連載小説
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闘技場ではリザードマン(後編)
現在地-スーダン-闘技場控え室

「怪我は無いかアノン?」

「そんな軟な体してるつもりはないさ」

控え室でアノンの体を見るが、どうやら怪我はしていない様だ。

「そいつは良かった、じゃあ俺はもうすぐ決勝だから準備してくる」

「相手はポムか…もしくはあのリザードマンのどっちかだね」

そう、Bブロック準決勝はポム対一回戦でキャノを打ち倒したあのリザードマンとなった。

これで勝った方が俺と戦う事になる。

そして扉の前に立った所で思いっきり扉が開かれて取っ手を掴み損ねる。

「大変ですよお兄さ〜ん」

「さーん!」

扉の向こうにいたのはそろそろ試合が始まる筈のポムと付き添いのキャノだった。

心なしか二人とも顔色が悪い。

「どうした二人とも、そんな血相を変えて」

聞くと、ポムは手に持っていた紙を俺に差し出してきた。

そこにはこう書かれていた。

「ようセン、闘技大会頑張ってるじゃねえか?

そんな事よりお前に言っておきたい事がある…

お前の連れの赤髪のゴブリンと片角のゴブリンは預かった…返して欲しきゃ先ずはお仲間のホブゴブリンを大会から棄権させろ。

次に、決勝では一切攻勢に転じるな、相手とのお喋りも禁止だ。

因みにお前の棄権も認めねえ。

しっかり見張ってるから破った時はすぐに分かる…もし破った時はゴブリン達がどうなるか分からないぜ?

それじゃあしっかりな?

カルマ・アルディエンデ」

俺は紙をグシャリと握りつぶした。

「これってセン…アンタが昨日言ってた…」

アノンも俺の後ろから覗き込んで手紙を見たようで、その声には怒りが混じっている。

「ああ…カルマァ…唯じゃおかねえぞ」

ギリッと歯軋りをするが、どうすればいい…せめて攫われたパノとウトの居場所が分かればいいんだが…。

「あれ?そんな怖い顔してどうしたの?」

廊下の方から声が聞こえたのでそっちを見ると、そこには此方を不思議そうな顔で見るティピがいた。

「パノとウトが攫われた…あのカルマにな」

怒りを込めた声で言うと、ティピは少し怯みながらも前に出た。

「ま、まさかこの前の件の逆恨み…?」

「ああ、多分な」

「どうしよう〜、もうすぐ準決勝が始まっちゃいますよお兄さん〜」

くそっ、この状況を打破するには二人を見つけて救出する以外ない…だが俺は動けねえし…この広いスーダンを探すとなるとな。

「…なら私達が探すよ!」

「ティピ…アンタがかい?」

急に大きな声を出したティピを皆一斉に見て、アノンが問う。

「違うよ、私達ラージマウス皆が探すんだ。この街の下水道は皆大体把握してるしこの街の情報網は私達のものだよ!」

「そうか…それなら二人を探し出せる!」

「だせるー!」

「うん!だからセンはできるだけ時間を稼いでね?助けたら客席から声をかけるから」

俺はその言葉に頷く。

「アタシとポムとキャノも探すのを手伝うよ。見つけても助け出せなかったら意味がないからね」

「ああ、皆頼んだぞ」

俺の言葉に、皆一斉に部屋を出て行った。

その後、控え室で十分ほど待っていると係員の女が控え室に入ってきた。

「セン・アシノ様、ポム様が棄権したのですぐに決勝戦ですが…大丈夫ですか?」

「…ああ」

頼むぜ皆。



現在地-スーダン-詳細不明

sideパノ

「んぅ…」

アレ…あたいはどうしたんだっけ?

闘技場で兄貴に負けて…兄貴とアノンの試合を見て兄貴の所に行こうとしてそれから…。

そうだ!兄貴のファンって奴に話しかけられたと思ったら急に後ろから鼻と口を塞がれて…眠っちまったんだ!

とにかく横になってるみたいだから起きねーとな。

ってアレ?腕が背中側から動かせねえ…足も一本の棒みたいになってて動かしにくいな。

目を開けて自分の姿をよく見ると…縄で縛られていた。

「んんんっ!?」

その格好に驚いて何だコリャと言おうとしてもくぐもった声にしかならない…てか口にも白い布で猿轡されてる!?

「んっ!んんんー!」

ジタバタと暴れてみるけど、縛られてて上手く力が入らなくて全然解けやしない。

「おっと、気がついたみたいだな」

あたいの目の前に二人の男が現れる。

確か…気絶する前にあたいとウトを押さえ込んで口を塞いでた奴だ!

あっ!そういえばウトは何処だ!?

キョロキョロ辺りを見渡してみると、ウトはあたいの右で同じように縛られて転がっていた。

まだ目が覚めてないんだろうな。

「んぅううう!んぐぅー!」

精一杯叫んだつもりだけど、くぐもった声にしかならない…多分この部屋の外には届いてないだろうな…。

「無駄だ、止めとけって」

「んん…!」

片方の男があたいに近寄りながらそう言い、あたいは警戒して睨みつけた。

「…うぅ」

横から呻き声がすると、横で転がっていたウトが縛られたままモゾモゾ動き出した。

「んぅ!」

「う…?うむぅ!?」

あたいが呻き声で声をかけると、驚いたように目を見開いて暫くしてから落ち着いた。

「フフ、これで二人とも目が覚めたな」

「ああ、それにしてもカルマさんは恐ろしいぜ…この二人を人質に取ってセンって奴を殺してこの街をまた支配するんだろ?俺達には考え付かない作戦だぜ」

こ、こいつ等今なんて言った?

あたい達を人質に兄貴を殺す…!?

だ、駄目だ!こんな所で捕まってたら兄貴が危ねえ!

必死に腕や足に力を込めて縄を解こうとするけど、しっかりと縛られていて抜け出せない…。

ウトも逃げようとしてるけど駄目そうだ…!

「逃げられねえさ、覚悟しな」

くそ…兄貴ぃ…!



現在地-スーダン-闘技場会場

sideセン

俺は会場に入ると、観客が歓声を出し、すぐにリザードマンに睨まれた。

いや、なんだろうが俺は今回は皆を信じて時間を稼ぐ事しか出来ないな。

「貴様がセン・アシノだな…?弱い者を喰い物とするその根性、私が叩き直してやる!」

何の事だ…?いや、此処で応えるとパノとウトに被害が出るかもしれんな…此処は黙っておこう。

「さあ!両者の間には既に火花が飛び散っている様だ!それじゃあ決勝を始めるぜ!試合開始!」

すると試合開始の合図と共に、リザードマンは俺に向かって接近してくる。

「はぁあああああああっ!」

チッ、早いな!

奴は緑色の装飾が施されているロングソードを振ってくるので俺は右足の白地で受け止める。

ロングソードと足刀がぶつかり合う。

アノンよりはパワーは低いので押し返す事も出来るが俺は攻勢には出れない…。

ロングソードを受け流して距離を取る。

「逃がさん!」

だが俺に距離を取らせず、追ってきてロングソードを振り回す。

パノ達のような力任せな攻撃ではなく、洗礼された太刀筋だ。

「くっ…!」

「どうした!?この程度か悪党!」

連続で放たれる攻撃を避け、避け切れない物は足刀で防御し、攻撃には転じない。

こりゃあサシでやればアノンよりも強いかもな…!

今度はロングソードを上から振り下ろしてきたので、左足で弾き、つい右足で反撃してしまうが、力を入れていないのでスピードも乗っていない。

勿論それは簡単に避けられてしまう。

「隙あり!」

「くそっ!」

俺は薙がれる刃から逃れる為に後ろに下がるが避けきれずに腹を少し斬られた。

「ぐっ!」

「フン、このまま押し切ってくれる!」

…この試合、殺しは無しだがカルマは俺を殺す算段をつけている筈、此処で負ける訳にはいかないな。

俺がやられる前に救出してくれよ皆。



現在地-スーダン-下水道

sideアノン

「ティピ、見つかったかい!?」

アタシが声をかけるとティピとキャノを担いだポムが集まってきた。

「ううん、下水道や怪しい場所は殆ど調べたけどいなかったし…町の人に聞いてもゴブリンを連れた青い剣の刺青をした男を見たって情報は無かったよ」

くっ…幾らセンでも武闘派のリザードマン相手に防戦一方じゃ何時かは押し切られるね…。

「本当に怪しい所は全部探したのかい?」

「うん、下水道に裏路地の廃屋に倉庫…隠し通路を使って鉱山の方も探したから…」

「私達の方もいなかったです〜」

「いなかったー」

このままじゃ時間の無駄だね…どうにかして居場所の目星を付けないとね…。

「まだ探していない所は…」

アタシが無い頭を絞って考えていると…

「あ!そういえば!」

ティピが急に頭の上に、!マークを浮かべた。

「どうしたの〜?」

「そういえばセンと同じジパング出身の男が、諺ってのを言ってたのを思い出して…その中の一つが、灯台下暗しって奴なんだ」

とうだいもとくらし?

「どういう意味だい?」

「船を導く役目を持つ灯台は遠くまで光が届くけど、灯台の傍は暗い…つまり目の付きやすい所ほど見逃しやすいって事」

「へぇ〜、そうなんだ〜」

「なんだー!」

成る程、一理ある…。

「目の付きやすい所…」

「えーっと、街も大体探したしまだ探していない所は…」

おっ!ピンと来た!

ティピもすっきりしたような顔になっている。

「「闘技場!」」



現在地-スーダン-闘技場地下倉庫

「残るは此処だな」

ようやく最後の部屋だ…アタシ等って運悪いのか?

「でも中から鍵がかかってるよ?」

「なーに、この程度の木の扉くらい…」

アタシは持っている戦斧を大きく振りかぶる。

「ブチ破ってやるさ!」

そのまま思いっきり振りぬくと木作りのヤワな扉はバラバラになって吹き飛んでいった。

「な、何だぁ!?」

「待て、あいつ等は…センって奴の仲間の魔物だ!」

中にはいかにもチンピラっぽい男が二人と…。

「んんんっ!」

「んぐぐぐー!」

縛られて床に転がされているパノとウトだ。

「二人を帰してもらうよ!」

アタシが戦斧を振りかぶると、男達はナイフを抜いた。

「いいぜ!相手してやる!」

「人間だからって舐めるなよ魔物風情が!」

「三下に用は…無いんだよぉおおおおおお!」

戦斧とナイフはぶつかるまでも無く、アタシの斧が巻き起こした風圧で男達ごと吹っ飛んでいった。

「「あぁああああああああああ〜!?」」

その隙にティピは歯を使ってパノとウトを縛っている縄を噛み切った。

「…ぷはっ!助かったよ姐御、キャノ、アノン!」

「ふぇ…こ、怖かった…」

縄が解かれて自由になったが、パノは慌てて出口に向かう。

「何処に行くんだいパノ?」

「速く行かねえと兄貴が危ねえ!こいつ等、あたい達を人質に取って手出しが出来ない兄貴を殺す気なんだ!」

「なんだって!?」

そりゃ放っては置けないじゃないかい!

「隙あり…!」

しまった…!今の話に気を取られてさっきの男達に背中を取られた!

「そうはいきませ〜ん!」

その男達の頭にポムの大型棍棒の一撃が落ち、男達はでっかいタンコブを作って気絶した。

「速く行きましょ〜、お兄さんが危ないです〜」

アタシ達はセンにこの事を伝える為に走り出した。



現在地-スーダン-闘技場会場

sideセン

「くぅ…!」

俺はリザードマンに防戦一方で、既に体には細かい切り傷が数箇所にある。

「ハァ…ハァ…中々持ちこたえたが…ここまでだ」

リザードマンも息を切らしているがそろそろヤバイな。

「兄貴ー!」

客席の方から聞き覚えのある声が聞こえる…。

そっちを向くと、パノとウトが俺に向けて何か叫んでいた。

まあ、ともかく無事でよかった…ん?

二人とも何処を指差してるんだ?

あそこは客席の端っこ…あれはカルマか!?

客席の端っこからカルマが弓で矢を構えて今にも放とうとしていた。

ご丁寧に手下もいたがる…俺とリザードマンを纏めて始末する気だな!

俺はカルマに気がついた瞬間、リザードマンに駆け寄った。

繰り出される剣撃をかわすと、彼女の肩を軽く押してやる。

次の瞬間、俺の腹と左肩に鉄の矢が突き刺さった。

「があっ!」

満身創痍の体に矢を受け、俺は意識を失った。



現在地-スーダン-宿屋

アレ?俺生きてる?

死ななかったのか…。

「いたた…って痛くない?」

身を起こすと、左肩と腹を触ってみるが、不思議と痛みは無かった。

「俺は一体…」

此処は…宿の部屋だな。

ともかく部屋から出ると、そこにはアノン達が食事を取っていた。

「よう、俺の分あるか?」

「センさん!目が覚めたんですね!」

「ようやく起きたかいねぼすけ」

「お兄さ〜ん、よかったです〜」

皆俺を迎えてくれる。

とりあえず席に座って用意されていた食事を食べる。

「あの後どうなった?俺はどれ位眠っていたんだ?」

「アンタが矢で撃たれた後、カルマって奴は殺人未遂と誘拐の罪で捕まったよ…今頃檻の中さ」

そうか、無事に捕まえたのか。

「それでお兄さんの傷を病院の薬と魔導士の方の治療魔法で治したんです〜」

だから傷が無かったのか…痛みも取れてるし。

「あ、兄貴はそれでまる一日ずっと寝てたんだ…ゴメン、あたいのせいで」

「僕もごめんなさい…僕たちのせいでセンさんが怪我をして…」

そうして俺に頭を下げるパノとウト。

「気にするなよ、悪いのはお前等じゃなくてカルマだろ?」

「で、でも…」

「普段騒がしい奴が元気が無いとこっちの調子が狂うんだ…俺は気にしてないから、元気出せよ。そっちのお前等の方が好きだ」

「「えっ!?」」

どうしたんだ?そんな驚いた顔して…。

「わ、分かった!あたい、何時も通りに戻るよ!」

「ぼ、僕も元気出します!」

「お、おう…」

何だか急にテンション上がったな…、まあこっちの方がいいよな。

「失礼する」

暫く食事を続けていると、そんな声と共に扉が開いた。

それは、俺と闘技大会で戦ったリザードマンだった。

「お前…」

「…すまなかった!」

何の用だ?と聞こうとしたら、いきなり土下座された。

どういうことだ?

「私は、あのカルマに騙されていたと知らず…手が出せないのも知らずに、一方的にお前を傷つけた…煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

成る程、コイツも責任を感じているのか。

「あの後、お前が居なくなってしまって闘技大会は私が優勝した事になってしまっているが…せめてこれを受け取ってくれ」

そう言ってリザードマンが差し出してきたのは大きな袋で、中には金が入っていた。

「闘技大会の優勝賞金だ…まだ満足できないならば、私を犯すなりしてくれてもいいし、言ってくれれば切腹とやらもする…私に責任を取らせてくれ」

そうして頭を床に付ける位頭を下げるリザードマンだが…。

「いや、いいって別に」

「しかしそれでは私の気が済まない…頼む!」

「頼まれてもお断りだよ。悪いのはカルマであってアンタじゃねぇし…一々アンタを咎めて楽にしてやるつもりも無い…責任の取り方なんて自分で決めろよ」

言い終わると同時に食事が終わり、俺は部屋に戻って休む事にした。

「…………此処にいる皆に、話があるのだが」

俺が部屋を去った後に、リザードマンがあんな話をしてるとは思わなかったなぁ…。



現在地-スーダン-砂漠方面の門

あれから二日…俺の体も既に問題なく、準備が終わったので砂漠を越える事になった。

そして今は門の前にいるんだが…

「バイバーイ!」

「また来てねー!」

「さよならー!」

ラージマウスの群れが見送りに…何だかんだ言って世話になったからな。

「ティピ、世話になったな…元気でやれよ」

別れの握手の為に手を差し出すが、ティピはキョトンとしている。

「え?何で?」

「何でって…お前はこの町のラージマウスのリーダーなんだろ?」

「あ、そう言えばセンには言ってなかったね。私も旅について行く事になったんだよ」

「…は?」

今、何て言った?

「だから、私もセンの旅についていく事になったんだよ!これからよろしくね!」

「…お前等は知ってたのか?」

アノン達の方を向いて聞くと、全員頷いた。

「…まあいいか、だが砂漠を越えるのは大変だぞ?」

「大丈夫だよ!体力には自信あるし!」

「まあ、死なない程度に頑張れよ。それじゃ、出発だ!」

そうして砂漠への門を抜けると、いきなり目の前にリザードマンの姿が…。

「アンタ、何でいるの?」

「セン、お前の旅について行く為だ…私はお前に迷惑をかけたばかりか、命まで救ってもらっているんだ…恩を返し、責任を取るにはこれが一番いいと思ったんだ」

「お前等知ってた?」

再び皆を見ると一斉に頷いた。

「て言うか、私その話を聞いたから付いて行こうと思ったんだよ?」

マジかティピ。

…ヤレヤレだな。

「アンタなら大丈夫だと思うけど、無理して恩返されて死なれても困るから、死なない程度に頑張ってくれよ」

「ああ、そうさせて貰う…私の名前はアーリアだ」

「じゃ、改めて…俺はセン、セン・アシノだ」

これより俺達が進む砂漠の名はアルトリア砂漠。

別名、限定されし者の楽園。
11/06/01 19:17更新 / ハーレム好きな奴
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■作者メッセージ
なんか色々すいません。

ただ一つ言わせて下さい。

緊縛幼女ハァハァ(ヲイ

ハイ、とゆー訳で次回から砂漠編です。

その次にはドラゴンとワーウルフの話を入れたいと思いますのでよろしくです。

後リアルの方が少し忙しいので更新が遅れる可能性がございますが何卒ご容赦ください。

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