連載小説
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それは突然に!ゲスタ海賊団の襲撃
ウィルは今、魚料理がうまい飯屋で10人前はあるであろう巨大な焼き魚を頬張りながら、真っ昼間からビールを飲んでいた。

「プハー!!ビールに焼き魚!最高!!」

 ビール片手に巨大な焼き魚をスゴイ勢いで骨まで頬張る姿は店中の客が注視していた。すると、

「フフッ、君は見た目によらず、大食いだな」
「ん!?」

 声の方を見ると、ウィルは驚きのあまり魚を喉に詰まらせてしまった。すぐさまビールを流し込み、何とか喉の通りを直す。

「プハッ!!ハァ...ハァ...」
「大丈夫かい? そんなに急いで食べるからだ」
「お前のせいだよ!」
「しかし、刺身を食べるのは久しぶりだが、ここのは一段と美味い」
「食ってんなよ!」

 ヴィーノがテーブルの向かいの席に座って刺身を食べていた。ウィルは思わずツッコミを入れた。

「まだ、話は終わってないからね」
「俺は関わらねぇつったろ!」

 ウィルはテーブルを叩きつけた後、さらに話し続ける。

「大体、なんでそんなにアイツらを潰したいんだよ?」

 ウィルがそう聞くと、ヴィーノから笑みが消えた。そして、暗い顔で答えた。

「私の恩人が奴らに囚われている」
「!?」

 ウィルはヴィーノの答えに思わず食べる手を止めた。

「1ヶ月前、私は“セカンド諸島”という島に立ち寄ったんだ」
「そこ、ちょうど俺が次の向かう島だ。それで?」
「その時の私は空腹と疲労で島に上陸すると共にその場に倒れ込んでしまってね。あの時はピクリとも動けなくて、死を覚悟した。けどその時、1人の女性が私を助けてくれた。名を“リリー”という」
「なるほど...つまり、お前はそのリリーって娘を助け出したいって訳か」
「その通りだ。そして、リリーを攫ったのはこの男だ!」

 ヴィーノは懐のポッケから紙を取り出し、ウィルに見せた。

「コイツが!」
「そう、ゲスタ海賊団の船長“ゲスタ・コバルデ”、 またの名を“女攫いのゲスタ”」
「昨日、酒場に来た奴らのボス...」
 
 ヴィーノがウィルに見せたのは主神教団が発行している手配書であった。顔写真には白髪で肩スレスレまで降りたセンター分けの前髪。いかにも凶暴そうな面構えの男性が写っていた。

「女攫い?」
「そう、奴は島を襲う時、物資や食料と共に美しい女性を攫っていくのさ、己の性欲のためだけにね」
「なんて奴だ...それでリリーも連れ去られたのか?」
「そうだ、奴らはセカンド諸島に現れて、リリーを誘拐した! 私はリリーを守るべく戦ったが、ゲスタに敵わなかった...クッ!」

 ヴィーノは歯を食いしばった。それほど悔しかったのだろう。ウィルもゲスタの非道に怒りを覚えた。

「だから私は奴を、ゲスタを倒したい! そして、攫われたリリーを助けたいんだ!」

 そう言うヴィーノの目は本気だった。先程までの飄々とした態度が嘘のように。

 すると突然、

「大変だー!!」

 1人の漁師が慌てて店に入ってきた。昨晩、酒場にもいた漁師だった。

「海賊が! ゲスタ海賊団が責めて来たぞー!!」

 その一言に店内は大騒ぎになる。そして、

「にげろー!」
「早く教団の駐屯地へ!!」
「急げ! 海賊が来る前に!!」

 店内の人達は一目散に店を飛び出した。残されたのはウィルとヴィーノだけとなった。すると、ウィルは不意に嫌な予感がした。

「カリーナは!?」

 カリーナが無事を祈りながら、ウィルは酒場に向かって走り出した。ヴィーノもウィルを追って走り出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一方、カリーナの酒場ではウィルの予感が的中していた。昨晩の下っ端3人組が酒場に来襲し、カリーナを拐おうとしていた。

「いやぁ...!」

 カリーナは恐怖でどうすることも出来ずに震えていた。

「へっへっへっ! やっぱ、コイツは上玉だぁ!」
「昨日は邪魔が入ったが、今日は腰抜け漁師しかいない!」
「それもたった2人だー!!」
「「「ギャーハッハッハ!!!」」」

 下っ端3人はカリーナの目の前でたまたま早く仕事を終えて飲みに来ていた若い2人の常連の漁師を嘲笑う。
漁師2人は苦虫を食い潰したような表情で俯いていた。

「早く船長の所に連れて行くぞ!!」
「ヒッヒッヒ! さあ来い!」

 下っ端の1人がカリーナの腕を無理やり掴んで連れて行こうとした。すると

「「ちょっと待て!!」」

 2人の漁師が大きな声を上げた。

「あぁ? なんだぁ腰抜けー?」

 それに対して、下っ端の1人が威圧的に返答する。

「カリーナちゃんを離せ!! 」
「お前らなんかに連れていかせねぇぞ!!」
 
 そう言うと漁師2人が酒場の出入り口を塞ぐ。

「さっきまでビビってた癖に生意気だなー!」
「こうなりゃあ、少し痛めつけてやるよ!!」

 漁師2人と下っ端は臨戦体制に入った。


ーーーーーーーーーーーーーー


 しばらくして、酒場にウィルとヴィーノが血相を変えてやって来た。

「カリーナ!!」

 ウィルは荒れた酒場でカリーナを探したが、そこにカリーナの姿はなかった。

「ウィリアム。どうやら遅かったみたいだ」
「そんな...クソッ!!」

 ヴィーノの言葉にウィルはやり場のない怒りと悔しさを露わにした。すると、

「お、お前ら...」
「は!? 誰かいるのか!?」

 微かに声が聞こえた。2人は声が聞こえた方を見た。そこには傷だらけの2人の漁師が横たわっていた。

「大丈夫か!? しっかりしろ!」
「ひどい傷だ...ゲスタ海賊団の仕業か!」

 ウィルとヴィーノはすぐさま2人に駆け寄る。すると、漁師が何かを話そうとしていた。

「カリーナさんは...アイツらに連れて...行かれまし...た」
「俺...たちも、止めようと...して、このザマだ」

 漁師2人は自嘲気味に言った。怪我の状態からしてかなり無理して喋っている様子だった。すると、ヴィーノが酒場の奥から包帯と薬を取ってきた。

「あまり喋るな。今、応急処置をする」

 そう言って、ヴィーノは器用な手つきで薬を塗り、包帯を巻いた。そして、ものの数分で応急処置は終わった。

「よし、これで応急処置は済んだ」
「済まねぇな」

 漁師はヴィーノに感謝の言葉を言った。すると、応急処置の間、黙っていたウィルが口を開いた。

「...なあヴィーノ。アイツらはどこにいんだ?」
「ウィリアム?」
「さっきは関わらねぇって言ったけど、気が変わった。アイツらぶっ倒して、カリーナを助け出す。場所知ってんだろ?」

 ウィルの激しい怒りを覚えていた。性欲のために民間人をここまで痛め付けるゲスタ海賊団に。

「ああ、知ってるさ。奴らは今、ファース島の漁港を占領して、根城にしている」
「何だって!?」
「俺たちの、漁港を!?」

 ヴィーノの言葉に漁師2人は動揺した。それを他所にウィルは

「そうか、なら今すぐそこに行くぞ! お前もアイツらをぶっ潰してぇんだろ?」

 そのウィルの言葉にヴィーノも真剣な表情で答えた。

「当然さ。奴らを潰す策もある」
「そりゃあぜひ聞きたい!」
「後で話そう」

 すると、漁師の1人がウィルに言った。

「アンタら、どうかカリーナちゃんを、助けてやってくれ!」

 その言葉にウィルとヴィーノは迷いなく答える。

「分かってる。必ず助け出す!」
「ああ!」

 こうして2人とゲスタ海賊団の全面戦争が始まろうとしていた。

 
22/09/15 13:14更新 / 運の良いツチノコ
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