのの手が重なり、さらに強い愛撫を促してくる。

 しかし俺は愛撫を止めた。しのは察したのか、上体を起こしてズボンの布を押し上げて主張するものを見て、やんわりとした笑みを浮かべた。



「あなたのココ、こんなに……ふふ、嬉しいです……」



 起き上がってズボンを脱がせると、怒張した俺の肉棒が、しのの目の前にさらされる。彼女にとって普段の性生活で見慣れているものだが、発情期である彼女にとってそれは、自分を激しく愛してくれる最高のモノだ。

 しのは穴が空くほどそれを見つめ、そっと亀頭に触れる。



「すごい……あなたの……熱くて、固くて……あぁ、んん……っ!」



 ビクビクと震え、堪えるような喘ぎを上げる。浴衣の隙間から覗くしのの割れ目がテカテカとした愛液でぐっしょぐしょに濡れていた。



「触っただけでイったのか?」

「はぁ……ん……イってしまいました……」



 そのまましのは亀頭や鈴口に柔らかい唇を当てる。ちゅ、ちゅ、とキスの音が響く。



「あ、あの……もっと激しくしてもいいですか……?」



 モジモジしながらしのは言う。発情していても、夫を第一に考える稲荷の価値観は健在だった。

 俺はゆっくりと頷く。しのは肉棒に顔を寄せて、口いっぱいにそれを頬張った。生温かいしのの体温が快楽となって肉棒を通して伝わってくる。

 口の中では舌がチロチロと裏筋やカリ首を舐め回し、そして肉棒全体を刺激するように、しのは口をすぼめてしごくようにしゃぶる。



「うぐ……気持ちいいぞ、しの……!」



 雑巾を絞るような音が部屋を埋める。俺はしのの奉仕と競うように、彼女の秘部に指を這わす。

 秘部のまわりに生える整えられたアンダーヘアーを手のひらで撫でながら、一気に第2関節まで人差し指と中指を滑り込ませた。



「んん!?んぅ……!」



 いきなりの愛撫にしのはガクガクと震えて愛液を滝のように分泌し、俺の手をびしゃびしゃと濡らす。思わずしのは口から肉棒を抜いて、息を荒げる。



「あなた、そ、そこ……あまり弄っては……弄っては……あぁっ!」



 その声を当然スルーし、根元まで指を押し込んでは素早くそれを引き抜く。指の腹で膣壁を押し撫でる度にしのは甲高い喘ぎ声を耳元で叫ぶ。しのの膣も彼女の静止する声とは裏腹に、強い圧力で指を締め付け、性器でないのに搾り取ろうと蠢く。愛液も一層溢れ、シーツのシミがどんどん広がっていく。



「あぁっ!あぁっ!あなた、あなたぁ!!」



 しのは力強く俺を抱きしめ、口元から唾液を一筋垂らして快楽を享受する。その淫ら極まる反応は、俺の荒ぶる欲をさらに加速した。



「はぁ、ふあぁぁんっ!」



 じょばぁ、としのは潮を噴いた。

 少し伸びた爪が食い込んで、俺の肩甲骨あたりを傷つける。



「だらしない姿を……さらしてしまいました……」

「そんなことは無い。魅力的だったぞ、しの……」



 しのから指を引き抜いて、今度は覆い被さって肉棒をあてがう。

 しのは蕩けた表情を浮かべて、自分の性器に入るものを、今か今かと眺め待っている。



「あなたの……ください……。私の疼く子宮に、あなたの精を満たしてください……」

「あぁ、満足するまでしてやる……っ!」



 俺は一気に彼女の中へと突き立てた。絶頂を迎えたばかりで小刻みに震える壁を押し広げ、亀頭が子宮の口とぶつかった。



「は、あああああんっ!」



 しのは体を反らせた。最奥に到達してほんの僅かに遅れて、万力のように俺の肉棒を激しく圧力をかけて絡み付く。許容を超えた快楽に驚いて引き抜こうとすると、しのの尻尾が俺の体に巻き付いて、腰をガッチリと
固定した。



「し、しの!力抜け!出ちまうから……!」



 しのは聞かなかった。むしろ締め付けはどんどん力強くなり、尻尾が俺の腰を無理やり動かしてストロークをかけ始めた。



「ぐああああっ!」



 視界に火花が散り、股間が自分の意識と切り離されたかのように思えた。意識というストッパーが外れた肉棒は、好き放題にしのの子宮に精液を迸らせた。



「ふぁ、あっ、ああぁあっ!!」



 インキュバスである俺の射精量は常人からかなりかけ離れている。そんな量を止めどなく射精し続けているはずなのに、結合部からは1滴たりとも液体が流れない。それほどまでに締め付ける力か強かった。



「しの、頼むからもう少し加減してくれ……」

「は、はい……」



 ようやく解放されて肉棒を抜くと、容量を超えて膣を満たしていた精液が、肉壁の圧力によって音を立てて膣口から飛び出す。

 しのは起き上がって、愛液や精液でドロドロに汚れた肉棒を舐めて綺麗にする。



「あなたの精液……美味しいです……♪」



 少し白濁で口元を汚しているしのの姿はとても魅力的だった。

 そう個人的にほっこりしていると、しのは少し強めに肉棒を掴んだ。



「えっと……まだ、出来ますよね……?」

「も、もちろん!」



 しのの体にむしゃぶりつこうとした瞬間、スライド扉がガラガラと開き、馬のような特徴的な足音がこちらに来る。

 そしてガサッとベッドを囲むカーテンが払われる。

 そこにいたのは、涙目のリノだった。



「芳樹さぁ〜ん……心配じたじゃないですがぁ〜」

「り、リノさん……?」

「うう……ひっぐ、だって……こんな夜中に、しかも年越し寸前でいないなんて……芳樹さんと、夢の中で楽しく年越ししたかったんですよぉ〜」

「そんなことしたら、リノ、お前しのに殺されるぞ……?」

「私だって寂しかったんですぅ〜」



 そんな会話をしていると、扉がノックされる。ガラガラと開くと、若い男の医者が薬を持って来た。



「ウィラ先生が処方したお薬を持ってきました。この錠剤は熱が酷いときに、2錠飲んでください」



 ベッドの近くに置いて、医者は病室を後にしようとする。



「あ、あの……」



 リノは細い声で医者を引き留める。



「なんでしょう?」

「えっと……、あの……あの……」

「落ち着いて、ゆっくり言ってください」

「は、はい……す……好きになったんです!そ、その!先生が!」



 部屋の空気が、一瞬だけ止まった。

 フラれたわけではないが、なぜか心が痛くなった。



「そうですか」



 医者はポケットから鍵を出して、リノの手のひらに置く。



「6階の病室の鍵です。よかったら」



 医者の背中に向かって、



「い、行く行く!行きましゅ!絶対に行きますから!!」



 リノも続いて病室を飛び出していった。

 俺としのは取り残されたような錯覚を覚えた。



「……ドア閉めろっての」

「ふふ、そうですね♪」



 俺としのは、続行のキスをした。
14/12/31 23:17更新 / 祝詞
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■作者メッセージ
 よい年過ごせましたか?祝詞です。

 この作品は最初は2013年の12月に終わる予定でした。しかし色々な雑念やらスランプやらで上手くいかず、ズルズルと延びに延び、けじめということで今日に完結させました。

 本当にごめんなさい。

 しかしこれで、しのさん(あるいはしのちゃん)は晴れてクランクアップ。立派な「うちの子」になりました。幸せになれよ(えぐえぐ

 最初から読んでくださった方々、本当にありがとうございました!

 2015年も、どうか私と私の作品を、よろしくお願い申し上げます。

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