連載小説
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旅50 男は出てきま…メインでいたか…
「おー、ここがヘクターンか……」
「……魔界じゃないですかここ……」
「いやよく見てみぃ、あそこに人間女性がおるやろ?成りかけとるけどまだ魔界化はしとらんようやで?」
「そうだね〜」

現在13時。
私達はカリンの荷物の届け先である『ヘクターン』に到着した。
街は昼間で太陽も出ているというのに若干薄暗く、所々に軽い魔力溜まりらしきものも見える。
注文をしたのはバフォメット、そしてそのバフォメットにはリリムの主がいる……そんな最上位とも言える魔物が住んでいる街なので半分以上魔界化しているようだ。
半分以上というのは……それでもカリンが言った通りあちこちに人間女性の姿が見られる……セレンちゃんやアメリちゃんやカリンも人間だと思って話をしているので人化の術を使った魔物という事は無いだろう。
つまり完全には魔界化はしていないという事になる。

「さてと、観光もしたいけど、お客さん待たせてるからまずは届けに行ったほうが良いよね?」
「せやな。結構ギリギリになってもうたしすぐに向かった方がええ。一番大きな城に住んどるっちゅう話やけど……」
「あ、じゃああれじゃね?」

これまた広い街なのでいろいろ観てまわりたいが、今回はただ観光しに来たわけではない。
カリンの荷物の事もあるし、リリム……アメリちゃんのお姉さんにも会いに来たのだから、まずはその2名が住んでいる場所に向かおうと思う。
どうやらヘクターンの領主をしていて、大きなお城に住んでいるという話だが……

「あーあれやな……」
「うわあ〜……大きい……」

ユウロが指差した方向を見ると、明らかに他の建物と比べて大き過ぎるお城が聳え立っていた。
一番大きなお城ってレベルじゃない程大きい……何時ぞやのセラさんの住むお城と比べても大差はないだろう。
街の他の建物が標準的なのもあって余計高く感じる……

「まあ……あれなら迷う事はなさそうですね」
「せやな……でもここからやと距離はかなりありそうやし先にお昼ご飯にするか?」
「アメリおなか空いた!もう1時だしお姉ちゃんのおうちまで遠いから先にごはん食べたい!!」
「そうだね……じゃあまずは飲食店を探そうか」

私達はもう少しで着きそうだからとお昼ご飯を食べずにここまできた。
案の定アメリちゃんがお腹空いたと言うので、お城までの距離から考えても30分は掛かりそうなので先にお昼ご飯を食べる事にしたのであった。



…………



………



……








「……やっと着きましたね」
「やっぱ遠かったなぁ……」

現在14時。
私達は目的地だと思われる…というか、街中でここが領主であるリリムのユーリムさんの家でムイリというバフォメットが従者として住んでいるという情報を得たので間違いではないだろう…この街の一番大きいお城に着いた。

「ほんじゃいくか……すみませーん!たぬたぬ雑貨の者ですがー!!注文の品をお届けしましたー!!」

そして、門の所にある『用のある方は押してから要件を叫んで下さい』と書かれたプレートの上に付いていたボタンを押してからカリンは文字の指示通り要件を叫んだ。


「……」


そのまま待つ事数十秒……


「……お待たせしました。どうぞお入り下さい」
「おお、ありがとな……ってあんたは?」

大きな門の奥から、メイド服を着たサキュバスが現れた。

「私はこの城の主であるユーリム様の御世話係を勤めさせてもらっていまして、名はリリーと申します」
「あ、どうも」
「ムイリさんに確認を取ったところ「あーはいはいやっと届いたのか〜。今わたし手が離せないし連れて来てほしいんだけど頼める?」と申されたので案内させてもらいます」
「お、おおそうか……ならよろしゅう頼むわ……」

リリーと名乗るメイドサキュバスさんはカリンを見た後、私達の方を見て……

「そちらの方々は?」
「ああ、ウチと一緒にリリムに会う為の旅しとったんや」
「リリム……に?」

やはり疑問に思ったのか、私達が何者かをカリンに尋ねた後……

「そういえば……そこの一番小さな方は……王女様ですか?」
「王女様……うん。アメリはリリムだよ。ユーリムお姉ちゃんに会いに来たの!」
「会った事の無い姉妹……というか姉やな。姉に会う為に旅しとるんやってさ。ウチらはそのお供や」
「なるほど……それはご苦労様です。では皆様もご一緒に案内させてもらいます」

アメリちゃんがリリムだと気付いたらしく、目的を伝えたら一緒に案内してくれる事になった。



……………………



「それにしても大きいよね〜」
「でも他の魔物の姿は見当たりませんね……そのせいで余計広く感じます……」

そのままお城の中に案内された私達。
ユーリムさんは今の時間なら書斎に居て、ムイリさんがいる場所までの途中にあるからとまずそちらに連れて行かれてるところだ。

「この屋敷に住んでいる者はユーリム様以外ですと数人しかお住まいになられていません」
「数人……まさかあとはリリーさんとムイリさんだけとか……」
「そんな時期もありましたが今では他にも数名いますよ。ほとんどがユーリム様を討伐しに来て返り討ちに遭い魔物になった者ですけどね。その中でも特に恋人が居ない者がここに住み込み働いています。ムイリさんもその一人です」
「へぇ〜……」

大きなお城であるが、さっきから私達以外の人影をまったく見ない。
もしかしたらリリーさんとムイリさんとユーリムさんの3人しか居ないのかと思ったらそうでもないらしい……それでも数名しか居ないようだが。
それでも……リリーさんの話からしたら、ユーリムさんが魔物にしたのはリリムを討伐しに来るような実力者……おそらく勇者やそれと同等の存在ばかりだろう……警備の方は心配なさそうである。

「リリーお姉ちゃんはユーリムお姉ちゃんのおさななじみ?」
「いえ。私がユーリム様に仕えるようになったのは大人になってからですよ」
「ふ〜ん……」
「幼馴染みの方はいらっしゃるようですが……私も誰かまでは存じ上げていませんね。ユーリム様は繋がりが把握しきれない程広いもので……」
「そうなんだ〜」

とまあこんな感じにリリーさんと雑談しながら廊下を歩いていた時だった……

「あらリリー。その子達は?」
「あ……」

誰も居なかったはずなのに、突如後ろから声が聞こえてきた。

「そこにいらしたのですかユーリム様」
「覚えの無い魔力や男の子の気配を感じたから様子を見に来たのよ。その人達は?」
「ムイリさんとユーリム様それぞれに用があって来訪した者達です」
「私とムイリに?」

振り向いた先には……白い蝙蝠の様な翼に白い髪、そして紅い瞳を持ったサキュバス……リリムが居た。
リリーさんとのやりとりからすると、どうやらこの人がユーリムさんらしい。

「はじめましてユーリムお姉ちゃん!アメリユーリムお姉ちゃんに会いたくて来ちゃった!」
「あら……可愛い妹ね……ってアメリ?」
「うん……あれ?お姉ちゃんはアメリのこと知ってるの?」

元気よくユーリムさんに挨拶をしたアメリちゃんだったが、ユーリムさんはアメリちゃんの名前を聞いて何か思い付いたらしい。

「いや、直接会ったのは初めてだけど……たしかちょっと前にアクチから姉妹探しの旅をしている妹が居るって聞いたのよね……たしかその妹の名前がアメリだった気がしたから……」
「そうだよ!アメリ会ったことのないお姉ちゃんたちに会うために旅してるんだ!!」

どうやら私達が旅をしている間に、テトラストの領主をしているアクチさんからアメリちゃんの事は聞いていたらしい。

「という事は君がユウロ君ね」
「え、あ、はいそうです。俺達の事も聞いてたのですか?」
「ええ。アメリと一緒に旅をしてくれてありがとうね。あとサマリちゃんっていう人間の女の子が居るとも聞いたのだけど……」
「あ、それ私です。アクチさんに会った後アメリちゃんの手によって魔物になりました」
「そうなんだ!アメリももうこの歳で人間女性を魔物に変えるだなんて立派ね!」
「う〜ん……りっぱなのかなぁ……」

それどころか私達の事も知っていた。
流石にカリンやセレンちゃんの事は知らないにしても、アクチさんと会った私とユウロの事も知っているとは思わなかった。
さっきリリーさんがユーリムさんは交流が広いみたいな事を言っていたが、それは他の姉妹とも繋がりがあるという事なのだろうか?

「あ〜やっぱり妹って何人居ても可愛いものね〜」
「みぎゅっ!?」

そんなユーリムさんはアメリちゃんを強く抱きしめて頬ずりし始めた。

「何人もって……ユーリムさんは上の方なのですか?」
「そうよ。私は上から二十……って言うわけないでしょ!同じ女の子なら年齢答えたくないのもわかるでしょ?」
「すみませんつい……ワタシはまだ若いので14って堂々と言えますが……あ、ワタシはセレンです」
「む……セレンちゃんね……きっともうじきわかるようになるわよ……」

どうやら自分の妹が可愛くて仕方ないらしい。
アメリちゃんが何人目かはわからないけど、ポロっと言いかけたのを考えると以前会ったナーラさん前後みたいだし、結構上の方らしい……だから今までも何人もの妹を見て来ているのだろう。
結構姉妹とか関係なく自由奔放なイメージがあるリリムにしては妹思いなのかもしれない……

「もしかして……ユーリムさんは他にも姉妹の居場所とかご存知ですか?」
「ええもちろん!多分会った事ない子も多いと思うけど……」
「えっホント!?おしえてユーリムお姉ちゃん!!」

だから私はユーリムさんに他の姉妹の居場所を知らないか聞いてみたのだが、予想通り何人か知っているらしい。

「そうね……ここからならトリー、ロレン、キュリー辺りが近くに住んでるけど……知ってる?」
「ううん、3人とも知らない……」
「そっか。じゃあ出発前には教えてあげるけど……何時までこの街に居る予定とかってある?」
「いえ。一通りこの街を観光したら出発しようと思ったので……」
「じゃあ出発までここに泊まっていかないかしら?アメリとももっとお喋りしたいし……」
「いいのですか!?ではお言葉に甘えさせてもらいます!」

その中でもここから近いところに住んでいるリリムの名を挙げてくれたが……全員知らない人だった。
だから次はその中の誰かに会いに行く事になるだろうけど……まずはこの街の観光が先だ。
その事を伝えたらユーリムさんがこのお城に泊めると言ってくれたので、お言葉に甘えさせてもらう事にした。
まあ……なんだかんだいって毎回会いに行ったお姉さんの家に泊まっている気はするから今回もそうなるかなとは思っていたけどね。

「あの……ユーリム様、そろそろ……」
「え〜いいじゃない!ちゃんとやる事はやってきたし、可愛い妹と戯れていたって……」
「いえ……先程も申したようにムイリさんにも用がありまして……」
「いいのいいのムイリなんて放っておきましょ!むにむに〜♪」
「むきゅっ!」
「可愛い〜お肌もプニプニね〜♪」
「にゅぅ……くすぐったいよお姉ちゃん……」
「はぁ……ではカリン様だけお連れします」
「お、おう……」

しかし、そんなユーリムさんはアメリちゃんを離そうとしないどころか、むにむにすら……いや、もはや身体中を撫で回し始めてしまった。
ユーリムさんはアメリちゃんを離す様子が無い……私達はともかくカリンはムイリさんに用事があるので、とりあえず一人だけ案内してもらおうとしたのだが……

「おいこらユリリムー!!人の客の足止めしてるんじゃないわよ!!」
「けぷっ!?」
「えっ!?」

どこからともなく大きな叫び声が聞こえてきたと思ったら、突然少女が……いや、バフォメットがユーリムさんにとび蹴りをかましていた。
おそらくこの人がムイリさんだろう……リリムを蹴るとは凄い人、いや、バフォメットだ……
しかし主にとび蹴りをかます事もそうだが、ユリリムとはいったい……

「まったく……遅いから手を離せるところまでやってから様子を見に来たら……小さな女の子にも百合百合しい事してるんかこのユリリムが!」
「いたた……ユリリムって言わないでよムイリ……それに妹を普通に可愛がってただけよ……」
「それでわたしの荷物は?」
「ああ……ほなあんたがこの魔晶石を注文したムイリさんか?」
「そうだけど……ああ、あんたがたぬたぬ雑貨の店員ね」

やはりこの人がムイリさんらしい……文句を言うユーリムさんを無視してカリンと話し始めた。

「ちょっとムイリ……」
「遅かったじゃない。それで商品は?」
「ほれここに。それとサインお願いします」
「ん、ありがと。これで研究の成果を試す事が出来るわ!」

そのままユーリムさんを無視したまま商品を受け取ったムイリさん。
ユーリムさんは主でムイリさんは従者と上下関係があるはずなのだが……大丈夫なのだろうか?

「さてと……それじゃあちょっとあんた達にも手伝って……」
「ム〜イ〜リ〜!!」
「何よさっきか……ら…………ひぃぃっ!!」

……どうやら大丈夫では無かったらしい。
怒ったユーリムさんは恐い顔をしながらムイリさんに詰め寄り、ムイリさんは怯えながら後退りし始めた。

「いつもいつも人の事をユリリム言って……私は百合じゃないわよ?」
「あ、あわわ……ご、ごめんなさい……」
「許すと思う?お・し・お・き・ね♪」
「ちょ、ちょっと待って!!」

怯え方がトラウマレベルなのだが……おそらく過去にも何度かお仕置きを受けているのだろう。
というかユリリムってやっぱりそういう意味だったか……多分だけどさっきのリリーさんの話からよく人を魔物化してる、つまり性交によって相手を魔物にしているからユーリムという名前も合わさりそう呼んでいるのだろう。ムイリさんもその一人だというし当たってると思う。

「あ、あのさ、幼い妹の目の前でやるつもりなの?」
「……それもそうね……まあ今回はいいわ……次ユリリムだなんて言ったら……わかってるわね?」
「はいっ!!絶対言うと思うけど……」
「何か言った?」
「いや何も……」

他人事だから見ていて面白いけど、本人達は相当真剣だと思う。
リリーさんもあきれ顔をしているし、よくある事なのだろうとは思うけど……

「……よし、これでいい?」
「たしかに。ほなこれが商品や。あっとるな?」
「うん、合ってるわ。ご苦労さん。ゆっくり休んで行くといいよ。良いよねユーリム?」
「良いも何ももう家に泊める事になってるわよ。私……というか会った事ない姉妹に会いに来たって言う可愛い妹のアメリともっとお話したいからね」
「はじめまして!アメリだよ!!お姉ちゃんに会うために旅してるんだ!!」
「はじめまして。たしかにユーリムと違って可愛いわね」
「悪かったわね可愛くなくて。ムイリも見た目は幼女なのにちっとも可愛げがない……」
「そんなものでしょ。これでも中身は20代後半だしね」

でもまあ……こうして悪口を言い合ってこそいるが、別に仲は悪くないのだろう。
表情は柔らかいし、本気じゃないのが見てわかる。

「あ、そうそう……アメリと旅の御一行さん達にちょっとお願いがあるんだけど……」
「へ?なんですか?」

と、そんなムイリさんは何かを思い出したようで、私達の方に向きなおって頼み事をしてきた。

「あんた達の中で誰か一人髪の毛でも陰毛でもいいからわたしに譲ってくれない?」
「はい?」
「うーんと……今魔力によって人の一部から記憶や情報を分析し特殊な装置を媒介にして構築そして映像化して引き出せないかどうかという研究をしててね。それに使う部品を今こうして受け取ったからそろそろ完成しそうだし人の一部である髪の毛でもいいから提供してほしいってわけ。この城に住んでる人でも良いんだけど旅してるってならあんた達のほうがいろいろ観てそうで面白そうだしね」
「はぁ……」

なんだかよくわからないが、とりあえず自身がしている研究が上手くいくかを試すのに私達の毛が欲しいらしい。

「まあ……別に良いよね?」
「変な事に使わなければまあ……」
「それじゃああんたの肩に乗ってるのでいいわ。貰うね」
「あ、はい……」

内容があまり理解出来なかったが、別に毛の一本ぐらいならあげても良いだろう。
そう思い同意したら、ユウロの肩に乗っていたユウロの髪の毛を一本持ってどこかに行ってしまった。

「なんだったのでしょうか?」
「さて……私にもムイリさんが何をしているのかは把握出来てませんので……それより、このお城にお泊りになられるのでしたら客室までご案内しますが」
「あ、お願いします。アメリちゃん行こう!」
「うん!ユーリムお姉ちゃんは?」
「私も一緒に行くわ!もう今日やらないといけない事は終わってるし、ムイリの邪魔も入らないし、アメリといっぱいお話するんだから!!」

そんなムイリさんを見送った後、私達はユーリムさんと一緒にリリーさんに客室まで案内されたのであった……



====================



「……ここどこだ?」

現在10時。
昨日はあれから終始ユーリムさんとお話をしていた。
途中からムイリさんやこのお城に住んでいる他の魔物ともご飯を食べながら色々とお話した……リリーさんが言っていたとおり全員元勇者らしく、ユーリムさんの手によって魔物になったようだ。
しかしまあ……自分が決めた男の人から以外は男から精を得たくないから女性のなけなしの精を貰っているのは……ムイリさんにユリリムって言われても仕方ないと思うな……言ってしまえばこのお城に住む人はリリーさん以外全員被害者なわけだしね。

「広いからよくわからなくなっちゃったな……」

そして今は城内を各自で自由行動を取っていた。
アメリちゃんはユーリムさんと見て回っているし、セレンちゃんは元勇者である皆さんに色々と聞きに回っているようだ。それとカリンとユウロは私と同じようにお城の中を自由に歩きまわっているのだが……私はものの見事に迷子になっていた。

「う〜ん……せめて誰かと合流できたらな……」
「……ここをこうして……よし、出来た!」
「……ん?」

自分以外誰も居ない廊下を寂しく彷徨っていたら、近くの扉から微かに声が聞こえた気がした。

「さ〜て、早速見てみようかなっと……」
「すみませーん、誰かいますか〜……あっムイリさん……」
「ん?ああ、えっと……サマリだっけ?」
「はい……ちょっと迷っちゃって……ところで何してるんです?」

その声がする扉を開けて中を覗くと……ムイリさんが何かをしていた。
昨日カリンから渡されていたものが中央にはめ込まれていて、一つの面には丸いレンズが付いている謎の箱……そこにムイリさん自身の魔力を浸透させていた。

「ああ……昨日言ってたものが出来たのよ。サマリも見ていく?」
「はぁ……昨日言ってたなんだかよくわからないものですよね?」
「よくわから……まあ仕方ないか……」

どうやら何かを見るものらしいけど……昨日の説明がイマイチわかり辛かったのでどうしようか迷っていたのだが……

「んーまあ簡単に言えば、あんた達の記憶を見る装置よ」
「へ?記憶を見る?」
「そ。あんた達が旅で見てきたものを見る装置。しつこい教団兵達が隠してる物とかないかを調べる為に作ってたんだけど、ちゃんと見れるかのテストがしたくてね。もちろんここで見た事は絶対に公言しないわよ」
「なるほど……そうですか……」

ムイリさんがそんな私に簡単に説明してくれた。どうやら対象者の記憶を映し出して見る事が出来るものらしい。
今回はユウロの髪の毛を使っているわけだから、おそらくユウロ視点での旅の様子が映し出されるのだろう。

「それでどうする?見ていく?あと一応止めるのもありよ……ちゃんと理解して協力してくれてないみたいだし、あまり他人に見られたくないものかもしれないしね」
「うーん……」

自分のではなくてユウロの記憶だから即答はできなかったが……ユウロはあまり過去を語りたがらないけど……別にそんなに過去の事じゃないし……それにユウロは旅の間どんな風にいろんな景色や人を見ていたのか気になる。

「まあ……旅の部分ぐらいなら良いと思いますよ」
「わかった。じゃあ早速始めるわね」

だから私は、さほど悩む事無くムイリさんに許可した。


「それじゃあいくわよ〜!」

ムイリさんはそう言うと、昨日カリンから受け取っていたものに自身の魔力を流し込み、何かの呪文を唱え始めた。

「……よし、とりあえず成功ね」
「おおっ!」

そしたら、レンズの部分から光が溢れだして、壁に絵を映し出していた。
その絵は動いているようで、段々とぼやけていたものがハッキリとしてきて……

あ、これは……



……………………



『へへ〜ん!出たな凶悪な魔物集団!このセルシ様が成敗してやるわ!!』
『な、何なのいったい……』
『なんやねんいきなり……嬢ちゃん誰や!?』
『わたしはセルシ!!凶悪な魔物を成敗する正義の天才魔法少女よ!!』

これは……1週間程前にプリコの所有者、セルシと遭遇した時のものだ。
その映像の中にはセルシに私、それにカリンやアメリちゃんやセレンちゃんが居たが、ユウロの姿は見当たらない……どうやらユウロが見ていた光景のようだ。

「どう?これは実際にあった事?」
「はい……およそ一週間前にあった出来事です……この後戦闘開始して、最終的に相手がバフォメットになった事で私達は助かりました」
「へぇ〜……」

映像の中では、あの時のようにセルシが私達を圧倒している姿が映っていた。

『しっかりして!『ヒーリンg』』
『回復させる暇なんて与えないわ!『ウィーセルスラッシュ』!』
『くっ!』
『まだまだいくわ……っ!?な……あ……う……』

そして……映像の中でもあの時と同じように魔物化が始まった。
私も見たからハッキリと覚えているけど……角度こそ違えど数分違わず同じように変化していた。

つまりは……ムイリさんが言う通り、これは記憶を見る事が出来る装置のようだ。

「これだけでも結構面白い経験してるじゃん。もっと見ていくわよ」
「あ、はい……」

そう言ってムイリさんは装置に何かしらの操作を加えた……同時に映し出されている映像が変化した。



……………………



『ふぅ〜……ホル乳シチュー美味かったぜ……』
『だよね〜……流石にこれは再現できないかな……何度食べても詳しくはわからなかったからなぁ』
『あれは流石に難しいと思うわよ?なんて言ったって店長さんが考え抜いて作ったものだからね』
『ですよね〜……』

今度はルージュ・シティで観光していた時、しかも最終日のものだ。
結局ルージュシティに居る間毎日行っていたコルバさんのお店で夕飯を食べ終わって丁度宿に向かっていたところのものだった。

『そういえばレミィナお姉ちゃん、たまにはおうちに帰らないの?』
『う〜ん……他の姉妹って帰ってきてたりするの?』
『えっ、う〜ん……わかんない……少なくてもアメリが見たことなかったお姉ちゃんは帰ってないんじゃないかなぁ……』
『まあ私達リリムって結構自由な所があるからね……って私はその中でもトップクラスの自信があるけどね!』
『ははは……姫は自由過ぎですけどね』
『何よヴェルナー……呆れた?』
『いえ。姫らしくていいですよ』

そういえばアメリちゃんとレミィナさんはこんな話をしていた気がする……やっぱリリムってお姫様にしては自由だなって思ったんだよね。

『なあサマリ……そういうアメリちゃんも家に帰りたいみたいな事言わないよな』
『そういえばそうだね……寂しくないのかな?』

そしてその後ユウロは私に耳打ちしたんだっけ……
たしかにアメリちゃんはホームシックになったりしないもんな……まあ私もそうだけど、旅が楽しいうえに皆が家族みたいに思えるからそう寂しくならないのだろう。
でも今度聞いてみようかな……それで寂しいって言われてもユウロ的に困っちゃうけどね。

『……』
『セレン……答えとやらは見つかったのか?』
『いえ……そう簡単に見つかりはしないですよ……でもまあ前向きに考える事にします』
『そうだな……』

セレンちゃんもこの頃にはもう表情はずいぶん柔らかくなっていたなぁと思う。
まだまだ最近の事なのに、少しだけ懐かしく感じた。

『さて、宿が見えてきたわよ』
『ホンマやな!まずはお風呂や!!セレンも入るよな?』
『ええ。ずいぶん怪我も塞がりましたし、今日こそ身体を拭くだけでなくシャワーも浴びますし浴槽に浸かりますよ』

客観的に見てほのぼのとした雰囲気を出しながら、私達はその日泊まった宿へ足を運んでいた……



……………………



『メアリーお姉ちゃーん!また会おうねー!』
『アメリちゃーん!元気でねー!』
『バジルさんも、色々とありがとうございましたー!』
『黒ひげさん達にもお礼を伝えて下さい!』
『また機会があったら会おうなー!』
『ああ、またどこかで会おう!』

今度はそれよりちょっと遡り、ルヘキサ出発後シャルミッシという大きな街でアメリちゃんのお姉さんであるメアリーさんとバジルさんに出会って、丁度別れたところだった。
たしかあの時は黒ひげさんの海賊船に泊まったんだよな……それと空を飛ぶという貴重な体験もしたんだっけな……

『この水晶玉とってもきれいだよね〜!』
『せやな。無くさんように大事にしまうんやで?』
『うん!』
『大事にし過ぎて忘れてないといいけどな』
『そんな事は滅多に起こらないと思うけどね』

メアリーさん達が見えなくなってしばらくしてから手を振るのをやめたアメリちゃんは、バジルさんから貰った水晶玉をジッと見ていた。
そういえば……これってヒーリング・スワンっていう怪我や病気を完治させるものだったような……自分で言っていたのに完全に忘れていた。

『まあそんな大怪我が起こるような事が起きなきゃいいんだけどな』
『何とも言えないよそれは。私だって崖から落ちるなんて思わなかったしさ』
『……なんとも説得力のあるお言葉で……』
『これがあの時あったらサマリお姉ちゃんは……』
『まあね。でも私はアメリちゃんに魔物にしてもらって嬉しいから、無くても全然良かったよ』
『そうなの?えへへ……』

これを使えば大怪我していたセレンちゃんも一瞬で完治したような気がする……セレンちゃんには言わないでおこう。

『それにしてもメアリーさん達も賑やかだったよな〜』
『そうだね……アメリちゃんと二人で寝てる姿は流石姉妹と思ったな〜』
『えっ!?サマリお姉ちゃんアメリたちがねてるところみたの!?』
『うん。二人が寝た後にバジルさんとこっそりとね……二人抱き合って可愛らしかったよ』
『うう〜ん……なんかちょっとだけはずかしいな……』

そんな感じにお話しながらも、私達はこの街に向けて歩き始めていた……



……………………



『お前自身を大切だと言ってくれていた人物が魔物に攫われ、捨てられたと思った……そうだろ?』
『…やめろ…』
『そしてその人物は、おそらくお前が一番信頼を置いていたとても身近な人物……』
『やめろ』
『そう……それはお前の兄や父親が』
『やめろっ!!』

今度はドデカルアでエルビと戦っていた時のもののようだ。目の前に強く睨みつけ叫びながら剣を振り回すエルビが現れた。

『なんだよ……やっぱり当たりか?』
『ああそうだよ!ボクは……ボクは……父さんに捨てられたんだ!!』
『あっ?』
『父さんはボクの事を大切な息子だって言ってくれたのに……そんなボクを簡単に捨てて魔物なんかに着いて行ったんだ!!』

この時私は『テント』の中に居たから教会内での様子は人伝いにしか知らなかったけど……エルビとの戦いはユウロ以外まともに動けなかったようで、実際ユウロの視点の淵の方に倒れているプロメがチラチラと見える。

『ボクは父さんが帰って来ない事に絶望感を味わった……でもそんなある日ボクの中に不思議な力が宿ったような感じがして、数日経たないうちに教団の人達がボクの家にやってきた……』
『それで父親は魔物に着いて行ったと伝えられ、自分が勇者だと言われて教団に入ったと……』
『ああそうだ!ボクは父さん……クソ野郎を3ヶ月も待っていた事を後悔したよ!でもこれでボクはクソ野郎と同じクズ共も根絶やしに出来る!そう思いボクは頑張って強くなった!!それはキミの様なクズを殺す為だ!!やがては父さんを……あのクズも殺す!!だからキミもさっさと死になよ!!』
『あー……』

なおも続くエルビの攻撃……でも、たしかにユウロが言っていたとおりさほど苦戦してなさそうだ。
まあ……感情がむき出しになったせいで攻撃が単調になっているって言ってたけど、私だったら絶対に斬られてると思う……なんて呑気な事を考えていたら……

『死n……「甘ったれてんじゃねえよクソ眼鏡がっ!!」ぐふっ!?』

突然ユウロがエルビに反撃し、倒れたエルビを蹴り始めた。

『お前さ……父親が自分からお前を捨てたって言われたのか?』
『ぐぞ……魔物の巣窟に向かって行ったんだ……3ヶ月も帰ってこなかったらそうとしか考えられないだろうと言われただけだけどぐっ!!』
『じゃあわかんねえじゃねえか!!つーかたったの3ヶ月帰ってこなかっただけで何捨てられたとか言ってんだよ!!3ヶ月しか待ってねえ癖にそれだけ帰らなかっただけで決めつけてんじゃねえよ。大体その教団の奴が適当に言っただけじゃねえのか?』
『ち、違っ!』
『あ?何が違うってんだ?想像だけで父親恨んでるだけじゃねえか!!』
『くそっ……お前に何がわかる!?自分が頼りにしていた人がずっと帰ってこないんだぞ!!』
『テメエよりはずっとわかってるよクソが!!』

ユウロの視点だから表情はわからないけど、剣幕な様子でエルビを一方的に滅多打ちにしているユウロ……
何かが気に食わなかったのだろうけどそれが何かはわからない……でも、この後ずっと暗い顔をしていたから、この事は後悔していたのだろう……


『これで私がエルビを連れて行っても問題ありませんよね?』
『あ、ああ……』
『では私はこれで。あとは雑魚しか居ないのでしたら私はいなくても良いですよね』
『ま、まあ……』
『それでは……また機会があればお会いしましょう……』
『お、おい……行っちゃったか……』

そのまま少しだけ場面は進み、ホルミさんが転移魔法を応用してエルビを殴って気絶させそのままどこかへ行ってしまった様子が流れた。
そういえば……二人は今どうなっているのだろうか……無事に二人仲良くしていると良いけどな……



……………………



『み、認めてたまるか…桜がウシオニになったなんて認めん!!私の娘の桜は人間だ!!貴様のような妖怪では……ウシオニでは無い!!貴様は桜では無い!!妖怪になった桜はもう死んだのと同じだ!!桜の亡霊め、私の手で葬り去ってくれる!!』
『な、なんで……なんでだよ父ちゃん!?』
『黙れ!!ウシオニが桜の声で父ちゃんだなんて呼ぶなああああああ!!』
『ふざけんなああああああああああああああああっ!!』
『ぐああっ!?』

今度は戸惑った様子のスズと尋常じゃない困惑と怒りが滲み出ているイヨシさんが映し出された……どうやらルヘキサ付近で父娘が再開した時のものらしい。

『さっきから聞いてれば……何なんだテメエは!!桜は人間じゃない?妖怪になった桜は死んだのと同じ?ふざけた事言ってんじゃねえよ!!どんな姿になろうと……大事な娘には変わりねえんじゃねえのか!人間だろうが、ウシオニだろうが、スズはスズ……桜は、桜だろうが!!テメエの桜に対する愛情は、人間じゃなくなった程度で消えるようなショボイものなのか!!』
『ちがぶっ!!』
『違わねえじゃねえか!!テメエは今実の娘を斬り殺そうとしたんだぞ!!』

あの時、帰ってきたユウロは相当怒っていた。
本人から聞いていた通り、イヨシさんがスズを殺そうとした事に怒り一方的に殴りつけているようだ……

『テメエのその行動で、どれだけ子供が傷付くのか考えた事もねえだろ!!そういう身勝手な親の行動がな、子供には一番辛いんだよボケがっ!!本当に自分の娘が大切なら、どんな姿になろうが受け入れてやれよ!!』
『……』
『折角生きていた娘を、自分で殺そうとしてんじゃn』
『もうやめてくれユウロ!!』

気絶しようがイヨシさんを殴り続けるそんなユウロの腕を、スズが止めたようだ……旅している間はほとんど見たことが無かった、とても辛そうな表情をしていた……

『お願いだからやめてくれ……見ていて辛い……』
『でもさあスズ、こいつはお前を……実の娘であるお前を殺そうと……』
『それでも……アタイの大切な父ちゃんには……変わりないんだよ……!!だから頼む……もうやめて……』
『はぁ……はぁ……くそっ!』

こうして纏めてみてみると……こうも立て続けにユウロは何かが気に食わなくて怒っていたようだけど……それは何に対してなのだろうか?
考えてみると……共通点は父親っぽいけど……スズの時はそのまま父親に向けてだったけど、エルビの時はエルビに向けてだったしあまり関係ないかな……
そういえば……ユウロの家族の事は一度として聞いたことが無い気がする……いや、前に兄弟は居なかったけど弟みたいな奴は居たって言ってたな……それも何か関係してたりするのかな……



……………………



『わー!すっごくはやーい!!』
『何これ!?馬車より大きいし速い!!』
『これは車という乗り物だ。この世界には無いものだが式神で再現してみた。気にいったかい?』
『うん!!』

今度はまた少しだけ遡り、シャインローズでシンヤさんが式神で創り出した車っていう速く走れる乗り物に乗った時の事だ。

『やべぇ……俺ちょっと酔ってきた……』
『うわ……ユウロ顔真っ青じゃんか……シンヤさんちょっとストップ!!』
『これくらいで酔うとは情けないな……』
『まあまあシンヤさん、この世界に無い乗り物にすぐ慣れるのはなかなか難しい事ですよ』

たしかにユウロはすぐに酔ってダウンしていた……でも、今思えばきっとこの車という乗り物はユウロが居た世界にもあったのじゃないかなって思うんだけど……なんで酔ってたんだろうか?

『幼子二人は大丈夫か?』
『アメリは平気だよ!』
『ユナも問題ありません』
『よし、ではもう少し走るとするか!』

とりあえずユウロを降ろして私とスズも看護の為降りた後、アメリちゃんとユナちゃんはまたシンヤさんの運転する車に乗せてもらって大はしゃぎしていたな……この後で疲れて二人ともぐっすり寝ちゃうんだけどね。

『あんなにはしゃいじゃって……』
『子供って良いですよね……私もいつかシンヤさんと……』
『出来ますよ、きっと……』

そんなシンヤさん達の様子を見ているレンジェさん、リトラさん、それとマニウスさんの声が聞こえてきたけど……残念ながらユウロがずっと横になって空を見ているだけなので姿は確認できそうもない。
でも、私の覚えている限りでは……たしか3人とも微笑んでいた気がする……それはまさに親の顔だったと思う……

『さてと……ヘトヘトになって戻ってきそうだし、寝かせる準備でもしますか』
『そうだな……』

そのまま横になってるユウロと私以外はヘトヘトになってそうなアメリちゃん達がすぐ寝られるようにと準備しに行ってたな……

『ねえユウロ、まだ気持ち悪い?』
『まあ……でもさっきよりはマシになってきた……かな?』

それと同時に私の顔が映像にひょこっと映し出された。

『まあユウロもゆっくり休みなよ。なんなら私が抱きついてあげようか?』
『いや、それは恥ずかしいから遠慮するよ……』
『そう……』

まだキツそうだったからとりあえず寝かせてあげようかと思ってそう提案したのに断られたんだっけ……っていうか私断られた時こんなに悲しそうな顔してたんだ……自分でも気付かなかったな……



……………………



『幼馴染みか……スズちゃんは記憶が無いからともかく、ユウロ君は居るの?』
『俺は……幼馴染みと言えるかは微妙ですが、弟みたいな奴ならいましたよ……』

今度は……ナーラさんと会話しているところか……
私がベッドの上で倒れているところを見るに、お風呂よりは後の事らしい……あの時はとんだご迷惑をおかけしてしまったな……

『今はもう俺はそいつと会えないので……別に死別したわけじゃないですけどね』
『そうなんですか……そういえばロm……ナーラさまはどんなご友人がいるのですか?』
『ん〜……部屋に入ったと思ったら尻尾であらゆる部分をイケナイ意味でもふりにくる妖狐や私を見るとついダイブしてくるようなバイコーンとか……』
『な、なんかおもしろいともだち多いんだねロ……ナーラお姉ちゃんって……』
『まあ……うん……』

今さらっと言ったユウロの言葉も気になったけれど……私が気絶させられている間にしていた会話そのものが気になって仕方がない。
なのでじっと聞いていたんだけど……なんとも凄い友人が多いようだ。フランちゃんもアメリちゃんもスズも若干引いている。

『まあ……変わった魔物の知り合いが多い事には間違いないわね……こうして大人しいはずのワーシープにも襲われたわけだし』
『ははは……なんかすいません……あればっかりは俺達でもどうしようもないので……』
『あ、あたしこわかった……アメリは平気なの?』
『さいしょはこわかったけどもうなれた』

……そのまま何故か知らないけど私についての話題になった……

『あ、アタイはまだちょっと怖い……実際に被害受けてるし……』
『そうなの……そんなに小さくないと思うんだけど……』
『どうやらサマリの地元では当時もう一回りちょっと小さかったサマリより同年代は全員大きかったらしいですよ。前にそんな事本人が漏らしてたんで多分それが魔物になった事で顕著になったのかと』
『……なんか凄いわね……』
『アメリ大きくなってお姉ちゃんみたいに大きくなったらサマリお姉ちゃんにおそわれるかなぁ……』
『あたしもしんぱいです……』


……なんか穴があったら入りたい気分だ……


『まあ大きくなれば良いと思うけどね……という事でユウロ君、サマリちゃんのを揉んで大きくしてあげよう』
『はあっ!?いきなり何を言い始めるのですか!?変態ですか!?』
『魔物的には豊胸マッサージは男の子にやってもらった方が効果が現れるのよ』
『いや知りませんよ!!』

そしてナーラさんは私の胸を大きくするのにユウロに揉めと言った……まあ、ユウロなら別にいいかなと思うところもあるけど、本人が全力で嫌がっているので多分やってくれないだろうな……

『ふぁ〜……アメリなんだかねむくなっちゃったけど……サマリお姉ちゃんもうねてるもんな……ロメリアお姉ちゃんとねていい?』
『おーけーおーけー。一緒に寝ましょ』
『フランはアタイとな!!今日が最後だと思うと寂しいから、今日は絶対に一緒に寝るよ!!』
『はい!』

そんな中でアメリちゃんが大欠伸をした事で寝る流れになったようだ。
ナーラさんとアメリちゃんが、そしてフランちゃんとスズが同じベッドにそれぞれ入って寝始めた……と思ったら映像が暗くなったので、ユウロもこのタイミングで寝たのだろうな……



……………………



『……なによアンタ。アタシに何か用?』
『いえ、別に……』
『じゃあジロジロ見ないでくれる?なんか不快だから』
『え……はい……』

次は小さなサキュバス……あれはルカさんかな?ルカさんがユウロを睨みつけながら文句を言う場面が映し出された。
たしかこれはセラさんのお城に向かう前、狐の尻尾でお昼ご飯をミリアさんとルカさんと一緒に食べていた時のものだ。

『なんだかルカお姉ちゃんってユウロお兄ちゃんに冷たいね』
『ルカは男の人が嫌いだからね……ごめんなさいね』
『いえ……』

ユウロ……というか男が嫌いだから強い態度で接するルカさん……たしかにこんな事もあった気がする。
理由は結局詳しくは聞けなかったけど、男の人に対して大きなトラウマを持っているらしいからユウロに冷たくても仕方ないとは今でも思う。

『それでルカ、お料理はどうするのかしら?』
『……まだ食事中だから……』
『いつになくゆっくり食べているのは何故かしらね?やっぱり後でサマリちゃんに教えてもらう?』
『なっ!?し、初対面の人に教えてもらうわけないでしょ!』
『え?私は別に良いですよ?』
『あ、アタシが遠慮するって言ってるのよ!!』

この時は初対面だからと断られたけど……今度会った時は初対面じゃないから教えてみようかなとも思う……まあ、その前に狐の尻尾の店主であるレナさんに教えてもらってると思うから私の出る幕は無さそうだけどね。

『はいはいこの話はおしまい!ミリア、あんたも折角なんだからアタシじゃなくて実の妹を相手しなさいよ』
『それもそうね。アメリ、このお店の料理美味しい?』
『うん!』

ニコニコと満足そうに料理を食べ続けるアメリちゃんと、その様子を見て微笑んでいるミリアさん……ミリアさんには角が無かったり翼の形状が大きく違ったりしてたけど、こうして姉妹並んでるとやっぱりリリムなんだなと実感する。

『ミリアお姉ちゃんもおいしい?』
『もちろん。何度も来てる程には美味しいと思っているわ』
『嬉しい事言ってくれますねミリアさん』

きっとユウロもその様子を私と同じくほんわかしながら見てたのだろうな……映像がぼやけるまではずっとその二人の様子が映っていたのだから……



……………………



『おかえりなさい。あら?サマリさんはどうしたの?』
『深夜まで一切喋れずに寝る破目になりました』
『ん?よくわかりませんが寝ていらっしゃって目は覚まさないようですね』

今度はチャドルを着込んだ……いや、室内だからかなり際どい恰好をしたアイラさんが映った。
私には記憶が無いのと、会話の内容からしてプラナさんの呪弾が命中した後の話だろう。

『まあサマリは寝室に放置しておくとして……』
『アイラお姉ちゃんおなか空いたー!!』
『あらあら……』
『アメリ……あたしが見ないうちにくいしんぼうになった?』
『えっ!?そんなことないと思うけど……』

なんだかさっきもそうだけど私の扱いが酷い気がする……放置って酷くないかな……後でユウロに問い詰めておこうかな……

『なあアイラさん、この街の名物とかあったりしないの?そこでご飯にしようよ!』
『うーん……ありますけど……沢山ありますからどうしましょうか?』
『ではオアシスにあるあの店なんかどうでしょうか?』
『ああ、あそこならアイラ様が訪ねて来てもさほど騒ぎにもならないでしょう』
『そうですね……サマリさんには悪いですが、そこのラスティ名物が売っている飲食店に行きましょうか』

なんかズルイって思えてきた……
いや、たしかに次の日にどこかに食べに言ったって聞いたし、別のお店ではあるが次の日のお昼に名物は食べたから別に良いと言えばいいのだが……一人置いて行かれたのはやはり寂しい。

『それじゃあサマリを置いてきます』
『ユウロ、アタイが運ぼうか?』
『いやいいよ。以前逆の事が起きてたからな。俺が運んでおくよ』
『そうか。それじゃあユウロが帰って来てから行くか』
『おう、じゃあなるべく急いで置いてくるよ』

さっきから私が全く映らないなと思っていたら、どうやらユウロに背負われていたらしい。
ユウロに密着してたんだと思うとなんか恥ずかしく思えてきたけど、それと同時に意識が無いのは残念だったと思えてきた。

『あー……なんか眠いな……やっぱ毛が短くてもワーシープか。それにしても……じっくり見た事無かったけど可愛い寝顔してるなこいつ……』


「……」
「あら〜?なんか顔真っ赤ね?」
「いやまあ、普段料理以外で褒めないユウロが可愛いとか言ってくれたから恥ずかしいのと同時に嬉しくて……」

私を部屋に運ぶために私を背負いながら一人歩くユウロは、私の顔を覗きながら可愛いだなんて言ってくれた。
まさかの不意打ちで思わず赤面してしまった……ムイリさんに指摘されて少し冷めたが。


そこから先はずっと眠いだの以外と軽いだのもふもふだの言っているだけで、部屋に着いた辺りでまた映像が切り替わり始めた……



……………………



『それにしてもデューナさん強いですね。なんであんなに強いんですか?』
『ん〜……もの凄く簡単にいえばそれ特化型だからかな?』
『はぁ……』

今度はセレンちゃんとは違うエンジェルと私とほぼ同じ位の歳のアヌビス……デューナさんと長門さんが映ったので、おそらくラインに居た時の記憶だろう。

『私も別世界から来て自警団のバイトし始めてから初めて見た時は腰抜かしそうになりましたし』
『へぇ長門さんも……ってちょっと待った。今別世界から来たって言いませんでしたか?』
『ああそうだが……この街ではよくある事だぞ?』
『いやでも別世界から来た人達がそう沢山居るのもどうかと思うんですが……やっぱり珍しいですよ』

異世界から来た長門さん……この時のユウロの反応が、ユウロ自身が異世界人だとわかってからだとなんかわざとらしく聞こえる。自身が異世界人なのに何が珍しいだ。
異世界から来たと言えば……この後寄った喫茶店の店員の空理さんも異世界人で……たしかユウロと何か話してたんだよな……
あの時の話は全く聞いてないから折角ならそっちのほうを見たかったけど……まあムイリさんが適当に動かしてるみたいだし諦めるか……

『長門さんは一人でこの世界へ?』
『いや。さっき言った旦那の正孝の他に4人、全員別の種族の魔物だが一緒にこちらに来て正孝の嫁をしている』
『あ、そうですか……』

この発言を聞いた時、やっぱり複数の魔物が一人の男を好きになる事はあるんだなってのを改めて実感してた私……ユウロに視界の淵に映る私は若干引いた顔をしていた。

『お姉ちゃんたちは元の世界に帰れないの?』
『まあな。でも寂しくは無いさ。正孝も、見知った皆もこっちにいるのだからな』
『なるほど……』


……そして、この時のユウロの声が、若干寂しそうに聞こえなくも無かった……



……………………



『う〜ん……あったかいね〜……』
『風も気持ち良いもんね〜』
『二人とも落ちないようにな……ってアメリちゃんは飛べるしピュラちゃんはマーメイドだから平気か』
『『うん!!』』

今度は海の……正確には船の上にいるアメリちゃんとピュラちゃんが映し出された。
という事はこれはキッドさんの船に乗せてもらって大陸を目指してる時、しかもアミナさんと会った次の日の事かな。

『ぐぅ〜…………すぴー…………』
『むにゃ……すぅ〜……』

『二人とも気持ちよさそうに寝てるな……』
『おひるねすると気持ちよさそうだよねってさっきスズお姉ちゃんもサマリお姉ちゃんといっしょにねはじめたもんね』
『だよね。でも私達は寝ないで遊ぶけどね!』
『そのほうが楽しいもんね!』

あの日は本当に良いお昼寝日和だったから、私は甲板でぐっすりと寝ていたんだよね……
そしてたしかに起きた時には何故か寝始めた時には近くに居なかったはずのスズが私に抱きついて寝てたんだよね……話からすると私が寝た後に一緒に寝始めてたわけか……

『おーいお前ら、ちょっとこっちに来てくれー!』
『ん?キッドお兄ちゃんの声だ。なんだろ?』

しばらく海を眺めていただけだったが、キッドさんの声が聞こえてきて、寝ている私達を放置して船先に行ってしまった。

『どうかしました?』
『あっちの方を見てみな』
『ん……わあ〜!!』
『きれいだ〜!!』

そこでキッドさんが指差した方を見ると……大きな虹が環のように掛かっていた。
虹自体珍しいのに、それが環の形状になっているなんて……実際この目で見れなかった事に激しく後悔中。

『ピュラ!あの虹をくぐりに行こう!』
『うん!!』

その虹に向かってアメリちゃんは飛び、ピュラちゃんは泳いで行った。

『元気だなぁ……』
『子供は元気が一番さ』
『ですね……』

そんな二人の様子を微笑ましく見ているキッドさん……やっぱり子供の元気な姿って微笑ましいな……



……………………



『どうだった?』
『うーん……ここも違うみたい……』

今度は一気に戻って、ジパングの宵ノ宮で宿を探している時が映し出された。
瑠璃という妖狐さんに安くて良い宿を教えてもらったはいいが、ここら辺は宿が多くその宿がどれの事を指していたのかわからずに一軒一軒聞いて回っていた気がする。

『おい、そこのアンタら』
『ん?あ、あのぉ何か用でしょうか?』
『ぁん?怪しい動きしている集団が気になったから声かけただけや』

そうだ……そうしているうちに片方の耳が半分になっている巫女服を着た少しガラの悪い妖狐さんに声を掛けられて、私達は無事宿に辿り着いたんだっけ……

『アレやアレ、あの宿や』
『そうですか〜ありがとうございます!』
『えぇって、困った時はお互い様やん?』

たしか梅香って名前の妖狐さんに宿を教えてもらった後、そのまま私達は宿の空き部屋を確認しに行った。

『すみません、5人、うち1人はウシオニで、一晩宿泊したいのですが空き部屋ってありますか?』
『少々お待ちを……はい、ありますよ。宿泊ですね。ご案内させていただきますので、準備が出来次第声をお掛け下さい』
『はい、ありがとうございます』

狐憑きの従業員さんに空き部屋がある事を確認し、そのまま宿泊する流れになったので、外で待ってるアメリちゃんとスズを呼びに戻ったら……梅香さんと楽しそうにお喋りしているアメリちゃんがいた。

『すいません……』
『えぇねん、えぇねん♪気にしぃなって♪あ、そやアメリちゃん、ウチはアメリちゃんの事を気にいったで!せやからまた会うと約束してコイツを預けておくわ……』

そういいながら梅香さんは、アメリちゃんに耳に着けていた翡翠の円環を渡し、尻尾を振りながら去っていった。
この円環はあれから流石に再開はしていないためまだアメリちゃんが大事に持っている……いつかまた会いに行ってきちんとお返ししなければ……

『なんだか元気な人だったな……』
『せやな……狐やけど気が合いそうやったわ……』
『この街はホント変わった人……というか妖狐が多いよね……おっと、そろそろ行かないと宿の人に迷惑掛かっちゃう』
『そうだな……ほら行くぞスズ、アメリちゃん』

梅香さんを見送った後、私達は寝泊まりした宿に入っていったのだった……



……………………



『もこもこ白おんなぁああ!!椿に触るなああああ!!』
『ひゃいいっ!?ごめんなさい!!…ってもこもこ白女って私の事!?』

映像が切り替わった瞬間部屋中に響く恨みの籠った叫び声……どうやらまた大きく遡り、今度はリンゴと初めて会った時のもののようだ。
物凄い形相で私を睨んでいるリンゴ……そういえばこの時は私がツバキと恋仲だって勘違いしていたんだっけ……

『どうして…今まで会ってくれなかったんだい?』
『自分がどこに居るかわからなかったから…帰ろうとしても帰れなかったのよ…やっと故郷に帰ったらなぜか椿居ないし…それでやっと見つけたと思ったらわたしの事忘れてもこもことイチャイチャしてるじゃん?ふざけんなって思ったよ…』
『え?』
『なんなのその女?抱き合ったり楽しそうにお喋りしたりしてさぁ…まあわたしの事死んでるって思ってたんなら仕方ないとは思うけどね?でもね、わたしは椿の事をずっと思い続けてたのに椿はわたしの事忘れて他の女とイチャついてるの見て許せると思う?許さないよ椿…』
『え、ちょっと待って林檎…僕未だに忘れてはいないんだけど…』

実際は出ていないけどどす黒いオーラを纏っているリンゴ……この時は本当に恐かったな……


「……あれ?映像が揺れてる……何か不具合でも起きたかな?」
「いえ、おそらく正常ですね。この時ユウロはアメリちゃんと一緒に震えていましたから」
「あーなるほどね」

リンゴが恨みを込めて叫ぶ度に映像が大きく揺れている……それほど恐くて震えていたのだろう。
でも……この時アメリちゃんとユウロは無関係だったのだから別に震える事ないと思うんだよね……私も凄く恐かったけどきちんと立っていたというのに……

「なんかこのまま揺れが続きそうだから飛ばすわよ」

揺れてる画面を見続けるのは苦行と思ったらしく、ムイリさんは何か操作を加えて画面が切り替わった……



……………………



『ところでユウタさん。ユウタさんって変わった服着てますよね?これって異世界のものですか?』
『ああこれ?これは学生服って言って……』
『ユウタがいた世界でユウタのようなコウコウセイって人達が着るちょっと丈夫な服らしいわよ』
『へぇ〜そうなんですか〜』

少しだけ時は戻り、マルクトでユウタさんとフィオナさん、その他フィオナさんの親衛隊の人達とマルクトを観光している時が壁に映った。

『……こんな服が別の世界では流行っているのですね』
『いや、流行っているというか……全国の13歳から18歳ぐらいの男子は大抵着させられる指定服だからね』

このときにいけしゃあしゃあとまるで知らないとばかりにユウロがこんな事を言っているが、ユウロ自身この学生服を着ていた時期があったそうだ。
たしかこの場面よりも少し前、ユウタさん達と食事をしている時にうっかり学生服の名前を自分で言っていた気がする……

『まあ、ユウタらしい黒い服だから私は好きだけどね』
『わしらもこの服こそがユウタらしいと思っているぞ?』
『ちょっと、ユウタは譲らないからね?』
『別に譲ってもらおうとは思っておらん。自分のものにするだけじゃ』
『なんですって!?』
『お、おい、こんな街中でケンカを始めるなよ!!』
『あははは……』

……それにしても賑やかな人達だった。
フィオナさんとヘレナさんが一触即発な空気になったところをユウタさんが必死になだめているのを見て、思わず笑ってしまった私が見える……が、中心人物であるユウタさんはひとたまりも無かったのだろうな……

『ねえねえクレマンティーヌお姉ちゃん。お母さんってアメリやお姉ちゃんたちを産む前ってどんなだったの?』
『そうだね……今と変わらないかな』
『へぇ〜……お母さんって昔からあんなだったんだ〜』

アメリちゃんはそんなフィオナさん達から離れて、クレマンティーヌさんとお話している。
クレマンティーヌさんは魔王様の旧友との事で、昔の魔王様の話を楽しそうに聞いていた。

『お父さんは?』
『そうだな……彼も変わらず優しい人だったよ』
『そうなんだ〜。でもケンカすると二人ともこわいよね』
『はは、それは違いない!』

こんな調子で街中を案内してもらって、最後は宿で別れたんだっけ……楽しかったな〜……



……………………



『ホープ君、リリスさん、おかえりなさい!』
『ただいま……』

今度は……空が暗く、夜中のようだ。
目の前にリリスさんとホープ君が映し出されたので、ファストサルドに居るときに突然ホープ君が飛び出していった後、二人揃って戻ってきたときのものだろう。

『紅茶を淹れておきましたのでどうぞお飲み下さい』
『ありがとうございます』

リリスさんも落ち着かせた後にホープ君の下に向かったので、私はリリスさんに言われた通り紅茶を淹れておいて、帰ってきた二人に出したのだった。

『ふぅ……落ち着くわね……』
『お疲れ様です。ところでホープさん、一つ聞いて良いですか?』
『ん?なんですか?』

事も落ち着いたところで、ツバキがホープ君に聞き出した事、それは……

『なんで空飛べるのですか?』
『あー……それは僕のLAY-Tの力で……』
『光を集めて様々な物を創造する力ですよね?空を飛ぶ事も出来るのですか?』
『ええ。リリスから聞いたのですね』
『そういえば喋っちゃった気がする……』

ホープ君が光の翼を創造して空を飛んでいたあのLAY-Tについてだった。
このとき私は二人が帰ってきた事で安心して眠くなっていたのであまり覚えていないけど……たしかにLAY-Tについて説明してもらっていた気がする。

『……まあこんな感じですね。たしかに30分も使えば僕は消えてしまう。でもまずそこまで使う事は無いので大丈夫です』
『そうですか……』
『まあ強力な能力には強大な反動がつきものだと思うからな……』
『そういう事ね……』

たしかにホープ君の使う力は恐ろしい……けど、正しい使い方を知っているから大丈夫だろう……
実際私達も助けられたわけだし……そういえばその時襲って来たのセレンちゃん達だったけど。

『さて……もう夜も遅いし寝ましょうか……』
『ぐぅ〜…………』
『……っていつの間に寝てたんだサマリの奴……』
『さあ……とにかく先に寝ているアメリちゃんの隣まで運ぼうか……』
『手伝いましょうか?』
『『いえ、自分達でやっておきます』』

……やはり私は途中で寝ていたようだ。
ユウロが肩を、ツバキが足を持って寝ている私を運び出していた……リリスさんとホープ君が苦笑いなのが恥ずかしい……



……………………



『おいサマリ!アメリちゃんは……ってサマリはどこだ?』
『え?あそこの木の陰に隠れて……っていない!?』
『いったいどこに……っておい!サマリ何をして…!!』

今度は……沢山の男の人達が倒れている場面が映し出された。
プロメ、ツバキがいるって事は……もしや……

『アメリちゃん!!』
『サマリ!!』

やっぱり……私がワーシープになった原因……崖下に落ちていくアメリちゃんを助けるため飛び降りた時の記憶だ。

『な……あの落ち方はマズい!』
『おいプロメ!ネオムさんを病院に連れて行ったときに医者を呼んできてくれ!!急いで!!』
『お、おう!ユウロ達はサマリ達の下に急ぐんだよ!!』
『わかってる!!』

物凄い勢いで転がり落ちていく私……他人の視点で見ても痛々しい……

「……」
「あ……見るの辛い?急いで変えようか?」
「はい……なんだかあの時の痛みが蘇ってくるようで……」

あの時の恐怖を思い出して……私の身体が震え始めていた。
その様子を見たムイリさんは、急いで場面を変えてくれたようだ……別の映像が映し出されていた。



……………………



『いっしょにあそぼライムちゃん!』
『うんっ!』

笑顔のアメリちゃんとスライムの女の子……ライムちゃんが遊ぶために立ちあがっていた。どうやらアレスとライムちゃんに会った時の記憶のようだ。

『あ!あそこに小鳥さんがいる!』
『ほんとだー……あ〜飛んでっちゃった……』
『だね〜……わあ〜あっちにきれいなお花がいっぱい生えてるよ!』
『行ってみようよアメリちゃん!!』

元気に花が沢山生えているところまで走っていく二人……こうして改めてみても微笑ましい……

『帰れるか心配だが……今はどうする事も出来ないし、あまり見る事の出来ない娘の姿をゆっくりと見るいい機会かもしれんな……』
『あー先程の話ですと普段はあまりライムちゃんと遊んであげたり出来無さそうですもんね』

ユウロの視線はアメリちゃん達に向いたままだが、アレスと私の会話が聞こえてきた。
このときは様々な種族の魔物を妻にするため旅をしているとか信じ切れなかったが、これより後に実際アレスの妻達に会って本当だと、そして皆を愛しているんだって確信できた。

『お花きれいだね〜』
『そうだね!あ、そうだ!お花と言えば……アメリ面白いもの持ってるよ!』
『え?何?』

そう言いながら鞄から取り出したのは……いつぞやのお子様ランチのおまけで貰った独楽だった。
たしかこの後二人で回して遊んでたんだっけ……この独楽と、あっちの世界から帰る時にライムちゃんから貰っていた独楽は、たまに回しているのを見るし、普段はフランちゃんとお揃いのぬいぐるみの横に大事に飾ってある。
それだけアメリちゃんにとってライムちゃんとの出会いは嬉しかったのだろう……あの日以来、時々転移魔法について勉強している姿も見かけるぐらいだ。

『ねえライムちゃん!こまきれいと思わない?』
『きれ〜♪』

アメリちゃんが回した独楽を見ながら微笑む二人の姿……
次の場面に映るのか、その姿は徐々にぼやけていった……



……………………



『そこのリリム……もう逃さないぞ……今度こそ覚悟するんだな!』
『あ……そ………そんな……どうして………?』
『ふんっ!ジーナでたまたま見かけたからな。先回りして待ってたんだよ!』
『うそ……やだ………』

そして現れたのは……状況が把握できていなさそうな私と、恐怖で怯えているアメリちゃんの姿だった。
これは……私がユウロと初めて会った時か……また随分と懐かしく感じるな……

「そういえば昨日言ってたわね。出会いこれでよく仲良くやってるわねあんた達」
「まあそうですね……でもこんな調子は最初だけですよ?」

私を狙い、私をかばったアメリちゃんを蹴り飛ばしたりと怖い印象もあった……けど、それは本当に最初の最初だけだった。

『じゃあ…悪いけど死んでもらうよ!!』
『うぅ……やだよ……アメリ死にたくないよ……』
『そう言われてもこっちも仕事だkいたっ!!痛い!!』
『うぅ……う?あ、サマリお姉ちゃん…』

私が投げた石に怯んで、私が言葉攻めしたら完全にへこんでしまったからな……
もうこの時点でユウロに対しての恐怖は皆無だったからなぁ……さっきから地面しか映ってないし、丁度その辺りだろう。

「何言ってるか聞きとれないわね……仕方ないからもうちょっと戻すわよ」
「え、あ、その……」
「ん、何?」

ユウロ視点なのにユウロが何言ってるかわからないので、ムイリさんが別の場面に切り替えようとした。

だが、これより昔のユウロの事は私は知らない。

「これ以上はマズイ?まだまだ遡れるけど……」
「あ、ん〜と……その〜……」

これ以上はユウロ本人が言おうとしない過去に触れてくるから、見ない方が良いかもしれない。

「これより前は旅してる時じゃないので……いやでも見てみたいかも……」
「ん〜まあ本人に黙っておけばいいんじゃない?折角だから見ちゃいましょ。別世界の様子も映るかもしれないしね」
「それもそうですね……じゃあ見ちゃいましょうか」

でも、私自身がユウロの過去にもの凄く興味がある。
だから、私は私達と出会う前のユウロの記憶を見る事に賛成したのだった。




この判断が、今まで生きてきた中で最大の後悔をもたらすとも知らずに……
13/02/28 00:01更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
色々というかおもに卒論のせいで1ヶ月ぶりの更新です。
しかし今回はタイミング良く半分総集編みたいになりました。
そう言ってもコラボ回は新規シーンが中心です。一部の人には了承を得ましたが、了承を得ていない人もいますので、こういうの困るんだけどと言う人は申して下さい。気付き次第該当シーンを削除します。

なんだかんだでこのきままな旅も1年連載が続いてしまいました。
とはいってもそろそろ終わりも見えてきました……
そう、次回はこのままユウロの過去編です。いままでさんざん引っ張ってきたものが判明する……そして過去を知ったサマリは……!?の予定。


ユーリム「いい加減私達の事にも触れなさいよ!!」
次回も自信の過去作のキャラであるユリリム登場しますはい。
ムイリ「なんて適当な……」

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