連載小説
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俺の仲間になれ! ウィルの誘いとヴィーノの想い
 ウィルとヴィーノは酒場に教団兵たちがやってきたため、バレないように酒場を後にした。酒場にいた漁師2人は教団兵に保護された。

 一方、ウィルとヴィーノはウィルが泊まっていた宿に戻って来ていた。ウィルの見送りをした年老いた主人はとっくに避難していなくなっていた。

 そして、ウィルとヴィーノは今、空いていた部屋で作戦会議をしていた。

「で、策ってのは何だ?」

 胡座をかいて座るウィルは、自身の前に座っているヴィーノに質問した。

「まず奴らの船に乗り込む。全てはそこからだ」
「こっそりと乗り込むんだな」
「いいや、正面から堂々と乗り込む」
「え?」

 ウィルは無茶なことを言うヴィーノに驚いた。

「いやいや、入れてくれるわけが」
「入れてもらうことは出来ないが、入ることは出来る」
「ああ? どういう意味だ?」

 ヴィーノの言葉にウィルはますます分からなくなり、首を捻る。

「奴らは主に夕方に島を襲撃し、ひとしきり略奪をした後、夜に船に帰る」
「...つまり?」
「夜にバンダナを巻いて、奴らに紛れていれば船に乗り込めるということだ」

 ヴィーノは人差し指を立てて自信満々に言った。だが、ヴィーノの言うことにウィルはまだ疑問があった。

「ちょっと待て! まさかバンダナを巻いてれば誰でも船に乗り込めるってのか?」
「そうさ、特に夜は攫ってきた女性に全員夢中になるからね」
「それでも! ゲスタは船員の顔を把握してるだろ! 船に乗り込む前にゲスタに見つかったら」

 そう聞くウィルにヴィーノは衝撃的なことを言った。

「フフッ、そう、普通ならね」
「...おいまさか」
「ゲスタは船員の顔をほとんど把握していない。船員達自身もお互いの顔を覚えていないよ」
「...それでよく航海なんて出来るなぁ、楽しくなさそうだし」
「全くだ、僕も御免だ」

 ウィルは静かに驚いていた。海賊に限らず上の立場に立つものならば、部下の顔はもちろん、能力なども把握するべきである。ゲスタはそれすら出来ていないという事実にウィルは半分呆れてもいた。

「じゃあ、マジでバンダナを巻いてれば良いのか?」
「ああ、奴らと同じ黒いバンダナを巻けばいい」
「あ! でも俺、黒いバンダナは持ってねぇぞ」
「なら、私のを使え。女性の私では流石にバレてしまうからね」

 そう言うとヴィーノは懐から黒い布を出し、ウィルに渡した。

「そういや、お前はどうやって船に乗り込むんだ?」
「私は樽か木箱に入って、君に運んでもらおうと思うんだが?」
「良いぜ! 実は宿の奥に酒樽が見えたんだ。多分店主のだ。空樽も多分あるだろう」
「そうか! ありがたく拝借しよう」

 さらっと持っていこうとする辺りやはりヴィーノも海賊だった。すると突然、ウィルがニコニコしながらこんなことを言い出した。

「なぁ、ヴィーノ」
「なんだい?」
「この戦いが終わったら、俺と一緒に来ねぇか?」
「君のハーレムの第一号になれってことかい?」
「ああ! お前は強ぇし、頭も良い! お前が来てくれれば百人力だ!」

 ウィルがさも普通に答えると、ヴィーノは拗ねたように言った。

「...確かに私たち魔物は一夫多妻を人間ほど嫌がりはしない。だが」

 そう言うとヴィーノが突然、ウィルの手を握り出した。

「私は私だけを愛して欲しい」

 そう言うヴィーノの目は不安げで顔は赤くなっていた。すると、ウィルが少し俯き気味に言った

「...悪りぃけど、それは出来ねぇ」

 こう見るとウィルは最低な男だろう。だが、それでもウィルはハーレムを作りたかった。数多の女性を愛し愛されたかった。ゆえに一途な恋愛を望む女性には手は出さなかった。

「そうかい...」

 ヴィーノの俯いた。ウィルは何を言われても仕方がないと覚悟していた。しかし、ヴィーノの口から発せられた言葉はウィルにとって予想外のものだった。

「なら、平等に愛してくれよ。キャプテン」
「え?」

 ヴィーノは呆れたように微笑み、そう言った。ウィルは呆気に取られていた。

「フフッ、私だけを愛してくれないのは不満だが、君と離れるのが1番いやだからね」
「誘っておいてなんだが良いのか? 本当に俺で?」
「君が良いんだ! 初めて会った時から運命を感じたからね! 一目惚れって奴だ///」

 ヴィーノは微笑みつつも頬が真っ赤だった。

「初めて会った時、俺は殺されかけたが?」
「何度も言うが、殺すつもりはなかったさ」

 ウィルの質問を否認する。

「とにかく! 今後とも頼む! ウィリアム!」
「...まあいっか、よろしくな! ウィルでいいぞ 」
「ウィル、必ずゲスタを倒そう!」
「ああ! 」

 2人は硬く腕を組んで、ゲスタの打倒を誓った。そして、辺りは暗くなり、いよいよゲスタ海賊団の船に乗り込むこととなった。
22/09/21 09:20更新 / 運の良いツチノコ
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