連載小説
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異質な霧の中で
「さて、ここか・・。」

 あたしたちは今、亡国フレジアの南門付近にいる。
 国の内部を守るためにあったであろう壁はほとんど崩壊しており、高いところでも1階建ての家ほどしか残っていない。
 影も形も残っていない門の奥は黒く深い霧がたちこめている、人間的にいえば魔王城が禍々しいならこちらは気味が悪いと言ったところか。

 「そこの方々!止まりなさい!」

 そこには探検帽をかぶったラージマウスが立っていた、付近にはいくつか簡易な小屋が立てられている、おそらく調査隊の一員だろう。

 「ここは立ち入り禁止区域です、ただちに退去してください!」
 「そう言われてもわたし達もここに用があるんだけど....。」
 「あら、あなたたちまた会ったわね。」

 声のする方を振り向くと、そこには青白い肌に矛盾するハリとツヤを持ちマント一つしか着ていない、酒場であったあのリッチが半裸の男性と小屋の中からのぞいていた。
 ・・・、あえてなにも言うまい。

 「アンタ、ここの調査員だったのか。」
 「ええ、といっても基本フリーなんだけどね、残念ながら彼女の言うとうり、今ここは関係者以外立ち入り禁止なの。」
 「まあ、町長の招待状があるなら話はべつだけど。」
 「え!そうなの!どうしようグロリア、わたしたちこれじゃ「コイツでいいか?」

 あたしはスッと封筒を取り出す

 「持っているなら早く出しなさい、ええと中身のほうは・・・、ええOKよ。」
 「....ドユコト?」
 「よっぽどグダグダな講座が頭に残っていたらしい、あんたが持っていないと心配だって言われたんでな。」
 「とても傷ついたよ。」
 「なんだ、新しい調査員の人でしたかでは何も問題はないですね、」
 「ふむふむ、国の内部に用事ありと、しらべたことは本部に記録を残してあるわ、こっちよ。」

 少し大きな小屋の中一つの巻物が広げられる、

 「主な術式は選別、そして幻覚、妨害、簡易な操作の効果で構成されているわ、なかには古いもので前魔王の時代の品物もある、クラスは禁術レベルよ。」
 「禁術って、どんだけだよ・・。」
 「まあ、危険ではないから一度その身で感じてみるといいわ。」












 「なんでよ・・・・。」

 「さ、さあ・・・。」

 簡単に言おう 通れた なんで?てっきりほかの隊員と同じく追い返されるもんだと思ってた。
 ちなみに驚きのあまりすぐに引き返してきたが、人がいなくなってだいぶ経つのだろう、荒廃した町並み、枯れた大地、そしてよどんだ空の三拍子だった。

 「つまり、この結界を張った主はあなたたちが来るのを待っていた、ということになるわ、選別の術式に欠陥部分があったわけじゃなければね。」
 「残念ながら、あたしは身に覚えがないなぁ、・・?どうしたリーベル、うかない顔して。」


 「あっ、いや、なんでもない。」


 「・・・・・。」

 薄々は感じていたが、コイツは不自然なところがある、他人の自分に対する恐怖への吐き気を催すほどの異常な拒絶反応、取り戻したい友人、なぜ、魔物化して今も生きながらえていると確信できるのか、そもそも取り戻すとはどういうことなのか、人には言えないことの一つや二つだれにもあるだろう、だけど


 なぜ、あたしにも話してくれないのか


 「・・・何はともあれ、あなたたちがあの霧を通過できることは解ったわ。霧の内部に入れるというのはかなり大きな進歩よ、否が応でも霧の奥深くまで調べに行ってもらうわよ。」
 「わたしはそもそもその霧の中に行くために来たんだ、ついでにチャチャッと済ませてくるさ。それじゃお話はこれくらいにして内部に探索しに行きますか!」

 「その前に、これをもっていきなさい。」

 そう言うとそばのタンスからあるものを投げ渡した

 「おっと、これはタリスマン?.....いや経箱だね?」
 「そ、あなた経箱つかってないでしょ、平常心を保ってもらわないと正確な記録をとれないじゃない、わたしのスペアだけどあなたに渡しとくわ。」

 「...ありがと、そうだ、あなたにこれを渡しておくよ。」

 リーベルはカバンから何かを取り出し相手に耳打ちをする

 「ええ、わかったわ、それじゃあいってらしゃい。」










 準備を済ませあたしたちは再び霧の中にいる、南門を抜けたエリア、リーベルが言うには第三区らしい、その第三区を抜け第四区に入るところだ

 「なあ、ちょっといいか?」
 「ん?どうしたの?グロリア。」
 「オマエさ、あたしに何か隠してんだろ。」

 「......。」

 「すくなくともあたしはオマエのゴーレムだ、隠す必要はないだろ。」
 「マスターの命令だよ、お願い、何も言わないで..。」
 「つらいことがあればあたしが受け止める、だから・・・・・」

 「ダメなの!!」

 「わたしは...、わたしは!!ほかのだれよりも!!キミにだけには絶対知られたくない!!」

 「お、おい、いきなり大声出していったい・・・ム!!」
 「キミが..、もし仮にキミがわたしの秘密を知ったら、きっと..、きっとわたしのこと嫌いになるかもしれない!そんなのは絶対ングぅ!」
 「静かに、何か来る。」


   ガっガッガッガ、ガチャリ、

 「おい・・、一体なんだありゃ・・。」

 とっさに隠れた瓦礫から様子をみると、そこに立っていたのは、黒い鎧を身に付け目を凝らしてみなければ解らないほどのわずかな黒いもやを纏っている、あきらかに人ではない何かだった。

 手元を見ればいつの間にかリーベルは拘束から抜け出しており、黒い何かを憎々しげに睨んでいる。

 「もう落ち着いたのか、」
 「気持ちの切り替えが早いのはデキルやつの特権だよ、」
 「あいつらを知っているのか。」
 「わからない、けどこのざわつくような感じ、覚えてる。あの時と同じアイツだ、アイツがここに居る。」
 「アイツって、どんな奴だ。」
 「ローブに身を包んでいたから誰なのかは知らない、だけどそんなことはどうでもいい、アイツはわたしから大切なものを奪った、絶対に許さない...。」

 「経箱は使ってないみたいだが大丈夫か。」
 「...キミはわたしを甘く見てないかい?」

 そう言うとバックから石細工のトカゲを取り出す。

 「じっくり見なさい....、」

 「そいつは?」
 「観察用のゴーレムもとぎ、ちなみに正式名はS02-<シャドウ・リザード>、簡易式だからただの魔道具に過ぎないさ、もしかして嫉妬した?」

 「いいや?まさか。」

 黒鎧たちの様子を見ていたトカゲがこちらを向くどうやら十分に観測できたらしい、リーベルがそれを軽く投げると、あたしたちが来た道に向かって走り出していった、足音の無さからその出来がうかがえる。

 「よし、まずは一匹目。」

 「一匹だけじゃダメなのか?」
 「仮にアレが敵に見つかっても情報を小分けにしておけば、被害はすくないからね、あと、次のデータなんだけど。」

 「?」

 「第5区に行くにはどうしてもあの黒鎧たちは避けて通れない、黒鎧の力を調べる必要がある、あとはわかるね?」

 「あたしの出番か。」
 「ええ、期待してるよ。」

 「最後に一つ。」
 「なに?」

 「あたしは魔王の世代交代後に固体名をもらった訳だけど、あたしの正式名ってなんつう名前なんだ?」

 「......Gプロト-<ザ・ハングドマン>。」

 「<吊られた男>ねぇ、今は女だけどな、」
 「そういう話は後!さっさと片付けてきなよ。」
 「正体不明の相手だってのに簡単にいってくれるぜ。」

 肩にトカゲを乗せ黒鎧の一人に対して一気に詰め寄る、シルフの力を持ったこの足ならこれくらいのこと造作もない、そして左腕に備わったパイルバンカーにサラマンダーの炎を纏わせ相手に杭を打ち付ける、魔静銀製なので威力、安全性、ともに折り紙つきだ。

 倒れる黒鎧、そして周りの奴らが群がってくる、が、遅い、まるでみかけだおしだ、距離を詰め射出された杭でなぎ払う、たったそれだけで片付いた、あまりにもあっけなさすぎる。

 「気味がわりぃな。」

 「お疲れさま、初戦は上々ね....と、言いたいところだけど、途中からパイルバンカーとして使ってなかったよね、なぎ払いだったよね、ただの棒だったよね。」
 「勝てばいいだろ別に。」

 安全を確認したんだろう、ふくれっ面になったリーベルが駆け寄る

 「・・・一応、顔でも拝んでおくか。」

 黒鎧の兜に手を伸ばす、黒いもやはどうやら無害のようだ、だがそんなことはどうでもよくなってしまうほどの光景が、あたしたちを待ち受けていた。

 「こいつら・・、全部死体じゃないか・・。」
 「.....!!町の..みんな..!!」
 「町のみんなって・・、お前が居たのはどれくらい昔だと思ってるんだ!」

 「ううぅ...。」

 どうやらゾンビになっているものがいたらしい。

 「しっかりして!」
 「そ..の声は...リー..ベル?ごめん..ね、目が..ない...の。」
 「いいから、アイツ?アイツがやったのね?」

 「うん、...人魚の血で....生きながらえて...急に帰って..!!.いっちゃだめ..!きっと..あなたが目的..アイツ..は、力に溺れ..ぁ...狂気の魔法使い..よ、なにをする...かぁ..」

 リーベルがバックから粉の入った試験管を取り出し粉を軽くふりかけるとゆっくりとまぶたを閉じやがてすやすやと寝息を立て始めた。

 「...ごめんね、それでもわたしはやらなきゃいけないんだ。今はゆっくりとおやすみ。」

 「リーベル、こいつ首になんかついてるぞ。」

 眠ったゾンビの首筋についていたもの、それは黒いもやを吐きつつうごめく肉片だった。

 「これは...、生物兵器の一種だね、一応これも回収しておこう。」

 肩に乗せたトカゲを回収すると先ほどの肉片をつめた瓶をくくりつけ、小屋の方へ向かわせる、そしてゾンビ達を壁に横たわらせてふと顔を上げる、目線の先にあるのは・・。

 「第5区・・・。」

 「早く行こう、町のみんなをたすけるんだ、そしてあの日常を...また過ごすんだ...。」

 「あの日常ね・・、あたしにはさっぱりだ。」



 「それにしても、アイツはあんな生々しい生物兵器もってたっけ、たしか使えるのは強力な術であって物をつくることはしなかっ....ん?」

 彼女はそうつぶやくと、ふと自分の腕を見つめた、骨と二本の触手に分離する自分の腕、昔家を整理していた時、誤って知らない魔法の巻物を開いてしまったときにできたものだ。

 「いや....、まさかね..。」

 「おーい、置いて行くぞー!」
 「ああ!待ってよキミはせっかちだな!」

 



 「はあああああああ!!」

 そこにいるのは背中合わせになった二人の魔物とそれをとり囲む無数の操られた死体たち、第5区に入るや否や物陰から現れたのだ、ただそれだけならなんの問題もなかった、。

 「この動き、こいつはまちがいなく・・っと。」
 「うん、そうだね、構成人数のほとんどが、兵士でできていっ、...まんまとひっかけられたね..。」

 「科学者にはさすがに無理があるんじゃないか?」

 リーベルが攻撃をいなしつつ言いカバンから飛び出す拳(おそらくあたしの付け替えパーツ)と同時に触手で追撃する。

 「一応さっ!わたしが魔物だってこと忘れてないかい?」
 「それもそうか、しかしまあっ、ずいぶんとトリッキーな戦い方だな!」

 二本のブレードがついた右の拳で相手の得物をおさえ、電撃を浴びせ失神させる、これはサンダーバードの力だ。

 「せいいっっぱいの!手を!使っているだけ!っと。」

 鉤爪でなぎ払いながら言うとなにかに気がついたのか、バックから巻き貝型の魔道具を取り出し耳に当てる。

 「...こえ..る?...収..物に...界の認しょ......コードが...」
 「グッドタイミングだ!!なるべく早くに。」

 「ふんっ!、一体何人倒したら終わるんだ?....ってどうした。」
 「くるよ!援軍が...っ!!」

 「今...ど....にいr..」
 「いまはフレジアの第..っ!!」

 その時だった一筋のひかりが煌めいたかと思うと無慈悲にもそのひかりは魔道具を打ち抜いたのであった。

 「いかんなあぁ...、呼ばれていない客人を招くもんじゃないぞぉ、」

 リーベルはその声に聞きおぼえがある、憎たらしいアイツの声だ。

 「どんな面下げてくるのかと思ったけど、あいかわらずのうすら笑いにへどがでるね。」

 そこにいるのは、にやにやとした目元の見えぬフードの男と

 「異型の腕をもつリッチ...、間違いないな。」

 「おいおい、ジョーダンにもほどがあるぜ。」

 廃墟に似合わぬ輝かしい鎧を着た者、勇者だった。
14/11/15 14:41更新 / B,バス
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■作者メッセージ
<NGシーン>

 彼女はそうつぶやくと、ふと自分の腕を見つめた、あれっ、なんだか今回かなりまともでリッチらしいことをしているのではないか、今回のわたしすごいイケてるんじゃないかとおもったのだ。

 「いや....、まさかね..。」

 「おーい、収録取り直しだぞー!」
 「ああ!せっかくのカリスマが!!」

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 みなさん、読んでいただきありがとうございます。

 ずいぶんと遅れてしまいました、今回改行や物語の試行錯誤を繰り返したら2週間過ぎてしまいました、リーベルや一話にあったグロリアの武装の復習をかねてを戦闘描写を書いてみましたがまだまだ不安が残る限りです、

 グロリアの正式名、Gプロト-<ザ・ハングドマン>はとある意味でつけただけであり、決して主任ではないです。

 リッチの経箱が箱じゃないことについては、リッチの経箱を調べた際いろんなパターンがあったので扱いやすそうな小物に封印するタイプにしました、これってタイトルに独自解釈入りと書いた方がよろしいのでしょうか?

最後に、大小以外のタグの戻し方ってどうやるんでしょう?

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