連載小説
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 異変だとわかっていた。
 理解はしていた。
 けれど頭の片隅でいつか治るだろうと思っていた。
 水だって俺の唾液やら精液やら飲んでいたら必要としないイヴだ。普通じゃない。だからきっと大丈夫だろうと。
 だけどそれは問題を棚上げにしていたに過ぎなかった。
 もっと早く行動に移すべきだと俺は後悔した。
「なんで、こんなに……」
 種からイヴを育てて二か月。二週間前まではゴルフボール程度だった瘤が、妊婦さんのお腹くらいに膨らんでいた。明らかな異常。瘤は身体全体を俯瞰してみればちょうど中央にあり、そこは頭となる蕾の蔓だ。
 かなりの重さのためか、イヴの動きが鈍く、蔓を握ってもいつものように強く握り返してくれない。
「イ、イヴ、大丈夫か? 痛くないか? 辛くないか? ああ、くそ」
 昨日まではサッカーボールにも満たない大きさだったはずだ。なのにこの一晩で一気に膨らんだ。いつも通りの日で特に変わったことはしていない。いつものようにセックスをして一緒に寝ただけだ。
 イヴも特に不調を示すようなこともなかった。いつも通りだったんだ。
 なのに、なんでこんなに悪化したのか。思い当たる節が全然見当たらない。
「イヴ」
 頬を蔓が撫でてくれるが、とても弱々しい。明らかに弱っているようにも見える。心配させまいとしているのか、そんな素振りは全然見せようとしないし、助けを求めるような仕草もしてこない。
 明らかに弱っているのに。辛いはずなのに。
「イヴ……イヴ……?」
 そして不意にそのときは訪れた。
 俺の頬を撫でる蔓。それに手を重ねようとした瞬間、蔓が滑り落ちた。
 イヴの身体が、全身の蔓が、まるで電池の切れた人形のようにぱたりと動かなくなった。
「イヴ……?」
 ベッドに力なく倒れるイヴ。蔓が動かない。蕾が開かない。
「な、何の冗談だよ、イヴ。なぁ、いきなりそんなことしても騙されないから、俺。おい、起きろよ。起きて、くれよ。なぁイヴ」
 反応はなかった。それこそまるで、本当の植物のように。イヴは物言わぬ身体になった。
 いや、それどころか、本当に生きているのか?
 イヴはいま、もしかして、死ん――。
「あ、あああああっ、あああああああああっ!! イヴ! イヴッ!」
 自覚した瞬間、頭が真っ白になった。イヴの身体を掴んで何度も揺する。彼女の名前を呼び掛ける。
 でも返事はない。俺の手を握り返してくれることもない。
 生きているのかわからない。
「ッ! イヴごめんな!」
 蕾をこじ開けて触手舌を摘まむ。軽く握っても反応はない。ただ、蜜は滲み出ていた。
 蜜は出る。でもこれが正常な状態かわからない。いや、いきなり動かなくなったいまのイヴが正常な状態なわけがない。
「どうしたら、どうしたらいい。医者? 医者ってなんだ。イヴを診られる医者なんているのか? 植物だぞ。動いていたなんてそんなこと、信じてくれる人はいるもんか」
 ネットで調べる? それならまだ植物に詳しい人に聞いた方がマシだ。花屋さんに詳しい人に紹介してもらって。でも、動く植物だなんて言って信じてもらえるわけがない。ただこの瘤が何なのかだけでも聞けば、アドバイスをくれるか? これが植物全般にかかる病気なのかそれだけでもわかれば。
 いや違う。何の病気かなんて関係ない。問題は治せるか治せないか。イヴが助かるかどうか、それだけだ。
 どうする。どうすればいい。考えろ。考えろ考えろ。イヴ。イヴ。イヴ!
 イヴを助けるために必要なこと。それだけを考えるんだ。イヴの身体に詳しい人。誰だ。誰か。
「あ」
 目についたのはテンタクルの種が入っていた袋と一緒に入っていた手書きの説明書。
「いた。あの狸柄の女だ」
 俺に種を渡してきたあの女ならきっと何か知っている。イヴを助けるための手段を持ち合わせているかもしれない。
 説明書に連絡先は……ない。電話番号もそれらしい住所も書いていない。
 くそ。どうやってあの狸女を探す? 闇雲に探しても見つかるはずがない。
「…………」
 イヴは動かない。助けを求められない。俺しか、いない。
 だったら、俺が動くしかない。あてがなくても、どこにいるともしれなくても、このまま家で手をこまねいている場合じゃない。
「イヴ。頼むから、頑張ってくれよ。絶対に、お前を助けてやるから」
 イヴの蕾がつぶれないよう、身体の位置を調整してベッドに寝かせ俺は部屋を後にした。
 必ず見つける。イヴを助けるためだったら、なんだってしてやる。

 そう息巻いて出てきたものの、やはり見つからない。最初に向かったのはあの狸女と遭遇した高校の帰り道。車道が横にある普通の道だが、あの女の姿はない。
 半纏というこの時代には浮いた服装だ。視界に入りさえすれば見逃すはずがない。だからとにかく動き回って探すしかなかった。
 駅、繁華街、オフィス街と人が集まりそうな場所へ自転車を走らせてみたがそれらしい人は影も形もない。あのにやついた笑いは一目見たら決して忘れない。視界の端にでも入れば必ず気づくはずなのに。
「はぁ、はぁはぁ……くそ、イヴ」
 もう昼を越えて太陽も頂点だ。うだるような熱気にどんどん体力が奪われてすぐにでも倒れてしまいそうになる。汗で張り付く服が鬱陶しい。でも気にしていられない。無我夢中で自転車を走らせて、忙しなく俺は首を振った。あの女を探して。
 だが見つからない。聞き込みでもしてみるか。あの女の服装はかなり奇抜だ。コスプレみたいな。
「……コスプレか」
 足りない頭をなんとか稼働させてその発想に至った。
 いまさらだけど、よくよく考えればあの服が日常服とは考えにくい。何かのイベントでしていた可能性が高い。
「イベントがありそうなのは、繁華街か。また戻るか」
 再度気合を入れて、俺はペダルに漕ぐ足に力を込めた。
 繁華街にやってきた。今度はきちんとショッピングモールの中やその他施設を回ってみるけど、そういった風なイベントをしそうな場所がない。
 ハロウィンならともかくこんな夏ももうすぐという時期にコスプレなんてするのだろうか。いや、もしやるとしたらコスプレってどこでやるんだ? 大々的に外で大手を振って歩くものなのか
「……そういう専用のスタジオがあるのか」
 携帯のネット検索で調べてみると、コスプレには撮影のための専用のスタジオがあるらしい。お金を払って場所を借りられるそうだ。
 ただこれも、あくまで室内。屋内の、しかも俺がいた登下校の道にまで来るなんてそうそうない。
 となると、本当にコスプレだったのか疑問にさえ思えてくる。
「あー、くそ、頭働かねぇ。どうする。どうしたら会える?」
 登下校の道で聞き込みするか? えーと、名前。名前はなんだった。確か。キサラギ。キサラギと変な際どい軽鎧を着た女が呼んでいた。
 だけど名前だけだ。名前だけ知ってもどうにもならない。
「く、そっ、どうしたら、俺は……あれ?」
 視界がぐにゃりと歪んだ。そのまま、俺は尻もちをつく。
 ショッピングモールの駐輪場で尻もちをついた俺を、周りの人たちが見てくるけれどどんな表情で見ているのかわからない。視界がぼんやりする。頭がくらくらする。
 暑い。顔がほてる。なんだこれ。俺、いったいどうなって。
「っ」
 やばい。意識が朦朧としてきた。起きていられない。意識が。
 いままさに目の前が真っ暗になりそうになったその瞬間だった。
「大丈夫か?」
 ぼんやりしていたはずの視界と思考が急にクリアになった。
 倒れそうになった身体を誰かが背に腕を回して支えてくれる。
 声は女性だった。どこかで聞いたことがあるような気もした。
「……あ、あんたは」
 俺の真横にいる人のその姿を見て、すぐに思い出した。
 名前は知らない。狸の女が何か言っていたような気がするが思い出せない。しかし、狸女よりも強烈なコスプレのような服装はいまでも鮮明に覚えている。
 珍しい青髪に、胸部や臀部を強調する際どい軽鎧。
 眼光は鋭く近寄りがたい印象を与える。でも絶世の美女というワードが当てはまるほど整った顔立ち。人外の美貌だった。
 だけどそんなことがまるで気にならないくらい俺は追い詰められていた。
「あ、あの女に、狸の女に、キサラギに、会わせてください」
 礼も言わず、俺はただ懇願していた。
「イヴ、イヴが死にかけているんですっ! キサラギに会わせてください!」
 この人だけが俺の最後の希望だった。

 困ったような顔をしていた彼女も、死にかけているというワードを俺が言った途端、真剣みを帯びた顔つきに変わった。
 ベンチにまで連れられ、簡単に事情を話すよう言われる。時間が惜しかったが言わないわけにもいかず、かいつまんでイヴが動かなくなったことと、イヴはキサラギからもらった種から生まれたということだけ話した。
「なるほど状況は理解した。わかった、なんとかしよう。直接連絡先を知っているわけじゃないから少し遠回りになるが」
「信じてくれるんですか」
「? 信じるも何も魔物娘のことだろう? なら仲間だからな。手を貸さないわけがない。まぁそうでなくても手は貸すつもりだったよ。癒しの魔法で治せるならその方が手っ取り早かったんだが、そういう問題でもなさそうだしな。直接キサラギに聞いた方が解決は早そうだ」
「?」
 魔物娘? 仲間? 魔法?
 この人は何を言っているんだろう。
「とにかくまずは自己紹介だ。私はディカスティーナ。君は?」
「あ、はい、えっと、や、宿木稔です」
「では宿木。君の頼みを聞くためにもこちらのお願いを聞いて欲しいのだが」
「はい?」
 彼女が携帯をポケットから取り出す。小さな折りたたみ式の携帯電話だ。
「すまない。私は、これの使い方がよくわからないんだ。えっと、電話帳にある『ミクス』という人のところにかけてくれないか?」
 この人、何者なんだろう。姿もそうだが、携帯電話の使い方すらも知らない?
 疑問だらけだったが、イヴのためにもまずは置いておく他俺に選択肢はなかった。
 そして『ミクス』という人物に電話をかけて、ディカスティーナさんに渡す。
「おお、行けたか。まったく、こちらの世界の物はややこしいものばかりで着いていけない。便利ではあるんだがな。っともう繋がっていたのだな」
 まるでお年寄りのテンプレみたいな偏見を抱いてしまいそうになる。たどたどしい持ち方で一応相手とは話せているみたいだ。
「ああ、ああ、そうだ。ん、代わるのか? わかった。ほら、宿木。ミクスがお前と話したいらしい」
「……もしもし」
『やぁ。君が宿木くんだね。キサラギから「種」を受け取ったっていう』
 声を聞いた瞬間、全身が総毛だった。
 快感とも悪寒ともつかない感覚。何故、この電話口から聞こえてくる声にこんな感覚を覚えたのかはわからないが一つだけわかる。
 この電話の先の主は人間じゃない。自分とは明確に異なる生物。次元が違う生き物だとわかる。それでいて、声を聞いただけで超越した美貌を持っていることもわかってしまう。無理矢理、そうだと頭に理解させられてしまう。
『ふふ、そう怯えなくていいよ。悪いことは何もしない。君の望み通り、種を渡したキサラギの居場所を教えてあげようと思っているだけさ』
「あなたは、なんなんですか?」
『その問いに答えてあげてもいいけど、時間が惜しいんだろう? なら君は僕に質問を投げかけるんじゃなくて、早くキサラギの居場所を教えるよう急かすべきだ』
 どこか超然的な雰囲気を醸すその声に俺は何も言えない。実際その通りだ。
 この電話の相手や隣にいるディカスティーナさんのことはこの際どうでもいい。イヴさえどうにかなれば。
「わかりました。キサラギの居場所教えてください」
『うん。僕も声を聞けて満足だよ。良い子に貰われたみたいだから一声聞きたかったんだ。それじゃあ、メモは用意できるかい? 住所を言うよ』
 ミクスさんが言った通りの住所を携帯のメモ帳に打った。
『キサラギの方にも僕から言っておくからティーナが行っても逃げないだろうさ』
「ありがとうございました」
『いいや? お礼を言うのはこっちの方さ。ありがとう、宿木稔くん。これまで通り、これからもたっぷりと彼女と愛してくれたまえ。君たちの有り様が僕の目指すところなのだから』
「それって」
 俺が尋ねる前に電話は切れてしまった。いまいち要領の得ない内容で、話の半分も理解できなかった。
 ただキサラギの場所はわかった。あとは早いところ彼女からイヴの救い方を教えてもらうだけだ。
「乗りかかった舟だ。私も着いていこう。場所は、ううん知らんな。案内してくれるか? 私が連れて行ってやろう」
「え?」
 と言うとディカスティーナさんは俺を背中から両脇に腕を差し込んで抱え込んできた。背中に当たる豊満な感触に、さすがにドギマギしそうになるのだが。
「認識阻害をかけてっと、行くぞ」
 バサッと背後で何かはためく音がした瞬間、足の裏が地面とサヨナラした。
「は? は、はああああああああぁぁぁっ!?」
 と、飛んでるッ!?
「えっちょっ、待ってなにこれ、なんこれっええっ!?」
 ぐんぐん地上から離れていく俺の身体。人や建物がミニチュアサイズの模型のように小さくなっていく。
 突然のことに暴れるが背後のディカスティーナさんは離してくれない。いや、いまここで離されても困るのだけれども。
 文句を言うために振り向けば、ディカスティーナの頭にねじれた角と蝙蝠の翼が生えていた。人間じゃなかった。
「何をうろたえている。こっちの世界の人間だって、鉄の鳥に乗って飛ぶじゃないか。それと同じだ」
「ぜ、全然違うッ! お、おち、落ちるっ!」
「安心しろ。落としたことはない。まぁ誰かをこうして運んだこともないが」
「それ、全然安心できないですってぇええええええ!!」
 強風が全身を吹き付けながら、俺は悪魔のような、じゃなく本当の悪魔の女に空を運ばれた。
「さぁ、ほら。目的地を教えろ。じゃないといつまで経っても降りられないぞ」
 天国まで運ばれなくて本当に良かったと着陸した瞬間思ったのだった。

「マジっすか。ええ、早すぎるっすよ……」
 とある雑居ビルの一室が、キサラギのいる場所だった。なんというか、すごくヤのつく人がいそうな古臭いビル。中はそれなりに綺麗だったけど。
 相対したキサラギの頭には、ディカスティーナさんが角を伸ばしているのと似たように、狸の耳が生えていた。ぴくぴくと何度も不規則に動いていて、偽物にはまるで見えない。
 尻尾もあるし、やっぱり人間じゃないのか。
「二か月っすよ。マジっすか。マジやばくねっすか? やばいっすね。はぁあ、マジすごいっす」
 語彙が死んでる。
「勝手に一人納得していないでさっさと説明してやらんか。ここに来るまでずっと不安そうにしていたんだぞ」
 いや、正直空を移動中は別の方面で不安になっていました。口には出さないけど。
「あー、ティーちゃんには用ないっすよ。出口はあっちっす。帰ってください」
「ふ、ざ、け、る、な、よっ!」
「今日くらいは絡まないでくださいっすよ。宿木くんがいるんっすから」
「……それくらい弁えている。まったく、早く話をしてやれと言っているだろう」
 うちも驚いていたんですって、とぶつくさ言いつつキサラギがこちらに向き直った。
 ようやくイヴの病気について教えてもらえる。
 イヴを救える。
 俺は一呼吸置くキサラギの言葉を待った。すぐに彼女は口を開いた。
「とりあえず移動しながら話しましょっか」
 ずっこけそうになった。
 移動は俺のお願いで車になった。もう空はこりごりだった。
「とにかくイヴに関しては心配いらないってことですか?」
「そうっす。命の心配は全然ないっすよ。むしろ離れないほうが良かったかもっすねぇ。まぁ心配になるのも無理ないっすけど」
 キサラギが運転する車内。助手席の俺はキサラギの言葉にホッと胸を撫で下ろしていた。
 安心したら気になるのは、何故そうなったかだ。瘤こそずっと前にできていたが、あそこまで大きくなったのは今朝だ。意識がなくなったのも今朝。絶対に明確な理由はあるに違いない。
 それを尋ねると、キサラギは意味深に笑い、ディカスティーナさんの方を見る。片目を閉じて腕を組んでいる彼女は小首を傾げていた。
「うちらが人間じゃないってこと、もうわかってるっすよね?」
「正直信じられないけど、ああも人間離れしたこと見せられたりしたら、信じるしかないし」
 主に空を飛んだり飛んだり飛んだり。
「まぁ、うちらは見ての通り人外なわけっす。うちは刑部狸で後ろのティーちゃんがサキュバスっす」
「ティーちゃんはやめろ」
 刑部狸。なんとなく狸関係だとわかる。サキュバスはメジャーすぎるくらいメジャーな魔物の代表格だ。主に男に人気がある。エッチ方面で。俺も嫌いじゃない。
 だけど、ディカスティーナさんはサキュバスというにはあんまりいやらしさがないような。武人気質っぽく感じる。
「うちらはまぁ魔物娘と呼ばれる人ならざる存在なわけなんすけど……宿木くん、よくもまぁ得体も知れないうちらにのこのこと着いてきてるっすねぇ」
「っ!?」
 舌なめずりしたキサラギが、獲物を見るような目で俺のことを見ていた。不穏な、身の危険を感じる空気。悪寒が全身を襲う。でも、それでも。
「イ、イヴを助けるためには、あ、あんたしか頼れる人がいなかったから」
「……そのために自分はどうなってもいいと?」
「っ、良くない。良くはないけど、イヴを俺は死なせたくない」
 俺とイヴ。天秤をかけるなら、イヴしかない。最悪、俺がどうなってでもイヴだけは助けないと。
「く、くくっ、く、くあっ!? あいたぁ!?」
 キサラギが悪人めいた笑いをしていると、急に彼女の座席にドンッと衝撃が加わって、キサラギが前に大きく仰け反った。当然ながら車体が激しく左右に揺れるが、ギリギリ事故らずなんとか持ち直す。
 後ろにいたディカスティーナさんがとてつもなく不機嫌そうな顔で、キサラギのことを睨みつけていた。
「いい加減にしろ。本気で悩める少年をからかうな」
「あ、あぶ、危ないじゃないっすかぁ!? 事故ったらどうするっすか!?」
「保護魔法で宿木は助ける。安心して大怪我するといい」
「ひどっ!?」
 さっきまでの不穏な空気が一気に霧消する。キサラギの悪戯娘めいた笑みにどうやら俺は謀られたのだと理解した。
「ごめんっす。宿木くんの本気具合を知りたくなったんすよ。ちょっと脅かしすぎちゃったっすね、申し訳ない」
 こほんと咳払いするキサラギ。居住まいを正しつつようやく真剣みを帯びた雰囲気を纏うようになった。とは言っても、終始ニヤついた笑みは消えなかったが。
「イヴちゃんのことを話す前にまずうちらのことについて話しておくっすね。うちらは俗に魔物や、魔物娘と呼ばれる多様性のある生物の一種っす。うちのような刑部狸やティーちゃんのようなサキュバスのように、姿形は全く異なるけども、その全部が魔物娘という一カテゴリーに含まれるっす」
 魔物娘。魔物。おとぎ話や創作物にしか出てこないような、そんな生き物がこの世に存在していたなんて。それもこの口ぶりだと、二人の種族だけじゃなくもっともっと多くいることがわかる。
「うちらはある目的があってこちらの世界にやってきた、いわゆる異世界人ってことになるっすね」
「異世界人」
 もうここまで来たら正直驚かない。むしろ別の世界から来たって言われたほうが納得できる。
「じゃあ、なんでこっちの世界に来たの?」
「侵略っす」
「はい?」
「だから侵略しに来たっす」
 こともなげに言われた。ディカスティーナさんに向き直っても、それを訂正する言葉が飛んでこない。つまり、キサラギの言っている言葉に間違いがないということ。
「侵略って、あの? 侵略? インデペンデンス的な?」
「あー、あの映画観ましたよ。面白かったっすねー。人がばんばん死んでいくのが気に入らないっすけど、最後のあの戦闘機乗りさんは超格好良かったっす」
「そうじゃなくて」
「でもまぁあの侵略と似たようなもんっすよ。ただし、誰にも気づかれることなくこっそりとゆっくりじっくり、誰にもどうにも一切の抵抗もできない、誰も備えも抵抗もできない侵略っすけどね」
 それは映画のあれよりもよっぽど質が悪いんじゃないか?
「な、何が目的なんですか」
 その問いにキサラギは笑った。さっきまでのようなあくどい笑みではなく、眩しいものを見るような女性らしい笑みだった。
「宿木くんやイヴちゃんのような関係の人たちを作るためっすよ」
 何故か俺はその言葉には嘘がないと思えてしまった。保障も何もなかったのに。
「あっちの世界の私たちの女王様。魔王様の影響で、世界の魔物たちは全員雌になっちゃったんっす」
 キサラギがかいつまんで説明してくれる。
 とある魔物学者が魔物の情報を編纂し図鑑にしていることから、この世界と比較してあちらの世界は『図鑑世界』と呼ばれるそうだ。
 図鑑世界では魔力という未知の力で満ちていて、神話上の生物や天使、神様までいるらしい。
 その世界では魔王以下全ての魔物は全員女性となり、人間の男性の精液を必要とするらしい。子を成すためにも生きるエネルギーを得るための糧としても。よりよく生きていくために、幸せになるためにあらゆる面で男性を必要としているそうだ。
「じゃあ、侵略ってもしかして、男目当て?」
「まぁざっくばらんに言えばそうっすね。なかなか男性と巡り合えない魔物が多いんっすよ。年中男日照りっす」
 なんだかすごい急に奇妙な方向へ話が転がり出したぞ。世俗感マシマシだ。おどろおどろしさが一瞬で消え去った。
「でもまぁ、いきなりさぁ仲良くしましょうって言っても混乱が生まれるだけっすから。水面下で魔物の存在を世界に広めて、魔物娘と男性をいっぱいエッチさせて魔力を出させて、この世界にいっぱいその魔力が行き渡ったタイミングで大規模な術式を展開。世界中の人たちの魔物娘に対する認識を都合の良いように変えてしまおうって画策してるんっす」
 あっ、結構これヤバイやつだ。認識変えるって、かなり怖くないか。
「人間たちの悪いようにもならないっすよ。恋人同士になったら、一生交わってるだけで飢えもなく過ごせるようになるっすから。一日中エッチなことし放題!」
 それで納得する人って出るのか? いや納得するようになってしまうのか。さっきの認識の術式とやらで。
「残された女の人はどうなるの?」
「問題ないっすよ。女の人は全員魔物娘になるっす。魔力ってのはすごくてですねぇ、人間のみならず動物や無機物まで魔物娘に変えることが可能なんっす。人間の女性の場合はたいていサキュバスになって超絶美人になるっすねぇ。後ろのティーちゃんみたいに」
「…………」
 ディカスティーナさんは目を逸らしている。なんだろう。どこか恥ずかしがっているようにも見える。
「男性も人間ではあるっすけど、インキュバスっていう魔物になるっすから。すっごく身体が丈夫になるっすよ」
「侵略って言うから、もっとこう、残虐非道なことするのかと思ったよ」
「しないっすよ。むしろ幸せになって愛し合ってもらわないと。さっきも言ったように宿木くんとイヴちゃんみたいな関係の人たちを増やすのが目的なんすから。たっぷりエッチしてもらって、魔力を出してもらわないと」
「……もしかして、バレてる?」
「イヴちゃんが羨ましいっす。たっぷりの精液を大事なところにいっぱい注いでもらって」
 うああああああああっ!? やっぱりバレてる!!
 恥ずかしい。穴があったら入りたい。イヴの中に隠れたい。
 だけど、不意にあれっと思った。それだとおかしくないか?
「……じゃあイヴはなんなの? イヴも魔物娘、なんだよね?」
 イヴの姿は植物そのものだ。異形の植物。二人とは似ても似つかない。女性らしさはあるけれど、女性の姿ではない。
「この計画はかなり大掛かりで幾つもの方策が平行して行われてるっす。その一つがテンタクル・ブレインの種を使った『パラサイト作戦』っす」
 テンタクル・ブレイン? パラサイト?
「パラサイトは寄生って意味なんすけどね。まぁ種を適当にばらまいて育ててもらって、その人の人生に寄生してもらおうって作戦っす」
 雑っ。
「最初はまぁ、人間にとってはなかなかグロテスクなテンタクル・ブレインなんすけど、動き自体は結構可愛いですし、品種改良も施してあるので、育ててる人好みに育つようになってるんっすよ。あの種類の種は品種改良のせいか、目がなくなっちゃったみたいっすけど」
 そう言えば説明書にもそう書いてあったな。確かに、イヴは俺好みの感じに育っている。いまなら臆面もなく好きだって言えるし、大切にも思っている。
 バックミラーに移ったディカスティーナさんが俺を見て微笑んでいた。もしかして顔に出ていただろうか。
「で、イヴちゃんが何なのかっていう話なんすけど。テンタクル・ブレインは魔物娘じゃないんっすよ」
「魔物娘じゃない?」
「あれは図鑑世界の触手の森に棲んでいる触手生物の一種で、高等な知能を持つ触手植物なんっす」
 じゃあ、なんで種をばらまく必要があるんだ?
 魔物娘とじゃないと魔力が出ないんじゃないのか? 
 俺とイヴのやってることはこの人たちの目的には何の意味もない。
「何故か、の意味はもうすぐわかるっすよ。さぁ着いた。その目で確かめましょう」
 キサラギは意気揚々と言った。
「開花の時っす」

 家に帰って来た。母さんたちは出かけていていないようだった。
 二人を置いて、俺は真っ先に階段を駆け上り、イヴのいる俺の部屋に向かう。
「イヴ!」
 彼女の名前とともにドアを勢いよく開けた。
 キサラギは大丈夫だと言った。その言葉は嘘とは思えなかった。
 それでも、自分のこの目でイヴの無事を確認しないと、安心はできなかった。
 イヴはもう俺の半身だ。パラサイトとはよく言ったものだ。イヴがいなかったら、いなくなってしまったら、俺はきっともう生きる意思を失ってしまうかもしれない。
 それくらい、俺の人生の大半をイヴが占めてしまっている。
 これからも俺は、イヴと一緒に生きていきたいのだ。
「これって……」
「間に合ったっすね」
 背中から聞こえるキサラギの声も、はっきりと聞き取れなかった。
 眼前の光景に俺は目を奪われていた。
 瘤であった部分はとてつもなく膨らんでいた。それこそ人が一人入れるほど大きく、ベッドの上を占有するほどに。
 周囲の蔓はそれを守るように覆い囲み、傾かないよう葉や根たちが支えている。
 そして瘤は脈動していた。心臓のように、命の行動を響かせていた。
「いまはまだこちらの世界には、高い魔力の持ち主か、その娘たちに連れて行ってもらうかでしか来れないんっす。どの魔物でも来れるよう確立はしつつあるんっすけど、まだ発展途上なんすよ」
「私もミクスに連れて来てもらったからな」
「余計なことをしてくれたもんっす、おっと…………そこで運びやすい種状態のテンタクル・ブレインをこちらに持ち込んで現地で育てようと考えたのが『パラサイト作戦』っす」
 他にも卵状態の魔物娘や、とある媒体に封印縮小することでより多くの魔物娘をこちらに連れてきているらしい。
「で、普通はここまで育つのに半年はかかるんっす。種に込められた欠片の魔力に想い人の精を注ぐことでゆっくりと育つはずだったんっす」
 キサラギが語る言葉の意味を、「開花」の意味を俺はようやく理解した。
 これは成長だったんだ。
「魔力は想いによってより強く、大きく膨らむっす。二人の想いが強ければ強いほど、明確な形として表れるんっすよ。うちらが思っていた以上に、二人の想いは強かった」
 だから、こうなった。
 俺はいま、進化の瞬間、開花の時に立ち会っている。
「行ってあげるっす。イヴちゃんは君を待ってるっすよ」
 俺は一歩、踏み込んだ。
「イヴ」
 蔓が伸びて来て俺の身体を抱えて持ち上げ、膨らんだ瘤、いや蕾の前まで連れていってくれる。
 反応があった。脈動が早くなり、ミチミチと動く気配があった。
 てっぺんにあるいつもの蕾。俺と初めてキスしたイヴの蕾へ、膨らみが徐々に昇っていく。
 蕾の花弁が四方八方に別れ、口を開き始めた。膨らみの中身が蕾を通して、外へと花開こうとしていた。
 白い膜が見えた。粘液に濡れた薄膜は何か薄緑色のものを包んでいる。膨らみが徐々に露になるにつれ膜が上から破れていった。
 さながら宇宙生物の孵化のようで、見る人にとってはグロテスクに感じるかもしれない。
 でも俺は頑張れと心の声で語り掛けていた。
「頑張れ、イヴ」
 次の瞬間には声に出していた。
 その言葉に反応したように、膜の破れる速度が上がっていく。
 全身が露になってきた。
 彼女は人の形をしていた。肌が以前と同じ緑と濃紫色の色をした人の形を。
 粘液で濡れそぼった身体。顔は俯いていて見えず、髪だけが見える。緑と濃紫のグラデーションかかった髪。でもよく見るとそれは触手で、さらに髪飾りのような触手の咲いた花びらが側頭部にそれぞれ生えている。
 頭と肩を抱えるように腕がある。両腕は肘から先が触手のブーケのようになっていた。うねりうねりと蠢き粘液を滴らせて、身体を覆う膜を破る補助をしていた。
 びくんと震える。何度か身体を震わせ、その頻度が徐々に少なくなり、完全になくなると彼女は顔を上げた。
 虚ろな目をするあどけない顔立ち。少女と幼女の中間のような、幼い風貌。しかし、俺の心臓の鼓動をより高めるには十二分の破壊力で、俺は一瞬で魅了されていた。ロリ趣味はない。それでも、彼女の顔立ちは俺の好みをド直球で貫いていた。
 彼女が腕を広げ、立ち上がるようにして身体を起こした。
 ぷるんっとそのあどけない顔立ちに似つかわしくない豊満なおっぱいが揺れる。緑の濃くなった乳首から半透明な蜜がぽたりぽたりと垂れていた。
 蕾の花弁が完全に裏返り、股の辺りで剥き終わった。その花弁は彼女の股を隠すようなスカートへと変貌し、いままで蔓だった他の蔓や蕾たちがそれぞれ無数の触手へと成っていく。
 細かった蔓は複数が結合し太く、蕾はその中の特徴を残したままより大きく貪欲な触手口へ。葉も一本の特徴ある触手へと変貌し、びっしりと小さな触手突起が片面に生えたものへと変化した。他にも吸盤の生えたもの、マスクのような形をしたもの、湿り気を帯びた細い管のようなものなど把握しきれないほどの触手が備わっている。
 全身から触手を生やした少女。
 触手そのものである人、魔物娘へと彼女は開花した。
『…………』
 ようやく咲き終えた頃、虚ろだった目に光が宿る。
 その瞳ははっきりと俺の顔を映した。
「あ、ああ、はぁあああぁ」
 可愛らしい、想像通りの声が俺の耳を撫でる。
 彼女の目に涙が浮かぶ。笑みが浮かぶ。頬が赤らみ、最上級の嬉しさをその顔に惜しみなく溢れさせる。
 俺も同じだった。
「おはよう、イヴ」
「おはようございます、ご主人様」
 俺たちはどちらからでもなく真正面から抱き合った。背に腕を回して、しっかりと離さないように抱きしめた。
 感じる。イヴの熱が感じられる。この前以上にイヴをより鮮明に感じられる。
「ごめん、一人にして。イヴは頑張って生まれ変わろうとしてたのに」
「いいんです、いいんですご主人様。イヴの方こそごめんなさい、ご主人様をこんなにも心配させてしまって」
 顔を向け合い、俺はその頬を撫でる。くすぐったそうに笑むイヴのことが愛おしくて愛おしくて、胸がいっぱいになってしまう。
「身体は大丈夫? 疲れてない? 痛いところは?」
「大丈夫ですよ、ご主人様。すごく気分はよくて、身体がぽかぽかするんです。前以上にご主人様を感じられて、とても嬉しい気持ちでいっぱいなんです。なにより、こうしてお気持ちを言葉にしてお伝えできるのが嬉しくてなりません」
 ああ、と胸がじんと熱くなる。前の姿でもなんとなく気持ちは伝わっていた。だけどこれからは、イヴの声を、言葉を、気持ちを真正面から伝えてもらえる。伝え合える。
「よかった。本当によかった」
「はい。それで、そのご主人様」
 イヴが少し照れたように俺のことを上目遣いで見上げてくる。緑色の頬に朱が差し込んで、男なら誰でもきゅんと来る破壊力抜群の視線。
「イヴは、ご主人様好みの姿に、なれましたか?」
 鼻血が出るかと思った。イヴのいじらしさその表情に、俺は完全にノックアウトされた。
 完璧です。最高です。文句も非のつけどころもありません。
「……俺の表情で察してくれ」
「もう、今度はご主人様が無口になっちゃうんですか?」
 眩しすぎて、いやもう可愛すぎて直視するのが躊躇われるんだよ、ホント。
「ふふ、でもわかりますから、ご主人様の気持ち。イヴはとても嬉しいです」
 毎日のように太陽を浴びていたイヴ。その光を放つような眩しい笑顔に俺もついつい口元が緩んでしまうのだった。
「あ、ここ、もうこんなになってますね……」
 イヴは目ざとく俺の股間の膨らみに気づいた。実はイヴが生まれたその瞬間から隆起してしまっていた。
「きちんとこの姿でもエッチな気持ちになってくれているんですね。責任、イヴに取らせてくれますよね?」
「イ、イヴ以外に取らせるわけ、ないよ」
「はい。ご主人様にはイヴだけでございます」
 ちらりと視線をドアの方にやると、キサラギたちが出ていくところだった。イイ笑顔で「ごゆっくり〜」と言ったのが口の動きでわかる。まぁ感謝は後日しよう。
 いまはもう。
「イヴ」
「あ……」
 ベッドにイヴを押し倒す。無数の触手が俺に絡みつきながら受け止めてくれた。
「はぁ、はぁ、イヴ、イヴ……!」
「んっ、ちゅっ、ご主人しゃまぁ、あむ、ちゅっちゅ」
 最初からフルスロットルで激しいキスを交わらせる。舌に絡んでくるイヴの触手のような舌。口内から分泌される唾液蜜を啜っては飲み下し、イヴと唾液を交換し合う。
「おいしいでしゅ、む、ちゅっ、ちゅぅううう、はぁあっ、ずっと伝えたかったんです、ご主人様のお口とても美味しかったって……!」
「あむっ、ちゅっれろっ、ぷはぁっ……く、口だけ?」
「いいえ、いいえ! こちらも、そちらも、あそこも、どこも、ご主人様の全てが愛おしくて美味しくて、とても甘美でした。特にここが、ここが欲しいんです」
 イヴが腰を振って膨らみのある股間にスカート下の触手の束をこすりつける。イヴの表情はもう発情しきった雌そのもので、目にハートが浮かんでいるんじゃないかと見紛ってしまうくらい淫靡に爛れていた。
 イヴから漂うむせかえるような甘い香りで肺が満たされて、俺の頭の中もイヴの表情と同じように爛れていく。
「ああ、イヴ、イヴ」
 イヴと一緒に横向きになって、俺は服を脱ごうとする。だけどもどかしい。この体勢だと上手く脱げない。
「脱がしますから、イヴが脱がしてあげますから…………あんっ! ああぁ、ご主人様のオチンポが、こんなに逞しく跳ねてイヴの触手を弾いちゃいました。なんて獰猛なオチンポ……」
 血管が浮き出そうなほど怒張したペニス。勢いあまって触手すら弾くほどだったけど、あのイヴが獲物を逃がすはずもない。食虫植物ならぬ食精植物、それがイヴだ。
「ふふ、でもこうすれば」
「っあ、触手が絡みついて……」
 ペニスよりは一回り小さい、蜜で濡れた触手が俺のペニスに根元から絡みついてくる。陰茎全てを覆いつくし、まるで牛のミルクを搾るようにぎゅうぎゅうっと締め付ける触手の先が鎌首をもたげた。
「もう逃しませんよ」
 四つの爪が四隅に均等な位置についたような形状の触手口。柔らかい肉質でまるで息するように甘い吐息を漏らしているのがわかる。
「いただきますね、ご主人様」
「イヴ、早く」
「はい」
 亀頭がぱくんと触手口に食べられた。変わらず触手で陰茎をしこしこと扱かれたまま、吸い付くような吸引力でちゅうっと触手口が亀頭を吸い付いてくる。
「ひあっ、あっ、先っぽ、細いのに舐められて」
「イヴの下の舌ですよ、ここでもしっかりと味を感じることができるんです……あ、はぁ……美味しいぃ頭が蕩けちゃいますよぉ、ご主人様ぁあ」
 両手の触手で頬を覆って恍惚に浸るイヴに顔を寄せ、イヴの顔に舌を這わせる。無数の手の触手が舌に絡みついて、いま犯されているペニスのように嫐られる。
「美味しいですか、ご主人様ぁ……イヴの蜜、たっぷり飲ませてあげますから、あんっ、あひぁっ!? しょ、しょこらめっ!?」
 イヴがびくんと跳ねた。側頭部に生える触手の花を舐めたときだ。
「しょ、しょこ、あひっ、直接頭のなきゃあ、舐められてるみたいでぇ、刺激がつよしゅぎましゅ……!」
「ッ! さらに激しくっ! くあぁ、やばいっ」
「ああっ、こんなの、頭のなか舐められながら、とっても美味しいご主人様の美味しいオチンポ味わったら、ダメになっちゃいましゅっオチンポの味覚え込まされてオチンポ中毒になっちゃいましゅうっ!」
「っあ、中入ってぇ……!?」
 射精を促すために鈴口を舐っていた触手舌が、尿道に侵入してきた。尿道壁を蜜塗れの触手でずりずり擦りながら、堰き止められていた奥の精液を迎えに来ているのがわかる。
「あ、まず、い、これ、俺もおかしくなる、おかしくなるやばやばいやばいっ」
 やばいのに。快楽に弾けてしまうのがわかるのに。
「あ、はぁああぁ、一緒におかひくなりましょう、ご主人しゃま」
 淫靡に笑うイヴを見た瞬間、自分で飛び越えてしまった。
 腰を突き入れ、自ら触手舌を奥へと誘う。
 破られた堰より弾けた精液が尿道より触手舌を押し返し、尿道壁を激しい快楽とともに駆け上っていく。
 思考も視界も真っ白な閃光に包まれ、激しい快楽に精いっぱい耐えるためにイヴの柔らかい肢体を思い切り抱きしめることしかできなかった。
 震える身体。どぴゅどぴゅと吐き出される精液。ごきゅごきゅと飲み下していく触手口。
 そして、快楽に涎と涙を垂らせる俺とイヴ。
 これまでやってきたセックスが前戯と思えるくらいの快感だった。
 開花したイヴとのセックスはこれまでとは違う。気持ちよさもそうだが、何より。
「イヴ、もっとしたい、んだよな?」
「はい、ご主人様……もっと、もっと私を味わってください」
 イヴの気持ちがより克明に伝わってくる。俺ともっと交わっていたいという気持ちが、理屈も根拠も抜きにわかるのだ。
「ご主人様、イヴにも実は人で言うオマンコ、という場所があるのですよ」
 オマンコという言葉に、びくんと跳ねた。身体が、心臓が、ペニスが。
「イヴのオマンコ……」
「探してください。この中にございます……ん、そうです、突いて、挿して、探ってください。私のオマンコを見つけてご主人様のオチンポで仕留めてください」
 蠢く触手でびっしりのイヴのスカートの中にペニスを挿し入れ、腰を動かして探っていく。もはや触手の森とも呼ぶべき、イヴのスカートの中。うねる触手にペニスはもみくちゃにされ、達したばかりだというのにもう精液が迫り上がってしまっていた。
 粘液と蜜で濡れる触手の森。イボ付きの触手や、吸盤付きの触手、さらには繊毛でびっしりの触手が不規則に俺のペニスを攻め立てて、宝への道を阻んでくる。
 欲しいのに、イヴのオマンコが欲しいのに。イヴの触手たちが気持ちよすぎて腰が砕けてしまいそうになる。
「ご主人様ぁ、もっと動かさないと、見つけられませんよぉ?」
 イヴは意地悪な小悪魔の笑みを浮かべていやらしく腰を振った。すると突如ばらけるイヴの下半身の触手たち。それは俺の下半身を呑み込み、絡みつき、より激しく、活発に蠢く。イヴの触手の森に呑み込まれた俺は、まるでタコに捕食される魚だった。
 イヴのオマンコというお宝をペニスで捕まえるために踏み込んだが、これでは逆に俺がイヴに仕留められている。イヴに触手に絡めとられた下半身はあまりの快感に痺れて感覚が蕩けていた。その感覚が徐々に上にまで昇って、もう力が入らない。
「捕まえたぁ……うふふ、ご主人様、イヴの触手に捕まっちゃいましたねぇ」
 イヴのおっぱいと触手ブーケに受け止められる。
「あ、あ、イヴ、あああぁぁあ……」
「ああ、ご主人様の蕩けた顔、なんて素敵なんでしょう。イヴは嬉しくてたまりません。この身体がこんなにもご主人様を悦ばせられているのですから」
「イヴぅ……いいよぉ、気持ちいいよぉ」
「でも、ご主人様? イヴのオマンコ、見つけなくてもいいんですか?」
「あ、ああっ、でも、でも気持ちよすぎて動けないんだって……! イヴの触手すごいから」
「孕ませられませんよ?」
「え?」
 いまなんて? イヴはいまなんて言った?
「ふふ、イヴは植物ですが、魔物娘になったいま、ちゃんとご主人様の子供を孕むことができるようになっているんです。ただの種とは違う、きちんとしたご主人様の子供を。ご主人様の種で、イヴの胎に芽を出させることができるのですよ?」
「あ、あああっ」
 俺は興奮した。ひどく興奮した。子供。俺の子供。イヴとの子供。
 イヴのこの美しい腹を、ぷっくらと妊婦のように孕ませられることに、ひどく興奮した。
「したい、したい、イヴを孕ませたい。ああっイヴ、イヴ! イヴ!!」
「あぁんっ! 大きくなってより感じてるのにこんなにも激しく動かして、イヴのオマンコを求めてくれているんですね、ご主人様! 嬉しい! 嬉しいです! さぁどうか犯してください、見つけて犯しぬいてください! イヴのオマンコはもうすぐですよ!」
 下半身を触手の森に埋めながら幾度となく腰を振るう。濡れた触手の束に擦られ、何度も吐精してしまいながらも、快感に脳が焼き切られながらも、俺は幾度となく腰を振るってイヴのオマンコを探し求めた。欲しい。イヴが欲しい。イヴの全部が欲しい。俺のモノにしたい。
 留まることを知らないイヴへの欲求が腰を突き動かす。
 そして、ついに触れた。ペニスの鈴口に、一際熱を帯びた柔らかい肉が触れた。
 イヴの表情が喜悦に歪む。当たりだ。ここがイヴのオマンコ。
「イヴ!」
「ご主人様っ! ああっ、ああああぁっ!」
 とんでもない熱さの柔らかい媚肉の塊に、ペニスが沈み込むようだった。
 これまでの触手口とは比べ物にならない熱さ。なにより柔らかさ。
 穴なんて本当にあったのかと言いたくなるほど狭い。でもキツさはほとんどない。ペニスはどんどんと媚肉に沈んで飲み込まれていく。
 まるでいま、俺がペニスでオマンコの穴を空けていっているかのようだ。
 蕩けた媚肉は隙間なく俺のペニスを包み込み、溶かすような甘い快感を染み込ませてくる。
 喉が上擦る。次の瞬間には吐精していた。全く備えられなかった。奥まで行っていないのにも関わらず、蕩ける熱い媚肉に包まれただけで達していた。
「ああ、ご主人様のオチンポ……すごい、ここで味わうのがこんなに美味しいなんて……もっと欲しいです、ご主人様ぁ、イヴのオマンコにいっぱいオチンポと、子種汁を注いで孕ませてください」
 どぷどぷ、どぷどぷ、と勢いは全くないにも関わらず、一向に止まる気配のない射精が続く。ペニスがオマンコの奥へ奥へと誘われる度、より多くの精が尿道に快感をもたらしながら吐き出されていく。
 捕食されている。イヴに俺はいま食べられている。
 ぷりっとした感触が不意に先端に感じられた。
「あっ、そこ、そこですよ、ご主人様。イヴの赤ちゃんを育てる場所。ご主人様がイヴを孕ませる場所です」
「イヴが孕む場所。子宮、イヴの」
「貫いてください。ご主人様の立派なオチンポで」
「イヴ!」
 沈むに任せてそのまま腰を深く押し上げた。
 ぷりぷりした感触はまるでもう一つの口だ。イヴの下の口は、俺のペニスをまるでゼリーを飲むかのように容易く呑み込んだ。そして、ツブツブした天井にこつんとペニスの先っぽがぶつかる。
「うぁっ! イヴ! あああああああ」
「あはぁあぁぁ、ご主人様のオチンポ、イヴの子宮で全部食べちゃいましたぁ……うふふ、まるでご主人様を孕んだみたい。ほら、見てください、ここ。ご主人様のペニスの先っぽの形がくっきりとお腹に出ています」
「ああっ、イヴ! イヴすごいっ、ここ気持ちいい! 温かくて、柔らかくて、溶けちゃいそうだ!」
 腰を前後させると俺のペニスに貫かれた子宮がくいくいと動く。その視覚的なエロさはより俺を興奮させ、快楽に塗れた笑みを晒すイヴへの情欲がまるで収まらない。
「あぁ、イヴ、孕ませたい……! イヴのこの顔をもっと見たい! イヴのエロいこの顔、卑猥で、淫乱な触手娘なイヴのこの顔をもっと!」
「ああ、見てくださいっご主人様っ! イヴのこのエッチな顔、ご主人様のエッチなオチンポでだらしなく涎をたらしているいやらしいイヴを!」
「イヴ! んちゅっ、ちゅっはっんんむっ」
「あむっ、ちゅっ、ぷはぁっ、ああっイイですご主人しゃまぁ! 突かれながら、エッチな子種汁いっぱい注がれて、子宮もういっぱいでっでももっと欲しいんでしゅっ、ちゅっんんむっぷはぁ!」
「イヴ、ちゅっんんむっ」
 蠢くイヴの触手に全身を沈めながら、上下も前後もわからなくなってただイヴに溺れていく。
 イヴという蜜沼に呑まれていく感覚はひどく甘美で、一生浸っていたいとすら思える。
「ああっ、イヴの、甘いっちゅううううううっぷはぁっ!」
「あんっ、おっぱいそんなに吸ったら乳首取れちゃあひぃいいいいっ!?」
「うぁっ、カリ首絞め付けられて」
「あはぁっ、どぴゅーって勢いよく私の子宮の天井、子種汁で叩かれてますぅ。もっと欲しい、もっと出して、これでもっと出せますよぉ?」
 俺の鼻と口をイヴの触手が覆う。あのマスク型の触手だ。半透明で中の様子が見える。
 そして間髪入れず、マスクの中が桃色の煙で満たされる。むせかえるほどの甘ったるい香り。それが鼻腔をくすぐり、思考をドロドロに溶かしてきた。
「おっ、おっ、おぉっ!?」
「蜜を体内で煮詰めて煮詰めてすごぉく濃厚にした媚香です。すごくキマすよね? 鼻と口の粘膜に吸収されて脳に直接キマすよね?」
 腰ががくがくと震えて、俺の意思に反してイヴの子宮を抜き差しした。一突きごとに勢いよく精が迸って筆舌にし難い快感が全身を襲う。
「おお、おおおっ、イヴ!」
「あひっ、ああああああっそんなに激しく突いたらんひいいいい!? イヴの子宮飛び出しちゃいますぅう! おっおっおほぉおおっ!!」
 ずんずんと激しく腰を突き動かし、精液を何度も注ぐ。幾度となく精液を注がれた子宮はぱんぱんに膨らみ、まるで妊婦のような姿に変貌していた。
 それでも、俺の思考を媚香で犯すイヴは止まらない。もっともっとと、俺に自分の身体を貪らせようとする。ペニスで子宮を耕させようとする。
 孕むために。俺との子供を孕むために。子宮を俺のペニスで子供のできる土壌へと耕させている。
 イヴに操られることに俺も抗わなかった。むしろ受け入れた。限界を超えて、俺の精も魂もイヴに注ぐために深呼吸を何度も繰り返してイヴの淫らな煙で肺を満たした。
 マスクが外れる。荒い息のまま、イヴとキスをした。淫靡に狂わせる息でイヴの肺も満たさせる。情欲に塗れるイヴの身体に手を這わせ、敏感な触手口や、おっぱいを揉みしだいた。
 快楽を貪る獣の振る舞い。本当に子供を作るためなのかと疑問さえ抱くほど、激しい情交。
 下半身だけだった触手が上半身にまで及び、全身を覆い包んでいく。視界に収まるのがイヴの顔だけになり、彼女の手のブーケで顔をがっしりと抑えられた。
 ちゅくちゅくと耳にブーケの触手が侵入してくる。脳が直接犯される。止まらない射精の勢いが増す。全てがイヴの中へと溶けだしていく。
 イヴと一つになっていく感覚に、俺はただ身を任せた。最愛の雌に全てを委ねる快楽の味を知ってしまった。
 もう逃げられない。もう終わらない。ひたすらに続く。イヴとの永遠の交わり。
 意識が消えることも、摩耗することもなく、鮮明な意識の中、ただひたすらにイヴと一つになる交わりを重ね続けた。
 俺もイヴもただただ身体を重ねられることを、幸せに感じていた。
18/05/13 21:46更新 / ヤンデレラ
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■作者メッセージ
無事テンタクルになれたイヴでした。
成長過程が特殊だからか、控えめ要素0ですね。完全にご主人様堕としにかかってる。
もうちょっと後日談が続きます。

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