連載小説
[TOP][目次]
砂の捌
「貴様ら全員、我が切り札を以て地獄へ送ってくれよう!」
 ゴウユウは声高に叫び、スマートフォンの画面をタップする。彼の言う切り札とは一体何なのか。
 この場でその答えを知る男と言えば……

「まさか、奴らを動かすつもりか……!」

 ゴウユウに詳しいということ以外に何一つ長所のない男、藻仁田ニイヒトに他ならず。

「知っているのか藻仁田?」
「ああ、勿論だ……銀辺、こりゃヤバいことになっちまったぞ!」
「どういうことだ?」
「さっきあいつが掲げていたスマホの画面を見たか? あの画面はまさに隈取の切り札……奴の私兵軍団を動かすためのものなんだっ!」
「な、なんだとっ!?」
 ニイヒトの言葉を聞いた従業員たちの間に動揺が走る。
「み、皆さん! 落ち着いて下さいっ! 私兵ったって、一介の会社経営者が日本で用意できる戦力なんてたかが知れてます! そんなに恐れる必要なんてない筈です!」
「いや、それがそうでもないんだ……」
「……と言うと?」
「作戦を立てる時に話したが、隈取は『救済の摂理』の幹部でもある……」
「そう! そして『救済の摂理』は、教祖泰山王神の絶対性を誇示すべく魔物を排斥しにかかっておる!
 そしてその為に、教団は各国支部で様々な分野に携わる者を身内に引き入れ、魔物根絶に向けて様々な準備をさせておるのよ!」
「……そうして教団が育てた対魔物戦闘員がお前の私兵というわけか……」
「その通り! やはり賢いな銀辺ケンスケとやら! 敵にしておくのが惜しいわい!」
「お前に褒められてもまるで嬉しくないがな」
「ふん、言いおるわ……。
 そも、我は泰山王神、もとい中山小助なんぞ神ごっこに夢中の酔っ払ったアホ道化ぐらいにしか思ってはおらぬが、
 金儲けの腕前と魔物を忌むべきものとして排斥せんとする思想、反魔物の理念に徹底する姿勢だけは高く評価しておってのぅ!」
(よし、録音完了っ……あとはこれをSNSにアップして〜っと)
「その成果の一つたる我が私兵どもは実に有能! 下は12から上は65まで総勢194名の戦場で育った男たちにかかれば貴様ら如き烏合の衆など一たまりもないわ!」
「な、なんて恐ろしい集団なんだぁ〜!」
「一応法治国家で通ってる日本にそんなのがいるなんてっ」
 ゴウユウの発言に、従業員たちの動揺はますます大きくなっていく。
 まさに絶体絶命の危機。然しそんな中でも冷静な者がいた。ケンスケである。
「まさに絶望的な状況だな」
「ぎ、銀辺ぇ〜! 発言と表情がカスりもしてないよぉ〜!?」
「なんでそんなに落ち着いていられるんですかケンパイっ!?」
「そりゃお前、慌てたところで状況が好転するわけでもないだろ。
 焦りは思考や判断を妨げ、寧ろ状況を悪化させるんだ。なら冷静になった方が得だろう?」
「そうは言うがお前なぁ〜!」
「とにかく慌てるんじゃない。まあ、そうは言っても難しいことだが……おい隈取、冥土の土産に一つ聞いてもいいか?
「ふん、よかろう……この隈取ゴウユウに相応しい質問ならばなぁ」
「相応しいかどうかはわからないが……お前の私兵団とやら、呼び出して何分程度で現場に駆け付けるんだ? やはり実力のある兵士だけあって相応に時間がかかったりするのか?」
「ほう! 追い詰められた弱者にしては賢い質問だな! よかろう、教えてやる!
 私兵団の到着時刻は時と場合によりけりだが、我が邸宅に呼び集めるとなればものの一分も要しはせぬ! 平均集合時間は50秒前後だ!」
「なるほど、それは確かに打つ手がないな」
「だから何でそんなに冷静でいられるの君!?」
「慌てても状況は好転しないだろ。何度も言わせるな」
「それはそうだけどさぁ〜っ!」
「……ケンパイ、斑田さん。おかしくないですか?
「ん、どうしたんだ魚住?」
「おかしいって何が!? 隈取と藻仁田とこの話書いた作者の蠱毒成長中って奴の頭がおかしいのは周知の事実であって今更わざわざ取沙汰するようなことでもないよね!?」
「おい斑田! 呼び捨てはともかく隈取に加えてあんな奴とまで一緒にするな! 流石に傷つくぞ!
「前々回、前回に引き続き魔物娘図鑑要素が――」
「エリモス……そのネタ気に入ったのか? ――それで魚住、何がおかしいんだ?」
「いやその『私兵団の到着は一分とかからない』って言ってましたけど、さっき隈取がスマホ画面押してからもう最低でも二分以上は経ってますよね? けどそれっぽい人影一切見えないじゃないですか」


 沈黙。



 ひたすらに、沈黙。



 そして

「――ど、どういうことだっ!? なぜ誰も来ん!?」
 癇癪を起こしてスマートフォンを床(と言ってもカーペットだが)の上に投げつけたゴウユウは、別のスマートフォン――画面以外の全体に金箔が貼られている――を操作しにかかる。
 すると周辺の床や壁、天井が変形し、中から幾つものモニターが現れた。
「じ、人員完全監視システム!? 酒の席で聞いていたが、まさか実在したとは……」
「もう名前からして私兵のプライバシーないよねそれ……」
「というかなんでもかんでも酒の勢いで喋り過ぎだろあいつ」

 ゴウユウが不馴れな手付きでスマートフォンを操作すると、数多のモニターに次々と私兵と思しき男たちの姿が映し出された……のでは、あるが……

「な、なんだこれはっ!? 一体どうなっている!?」
 無数の画面の向こうでは、ゴウユウにしてみれば到底信じ難い光景が繰り広げられていた。



「っく、は、ぬっ……っづおおおっ!」
「んひゃあああぁぁっ!?」
 目つきの鋭い赤毛の男が、小柄なハーピーの膣内に精を放つ。

「んぎ、ぁっ! ちょ、まっ! 待って、そんなっ!」
「待てねえなあ……待てるわけがねえっ――んっ、うおっほおお!
 温厚そうな巨漢を騎乗位で犯しにかかるのは、ラフな身なりのラーヴァゴーレム。

「あっ、んあ、っはぁんんっ!」
「ぅぉおっ! ぐぅっ、く、ふひいいっ!」
 トランジスタグラマーのモスマンと厳つい中年男は、鱗粉の舞う中全力で互いを求め合う。

「ぅぁあああああぁぁああああん……ぁああああぁぁあああぁぁああんっ……」
「おお、よしよし……辛かったですね……頑張りましたね……もう大丈夫、ママがついていますからね……」
 全裸で泣きじゃくる小柄な少年を優しく抱きしめる白澤。然しその手は確実に少年の股間に伸びていた。
 あと『ママ言うけどそいつお前の倅ちゃうやん』とか言ってはいけない。事実だけど

「ぐおぉぉおおあああっ! ぐがあああっ!」
「あひゃぅ! ふひぃん!? な、なんで私が、こんなっはあああぁぁんっ!?」
 熊が如き大男は、荒々しく雄叫びを上げながら長身爆乳のダークエルフを強姦する。

「のぅ……ワシでええのかよ……こんな老いぼれが……あんたのような美人と結ばれてっ……」
「いいのです……あなただからこそ……私は自らあなたを選んだのです……」
  鰻女郎と絡み合う老人は、涙を流しながら愛おしそうに女体を堪能する。



 194名の私兵たちは皆、ゴウユウからの呼び出しそっちのけで魔物娘との性行為に興じていた。
 尚、上記七名の私兵はいずれも魔物娘一名と行為に興じていたが、実際にはリリラウネやカマイタチ、ゴブリンの集団、デビルバグの群れといった複数の魔物によって性的に貪られる私兵も決して少なくはなかったという。
「ぐうぅおぉぉぉぉおおおぉぉぉぉお……」
 根っからの魔物嫌いであり、各地からかき集めた私兵らにも徹底して魔物を敵視するよう洗脳していたゴウユウにしてみれば、それはまさに悪夢のような光景と言えるだろう。
 実際彼はその余りの不快感に嘔吐寸前であったが、そんな場面需要無いし描写も面倒という作者の都合と彼自身の忍耐力によりどうにか持ちこたえていた。
「な、なぜだ……何故こんなことに……! 我が私兵たちは育成段階で徹底的に反魔物派として育てた筈……それがどうしてっ……!」
 絶望に打ちひしがれるゴウユウ。私兵が使い物にならないとなれば、最早打つ手はない。
 まさに四面楚歌といった状況であったが、彼への非道な仕打ちは当然これで終わらない。



『ゴウユウ……♪ ゴウユウっ♪ 株式会社ナニガシ企画代表取締役社長、隈取ゴウユウっ♪』

 ふとゴウユウの耳に飛び込んでくる、若い男の声。
 それを聞いた途端、ゴウユウの顔が怒りに歪む。
「その、声はっっ……!」
 一々癪に障るような、実に鬱陶しい囁きの主。
 日ごろから憎悪してやまない因縁深き裏切り者を、邪悪なる老人は忘れるはずもなかった。
「貴様、よもや生きていたかっ!」
 叫んだ勢いで面を上げるゴウユウ。
 見れば性行為に興じる私兵らの姿を映していた無数のモニターは、電波ジャックでもされたからか、何時の間にかその全てが同じ男の中継映像を垂れ流していた。


『完☆全☆敗☆北☆おめでとぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』


 短髪を逆立てた細身の男は、元来そこそこ端正な筈の人相を敢えて醜く崩し、楽し気に全力で叫ぶ。
 実質全裸である男の下半身は、褐色の肌と黒い翼を持つ魔物――即ちジャバウォック――の秘所と繋がっており、
 更にその周囲には様々な別の魔物ら――何れも不思議の国に棲息する種族――が、淫靡で変態的な表情を浮かべながら纏わりついている。

「……泰山っ、陽介ぇぇぇええええ!」



 泰山陽介。『救済の摂理』創設者である泰山王神こと中山小助の長子として生まれた彼は、嘗て教団の幹として父親の主導する詐欺行為の片棒を担いでいた。
 然し生来の天才であり家族の誰より邪悪で狡猾だった彼はある一時より教団を悪と見做すようになり『救済の摂理』と決別。
 以後は教団に対抗すべくネット上での情報発信を続けながら、ライターや映画監督、バーテン等の活動を細々と続けていた。
 ゴウユウはこの男と幼少期からの付き合いだったが、幼くして狡猾なろくでなしだった陽介は会う度にゴウユウをあの手この手で陥れ弄んでは楽しんでおり、二人の仲は険悪そのものと言えた。


『よぉ〜ゴウユウちゃぁ〜ん♪ ひっさしぶりだねぇ〜♪ つって、今不思議の国にいるもんでよ? こっちから一方的に映像送るしかできねーから、果たしてこいつをあんたが見てるかどうかは賭けなんだけどさぁ〜』
 四肢と股間にて合計十一体もの魔物――竜一頭、猫及び鼠各一匹、兎及び鳥各一羽、卵黄一個、少女一人、それぞれスートの異なる兵士四名――を相手取りながら、
 息切れ一つせず陽介はゴウユウを煽る。
『まぁ〜見てるって前提で一方的に話そうかぁ!
 ゴウユウちゃんっ! 多分もう見ただろうけどよぉ、あんたが手塩にかけて育てた私兵クン達さぁ……ぜーんいんっ、魔物娘に取られちゃってるよぉ〜!?
 ねぇ〜! 今どんな気持ちィ〜? どんな気持ちィィィ〜!?
 魔物ぶっ潰す為にと育ててた、大切な兵隊サン達をさぁ〜!
 憎くて憎くてたまらなかった魔物どもに取られてさぁ〜!
 あんた今ァ、どんッな気持ちなのかなぁぁぁぁあああっ!?
「く、この、裏切り者めがぁ……!」
『ま、あんたがご丁寧にお気持ち表明しようがァ? 俺にはどうでもいいしィ〜? そもそもあんたの声、まるで聞こえねぇしさぁ〜っははははははははぁ!
 ん〜でぇ、どうしてこうなったかっつーとだなぁ……ま、単純だよな?
 あんたが酒の席でベラベラ喋った秘密を覚えてた藻仁田クンの記憶頼りにぃ、私兵の個人情報引っ掻き集めてぇ、ネットで募集かけて集まってきた彼氏いねぇ魔物ちゃん達に集めた個人情報掴ましてぇ〜放置ッ!
 そう、放置! 何もしなァーい! 放置○女ならぬ放置魔物娘! 超簡単っ!』
「ま、まさか……そんな手抜き同然の策で……我が私兵がっ……!」
『いやー、魔物娘の性欲と行動力ってスゴイネー! 俺もさー、まあ色々ワケありで不思議の国って魔物だらけのとこに引っ越したんだけどさぁ? これがもう毎日大ッッ変なわけよっ!
 いやぁ〜最ッッ高だねぇ魔物娘はっ! こ〜んな最高の気分になれるってんなら、私兵クン達もゴウユウちゃんなんてマッハで見捨てちゃうだろうねぇ〜! 今更あんたが何言ってもぉーン無駄無駄無駄無駄ァ〜ってかぁ〜?
 ま、そういうわけだからさぁゴウユウちゃんっ。
 俺としてはぁ、もう諦めることをオススメしちゃおっかなぁ〜?』
 陽介は煽りながら腰を振り、手足で周囲に纏わりつく魔物たちの身体を弄ぶ。するとそこへ、十二体目の魔物娘が現れた。
『おぉうコーディ。遅かったじゃぁ〜ん?』

 コーディと呼ばれたその魔物は、紳士服を着崩し臨戦態勢のマッドハッターであった。

『んン〜いいねぇ……上下揃ってはち切れんばかりの見事なキノコが……おっと、まだ中継切ってなかったな。
 じゃーねー、ゴウユウちゃん! 残りわずかの余生を精々楽しみなっ! ばいばーい!

 その言葉を最後に映像が切り替わり、無数のモニターは元通り、魔物と交わる私兵たちの様子を中継する。


(な、なんということだ……我が私兵どもが、魔物に……。
 然し何故泰山陽介……いやそれよりも、ともすれば我が私兵を動かす際の従業員らの慌てぶりは演技……?
 つまり我はまんまと騙されたということかっ! 畜生め、何と言う屈辱っ!
 ……さりとて最早抵抗手段もなく、このままでは俗物どもの餌食に……! かくなる上はっ!)
 腹を括ったゴウユウは床を勢いよく踏みつける。すると天井の一ヶ所が開き、中から細長いロボットアームが飛び出した。
 ゴウユウは手元へ伸びてきたアームの先端部から何かをひったくり、自らのこめかみへ突きつける。
「なっ、け、拳銃っ!?」
「逃げるつもりかてめぇ!」
「左様! 落ちぶれ破滅し、俗物どもの餌になるくらいならこの命程度惜しむ理由はない!

 ゴウユウは内心勝ち誇っていた。
 追い詰められた結果とは言え自ら率先して決めたことだ。不本意な筈がない。
 奴らの望みは自分を捕縛し生き地獄を味わわせることだろう。
 こんな所で自殺などされたのではたまったものではないだろう。
 最後にとびきり後味の悪いオチをぶち込んでやる、精々消化不良で苦しむがいいぞと、内心ほくそ笑んですらいた。

「さらばだ、弱者どもーっ!」

 口々に騒ぐ従業員らを尻目に、ゴウユウは引き金に指をかけ――
20/02/22 20:02更新 / 蠱毒成長中
戻る 次へ

■作者メッセージ
〜今回わかったこと〜
・エリモス、メタ発言ネタを気に入った模様。
・ゴウユウは私兵団を持っていた
・私兵団はあらかじめケンスケ達が男に飢えた魔物娘をけしかけてカップル量産しまくったのでほぼ壊滅。
・中山小助には色々な意味で残念すぎる無駄にイケメンの長男がいる。
・小助の長男、陽介とゴウユウは犬猿の仲。
・陽介は不思議の国で魔物とヤりまくってる。
・ゴウユウは拳銃を隠していた。
・自殺するつもりのゴウユウ。

この先に待ち受けるもの……
それはまだ……草生した砂の中……
それが……スナキズナ!

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33