男装の海賊!孤高のヴィーノ
酒場の騒ぎから翌日...
ウィルは酒場から近い距離の宿屋に宿泊していた。
「行ってらっしゃいませ!」
「ああ、行ってくる!」
朝方、ウィルは年老いた宿屋の主人に見送られ、宿を出た。すると、宿の前に昨日の酒場の美人店主カリーナがいた。
「ラカムさん!」
「おお、カリーナ!やっぱお前は綺麗だ!俺のハーレムに入らないか」
「入りませんよ!」
ウィルのデリカシーのない誘いを少し声を荒げて断るカリーナ。
「そうか...そりゃ残念。で、なんか用か?」
「はい、実は昨日のお礼がしたくて」
「礼?別にいいぜー、そんなの?」
「そうはいきません!あなたがいなかったら、私はアイツらに連れていかれてました!なので、何かお礼をさせてください!」
真剣な眼差しを向けて話すカリーナに、ウィルは首に手を回し、面倒くさそうに答えました
「んー?じゃあ、俺のハーレムに...」
「それ以外で!」
「ええ?、じゃあ、タダでワインを飲ましてくれ」
「分かりました!それじゃあ今晩待ってますので!」
「おお!、あ、でも俺、昨日常連達と揉めちまったんだが、大丈夫か?」
ウィルはゲスタ海賊団の下っ端が来る直前までカリーナを口説こうしたために、酒場の常連である漁師達にマジギレされていた。そのことに多少は責任を感じていたウィルはまた自分が行って、酒場の空気を悪くならないか心配していた。すると、カリーナは自信満々に答えた。
「大丈夫です!ラカムさんが帰った後、漁師さん達も反省してましたし、何より昨日の一件でみんながあなたに感謝しているんですから!」
グイグイと話すカリーナにウィルは少し身を引きつつも、カリーナの言うことを信じることにした。
「そ、そうか、なら心配ねぇな」
「はい!そういうことなので、安心して来てくださいね!」
「分かった!じゃあ今晩期待してるぜ!」
「はい!それでは!」
カリーナは満足気に小走りで去っていった。その後ろ姿にウィルは思わず微笑んでしまった。
「後ろ姿もかわいいなー」
ウィルは思ったことをポロッと漏らした。
「さてと、朝飯食うか。確かこの島は漁業が盛んらしいから、やっぱ魚料理だな!」
ウィルは新鮮な魚と絶品の魚料理を思い浮かべながら、島の料理屋に向かって歩いていった。
ウィルは料理屋に向かって歩いている途中、ふと背後に気配を感じた。
(誰か、つけてきてるな、昨日の海賊の仲間か?)
ウィルは昨日の海賊の仲間が報復に来たのではないかと考えていた。実際、酒場でカリーナに手を出して、ウィルにボコボコにされた下っ端3人はあの後、この島に駐在している主神教団によって捕らえられた。部下が捕まったと分かれば、報復に部下を差し向けることも不思議ではない。ましてやあの下卑た3人組の船長や仲間など碌でもないやつに違いないし、どんなに卑怯な手を使ってもおかしくないとウィルは考えた。
(だったら、この場でやるしかねぇか)
ウィルはつけてきているのは、昨日の海賊“ゲスタ海賊団”の差し金だと断定し、この場で戦うことを決めた。幸い、周りに人はいない。存分に暴れられる。昨日はたまたま飲みに行くだけだと、持っていかなかったカットラスを腰から抜き、振り返った。すると、
「やっぱな、さっきから気配を感じてたんだ」
振り返った先に、ローブで顔を隠した男が堂々と立っていた。だが、その状況にウィルは違和感を覚えた。
「だが、妙だな。なぜ後ろから刺してこねぇ?」
ウィルを殺すだけなら不意打ちでも良いはず。ウィルはそう考えていた。しかし、ローブの男は何も答えない。すると突然、腰に携えた2本のサーベルを抜き、ウィルに斬りかかったきた。
「いきなりかよ!?」
ウィルは交差するように自身の首に向かってくる2本のサーベルを、素早く身を引いて回避した。
「今度はこっちの番だ!」
今度はウィルが素早くローブの男に斬りかかる。それをローブの男は2本のサーベルをクロスさせて受け止めた。
「どうやら下っ端のヤツらとは違うらしいなぁ」
ローブの男の実力は下っ端とは明らかにレベルが違った。ウィルは笑いつつも、完全に油断が消えた。
(こりゃあ、本気でいかねぇとヤベェな!)
ウィルとローブの男はお互いに武器を構え、勢いよく駆け出した。
キイイイイイン!!!!
ウィルのカットラスとローブの男のサーベルが幾度となくぶつかり、火花を散らす。勝負は拮抗している様に見えたが、実際はローブの男の方が優勢であった。
(ヤベェな、攻撃を受けるので精一杯だ!)
ローブの男の巧みな二刀流による、流れるような連撃にウィルは防戦一方だった。しかし、ローブの男がトドメとばかりに強力な一撃を仕掛けた瞬間、
「ここだぁ!!」
「!!」
ウィルはその攻撃を強く打ち返すように横に払った。強力な一撃にローブの男は体勢を崩した。そして、ウィルはその隙に、カットラスを両手持ちし、
「喰らいやがれ!!」
ウィルは渾身の右一閃を放った。しかし、ローブの男はそれを2本のサーベルの刃を下に向け、受け止める。
「!!」
だが、完全には受け止めきれず、ローブの男は身体を押される。
ウィルはその隙を見逃さず、ローブの男の身体に回し蹴りを繰り出す。
すると、ローブの男は上半身を仰け反り、蹴りを回避する。
「な!?」(なんつー、身体の柔らかさだ!?)
ウィルが一瞬驚いた隙を見逃さず、今度はローブの男が受け止めているウィルのカットラスを、片方のサーベルで払い上げ、もう片方のサーベルで無防備となったウィルに斬りかかる。
(ヤ、ヤベェ!!)
後ろに下がっても間に合わない。まさに絶対絶命の状況だった。すると、どうしようもなくなったウィルは
(こうなりゃ、一か八か!!)
意を決して賭けに出た。ローブの男の懐に目掛けて、突進したのだ。
「!?」
この博打とも思える行動にローブの男も動揺を隠せなかった。この動揺により、一瞬ローブの男のサーベルが止まった。そして
「うっ!!」
ローブの男はウィルのタックルを喰らい、そのまま押し倒される。ウィルはローブの男の首にカットラスの刃を突き立てた。ローブの男は降参した。すると、
「フフッ、やはり君は私が見込んだ通りの男だ! ウィリアム・ラカム!」
「は?いきなり何言ってんだ?というか、お前喋れたのか」
戦闘中、一切声を出さなかったローブの男が、突然意味の分からないことを喋り出し、ウィルは戸惑っいた。そんなウィルを他所にローブの男は押し倒された状態でローブで隠れた顔を出した。それを見たウィルは驚きを隠せなかった。
「お、女!?」
なんと男と思っていた相手は中性的な顔立ちの美女であった。驚きのあまり突き立てていた刃を引っ込めてしまう。すると、女が起き上がり、羽織っていたローブを脱ぎ捨てた。すると次の瞬間、ウィルはさらに驚くことになる。
「なんだ!? 」
突然、女の身体が変化し出した。下半身が毛むくじゃらになり、足には蹄のようなものがついた。そして、頭に山羊の角が生えた。
「サ、サテュロス!?」
女はサテュロスであった。上半身は人間と変わらず、紫を基準とした男装をしているが、下半身は獣のそれであった。あまりの衝撃にウィルは驚きっぱなしであったが、さらに驚くべき事実が女の口から飛び出す。
「ああそうだ。君と同じく海賊をやっている。“ヴィーノ”という名を聞いたことはないかい?」
「ヴィーノ? ヴィーノっていやぁ、この辺りじゃ有名な女海賊“孤高のヴィーノ”なら知ってるが?...まさかお前が!」
「そうだ、よろしく」
ウィルの目の前にいるサテュロスは、自身をヴィーノと名乗った。そして、その名は“コブタ海域”では広く名の知れた女海賊“男装のヴィーノ”と同じ名であった。ウィルはその名は知ってたが手配書を見たことがなかったため顔を知らず、俄かには信じ難かったが、先程の戦闘で自身をとどめ寸前まで追い込んだ程を思い出し、本人だと信じることにした。
というのも、ウィルがこの海域から旅を始めたのには、ある理由があった。それは、
「...まさか、こんなに早く出会えるとはな」
「ん? どういう意味だい?」
「お前に会ってみたかったんだ!」
「ほぉ、それは嬉しいが、なぜだい?」
ヴィーノがそう聞くと、ウィルはあっけらかんとした態度で答えた。
「すげぇ美人って聞いたから!」
「!!」
ウィルの答えにヴィーノは一瞬頬を赤くしたが、すぐに冷静になり、余裕そうに答えた。
「...フフッ、そうか。それでご感想は?」
「想像してたより綺麗だ! ...けど」
「ん?」
ウィルは口元は笑っていたが、突然目だけが鋭くなった。そして、ウィルはヴィーノに問いかけた。
「なんで俺を狙った? 言っとっけどよ、俺には懸賞金掛かってねぇぞ」
返答次第じゃただでは済まさないとばかりに、左腰に携えたカットラスの鞘を押さえるように左手で触れる。すぐに抜けるようにである。
すると、ヴィーノは余裕の笑みを浮かべ、ウィルに答えた。
「君の実力を試したかっただけで、殺すつもりはなかったさ」
「はぁ?」
その答えにウィルは納得出来なかった。ヴィーノは構わず続けた。
「まあ、そう言いたくなる気持ちも分かるが、話を聞いてくれ」
「話?」
ウィルは自身が襲われた理由にまだ納得していなかったが、ヴィーノは構わず続ける。
「私には潰したい海賊団がいるんだ。そのために腕の立つ協力者を探していた」
「潰したい海賊団?」
「昨日の夜、君が酒場で倒した連中さ」
「ゲスタ海賊団か?」
「ご名答」
「ていうか、何でお前が酒場での事知ってんだ?」
「風の噂で聞いたのさ。美人が営む酒場を荒らしに来たゲスタ海賊団の連中を1人で倒した男がいるってね」
「確かにそれは俺だ。アイツら、無理やりカリーナを連れていこうとしたからな」
ウィルは思い出すだけでも、怒りが湧いていた。
「ここからが本題だ。ヤツらを倒すのを協力してくれないかい? 君の実力なら申し分ない!」
そういうとヴィーノはウィルに握手を求めた。当のウィルはすでに答えは決まっていた。
「断る」
「ほぉ、それはなぜだい?」
笑みが消えたヴィーノが理由を問うと、ウィルから思わぬ返答が返ってきた。
「確かにお前は綺麗だ。俺のハーレムに加えたいぐらいだ!」
「!...フッ、それはどうも」
唐突にウィルが真顔で褒め出す。これにヴィーノは一瞬驚くが、すぐに冷静になり、クスりと笑う。
「だが、いくら綺麗な女でもいきなり斬りかかってくる奴を信用出来ねぇ、そもそも俺は気がのらねぇ戦いはしたくねぇ。第一、お前らだけでやればいいだろう?」
ウィルがそういうと、ヴィーノは微笑みながら、衝撃的なことを言った。
「フフッ、私1人でかい?」
「...は?」
「私は1人なんだ」
「...他の協力者がいるんじゃないのか?」
「いいや、誰も私に勝てなかったからね」
「...俺も1人だぞ」
「そうなのか? だがもう時間がない。2人だけだが、私たちが力を合わせればきっと...」
「勝てるか〜〜!!!」
ウィルのツッコミが大きく木霊した。
「話にならねぇよ! 俺は行くからな!」
そう言ってウィルはヴィーノとは反対方向に歩き出した。
ウィルは酒場から近い距離の宿屋に宿泊していた。
「行ってらっしゃいませ!」
「ああ、行ってくる!」
朝方、ウィルは年老いた宿屋の主人に見送られ、宿を出た。すると、宿の前に昨日の酒場の美人店主カリーナがいた。
「ラカムさん!」
「おお、カリーナ!やっぱお前は綺麗だ!俺のハーレムに入らないか」
「入りませんよ!」
ウィルのデリカシーのない誘いを少し声を荒げて断るカリーナ。
「そうか...そりゃ残念。で、なんか用か?」
「はい、実は昨日のお礼がしたくて」
「礼?別にいいぜー、そんなの?」
「そうはいきません!あなたがいなかったら、私はアイツらに連れていかれてました!なので、何かお礼をさせてください!」
真剣な眼差しを向けて話すカリーナに、ウィルは首に手を回し、面倒くさそうに答えました
「んー?じゃあ、俺のハーレムに...」
「それ以外で!」
「ええ?、じゃあ、タダでワインを飲ましてくれ」
「分かりました!それじゃあ今晩待ってますので!」
「おお!、あ、でも俺、昨日常連達と揉めちまったんだが、大丈夫か?」
ウィルはゲスタ海賊団の下っ端が来る直前までカリーナを口説こうしたために、酒場の常連である漁師達にマジギレされていた。そのことに多少は責任を感じていたウィルはまた自分が行って、酒場の空気を悪くならないか心配していた。すると、カリーナは自信満々に答えた。
「大丈夫です!ラカムさんが帰った後、漁師さん達も反省してましたし、何より昨日の一件でみんながあなたに感謝しているんですから!」
グイグイと話すカリーナにウィルは少し身を引きつつも、カリーナの言うことを信じることにした。
「そ、そうか、なら心配ねぇな」
「はい!そういうことなので、安心して来てくださいね!」
「分かった!じゃあ今晩期待してるぜ!」
「はい!それでは!」
カリーナは満足気に小走りで去っていった。その後ろ姿にウィルは思わず微笑んでしまった。
「後ろ姿もかわいいなー」
ウィルは思ったことをポロッと漏らした。
「さてと、朝飯食うか。確かこの島は漁業が盛んらしいから、やっぱ魚料理だな!」
ウィルは新鮮な魚と絶品の魚料理を思い浮かべながら、島の料理屋に向かって歩いていった。
ウィルは料理屋に向かって歩いている途中、ふと背後に気配を感じた。
(誰か、つけてきてるな、昨日の海賊の仲間か?)
ウィルは昨日の海賊の仲間が報復に来たのではないかと考えていた。実際、酒場でカリーナに手を出して、ウィルにボコボコにされた下っ端3人はあの後、この島に駐在している主神教団によって捕らえられた。部下が捕まったと分かれば、報復に部下を差し向けることも不思議ではない。ましてやあの下卑た3人組の船長や仲間など碌でもないやつに違いないし、どんなに卑怯な手を使ってもおかしくないとウィルは考えた。
(だったら、この場でやるしかねぇか)
ウィルはつけてきているのは、昨日の海賊“ゲスタ海賊団”の差し金だと断定し、この場で戦うことを決めた。幸い、周りに人はいない。存分に暴れられる。昨日はたまたま飲みに行くだけだと、持っていかなかったカットラスを腰から抜き、振り返った。すると、
「やっぱな、さっきから気配を感じてたんだ」
振り返った先に、ローブで顔を隠した男が堂々と立っていた。だが、その状況にウィルは違和感を覚えた。
「だが、妙だな。なぜ後ろから刺してこねぇ?」
ウィルを殺すだけなら不意打ちでも良いはず。ウィルはそう考えていた。しかし、ローブの男は何も答えない。すると突然、腰に携えた2本のサーベルを抜き、ウィルに斬りかかったきた。
「いきなりかよ!?」
ウィルは交差するように自身の首に向かってくる2本のサーベルを、素早く身を引いて回避した。
「今度はこっちの番だ!」
今度はウィルが素早くローブの男に斬りかかる。それをローブの男は2本のサーベルをクロスさせて受け止めた。
「どうやら下っ端のヤツらとは違うらしいなぁ」
ローブの男の実力は下っ端とは明らかにレベルが違った。ウィルは笑いつつも、完全に油断が消えた。
(こりゃあ、本気でいかねぇとヤベェな!)
ウィルとローブの男はお互いに武器を構え、勢いよく駆け出した。
キイイイイイン!!!!
ウィルのカットラスとローブの男のサーベルが幾度となくぶつかり、火花を散らす。勝負は拮抗している様に見えたが、実際はローブの男の方が優勢であった。
(ヤベェな、攻撃を受けるので精一杯だ!)
ローブの男の巧みな二刀流による、流れるような連撃にウィルは防戦一方だった。しかし、ローブの男がトドメとばかりに強力な一撃を仕掛けた瞬間、
「ここだぁ!!」
「!!」
ウィルはその攻撃を強く打ち返すように横に払った。強力な一撃にローブの男は体勢を崩した。そして、ウィルはその隙に、カットラスを両手持ちし、
「喰らいやがれ!!」
ウィルは渾身の右一閃を放った。しかし、ローブの男はそれを2本のサーベルの刃を下に向け、受け止める。
「!!」
だが、完全には受け止めきれず、ローブの男は身体を押される。
ウィルはその隙を見逃さず、ローブの男の身体に回し蹴りを繰り出す。
すると、ローブの男は上半身を仰け反り、蹴りを回避する。
「な!?」(なんつー、身体の柔らかさだ!?)
ウィルが一瞬驚いた隙を見逃さず、今度はローブの男が受け止めているウィルのカットラスを、片方のサーベルで払い上げ、もう片方のサーベルで無防備となったウィルに斬りかかる。
(ヤ、ヤベェ!!)
後ろに下がっても間に合わない。まさに絶対絶命の状況だった。すると、どうしようもなくなったウィルは
(こうなりゃ、一か八か!!)
意を決して賭けに出た。ローブの男の懐に目掛けて、突進したのだ。
「!?」
この博打とも思える行動にローブの男も動揺を隠せなかった。この動揺により、一瞬ローブの男のサーベルが止まった。そして
「うっ!!」
ローブの男はウィルのタックルを喰らい、そのまま押し倒される。ウィルはローブの男の首にカットラスの刃を突き立てた。ローブの男は降参した。すると、
「フフッ、やはり君は私が見込んだ通りの男だ! ウィリアム・ラカム!」
「は?いきなり何言ってんだ?というか、お前喋れたのか」
戦闘中、一切声を出さなかったローブの男が、突然意味の分からないことを喋り出し、ウィルは戸惑っいた。そんなウィルを他所にローブの男は押し倒された状態でローブで隠れた顔を出した。それを見たウィルは驚きを隠せなかった。
「お、女!?」
なんと男と思っていた相手は中性的な顔立ちの美女であった。驚きのあまり突き立てていた刃を引っ込めてしまう。すると、女が起き上がり、羽織っていたローブを脱ぎ捨てた。すると次の瞬間、ウィルはさらに驚くことになる。
「なんだ!? 」
突然、女の身体が変化し出した。下半身が毛むくじゃらになり、足には蹄のようなものがついた。そして、頭に山羊の角が生えた。
「サ、サテュロス!?」
女はサテュロスであった。上半身は人間と変わらず、紫を基準とした男装をしているが、下半身は獣のそれであった。あまりの衝撃にウィルは驚きっぱなしであったが、さらに驚くべき事実が女の口から飛び出す。
「ああそうだ。君と同じく海賊をやっている。“ヴィーノ”という名を聞いたことはないかい?」
「ヴィーノ? ヴィーノっていやぁ、この辺りじゃ有名な女海賊“孤高のヴィーノ”なら知ってるが?...まさかお前が!」
「そうだ、よろしく」
ウィルの目の前にいるサテュロスは、自身をヴィーノと名乗った。そして、その名は“コブタ海域”では広く名の知れた女海賊“男装のヴィーノ”と同じ名であった。ウィルはその名は知ってたが手配書を見たことがなかったため顔を知らず、俄かには信じ難かったが、先程の戦闘で自身をとどめ寸前まで追い込んだ程を思い出し、本人だと信じることにした。
というのも、ウィルがこの海域から旅を始めたのには、ある理由があった。それは、
「...まさか、こんなに早く出会えるとはな」
「ん? どういう意味だい?」
「お前に会ってみたかったんだ!」
「ほぉ、それは嬉しいが、なぜだい?」
ヴィーノがそう聞くと、ウィルはあっけらかんとした態度で答えた。
「すげぇ美人って聞いたから!」
「!!」
ウィルの答えにヴィーノは一瞬頬を赤くしたが、すぐに冷静になり、余裕そうに答えた。
「...フフッ、そうか。それでご感想は?」
「想像してたより綺麗だ! ...けど」
「ん?」
ウィルは口元は笑っていたが、突然目だけが鋭くなった。そして、ウィルはヴィーノに問いかけた。
「なんで俺を狙った? 言っとっけどよ、俺には懸賞金掛かってねぇぞ」
返答次第じゃただでは済まさないとばかりに、左腰に携えたカットラスの鞘を押さえるように左手で触れる。すぐに抜けるようにである。
すると、ヴィーノは余裕の笑みを浮かべ、ウィルに答えた。
「君の実力を試したかっただけで、殺すつもりはなかったさ」
「はぁ?」
その答えにウィルは納得出来なかった。ヴィーノは構わず続けた。
「まあ、そう言いたくなる気持ちも分かるが、話を聞いてくれ」
「話?」
ウィルは自身が襲われた理由にまだ納得していなかったが、ヴィーノは構わず続ける。
「私には潰したい海賊団がいるんだ。そのために腕の立つ協力者を探していた」
「潰したい海賊団?」
「昨日の夜、君が酒場で倒した連中さ」
「ゲスタ海賊団か?」
「ご名答」
「ていうか、何でお前が酒場での事知ってんだ?」
「風の噂で聞いたのさ。美人が営む酒場を荒らしに来たゲスタ海賊団の連中を1人で倒した男がいるってね」
「確かにそれは俺だ。アイツら、無理やりカリーナを連れていこうとしたからな」
ウィルは思い出すだけでも、怒りが湧いていた。
「ここからが本題だ。ヤツらを倒すのを協力してくれないかい? 君の実力なら申し分ない!」
そういうとヴィーノはウィルに握手を求めた。当のウィルはすでに答えは決まっていた。
「断る」
「ほぉ、それはなぜだい?」
笑みが消えたヴィーノが理由を問うと、ウィルから思わぬ返答が返ってきた。
「確かにお前は綺麗だ。俺のハーレムに加えたいぐらいだ!」
「!...フッ、それはどうも」
唐突にウィルが真顔で褒め出す。これにヴィーノは一瞬驚くが、すぐに冷静になり、クスりと笑う。
「だが、いくら綺麗な女でもいきなり斬りかかってくる奴を信用出来ねぇ、そもそも俺は気がのらねぇ戦いはしたくねぇ。第一、お前らだけでやればいいだろう?」
ウィルがそういうと、ヴィーノは微笑みながら、衝撃的なことを言った。
「フフッ、私1人でかい?」
「...は?」
「私は1人なんだ」
「...他の協力者がいるんじゃないのか?」
「いいや、誰も私に勝てなかったからね」
「...俺も1人だぞ」
「そうなのか? だがもう時間がない。2人だけだが、私たちが力を合わせればきっと...」
「勝てるか〜〜!!!」
ウィルのツッコミが大きく木霊した。
「話にならねぇよ! 俺は行くからな!」
そう言ってウィルはヴィーノとは反対方向に歩き出した。
22/09/12 02:34更新 / 運の良いツチノコ
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