連載小説
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旅51 少年の過去と少女の想い
『だ、だれ?アメリに何の用なの?』
『悪いな……お前には死んでもらうぜ……』
『えっ……なんで?アメリ何もしてないんだよ?』

現在11時。
ムイリさんの発明品のテストの一環で、私はユウロの記憶を見ていた。
先程までは旅の中で私も一緒に見ていた光景が映し出されていたわけだが……ここからは私の知らないユウロの過去となる。

『わかってる。俺もあまり乗り気じゃないけど、お前を殺して来いとおえらいさんが言うものでさ……』
『いやだ!アメリ死にたくない!』
『だったら俺から全力で逃げるんだな!!』

どうやらアメリちゃんが私と出会う前、当時きちんと勇者をしていたユウロに襲われた時のものらしい。
寝起きで『テント』をしまったところだったのだろう……眠そうにしながらも怯えているアメリちゃんが大きく映し出されていた。

『おらあっ!!』
『わわっ!!』
『そらよっ!』
『わっとと!』

当てる気は無いのか、大振りでアメリちゃんに攻撃するユウロ。

『うわあああぁぁぁ……』
『はぁ……行ったか……追わないとな……』

そのうちアメリちゃんは森の方に走り去っていった。おそらくこの後地図を落とし、迷子になって……私と出会ったのだろう。
そして、どこか安堵したような独り言を言うユウロ……やはり本当は殺したくなんかなかったのだろう。

『ここで見逃しましただなんて言ったら絶対お偉いさんが怒るもんなぁ……さて、どうしようか……』

悩んでいる様子を見せながらも、アメリちゃんが走り去っていった方向に向かい始めたユウロ。
この後私達は出会う……そう考えると、このときのユウロの判断は正しかったと言えるだろうな……



……………………



『ユウロ、任務だ。この国の外れに魔物の目撃証言があった。特徴からしておそらくリリムだ』
『リリム……ってちょっと待って下さい。これ子供って書いてあるんですが……』
『その通り。これはまたとないチャンスだ……お前ほどの腕なら倒す事は容易ではないだろうが出来るだろう』

場面が遡ったのか、どこか厳格な神父さんが映し出された。
話の内容から、アメリちゃんを討伐するよう言い渡された時だろう。

『子供に手を掛けるのは気が引けるのですが……』
『何を言うか!子供とはいえ魔物、しかも憎き魔王の娘だぞ!!大人のリリム相手では歴戦の勇者ですら敵わない程だ。今倒さずにいつやるんだ!』
『……はい……』
『お前の気持ちはわからんでもない。魔物であれ子供、心苦しいのは十分にわかる。逆の立場ならば、私だって疑問に思い戸惑うだろう』
『では……』
『だが、今ここで倒さなければ後に大きな障害となるのは確実なのだ!リリムは魔王の力の象徴ともいえる……それを削らなければ我々人間の勝利は遠ざかってしまうのだ!わかったら準備を済ませて行ってこい!愚痴や不満なら討伐した後にいくらでも聞いてやる!!』
『わかりました……』

聞いているだけで腹の立つ言い分ではあるが……元々魔物は恐ろしい生き物だと思っていた私は、この神父の言う事もわからなくは無かった。
人類最大の敵である魔王は相当恐ろしい……その娘も恐ろしく強く、強い勇者ですら倒すのは困難……そんな相手をまだ強くないであろう子供のうちから倒せるのであれば子供であろうが討伐しに掛かるだろう。
この神父もそう判断し、厳格な表情でユウロに命令している……ユウロの話を聞く限りだとお偉いさんとやらは酷い性格をしているかと思ったが……『魔物という危険な存在から人々を護る』神父としては心優しい人なのだろう。

『はぁ……また魔物退治か……』
『なんだ?そんなに魔物を殺すのが嫌なのか?』
『そりゃあな……ああも人に近いと嫌でも相手も同じ生き物だって認識させられるからな……』

神父がいた部屋を出たユウロ。
大きな溜め息をしていたら、見知らぬ青髪眼鏡の男がユウロに話しかけていた。

『しっかりしろって。魔物はそうやって俺達を惑わしてるんだからな。そんなんじゃお前あっという間に殺されちまうぞ?』
『わかってるけどさ……もっと化け物みたいな姿をしてたらいいけど、流石にな……しかも今回は子供だし……』
『お前は魔物に甘いなぁ……盗賊相手には敵なしだってのに、魔物相手だと逃げられてばかりじゃないか』
『仕方ねえだろ?実際に悪い事してるの見た事ねえ相手を殺せって言われたって出来るかっての。盗賊は悪い事してても殺さず捕まえるのに、目の前で怯えてるだけの奴を殺すのは気が引けるんだよ……』
『まあお前の言ってる事は俺もわかるさ。だが、それはここじゃ禁句だぜ?言葉には気をつけるんだな』
『ああ……忠告ありがとさん』
『ここの神父さんは寛大な心をお持ちになられてるから魔物を再起不能にこそすれど命までは奪わないお前の事もお許しなさっているんだ。他のところだとそれだけでも裏切りのレッテル貼られたりするんだぜ?』
『そうかい……その話は前にも聞いたからいいよ……』
『む……ユウロ、お前最近冷たいな……』

勇者であるが故の葛藤というものだろうか……どこか重苦しい会話が続いていた。

『はぁ……準備すっか……』
『何か手伝ってやろうか?』
『いや、いいよ。どうせ武器と金と食料を鞄に詰めるだけだからな』

それでも命令をこなすため、ユウロは自分の部屋と思われる場所に向かって移動をしたのであった……



……………………



『ぷるぷる……ボクわるいことしてないよ?』
『く……なんだよこれ……』

今度は……目の前に怯えているスライムが映し出された。

『ごはんほしいだけだよ?』
『おい……こいつスライムじゃないのかよ……なんで女の子みたいな姿してるんだよ!』

どうやら、こちらの世界に来て初めて魔物を見た時の記憶のようだ。
初めて見た時はさぞ驚くだろう……私だって、魔物が人型だったのを初めて見た時驚いたのだから。
おそらく魔物が出たという事でユウロが退治に向かい、魔物の現状を目の当たりにして戸惑っているのだろう。

『ぷるぷる……ごはんちょーだい!』
『くそ……ご飯ってなんだよ!』
『男の人が出す白くてネバついてるせーえきっての』
『……はい?』
『せーえきちょーだい!』

なんだか緊張感が一瞬にして無くなったような気がする……まあ単純思考な魔物相手では仕方がないだろう。

『ちょっ!?せーえきって精液の事か!?』
『白いの〜』
『わっ!?馬鹿やめろ!纏わりつくな!!』

どうすればいいか戸惑ってるユウロから精を貰おうと纏わりつくスライム。
もしやユウロが襲われるのではとハラハラしながら画面を見続けていたのだが……

『この……やめろ!!』
『んにゅ〜!?』

纏わりついてきたスライムを、着ていた上着を脱いで包み込み……

『わりいけど……さいなら!!』
『ふみゃああああああああああああぁぁぁぁぁ…………』
『ここじゃなくて親魔物領でご飯貰えよー!!』

思いっきり近くにあった川まで運び、激流の中に投げ込んだ。
なんとまあ酷い事をするんだと思いながらも、スライムに襲われてないので安心した。

『しっかし何だったんだよ今の……魔物ってより女の子じゃねえか……スライムって言ったら雫に大きな目と口が付いてるようなものじゃないのかよ……』

それどんなスライムなのかと思いながらも……やはり今まで魔物を見た事が無かったユウロは相当ショックを受けたようだ。
さっき映った場面でも、人間の女の子のような姿をしている魔物との戦闘は抵抗があるようだったし、この先もずっと引きずるのだろう。

『はぁ……帰るか……なんて報告しようかな……』

俯いた状態のまま足を動かし始めたユウロ……この後なんて報告したのか気になったが、画面が霞み始めたので違う場面になるようだ……



……………………



『うおらあっ!!』
『ぐあっ!』

次に現れたのは……剣でいかにも盗賊らしい男の人の足を斬っているユウロだった。

『くそ……足が……』
『観念しな盗賊め!』
『おお、さすが勇者様だ!』
『あの凶暴な盗賊を軽々と捕まえなさった!』

どうやら村に現れた盗賊の退治をしたところだったらしい。
そういえばさっき盗賊相手には敵なしとか言われてたな……たしかに楽勝ムードが出ていた。

『やるじゃないかユウロ!やはりお前は異界からの勇者だったのか!』
『いやあ、そんなつもりじゃないですけどね……たしかに力は漲ってきますが……』
『それが勇者というものだ。お前は主神様の加護を受けているのだ』
『そうなのですか』

と、盗賊を縛り上げていたら先程の神父が近付いてきた。
どうやらユウロが勇者として加護を受けているか試していたようで……結果その通りだったようだ。

『それではこの賊を豚箱に突き出して戻るぞ』
『豚箱って……あ、いえなんでも。行きましょうか』
『汚い言葉だろうけど、この賊に汚い言葉以外の言葉を使うのは言葉に失礼だからね』

捕まえた盗賊をゴミ袋でも持つかのように持ち上げた神父……この人は悪を許せない性質なのだろう。

『はぁ……勇者か……』
『どうかしたのか?』
『いえ、特には。そう呼ばれるような人間では無かったので……色々思うところもあるんですよ』
『そうか。でもお前はこの世界では勇者だ。人類の希望、必要な存在なのだ。それを誇りに思え』

神父と帰る時、ユウロは大きな溜め息をした。
そもそもが勇者と呼ばれるような人じゃないという思いと……

『そう言ってもらえるのは嬉しいけど……それだけじゃなくて……俺自身別に神なんぞ信じてないから気が引けるんだよな……』

神父には聞こえないように言ったが……神を信じてないという負い目があったようだった……



……………………



『うあ……あ?』
『な、なんだね君は!?』

今度は……眩い光が映ったと思ったら、目の前に何度か映ってる神父が現れた。

『ここ……どこだ?何が起きたんだ?』
『おい!私の話がわかるかね?』
『あ……はい。一応わかります……』

若干見えるユウロの服装……それは、いつぞやのユウタさんが着てたガクセイフクみたいなものだった。
という事は……もしかしたらこれはこの世界に来たときの記憶じゃないのだろうか?

『あの〜……ここどこです?日本……ではなさそうですよね?』
『ニホン?はて……そんな場所聞いた事無いが……ここはイコサルにある教会だ』
『イコサル?教会?』

ユウロやユウキさん達の出身である日本の事をユウロ自身が言っているので、その可能性が高い。

『うむ……もしや……君、魔物はどういった存在かね?』
『は?なんですかいきなり……何かの宗教ですか?』
『いやたしかに私は神父だが……そうではない。真面目な質問だ。君にとって魔物とは何かね?』
『魔物?それはまあゲームとかの作り話に出てくる架空の生物の総称じゃないんですか?』
『ほお!という事は君が……』

いや、可能性が高いどころか、まさにそのタイミングだろう。
魔物を架空の生物と言い張るのだ……魔物のいない世界から来たというユウロの発言からもそうとしか考えられない。

『えっと……それがどうかしたのですか?』
『ああ、そうだな……君はおそらく魔物などいない理想的な世界から来た勇者なのだろう』
『……は?』
『信じられないと言った顔だな……まあ無理もない。我々だって自分達の住む世界以外に世界が存在しているだなんて思っていなかったからな。この世界には魔物が実在し、人間を恐怖に陥れているのだよ』
『はぁ……マジで別世界か……』
『まあ実際に図解などを使って説明した方が早いだろう……ついてきなさい』
『はぁ……まあわかりました……』

この神父の言っている魔物についての事は間違ってはいるものの、ユウロが異世界から来た勇者というのは結果として合っていた。
こうしてユウロは私達のいる世界に迷い込んで……

『ところで君名前は?』
『へ?あ、えっと……悠斗です……』
『ユウロか。いい名前だね。それではユウロ、ついてきなさい』
『えっちがっ……』
『どうかしたのかねユウロ?早く来なさい。別に身ぐるみ剥がそうとはしていないから安心しなさい』
『いや……はい……』

ここでハッキリと言わなかったため名前を聞き間違えられて改名したという事か……
すぐに言いなおせばいいものを、どうしてそこでちゃんと訂正しなかったのか……

そう思っていたら……

『まあ、いいか……これであの生みの親の事も吹っ切れる気がするしな……』

何か、意味ありげに呟いたユウロ……生みの親の事とはなんだろうか?

「もしかしてだけど……この先は別の世界になるのかしら?」
「おそらくそうだと思います……」

とても気になるが……これからずっと見ていけばその事もわかるかもしれない……
そう思い私は、映像に集中するのであった……



====================



『居場所を失ったあなたへか……本当にこんなのに効果があるわけないのに、なにしてるんだろうな俺は……』

次に映し出された映像は……灰色の石で出来たもの寂しい部屋で、何か本を見ながら地面に魔法陣らしきものを描いているところだった。
いつか言っていた、この世界に来たときに使ったという本だろうか?

『でもまあ……本当に幸せになれる気もしないでもないんだよな……』

黒い液体を四方に置いたユウロ……やはりこちらの世界に来るための儀式のようだ。

『もう取り返しつかねえし……新しい世界とか言って別世界に行けるってんなら万々歳だなっと』

取り返しがつかないとはどういう事なんだろうか……
言おうとしない過去の事だろうけど……とても気になる……

『さてと……後は呪文を唱えるだけか……』

あれこれ考えているうちに、どうやら作業が終わったようだ。
本を閉じ、魔法陣の中心に立って……

『『くかかせけめめのなすらこにみいるとちのなすちるみいるませめ』!』

よくわからない呪文を唱えた。

『……はは、何か起こるわけねえよな……ん?』

呪文を唱えた後……しばらくは何も起こらなかったのだが……

『な、なんだ!?線が光って……!?』

描かれた魔法陣が、ユウロが動こうとしたタイミングで発動したようで、輝き始めて……

『う、うわあああああ!!』

辺り一面が、光に包まれた。

「おっと……ここでさっきの場面に繋がるわね……もっと戻すわよ」

光がだんだん強くなって眩しくなっていたが、ムイリさんがそう言って場面を変え始めたので光は段々薄らいでいった……



……………………



『ねえ吉崎君……』
『……なんだよ脇田……』

次に映ったのは……ガクセイフクを着た人がいっぱいいる場所で、まだ男だったユウキさんがユウロに話しかけてる映像だった。
心配そうな顔をしているユウキさんだが……ユウロの態度はどこかそっけない。

『その……元気だしなって!』
『出来るわけねえだろ……!』
『……だよね……ゴメン……』
『いや……ありがとう……』

どうやら、何かがあって落ち込んでいるようだ……

『僕でよければいつでも相談に乗るからね!』
『ああ……サンキュー……でも、今は一人にしてくれ……』
『……うん……』

元気に声を掛けたユウキさんの言葉も虚しく、一人にしてくれと言ったユウロ……

『じゃあ吉崎君……また明日……』
『ああ……またな……』

どこか哀愁を感じる……なんてレベルでは無く、本気で落ち込んでいるようだ……

『はぁ……くっそぉ……』

ユウキさんに出会った時にも、そしてさっきも映像の中で言っていた……『居場所を失ったあなたへ』という言葉……
それが関係しているのか……全く違う事なのかはわからないけど……このユウロはとても辛そうだった。

『なんでだよ……なんで謝れなかったかなぁ俺……』

ずっと机に伏して嘆いているだけのユウロ……

「んーなんだか暗いわね。変えるわよ」
「……」

私は心配だったが、別世界の様子を観たいムイリさんは、別の映像に変え始めた……



……………………



『ひっく……ぐす……』
『山本さぁ〜ん……』

そして映し出されたのは……皆黒い衣装を着て、何かを拝んで……いや、なんだろう……とにかく、何かを見ながら悲しんでいる場面だった。

『なんで死んじゃったんだよ〜』
『うわぁ〜ん……』

子供達の泣き顔や話の内容から、形式は私が知っているものとは随分かけ離れているが、どうやら葬式の最中のようだ。
棺桶らしき木の箱と、祭壇みたいなものに優しそうな老人の顔……おそらく山本さんという人の絵が飾られていた。

『…………』

周りの子供は泣き喚いていたりする中、ユウロは潤みもせずずっと前を見続けていた。
この人が何者で、ユウロとどう関係していたのかはまだわからない……顔は全く似てないので親ではないだろうけど……葬儀に出ている程だ、大切な人だったのだろう。

『はぁ…………』

重たい空気がこちらにも伝わってくるようだ……全く知らない人なので悲しみこそしないが、お別れというのはどこか寂しく感じる。


「あまり葬儀ってのは見る気しないわね……ちょっと飛ばすわよ」
「はい……」


お祈りの言葉らしき呪文と子供達の悲しみの声が聞こえ続けるだけだったので、少しだけ時間を進めて場面を飛ばしたムイリさん……

『くそ……どうして死んじまったんだよ山本さん……』

映った場面は、おそらく葬儀が終わった後、ユウロが地面を向いているところであった。

『謝る前に死んじまうなんて……くそぉ……』

謝る前に……なんて言ってるから、何か悪い事をして、謝ろうとしたら死んでしまったのだろうか……

なんて思ってたら……


『悠斗兄のせいだ!!』
『こ、こら!なんて事言うの!!』
『悠斗兄が山本パパを困らせたから、山本パパは無理して死んじゃったんだ!!』

突然、男の子の声が……ユウロを批判するような言葉が響いてきた。

『そうだ!悠斗兄が山本さんを殺したんだ!!』
『悠斗兄が山本さんを殴ったから山本さんは病気になったんだ!』
『そうだそうだ!!』
『こ、こら皆!やめなさい!!悠斗君のせいじゃありませんよ!!』

その声を聞いて、顔を上げたユウロが見たものは……

『悠斗が山本パパを殺したんだー!』
『山本さんを返せよ悠斗兄!!』
『そーだそーだ!!』

『……』



自分を見つめる、複数の涙ぐんだ視線か……凄く冷たい視線だった……


しかもそれは……顔や身体に怪我をしている男の子を除いた……その場に居るユウロと同年代から今のアメリちゃん以下まで全員のものだった……



『ゆ、悠斗君も気にしないで……』
『いや……俺のせいだ……』
『ゆ、悠斗君!?』
『俺が……山本さんを……追い詰めて……過労で……』
『か、考えすぎよ!そ、そんな事ないから!!』

元々メンタルが強くもなかったユウロは……それに耐えられなかったようだ……

『俺が……俺が…………っ!!』

画面が……おそらく涙で……歪み始めた。

『俺が……ぐす……山本さんを……』


今すぐにでも、このユウロを慰めに行きたかった。
本当にユウロが悪いのかそうでないのかは判断がつかないけど……とにかく大丈夫だよって言ってあげたかった。
でも……良く考えたら……これは過去のユウロが見た記憶だ……行けるわけがない……
もどかしい思いをしながら……私は画面が変わるのをただ呆然と見る事しか出来なかった……



……………………



『ご、ごめんなざあいっ!!』
『うるせーよ!ごめんって言えばいいもんじゃねえんだよ!』

そうして映ったのは……さっき怪我をしていた男の子を……どこかの部屋で怒鳴りながら蹴っているユウロだった。

『テメエが迷惑掛けたんだろうが、あ?反省してんのか?』
『ひう……ごべんなざい!!』

ちょっと前に見たエルビ相手にやっていたように、叱りつけながら暴行を加えているユウロ……
いったい……どうしたというのか?

『あん?聞こえねえよ!もう一回ちゃんと言えy』
『こら!やめなさい悠斗君!』
『くっ……何するんだよ山本さん!!』

そのまましばらく蹴り続けていたら、先程葬儀されていた山本さんがユウロの腕を掴んでやめさせた。

『何をしているんだね悠斗君』
『拓真が勝手に人の物を持ち去ろうとして、あげくそれを自分のものにしようとしてたから叱っていただけだ!』
『それはたしかに拓真君が悪い。だが、悠斗君は悠斗君でやり過ぎだ』
『っ……』

優しい口調で、それでも厳しく諭す山本さん。

『なんだよ……俺が悪いって言うのか!?』
『いやそうではない。ただ、注意するのに殴ったりするのはやり過ぎだと言っているんだ。拓真君を見てみなさい。痣が出来ているし、怪我までしてるだろう?』
『あ……』

たしかに、ずっとユウロから暴行を受けていた拓真って子は、全身に痣が出来ており……頭は切ったようで血が流れていた。
誰がどう見たって……明らかにやり過ぎだ。

『でも!』
『でもじゃない。拓真君に謝りなさい』
『っ!!』

それでも……ユウロは納得できなかったのか……

『ふざけんな!俺は悪くねえ!!』
『あがっ!?』

山本さんの顔を、思いっきり殴った後……

『なんで俺ばっかり……くそっ!!』
『こ、こら悠斗君!!』
『俺は『これ』しかわからねえんだよ!!どうしようもないじゃないか!!』

よくわからない事を言いながら、部屋中を暴れ回るユウロ……
大事だと思う書類を破ったり、窓ガラスを割ったりと……かなりの荒れようだ。
おそらくこれの処理で疲労が蓄積し、山本さんは死んでしまったのだろう……ユウロのせいと言われたのはこれが原因かもしれない。
ここまで荒れているユウロは見た事無い……というか、想像さえ出来なかった。

『くそっ……くっそおっ!!』
『待ちなさい悠斗君!!どこに行くんだ!』

ひとしきり暴れた後、ユウロは部屋を飛び出して……ユウロ自身がいた建物すら出て、石や木で出来た大きな家らしきものが並ぶ町を駆け抜けた。


『はぁ……はぁ……』


灰色の硬そうな地面を駆け抜けたユウロは、公園にあった土管みたいなものの中に入り……


『はぁ……くっそぉ……言われなくてもわかってるよ……』


膝を抱え、小さく丸まりながら……


『俺だってやり過ぎなのはわかってるよ……間違ってるのはわかるよ……』


小さな、消えてしまいそうな声で……


『でも……わからないんだよ……俺はこれしか知らないんだよ……』


後悔を、呟き続けていたのだった……



……………………



『おっし拓真!バトルするぞ!!』
『いいよ!今回こそ悠斗兄に勝つ!!』

次の場面は……さっきの拓真君となにかの闘いをしようとしてる場面が映った。
いや……闘いと言うよりは……勝敗のある遊びをしようとしてるところらしい。
ユウロも拓真君も手によくわからない四角く青いものを持ってるけど……あっちの世界のおもちゃだろうか?

『俺の1番手は……こいつだ!』
『うわ……予想外だった……でも僕のは伝説なんだ!そんな簡単には負けないよ!』
『ちょっ、お前伝説で固めてあるのか?』
『そうまでしないと悠斗兄に勝てないから許してね♪』
『おま……なんてな!それぐらい想定済みだ!』

さっきとは違い、二人向かい合って楽しそうに遊んでいる。
なんかボタンを押したり縦に二つ並んでる映像の下のほうを触ったりして、映像が動いてたりしてるだけで何してるのかはサッパリだけど……とにかく仲良く遊んでいた。

『ギロチンくらえー!』
『当たったか……だが!』
『えっ!?耐えた!?そんなの持たせてたの!?』
『タイプ一致の大爆発、くらいな!!』
『わあっ!僕の切り札が!!』

拓真君も……時折四角いものに反射して映るユウロも、笑顔で仲良く遊んでいた。
そんな二人の様子を、周りに居た女の子や男の子が集まって見ていた。

『相変わらず悠斗強いな……』
『わたしもやりたーい!!』
『ほらよ由佳。俺が育てたやつだからどれも強いぞ?』
『くっそ〜いつか絶対悠斗兄に勝ってやる〜!!』

映像の中の文字は読めないけど……どうやらユウロが勝ったらしい。
私もやりたいと言った女の子に四角いおもちゃを渡し、ユウロは輪のほうに混ざった。

『じゃあ次はオレな。ソフトは悠斗のでも、相手が由佳なら怖くねえ!』
『む……わたしだってちゃんと出来るもん!!』
『俺はアドバイスしないからなー。一人で頑張れよ由佳!』
『え……いいもん!わたし一人でも翔兄に勝つ!!』

今度はこの時のユウロと同年代っぽい男の子が、その女の子と闘うようだ。
男の子が持っているのは黒色だが、同じ形なので同じおもちゃなのだろう。

『この子とこの子とこの子でけってーい!』
『ほぉ……なるほど……由佳もわかってきたな……』
『翔兄は耐久型か〜』
『ばっか拓真バラすなよ!!』

わいわいと多くの子供達が集まって遊んでいる……この空気が壊れてしまうなんてとても思えなかった。

『おーい。楽しく皆でゲームをするのはいいが、当番がある子はきちんとそっちをやってからにしなさい』
『あ、やべ。俺今日便所掃除の当番だった』
『私も……』
『僕も夜ご飯のお手伝いがあった……』

そんな中、山本さんが子供達にやる事はやるようにと注意をした。
どうやら皆遊びに夢中になっており、当番をサボっていたようだ。

『当番組はいってらっしゃ〜い』
『しかたねえ、ちゃっちゃとやってくるか』
『適当に済ませずしっかりやってから遊びなさい。あと学校の宿題が残ってる子は宿題も済ませなさい』
『もう終わってるもーん』

本当に幸せそうな雰囲気だ……
しかし、気がかりな事が一つ……なんで大人は山本さん含め数人しかおらず、子供達ばかりが居るのだろうか?
もしかして……ここは孤児院か何かなのだろうか?
つまり……ユウロは孤児だった?



……………………



『悠斗兄〜宿題手伝って〜』
『うるせえ。小学校の宿題なんか一人で出来るだろ。こっちも宿題で忙しいんだよ』
『そう言わずにさ〜。算数の問題がわけわからないんだよ』
『お前こんなの簡単だって中学に行けば痛感するぜ?二次関数とかわけがわからないを通り越してるんだぜ?』
『悠斗兄が言ってる事がわけわからないよ……』

そんな疑問を持っているうちに……小さな机で、拓真君と二人で勉強をしている映像に切り替わっていた。

『どこがわからないんだ?1分で解けそうなら教えてやる』
『ドリルのこのページの問2』
『あん?なになに……あーこれは簡単じゃねえか。(上底 下底)×高さ÷2で解けるじゃねえか』
『え?そんな公式あるの?』
『あーそういえば台形の面積の公式ってやらねえな……なら対角線上に線を引いて、上の三角形と下の三角形の面積を足せばいいだけじゃないか』
『あ、そっか!ありがと悠斗兄!!』

難しそうな勉強をしている二人……ユウロの方が年上だからか、拓真君に教えているようだ。
もしかしてだけど……以前ユウロが言っていた弟みたいな存在ってこの拓真君の事なのかな?

『それじゃ後は自分で頑張れ。俺はあとこのページ全部やらないといけないからな』
『うわぁ……中学の数学って難しいね……』
『だろ?しかも今年は受験もあって……マジで辛いわ……』

二人の会話は、まさに兄弟みたいだった。

『悠斗兄、受験頑張ってね!』
『おう!応援してくれてる拓真や山本さん、実内寮の皆のためにも絶対受からないとな!』
『翔兄と違って悠斗兄の成績は微妙だから不安だもんね』
『てめえ人が気にしてる事を!一応英語の成績は翔より上なんだぞ!!』
『ははは……』

勉強をしているだけだというのに、本当に楽しそうだ。

『そうそう、悠斗兄。山本さんに父の日のプレゼントをあげようって話になってるんだけどさ』
『あ〜まあ毎年そうだもんな。父さんだなんて言えねえけど、山本さんは俺達の父さんみたいなものだからってさ』
『それでさ、今年は何あげようかって話になって……何か良いアイデアない?』
『ん〜……去年は財布あげたんだっけか……』
『金額とかも考えないとね。お小遣い取ってある分だけじゃ高いものは買えないし……』
『一応俺や翔、それと高校生組がバイト代稼いでるから多少なら大丈夫だろ』

そのままちょっぴり勉強を中断し、山本さんへのプレゼントの相談を始めた二人。
山本さんが父さんみたいなものって発言や、見える範囲ですらこの部屋でこの二人が生活している様子が見られる事から、やはりここは孤児院のような施設のようだ。
つまり……ユウロは孤児だったのか……

『じゃあ今年はもっと豪華なものにする?』
『んーあまり高すぎると気負いしちゃうからな山本さん……』
『それはあるね……ネクタイとかは大事な時しか着けないし……』
『あ、鞄とかいいかもな』
『そうだね!他の皆の意見も聞いてみるよ!』
『おう……って待て!まずは宿題やらねえと!』
『あ、そうだった……』

意外な事実に衝撃を覚えながらも、ユウロの過去は段々と明かされていく……



……………………



『悠斗兄……』
『ん?どうした拓真?』
『これ……』
『あーこれ沙織姉のハンカチか。どうして拓真が?』
『落ちてた……』

今度は……また拓真君との思い出みたいだけど……さっきよりかなり幼く見える。さっきまではセレンちゃんぐらいに見えたのに、この拓真君はアメリちゃんぐらいだろう。
ユウロの視点も少し低くなった気がしないでもないし、声は明らかに高くなってるので、さっきよりもかなり幼い頃の記憶だろう。

『だったら沙織姉のところに持ってってあげれば?』
『えっと……一緒に来て……』
『一緒にって……はぁ……仕方ねえな……』

さっきまでと違って、どこか大人しい印象を受ける拓真君。
もしかしたら人見知りか何かで、ハンカチの持ち主に一人で返しに行く事が出来ずにユウロに頼んでいるところだろうか?

『いい加減慣れろよな〜。拓真が寮に来てからもう半年だろ?』
『だってぇ……』
『まあ沙織姉はキツいところもあるからわからなくもねえけどさ。お前俺以外とはあまり喋らねえし』
『悠斗兄以外はなんか話しかけ辛くて……』

どうやらそのとおりらしい。
ユウロの服の端をちょんと持って、不安そうに頼みこんでいた。

『まったく……いい加減慣れろよな。ここがお前の家なんだからさ……相手は皆家族だぜ?』
『そういう悠斗君は1年間誰ともまともに話をしなかったじゃないか』
『あ、山本さん……』
『ちょっ、それ言わないで!!』

ユウロがなんとか拓真君を諭そうとしていたら、どこからか現れた山本さんに突っ込まれた。

『ずーっと暗い顔して、部屋で皆集まってても隅で一人黙って座ってて、折角沙織ちゃん達が仲間に引き入れようとしてもむすーっと顔したままで……』
『山本さん!今それ言わなくても良いじゃないか!!』
『へぇ……悠斗兄も最初はそんなだったんだ……』
『まだ悠斗君とは普通にお話出来る分あの時の悠斗君よりはいいかな?それでももっとほかの皆とも積極的にお話しようね』
『はーい』

どうやらユウロはこれ以上だったらしい……
そう考えると、ユウロが拓真君に言うのは間違ってる気がする。

『いやだってあの時の俺……ねえ山本さん?』
『はは、たしかにそうだね。もう大丈夫なのかい?』
『まあ……諦めって言うか、もう吹っ切れたので』
『え?何の話?』
『俺がここに来た理由だよ。いつかお前にも話してやるさ』

ユウロが孤児院に来た理由……気になる。
たぶんこれからさらに過去を辿るとわかるのだろうけど……そろそろやめた方が良いかなという思いもある。

『じゃあ沙織姉のとこ行くぞ』
『あ、うん……』

でも、もっと見たいという気持ちの方が強かった。
だから、私はこのままユウロの過去を見続けた……



……………………



『今日から皆と一緒に住む事になった西山拓真君だ。皆仲良くしてやってな』
『……よろしく……』

次は……そんな拓真君が孤児院に来たところのようだ。

『部屋は……そうだな、悠斗君と一緒だな』
『よっしゃ!俺今部屋一人で寂しかったから丁度良かったぜ!』
『……』

ユウロは大はしゃぎしているが……山本さんの横に立っている拓真君は……瞳に光が無かった。
心ここにあらずと言うのがふさわしいかもしれない……そんな印象を受けた。

『俺悠斗。悠斗兄って呼んでくれ!拓真、早速案内するからついてきな!』
『……』

ユウロに手を引かれてる拓真君……反応は一切無い。

『あ、悠斗君、ちょっと……』
『ん?なに山本さん?』

ユウロが拓真君の手を引いて部屋に行こうとする前に、山本さんに呼び止められたユウロ。

『拓真君は……両親と兄弟を事故で亡くしたそうだ……しかも自分の目の前でな……』
『え……』
『そして親戚をたらい回しにされた揚句ここに来た……その事は頭に入れておくように……いいかな?』
『うん……わかった……』

そして、そう耳打ちされた。
なるほど……だから心ここにあらずって感じだったのか……

『ほら行くぞ拓真!』
『……』
『……はぁ……』

そんな拓真君を、ユウロは……

『ちぇい!』
『ふぎゅっ!?』

何故かいきなり頭にチョップをかまし……

『ボーっとせずに俺についてこい拓真!』
『あ……はい……わかりました……』
『なんだよ硬いな……よし、今日からお前は俺の弟分だ!ちなみに拒否権は無い!』
『え?』
『だから俺の言う事は無茶でなければ絶対聞くように!いいな?』
『え、えっと……わかりました……』
『それじゃあまず言うが、堅苦しい言葉遣いはやめろ。わかりましたじゃなくてうんわかったでいい』
『は、はい、わかりま……じゃなかった……うんわかった』
『よしそれでいい。じゃあ部屋に行くぞ拓真!』
『う、うんわかったよ悠斗兄……』

元気になってもらうようになのか……やたら無茶な事を言い始めた。
でも、この時の拓真君にとってはそれが良かったかもしれない。
今まで全く変わらなかった表情が、この時困惑ではあるものの変化したのだから。

『ここがお前の部屋だ!ベッドの上は俺だから下を使えよ!』
『うん……』
『よし!じゃあ次は寮内の案内だ!行くぞ拓真!!』

これから、この二人は本当の兄弟みたいになって……あんな決別をしてしまうのかと思うとなんだか切なく感じる……
でも……これを見る限りだと、ユウロは子供の世話が上手いと思うんだけどな。
何故今は子供が怖いのか……さっきの拓真君を殴り倒してたのと関係はあると思うんだけど……
いったい何があったのか……『あれ』とはなんだろうか……



……………………



『おい悠斗!』
『……何沙織姉?』
『何?じゃないよ!今日のお風呂掃除あんたの当番だろ!!』
『あ……ゴメン忘れてた』

今度は……いかにも気の強そうな女の子に言い寄られている場面が映った。
おそらくさっきから端の方で映っていたユウロより数歳年上の女の子だろう。
でもその女の子もさっきより幼いし、丁度鏡がある部屋なので若干ユウロの姿が見えたが、このユウロはまさにアメリちゃんと同じ位だ。

『はぁ……私が代わりにやってあげたから、今度の私の時は悠斗がやれよ!』
『うん……ありがと……』
『どうした?やけに元気が無いな……』

たしかに、やたら声に元気が無いユウロ……

『あのね……今日は翔君と遊んでたんだけど……』
『なんだ?喧嘩でもしたのか?』
『うん……』

どうやら、何度か名前だけ出ていた同い年の子と喧嘩してしまったそうだ。

『しかも頬が若干腫れてるから殴り合いっぽいな……何が原因だ?』
『……おもちゃの取り合い……』
『ガキかお前ら!いやガキか……』

可愛らしい原因だなあと思いつつも、本人達には深刻なんだろう。

『それで、仲直り出来てない感じか……』
『うん……』
『まったく……変な意地張らずにちゃっちゃと謝ればいいんだよ。そんで二人でまた仲良く遊べばいいんだよ』
『でも……それが出来ないんだもん……』
『あーこら泣くな!男の子だろ?』
『うぅ……』

泣きだしてしまったユウロ……ぎゅっと抱きしめたくなるぐらい可愛い。

『仕方ない……私も一緒にいてやるから、今から仲直りしに行くぞ!』
『えっ!?あ、ちょっと!!』

そのまま手を引かれ無理矢理連れて行かれたユウロ……戸惑いながらも、その男の子の部屋まで着いてしまったようだ。

『沙織姉……それに悠斗……なんだよ?』
『あ……その……』
『ほら、シャキッと言いなさい!』
『その……ご、ゴメン……』
『……』

そして、沙織さんにせかされて謝ったユウロ……

『……俺こそ悪かったよ……』
『あ……うん。本当にゴメンね……』
『よしよし、お互いに謝ったから仲直りだ!仲良く遊べよ?』
『うん……』

なんだか微笑ましいな……



……………………



『おい悠斗!お前もそんなところにいないで輪に入れよ!!』
『……』
『……駄目だこりゃ……』

そんな微笑ましい場面を見ていたら、今度は微笑ましさからかけ離れた映像が流れ始めた。
リビングらしい場所で多くの子供達が集まって遊んでいるのだが……ユウロは一人輪の外で座っているだけのようだった。
折角今の私ぐらいの男の人がユウロを誘ったにも関わらず、顔を上げるどころか身動き一つ取らなかった。
おそらく数個前の映像で言われていた『1年間まともに誰とも喋っていなかった』時のものだろう……

『どうしたんだい悠斗君……皆と一緒に遊ばないの?』
『……』

見兼ねた山本さんが……また随分と若く見える……山本さんがユウロに話しかけたが、その声にも反応しないユウロ。

『悠斗く』
『お母さんまってる……』
『……』

それでもどうにかしようと話し掛け続けていたのだが……ユウロがボソッと言った一言で、山本さんは完全に動きを止めてしまった。

『ここで大人しくしてたらぜったいお母さんが来てくれるもん……』
『悠斗君……』
『大人しくしてないとおこられちゃうから、ジッとしてなきゃ……』
『……』

ただならぬ様子のユウロ……
お母さんの迎えを待ってるかの発言をしてるけど……この後もずっとこの施設にいたから……来なかったのだろう……

『ボク……お母さんにすてられたんじゃないもん……』
『……』
『いい子にしてたら来てくれるもん……』
『悠斗君……!!』
『……』

淡々と呟くユウロに、山本さんは力強く抱きしめた。
でも、ユウロは……力無くその抱擁を受けているだけだった……

『大丈夫だから……君が皆と楽しく遊んでるだけじゃ誰も怒らないから……』
『……』
『だから……皆と遊ぼう、な?』
『……うん……』

一応返事はしたものの、その気はほとんどないらしい……

『ん?悠斗も一緒に遊ぶのか?』
『……』
『……まあいいや。見ていたいだけならそれでもいいさ。混ざりたかったら俺達の誰でもいいから言えよ!』
『……』

ふらふらと近付いてはいったものの……この時は輪の中に入る事は無かったのだから……



……………………



『山本院長!こちらに!!』
『な、なんだねこの段ボールは……名前は吉崎悠斗。拾ってやって下さい……ってなんだこれは!?』
『今朝寮に来た後見たらここに置いてありました。嫌な予感がして、とりあえず山本院長に……』
『と、とにかく蓋を開けるぞ!』

また切り替わって……暗い場所にいたと思ったら……

『な……これは……』
『酷い……なんでこんな事が……』

目の前に光が差し込み……山本さんと女の人がユウロを覗きこんでいた。

『自分の息子を犬猫と一緒みたいに考えて……いや、それでも酷い……』
『……』

山本さんに持ち上げられたユウロ……どうやら、何かしらの箱に入れられていたようだ。

何故?いったいどうして?

『……おじちゃん……だれ?』
『君は……吉崎悠斗君かい?』
『うん……ボクゆうと……』

状況が飲み込めてないのはユウロ自身もだったらしく、か細い声で山本さんに話しかけていた。

『おじちゃんだれ?おかあさんは?』
『私は……この実内寮の院長、山本健治だ。今日から君はここで私や他の子供達と一緒に暮らすんだよ』
『え……おかあさんは?おかあさんはどこなの?』


……嫌な予感しかしない……


『おかあさんは……?』
『悠斗君……お母さんは……』
『おかあさんは……ボクをすてたの……?』
『っ……』


こんな事を、ユウロ自身が言うほどだ……


『ボクはだめだったから……すてられちゃったの?』
『違うよ……』
『おかあさんゆるしてくれなかったの?』
『違う……違うよ……!!』


つまり……ユウロは……


『おかあさん……ごめんなさい……ごめんなさい……』
『悠斗君……』
『ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……』
『もう大丈夫……大丈夫だから……!!』


ユウロが孤児院らしき施設にいた理由は……


『あやまったらおかあさんゆるしてくれるもん……ボクをむかえにきてくれるもん……』
『悠斗君っ!!』
『おかあさん……おかあさん……』


母親に……



……………………



『ったく!どうしていつもいつもあんたは人をイラつかせるんだ!!』
『あう……うぐ……』
『あっ?なんとか言ってみたらどうなんだクソガキ!!』
『ごめ、ごめんなさがっ!』
『ゴメンじゃねえんだよクソガキ!!』


また映像は切り替わり……物が散らかって汚い部屋の中……

ユウロにちょっとだけ似た女性が、ユウロを蹴り続けていた。


『最初っから謝るような事してんじゃねえよ!!』
『あう……いたぃ……』
『ああん?痛いじゃねえんだよ!』


それはさっき拓真君やエルビを蹴っていたユウロのように……怒り喚き散らしながら……


『ごめんなさ、おかあさん……』
『うるさい!もう口を開くな!!』
『うぐぅ……』


お腹を強く蹴り飛ばし……ユウロを黙らせたこの女性は……やはりユウロのお母さんらしい……


『うぅ……』
『うるさいって言ってるのが聞こえてないのか!!』
『ぎゃっ!!』


呻いていたユウロに瓶を投げつけるユウロのお母さん……
とても……親が息子にやる事とは思えなかった……


『ぁぅ……』
『あーもうイヤ!!なんで、なんでこんな事に……』


椅子に座り、机に伏し、頭を掻き毟りながら……


『私が何をしたって言うの?なんでこんな事になったの!!』
『ぅ……』
『もうやだ……もう疲れた……こいつはムカつくだけだし、誰も助けてくれないし……』
『ぁ……おか……さ……』
『もうイヤだ!!こいつの面倒なんか見たくない!!』


『あいつの面影が強すぎて……もう私には無理!!』


『なんであの時堕ろさなかったんだろ……そしたらこんな苦労しなくて済んだのに……』


『もう……悠斗の面倒なんて……見てられないよ……』


『あー……もう……』







『悠斗なんか、産まなければよかt……』






……………………



…………



……








====================



「あ、あれ……?」
「はぁ……はぁ……」


これ以上は、観れなかった。


「あ……壊したのね……」
「はぁ……すみませんムイリさん……止め方わからなかったので……」



いや……観たくなかった。



「いや、いいわ……わたしも調子乗ってやり過ぎた……止めてくれてありがとう……」
「いえ……」

だからわたしは、ユウロの記憶を流している機械を、思いっきり踏みつけて壊して止めた。

「でもこれ、使うんでしたよね?」
「ああうん……大丈夫、重要な部品には傷がついてないから直す事は出来るわ。でも、これからは必要最低限以外は観れないように改良しておくわ……」
「それがいいかと思います……」

一応修理は可能らしい……
教団兵達が何か隠し事をしているか探す為の機械だったはずなので完全に壊れてないか心配だったが……どうやら問題は無かったらしい。

「ここで観た事は他の誰にも言わない事ね……」
「ええ……言えるわけないじゃないですか……」
「よね……」

一安心したところで、私は……

「あれ?どこ行くの?」
「ユウロに……会ってきます……」
「……この廊下を真っ直ぐ行くと階段があるから、一つ下りて左に向かえばあなた達が泊まってる部屋に着くわ……」
「そうですか……」
「謝るならわたしの分もお願いね」
「はい……」

ユウロに……勝手に記憶を観た事を謝りに向かった……



…………



………



……








「ん?ああサマリか。どうしたそんな暗い顔して?」
「あ、ユウロ……」

ムイリさんに言われた通りに歩いたら、無事部屋に辿り着いた。
そこには既にユウロが一人部屋にいて、ソファーに座りながらお茶を飲んでいた。

「あの……ごめん……」
「え?何が?」
「その……ユウロの記憶……見ちゃった……」
「……は?」

だから私は、記憶を見てしまった事をユウロに謝った。

「記憶を見たって……どういう事だ?」
「えっとね……ムイリさんが作ってた機械で……」
「あー昨日言ってたよくわからないやつか……あれ人の記憶を見るものだったのか……」
「うん……ゴメンね……」

謝って許してもらえるものではないけど……私は謝りたかった……

「はぁ……まあいいよ。どこまで見たんだ?」
「その……順に遡って……ユウロがお母さんに……その……」
「あーはいはい……母さんが産まなければ良かったって言ったところね……」
「っ……」

なんでも無いかのように言うユウロ……
その言葉が……私には苦しかった……

「まあそこまで知ったんなら全部話すか……でもアメリちゃんや他の奴には言うなよ?」
「うん……」

そして……ユウロは残りの過去を教えてくれるらしい。
正直聞きたくない……けど、ユウロの過去はきちんと知っておきたい……
そう思った私は、ユウロから話を聞く事にした。


「そうだな……とりあえず母さんが俺を蹴ってたりしたのは見たよな?」
「うん……あの人、本当にユウロのお母さんなの?」
「残念ながら実の母親さ。俺は物心ついた時にはすでに母親から虐待されていたんだよ」
「酷い……」

信じたくなかったけど、あの女性は本当にユウロの親らしい。

「最終的に俺の世話に疲れた母さんは、俺を段ボールっていう箱に詰めて、実内寮っていう児童養護施設の……まあこっちで言えば孤児院か……前に捨て去ったんだよ」
「うん……そこは見た……」
「そうか。俺は母さんがいつか迎えに来てくれると信じてたけど……結局俺がこっちの世界に来るまで一度も迎えに来る事は無かった」
「そう……ユウロはもう大丈夫なの?」
「一応ってところかな。この世界に来た今でもたまに夢に出てくるけどな……ほとんどは虐待されてた記憶だけど、懐かしくも感じちまう……」
「……」

虐待を受け続けた挙句、捨てられた事を平気で口にするユウロ……
もう気にしてないのかと思ったが……そうでもないようだ……

「そこからは多分サマリの見た通りだ……俺は寮で皆と打ち解けて、拓真の奴と仲良くなって……ちょっとした事がきっかけで俺は拓真に手を出し、山本さんが俺のせいで死んで……」
「ユウロ……」
「嫌になるよな……自分が虐待されていたから、絶対辛いのはわかってるのに……俺は手を上げて暴行する事しか叱り方がわからないから……気付くと相手を殴ったり蹴ったりしながら説教してる……」
「……」

たしかに……ユウロが怒った時は、全部暴力的だった……
自分が怒られた時は全部暴力を受けていたから……それがおかしいとわかっていても、普通だって思ってる部分もあるのかもしれない……

「じゃあさ……ユウロが恋人とか作るわけにはいかないって言ったのは……このため?」
「……半分はな……」
「半分?」

そうして、自分がもし誰かと結ばれた時……その人に暴力を振うかもしれない……いや、もしかしたらその人との子供を虐待してしまうかもしれない……そう思っているからの恋人作れない発言なのかと思ったけど……どうやら半分しか正解じゃなかったらしい……

「あのさ……ここまでで本来居るはずの人間がいなかったの、わかったか?」
「……へ?」

その残りの半分は何かと思っていたら……

「俺は……自分の本当の父さんの顔を全く知らねえんだ」
「……は?」

もう一つ、衝撃的な事実を口にし始めた。
なんと、ユウロは実のお父さんの顔を知らないらしい……

「いや、どうやら昔母さんと付き合ってたらしいけどさ、俺が出来たと知って怖くなって逃げたそうだ」
「え……」
「しかも多額の借金を押し付け残したままだとさ。とんでもないクズときた」
「……」

それどころか、そのお父さんは……とんでもない人だった。
ユウロやユウロのお母さんを捨ててどこかに行ってしまったらしい……

「そんな男との子供なんか中絶してしまえばいいと周りには言われていたらしいけど……所謂不良だった母さんは家族にも見捨てられてた。つまり一人ぼっちだったのさ」
「……詳しいね……」
「俺が13か14になった時に色々と調べてみたんだよ。それで、ぼっちだった母さんは寂しさを少しでも減らす為か俺を産む事にしたんだ」

それでもユウロのお母さんは産む決心をした……それなのに……

「それで産んだはいいけど、自分の人生を無茶苦茶にした男と似てる子供が常に近くにいるんだ……ストレスは尋常じゃなかった」
「だから虐待を……」
「そういう事。それでも5年は頑張ったけど、結局身も心もボロボロになった母さんは、俺を施設に押し付けたってわけさ」
「……」

その事が逆に苦痛になり、結果ユウロを見離したと……

なんて身勝手な……

「ま、俺はそんな屑と屑の間に産まれた子さ……だからさ、もし誰かを好きになって結婚して、子供を作ったとしたら……怖いんだよ……」
「何が?」
「俺も父さんや母さんと同じようにならないか怖いんだ……子供が出来たのを知って逃げ出すかもしれないし、虐待するかもしれない……現に俺は何度も暴力を振ってる……そうなるかもしれないんだ……!!」

ユウロの話を聞き終えた……
たしかに、ユウロの両親がそんな感じなら、恋人や子供を作るのは怖くて当たり前だろう……


「だからさ、俺は……!?」
「……大丈夫……」


でも、それがどうしたというのか……


「ユウロは大丈夫……」
「サマリ……」


それはユウロの両親の話であって、ユウロ自身の事じゃない……


「ユウロなら絶対にそうならない……私が自身持って言えるよ……」


ユウロならそんな理不尽な事をしない……




「……ありがとうサマリ……」




ユウロを抱きしめながら、私はそうユウロに言い続けた……



=======[セレン視点]=======



「……」

この城に住んでいる元勇者の魔物達に色々話を聞いて、参考になったなと思いながら部屋に戻ろうと扉をちょっと開けたら……

「ユウロなら絶対に大丈夫……だから、そんなに怖がらないで……」
「ああ……」

……サマリとユウロの二人がなんかいい雰囲気になっていました。
何があったかは知らないけど、お互い抱き合って、サマリがユウロを励ましているようでした。

「これは……お邪魔するのは悪いですね……」

あの二人の間に恋愛関係は無いと言ってましたが……そんな事は無いように見えます。
以前ユウロは恋人を作らないという話しを聞きましたが……それが無ければ二人は立派に恋人同士に見えますね。

「しかしもどかしいですね……そのままくっついてしまえばいいものを……」

おそらくサマリはユウロの事が好きなのでしょう……本人も気付いてなさそうですが、魔物としての本能がきっとユウロを旦那だと認識してると思います。
一緒に旅してからずっと見てきましたが……ユウロに向ける視線は恋する乙女そのものですからね。
特にユウロがご飯美味しいと言った時の喜びようは、ワタシやカリン、それにアメリが言った時とは比べようにならない程可愛らしい笑顔を浮かべますからね。

ユウロの方はユウロの方で、サマリの事を気にしてるみたいですしね。
それが恋愛感情なのか母性を感じてるだけなのかはわかりませんが、サマリと接してる時が一番楽しそうですし、一番落ち着いてる気がしますしね。

まあでも、これは本人達の問題ですからね。
非常にもどかしいですが……ワタシからとやかく言える事ではないでしょう。


「このおうち広くて面白かった〜!」
「ありがとアメリ!ここは私自慢のお城だからね!」

そっと扉を閉めたところで、アメリとユーリムさんがこちらに歩いて来てるのが見えました。

「あ、セレンお姉ちゃん!」
「あら、皆からタメになる話は聞けた?」
「はい、まあ……中々答えは見つけられませんが、魔物もそんなに悪くないなって思えるようにはなりましたね」
「でしょ〜?」

ワタシは、魔物になった今の心境や、自分がどう変わったのか色々と聞きました……まだ自分はどうすればいいのか答えは見つかってませんが、魔物自体の嫌悪感はほぼ無くなったと言っていいでしょう。

「今部屋の中はいい雰囲気なのでちょっと散歩しに行きませんか?」
「え?お部屋で何かあるの?」
「まあね。ユウロとサマリの二人が……」
「あーうんわかった。それじゃあカリンお姉ちゃんにも言っておかないとね」
「そうですね……カリンは何処に?」
「今カリンちゃんはリリーとお話してるわ。どうやら何か余分に売り込もうとしてるみたいよ?」
「よくやりますねあの狸……」

サマリ達を二人きりにする為に、ワタシはアメリとユーリムさんにそう言って、この場から離れました。

どうせ進展はしないでしょうけど……あの二人がいつか幸せになれれば良いなと思いながら……



=======[サマリ視点]========



「それでは、お世話になりました!」
「いえいえ、こちらこそ楽しかったわよ!」

現在10時。
私達は数日間ヘクターンの観光をして、これからペンタティアを目指して出発するところだった。

「お気を付け下さい。ペンタティアは反魔物領、しかも勇者輩出国です。しかも最近より勢力を増しているようなので、魔物には辛いと思います」
「はい。大丈夫です。細心の注意を払いながら進んでいきます」

これからペンタティアに行き、セニックとの接触をどうにかする予定だ。
どうなるかは全く見当がつかないけど……とにかくセレンちゃんともう一度合わせなければ。

「その後は、とりあえずウンデカルダに住むトリーさんに会いに行こうかと」
「そうね。そこから一番近いのはトリーの家だからね……本当に気をつけて、危なくなったら全力で逃げるのよ」
「うん!」

魔物の私達ではかなり危険だ。
それでも、セレンちゃんを放っておくわけにはいかないので、私達は一緒にそこまで向かうのだ。

「すまんなセレン……ウチはここでお別れや……」
「いえ……そもそもこれはワタシの問題ですので。カリンが気負いする事ではありません」

だが、カリンはここでお別れだ。
向かう方角もジパングとは正反対なので、この場でユーリムさん達と一緒にお別れをしているのだ。

「カリン、アズキさん達によろしくね!」
「おう!ウチも家に帰った後、オトンの怪我が治っとったらまた大陸に行く。そんで色々と情報集めて皆と合流するわ!」
「おう、待ってるぞ!」

それでもまたすぐに一緒に旅が出来るだろう。
カリンのお父さんのデイゴさんも順調に回復していたらしいし、あれからそろそろ1月経つのでもう治ってるかもしれない。
そうしたら私達と離れるのは大陸とジパングの往復分だけだ。

「じゃ、そろそろ行くか!」
「それじゃあねーリリーお姉ちゃんとユーリムお姉ちゃーん!」
「ええ!また会いにきてね!」
「そんじゃあウチも行くわ!またな皆!」
「うん!またねカリンお姉ちゃん!!」

そのまま話していてはいつまでも出発できないので、ここで話を切って出発する事にした。
別れは少し惜しいが、一生の別れでは無い……またすぐ会えるのだから。

「カリンが居ないと少し寂しいな……」
「結構賑やかでしたからね。カリンの明るさには正直助けられた部分もあります」
「でもすぐにまたいっしょに旅出来るよきっと!」
「そうだね!」


ふとした事で、今回ユウロの過去を知った私……
ちょっとだけ後悔してるけど……それでも、大切な仲間の事は知っておきたかったし、知れて嬉しかった。
きっとユウロの心に負ったものは未だに取れてないし、これから先も残ったままかもしれない……
でも、私はそんなユウロの心のよりどころに慣れたらいいなと思った。

この先の旅、どんな事があるのか……
ずっと避けていた反魔物領に向かうわけだけど……どんな事件に巻き込まれてしまうのか……
それは、実際に旅をしないとわからない……だから旅は面白いのだ。

「さて……セレンちゃん、頑張ろうね!」
「ええ!」

私達は、ゆっくりと旅を続けて行くのであった……












「はぁ……はぁ……」
「あらムイリ、どこ行ってたのよ?もうアメリ達行っちゃったわよ?」
「はぁ……遅かったか……」
「どうかされたのですか?」
「あいつらペンタティア向かうって言ってたわよね……」
「え、ええ……」
「ペンタティアの奴ら、近くの明緑魔界を攻める為に何かしてるそうよ……今向かったらおそらく巻き込まれるわ」
「な……それは大変ね!」
「今すぐ知らせに行きますか?」
「いや……あの子達の旅を邪魔はしたくないわ……だから別の方法を取るわ」
「別の方法?」
「そうよ。危険を根こそぎ取る方法をね!そうと決まればあの子達に連絡しなくちゃ!!」
13/03/19 21:34更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
今回はユウロの過去話でした。
魔物の出番が全体的に少なく感じたと思いますが、重要な回なのでご了承ください。
ユウロの過去自体は何度か小出ししていたので多少は予想付いていた人も多かったのではないでしょうか?
そしてカリンとの別れ、新たなる旅立ちに不穏な動きとあるわけですが……またのお楽しみにという事で。

さて、ようやくセレンとセニックの関係に決着するべく動き始めた旅の御一行ですが……いきなり迷子になります。
どうしようかと悩んでいたらラプラスという喋る謎の武器を持った男アルテアと出会い、モイライという街に案内してもらいます。
そう、次回はテラーさんの作品『極めて近く限りなく遠い世界』シリーズとのコラボです!
モイライで一悶着、そして、隠れた姉の存在が……の予定。

あと旅裏も今回分まで追加して更新しました。

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