連載小説
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己が討つべき敵
 「おいおい、ジョーダンにもほどがあるぜ。」

 少々派手なこの鎧は廃墟にいると場違いかもしれない、これは自身の味方である神兵の象徴であり、士気向上の役割を担っている、象徴である以上戦いの場ではこの鎧を着る必要がある、まあそれ以前に

 「魔物あるところに勇者あり、だろう?」

 どこであろうと勇者は現れるものだ。

 「まぁ、話はこれくらいにしときましてぇ、そろそろ始めますかぁ。」

 うす汚いフードの男がそう言うと目の前のリッチとゴーレムが身構え始める。

 「俺様はあのゴーレムを解体して、調査して、再製作して、そしてそしてそして・・・、ああそうだ、マスターであるリッチの方は任せるわ、仇討するんでしょ?」
 「うげぇ、気持ち悪くて吐きそうだぜ。」

 気持ちは分からないこともないが同情はしない、フードの男は頭上に魔法陣を描きながら後退し霧の中に紛れていった、まあそうなるだろうな、魔法の妨害をされたら元も子もない。

 「まちなよ、おまえはわたしが倒すんだ。」
 「残念ながら、待つのはリッチ、君の方だ。」

 フードの男を追いかけようとしたリッチに雷撃を放つ威嚇射撃なので当りはしない。

 「くうぅ。」
 「おい大丈夫か、オマエじゃ自衛が精いっぱいだろ、あいつはあたしに任せて、オマエは時間稼ぎしてくれればそれでいい、な?」

 「....絶対帰ってきて。」

 「ああ・・・すぐに帰ってくる。」

 そう言うとゴーレムはフードの男の方へ向って行った

 「それではじめようか、っと言っても護衛のゴーレムは行ってしまったな。」
 「何言ってんのさ、一対一、力は対等じゃなくても逃げ回ることぐらい簡単さ。」
 「私の先祖を殺した時の力を使ってもいいんだぞ?」

 「....ウルサイ。」

 リッチはそうぼやくと二対の触手で廃墟を掴み宙に浮きながら後退していった。

 「やれやれ、私も追いかける羽目になるのか...。」

 しばらく追いかけると沢山の瓦礫が降ってくる、どうやら本当に逃げに徹するつもりらしい。
 瓦礫の雨を切り払っているとあることに気がついた、ある一定間隔が過ぎるとクロスボウの矢が打ち出されるのだ、それだけなら気にしなかったのだが、問題はその間隔が明らかに長かったことだだ。
 クロスボウは弓とは違いベテランの兵士から戦闘経験のない農民までもが扱える武器だ、矢を打つこと自体には経験を問わないが矢をつがえるとなれば話は別になる、つまり何が言いたいかというと矢をつがえるのが遅いこのリッチは戦闘経験がない部類に入る。
 本当にこのリッチが先祖を殺したのだろうか?切り捨てるつもりだったがどうしていいのかよくわからなくなった。

 「あなたさ、先祖の仇ってなんでそんなにこだわるのさ?もちっと女の子らしく恋とかしたりさ、楽しいことしたらしたら?」
 「私の家系にもプライドというものがある、お前たちを倒したら存分にたのしむよ。」

 わたしの上をとっていい気になっているであろうリッチにはいつまでも遊ばせるわけにはいかない、早々に地面に引きずり下ろすため、雷撃を放つ。

 「どこ狙っているのさ、って、うわぁ!」
 「体を支えている支柱を崩せば上にはいられまい。」

 「ううぅ。」

 落下した際にどこかを強打したのだろう、うずくまってうめき声をあげている。

 「....ここで大人しくしてろ。」

 私も甘いものだな、一時的とはいえ拘束するだけですませるとは...。





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 「さて・・、どうしたものか・・。」

 霧にぼんやりと映る影を追いかけてみたのはいいものの、肝心なフードの男を見失ってしまった、ここは先ほど居た場所よりも霧が濃い、というよりも目に見えて増している、奴の仕業だろう。

 「さぁ、組み手の始まりといこうじゃないか!」

 そうフードの男の声が聞こえると霧の中から複数の影が現れる、ここに来る前に戦ったものと同じ屍兵だ。

 「よくもまあこんなに集めたもんだ、努力の方向性を間違えてんじゃないのか?」

 「そうかい?軍力、知力、財力、生命力、・・・全ての力が欲しい、井の中の蛙だろうが知ったこっちゃない自分のてが届く範囲のかぎり・・、だって人間楽しまなきゃ損だらけだろぉ?」

 まるで話にならない、フードの男の口から出たふざけた主張、この主張のために、何人もの被害者が出たのだ、振り下ろされる剣を軽くいなし屍兵の首元に杭を打ち付ける、魔界銀の杭は首をすり抜け、寄生した肉塊を直接貫き通す、まずは一人、せまる槍を掴み後ろから来た敵に槍の持ち主ごと投げつける、早く・・、早く片付けなければ・・。

 「焦ってるー?でも安心しな、こっちはもう魔法陣できちゃってるから。」

 人をあざ笑いながら、霧の中からフードの男が現れる、すると群がっていた屍兵がぴたりと止まる。

 「ほらっ、見なよ、これが本当の君の相手さ。」

 ヤツの頭上にある魔法陣から鎖に繋がれた棺桶が一つズプズプと音を立てながら現れる。

 「ずいぶん凝った演出だな、どんな肉団子が出てくるんだ?」
 「・・ちょっと失礼な君のはるかに上回る結果さぁ。」

 鎖がガチガチとひしめき棺桶が軋む悲鳴を上げながらゆっくりと蓋が外れる、その中にいたのは黒鎧、何ら驚くことはないだろう、
 「タマシイ・・・ド・・コ・・・。」
見たことのあるランスを担いだ姿を見なければ・・。

 「復讐に燃える勇者の次は洗脳された囚われのオウジサマかよ・・。」

 「このクロキシちょっとやそっとですぐ暴れるからさ、
 「タマシイッ!!オマエの!!タマシイヨコセ!!!」
 ・・・・こう・・ね?ああやっていつもは封印してるんだ、今日は特別な日だから・・・解放しちゃう!!」

 「グアアアアァァ!!」

 「くっそ!シャレになんねえ!」

 得物を正面に構えながらクロキシは一気に距離を詰める、ランスのチャージをまともに受けるわけにはいかない、相手の軸から少しずれ、横に並んだ瞬間に足を崩す、すると相手はバラバラと音を立て崩れ落ちる、どうやらスケルトンになっているらしい。
 壊れた体を瞬く間に組み立てる、コイツの素早さを考えると相手をしている暇はなさそうだ、

 「覚悟しやがれっ!!」
 「おっ?クロキシを避けて頭である俺様を潰すつもりかい?確かにふんぞり返って何もしない奴にはいい手かもしれない、けどね・・・。」

 あたしの一撃はフードの男の腕によって防がれる、その腕は緑のうろこと鋭い鉤爪を持ったドラゴンのそれと同じもの

 「残念ながらそんな馬鹿と違って接近戦にも対応できるんだよぉ!」

 そのセリフと同時に横から衝撃を受ける、どうやらクロキシの体当たりをまともに受けたようだ。

 「ゴハァッ!!」

 「グロリア!!」

 「!!」

 先ほどの衝撃のダメージ計算をしていると、一つの声が届く、リーベルだ!
 声のする方に顔を向けるとそこには四足を封じられたリーベルと悠然と立つ勇者、だれが見てもまずいといえる状況だった。

 「おお!!ちょうどいい!クロキシ、あのリッチを殺れ。」

 「グアア!!」

 「そんな!!」

 「なんだと!どういうつもりだ!!」

 「させるかああああああああああ!!!」

 出力全開、頭の中で響く警告を無視し全てのパワーを足に回す、加速した体が周囲に砂煙を巻き上げる、間に会え!アイツがリーベルのところに行くまえに!あたしが守ると決めたんだ!!











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 「ど、どうなったのだ...?」

 迫りくる二つの影、その場を離れる以外に余裕はなかった、巨大な金属音が鳴り響き、舞い上がった砂煙が収まる、そこにいたのは

 「ガガガガガッ・・ぐっ。」

 「うそ...だよ..ね?」

 腹を貫かれたゴーレム、まるでこの世の終わりのような顔をしたリッチ、得物を突き刺したまま、二匹を見下ろす黒鎧、もはやこちらが負けることはないであろうはずの光景はなぜか身の毛もよだつ物だった。

 「なめんじゃ・・ねえ!」

 ゴーレムの腕が黒鎧の顔に射出されその兜を吹き飛ばす、飛んだ兜の下から現れた顔は白い髪、白い顔の

 「なん・・で・・だ・・・よ・・、なんで・・あたしと・・。」

 同じ顔だった・・。

 「タマ・・シイ」
 「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ !!」

 黒鎧はゴーレムの胸部をえぐり始める、拘束が解け、それを制止しようとするリッチの手を振り払いなお続ける、どうやらはなからそこにしか興味がないようだ。

 「グロリアァ..グロリアぁ..。」
 「だ・・いじょう・・ぶ・・だか・・・ら・・なく・・」



 ゴリュ



 「アアァ・・タマシイ・・」
 「かえ・・して・・。」

 黒鎧によりゴーレムの胸部には穴が空きその手に一つのロケットペンダントが握られている、半開きの蓋の中から見えたのは顔の書かれたカメオ、そこにはおそらくリッチ、もしくは大切な誰かが刻まれていただろう、黒鎧は必死にしがみつきやめてやめてと訴えるリッチを気にもせず、そのペンダントを

 「・・ンくっ・・」

 なんと飲み込んだのだ。

 あり得ない行動を起こした黒鎧はそれで満足したかのように崩れ去り鎧を着た白骨となる、それと同時にゴーレムの顔も崩れ去り髪も眉も存在しない頭がそこには残っていた。

 「はぁ、これじゃゴーレムの解析に時間がかかりそうだ。まぁ、このコアだけでも回収しとくか。クロキシも動かない、今回の利益はしょっぱいかな?」

 フードの男は白骨の脇からこぼれ落ちたペンダントを回収するとまるで固まっているようなリッチから距離を離し始める。

 「......ゴーレムは回収しないのか...?」
 「今それをしたら彼女に首をへし折られるからねぇ。」
 「どういうことだ!?」

 「ゆるさない、ゆるさなイ、ゆるさナい、ユるサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ!!!!」

 「君の先祖の息の根を止めた、宿敵の本当の姿のおでましさぁ!」

 グチュリ、グチュリと鳴り足は同化し、地面に根を張り始める

 「すごいだろぉ!変質魔法も極めれば肉体を強化する以上のことができるんだぁ!」

 腰のあたりから肉が伸び、上半身を覆う大きなつぼみの様になる

 「彼女はまだ、初期の魔法の実験体でね、腐った肉の匂いがして花の様な部分を持っているから<ラフレシア>と呼んでる、いいサンプルになったよ。」
 「なっ・・!」

 肥大化した部分の皮膚は裂け、赤黒い筋肉から腐敗臭があふれ出す

 「おかげで魔物の力も移植できるようになったんだ、旧式の魔物のね。」

 つぼみが開くと中にはうつろな目をし、ずっと涙を流し続ける触手と骨だけの腕を持った彼女の姿

 「あんな姿になってからも本当の姿を隠して町人と仲むつまじくしていたのは本当に腹が立ったなぁ。」
 「オマエ...ダケは..」
 「まあ!全部壊してやったけどねぇ!」
 「ユルさない!!

 あまたな数の黒鎧が<ラフレシア>に襲いかかる、それを彼女は蔓のような触手でまとめて砕く、一見アルラウネにも見えなくはないが、そこには可憐な花は咲いていない、しばらくそこには骨の砕ける音、にくの潰れる音、少女の叫び声と男の耳が腐りそうな笑い声が響き渡った。

 「あはは!またやった!昔と同じように!また殺ったんだぁ!!」
 「!!...ヴヴぅ..!!」
 「見ろよこの死体の山!お前が全部、まえに殺ったみたいに!そういやぁあん時ガキにこんなこと言われてたよなぁ、来るなバケモノ!!てさぁ!」

 その言葉を聞いたとたんリッチのすべての触手がちからなく倒れていく、その言葉が彼女の心にどれだけの傷を負わせていたかがうかがい知れる。

 「どうしたッ!もう壊れたのか?魔物もツマラン奴だなぁ!」

 無抵抗な彼女を黒鎧たちで取り押さえ、自分はただひたすらドラゴンの腕で殴り続ける、....リッチは魔物の中でも特殊で全員もとは人間だという、あの男はそれをいいことに、魔物のなかで比較的人間に近い彼女の、人間の心をへし折ったのだ!
 私の拳に力が入る、私は誇りを盲信するあまりこんな奴に力を貸していたのだ!これは勇者として、いやっ、人間として恥ずべき行為だ!
 黒鎧の間をかき分けて通り、男とリッチの間に自分のクロススピアを割り込ませる。

 「おっとぉ!すまない、誇りのために仇をとるんだったねぇ、ごめんごめんちょっと興奮しすぎたよ。」
 「その心配には及ばない。」
 「?」

 腰を低く構え周囲をなぎ払う、男には一瞬にして逃げられたが彼女に取り付く全ての黒鎧を一掃することに成功した、

 「まぁ、とっくの昔にこうなるだろうことは想定済みさぁ。」
 「この時をもってして勇者フィリアス五世は貴様を魔物以上の悪とみなし天罰を下す!」
 「いいねぇ!そうだ!君にはもう一つ見せたいものがあったんだよぉ!」

 私にせまる十字の斬撃を紙一重でかわす、考えたくはなかったがやはりこの中にいたらしい。
 半透明の霊気を纏った二振りの剣に黒い霧の中よく映える白い顔、そしてわが家紋をあしらった銀の鎧、呪われし屍兵となった先祖フィリアス一世であった。







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     ― 起きて ―

 ・・・そんな呼び声が聞こえたきがした・・・

 ― 私の声が聞こえた場合返事をしてください ―

 ・・・どうやら気のせいではないらしい・・・

 ― どうやら異常はなさそうですね ―

 ・・・、オマエは誰だ・・・。

 ― オレであり、同時にわたしに当たるものです ―

 ・・・分かるようにたのむ・・。

 ― 分かりました、私は一度ゴーレムに定着した人間の魂のカケラ即ちオレと、その前に定着した魔物の魂のカケラ即ちわたしの混合物が私に当確します ―

 ・・・話を進めてくれ・・、急いでアイツの所に戻らないといけない・・・。

 ― ご安心を...、あなたはいずれ本来のあなたとなり大地の土を再び踏むのですから ―

 ・・・本来の・・とはなんだ・・。

 ― いずれ分かります...魂のメモリーと肉体のメモリー、そして全てがあるべき形になるまでゆっくりとお休みください...再び起動したあかつきにはわたしがナビゲートします ―






 霧の中に取り残された躯がピクリと動いた。
14/12/11 11:40更新 / B,バス
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■作者メッセージ
 ここまで読んでいただきありがとうございます


 MSもどき         轟沈

 一人バイオハザード     大破


 なんだか読者を突き放す勢いの展開でございますが、
なんとかエンディングまで書けたらいいなと思います。
 エンディングができたあかつきにはこの連載小説を消して
設定の完全に固まった今の状態を一話から書きなおした(R)として丸ごとドンっと
完結枠に置こうと考えています
 文はこれくらいがちょうどいいのかしら。

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